民法第370条

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法学民事法コンメンタール民法第2編 物権 (コンメンタール民法)

条文[編集]

抵当権の効力の及ぶ範囲)

第370条
抵当権は、抵当地の上に存する建物を除き、その目的である不動産(以下「抵当不動産」という。)に付加して一体となっている物に及ぶ。ただし、設定行為に別段の定めがある場合及び債務者の行為について第424条第3項に規定する詐害行為取消請求をすることができる場合は、この限りでない。

改正経緯[編集]

2017年改正により以下のとおり改正。

(改正前)第424条の規定により債権者が債務者の行為を取り消すことができる場合
(改正後)債務者の行為について第424条第3項に規定する詐害行為取消請求をすることができる場合

解説[編集]

抵当権の効力の及ぶ範囲について規定する。当該不動産のみならず、これと付加して一体となっている物にも及ぶ。また、その付加の時期については抵当権の設定の前後を問わない。ただし、土地と建物は別個の不動産であるから、土地に設定した抵当権は建物には及ばない。

「付加して一体となっている物」(付加一体物)の意義については以下の通り争いがある。

  • 「付加して一体となっている物」とは、「付合物」(民法第242条)を指し、「従物」(民法第87条)は含まない。ただ、87条2項が「従物は、主物の処分に従う」と規定していることから、抵当権の設定はこの「処分」にあたると解釈する。すなわち、抵当権設定前の従物には抵当権の効力が及ぶが、抵当権設定後の従物には及ばない。(判例)
    この判例の見解に対しては、社会通念上、従物も不動産と一体となって経済的価値を把握されているにもかかわらず、抵当権設定後の従物には抵当権の効力が及ばないとする点が不合理であると評価される。そこで、学説上は以下の反対説がある。
  • 「付加して一体となっている物」とは、不動産と経済的に一体をなす物を指し、「付合物」と「従物」の両方が含まれる。抵当権設定後の従物にも抵当権の効力は及ぶ。
  • 「付加して一体となっている物」とは、「付合物」を指し、「従物」は含まない。ここまでは判例と同様だが、87条2項の「処分」とは、抵当権の設定ではなく、実行を指すと解釈する。そこで、抵当権設定後の従物にも抵当権の効力は及ぶと考える。

工場抵当法との関係[編集]

工場抵当法は工場について次のように言う。

第2条

  1. 工場ノ所有者カ工場ニ続スル土地ノ上ニ設定シタル抵当権ハ建物ヲ除クノ外其ノ土地ニ附加シテ之ト一体ヲ成シタル物及其ノ土地ニ備附ケタル機械、器具其ノ他工場ノ用ニ供スル物ニ及フ 但シ設定行為ニ別段ノ定アルトキ及民法第424条ノ規定ニ依リ債権者カ債務者ノ行為ヲ取消スコトヲ得ル場合ハ此ノ限ニ在ラス
  2. 前項ノ規定ハ工場ノ所有者カ工場ニ続スル建物ノ上ニ設定シタル抵当権ニ之ヲ準用ス

工場抵当法は日本の資本主義が本格化した日露戦争後に経済状況の変化を受けて制定されたものであり民法典に対しては特別法の関係にあたっており、民法の条項よりも文言上範囲が拡大されている。このことから、工場抵当法が規定する工場及び工場財団以外については反対解釈により適用されないという論、これに対し工場抵当法の合理的な趣旨を民法の解釈に取り込んでいこうとする論(我妻など)とがある。

参照条文[編集]

判例[編集]

  1. 建物所有権移転登記等請求(最高裁判決 昭和39年01月30日)民法第482条民訴法395条6号
     建物を目的とする代物弁済予約の効力が及ぶ範囲を判断するにつき審理不尽理由不備の違法があるとされた事例
     建物を目的とする代物弁済予約の効力が、右予約後右建物に加えられた築造部分に及ぶかどうかを判断するにつき、建物の物理的構造のみに依拠し、取引または利用の対象として観察した建物の状況を勘案しなかつたのは、審理不尽理由不備の違法がある。
  2. 建物収去土地明渡請求(最高裁判決 昭和40年05月04日)民法第87条2項,民法第423条民法第612条
    1. 土地貸借人が該地上の建物に設定した抵当権の効力は当該土地の賃借権に及ぶか
      土地賃借人が該土地上に所有する建物について抵当権を設定した場合には、原則として、右抵当権の効力は当該土地の賃借権に及び、右建物の競落人と賃借人との関係においては、右建物の所有権とともに土地の賃借権も競落人に移転するものと解するのが相当である。
    2. 地上建物に抵当権を設定した土地賃借人は抵当建物の競落人に対し地主に代位して当該土地の明渡を請求できるか。
      前項の場合には、賃借人は、賃貸人において右賃借権の移転を承諾しないときであつても、競落人に対し、土地所有者たる賃貸人に代位して右土地の明渡を請求することはできない。
  3. 強制執行の目的物に対する第三者異議 (最高裁判決 昭和44年03月28日)民法第87条民法第177条
    宅地上の従物と抵当権の効力
    宅地に対する抵当権の効力は、特段の事情のないかぎり、抵当権設定当時右宅地の従物であつた石燈籠および庭石にも及び、抵当権の設定登記による対抗力は、右従物についても生ずる。
  4. 建物明渡等(最高裁判決  平成2年04月19日) 民法第87条
    ガソリンスタンドの店舗用建物に設定された抵当権の効力がその設定当時建物の従物であつた地下タンク、ノンスペース型計量機洗車機などの諸設備にも及ぶとされた事例
    ガソリンスタンドの店舗用建物に対する抵当権設定当時、建物内の設備と一部管によつて連通する地下タンク、ノンスペース型計量機、洗車機などの諸設備を右建物の敷地上又は地下に近接して設置し、これらを右建物に付属させて経済的に一体として右営業に使用していたなど判示の事情の下においては、右諸設備には、右建物の従物として抵当権の効力が及ぶ。

前条:
民法第369条
(抵当権の内容)
民法
第2編 物権

第10章 抵当権

第1節 総則
次条:
民法第371条
(抵当権の効力の及ぶ範囲)
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