民法第478条

出典: フリー教科書『ウィキブックス(Wikibooks)』

法学民事法民法コンメンタール民法第3編 債権 (コンメンタール民法)

条文[編集]

(受領権者としての外観を有する者に対する弁済)

第478条
受領権者(債権者及び法令の規定又は当事者の意思表示によって弁済を受領する権限を付与された第三者をいう。以下同じ。)以外の者であって取引上の社会通念に照らして受領権者としての外観を有するものに対してした弁済は、その弁済をした者が善意であり、かつ、過失がなかったときに限り、その効力を有する。

改正経緯[編集]

2017年改正[編集]

以下のとおり改正。「準占有者」の内容を明確化した。

  • 見出し
    (改正前)債権の準占有者に対する弁済
    (改正後)受領権者としての外観を有する者に対する弁済
  • 本文
    債権の準占有者に対してした弁済は
    受領権者(債権者及び法令の規定又は当事者の意思表示によって弁済を受領する権限を付与された第三者をいう。以下同じ。)以外の者であって取引上の社会通念に照らして受領権者としての外観を有するものに対してした弁済は、

本改正に伴い、類似条文の第480条は削除。

平成16年改正[編集]

民法現代語化改正に際し、改正前は明文の規定がなかった無過失の要件を、「確立された判例・通説の解釈」に基づき明文化した。

(改正前の本条)債権ノ準占有者ニ為シタル弁済ハ弁済者ノ善意ナリシトキニ限リ其効力ヲ有ス

解説[編集]

フランス民法第1240条に由来する。債務者は真の債権者に弁済しなければ債務不履行の責任を負う。「債権の準占有者」に弁済しても債務不履行の責任は免除されないのが原則である(その例外は免責証券所持人に対する弁済)。しかしこの原則を徹底すると、債権者が頻繁に代わる場合やその債権者が代理人を送った場合、債務者は「新債権者」、「債権者の代理人」の代理資格の有無をいちいち確かめなければならない。そこで民法は権利概観法理の考え方によって、その者がたとえ真の債権者、債権者の代理人でなかったとしても「債権の準占有者」であれば、弁済を有効とし債務不履行責任を負わせないことにした。債務者は外観さえ過失なく調査すればよくなったのである。

現代の決済制度との関連については善意支払を参照。

債権の準占有者
詐称代理人
取り消された債権譲渡の譲受人

「債権者」を本人、「第三者」を他人(無権代理人または表見代理人)、「その弁済をした者」を第三者(相手方)と考えると、表見代理(民法第110条)ににていることがわかる。もっとも、越権代理の場合は第三者の信ずべき正当な理由について立証責任を負うのに対して、478条の場合は弁済者の善意無過失について立証責任を負うという微妙な違いがある。

参照条文[編集]

判例[編集]

  1. 納品代金請求 (昭和37年08月21日)
    1. 債権者の代理人と称して債権を行使する者に対する民法第478条の適用の有無
      債権者の代理人と称して債権を行使する者についても民法第478条が適用される。
    2. 債権の準占有者に対する弁済と弁済者の善意無過失
      債権の準占有者に対する弁済が有効とされるためには、弁済者が善意かつ無過失であることを要する。
  2. 債務不存在確認定期預金証書回復等請求(最高裁判決 昭和41年10月04日)
    定期預金の期限前払戻に民法第478条の適用があるとされた事例
    定期預金契約の締結に際し、当該預金の期限前払戻の場合における弁済の具体的内容が契約当事者の合意により確定されているときは、右預金の期限前の払戻であつても、民法第478条の適用をうける。
  3. 普通預金払戻請求(最高裁判決 昭和42年12月21日)
    預金通帳を呈示しない無権限者の請求に対して銀行のした預金の払戻に過失がないとされた事例
    無権限者が預金通帳を呈示しないで預金の払戻を請求し、銀行がその支払をした場合であつても、払戻請求書に押捺された会社代表者の印影が届出の印影と合致し、請求者が当該会社の代表者を補助して会社の設立事務に従事し、設立後は取締役の一員となつていたことを当該係員において知つているなど判示の事情があるときは、銀行がその者に預金の払戻を請求する代理権限があると信じたことに過失はない。
  4. 預金返還(最高裁判決 昭和59年02月23日)
    金融機関が記名式定期預金の預金者と誤認した者に対する貸付債権をもつてした預金債権との相殺につき民法478条が類推適用されるために必要な注意義務を尽くしたか否かの判断の基準時
    金融機関が、記名式定期預金につき真実の預金者甲と異なる乙を預金者と認定して乙に貸付をしたのち、貸付債権を自働債権とし預金債権を受働債権としてした相殺が民法478条の類推適用により甲に対して効力を生ずるためには、当該貸付時において、乙を預金者本人と認定するにつき金融機関として負担すべき相当の注意義務を尽くしたと認められれば足りる。
  5. 運送代金(最高裁判決 昭和61年04月11日)民法第467条
    1. 指名債権が二重に譲渡された場合に対抗要件を後れて具備した譲受人に対してされた弁済と民法478条の適用
      指名債権が二重に譲渡された場合に、民法467条2項所定の対抗要件を後れて具備した譲受人に対してされた弁済についても、同法478条の適用がある。
    2. 二重に譲渡された指名債権の債務者が対抗要件を後れて具備した譲受人に対してした弁済について過失がないというための要件
      二重に譲渡された指名債権の債務者が民法467条2項所定の対抗要件を後れて具備した譲受人を真の債権者であると信じてした弁済について過失がないというためには、対抗要件を先に具備した譲受人の債権譲受又は対抗要件に瑕疵があるためその効力を生じないと誤信してもやむを得ない事情があるなど対抗要件を後れて具備した譲受人を真の債権者であると信ずるにつき相当な理由があることを要する。

前条:
民法第477条
(弁済として引き渡した物の消費又は譲渡がされた場合の弁済の効力等)
民法
第3編 債権

第1章 総則
第6節 債権の消滅

第1款 弁済
次条:
民法第479条
(受領する権限のない者に対する弁済)
このページ「民法第478条」は、まだ書きかけです。加筆・訂正など、協力いただける皆様の編集を心からお待ちしております。また、ご意見などがありましたら、お気軽にトークページへどうぞ。