中学校社会 公民/需要と供給

出典: フリー教科書『ウィキブックス(Wikibooks)』

需要と供給[編集]

需要(じゅよう)とは、供給とは[編集]

価格と需要と供給との関係。
このようなグラフを需要供給曲線(じゅよう きょうきゅう きょくせん)と言う。
横軸が量であり、需要量または供給量である。
図によっては、たて軸と横軸の取り方が逆の場合もあり、たて軸に量をとり横軸に価格を取る場合もある。
グラフで需要を表した曲線を需要曲線(じゅよう きょくせん、図では赤色)と言い、供給を表した曲線を供給曲線(きょうきゅうきょくせん、図では靑色)と言う。
アダム・スミス(Adam Smith、1723年 - 1790年)。主著の『国富論』(こくふろん)で、市場には価格変動などを通じて、自然に最適な資源配分を達成する調整機能があることを解き明かし、その調整作用を「(神の)見えざる手」(invisible hand)と名づけた。イギリスの経済学者。

ある市場での、ある商品について、消費者が買おうとする量を 需要(じゅよう、英:demand) と言う。

これに対して、生産者が実際に店頭において売りに出す量を 供給(きょうきゅう,英:supply) という。

市場での価格について考えていこう。なお、市場での価格のことを市場価格(英:market price)と言う。


まず、右の曲線グラフ(「需要供給曲線」)について、なぜ、生産者の曲線が右上がりになるのかを説明する。

生産企業からすれば、高い価格で売れるものほど、より多く生産したいので、価格に比例して数量が増加している。よって、生産者の曲線が右上がりになる。

いっぽう、消費者からすれば、低い価格で買えるものほど、消費者全体では、より多く、その商品を購入するので、価格が増えるほど数量の減っていく関係になっている。よって、消費者の曲線は、右下がりになる。

消費者と生産者は、まったく都合が対立するのである。そして、よくよくグラフを見ると、消費者の行動をあらわす曲線と、生産者の行動をあらわす曲線とは、グラフでは一点で交わっている事に注目しよう。

さて、もしも需要だけが大きくて、供給が少ないと、市場価格での値段はどうなるだろうか? つまり、式で不等号を用いて表現すれば、

(需要) > (供給)

の場合には、どうなるだろうか?

当然、少ない商品について多くの購入希望者が買おうと競争するので、買える人は限られてくる。

売り手からすれば、なるべく高い値段で売りたいので、より高い値段で買ってくれる買い手に、売り手は売るだろう。

そうなると、供給に対して、需要が大きければ大きいほど、商品の値段は高くなるのが普通である。

いっぽうで、売り手があまり値段を釣り上げすぎると、買い手は購入をあきらめ、買う気を無くすだろう。 つまり市場価格が高くなると、買い手の購入意欲が減るので、需要量は減る。

なので、消費者の多くが「買いたい。」と思える値段の範囲内で、値段は上がっていくだろう。


さて、商品が高く売れるとなると、ほかの多くの業者も、どんどん市場に参入するだろう。 その結果、市場への供給量は、どんどんと増えていくだろう。

つまり市場価格が高くなると、売り手の参入意欲が増えるので、供給量は増える。

そのうち、消費者の需要よりも商品の供給量が多くなれば、売れ残りの商品が出てくる。

生産者からすれば、生産に要した原材料費などの経費を稼がないとマズイので、安値でも売らざるを得ない。

商品は、倉庫や店舗に置いておくだけでも、場所を取ってしまう。なので、あまり多くを置き過ぎることは出来ない。なので、売れ残りは、安値でも売らざるを得ない。

また、食料品などの生鮮品など、商品によっては長期保存が難しい商品もある。このような商品は、販売者が保管しておくことが出来ない。 たとえば生鮮食料品の場合なら、値下げして売るか( 価格↓ によって 需要↑)、あるいは堆肥などの原料として専門業者に販売するか( 市場開拓により 需要↑)、あるいは廃棄するかなど (供給↓) 、自分で利用するか(市場に出さない、よって 供給↓)などしかない。

ともあれ、基本的に、売れ残った商品は、値段が下がる。( 価格↓ によって 需要↑)

まとめると、

需要が供給より大きい → 価格が上がる
供給が需要より大きい → 価格が下がる

長期的には、市場の店頭で見られる価格は、売り手が「この値段なら売っても良い」と思える価格であり、また、買い手が「この値段なら買っても良い」と思える価格になっていきます。このような売り手と買い手の両方が納得できる価格のことを 均衡価格(きんこう かかく、英:equilibrium price) と言います。

このように市場では価格の調整によって、自動的に、うまく経済が回る仕組みが保たれている。このような仕組みを 市場メカニズム(英:market mechanism) という。 また、このように、自由な取引を前提とした経済の仕組みを市場経済(英:market economy [1])という。

生産者が生産して供給する理由は、消費者が買ってくれるだろうという需要を見越してのことである。なので、結局、生産者による供給と消費者の需要は、長期的には釣り合うことになる。

需要のほうが供給よりも多ければ( 需要 > 供給 )、多くの生産者が参入するなどして、供給量が増えていき( 供給↑ )、結局、生産者による供給と消費者の需要は、長期的には釣り合うことになる。

供給のほうが需要よりも多ければ( 供給 > 需要 )、売れ残りの商品が出てしまい、結局、生産者や販売者は売れ残りを処分するために値下げなどをして( 価格↓ よって 需要↑)、消費者に商品を買ってもらうなどするしか無い。なので供給が需要よりも大きい場合でも、長期的には、生産者による供給と消費者の需要は、いずれ釣り合うことになる。

(※ 参考: )変数の文字

需要供給曲線において、価格をあらわす変数には普通、「P」または小文字の「p」を使う。大学の教科書などを見ても、価格の変数お文字は通常、pまたはPである。おそらく、英語で価格を意味する price (プライス)に由来する記号だろう。一方、数量をあらわす変数の文字は特に決まっておらず、文献によってはQで表す場合もあれば、x(エックス)で表す場合もあれば[2]、yで表す場合[3]もある。

独占の禁止[編集]

市場メカニズムの前提として、複数の企業が参入しており、それぞれ競争しあっている必要がある。もし、この前提がなくなると、市場メカニズムが働かなくなり競争が起こらなくなってしまう。

市場に、売り手となる企業・生産者が、一社しか参入していなく、その一社が市場を支配してる場合を独占(どくせん)という。独占された市場では、市場メカニズムによる価格の調節機能が働かなくなるため、消費者が不当に高い価格を支払わされることになりかねない。

なお、独占された市場での価格のことを独占価格(どくせん かかく)という。

また、売り手となる生産者・企業が、少数の場合を寡占(かせん)といい、この場合も価格調節の機能が働きにくくなる。寡占市場での価格のことを、「寡占価格」と呼ぶ場合もあるが、「独占価格」と呼ぶ場合が多い。

また、もし、ある市場に参入している企業の数が複数であっても、販売価格や生産量についてその市場の参入企業どうしが協定し足並みをそろえることで、市場メカニズムが働かなくなる。この場合、価格競争は起きないので、価格調節の機能が働かなくなる。販売価格について、企業どうしが協定をすることカルテル(Kartell)という。「価格カルテル」ともいう。

日本では、競争を促すため独占禁止法(どくせん きんしほう)が制定され、独占、カルテルを原則的には禁止している。また日本では、市場での独占・寡占などを取り締まる行政委員会として、公正取引委員会(こうせいとりひき いいんかい)が設置され、独占禁止法などの法律にもとづいて、企業や市場を監視している。

なお、公正取引委員会は、専門家5人から構成される。

市場メカニズムの例外[編集]

おもな公共料金
 国会や政府が 
 決定するもの 
 社会保険診療報酬、介護報酬
 政府が認可
 するもの 
 電気料金、鉄道運賃、都市ガス料金、
 バス運賃、高速自動車料金、タクシー運賃 
 政府に届け
 出るもの 
 電気通信料金、国内航空運賃、
 郵便料金(手紙・はがき)
 地方公共団体が
 決定するもの 
 水道料金、
 公立学校授業料、公衆浴場入場料 
  • 公共料金(こうきょう りょうきん)

ふつうの商品やサービスの価格は市場メカニズムによって決まるが、例外的に、水道料金などでは生活の安定のため市場メカニズムに左右されるのが好ましくと考えられており、地方自治体が水道料金を決めている。他にも電気やガスなども生活の安定という考えから、国や政府が価格を強く規制している。このように国や地方自治体などがサービスの価格を決めたり、あるいは国や政府などが価格の決定に強く関わっているサービスの料金のことを 公共料金(こうきょう りょうきん) と言う。

水道料金のほかに、電気料金や都市ガス料金が公共料金である。 公共料金のサービスを提供している組織は、必ずしも公共機関では無い。

電気料金の場合 :東京電力などの電力会社。公共機関では無い。
都市ガス料金 :東京ガスなどを始めとする都市ガス会社。公共機関では無い。
水道料金 : 各地方自治体の水道局(すいどうきょく)。水道料金の場合は公共機関である水道局が供給しているサービスである。

である。

郵便料金とか、鉄道料金・バス運賃・タクシー運賃なども公共料金であり、民間が自由には決められない。


(※ 中学の範囲外: )「市場の失敗」
※ 高校の現代社会などで「市場の失敗」という単語を習う。(NHK高校講座の現代社会科目に『市場の失敗』という単語あり[4]

経済学などの用語で、「市場の失敗」と言う用語があり、インフラや治安などは民間企業に任せてしまうと、事業の性質上、独占をされているのが普通なので、価格調整などの市場メカニズムが起きずに、極端な高価格などの不便を引きおこしてしまいかねないことを「市場の失敗」と言います。

その他、「市場の失敗」の例としては有名なものとして、公害がよく例にあげられます[5]

こういった「市場の失敗」という考え方にもとづき、たとえば治安維持など一部の事業は企業ではなく国などが運営したり、あるいは交通機関などはたとえ民間企業が運営する場合でも法的な規制が強く存在していたりもします。

なお経済学には「政府の失敗」という対比的な呼び名の用語もありますが、しかし意味がそれほど対比的ではなく、「政府の失敗」とは市場メカニズムとはあまり直接の関係のない意味です(なので当面は覚えなくていい)。「政府の失敗」とは政府など国家機関だけに運営させると、きめ細かい対応が出来ない[6]、非効率な運営になりやすい[7]、と言ったような意味です。

  1. ^ 橋場弦 ほか監修『WORLD HISTORY for High School 英文詳説世界史』、2019年10月15日 第1版 第3刷発行、P.402
  2. ^ 柳川隆 ほか著『ミクロ経済学入門』、有斐閣、2019年11月15日 新版 第4刷 発行、P10
  3. ^ 塩澤修平『経済学・入門』、有斐閣、2021年、4月30日 第3版 第5刷 発行、P10
  4. ^ 『NHK高校講座 | ライブラリー | 政治・経済 | 第21回 第2章 現代の経済 第2節 現代経済のしくみ 市場経済の機能と限界』、2022年2月17日に確認.
  5. ^ 柳川隆 ほか著『ミクロ経済学入門』、有斐閣、2019年11月15日 新版 第4刷 発行、P103
  6. ^ 塩澤修平『経済学・入門』、有斐閣、2021年、4月30日 第3版 第5刷 発行、P322
  7. ^ コトバンク、出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典