民法第379条

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法学民事法民法コンメンタール民法第2編 物権

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条文[編集]

抵当権消滅請求

第379条
抵当不動産の第三取得者は、第383条の定めるところにより、抵当権消滅請求をすることができる。

解説[編集]

抵当権のついた不動産(抵当不動産)を取得した者は、前条により、抵当権者の求めに応じて代価を弁済すれば抵当権を消滅させることができる(代価弁済)が、抵当権者が自発的にこれを求めない場合、取得者は抵当権が実行される可能性という不安定な状況に陥ることとなる。そこで、取得者側から、抵当権者に代価を提示し抵当権の消滅を求めるのが、本制度である。抵当権者は提示された代価を受け取り抵当権を消滅させるか、抵当権を実行しこれを競売にかけるという選択を行うこととなる。
ただし、抵当不動産の取得者が誰でもできるとすると抵当権設定自体が無意味になるため、抵当権の目的となる債権債務に関与のない者(第三取得者)のみが請求できる。
かつては滌除(てきじょ)として規定されていた制度であったが、以下の問題点が指摘されており、当時から特別法で禁止されていた例も多かった(例.農業動産信用法[1]。なお、商法第847条においては船舶抵当権について不動産の抵当権を「抵当権消滅請求」を含め、準用することを規定するが、自動車等の担保の規定である自動車抵当法、建設機械抵当法、航空機抵当法には「代価弁済」の規定はあるが抵当権消滅に相当する規定はない)。
  1. 抵当権者は、保有債権の継続期間中にわたる抵当権の目的物の安定的な担保価値を期待し抵当権を設定したのにもかかわらず、弁済期前の弁済受容を強要され、保有債権に足りない部分については、残債権の存続期間にわたって、無担保のリスクにさらされることとなる。
  2. 滌除制度においては「増価競売」が規定され、第三取得者の申出価格より10分の1以上高価に売却できない場合、抵当権者が必要としない抵当不動産でも取得が義務付けられていた。
  3. 抵当権者が滌除権者に抵当権実行の通知をした後1ヶ月経過しなければ競売の申立をすることができないため、執行手続の遅延の原因となっている。
  4. 熟慮期間は、滌除の申し出から1ヶ月という限られたものであり、十分な検討ができない。
特に増加競売の制度は、滌除権者が滌除をなすのに不当に有利なものであって、経済界などからも検討を求める声があがっていた[2]。これらを受けて、2003年(平成15年)に現在の「抵当権消滅請求」に改正された。しかしながら、弁済期前の弁済受容を強要されるという事情は、現行の制度においても継続している。
「第三取得者」は、所有権の譲受人に限られる。2003年改正前の「抵当不動産ニ付キ所有権、地上権又ハ永小作権ヲ取得シタル第三者」と比較すると、地上権取得者も永小作権取得者も抵当権の消滅を請求できなくなったことがわかる。
手続については民法第383条(抵当権消滅請求の手続)、効果については民法第386条を参照。

参照条文[編集]

判例[編集]

  • 建物根抵当権設定登記等抹消登記 (最高裁判決 平成9年06月05日)民法第249条
    一個の不動産の全体を目的とする抵当権が設定されている場合における抵当不動産の共有持分の第三取得者による滌除(現.抵当権消滅請求)の可否
    一個の不動産の全体を目的とする抵当権が設定されている場合には、右抵当不動産の共有持分を取得した第三者が抵当権の滌除をすることはできない。

参考[編集]

平成15年改正前

  • 旧・民法第378条 → 本条
    抵当不動産ニ付キ所有権、地上権又ハ永小作権ヲ取得シタル第三者ハ第382条乃至第384条ノ規定ニ従ヒ抵当権者ニ提供シテ其承諾ヲ得タル金額ヲ払渡シ又ハ之ヲ供託シテ抵当権ヲ滌除スルコトヲ得
  • 旧・民法第379条(滌除ができない者)→民法第380条;抵当権消滅請求ができない者
  • 旧・民法第380条(滌除が制限される者)→民法第381条;抵当権消滅請求が制限される者
  • 旧・民法第381条(滌除権者への抵当権実行の通知)→削除
    抵当権者カ其抵当権ヲ実行セント欲スルトキハ予メ第378条ニ掲ケタル第三取得者ニ其旨ヲ通知スルコトヲ要ス
  • 旧・民法第382条(滌除権の時期)
    1. 第三取得者ハ前条ノ通知ヲ受クルマテハ何時ニテモ抵当権ノ滌除ヲ為スコトヲ得
    2. 第三取得者カ前条ノ通知ヲ受ケタルトキハ一个月内ニ次条ノ送達ヲ為スニ非サレハ抵当権ノ滌除ヲ為スコトヲ得ス
    3. 前条ノ通知アリタル後ニ第378条ニ掲ケタル権利ヲ取得シタル第三者ハ前項ノ第三取得者カ滌除ヲ為スコトヲ得ル期間内ニ限リ之ヲ為スコトヲ得
    民法第382条;抵当権消滅請求の時期
    抵当不動産の第三取得者は、抵当権の実行としての競売による差押えの効力が発生する前に、抵当権消滅請求をしなければならない。
  • 旧・民法第383条(滌除の手続)
    第三取得者カ抵当権ヲ滌除セント欲スルトキハ登記ヲ為シタル各債権者ニ左ノ書面ヲ送達スルコトヲ要ス
    1. 取得ノ原因、年月日、譲渡人及ヒ取得者ノ氏名、住所、抵当不動産ノ性質、所在、代価其他取得者ノ負担ヲ記載シタル書面
    2. 抵当不動産ニ関スル登記簿ノ謄本但既ニ消滅シタル権利ニ関スル登記ハ之ヲ掲クルコトヲ要セス
    3. 債権者カ一个月内ニ次条ノ規定ニ従ヒ増価競売ヲ請求セサルトキハ第三取得者ハ第一号ニ掲ケタル代価又ハ特ニ指定シタル金額ヲ債権ノ順位ニ従ヒテ弁済又ハ供託スヘキ旨ヲ記載シタル書面
    民法第383条;抵当権消滅請求の手続
    抵当不動産の第三取得者は、抵当権消滅請求をするときは、登記をした各債権者に対し、次に掲げる書面を送付しなければならない。
    1. 取得の原因及び年月日、譲渡人及び取得者の氏名及び住所並びに抵当不動産の性質、所在及び代価その他取得者の負担を記載した書面
    2. 抵当不動産に関する登記事項証明書(現に効力を有する登記事項のすべてを証明したものに限る。)
    3. 債権者が二箇月以内に抵当権を実行して競売の申立てをしないときは、抵当不動産の第三取得者が第一号に規定する代価又は特に指定した金額を債権の順位に従って弁済し又は供託すべき旨を記載した書面
  • 旧・民法第384条(増加競売の請求)
    1. 債権者カ前条ノ送達ヲ受ケタル後一个月内ニ増価競売ヲ請求セサルトキハ第三取得者ノ提供ヲ承諾シタルモノト看做ス
    2. 増価競売ハ若シ競売ニ於テ第三取得者カ提供シタル金額ヨリ十分ノ一以上高価ニ抵当不動産ヲ売却スルコト能ハサルトキハ十分ノ一ノ増価ヲ以テ自ラ其不動産ヲ買受クヘキ旨ヲ附言シ第三取得者ニ対シテ之ヲ請求スルコトヲ要ス
    3. 前項ノ場合ニ於テハ債権者ハ代価及ヒ費用ニ付キ担保ヲ供スルコトヲ要ス
    民法第384条;債権者のみなし承諾
    次に掲げる場合には、前条各号に掲げる書面の送付を受けた債権者は、抵当不動産の第三取得者が同条第三号に掲げる書面に記載したところにより提供した同号の代価又は金額を承諾したものとみなす。
    1. その債権者が前条各号に掲げる書面の送付を受けた後二箇月以内に抵当権を実行して競売の申立てをしないとき。
    2. その債権者が前号の申立てを取り下げたとき。
    3. 第1号の申立てを却下する旨の決定が確定したとき。
    4. 第1号の申立てに基づく競売の手続を取り消す旨の決定(民事執行法第188条において準用する同法第63条第3項若しくは第68条の3第3項の規定又は同法第183条第1項第5号の謄本が提出された場合における同条第2項の規定による決定を除く。)が確定したとき。
  • 旧・民法第385条(増加競売の通知)→削除
    債権者カ増価競売ヲ請求スルトキハ前条ノ期間内ニ債務者及ヒ抵当不動産ノ譲渡人ニ之ヲ通知スルコトヲ要ス
  • 旧・民法第386条(増加競売請求の取消[撤回])→削除
    増価競売ヲ請求シタル債権者ハ登記ヲ為シタル他ノ債権者ノ承諾ヲ得ルニ非サレハ其請求ヲ取消スコトヲ得ス
  • 旧・民法第387条(抵当権競売請求)
    抵当権者カ第382条ニ定メタル期間内ニ第三取得者ヨリ債務ノ弁済又ハ滌除ノ通知ヲ受ケサルトキハ抵当不動産ノ競売ヲ請求スルコトヲ得
    民法第385条;競売の申立ての通知
    第383条各号に掲げる書面の送付を受けた債権者は、前条第1号の申立て(競売の申立て)をするときは、同号の期間内に、債務者及び抵当不動産の譲渡人にその旨を通知しなければならない。
    民法第386条;抵当権消滅請求の効果
    登記をしたすべての債権者が抵当不動産の第三取得者の提供した代価又は金額を承諾し、かつ、抵当不動産の第三取得者がその承諾を得た代価又は金額を払い渡し又は供託したときは、抵当権は、消滅する。

[編集]

  1. ^ 農業用動産ノ抵当権ニハ本法其ノ他ノ法令ニ別段ノ定アルモノノ外不動産ノ抵当権ニ関スル規定ヲ準用ス但シ民法第三百七十九条乃至第三百八十六条ノ規定ハ此ノ限ニ在ラズ(農業動産信用法第12条第2項)
  2. ^ [https://www.keidanren.or.jp/japanese/policy/2002/005.html (社)経済団体連合会 経済法規専門部会『担保・執行法制の見直しに関する基本的考え方-法制審議会で審議中の担保及び執行制度の見直しに関するコメント-』(2002年1月21日)]

前条:
民法第378条
(代価弁済)
民法
第2編 物権

第10章 抵当権

第2節 抵当権の効力
次条:
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(抵当権消滅請求)
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