政治学概論
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『政治学概論』は政治の基本的問題について概説した教科書である。
目次 |
[編集] 序論
本項目は政治学の学習者に対して導入を試みる教科書であり、学習者に対して政治の基本的な問題を全般的に取り扱うことを狙ったものである。政治学は社会科学の分野において他の社会学や経済学と同様にいくつかの固有の研究領域を保持しており、権力の関係という事実の問題や社会における正義の在り方という規範の問題などを扱う領域、さらに国家の統治機構に着目する領域や国家間の関係性に着目する領域などがある。このような多様な研究領域から政治学は政治思想史、国家論、統治機構論、比較政治学、政治経済学、国際政治学、政治社会学、政策科学など研究の問題や研究方法から分かれている。
政治学において扱われる問題は非常に幅広いために政治学の中心的な問題群を特定することは難しいが、これまでの政治学の議論では次のような問題が繰り返し論じられている。「政治の本質とは何か」、「よい社会とはどのような状態であるのか」、「どのように国家は組織されるのか」、「政治制度にはどのような種類があり、どれが優れているのか」、「民主主義にはどのような問題があるのか」、「経済体制や社会構造は政治にどのような影響を与えるのか」、「市民は政府の正当性をどのように承認するのか」、「公共政策はどのように決定されるのか」これらの諸問題に対し、政治学ではいくつかの立場を設けて多面的に応答することが可能である。
本書では政治学を概説する目的から政治学の主題を政治、政府論、国家論、民主主義論、政治イデオロギー論、ナショナリズム論、国際関係論、政治経済論、市民社会論、統治機構論、公共政策論に区分し、それぞれの領域において重要な学説や事例を示しながら基礎的な理解を促すものとする。
[編集] 政治の原理
政治学は政治を研究する学問であるが、政治とは何であるかという問題そのものが政治学の研究対象とされてきた。少なくとも政治とは人々が生活する社会秩序を形成し、維持し、修正し、また時には破壊することを通じて実行される活動であり、それは闘争や対話などの手段と関連する社会的な現象である。また日常生活において政治的観念はしばしば社会全体に影響が及ぶような論争的な問題を解釈する際に使用される規範でもある。ここでは政治の基礎的な理解を促すために目的と手段という二つの側面から政治をどのように捉えることを試みる。そして政治学では政治をどのように把握してきたのか、その方法論について概説していく。
[編集] 政治の目的
政治(politics)は古代ギリシアの都市国家(polis)に由来する言葉であり、政治とは国事と特徴付けられる。ならば政治とは国家がどのような状態にあることを促す活動であるのか。この問題に対する最も古い学説は正義と関係している。古代ギリシアの哲学者プラトンは当時のアテナイの政情を批判的に検討することで、正しい国家のモデルを構築していった。そのモデルでは正義を備えた理想国家を目的とし、また国家が堕落することを回避するための理性的な活動として政治の役割が期待されている。プラトンによれば正しい国家が保持しなければならない正義は理論的には三つに区分され、理知的部分の叡智、気概的部分の勇気、そして欲望的部分の節制である。これら三部分はそれぞれ哲人である守護者、国防を担う軍人、そして生産活動に従事する庶民という三つの社会階級によって分担されている。これら三種類の正義が正しく分担され、また正しく機能している状態で調和していることが国家の基礎である。この調和が失われれば人間の魂は不必要な快楽や過剰な消費願望のために「野獣」のそれへと堕落し、国家もまた最悪な状態「豚の国家」へと堕落する。プラトンの政治哲学は国家の正義を通じて個人の精神をも正義へ方向付けることを試みている。このような正義と政治を総合して把握する見方はプラトンだけでなく、古代ギリシアの哲学者アリストテレスによっても示されている。アリストテレスはあらゆる存在は素材を通じて目的に沿った自己形成するものと捉え、人間もまた善を追求する存在と考えた。そして節制、賢慮、友愛、中庸などの個人の善についての倫理学的な研究を進め、さらに国家の善を明らかにする「最高の倫理学」として政治学を位置づけている。ただしアリストテレスが模索していたのはプラトンのような国家の道徳的モデルではなかった。彼は人間が生まれながらにして政治的な動物であり、人間集団として家族、村落の延長線上に国家があることを主張する。そして国家を構成する君主制や僭主制などそれぞれ特徴があるいくつかの政体は変化するものであり、最善の政体はそれらを組み合わせた中間の混合政体であると考えた。そしてその担い手となる社会的基盤として統治者にも被治者にもなりうる中流階級という市民の存在意義を強調した。そしてその国家が果たすべき正義については市民の同質性に関わる一般的正義と市民の平等性に関わる特殊的正義の二つを以って政治の役割を描き出している。