高等学校化学基礎/酸化還元反応

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酸化と還元の定義[編集]

銅Cuの粉末を空気中で加熱すると、銅が空気中の酸素と結合して、酸化銅(II) CuO が得られる。

このように物質に酸素が化合することを酸化(oxidation)という。酸素が化合した物質については、その物質は酸化されたという。酸化によって生成した生成物を酸化物という。以上のような酸化の反応を酸化反応という。

つぎに、この酸化銅の粉末を耐熱ガラスなどに入れ、水素を通じながら加熱をすると、粉末は赤褐色の銅に戻る。 これは酸化銅から水素が酸素を奪い、もとの銅に戻した現象である。

CuO + H2 → Cu + H2O

このように、ある物質が酸素を失うことを還元(reduction)という。このような還元の反応を還元反応という。この銅の還元反応では、水素は逆に酸化をして水になっている。このように酸化反応と還元反応は、同時に起こる。そこで、これら同時に起こる酸化反応と還元反応とをまとめて、酸化還元反応という。

銅の電荷を考えると、還元されることによって、酸素に吸引されていた電子が銅に戻り、銅は電子を獲得している。 このような考えのもと、還元の定義を拡張して、原子が電子を獲得することを還元という。また、原子が電子を放出することを酸化という。 この化合の際の、原子の電子の授受に基づく定義で酸化と還元とを定義すると、酸素と化合しない反応の場合にも、酸化の定義を拡張できる。同様に、原子の電子の授受に基づいた定義で、水素と化合しない反応にも、還元の定義を拡張できる。 このように、普遍的に物質の酸化と還元とを判別するには、電子の授受で考える。

酸化と還元とをまとめると、以下のようになる。

酸化とは

1. 酸素を得る(化合する)こと
2. 水素を失うこと
3. 電子を失うこと

還元とは

1. 酸素を失うこと
2. 水素を得ること
3. 電子を得ること

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2Mg+O2→2MgO

(マグネシウムが酸化(酸素が化合)して酸化マグネシウムになった)
この化学反応式は以下の2つのイオン半反応式に分解することができる。

2Mg → 2Mg2++4e-
O2+ 4e- → 2O2-

酸化還元反応の化学反応式は、まず半反応式をつくり、それを足し合わせることで作る。

酸化数[編集]

イオン結合では、電子の授受の方向が判別しやすいが、いっぽう共有結合からなる化合物の化合反応では、電子の授受の方向が判別しづらい場合が多い。そこで、共有結合のような、電子の授受の方向が判別しづらい場合でも、酸化の度合いを定義できるように、次のような酸化数(oxidation number)という概念が考えられた。

  • まず、酸化数の定義では、単体の原子の酸化数を0とする。

(例) 単体の水素H2の酸化数は0である。単体の酸素O2の酸化数は0である。単体の炭素Cの酸化数は0である。単体のFeの酸化数は0である。

  • 単原子イオンの酸化数はイオンの価数とする。

(例) Na+の酸化数は+1。Cl-の酸化数は(-1)。Al3+の酸化数は+3。

  • 化合物中の、水素原子Hの酸化数は+1、酸素原子Oの酸化数は-2とする。(ただし、過酸化水素H2O2ではOの酸化数は-1とする。)
  • イオンではない化合物中の原子の酸化数の総和は0である。化合物の構成原子の酸化数が判断しづらい場合は、この規則を用いて、構成原子の酸化数を決定する場合がある。

(例) H2Oの酸化数の総和は0である。実際に総和を計算すると、水素原子の酸化数(+1)×2と、酸素原子の酸化数(-2)の和であり、確かに、酸化数の総和は (+1)×2+(-2)=0 となる。

酸化剤と還元剤[編集]

酸化還元反応で、相手の物質から電子を奪って酸化をする物質を酸化剤という。また、相手の物質に電子を与えて還元をする物質を還元剤という。

主な酸化剤と還元剤とその反応は次の表の通りである。

主な酸化剤
物質 化学式 反応
過酸化水素
塩素
濃硝酸
希硝酸
熱濃硫酸(加熱した濃硫酸)
過マンガン酸カリウム(酸性下で)
二クロム酸カリウム(酸性下で)
二酸化硫黄


これらの酸化剤・還元剤とその反応は覚えておくと良い。この際、酸化剤・還元剤が還元・酸化される前後の物質のみを覚えていればその反応が分かる。

例えば、二クロム酸カリウムが還元される反応は二クロム酸イオンが と変化することさえ覚えておけば、次のように両辺で原子の個数、電荷の和が等しいことより、その反応式が導ける。

  1. の個数は変わらない 
  2. を原子の数が一致するように加える 
  3. を電荷の和が一致するように加える 

金属と酸化還元反応[編集]

イオン化傾向[編集]

金属元素の単体を水または水溶液に入れたときの、陽イオンのなりやすさをイオン化傾向(ionization tendency)という。 例として、亜鉛Znを希塩酸HClの水溶液に入れると、亜鉛Znは溶け、また亜鉛は電子を失ってZn2+になる。

Zn + 2H+ → Zn2+ + H2

一方、銀Agを希塩酸に入れても反応は起こらない。

このように金属のイオン化傾向の大きさは、物質ごとに大きさが異なる。

今度は、銅を希塩酸の溶液に入れてみた場合を考える。この場合は、なにも反応しない。 以上の例では、銅と銀のイオン化傾向の大きさの大小は不明である。

銅と銀のイオン化傾向[編集]

硝酸銀溶液と銅の場合

そこで、銅と銀のイオン化傾向を比べるための実験例として、硝酸銀AgNO3の溶液に、銅線や銅板などの銅の固体を添加する。ここでは、銅板を添加したとしよう。すると、銅板の表面に銀が付着し、銀が析出する。いっぽう、この硝酸銀の溶液中では銅板は陽イオンとなり溶ける。溶液は、しだいに青くなるが、この青色は銅イオン溶液の色である。 以上の変化を反応式で書くと、

Cu + 2Ag+ → Cu 2+ + 2Ag

なお、この反応で生じた銀を、生じ方が樹木が伸びるように析出した銀が伸びることから銀樹(ぎんじゅ)という。

硫酸銅溶液と銀の場合

いっぽう、今度は溶液を変え、硫酸銅 H2SO4 の溶液に銀板Agをいれても、なにも析出せず、なにも変化は起きない。

これらのことから、銅は銀よりもイオン化傾向が大きいであろうことが予測できる。

亜鉛と銅のイオン化傾向[編集]

また溶液を変え、硫酸銅の水溶液に亜鉛板Znを添加すると、亜鉛の表面に銅が析出する。このことから、亜鉛Znは銅Cuよりもイオン化傾向が大きいことが予想できる。

イオン化列[編集]

さまざまな溶液や金属の組み合わせで、イオン化傾向の比較の実験を行った結果、イオン化傾向の大きさが決定された。 左から順に、イオン化傾向の大きい金属を並べると、以下のようになる。

K > Ca > Na > Mg > Al > Zn > Fe > Ni > Sn > Pb > (H2) > Cu > Hg > Ag > Pt > Au

金属を、イオン化傾向の大きさの順に並べたものを金属のイオン化列という。 水素は金属では無いが比較のため、イオン化傾列に加えられる。 金属原子は、上記の他にもあるが、高校化学では上記の金属のみのイオン化列を用いることが多い。 イオン化列の記憶のための語呂合わせとして、

「貸そうかな、まあ、あてにすな、ひどすぎる借金。」

などのような語呂合わせがある。ちなみにこの語呂合わせの場合、

「Kか そう かCa なNa、まMg あAl、あZn てFe にNi す なPb、ひH2 どCu すHg ぎAg る 借金Pt,Au。」

と対応している。

酸との反応[編集]

  • Mgと酸

Mgは希塩酸とも強く反応し、水素を生じる。 (KやCaについては、溶媒の水そのものと激しく反応するので、ここでは考察対象から外される。)

  • Al,Zn,Feと酸

Al,Zn,Feは希塩酸 HCl や希硫酸 H2SO4 とも反応し、水素を発生する。

2Al + 3H2O → Al2O3 + 3H2
Zn + 2HCl → ZnCl2 + H2
Fe + H2SO4 → FeSO4 + H2
  • Pbと酸

Pbは希酸とは反応しない。

  • Cu,Hg,Agと酸

Cu,Hg,Agは塩酸や希硫酸には溶けない。これを溶かす酸には、硝酸HNO3か、熱した濃硫酸が必要である。

3Cu + 8HNO3 → 3Cu( NO3 )2 + 2NO + 4H2O
  • Pt,Auと酸

Pt,Auは硝酸や濃硫酸では溶けない。これを溶かす酸は、王水(おうすい、ラテン:aqua regia)と呼ばれる、濃塩酸と濃硝酸の混合液を、体積比が塩酸3:硝酸1の体積割合で混合した混合酸で溶ける。

  • 不動態

Al,Fe,Niなどは濃硝酸とは表面に緻密な酸化物の被膜を作るため反応しない。このような金属の状態を不動態(アルマイト)という。

酸化還元反応の利用[編集]

電池[編集]

  • 化学基礎では電池の基本的な構造と各種電池の名称のみ取り扱う。そのため、詳しい解説は電池と電気分解を参照すること。

金属の精錬[編集]

  • 酸化物や硫化物から金属の単体を取り出すことを精錬という。こちらも化学基礎では鉄しか反応式まで扱わないので、詳しい解説は電池と電気分解を参照すること。

鉄の精錬[編集]

  • 鉄は鉄の酸化物を多く含む鉱石をコークス(炭素)を用いて還元して得られる。


関連項目[編集]

電池の化学反応