刑法第175条

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条文[編集]

(わいせつ物頒布等)

第175条
  1. わいせつな文書、図画、電磁的記録に係る記録媒体その他の物を頒布し、又は公然と陳列した者は、2年以下の拘禁刑若しくは250万円以下の罰金若しくは科料に処し、又は拘禁刑及び罰金を併科する。電気通信の送信によりわいせつな電磁的記録その他の記録を頒布した者も、同様とする。
  2. 有償で頒布する目的で、前項の物を所持し、又は同項の電磁的記録を保管した者も、同項と同様とする。

改正経緯[編集]

2022年改正[編集]

2022年、以下のとおり改正(施行日2025年6月1日)。

(改正前)懲役
(改正後)拘禁刑

2011年改正[編集]

2011年改正にて、以下の条項から改正。

わいせつな文書、図画その他の物を頒布し、販売し、又は公然と陳列した者は、2年以下の懲役又は250万円以下の罰金若しくは科料に処する。販売の目的でこれらの物を所持した者も、同様とする。

解説[編集]

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ウィキペディアわいせつ物頒布等の罪の記事があります。


判例[編集]

  1. 猥褻文書販売(最高裁判決昭和26年5月10日)
    猥褻の意義
    刑法第175条にいわゆる「猥褻」とは、徒らに性慾を興奮又は刺戟せしめ且つ普通人の正常な性的羞恥心を害し、善良な性的道義観念に反するものをいう。
  2. 猥褻文書販売チャタレー事件 最高裁判決昭和32年3月13日刑集11巻3号997頁)刑法38条1項,憲法21条,憲法21条2項,憲法76条3項,出版法(明治26年法律15号)27条,刑訴法400条
    1. 刑法第175条にいわゆる「猥褻文書」の意味
      刑法第175条にいわゆる「猥褻文書」とは、その内容が徒らに性欲を興奮又は刺戟せしめ、且つ、普通人の正常な性的羞恥心を害し、善良な性的道義観念に反する文書をいう。
    2. 「猥褻文書」に当るかどうかは事実問題か法律問題か。
      文書が「猥褻文書」に当るかどうかの判断は、当該文書についてなされる事実認定の問題でなく、法解釈の問題である。
    3. 「猥褻文書」に当るかどうかの判断の基準。
      文書が、「猥褻文書」に当るかどうかは、一般社会において行われている良識、すなわち、社会通念に従つて判断すべきものである。
    4. 社会通念とは何か。
      社会通念は、個々人の認識の集合又はその平均値でなく、これを超えた集団意識であり、個々人がこれに反する認識をもつことによつて否定されるものでない。
    5. 刑法第175条にいわゆる「猥褻文書」に当る一事例。
      Aの翻訳にかかる、昭和25年4月2日株式会社小山書店発行の「チヤタレイ夫人の恋人」上、下二巻(ロレンス選集1・2)は、刑法第175条にいわゆる猥褻文書に当る。
    6. 芸術的作品と猥褻性。
      芸術的作品であつても猥褻性を有する場合がある。
    7. 猥褻性の存否と作者の主観的意図。
      猥褻性の存否は、当該作品自体によつて客観的に判断すべきものであつて、作者の主観的意図によつて影響されるものではない。
    8. 刑法第175条に規定する猥褻文書販売罪における犯意。
      刑法第175条に規定する猥褻文書販売罪の犯意がありとするためには、当該記載の存在の認識とこれを頒布、販売することの認識があれば足り、かかる記載のある文書が同条所定の猥褻性を具備するかどうかの認識まで必要とするものではない。
  3. 猥褻図画陳列等(最高裁決定昭和32年5月22日)
    刑法第174条および第175条にいう公然の意義
    刑法第174条および第175条にいう公然とは、不特定または多数の人が認識することのできる状態をいう。
  4. 猥褻図画公然陳列被告事件(黒い雪事件 東京高裁判決 昭和44年9月17日)刑法第38条
    わいせつ映画の上映について犯意を欠く一事例
    映画が刑法上のわいせつ図画にあたるものであつても、その映画が映倫の審査を通過したものであり、かつ、映倫制度発足以来約16年にして、多数の同種映画の中からはじめて公訴の提起がなされたものである場合においては、映倫制度発足の趣旨、同制度に対する社会的評価並びに制作者その他の上映関係者の心情等諸般の事情にかんがみ、右上映関係者が上記映画の上映について、それが法律上許容されたものと信ずるにつき相当の理由があり、わいせつ図画公然陳列罪の犯意を欠くものと解するのが相当である。
  5. 猥褻文書販売、同所持(悪徳の栄え事件 最高裁判決 昭和44年10月15日)憲法21条憲法23条刑訴法400条
    1. 芸術的思想的価値のある文書と猥褻性
      芸術的・思想的価値のある文書であつても、これを猥褻性を有するものとすることはさしつかえない。
    2. 文書の部分についての猥褻性と文書全体との関係
      文書の個々の章句の部分の猥褻性の有無は、文書全体との関連において判断されなければならない。
  6. 猥せつ図画所持、同販売(最高裁判決昭和52年12月22日)
    刑法175条後段にいう「販売ノ目的」の意義
    刑法175条後段にいう「販売ノ目的」の意義とは猥せつの図画等を日本国内で販売する目的をいい、日本国外で販売する目的を含まない。
  7. わいせつ電磁的記録等送信頒布,わいせつ電磁的記録有償頒布目的保管被告事件(最高裁判決平成26年11月25日刑集68巻9号1053頁)
    1. 刑法175条1項後段にいう「頒布」の意義
      刑法175条1項後段にいう「頒布」とは,不特定又は多数の者の記録媒体上に電磁的記録その他の記録を存在するに至らしめることをいう。
      • 不特定の者である顧客によるダウンロード操作を契機とするものであっても,その操作に応じて自動的にデータを送信する機能を備えた配信サイトを利用して送信する方法によってわいせつな動画等のデータファイルを当該顧客のパーソナルコンピュータ等の記録媒体上に記録,保存させることは,刑法175条1項後段にいうわいせつな電磁的記録の『頒布』に当たる。
    2. 顧客のダウンロード操作に応じて自動的にデータを送信する機能を備えた配信サイトを利用してわいせつな動画等のデータファイルを同人の記録媒体上に記録,保存させる行為と刑法175条1項後段にいうわいせつな電磁的記録の頒布
      不特定の者である顧客によるダウンロード操作に応じて自動的にデータを送信する機能を備えた配信サイトを利用した送信により,わいせつな動画等のデータファイルを同人の記録媒体上に記録,保存させることは,刑法175条1項後段にいうわいせつな電磁的記録の「頒布」に当たる。
      • 被告人らが,同項後段の罪を日本国内において犯した者に当たることも,同条2項所定の目的を有していたことも明らか→刑法1条1項

前条:
刑法第174条
(公然わいせつ)
刑法
第2編 罪
第22章 わいせつ、不同意性交等及び重婚の罪
次条:
刑法第176条
(不同意わいせつ)
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