「竹取物語かぐや姫のおひたち」の版間の差分

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2007年2月1日 (木) 04:38時点における版

かぐや姫のおひたち

¹今は昔、竹取の翁(おきな)といふものあり²けり。野山にまじりて竹をとり³つつ、万(よろづ)のことにつかひけり。名⁴をば⁵讃岐造麿(さぬきのみやつこまろ)と⁶なむいひける。その竹の中に、本光る竹一筋(すぢ)ありけり。怪しがりて寄りて見るに、筒の中光りたり。それを見れば、三寸ばかりなる人いと⁷美しうてゐたり。翁いふやう、
「われ朝ごと夕ごとに見る竹の中におはする⁸にて知りぬ。子になり給ふべき人⁹なめり。」
とて、手にうち入れて家に持ちて来ぬ。妻の嫗(おうな)にあづけて養はす。美しきこと限りなし。いと幼けれ¹⁰ば、籠(こ)に入れて養ふ。

今となっては昔のことだが、竹取の翁というものがいた。野山に分け入って竹をとっては、様々なことに使っていた。名をさぬきのみやつこまろと言った。その竹の中に、根元が光るものが一本あった。不思議がって近づいて見ると、竹の筒の中が光っていた。それを見ると、三寸ほどの人がたいそう美しく座っていた。翁が言うことは、
「私が毎朝毎晩見ている竹の中にいらっしゃるために分かった。子供になってくださる人であるようだ。」
と、手に入れて家に持って来た。妻の嫗にあずけて育てさせる。美しいこと限りがない。たいそう幼いので、籠に入れて育てる。

今は昔
物語のはじめの決まり文句。この場合は現代で言うところの「むかしむかし」にあたる部分で、読者をこの世界に引き込ませる言葉の一つ。
けり
過去の助動詞。助動詞「き」との違いの一つは、「き」が直接経験し記憶にある過去の意味をあらわすのに対し、「けり」は人から伝え聞いたことの回想をあらわすことである。
つつ
反復・継続の意味の接続助詞。ここでは、「竹をとる」という動作と「よろづのことにつかふ」という動作が同時に行われていることをあらわす。
をば
格助詞「を」に係助詞「は」が付き、「は」が連濁を起こしたもの。「を」を強調する。係助詞「は」の結びで文末の「けり」が連体形の「ける」になっている。
讃岐造麿（さぬきのみやつこまろ）
竹取の翁の名前である。讃岐氏は朝廷に竹細工を献上していたとされる。
なむ
係助詞。係り結びで文末「ける」は連体形で結ばれている。
美しう
形容詞の連用形「―しく」「―く」が助詞「く」「しく」や他の用言に続くときはウ音便になる。
にて
理由や原因をあらわす接続助詞。
なめり
断定の助動詞「なり」の連体形「なる」に推量の助動詞「めり」が付いた「なるめり」の撥音便形「なんめり」の「ん」が表記されないもの。古くは「ん」の文字は用いられなかった。
ば
順接の接続助詞。ここでは、前の語「幼けれ」は已然形であるので確定条件である。

竹取の翁(おきな)この子を見つけて後に、竹をとるに、節をへだてて¹よごとに金ある竹を見つくること重なりぬ。 ²かくて翁やうやう豊かになりゆく。この児(ちご)養ふ³ほどに、すくすくと大きになりまさる。三月(みつき)ばかりになる程に、⁴よき程なる人になりぬれば、⁵髪上げなどさうして、髪上げさせ⁶裳着(もぎ)す。帳(ちやう)の内よりも出(いだ)さず、いつき養ふ。この児のかたち清(けう)らなること⁷世になく、家(や)の内は暗き処なく光満ちたり。翁心地あしく苦しき時も、この子を見れば苦しき事も止みぬ。腹だたしきことも慰みけり。

竹取の翁はこの子を見つけて以後に、竹を取ると、節を隔てて空洞（よ）ごとに金が入っている竹を見つけることが重なった。このようにして、翁はだんだん豊かになっていく。この子を育てると、すくすくと大きくなっていく。三か月ほどたった頃に、成人したので、髪上げなどをあれこれ手配して、髪上げし裳着を行った。帳台の中からも出さず、心をこめて大切に育てる。この子の顔だちの美しいことは世に類がなく、家の中は暗いところなど無いほど光に満ち溢れていた。翁は気分が悪く苦しいときでも、この子を見ると苦しいこともなくなった。腹立たしいことも気が晴れた。

よ
竹の節と節の間の空洞のこと。
かくて
このようにして、の意。
ほどに
理由や原因をあらわす。
よき程
かぐや姫は、三か月で十二、三歳のように育ち、成人した。
髪上げ
平安時代、女性は成人（十二、三歳ごろ）すると、髪を結い上げた。これを「髪上げ」という。
裳着
「裳」は女性が腰から下にまとう衣。女性が成人すると、髪上げと同時に、裳着の式が行われた。
世になし
世の中に比類がない、の意。

翁(おきな)、竹を取ること¹久しくなりぬ。 ²勢猛(いきほひまう)の者になりにけり。この子いと大きになりぬれば、名をば三室戸斎部秋田(みむろとのいむべのあきた)を呼びてつけさす。秋田、³なよ竹のかぐや姫とつけつ。このほど三日うちあげ⁴遊ぶ。万(よろづ)の遊びをぞしける。男女(をとこをうな)きらはず呼び集へて、いとかしこく遊ぶ。

翁は竹を取ることが長くなった。財力の大きい者になった。この子の背丈がたいそう大きくなったので、三室戸斎部秋田を呼んで名前をつけさせた。秋田は、なよ竹のかぐや姫、と名づけた。この三日間は酒盛りをして楽しむ。管弦や歌舞などありとあらゆる遊びをした。男も女も分け隔てなく呼び集めて、たいそう盛大に楽しんだ。

久しく
時間の経過が長い、の意。
勢猛
大きな財力や権力がある様。
なよ竹
ほそくしなやかな竹。しなやかな女性に対しても用いる。
遊ぶ
歌舞や管弦をして楽しむ。

つまどひ >>

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 |valign=top style="width:50%;background:#fcc;text-indent:1em"|
 今となっては昔のことだが、竹取の翁というものがいた。
-野や山に分け入って竹をとっては、様々なことに使っていた。
+野山に分け入って竹をとっては、様々なことに使っていた。
-名前をさぬきのみやつこまろと言った。
+名をさぬきのみやつこまろと言った。
-その竹の中に根元が光っているものが一本あった。
+その竹の中に、根元が光るものが一本あった。
-不思議がって近づいてみると、竹の筒の中が光っていた。
+不思議がって近づいて見ると、竹の筒の中が光っていた。
-それを見ると、三寸ほどの人がたいそうかわいらしく座っていた。
+それを見ると、三寸ほどの人がたいそう美しく座っていた。
-翁が言うことには、<br/>
+翁が言うことは、<br/>
 「私が毎朝毎晩見ている竹の中にいらっしゃるために分かった。子供になってくださる人であるようだ。」<br/>
-と、手に入れて家に持って帰った。
+と、手に入れて家に持って来た。
 妻の嫗にあずけて育てさせる。
-美しいことはなはだしい。
+美しいこと限りがない。
 たいそう幼いので、籠に入れて育てる。
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 #: 物語のはじめの決まり文句。この場合は現代で言うところの「むかしむかし」にあたる部分で、読者をこの世界に引き込ませる言葉の一つ。
 # <span id="1_2">[[wikt:けり|けり]]
-#: 過去の助動詞。助動詞「[[wikt:き|き]]」との違いは、「き」が直接経験した過去の意味をあらわすのに対し、「けり」は人から伝え聞いたことの回想をあらわすことである。
+#: 過去の助動詞。助動詞「[[wikt:き|き]]」との違いの一つは、「き」が直接経験し記憶にある過去の意味をあらわすのに対し、「けり」は人から伝え聞いたことの回想をあらわすことである。
 # <span id="1_3">[[wikt:つつ|つつ]]
 #: 反復・継続の意味の接続助詞。ここでは、「竹をとる」という動作と「よろづのことにつかふ」という動作が同時に行われていることをあらわす。
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 腹だたしきことも慰みけり。
 |valign=top style="width:50%;background:#fcc;text-indent:1em"|
-竹取の翁はこの子を見つけて以後、竹を取ると、節を隔てて空洞ごとに黄金が入っている竹を見つけることが何度もあった。
+竹取の翁はこの子を見つけて以後に、竹を取ると、節を隔てて空洞（よ）ごとに金が入っている竹を見つけることが重なった。
 このようにして、翁はだんだん豊かになっていく。
 この子を育てると、すくすくと大きくなっていく。
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 |}
 # <span id="3_1">[[wikt:ひさし|久しく]]
-#: 長い時間が経過する、の意。
+#: 時間の経過が長い、の意。
 # <span id="3_2">勢猛
 #: 大きな財力や権力がある様。
 # <span id="3_3">なよ竹
-#: 竹が柔らかくしなる様子を形容する語。しなやかな女性に対しても用いる。
+#: ほそくしなやかな竹。しなやかな女性に対しても用いる。
 # <span id="3_4">[[wikt:あそぶ|遊ぶ]]
-#: 現代語とは意味が違い、歌舞や管弦をして楽しむ、の意。
+#: 歌舞や管弦をして楽しむ。
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