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位相空間論

出典: フリー教科書『ウィキブックス(Wikibooks)』

このページでは、位相空間に関する基本的な一般論を解説する。集合論と解析学の初歩知識は仮定するので、おぼつかない読者は集合論解析学基礎などを参照のこと。位相空間に関するより進んだ内容は、例えば位相幾何学などにいずれ書かれるだろう。

命題にはなるべく証明を付したが、まだ書きかけの教科書なので、証明のついていない命題もある。証明は一段下げて書いたので、事実だけをすばやく知りたいときは読み飛ばすこともできるが、はじめはなるべく証明を追うべきである。また、証明のまだついていない命題に対しては、読者は積極的に自分で証明を作りながら読み進めるべきである。

目次

[編集] 位相空間とはなにか

位相空間とは、集合に対して、「位相」というある種の構造を付加したもののことである。

解析学においては、点列の収束や関数の連続性といった概念はとても重要な概念であった。これらの概念はユークリッド空間でしか定義されていないが、もし他の集合でも同様の概念を定義できれば、その集合上でも解析学や幾何学が展開できるだろう。位相という概念を考える動機はここにある。すなわち、ユークリッド空間が持っているある種の構造を抜き出して特徴づけることで、他の集合にも同様の構造を与え、同じような理論を展開しようというものである。

それでは、具体的にはどのような構造を与えることが必要十分なのであろうか。それを考える上で、次の命題が重要な手がかりとなる。

命題 実数上の関数f : \mathbb{R} \to \mathbb{R}について、次は同値

  1. fは連続関数
  2. 任意の開集合U \subset \mathbb{R}に対して、f − 1(U)は開集合

証明は読者の練習問題とする。いわゆるイプシロン-デルタ論法に慣れていれば容易だろう。

さて、この命題からわかることは、これまで関数の連続性は「近くが近くに移る」という概念だと理解してきたが、実は「開集合の逆像が開集合である」という概念だと言い換えることができる、ということである。すなわち、「開集合」という概念さえ定義できれば、「近く」という概念を定義せずとも連続性を扱えるということである。

[編集] 位相空間の定義

[編集] 開集合の公理

前節では、集合に対して「開集合」という概念を与えると、集合の間の写像に対して「連続」という概念を考えることができそうだということを見た。しかし、「開集合」という概念の与え方が滅茶苦茶であったら、純粋に論理的に見るだけならば整合性はあったとしても、実際上の意味は皆無だろう。「開集合」という概念の与え方にある程度の制限をつけておく必要がある。もちろん、その制限を与える根拠は、既に知っているユークリッド空間の開集合に求められるだろう。そのように考え、次のような制限を与えることにする。

公理 集合Sのある部分集合族\mathcal{O}が次の3条件を満たすとき、\mathcal{O}はSに位相を与える、あるいは単にSの位相であるといい、集合X \in \mathcal{O}をSの開集合という。開集合の補集合を閉集合という。集合Sと位相\mathcal{O}の組(S,\mathcal{O})を位相空間という。

  1. S \in \mathcal{O} , \phi \in \mathcal{O}
  2. O_1,O_2 \in \mathcal{O} \Rightarrow O_1 \cap O_2 \in \mathcal{O}
  3. \{ O_\lambda | \lambda \in \Lambda \} \subset \mathcal{O} \Rightarrow \bigcup_{\lambda \in \Lambda} O_\lambda \in \mathcal{O}

ユークリッド空間における通常の意味での開集合がこの公理を満たしていることを確認されたい。ユークリッド空間に通常の意味での開集合を定義することで与えられる位相を、ユークリッド位相と呼ぶ。

注意すべきことは、同じ集合に対して異なる位相を与えることも可能であり、その場合、異なる位相を与えれば異なる位相空間とみなされるということである。例えば実数全体の集合にユークリッド位相以外の位相を入れることも可能である。特に集合が有限集合の場合はその集合に何種類の位相を与えることができるかまで調べることが可能である(それを数えてもあまり意味はないが)。

また、一般に、任意の集合に対して次のような2つの位相を与えることができることがすぐわかる。

\mathcal{O} = \{ X | X \subset S \}  (これを離散位相という)

\mathcal{O} = \{ S , \phi \}  (これを密着位相という)

これらの位相はもっとも極端な位相の一例である。これから先「位相空間であって、さらに~~という条件を満たすもの」といって幾種類かの位相空間を特別に扱うが、しばしばユークリッド位相はその性質を満たしてしまうので、その条件がいったい何を要求しているのかがわかりづらい。離散位相や密着位相はしばしばその条件を満たさないので、理解の役に立つだろう。

[編集] 連続写像

位相空間と開集合を定義することができたので、これによって、位相空間の間の写像の連続性を定義できることになる。

定義 (X,\mathcal{O}_X),(Y,\mathcal{O}_Y)を位相空間とする。写像f:X \to Yが連続であるとは、U \in \mathcal{O}_Y \Rightarrow f^{-1}(U) \in \mathcal{O}_Xを満たすことである。特に、写像が連続かつ全単射で、逆写像も連続なとき、同相写像という。

2つの位相空間の間に同相写像があるとき、この2つの位相空間は同相であるという。

[編集] 開核と閉包

位相空間Xとその部分集合Aについて、Aに含まれるXの開集合で(包含関係について)最大のものをAの開核または内部といい、A^\circであらわす。また、Aを含む閉集合で最小のものをAの閉包といい、\bar{A}であらわす。差集合\bar{A} \setminus A^\circをAの境界といい、\partial Aであらわす。また、X=\bar{A}を満たすとき、AはXで稠密であるという。

[編集] 部分位相・商位相

位相空間の部分集合や商集合に位相を与えることを考える。

[編集] 部分位相

(X,\mathcal{O}_X)を位相空間とする。Xの部分集合Sに位相を与えるには、次のように与えるのが一般的である。

\mathcal{O}_S= \{ U \cap S|U \in \mathcal{O}_X \}

このように定めると、包含写像が連続写像となる(確認されたい)。このようにして定める位相を、部分位相ないしは相対位相という。以下、特に断りがなければ位相空間の部分集合には部分位相を与える。

[編集] 商位相

(X,\mathcal{O}_X)を位相空間とする。Xを同値関係で割った商集合X/~に位相を与えるには、次のように与えるのが一般的である。

\mathcal{O}_{X/\sim} = \{ U | \pi ^{-1} (U) \in \mathcal{O}_X \}

ただしπは商集合への自然な全射である。自然な全射が連続となるように位相を定めたと理解できる。このようにして定める位相を、商位相ないし等化位相という。以下、特に断りがなければ位相空間の商集合には商位相を与える。

[編集] 開集合基と積位相

[編集] 開集合基

位相空間(X,\mathcal{O}_X)の部分集合族\mathcal{B}が、\forall U \in \mathcal{O}_X \ \exists \mathcal{U} \subset \mathcal{B} \ s.t. \ U=\bigcup \mathcal{U}を満たすとき、\mathcal{B}はこの位相の基であるといい、\mathcal{O}_X\mathcal{B}で生成されるという。

逆に、一般にある部分集合族が与えられたとき、その部分集合族が開集合系を生成することはできるだろうか。一般にはそれはできないが、次の条件を満たせばそれができることが知られている。

  1. \bigcup\mathcal{B}=X
  2. \forall B_1 ,B_2 \in \mathcal{B} , \exists \mathcal{V} \subset \mathcal{B} \ s.t. \ B_1 \cap B_2 = \bigcup \mathcal{V}

[編集] 積位相

位相空間(X_i,\mathcal{O}_{X_i}) \ (i=1,2,...)の直積に位相を入れることを考える。部分位相や商位相の場合と同じように、直積の場合は第i成分への射影p_i : X_1 \times X_2 \times ... \to X_iが連続になるような位相を入れることを目標にしたい。

最も安直な発想をするならば、\mathcal{S} = \cup_{i=1,2,...} \{ p_i^{-1}(U) | U \in \mathcal{O}_{X_i} \}という集合族が考えられる。しかし、この集合族は位相空間の公理を満たさず、開集合系ではない。だが、前節で見た開集合基となるための条件は満たしている。そこで、直積集合には、\mathcal{S}によって生成される開集合系によって位相を与えることにする。このようにして与えられる位相を積位相という。以下、特に断りがなければ位相空間の直積には積位相を与える。

[編集] 連結・コンパクト・ハウスドルフ

この項では、位相空間の中で特別なよい性質を満たすものに特別な名前を与えていく。これらの性質がどのようなものであるかをよく理解するために、本文中で与える例のほかにも、それぞれの性質を満たす位相空間と満たさない位相空間の例を作りながら読むとよいだろう。

[編集] 連結空間

位相空間が連結であるとは、直感的にはその空間が「繋がっている」ということである。より厳密には下のように定義される。

定義 位相空間Xが連結であるとは、Xの開かつ閉な部分集合はX自身と空集合に限ることである。

この定義が何を言わんとしているかを少し直感的に解説する。数直線\mathbb{R}の部分空間[0,1] ∪ [2,3]を考える。この集合は、直感的には「繋がっていない」。ところで、この集合の部分集合[0,1]は開集合であり、また[2,3]も開集合である(よくわからなければ部分位相の定義を確認せよ)。したがって、[0,1]と[2,3]は開集合であり、また閉集合でもある。ところが、直感的に見て「繋がっている」部分空間[0,1]を考えると、そのような開かつ閉な部分集合はありそうにない。以上の例から、この定義の妥当性が少しは納得できただろうか。

命題 連結集合の連続写像による像は連結である。

(証明)
Xを連結な位相空間、Yを位相空間、f:X \to Yを全射な連続写像とする。Yが連結でないと仮定すると、Yの空でない真部分集合であって、開かつ閉であるものが存在する。これをUと書き、V=Y \setminus Uとする。U,Vは開集合で、fは連続写像なので、f − 1(U),f − 1(V)は開集合である。また、f^{-1}(U)=X \setminus f^{-1}(V)であり、したがってf − 1(U)は閉集合である。また、fは全射なので、f − 1(U),f − 1(V)は空でない。したがって、f − 1(U)はXの開かつ閉な空でない真部分集合であり、このような集合が存在することは矛盾。ゆえにYは連結である。//

命題 連結集合の直積は連結である。

一方、連結集合の部分集合は連結とは限らない。\mathbb{R}は連結なので、先ほど挙げた例が反例になっている。

連結性とよく似た概念に、弧状連結性がある。

定義 位相空間Xが弧状連結であるとは、\forall a,b \in Xに対して、ある連続写像\gamma : [0,1] \to Xであってγ(0) = a,γ(1) = bを満たすものが存在すること。

つまり、位相空間Xの任意の2点を結ぶ「弧」がある、ということである。

命題 弧状連結な位相空間は連結である。

ところが、連結であっても弧状連結であるとは限らない。反例を作ってみよ。(少し難しい)

[編集] コンパクト空間

位相空間Xの開集合の族であって、\bigcup \mathcal{U} = Xを満たすものを開被覆という。Xの任意の開被覆が、そのうちの有限個だけをとってもやはり開被覆となっているとき、Xはコンパクトであるという。

コンパクトな集合の例と、コンパクトでない集合の例を挙げる。

 有限集合はコンパクトである。

(証明)
n個の元を持つ有限集合の部分集合の個数は2n個なので、この集合の開部分集合の個数はこれより少ない(有限個である)。よって、有限集合の任意の開被覆は有限個の開集合によって成っているので、それ自身が有限部分被覆である。//

 \mathbb{R}の部分集合(0,1)はコンパクトではない。

(証明)
\mathcal{U}=\{ (\frac{1}{n},1) | n=2,3,... \}は(0,1)の開被覆だが、有限の部分被覆を持たない。//

また、一般に次が成り立つ。

命題 コンパクト集合の連続写像による像はコンパクト。

(証明)
Kをコンパクト位相空間、Yを位相空間、f:K \to Yを全射な連続写像とする。Yの開被覆{Uλ}を任意にとる。fは連続なので、各f − 1(Uλ)は開集合であり、特に{f − 1(Uλ)}はKの開被覆である。Kはコンパクトなので、この開被覆は有限部分被覆\{ f^{-1}(U_{\lambda_n}) \}を持つ。このとき、\{ U_{\lambda_n} \} {Uλ}の有限部分被覆になっている。したがってYはコンパクトである。//

命題 コンパクト集合の直積はコンパクト。

命題 コンパクト集合の有限個の和集合はコンパクト。

命題 位相空間のコンパクト部分集合と閉集合の交わりはコンパクトである。

ユークリッド空間の部分集合については、次の事実(ハイネ-ボレルの定理)がよく知られている。

定理 ユークリッド空間の部分集合がコンパクトであることは、有界かつ閉集合であることと同値。

[編集] ハウスドルフ空間

位相空間Xがハウスドルフであるとは、Xの任意の2点が開集合で分離されることである。より正確に述べると、

定義 位相空間Xがハウスドルフであるとは、a \neq bなる任意のa,b \in Xに対し、a \in U,b \in V,U \cap V = \phiを満たす開集合U,Vが存在することである。

ユークリッド空間はハウスドルフであり、またハウスドルフ空間の部分集合、直積はハウスドルフであるので、初学者がすぐに思いつくような空間でハウスドルフでないものは少ないが、ハウスドルフ空間の商空間はハウスドルフであるとは限らないので、その線で考えてみるとよいだろう。

応用上扱う空間はハウスドルフであることが多いので、次の2つの命題は見た目以上に使い道の広い命題である。

命題 ハウスドルフ空間のコンパクト集合は閉集合である。

命題 コンパクト空間からハウスドルフ空間への連続な全単射は同相写像である。

[編集] 距離空間

[編集] 距離の公理

ユークリッド位相の開集合の定義は、次のようなものであった。

X \in \mathcal{O} \Leftrightarrow (\forall x \in X \ \exists \varepsilon >0 \ s.t. \ |x-y|<\varepsilon \Rightarrow y \in X)

ここで、点と点の距離というものが重要な役割を果たしていることに注目してもらいたい。実は、ユークリッド空間に限らず、点と点の距離というものが考えられる空間であれば、ユークリッド空間と同様に距離を用いて位相を入れることができる。

まず、距離という概念が満たすべき公理を考えよう。

公理 d:X \times X \to \mathbb{R}が距離関数(あるいは単に距離)であるとは、\forall x,y,z \in Xについて、次の4条件を満たすこと。

  1. d(x,y) \ge 0
  2. d(x,y)=0 \Leftrightarrow x=y
  3. d(x,y) = d(y,x)
  4. d(x,y)+d(y,z) \ge d(x,z)(三角不等式)

このとき、集合と距離関数の組(X,d)を距離空間という。

ユークリッド空間の通常の距離はこの公理を当然に満たしていることを確認してほしい。他にも距離の公理を満たす例は無数にある。いくつか例を挙げる。

(離散距離)
任意の空でない集合Xに対して、d:X \times X \to \mathbb{R}を次のように定めると、距離の公理を満たしている。これを離散距離という。

d(x,y)=
\begin{cases}
1 & x \ne y \\
0 & x = y
\end{cases}

(マンハッタン距離)
d:\mathbb{R}^2 \times \mathbb{R}^2 \to \mathbb{R}を次のように定めると、これは距離の公理を満たしている。

d((x1,y1),(x2,y2)) = | x1x2 | + | y1y2 |

イメージとしては、マンハッタンや札幌のような、碁盤の目上に道路が配置されている街で、交差点から交差点へ移動するために通過する道路の長さのイメージである。

[編集] 距離位相

最初に書いたように、距離空間には距離をもとにした位相を入れることができる。これを距離位相という。念のため、距離位相の定義を再掲しておく。

X \in \mathcal{O} \Leftrightarrow (\forall x \in X \ \exists \varepsilon >0 \ s.t. \ d(x,y)<\varepsilon \Rightarrow y \in X)

これが位相空間の公理を満たすことを、距離の公理を用いて確認してほしい。読者自ら確認することで、距離の公理に対する理解が深まるだろう。

距離空間は、比較的よい性質を持った位相空間である。それは、距離空間について、一般に次の命題が成り立つことからもわかるだろう。

命題 距離空間はハウスドルフ

(証明)
距離空間Xの点xと正の数\varepsilonに対し、B(x,\varepsilon)= \{ y \in X | d(x,y) < \varepsilon \}と書くことにする。
x_1,x_2 \in Xを任意に取り、d(x1,x2) = δとする。このとき、B(x_1,\frac{\delta}{2}),B(x_2,\frac{\delta}{2})x1,x2を分離する開集合である。したがって距離空間はハウスドルフである。//

命題 距離空間の部分集合はコンパクトならば有界

ハウスドルフ空間のコンパクト部分集合はは閉集合なので、距離空間のコンパクト部分集合は有界閉集合であることがわかる。しかし、逆は一般には成り立たない。ハイネ-ボレルの定理は、この逆がユークリッド空間の場合は成り立つ、ということを主張している。

[編集] 完備性

ユークリッド空間で考えた「コーシー列」の概念は、一般の距離空間においても同様に考えることができる。

定義 距離空間(X,d)上の点列(an)が次の性質を満たすとき、この点列はコーシー列であるという。

\forall \varepsilon>0 \ \exists N \in \mathbb{N} \ s.t. \ m,n>N \Rightarrow d(a_m,a_n)<\varepsilon

距離空間上の収束する点列は必ずコーシー列であることは容易に確かめられる。しかし、逆は必ずしも成り立たない。そこで、逆の成り立つ距離空間には特別な名前を与えることにする。

定義 距離空間(X,d)上の任意のコーシー列が収束するとき、(X,d)は完備であるという。

ユークリッド距離を与えられた実数の集合が完備であることはよく知られている。この性質は歴史的経緯から「実数の連続性」と呼ばれるが、近代的な位相空間の用語法では「連続性」は写像に対して考えられる概念であるから、「実数の完備性」と言ったほうがより正確だろう。

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