「薬理学/生理活性物質と消化器作用薬」の版間の差分

出典: フリー教科書『ウィキブックス(Wikibooks)』
削除された内容 追加された内容
136 行 136 行
また、シメチジンはチトクロムP-450系(CYP)酵素を阻害するため、これらの酵素に関わっている他の薬剤との薬物相互作用に注意する必要がある。
また、シメチジンはチトクロムP-450系(CYP)酵素を阻害するため、これらの酵素に関わっている他の薬剤との薬物相互作用に注意する必要がある。


== 胃腸薬 ==
== 消化性潰瘍 ==
胃や十二指腸の潰瘍のことを'''消化性潰瘍'''という。
潰瘍を治療するには、大まかに次の方針のいずれかになる。


健康な人間では、胃は、胃粘液による防御が、胃酸からの攻撃を防いでいるので、潰瘍などの障害が起きない。

胃潰瘍の原因は、
胃粘液による防御よりも、胃酸による攻撃の強さが優っているのが原因である。

なので、胃潰瘍を治療するには、胃酸による攻撃を弱めさせるか、胃粘液による防御を強めればいい。

また、胃を攻撃するのは酸だけでなく、ヘリコバクターピロリなどの感染症も胃を攻撃する。

なので、消化性潰瘍を治療するには、大まかに次の方針のいずれかになる。
:胃酸を減らすか、
:胃酸を減らすか、
:または、保護粘液を増やすか、
:または、保護粘液を増やすか、
:pHを中性に近づける、
:pHを中性に近づける、
:細菌・ウイルス性の場合は除菌、
:細菌・ウイルス性の場合は除菌、
など。
などの治療法が有効である




プロスタグランジンE2により、保護粘液が分泌されるので、プロスタグランジン製剤の投与で治療できる。(※ また、逆にアスピリンなどの抗プロスタグランジ薬は、胃潰瘍を悪化させる副作用があるのが普通。)
=== プロスタグランジン製剤 ===
プロスタグランジンE<sub>2</sub>により、保護粘液が分泌されるので、プロスタグランジン製剤の投与で治療できる。(※ また、逆にアスピリンなどの抗プロスタグランジ薬は、胃潰瘍を悪化させる副作用があるのが普通。)


また、ヒスタミン阻害により、胃酸の分泌が減るので、抗ヒスタミン薬が治療になる。
また、ヒスタミン阻害により、胃酸の分泌が減るので、抗ヒスタミン薬が治療になる。




=== 制酸薬 ===
胃酸のPHそのものを中和する薬剤のことを制酸薬という。たとえば、炭酸水素ナトリウムが制酸薬である。
胃酸のPHそのものを直接に中和する薬剤のことを制酸薬という。たとえば、炭酸水素ナトリウムが制酸薬である。


ただし、PHを中和するといっても、制酸薬はせいぜいPH5くらいにまで胃液のpHを上昇させる程度である<ref>『NEW薬理学』、P489</ref>。 ※ 正常な胃酸のpHは 1.0~1.5 程度。
下記の化学反応式により、胃酸の主成分である塩酸 HCl が中和される。
:※ 未記述.


炭酸水素ナトリウムの場合、下記の化学反応式により、胃酸の主成分である塩酸 HCl が中和される。
:HCl + NaHCO<sub>3</sub> → NaCl + CO<sub>2</sub> + H<sub>2</sub>O


炭酸水素ナトリウムは速効性である。

制酸薬には、炭酸水素ナトリウムのほか、酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、ケイ酸アルミニウム<ref>『パートナー薬理学』、P321</ref><ref>『はじめの一歩の薬理学』、P162</ref>などがある。

ただし連用すると、胃内のpHが低下している状態で酸分泌の持続する現象('''酸反跳''')が起き<ref>『NEW薬理学』、P489</ref><ref>『標準薬理学』、P538</ref>、休薬後に起きやすい<ref>『NEW薬理学』、P489</ref>。


=== H.ピロリ除菌約 ===
胃潰瘍の多くは、細菌のヘリコバクターピロリ菌による感染の結果であるという学説もある。
胃潰瘍の多くは、細菌のヘリコバクターピロリ菌による感染の結果であるという学説もある。
例外もあるが、ある実験では、胃洗浄によるH.ピロリ菌の除菌を行ったところ、
例外もあるが、ある実験では、胃洗浄によるH.ピロリ菌の除菌を行ったところ、
165 行 188 行


ただし例外もあり、けっしてすべての胃潰瘍がピロリ菌によるものではない事も、事実である。
ただし例外もあり、けっしてすべての胃潰瘍がピロリ菌によるものではない事も、事実である。

初期には、ビスマス製剤、メトロニダゾール、'''アモキシシリン'''の3剤併用が行われたが、副作用が強かった<ref>『NEW薬理学』、P492</ref>。

現代では、'''アモキシシリン'''、'''クラリスロマイシン'''に加えて、'''プロトンポンプ阻害薬'''を併用する'''3剤併用療法'''が一般的である。


== 脚注 ==
== 脚注 ==

2020年11月8日 (日) 12:17時点における版

エイコサノイド

概要

エイコサノイドとは、炭素数20個の不飽和脂肪酸の総称であり、 普通、エイコサノイドとはアラキドン酸を原料として体内合成されるプロスタグランジン類やロイコトリエンなどの生理活性物質、およびその前後の炭素数20の物質のことをいう。

反応経路の名称として、アラキドン酸を原料としてプロスタグランジンやロイコトリエンに至るまでの反応のことをアラキドン酸カスケードという。

この反応経路では、まずホスホリパーゼA2という酵素により細胞質からアラキドン酸が切り出される。

そして、アラキドン酸にシクロオキシゲナーゼCOX)という酵素が作用すると中間体のPGG2(プロスタグランジンG2)やPGH2(プロスタグランジンH2)などになり、さらに別の諸々の酵素により最終的にプロスタグランジン類になる。

一方、アラキドン酸にリパキシゲナーゼが作用すれば最終的にロイコトリエンになる。


プロスタグランジンを製剤化したプロスタグランジン製剤(主にPGE1[1])が一部では用いられているが、しか通常ではエイコサイノドは薬剤としては用いない場合が多い。なぜなら薬剤としては副作用が多く、薬剤としての利用は比較的に限られる[2]

※ エイコサノイドの臨床応用の具体例について、『標準薬理学』に詳しい記述あり。

なお、シクロオキシゲナーゼ(COX)には、少なくともCOX-1とCOX-2の2種類がある事が分かっている。


なお、エイコサノイドのほかにセロトニンやヒスタミンなどの(ホルモン以外の)生理活性物質を合わせて、まとめてオータコイドといい。

プロスタグランジン類の生理作用

エイコサノイドは全体として、炎症に作用する。エイコサイノイド阻害薬が抗炎症薬として作用する事の多いことから、エイコサイノドが炎症に作用する事は明らかである[3]

プロスタグランジンには、炎症のほか、下記の作用がある。


子宮筋収縮

PGFやPGE2に子宮筋収縮の作用がある。

プロスタグランジン発見のキッカケになったのは、この子宮筋収縮作用である。そもそも「プロスタグラジン」の命名の語源は前立腺(前立腺を英語で プロステイト・グランド という)。精子中の成分が子宮筋を収縮させ、その原因物質がプロスタグラジンである。

子宮平滑筋を収縮させている[4]


平滑筋

PGFが気管支平滑筋を収縮させる[5]。一方、PGE2やPGI2は気管支平滑筋を弛緩させる[6]


血小板や血管

TXA2 は血小板凝集作用を持つ。一方、PGI2プロスタサイクリン)は血小板凝集抑制作用を持つ。また、PGI2は血管拡張作用を持つ。


中枢神経

PGE2が体温調節中枢に存在するEP受容体[7][8]に作用して、体温の設定温度(セットポイント[9])が上がる。

そのほか、PGE2は各種の神経終末に作用して働きを調節している[10][11]

※ 詳細は『標準薬理学』にある。『NEW薬理学』は概要のみ。


胃・十二指腸粘膜

PGE2とPGI2は、胃酸分泌の抑制。さらに、胃・十二指腸の粘膜の増殖刺激を行う。

上述のように全体的には、胃・十二指腸の防御因子として機能している[12][13]


プロスタグランジン関連の薬剤


トロンポキサン関連の薬剤

オザグレルはトロンポキサンチン(TXA2)合成酵素阻害薬であり、血小板凝集抑制の作用がある。

※ トロンポキサンチンA2(TXA2)に血小板凝集の作用があり、そのトロンポキサンチンを合成阻害するので、結果的に血小板凝集抑制である。

セラトロダストおよびラマトロバンはTXA2受容体拮抗薬である。

ラマトロバンはアレルギー性鼻炎に使われる[14]。セラトロダストは喘息に使われる[15]。副作用として血液凝固抑制作用があるので、注意。


サイトカイン阻害薬

スプラタストは、アレルギー性鼻炎(花粉症[16])、アトピー性皮膚炎などに使われる。 TH2サイトカインのIL-4やIL-5の酸性を阻害して、IgE産生を低下させる[17]

IL-4とはインターロイキン4のこと。同様にIL-5とはインターロイキン5のこと。


抗ヒスタミン薬

H1受容体拮抗薬・遮断薬

抗ヒスタミン薬)ヒスタミンH1受容体拮抗薬)は第一世代と第二世代に分けられる。第一世代のほうが「古典的」[18]

現在の鼻炎薬として用いられるのは、主に第二世代薬である[19][20]


第一世代は、さらに分類され、

エタノールアミン系、 (代表例: ジフェンヒドラミン、ジフェニルピラリン)
プロピルアミン系、
ビペラジン系、(代表例: ホモクロルシクリジン
ビペリジン系、(※ ビペラジンとは異なる.)

などの系統別に分類される。

皮膚炎などを治すのに投与される場合もある。

エタノールアミン系の一種であるジフェンヒドアミンは、眠気や倦怠感などの鎮静作用、制吐作用をもよおすので、乗り物酔い止め薬(医学用語的には「動揺病」の薬)や不眠症の薬にも使われる。

※ 「鎮静」と言うと大層に聞こえそうだが、要するに、ここでは眠気や倦怠感などのこと。

副作用として眠気などの中枢作用があるので、服用後は自動車の運転や機械操作を避ける必要がある[21][22]


第二世代は、作用にもとづき「鎮静性」と「非鎮静性」に分類される場合もある。

第一世代薬の中枢抑制作用は、主に、血液脳関門の突破によるものであるので、なので製薬開発では化学修飾で親水性を高めれば(脂溶性が低下するので)血液脳関門を突破しなくなる、と考えられ、非鎮静性の第二世代薬がいくつも開発された[23]

非鎮静性の第二世代薬としては、エピナスチン、フェキソフェジン、ベポタスチン、オロパタジン、セバスチン、セチリジンなどがあり、これらは眠気が少ない[24]


'

20世紀、かつてテルフェナジンという薬がヒスタミン受容体遮断薬・拮抗薬として販売されていたが、しかし心臓への副作用が強く、薬物相互作用や肝障害時に[25]不整脈が多発したので、1997年[26]には厚生省(当時)の副作用情報などで注意が呼びかけられた。 また、現在では販売中止になっている[27]

テルフェナジンにはQT延長作用がある[28]。(「QT延長」とは心電図の用語)



H2受容体拮抗薬・遮断薬

※ いわゆる「H2ブロッカーのこと」。[29] 

1972年、グラクソ・スミソクライン社(当時はスミスクライン・フレンチラボラトリーズ社)の[30]Blackにより、当時のH1拮抗薬では拮抗されない、胃酸分泌などの作用を抑える新薬としてブリマミドを開発し、H2受容体の存在を証明した[31]

これを改良したシメチジンが1976年に認可され、市場に普及した[32]

その後、ラニチジン、ファモチジン、ロキサチジン、ラフチジン、など、さまざまなH2受容体拮抗薬が登場して普及している。

そして、シメチジンを初めとするH2受容体拮抗薬は、胃腸潰瘍の画期的な治療薬となった[33][34]

これらのH2受容体拮抗薬の薬理作用は、胃酸分泌を抑えるので、胃・十二指腸潰瘍など消化器系の潰瘍の治療薬として、よく使われる[35][36]。そのほか、ゾリンジャー・エリソン Zollinger-Ellison 症候群、逆流性食道炎の治療薬として使われる[37][38]


また、上述の経緯から分かるように、当然だが胃壁にはH2受容体が存在する事がすでに分かっている[39][40][41]

なお、シメチジンは現在は一般用医薬品(OTC薬[42])として、処方箋なしで入手できる[43]

※ OTCとは、処方箋なしで買える薬の呼称は、日本では「一般用医薬品」という呼び名が定着しているが、国際的には、over he counter (カウンター越し)の略で OTC という。

ただし副作用として、シメチジンには抗アンドロゲン作用があるため特有の副作用があり、プロラクチン分泌などを起こし、男性では女性化乳房、女性では乳漏症などの副作用がある。

また、シメチジンはチトクロムP-450系(CYP)酵素を阻害するため、これらの酵素に関わっている他の薬剤との薬物相互作用に注意する必要がある。

消化性潰瘍

胃や十二指腸の潰瘍のことを消化性潰瘍という。


健康な人間では、胃は、胃粘液による防御が、胃酸からの攻撃を防いでいるので、潰瘍などの障害が起きない。

胃潰瘍の原因は、 胃粘液による防御よりも、胃酸による攻撃の強さが優っているのが原因である。

なので、胃潰瘍を治療するには、胃酸による攻撃を弱めさせるか、胃粘液による防御を強めればいい。

また、胃を攻撃するのは酸だけでなく、ヘリコバクターピロリなどの感染症も胃を攻撃する。

なので、消化性潰瘍を治療するには、大まかに次の方針のいずれかになる。

胃酸を減らすか、
または、保護粘液を増やすか、
pHを中性に近づける、
細菌・ウイルス性の場合は除菌、

などの治療法が有効である。


プロスタグランジン製剤

プロスタグランジンE2により、保護粘液が分泌されるので、プロスタグランジン製剤の投与で治療できる。(※ また、逆にアスピリンなどの抗プロスタグランジ薬は、胃潰瘍を悪化させる副作用があるのが普通。)

また、ヒスタミン阻害により、胃酸の分泌が減るので、抗ヒスタミン薬が治療になる。


制酸薬

胃酸のPHそのものを直接に中和する薬剤のことを制酸薬という。たとえば、炭酸水素ナトリウムが制酸薬である。

ただし、PHを中和するといっても、制酸薬はせいぜいPH5くらいにまで胃液のpHを上昇させる程度である[44]。 ※ 正常な胃酸のpHは 1.0~1.5 程度。

炭酸水素ナトリウムの場合、下記の化学反応式により、胃酸の主成分である塩酸 HCl が中和される。

HCl + NaHCO3 → NaCl + CO2 + H2O

炭酸水素ナトリウムは速効性である。

制酸薬には、炭酸水素ナトリウムのほか、酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、ケイ酸アルミニウム[45][46]などがある。

ただし連用すると、胃内のpHが低下している状態で酸分泌の持続する現象(酸反跳)が起き[47][48]、休薬後に起きやすい[49]


H.ピロリ除菌約

胃潰瘍の多くは、細菌のヘリコバクターピロリ菌による感染の結果であるという学説もある。 例外もあるが、ある実験では、胃洗浄によるH.ピロリ菌の除菌を行ったところ、 もとの患者数の0~20%[50]に減少との劇的に胃潰瘍が改善したという報告もある。

H.ピロリ菌の除菌には、ペニシリン系抗生物質が使われる。

なので、抗生物質は、胃潰瘍の治療薬でもある。

ただし例外もあり、けっしてすべての胃潰瘍がピロリ菌によるものではない事も、事実である。

初期には、ビスマス製剤、メトロニダゾール、アモキシシリンの3剤併用が行われたが、副作用が強かった[51]

現代では、アモキシシリンクラリスロマイシンに加えて、プロトンポンプ阻害薬を併用する3剤併用療法が一般的である。

脚注

  1. ^ 『シンプル薬理学』、P200
  2. ^ 『NEW薬理学』、P179
  3. ^ 『NEW薬理学』、P178
  4. ^ 『標準薬理学』、P568
  5. ^ 『パートナー薬理学』、P375
  6. ^ 『標準薬理学』、P568
  7. ^ 『NEW薬理学』、P179
  8. ^ 『パートナー薬理学』、P375
  9. ^ 『標準薬理学』、P568
  10. ^ 『NEW薬理学』、P179
  11. ^ 『標準薬理学』、P568
  12. ^ 『NEW薬理学』、P179
  13. ^ 『パートナー薬理学』、P375
  14. ^ 『パートナー薬理学』、P392
  15. ^ 『パートナー薬理学』、P392
  16. ^ 『標準薬理学』、P594
  17. ^ 『パートナー薬理学』、P392
  18. ^ 『標準薬理学』、P594
  19. ^ 『NEW薬理学』、P139
  20. ^ 『パートナー薬理学』、P390
  21. ^ 『NEW薬理学』、P137
  22. ^ 『標準薬理学』、P595
  23. ^ 『NEW薬理学』、P139
  24. ^ 『標準薬理学』、P594
  25. ^ 『NEW薬理学』、P139
  26. ^ 『標準薬理学』、P595
  27. ^ 『NEW薬理学』、P139
  28. ^ 『NEW薬理学』、P139
  29. ^ 『薬効力』、オーム社
  30. ^ 『薬効力』、オーム社
  31. ^ 『NEW薬理学』、P140
  32. ^ 『NEW薬理学』、P140
  33. ^ 『パートナー薬理学』、P325
  34. ^ 『はじめの一歩の薬理学』、P160
  35. ^ 『NEW薬理学』、P140
  36. ^ 『はじめの一歩の薬理学』、P160
  37. ^ 『NEW薬理学』、P140
  38. ^ 『シンプル薬理学』、P53
  39. ^ 小山岩雄『超入門 新 薬理学』、照林社、2006年5月10日 第1版 第1刷発行、P140
  40. ^ 『NEW薬理学』、P134
  41. ^ 『パートナー薬理学』、P310
  42. ^ 『はじめの一歩の薬理学』、P160
  43. ^ 『パートナー薬理学』、P325
  44. ^ 『NEW薬理学』、P489
  45. ^ 『パートナー薬理学』、P321
  46. ^ 『はじめの一歩の薬理学』、P162
  47. ^ 『NEW薬理学』、P489
  48. ^ 『標準薬理学』、P538
  49. ^ 『NEW薬理学』、P489
  50. ^ 『NEW薬理学』、P491
  51. ^ 『NEW薬理学』、P492