民法第304条

出典: フリー教科書『ウィキブックス(Wikibooks)』

法学民事法民法コンメンタール民法第2編 物権

条文[編集]

物上代位

第304条
  1. 先取特権は、その目的物の売却、賃貸、滅失又は損傷によって債務者が受けるべき金銭その他の物に対しても、行使することができる。ただし、先取特権者は、その払渡し又は引渡しの前に差押えをしなければならない。
  2. 債務者が先取特権の目的物につき設定した物権の対価についても、前項と同様とする。

解説[編集]

Wikipedia
Wikipedia
ウィキペディア物上代位の記事があります。
先取特権の物上代位についての規定である。
質権抵当権にも準用される。

参照条文[編集]

判例[編集]

  1. 配当異議(最高裁判決 昭和53年07月04日)民法第177条民法第351条民法第372条民法第392条2項
    1. 債務者所有の不動産と物上保証人所有の不動産とを共同抵当の目的として数個の抵当権が設定され物上保証人所有の不動産について先に競売がされた場合における物上保証人と後順位低当権者との優劣
      債務者所有の不動産と物上保証人所有の不動産とを共同抵当の目的として順位を異にする数個の抵当権が設定されている場合において、物上保証人所有の不動産について先に競売がされ、その競落代金の交付により一番抵当権者が弁済を受けたときは、後順位抵当権者は、物上保証人に移転した債務者所有の不動産に対する一番抵当権から優先して弁済を受けることができる。
    2. 債務者所有の不動産と物上保証人所有の不動産とを共同抵当の目的として数個の抵当権が設定され物上保証人所有の不動産について先に競売がされた場合における後順位抵当権者の優先弁済権と登記又は差押の要否
      債務者所有の不動産と物上保証人所有の不動産とを共同抵当の目的として順位を異にする数個の抵当権が設定されている場合において、物上保証人所有の不動産について先に競売がされ、その競落代金の交付により一番抵当権者が弁済を受けたときは、後順位抵当権者は、物上保証人に移転した債務者所有の不動産に対する一番抵当権からの優先弁済権を主張するについて登記又は差押を必要としない。
  2. 供託金還付請求権存在確認本訴、同反訴(最高裁判決 昭和59年02月02日)破産法92条
    債務者が破産宣告を受けた場合と先取特権者の物上代位権
    先取特権者は、債務者が破産宣告を受けた場合であつても、目的債権を差し押えて物上代位権を行使することができる。
  3. 配当異議(最高裁判決 昭和60年05月23日)民法第351条民法第372条民法第392条2項、民法第500条民法第501条民法第502条1項
    1. 共同抵当の目的である債務者所有の甲不動産及び物上保証人所有の乙不動産に債権者を異にする後順位抵当権が設定され乙不動産が先に競売された場合に甲不動産から弁済を受けるときにおける甲不動産の後順位抵当権者と乙不動産の後順位抵当権者の優劣
      共同抵当の目的である債務者所有の甲不動産及び物上保証人所有の乙不動産にそれぞれ債権者を異にする後順位抵当権が設定されている場合において、乙不動産が先に競売されて一番抵当権者が弁済を受けたときは、乙不動産の後順位抵当権者は、物上保証人に移転した甲不動産に対する一番抵当権から甲不動産の後順位抵当権者に優先して弁済を受けることができる。
    2. 物上保証人がその所有の不動産及び債務者所有の不動産につき共同抵当権を有する債権者との間で代位権不行使の特約をした場合と物上保証人所有の不動産の後順位抵当権者の優先弁済を受ける権利
      物上保証人が、その所有の不動産及び債務者所有の不動産につき共同抵当権を有する債権者との間で、債権者の同意がない限り弁済等により取得する権利を行使しない旨の特約をしても、物上保証人所有の不動産の後順位抵当権者は、物上保証人が弁済等により代位取得する抵当権から優先弁済を受ける権利を失わない。
    3. 債権の一部につき代位弁済がされた場合の競落代金の配当についての債権者と代位弁済者との優劣
      債権の一部につき代位弁済がされた場合、右債権を被担保債権とする抵当権の実行による競落代金の配当については、代位弁済者は債権者に劣後する。
  4. 配当異議(最高裁判決 昭和60年07月19日)民事執行法第90条民事執行法第143条民事執行法第156条2項,民事執行法第159条3項,民事執行法第178条
    1. 先取特権者による物上代位権行使の目的となる債権について一般債権者が差押又は仮差押の執行をしたのちの先取特権者による物上代位権の行使
      先取特権者による物上代位権行使の目的となる債権について一般債権者が差押又は仮差押の執行をしたにすぎないときは、そののちに先取特権者が右債権に対し物上代位権を行使することを妨げない。
    2. 優先権を有する債権者の得た転付命令が第三債務者に送達される時までに転付命令に係る金銭債権について他の債権者が差押、仮差押の執行又は配当要求をした場合における転付命令の効力
      転付命令が第三債務者に送達される時までに転付命令に係る金銭債権について他の債権者が差押、仮差押の執行又は配当要求をした場合でも、転付命令を得た債権者が優先権を有するときは、転付命令はその効力を生じる。
    3. 差押命令の送達と転付命令の送達とを競合して受けた第三債務者が民事執行法156条2項に基づいてした供託の効力
      差押命令の送達と転付命令の送達とを競合して受けた第三債務者が民事執行法156条2項に基づいてした供託は、転付命令が効力を生じているため法律上差押の競合があるとはいえない場合であつても、第三債務者に転付命令の効力の有無についての的確な判断を期待しえない事情があるときは、同項の類推適用により有効である。
    4. 差押命令の送達と転付命令の送達とを競合して受けた第三債務者のした供託に基づき転付命令が効力を生じないとの解釈のもとに配当表が作成された場合と効力の生じた転付命令を得た債権者の不服申立方法
      差押命令の送達と転付命令の送達とを競合して受けた第三債務者のした供託が民事執行法156条2項の類推適用により有効である場合において、右供託金について転付命令が効力を生じないとの解釈のもとに配当表が作成されたときは、効力の生じた転付命令を得た債権者は、配当期日における配当異議の申出さらには配当異議の訴えにより転付命令に係る債権につき優先配当を主張して配当表の変更を求めることができる。
  5. 不当利得返還(最高裁判決 平成1年10月27日)民法第372条民法第494条
    抵当権の物上代位と抵当不動産について供託された賃料の還付請求権
    抵当不動産が賃貸された場合においては、抵当権者は、賃借人が供託した賃料の還付請求権についても抵当権を行使することができる。
  6. 取立債権請求事件(最高裁判決 平成10年01月30日)民法第372条民法第467条
    抵当権者による物上代位権の行使と目的債権の譲渡
    抵当権者は、物上代位の目的債権が譲渡され第三者に対する対抗要件が備えられた後においても、自ら目的債権を差し押さえて物上代位権を行使することができる。
    • (原審判断)
      民法304条1項ただし書が払渡し又は引渡しの前の差押えを必要とする趣旨は、差押えによって物上代位の目的債権の特定性を保持し、これによって物上代位権の効力を保全するとともに、第三者が不測の損害を被ることを防止することにあり、この第三者保護の趣旨に照らせば、払渡し又は引渡しの意味は債務者(物上保証人を含む。)の責任財産からの逸出と解すべきであり、債権譲渡も払渡し又は引渡しに該当するということができるから、目的債権について、物上代位による差押えの前に対抗要件を備えた債権譲受人に対しては物上代位権の優先権を主張することができず、このことは目的債権が将来発生する賃料債権である場合も同様である。
    • (最高裁判断)
      民法372条において準用する304条1項ただし書が抵当権者が物上代位権を行使するには払渡し又は引渡しの前に差押えをすることを要するとした趣旨目的は、主として、抵当権の効力が物上代位の目的となる債権にも及ぶことから、右債権の債務者(以下「第三債務者」という。)は、右債権の債権者である抵当不動産の所有者(以下「抵当権設定者」という。)に弁済をしても弁済による目的債権の消滅の効果を抵当権者に対抗できないという不安定な地位に置かれる可能性があるため、差押えを物上代位権行使の要件とし、第三債務者は、差押命令の送達を受ける前には抵当権設定者に弁済をすれば足り、右弁済による目的債権消滅の効果を抵当権者にも対抗することができることにして、二重弁済を強いられる危険から第三債務者を保護するという点にあると解される。
      右のような民法304条1項の趣旨目的に照らすと、同項の「払渡又ハ引渡」には債権譲渡は含まれず、抵当権者は、物上代位の目的債権が譲渡され第三者に対する対抗要件が備えられた後においても、自ら目的債権を差し押さえて物上代位権を行使することができるものと解するのが相当である。
  7. 債権差押命令に対する執行抗告棄却決定に対する許可抗告事件(最高裁判決 平成11年05月17日)民法第369条2項、破産法92条
    1. 動産譲渡担保権に基づく物上代位権の行使が認められた事例
      銀行甲が、輸入業者乙のする商品の輸入について信用状を発行し、約束手形の振出しを受ける方法により乙に輸入代金決済資金相当額を貸し付けるとともに、乙から右約束手形金債権の担保として輸入商品に譲渡担保権の設定を受けた上、乙に右商品の貸渡しを行ってその処分権限を与えたところ、乙が、右商品を第三者に転売した後、破産の申立てをしたことにより右約束手形金債務につき期限の利益を失ったという事実関係の下においては、甲は、右商品に対する譲渡担保権に基づく物上代位権の行使として、転売された右商品の売買代金債権を差し押さえることができる。
    2. 動産譲渡担保権の設定者が破産宣告を受けた後における右譲渡担保権に基づく物上代位権行使の可否
      動産譲渡担保権に基づく物上代位権の行使は、右譲渡担保権の設定者が破産宣告を受けた後においても妨げられない。
  8. 債権差押命令に対する執行抗告棄却決定に対する許可抗告事件(最高裁判決 平成12年04月14日)民法第372条民法第613条
    抵当不動産の賃借人が取得する転貸賃料債権について抵当権者が物上代位権を行使することの可否
    抵当権者は、抵当不動産の賃借人を所有者と同視することを相当とする場合を除き、右賃借人が取得する転貸賃料債権について物上代位権を行使することができない。
  9. 取立債権請求事件(最高裁判決 平成13年03月13日)
    抵当不動産の賃借人が抵当権設定登記の後に賃貸人に対して取得した債権を自働債権とする賃料債権との相殺をもって賃料債権に物上代位権の行使としての差押えをした抵当権者に対抗することの可否
    抵当権者が物上代位権を行使して賃料債権の差押えをした後は,抵当不動産の賃借人は,抵当権設定登記の後に賃貸人に対して取得した債権を自働債権とする賃料債権との相殺をもって,抵当権者に対抗することはできない。
  10. 取立債権請求事件 (最高裁判決 平成14年03月28日)
    賃料債権に対する抵当権者の物上代位による差押えと当該債権への敷金の充当
    敷金が授受された賃貸借契約に係る賃料債権につき抵当権者が物上代位権を行使してこれを差し押さえた場合において,当該賃貸借契約が終了し,目的物が明け渡されたときは,賃料債権は,敷金の充当によりその限度で消滅する。
  11. 売掛代金請求及び独立当事者参加事件(最高裁判決 平成17年02月22日)民法第322条民法第467条
    動産売買の先取特権者による物上代位権の行使と目的債権の譲渡
    動産売買の先取特権者は,物上代位の目的債権が譲渡され,第三者に対する対抗要件が備えられた後においては,目的債権を差し押さえて物上代位権を行使することはできない。

前条:
民法第303条
(先取特権の内容)
民法
第3編 債権

第8章 先取特権

第1節 総則
次条:
民法第305条
(先取特権の不可分性)
このページ「民法第304条」は、まだ書きかけです。加筆・訂正など、協力いただける皆様の編集を心からお待ちしております。また、ご意見などがありましたら、お気軽にトークページへどうぞ。