古代ギリシア語/アルファベットと読み方
| 目次 | 2. 規則動詞の現在形とεἰμί動詞 >> |
アルファベットの歴史
[編集]古代ギリシア語の表記には、フェニキア文字を起源とする24文字のアルファベットが用いられます。地域や時代によって文字の形状や発音にばらつきが存在していましたが、紀元前403年、執政官エウクレイデスの在任中にアテナイが標準として採用したイオニア式アルファベットが広く普及し[1]、以後の古代ギリシア語の表記体系の基礎となりました。
ただし、現代のテキストにおいて古代ギリシア語を表記する際は、大文字と小文字を区別し、アクセント記号などの補助記号を付加した形式が一般的に使用されます。これらはヘレニズム期以降やビザンティン時代に読解の補助として整えられた書式であり、古代の金石文などに直接見られるものではありません。本教科書でも、学習上の利便性からこの現代的な表記法を採用して解説を進めます。発音については、16世紀のデジデリウス・エラスムスによって提唱された再建発音(エラスムス式発音)を基準とします。
文字と発音の一覧
[編集]古代ギリシア語を構成する24文字の形状と、その基本的な発音を示します。(発音は国際音声記号を用いて表記)。現代のアルファベットと形状が似ているが、発音が違うものは太字で示しています。
| 大文字 | 小文字 | 古代の名称 | 読み | IPA | 発音の目安 |
|---|---|---|---|---|---|
| Α | α | ἄλφα | アルファ | [a], [aː] | ア、アー |
| Β | β | βῆτα | ベータ | [b] | バ行 |
| Γ | γ | γάμμα | ガンマ | [g], [ŋ] | ガ行 |
| Δ | δ | δέλτα | デルタ | [d] | ダ行 |
| Ε | ε | ἔ ψιλόν | エプシロン | [e] | 短いエ |
| Ζ | ζ | ζῆτα | ゼータ | [zd] または [dz] | ズダ、ヅァ |
| Η | η | ἦτα | エータ | [ɛː] | 口を広く開けたエー |
| Θ | θ | θῆτα | テータ | [tʰ] | 息を強く吐きながらタ行 |
| Ι | ι | ἰῶτα | イオタ | [i], [iː] | イ、イー |
| Κ | κ | κάππα | カッパ | [k] | カ行 |
| Λ | λ | λάβδα[† 1] | ラブダ | [l] | 舌先を上の歯茎につけるラ行 |
| Μ | μ | μῦ | ミュー | [m] | マ行 |
| Ν | ν | νῦ | ニュー | [n] | ナ行 |
| Ξ | ξ | ξῖ | クシー | [ks] | クス |
| Ο | ο | ὂ μικρόν | オミクロン | [o] | 短いオ |
| Π | π | πεῖ | ピー | [p] | パ行 |
| Ρ | ρ | ῥῶ | ロー | [r] | 巻き舌のラ行 |
| Σ | σ, ς | σίγμα | シグマ | [s] | サ行 |
| Τ | τ | ταῦ | タウ | [t] | タ行 |
| Υ | υ | ὒ ψιλόν | ユプシロン | [y], [yː] | 口を丸めてイ |
| Φ | φ | φῖ | フィー | [pʰ] | 息を強く吐きながらパ行 |
| Χ | χ | χῖ | キー | [kʰ] | 息を強く吐きながらカ行 |
| Ψ | ψ | ψῖ | プシー | [ps] | プス |
| Ω | ω | ὦ μέγα | オメガ | [ɔː] | 口を広く開けたオー |
発音上の細かな規則
[編集]文字を実際の単語の中で発音する際には、いくつかの特別な規則が適用されます。特定の文字の組み合わせによって発音が変化します。
- 最も注意が必要な文字の一つがガンマ(γ)です。通常は濁ったガ行の音を持ちますが、喉の奥で作られる音(軟口蓋音)であるγ、κ、ξ、χの直前に置かれた場合には軟口蓋鼻音 [ŋ] に変化します。日本語の「案外(あんがい)」における「ん」に近い発音となります。具体例として、「伝令」や「使者」を意味する単語はἄγγελοςと綴られますが、これは「アッゲロス」ではなく「アンゲロス」と読まれます。
- シグマには小文字が2種類存在します。単語の語頭や語中では標準的な形状のσを用いますが、語末に位置する場合にのみςという専用の形に切り替わります。たとえば、「基礎」を意味するβάσιςという単語では、語中のシグマと語末のシグマが明確に書き分けられています。文字の位置によって形が変わる規則は、古代ギリシア語の筆写の伝統の中で定着しました[2]。
- 母音の発音では、はっきりと長短を区別してください。エプシロン(ε)とオミクロン(ο)は常に短い母音を表し、エータ(η)とオメガ(ω)は常に長い母音を表します。残りのアルファ(α)、イオタ(ι)、ユプシロン(υ)は、単語によって長母音になることも短母音になることもあります。これらの長短の扱いは、後の章で学ぶアクセントの規則や詩の韻律において極めて重要な役割を果たします。
- 有気音を示すテータ(θ)、フィー(φ)、キー(χ)は、それぞれ「タ」「パ」「カ」と発音すると同時に強い息の漏れを伴う音です。日本語話者にとっては直感的でない発音ですが、帯気音として明確に意識して発声する必要があります。
クイズ
[編集]EXERCISE • アルファベットと読み方
問1. Γ γ の発音が、[g] ではなく鼻音の [ŋ] となるのはどのような場合ですか?
問2. 母音字の組み合わせの中で、発音の長短によって異なる文字が割り当てられているペアはどれとどれですか?
問3. 古代ギリシア語で「言葉」や「論理」を意味する単語は λόγος と綴られます。この単語の最後に使われている文字の名称は何ですか?
答え • アルファベットと読み方
脚注
[編集]- ^ 後代にはλάμβδα(ラムダ)と呼ばれるようになりました。
出典
[編集]- ^ https://www.theacropolismuseum.gr/en/node/1484
- ^ https://dcc.dickinson.edu/grammar/age/trouble-sigma
| 目次 | 2. 規則動詞の現在形とεἰμί動詞 >> |