コンピューティング
序章
[編集]本ハンドブックは、現代のコンピューティングに関する包括的な知識を提供することを目的としています。基礎理論から実践的な応用まで、体系的な解説を心がけました。
コンピュータの基礎アーキテクチャ
[編集]プロセッサアーキテクチャ
[編集]現代のプロセッサは、命令セットアーキテクチャ(ISA)を基盤として設計されています。RISCとCISCという二つの主要な設計思想があり、それぞれ特徴的な利点を持ちます。RISCはシンプルな命令セットにより高速な実行を実現し、CISCは複雑な命令を単一のオペレーションとして処理することで効率を追求します。
現代のプロセッサ設計では、RISCとCISCの区別は必ずしも明確ではなく、両者の利点を組み合わせたハイブリッドアーキテクチャが主流です。これにより、高速性と効率性を両立させた高性能なプロセッサが実現されています。
プロセッサの性能指標 指標 説明 典型的な単位 クロック周波数 処理の基本速度 GHz IPC サイクルあたりの命令数 命令/サイクル キャッシュサイズ 各レベルのキャッシュ容量 KB/MB スレッド数 同時実行可能なスレッド スレッド数
メモリシステム
[編集]メモリ階層は、速度と容量のトレードオフを最適化するために設計されています。キャッシュメモリから始まり、メインメモリ、ストレージデバイスへと続く階層構造により、効率的なデータアクセスを実現しています。
メモリアクセス時間の比較 メモリ種別 アクセス時間 容量範囲 L1キャッシュ 1-3サイクル 32KB-64KB L2キャッシュ 10-20サイクル 256KB-1MB L3キャッシュ 40-60サイクル 2MB-64MB メインメモリ 200-300サイクル 4GB-1TB
AS/400のように、メモリとストレージを単一のアドレス空間として扱うアーキテクチャもあります。
ソフトウェアシステム
[編集]オペレーティングシステム
[編集]オペレーティングシステムは、ハードウェアリソースを管理し、アプリケーションの実行環境を提供します。プロセス管理、メモリ管理、ファイルシステム、デバイスドライバなど、多岐にわたる機能を担っています。
カーネルの主要サブシステム サブシステム 主要機能 関連リソース プロセス管理 スケジューリング、同期 CPU時間 メモリ管理 仮想メモリ、ページング RAM ファイルシステム ストレージ管理、キャッシュ ディスク ネットワーク プロトコル実装、バッファリング ネットワークインターフェース
プログラミング言語とコンパイラ
[編集]プログラミング言語は、人間の思考とコンピュータの動作を橋渡しする重要な役割を果たします。コンパイラは、高級言語で書かれたプログラムを機械語に変換する複雑な処理を行います。
コンパイル処理の主要フェーズ フェーズ 入力 出力 主な処理 字句解析 ソースコード トークン列 文字列分解 構文解析 トークン列 構文木 文法チェック 意味解析 構文木 注釈付き構文木 型チェック 最適化 中間表現 最適化済み中間表現 コード最適化 コード生成 最適化済み中間表現 機械語 ターゲットコード生成
インタプリタ版のプログラミング言語処理系
[編集]コンパイラが高級言語で書かれたプログラムを機械語に変換するのに対し、インタプリタはソースコードを直接実行する方式を採用します。インタプリタは、プログラムを逐次的に解釈し、実行するため、コンパイルの手間が省けますが、実行速度は一般的にコンパイラ方式よりも遅くなります。
インタプリタ処理の主要フェーズ フェーズ 入力 出力 主な処理 字句解析 ソースコード トークン列 文字列をトークンに分解 構文解析 トークン列 構文木 トークン列を構文木に変換 意味解析 構文木 注釈付き構文木 型チェックや意味的な整合性を確認 実行 注釈付き構文木 実行結果 構文木を逐次的に解釈・実行
ネットワークとセキュリティ
[編集]コンピュータネットワーク
[編集]現代のネットワークは、TCP/IPプロトコルスタックを中心に構築されています。各層が特定の役割を担い、全体として信頼性の高い通信を実現します。
プロトコルスタックの概要 層 主要プロトコル 役割 アプリケーション層 HTTP, FTP, SMTP サービス提供 トランスポート層 TCP, UDP エンドツーエンド通信 インターネット層 IP, ICMP ルーティング ネットワーク層 Ethernet, Wi-Fi 物理通信
情報セキュリティ
[編集]情報セキュリティは、機密性、完全性、可用性という三つの要素を中心に構築されています。暗号化技術、認証システム、アクセス制御などの多層的な防御により、システムの安全性を確保します。
暗号化アルゴリズムの比較 アルゴリズム 種類 鍵長 用途 AES 共通鍵 128-256ビット データ暗号化 RSA 公開鍵 2048-4096ビット 鍵交換、署名 ECC 公開鍵 256-384ビット モバイル暗号化
データ構造とアルゴリズム
[編集]データ構造とアルゴリズムは、効率的なプログラム設計の基盤となります。適切なデータ構造の選択と効率的なアルゴリズムの実装により、プログラムの性能を最適化することができます。
アルゴリズムの性能比較 アルゴリズム 平均時間計算量 空間計算量 用途 クイックソート O(n log n) O(log n) 汎用ソート ハッシュテーブル O(1) O(n) 高速検索 二分探索木 O(log n) O(n) 順序付きデータ ダイクストラ法 O(E log V) O(V) 最短経路探索
結び
[編集]コンピューティングの世界は急速に進化を続けています。本ハンドブックで解説した基本原理を理解することで、新しい技術や概念の習得がより容易になることを願っています。