高等学校生物 生物I‐細胞
高等学校生物 > 生物I > 細胞
目次 |
[編集] 導入
「生物学(Biology)」は、あらゆる「生きるもの」、すなわち「『いのち』があるもの」を対象とした学問であることは先程述べたとおりである。では、「生きている」「『いのち』がある」とはまずどういうことなのであろうか。
まず、「生きている」の対義語は、「死んでいる」だろうか。そうではない。「生きて」も「死んで」もいないもの、すなわち「無生物」の存在があるからだ。
生物と無生物を分けるのは、実はとても難しいのだが、一番大まかな特徴を挙げると、
- 仲間をふやす (繁殖・生殖する) こと
- 刺激に対して反応すること
この2つだろう。この生物の基本単位が、細胞である。
[編集] 細胞の機能と構造
[編集] 細胞の発見と細胞説
細胞は、1665年、イギリスのロバート・フックによって発見された。 彼は、自作の顕微鏡を用いて、軽くて弾力のあるコルクの薄片を観察したところ、 多数の中空の構造があることを知った。それを修道院の小部屋にみたて、細胞(cell)と呼んだ。 彼が観察したのは、死んだ植物細胞の細胞壁であったが、 その後、1674年、オランダのレーウェンフックによりはじめて生きた細菌の細胞が観察された。
19世紀に入ると、細胞と生命活動の関連性が気付かれたはじめた。 まず1838年、ドイツのシュライデンが植物について、 翌1839年、ドイツのシュワンが動物について、 「生命のからだはすべて細胞からできており、細胞は生物の構造と機能の単位である」という細胞説(cell theory)を提唱した。
さらに後、ドイツのウィルヒョーの「全ての細胞は他の細胞に由来する」という考えにより、細胞説は浸透していった。
[編集] 細胞の大きさ
細胞の大きさはそのほとんどが肉眼では見ることができないほど小さい。 顕微鏡の発達によって観察できる分解能が高まり、 細胞の内部構造が徐々に明らかになっていった。
細胞は生物の種類やからだの部位によってさまざまな大きさで存在している。 以下に顕微鏡の分解能と細胞などの大きさを挙げる。 ※分解能(接近した2点を見分けることのできる最小距離)
- 肉眼で観察できるもの (分解能: ~約0.2mm ※1mm=10-3m)
- ヒトの座骨神経 (約1m)
- ニワトリの卵 (卵黄) (約30mm)
- 魚類の卵 (数mm)
- 光学顕微鏡で観察できるもの (分解能: ~約0.2μm ※1μm=10-6m)
- ヒトの卵細胞 (約140μm)
- スギの花粉 (約30μm)
- ヒトの肝細胞 (約20μm)
- ヒトの赤血球 (約7.5μm)
- 大腸菌 (約3μm)
- 電子顕微鏡で観察できるもの (分解能: ~約0.2nm ※1nm=10-9m)
- インフルエンザウイルス (約100nm)
- タンパク質分子 (約1~10nm)
マイクロ(μ) 1μm=1,000分の1mm=1,000,000(100万)分の1m ナノ (n) 1nm=1,000分の1μm=1,000,000,000(10億)分の1m
[編集] 細胞の基本構造
細胞の見た目や機能はさまざまに異なるが、基本的な構造は同じである。 細胞は核(nucleus)と細胞質(cytoplasm)、それを囲む細胞膜(cell membrane)からなる。 また、核と細胞質を合わせて原形質とも呼ぶ。 細胞質には、さまざまな機能と構造をもつ小さな器官があり、これを核とともに細胞小器官(organelle)と呼ぶ。細胞小器官どうしの間は、水・タンパク質などで満たされており、これを細胞質基質(cytoplasmic matrix)と呼ぶ。
[編集] 細胞小器官
核は、DNAという物質とタンパク質からなる染色体(chromosome)、 そのまわりを満たす核液(nuclear sap)、その中に1~数個の核小体(nucleolus)を含み、 それらを核孔と呼ばれる多数の孔が開いた、二重の薄い膜でできた核膜(nuclear membrane)が囲んでいる。 基本的に、1つの細胞は1つの核をもつが、ヒトの赤血球のように核をもたない細胞もあり、 またヒトの骨格筋の筋細胞のように1つの細胞が複数の核をもつものもある。 核は細胞の生存や増殖に必要なものであって、赤血球のように核を失った細胞は長く行き続けることはできない。
細菌類やラン藻類の細胞は、DNAだけからなる染色体はもっているが、それを包む核膜をもっていない。 このような細胞を原核細胞と呼ぶ。 これに対して、染色体が核膜に包まれている細胞を真核細胞と呼ぶ。 原核細胞は、真核細胞よりも小さく内部構造も単純である。
葉緑体(chloroplast)は光のエネルギーを利用して水と二酸化炭素から炭水化物を合成する光合成を行う。 外膜と内膜の2重膜をもち、2重膜に包まれた空間を満たす液体をストロマと呼ぶ。 2重膜に包まれた空間にはチラコイドと呼ばれる袋状の構造体があり、 チラコイドが積み重なってグラナと呼ばれるまとまりを作っている。 さらに一部の細長く延びたチラコイドが複数のグラナ間を結んでいる。
ミトコンドリア(mitochondria)は、酸素を利用して有機物を分解しエネルギーを得る呼吸を行う。 形は球形または円筒形の構造体で、 外側にある外膜と内側にあるひだ状の内膜との2重膜をもつ。 内膜がひだ状になった部分をクリステ、内膜に囲まれた空間を満たす液体をマトリクスと呼ぶ。
ゴルジ体(golgi body)は酵素やホルモンなどの分泌に関与するほか、細胞内で利用されるタンパク質の修飾を行う。 扁平な袋状の一重膜の層が重なった構造をしている。
中心体(centriole)は主に動物細胞にみられ、べん毛や繊毛を形成したり、細胞分裂の際の紡錘体形成の起点となる。 微小管と呼ばれる管状の構造体が3つ集まったものが、9組環状に並んで中心小体を作り、 その中心小体が2つL字直交して中心体を作る。
液胞(vacuole)は主に植物細胞にみられ、物質の貯蔵や浸透圧の調節を行う。 一重の液胞膜で包まれ、内部を細胞液が満たしている。 一部の植物細胞はアントシアンと呼ばれる赤・青・紫色の色素を含む。
[編集] 細胞質基質
オオカナダモの葉の細胞を観察すると、 細胞質基質の中を顆粒が流れるように動いている。 これを原形質流動と呼ぶ。 原形質流動は生きている細胞でのみ見られる。
[編集] 細胞膜
細胞膜は細胞への物質の出入りの調節を行う。 リン脂質とタンパク質で構成される典型的な生体膜であり、物質によって通しやすさが異なる選択的透過性をもつ。スクロース溶液などに対しては半透性 (※「細胞への物質の出入り」を参照) に近い性質を示す。
[編集] 細胞壁
細胞壁(cell wall)は植物細胞に見られ、細胞膜の外側で細胞を守り、形を保持する働きを持つ。 セルロースやペクチンを主成分する全透性 (※「細胞への物質の出入り」を参照) の構造である。
[編集] 酵素
特定の化学反応を促進し、自身は反応の前後で変化しない物質を触媒という。 生物の細胞内や細胞外で触媒として作用し、生物現象を維持している物質を酵素と呼ぶ。 例えば、過酸化水素水に二酸化マンガンを加えると、二酸化マンガンが触媒として作用し、水と酸素が発生するが、 同様に、傷口に薬用の過酸化水素水をつけると、細胞内に含まれるカタラーゼと呼ばれる酵素が触媒として作用し、水と酸素が発生する。
細胞外で働く酵素もある。 体外から摂取したデンプンやタンパク質は、そのままでは大きすぎて小腸の細胞に吸収できないため、 各消化器官から分泌される消化酵素によって、吸収しやすくなるように分解される。 デンプンは、唾液に含まれるアミラーゼによってマルトースに分解される。 タンパク質は、胃液に含まれるペプシンによってペプトンに、すい臓から分泌されるトリプシンによってさらに小さなアミノ酸に分解される。
[編集] 細胞への物質の出入り
台所で野菜を刻んで塩をかけると、水が出てきて野菜がしんなりする。また、ナメクジに塩をかけると縮んでゆくという話を聞いたり、実際に見たこともあるだろう。実は、この二つは同じ現象である。
一定以下の大きさの分子のみを透過させる性質を半透性と呼ぶ。 また、半透性を示す膜を半透膜と呼ぶ。 それに対して、分子の大小によらず全て透過させる性質を全透性と呼ぶ。
半透膜をはさんで濃度の低い溶液と濃度の高い溶液があるとき、溶媒(たとえば水)は、半透膜を通って濃度の低い方から高い方へ移動する。この現象を浸透と呼ぶ。 浸透の際、濃度の低い溶液から濃度の高い溶液へ溶媒を移動させるように働く圧力を浸透圧と呼ぶ。
細胞を溶液に浸したとき、細胞への水の出入りが均衡し、細胞の体積が変化しないならば、その溶液を等張液と呼ぶ。 それに対し、細胞から水が出ていき、細胞の体積が減少するような溶液を高張液と呼び、 逆に、細胞へ水が入っていき、細胞の体積が増加するような溶液を低張液と呼ぶ。
[編集] 動物細胞の浸透
細胞膜は半透膜に近い性質を持っている。
- 動物細胞を、等張液に浸した場合……細胞への水の出入りは均衡する。等張液には、生理食塩水やリンガー液などがあり、細胞や組織をしばらく保存することができる。
- 動物細胞を、高張液に浸した場合……細胞から水は出ていき、細胞は縮む。縮みすぎると細胞は機能を失う。
- 動物細胞を、低張液に浸した場合……細胞へ水が入っていき、細胞はふくらむ。破裂する場合もあり、これを溶血という。
[編集] 植物細胞の浸透
植物細胞では細胞膜のまわりを全透性の細胞壁が囲んでいる。
- 植物細胞を、等張液に浸した場合……細胞への水の出入りは均衡する。
- 植物細胞を、高張液に浸した場合……細胞から水は出ていき、細胞は縮む。細胞が縮むと細胞膜が細胞壁から分離し、これを原形質分離と呼ぶ。原形質分離を起こした細胞を低張液に浸すと、分離が元に戻り、これを原形質復帰と呼ぶ。
- 植物細胞を、低張液に浸した場合……細胞へ水が入っていき、細胞はふくらむが、細胞壁があるため細胞のふくらみが抑えられる。
[編集] 選択的透過性
細胞膜は、特定の物質を選択的に透過させている。このような性質を選択的透過性と呼ぶ。 選択的透過性には、濃度勾配に従って拡散により物質を透過させる受動輸送と、 濃度勾配に逆らってエネルギーを消費し物質を透過させる能動輸送とがある。
[編集] 細胞の増殖
[編集] 体細胞分裂
多細胞生物(※「単細胞生物と多細胞生物」を参照)は多数の細胞でできている。 これらの細胞は元は1つの細胞であり、細胞が分裂することによって増殖し、また構造を維持している。 この分裂を体細胞分裂と呼ぶ。 分裂する前の細胞を母細胞、分裂によって新しく生じた細胞を娘細胞と呼ぶ。
体細胞分裂では核が2つに分裂する核分裂が起こる。 体細胞分裂の核分裂は染色体の数が核分裂の前後で変わらない同数分裂である。 また、核分裂の終わりには細胞質が2つに分かれる細胞質分裂が起こる。
核分裂が終わってから次の核分裂がはじまるまでの時期を間期と呼ぶ。 核分裂が行われる時期を分裂期と呼ぶ。 分裂期は、その段階により、さらに、前期・中期・後期・終期に分けられる。
- 間期
細胞分裂の準備が行われる。 DNAやタンパク質を合成し、染色体を複製する(複製された染色体は離れてしまわないように、つながれている)。 染色体は核内に分散している。
- 分裂期-前期
分散していた染色体が細長いひも状に集まり、 核膜と核小体が消失する。 両極から紡錘糸が伸びて紡錘体ができはじめる。 このとき、動物細胞では、中心体が両極へ移動し、星状体となり、その星状体から紡錘糸が伸びる。 やがて、染色体は太く短い棒状になり、裂け目(縦裂)が生じる。 紡錘糸は染色体のくびれた部分(動原体)に付着する。
- 分裂期-中期
紡錘体が完成し、すべての染色体(の動原体)が細胞の赤道面に並ぶ。
- 分裂期-後期
染色体が、縦裂面で2つに分かれ、紡錘糸に引かれるように(実際には引っ張られるわけではない)両極に移動する。
- 分裂期-終期
集まっていた染色体が次第に分散していき、 核膜と核小体が再び出現する。 また、この頃に細胞質分裂もはじまり、 植物細胞では、ゴルジ体から細胞板が形成され、細胞を二分する。 動物細胞では、赤道面で細胞膜がくびれ、細胞を二分する。
[編集] 分化
特定の機能や形態に分かれる前の細胞を、未分化の細胞と呼ぶ。 未分化の細胞は、からだの部位によって特定の機能や形態を持つようになり、これを分化と呼ぶ。
[編集] 生物体の構造
[編集] 単細胞生物と多細胞生物
アメーバ、ミドリムシ、ゾウリムシなど、個体が単一の細胞からできている生物は単細胞生物と呼ばれる。
エリベンモウチュウ、クンショウモ、オオヒゲマワリなど、単細胞生物があたかも1つの個体であるように集まった集合体は細胞群体と呼ばれる。オオヒゲマワリは細胞群体を形成したあと、分化して1つの個体のようになる。
単細胞生物に対して、機能や形態の異なる多くの細胞からなる生物は多細胞生物と呼ばれる。多細胞生物において、藻類や腔腸動物は、種子植物や脊椎動物に比べると簡単な構造を持っている。
[編集] 組織
分化した細胞はそれぞれ不規則に混ざっているのではなく、 同じ形態や機能をもつ細胞が規則的に集まっており、これを組織と呼ぶ。 また、いくつかの種類の組織が特定の機能を果たすために集まっており、これを器官と呼ぶ。 さらにこれらの器官がいくつも集まって1つの生物、すなわち個体を形成している。
[編集] 植物の組織
植物の組織は、分裂組織と永久組織とに分けることができる。 分裂組織には、茎頂部や根端部でいろいろな細胞への分化や伸長成長を行う頂端分裂組織、維管束の内部で導管や師管などへの分化や肥大成長を行う形成層、がある。 永久組織は表皮系、維管束系、基本組織系の3つの組織系からなる。
表皮系は一層の表皮細胞からなり、細胞壁の表面をクチクラと呼ばれる固い層が覆っており、内部の保護や水の蒸発を防いでいる。 また、葉や茎にみられる気孔は、2つの孔辺細胞が対になってできており、蒸散を行っている。
維管束系は木部と師部からなる。 木部には導管または仮導管があり、根で吸収された水分や養分の通り道となっている。 師部には師管があり、葉で光合成された炭水化物の通り道となっている。
表皮系と維管束系以外はすべて基本組織系と呼ばれる。 葉では細長い細胞が密集した柵状組織や、隙間があいて気体の通り道となっている海綿状組織などがみられる。 茎や根では中心部で養分の貯蔵を行う髄や、周辺部で光合成を行ったり厚角・厚壁となり植物を支える皮層などがみられる。
[編集] 動物の組織
動物の組織は上皮組織、結合組織、筋組織、神経組織がある。
上皮組織は体の外面、体表面や消化管の内面などを平面状におおっている。各細胞は細胞接着により結合され、体内の組織を保護している。毛・つめ・羽毛なども上皮組織である。上皮組織には皮膚や小腸の内壁などがあげられる。
結合組織は体内の組織や器官の間を埋めて、互いに結合したり支持したりする。骨や腱なども結合組織である。骨は炭酸カルシウムからできており、体内の組織や器官を支持している。腱は骨と筋肉をつなぐ働きをする。
筋組織は筋肉を形作る繊維状の組織である。筋肉は伸びたり縮んだりする。心臓は心筋と呼ばれる横紋筋で構成され、内臓は内臓筋と呼ばれる平滑筋で構成される。
神経組織はニューロンで構成されている。ニューロンは細胞体、樹状突起、軸索からなる。