高等学校化学I/炭化水素
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この章では、有機化学のはじめに、有機化合物の基礎的な事柄を学ぶ。
目次 |
[編集] 有機化合物
炭素原子を含む化合物を有機化合物という。炭素原子を含んでいても、一酸化炭素や二酸化炭素などは有機化合物には通常含まない。有機化合物は前章までに学習した無機化合物とは大きく異なる特徴をもつ。
- 分子を構成する元素の種類はごく限られているが、化合物の種類は多い。
- 有機化合物を構成するのは炭素(C)、水素(H)、酸素(O)、窒素(N)が主であり、元素の種類は限られている。しかし、炭素原子は4つの価電子をもち、4本の「うで」により他の原子と結合するため、同じ元素でも様々な構造を作ることができる。そのために多くの化合物が存在する。
- 水にほとんど溶けないが、エーテルなどの有機溶媒によく溶ける。
- 一般に、炭素と水素による化合物は水に溶けず、有機溶媒に溶ける。しかし、酸素を含む有機化合物の中には水に溶けるものもある。
- 燃焼して水と二酸化炭素になるものが多い。
- 融点や沸点は比較的低く、化合物によっては加熱により分解して炭素と水になるものもある。
- 非電解質のものが多い。
[編集] 有機化合物の構造
有機化合物の分子は、炭素原子のつながった構造を骨格として持つ。この炭素原子の結合のしかたにより、有機化合物は2種類に分かれる。
- 飽和化合物
- 炭素原子間の結合が全て単結合だけでできているもの(例: エタンC2H6、プロパンC3H8)
- 不飽和化合物
- 炭素原子間に1ヶ所でも二重結合や三重結合を持つもの(例: エチレンC2H4)
さらに、炭素原子の骨格の形によっても2種類の分類がある。
- 鎖式
- 炭素原子が直線状、または枝分かれ状に結合しているもの(例: メタンCH4、アセチレンC2H2)
- 環式
- 炭素原子が円状に連なって結合しているもの(例: ベンゼンC6H6、シクロヘキサンC6H12)
したがって、有機化合物は大まかに、鎖式飽和化合物、鎖式不飽和化合物、環式飽和化合物、環式不飽和化合物の4つに分類することができる。特に、鎖式で飽和の炭化水素を総称してアルカン、環式で飽和の炭化水素をシクロアルカンという。また、炭素原子間の二重結合を1つもつ鎖式不飽和炭化水素をアルケン、三重結合を1つ持つ鎖式不飽和炭化水素をアルキンという。これらについては後ほど学ぶ。
[編集] 異性体
多くの有機化合物は、分子式が同じでも異なる構造をもつことがある。たとえば、分子式C4H10となる有機化合物の構造には、次の2つがある。
| ブタン | 2-メチルプロパン |
これらは互いに異なった性質を持つ。このように、分子式が同じでも構造が異なる物質を、互いに異性体であるという。分子を作る炭素原子の数が増加するにしたがって、異性体の数は激しく増加する。
[編集] 構造異性体
同じ分子式でも、原子の結合のしかたや構造が異なることによる異性体を構造異性体という。たとえば、分子式がC5H12となる炭化水素の炭素骨格は、次の3つが考えられる。
| ペンタン | 2-メチルブタン | 2,2-ジメチルペンタン |
このように炭素骨格が異なる構造異性体の他に、結合の仕方が異なる異性体も存在する。たとえば、分子式がC2H6Oとなる有機化合物は、次の2つがある。
| エタノール | ジメチルエーテル |
この2つでは、たとえば水への溶けやすさや沸点といった化学的性質が大きく異なる。これは、この2つの有機化合物の官能基と呼ばれる、性質を決める構造が異なるからである。官能基については次の章で詳しく学ぶことにする。
炭素骨格や結合の仕方が同じであっても、その結合の位置が異なる異性体も存在する。
| 1-プロパノール | 2-プロパノール |
[編集] 幾何異性体
炭素原子間の単結合は、それを軸にして原子を回転させることができる。そのため、次のような2つの構造式で示される有機化合物は、異性体とはいえない。
| どちらも同じエタノールである。 |
一方、炭素原子間の二重結合は、それを軸にして原子を回転させることができない。そのため、二重結合を含む化合物の中には、二重結合の両側での置換基の結合の仕方により、下のような2種類の異性体が存在するものがある。
| シス-2-ブテン | トランス-2-ブテン |
左側の図のように置換基が同じ側にあるものをシス型(cis-)といい、右側の図のように反対側にあるものをトランス型(trans-)という。このような二重結合による異性体を幾何異性体、あるいはシス・トランス異性体という。
上で用いたトランス-2-ブテンの分子模型の写真を次に示す。これを見ると、二重結合を軸にして原子が回転できないことが分かるだろう。
[編集] 光学異性体
炭素原子は4つの価電子をもつため、最大で4つの原子と結合することができる。構造式を書けば4本の価標が伸びるため、しばしば4本の「うで」があるといわれる。この4本のうでにそれぞれ異なる置換基が結合した炭素原子を、不斉炭素原子という。たとえば、乳酸(CH3CH(OH)COOH)には不斉炭素原子が1個存在する。
上図を見ると分かるように、*印をつけた炭素原子の周りに、それぞれ色分けされた4つの異なる置換基が結合しているのが分かる。この*印がついた炭素原子が不斉炭素原子である。
ここで上の構造式は平面上に書かれているが、現実にはこの分子は立体として存在する。不斉炭素原子を中心とした正四面体の各頂点に、結合軸が配置しているのである。すると、構造式が上のように同一であっても、立体的にはどう動かしても重ね合わせることのできないものが存在する。これらは下の図のように、互いに鏡に写した関係にある。
このように、構造式が同一であるにもかかわらず立体的には重ね合わせることのできない異性体を光学異性体や鏡像異性体とよぶ。
[編集] 元素分析
有機化合物の構造を直接調べることは容易ではないが、その組成式を実験により推定することは比較的簡単である。組成と分子量が分かれば分子式を求めることができ、そこから化合物の構造を絞り込むことができる。
はじめに、ある化合物に含まれている元素の種類を推定する方法を紹介する。基本的に有機化合物は炭素と水素を主成分としてできているが、わずかに塩素原子や窒素原子などを含んでいるものもある。ある化合物にこのような特定の元素が含まれているかを実験で調べることができる。
- 水素・炭素の検出
- 試料を完全燃焼させると、炭素は二酸化炭素に、水素は水になる。燃焼により発生する気体を石灰水に通して白濁すれば二酸化炭素が生じており、発生する液体を塩化コバルト紙につけて青色から淡赤色に変化すれば水が生じている。
- 窒素の検出
- 試料に水酸化ナトリウムを加え加熱すると、窒素はアンモニアとなる。加熱後の液体にネスラー試薬を加えて黄色~赤褐色の沈殿が生じれば、アンモニウムイオンが生じている。
- 塩素の検出
- 加熱した銅線の先に試料をつけ炎に入れる。すると、塩素は銅と反応して塩化銅(Ⅱ)となり、Cu2+による青緑色の炎色反応が見られる。
- 硫黄の検出
- 試料に水酸化ナトリウムを加え加熱すると、硫黄は硫化ナトリウムとなる。これは水溶液中で電離してS2-となっており、加熱後の液体に酢酸鉛(Ⅱ)水溶液を加えて黒色の沈殿が生じれば、硫化鉛(Ⅱ)が生じている。
もしこの化合物が炭素と水素のみ、あるいはこれらと酸素の3種類で構成されていることが分かっていれば、次の実験により化合物の組成式を推定することができる。
- 実験方法
-
- あらかじめ、2つの吸収管の質量を測定しておく。
- 試料を白金皿に載せ、乾いた酸素を吹き込みながらガスバーナーで加熱し燃焼させる。この際、酸化銅(Ⅱ)触媒も加熱する。これにより、不完全燃焼により生じたCOを酸化して完全にCO2とすることができる。
- 試料は燃焼により二酸化炭素と水を発生する。水と二酸化炭素がそれぞれ2つの吸収管に吸収される。
- 燃焼が終了したら、2つの吸収管の質量を測定する。先に求めた質量との差が、吸収した二酸化炭素や水の質量である。
- 計算
炭素、水素、酸素の化合物である試料w [mg]の燃焼により水a [mg]と二酸化炭素b [mg]が生じたとする。このとき、発生した水の水素原子と二酸化炭素の炭素原子は、ともに試料に由来するものである。したがって、水に含まれる水素原子の質量と、二酸化炭素に含まれる炭素原子の質量は、試料に含まれていた水素原子と炭素原子の質量に等しい。原子量をH=1.0、C=12、O=16とすると、分子量がH2O=18、CO2=44であるから、
- 水素原子の質量wH :
[mg] - 炭素原子の質量wC :
[mg]
となる。すると、試料の残りは酸素原子でできているので、
- 酸素原子の質量wO : wO = w − (wH + wC)[mg]
となる。なお、水分子と二酸化炭素分子に含まれている酸素原子はすべて試料由来ではなく、吹き込んだ酸素が結合している分も含まれているので、水と二酸化炭素の質量から求めることはできない。
以上より、試料中の水素、炭素、酸素の質量を求めることができたため、元素の個数の比を求めることができる。元素1個あたりの質量の比は、原子量の比と等しく
- C:H:O = 12:1.0:16
であるから、試料に含まれている各原子の個数の比は、
- C:H:O =

で求められる。組成式は化合物中の原子の個数の比を表すものであるから、この比により組成式が求められる。
分子1個に含まれている各原子の実際の個数は、組成式の整数倍となるから、分子量が求められていれば、組成式の式量から現実の原子の個数を計算し、分子式を求めることができる。
[編集] 鎖式炭化水素
炭素が直線状または枝分かれ状に結合した、炭素と水素のみからなる化合物を鎖式炭化水素という。
鎖式炭化水素が枝分かれを持たず、直線状に炭素が結合している場合、直鎖であるという。また、枝分かれを持つ構造の場合、最も長く直線状に結合した部分を主鎖といい、枝分かれの部分を側鎖という。
[編集] アルカン
| 分子式 | 名称 | 構造式 |
|---|---|---|
| CH4 | メタン | |
| C2H6 | エタン | |
| C3H8 | プロパン | |
| C4H10 | ブタン | |
| C5H12 | ペンタン | |
| C6H14 | ヘキサン |
一般に分子式がCnH2n+2と書ける炭化水素をアルカンという。アルカンは炭素間の結合がすべて単結合である。右におもなアルカンの分子式と名称、構造式を示す。
[編集] 一般的な性質
直鎖のアルカンは、炭素の個数が増えるにつれて沸点が次第に高くなる。常温では、炭素数1のメタンから炭素数4のブタンまでは気体であるが、炭素数5のペンタンや炭素数6のヘキサンは液体である。
また、アルカンの炭素数が4以上になると、そのアルカンには構造異性体が存在する。炭素原子数が多くなると異性体の数は爆発的に増加し、たとえば炭素数4のブタンは他に1種類のみ異性体を持つが、炭素数10のデカンは他に74種の異性体を持つ。さらに、炭素数20のエイコサンになると、他に36万種を超える異性体が存在する。
常温でアルカンは安定であり、薬品と化学反応を起こしにくい。しかし、光を当てるとハロゲンと反応し、アルカンの水素原子がハロゲン原子と置き換わってハロゲン化水素を生じる反応が起こる。これを置換反応という。これについては、メタンの項でさらに詳しく述べる。
その他、アルカンは次のような有機化合物一般の性質をもつ。
- 水に溶けにくい。
- エーテルなどの有機溶媒によく溶ける。
- ススをほとんど出さずに燃えて、二酸化炭素と水を生じる。
[編集] メタン
メタンは分子式CH4の、もっとも炭素数が少ない基本的なアルカンである。常温では無色の気体である。実験室では、酢酸ナトリウムと水酸化ナトリウムを混合して加熱することで得られる。
- CH3COONa + NaOH → Na2CO3 + CH4↑
メタンは光を当てるとハロゲンと置換反応を起こす。たとえば、メタンに光を当てながら塩素と反応させると、次のように1つずつ水素が塩素に置き換わる。
- CH4 + Cl2 → HCl + CH3Cl (クロロメタン)
- CH3Cl + Cl2 → HCl + CH2Cl2 (ジクロロメタン)
- CH2Cl2 + Cl2 → HCl + CHCl3 (トリクロロメタン、クロロホルム)
- CHCl3 + Cl2 → HCl + CCl4 (テトラクロロメタン、四塩化炭素)
[編集] アルケン
| 分子式 | 名称 | 構造式 |
|---|---|---|
| C2H4 | エチレン | |
| C3H6 | プロピレン |
一般に分子式がCnH2nと書ける炭化水素をアルケンという。アルケンは炭素間の結合に二重結合を1つ含む不飽和炭化水素である。右におもなアルカンの分子式と名称、構造式を示す。
[編集] 一般的な性質
アルケンには二重結合が含まれているため、ハロゲンなどと反応して二重結合の1つを切ってそこと単結合をつくる。このような反応を付加反応という。この反応はアルケンに限らず不飽和化合物で見られ、炭素間の二重結合や三重結合に対しておこる反応であるため、アルカンのような飽和炭化水素では起こらない反応である。
また、不飽和炭化水素は酸化剤と反応して酸化される。赤紫色の過マンガン酸カリウム水溶液にたとえばエチレンを通じると、エチレンは酸化され、二酸化マンガンの黒色沈殿を生じるとともに赤紫色が消える。このような反応は、メタンをはじめアルカンでは起こらない。
その他、アルケンは次のような有機化合物一般の性質をもつ。
- 水に溶けにくい。
- エーテルなどの有機溶媒によく溶ける。
- ススを少し出しながら燃えて、二酸化炭素と水を生じる。
[編集] エチレン
エチレンは分子式C2H4の、もっとも炭素数が少ない基本的なアルケンである。常温では無色の気体である。二重結合で結びついている炭素原子と、それに直接結合した原子はすべて同一平面上にあるため、右図のようにエチレン分子は全ての原子が同一平面上にある。
エチレンは、実験室ではエタノールの分子内脱水により得られる。エタノールに濃硫酸を加え、160℃程度で加熱するすると、エタノールの分子内で脱水反応がおこり、エチレンが生成する。
また、エチレンは二重結合を含むため、赤褐色の臭素水に通じると、付加反応により臭素の色が消え無色になる。
さらに、赤紫色の過マンガン酸カリウム水溶液に通じると、エチレンは酸化され、黒色の二酸化マンガンの沈殿が生じる。
エチレンは様々な薬品の合成原料であり、工業的に重要な物質である。
[編集] アルキン
| 分子式 | 名称 | 構造式 |
|---|---|---|
| C2H2 | アセチレン |
一般に分子式がCnH2n-2と書ける炭化水素をアルキンという。アルキンは炭素間の結合に三重結合を1つ含む不飽和炭化水素である。右におもなアルカンの分子式と名称、構造式を示す。
[編集] 一般的な性質
アルキンは三重結合が含まれており、アルケンと同様に不飽和炭化水素であるため、付加反応を起こしたり、酸化剤と反応して酸化される。
また、アルキンは次のような有機化合物一般の性質をもつ。
- 水に溶けにくい。
- エーテルなどの有機溶媒によく溶ける。
- ススを多く出しながら燃えて、二酸化炭素と水を生じる。
燃焼時のススの多さは不飽和度が高いほど多くなり、その時の炎も明るくなる。
[編集] アセチレン
アセチレンは分子式C2H2の、もっとも炭素数が少ない基本的なアルキンである。常温では無色の気体である。三重結合で結びついている炭素原子と、それに直接結合した原子はすべて同一直線上にあるため、右図のようにエチレン分子は全ての原子が一直線上にある。
アセチレンは工業的に用いられる。アセチレンに酸素を混ぜて点火すると、3000℃を超える高温の炎が得られる。そのため、金属の溶接や切断の際に酸素アセチレン炎が用いられる。
アセチレンは、実験室では炭化カルシウム(カーバイドとも、CaC2)を水と反応させることにより得られる。炭化カルシウムを細かな穴をあけたアルミ箔で包み、水を入れた水槽に入れると、アセチレンが発生する。アセチレンは水に溶けないため、水上置換法により捕集する。
- CaC2 + 2H2O → Ca(OH)2 + C2H2↑
赤紫色の過マンガン酸カリウム水溶液に通じると、アセチレンは酸化され、黒色の二酸化マンガンの沈殿を生じる。
また、アセチレンは三重結合を含むため、赤褐色の臭素水に通じると、付加反応により臭素の色が消え無色になる。
三重結合は付加反応を受けやすく、触媒存在下では水素とも反応してエチレン、エタンを生じる。
また、水が付加することにより、アセトアルデヒドを生じる。アセチレンははじめビニルアルコール(CH2CH(OH))となっているが、これは非常に不安定であり、アセトアルデヒド(CH3CHO)となる。
さらに、アセチレンが3分子重合することにより、ベンゼンを生じる。
[編集] 環式炭化水素
炭素が環状に結合している炭化水素を環式炭化水素という。
[編集] シクロアルカン
| 分子式 | 名称 | 構造式 |
|---|---|---|
| C4H8 | シクロブタン | |
| C5H10 | シクロペンタン | |
| C6H12 | シクロヘキサン |
一般式CnH2nで表される環式炭化水素をシクロアルカンという。炭素間の結合がすべて単結合である。右におもなシクロアルカンの分子式と名称、構造式を示す。
シクロアルカンの「シクロ(cyclo-)」とは環式であることを表す接頭辞で、環式のアルカンであることを示している。
[編集] 一般的な性質
シクロアルカンは飽和炭化水素であり、アルカンに似た性質をもつ。
- 光を当てると置換反応を起こす。
- 水に溶けにくい。
- エーテルなどの有機溶媒によく溶ける。
- ススをほとんど出さずに燃えて、二酸化炭素と水を生じる。
[編集] シクロヘキサン
シクロヘキサンは分子式C6H12のシクロアルカンである。分子の構造として次の2種類が存在する。
舟型は不安定な構造であり、通常はいす型の構造をとる。
