特殊相対論 歴史的導入

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歴史的導入[編集]

19世紀中頃にMaxwellによって電磁気学の法則が見通しのよい形で 定式化された。 その結果によると電磁気学の現象は、


\begin{matrix}
\textrm{div} \vec E &=& 4\pi \rho \\
\textrm{div} \vec B &=& 0 \\
\textrm{rot} \vec E &=& - \frac{\partial{{}}}{\partial{{ct}}} \vec B \\
\textrm{rot} \vec B &=& 4\pi \vec j + \frac{\partial{{}}}{\partial{{c t}}} \vec E
\end{matrix}

の4つの方程式によって書かれることが知られた。 (詳しくは電磁気学で扱われる。これらの式の詳細はこの後の議論にはでてこない ので、よくわからなくてもそれほど問題は無い。)

一方、物体の動きを表わすニュートン方程式は 既に18世紀にはよく知られており、


m \frac{\partial{{}}}{\partial{t}} \vec v = \vec f

となっていた。

当事の科学者は、これらが互いに異なった速度で動いている観測者から見た場合、 異なる振舞を示すことを知っていた。 ニュートン方程式は


\vec v' = \vec v + \vec V, t' = t

もしくは、


\vec x' = \vec x + \vec V t , t' = t

で与えられるガリレイ変換で不変であることを知っていた。 実際この式から、 物体の速度の微分は観測者の速度が定数であるとするなら 運動方程式から消え去ることが知られるので、 ニュートン方程式がガリレイ変換で不変であることが分かる。

一方、電磁気学の方程式はガリレイ変換で不変にならないことが知られていた。 それよりもむしろ


\begin{matrix}
x' &= \frac 1 {\sqrt{1 - v^2/c^2 } } ( x + \frac V c ct ) \\
c t' &= \frac 1 {\sqrt{1 - v^2/c^2 } } ( ct + \frac V c x )
\end{matrix}

で与えられる変換の方で電磁気学の方程式が良い性質を 持つことが知られていた。cは光の速さであり、 値は 2.99*10^8 m/secである。 この変換をローレンツ変換と呼ぶ。 光速が物体の速度よりもはるかに大きいとき、両者が一致することにも 注意。 特に、電磁気学では


(\frac{\partial^2{{}}}{\partial{t}^2} - \Delta ) \vec E = 0

などの式が電磁気の伝搬を表わしていることが知られている。 \Deltaはラプラシアンである。 この式の演算子


\frac{\partial^2{{}}}{\partial{t}^2} - \Delta

は、ダランベリアンと呼ばれているが、 この演算子がローレンツ変換について 不変であることが示される。

(導出?)

この名前はダランベールにちなんで付けられた。

当事の科学者はどちらの変換がより正しいかで紛糾したが 多くはガリレイ変換をより支持した。これは電磁気学の法則が 当事は新参であり、既に実績のあるニュートン方程式よりも 間違いがひそんでいる可能性が高かったことによる。

実際には、結論から言えば、正しかったのは電磁気学の法則、 Maxwell方程式の変換性であり、ニュートン方程式は より一般的な


\frac{\partial{{}}}{\partial{s}} p^\mu = f^\mu

の形に書き換えられることになった。 ここで、pとfはそれぞれ運動量と力を表わすが、これは4元ベクトルといい 今までの3つの要素を持ったベクトルから、4つの要素を持ったベクトルへと 拡張されている。sは固有時間といい、物体が運動する様子を取り入れた上での 時間のようなものである。

これらの量はそれぞれローレンツ変換に対して非常に簡明な変換性を持っている。 pとfはローレンツベクトルと呼ばれ、その変換性は、単にベクトルに対して 行列のかけ算を行なうことによって表わされる。一方、sはローレンツ スカラーと呼ばれ、ローレンツ変換によって全く不変に保たれる ことが知られている。 以降の章ではこれらの計算手法などが扱われる。


初等的に定義されたローレンツ変換[編集]

ここからは、c=1とおく単位系を用いる。c=1とおくとき、時間の変化は[m]で測ることが できる。これは奇妙に思えるかも知れないがある時間の変化がその間に光が 伝搬する距離で測ることに対応している。先ほど述べた通り、ローレンツ変換とは


x' = \frac 1 {\sqrt{1 - V^2/c^2 } } ( x + \frac V c ct )

c t' = \frac 1 {\sqrt{1 - V^2/c^2 } } ( ct + \frac V c x )

で与えられる変換である。ここで、c=1とおくと、この式は


x' = \frac 1 {\sqrt{1 - V^2 } } ( x + V t )

 t' = \frac 1 {\sqrt{1 - V^2 } } ( t +  V  x )

と書かれ、xとtについて対称的になる。このことは何らかの意味で物体の位置と 物体の時刻を対応するものとして扱うことが出来ることを示している。 この様な変換は、cが物体の速度Vと比べてきわめて大きいとき ガリレイ変換に戻ることが示される。実際、上の式の右辺を


\frac V c

によって展開すると、Vについて2次までの範囲で


x' = (1 + \frac 1 2 V^2/c^2) ( x + V t )

 t' = (1 + \frac 1 2 V^2/c^2) (  t +  V  x/c^2 )

が得られるが、この表式はVの1次まででは


x' =   x + V t

 t' = t

となり、確かにガリレイ変換になることが分かる。

  • 問題例
    • 問題

上の表式をV/cについてテイラー展開することで確かにガリレイ変換が得られることを 確かめよ。

    • 解答

また、ローレンツ変換には次の重要な性質がある。ある点を時刻と座標を定めることで 定める。この様な時刻方向までいれて定められる点を世界点と呼ぶことがある。 このとき、ある世界点とその世界点とごく近い世界点との距離を


ds ^2 = c^2 dt ^2 - dx ^2

と定義する。ただし、ここでは世界点のうちで空間座標を表わす量は ただ1方向だけが用いられるとした。この量dsを世界点間の固有距離と呼ばれる ことがある。ローレンツ変換の重要な性質としてこの量のローレンツ変換が この量を不変に保つということがあげられる。

  • 問題例
    • 問題

ds ^2 = c^2 dt ^2 - dx ^2,
ds ^{'2 }= c^2 dt ^{'2} - dx ^{'2}

に対して、


t ' = \gamma(t + V x) ,
x ' = \gamma (x + V t)

を代入することで


ds = ds'

を確かめよ。ただし、


\gamma = \frac 1 {\sqrt{1-v^2}}

とする。

    • 解答

ds '

t',x'の表式を代入すると


ds ^{'2 }= dt ^{'2} - dx ^{'2}

= \gamma ^2 (dt + Vdx )^{2} -\gamma^2 (dx + vdt ) ^{2}

= \gamma ^2 \{ 
(1-V^2) dt^2 
+ (V^2 - 1)  dx^2
\}

= dt^2 - dx ^2 = ds^2

が得られる。ただし、c=1の単位系を用いた。よって、ローレンツ変換は固有距離を 不変に保つことが分かる。

この性質は後にローレンツ変換に伴って起こる現象を説明するのに用いられる。 ただし、数学的には別のより整理された量から始めてこの量を定理として導く方が より自然である。しかし、いずれにしてもこの量の不変性は歴史的に重要であり このことを直接導出することも変換の性質を見る上で便利であるので ここでは導入した。

この様な変換はガリレイ変換とは異なった性質を持つことが分かる。 例えば、ガリレイ変換を用いたときにはある物体がv _1で動いているとき その物体から見てv _2で動いている物体の速度はv _1 +v _2で与えられた。 このような簡明な結果は、ガリレイ変換の中ではどの観測者から見たときにも 時間の進み方が変化しないことによって得られる。実際ガリレイ変換の表式


x' = x + V t

t ' = t

では、時間は異なった速度を持つ観測者から見ても等しい進み方をするのである。


一方、ローレンツ変換を受ける系では、時間の進み方自体が観測者の速度によって 変化するため、様々な場合において非直感的な事柄が起こる。ここでは、 時間の遅れや物体のローレンツ収縮などを扱う。