ここでは、代数学(特に線型代数・数値線型代数)の範疇で扱われる行列に就て扱う。例えば、微分積分学に登場する函数行列(ヤコビ行列)やグラフ理論に登場する隣接行列、量子力学に登場する密度行列などは扱わない。
成分が全て零である行列を零行列といった。同様に、成分が全て正/負/非負/非正である行列をそれぞれ正/負/非負/非正 行列という。なお、成分の総和が1である非負行列は確率論で多く扱われ、確率行列(マルコフ行列)と呼ばれる。
定値行列の系譜(正定値行列・負定値行列・半正定値行列・半不定値行列・不定行列)とは全く異なる概念である。
以下が成り立つ。
この
を支配的固有値(プロン=フロベニウス固有値)と呼ぶ。
支配的固有値は非負ベクトルを
として
で見つけられることが知られている。この手法を冪乗法という。
冪乗法を用いてこの定理を証明しよう。
- 以下、ベクトルは全て正ベクトル(1列の正行列)とする。
とする※。
と置くと
が正行列より

- 各成分に就て


- よって

と置くと同様の議論により

- 故に
は上に有界な有界集合なので実数の公理により
が存在するが、
より

- 上限の定義より充分大きな
で
なので

- ここで
は上に有界なのでボルツァーノ・ワイエルシュトラスの定理より収束部分列を持つ。
- その極限値を
と置けば
より

- 更に
と仮定すると
が正行列より

として


- これは
に反するので背理法より

- よって
は
の固有値の一つである。
の代数学的重複度が2以上と仮定する。
- このとき、
に対応するジョルダンブロックの少なくとも一つは次数が2以上である。
- 則ちある基底に関して

を1のみを成分に持つ上三角冪零行列とすると、

- ここで
より

- でなければならない。
- これは
がジョルダンブロックの最下段にしか成分を持たないことを意味するが、
は正ベクトルなのでそのような配置を作ることができない。
- 従って
は代数学的重複度が1則ち単純固有値であり、幾何学的重複度は代数学的重複度以下の値をとるので固有空間の次元は1である。
を
の(最大でない)固有値とする。
- 固有値の定義
を成分で書き下すと

- 両辺の絶対値をとって

- 和の絶対値に関する三角不等式より

を
の各成分の絶対値を並べたベクトルとすれば

- 故に
であり、
より

- よって
は
のスペクトル半径である。
- 以上より、この
は
そのものである。
※正ベクトル
に就て、
という順序関係を
と定義する。
非負行列の場合は「単純固有値」という条件が外れ、固有ベクトルも非負ベクトル以外を取り得る。
転置行列の複素共軛(複素共軛行列の転置)を随伴行列という。実行列では転置行列そのものである。随伴行列をとる操作を共軛転置(エルミート転置)という。
の随伴行列を
若しくは
と書く。
つまり、
複素ベクトルの内積は、随伴を用いて表示される。
具体的には、

転置行列の性質から、以下が直ちに成り立つ。
- 再帰則(対合性):

- 共軛線型性:

- 反準同型性:

更に、正方随伴行列には以下が成り立つ。





(正則行列のとき)
を満たす正方行列をエルミート行列という。
定義式の両辺転置すると

また、定義式の両辺複素共軛をとると

故に、エルミート行列の定義を
としても良い。
実対称行列は全てエルミート行列である。また、
よりエルミート行列の対角成分は実数でなければならない。
演習問題
以下を示せ。
- 1.任意の正方行列に就て、自身の随伴行列との和・積はともにエルミート行列である。
- 2. エルミート行列の行列式・固有値はともに実数である。
を満たす正方行列を歪/反 エルミート行列という。
実交代行列は全て歪エルミート行列である。また、
より歪エルミート行列の対角成分は純虚数若しくは0でなければならない。
任意の正方行列に対して随伴行列との差は

より歪エルミート行列である。
また、
- 随伴行列の性質より

がエルミート行列より
なので

- 固有値の性質より

- よって歪エルミート行列の固有値は純虚数若しくは0である。
任意の正方行列は

と、エルミート行列と歪エルミート行列の和に分解することができる。このように分解することで、先ほどの「エルミート行列の固有値は実数、歪エルミート行列の固有値は純虚数若しくは0」という性質を用いることができ、固有値を用いる場面(二次形式など)で解析が容易になる。
演習問題
歪エルミート行列を
としたとき、
がエルミート行列であることを示せ。
解答
より

拠って示された。
を満たす行列
をユニタリ行列という。
実直交行列は全てユニタリ行列である。
ユニタリ行列の最重要性質として、ユニタリ行列による一次変換(ユニタリ変換)はノルム・内積を保つ(則ちユニタリ変換は等長変換且つ合同変換)ことが挙げられる。詳しくはユニタリ変換の章で扱うが、以下に証明する。
- (等長性)
- 一般に
を表現行列とする一次変換での図形の拡大率は
であるので、
を示せばよい。
より

//
- (内積保存)
- 随伴行列の性質:
より
//
演習問題
以下を示せ。
- 1.
はユニタリ行列
- 2. ユニタリ行列同士の積はユニタリ行列
- 3. ユニタリ行列の逆行列・随伴行列共にユニタリ行列
- 4. ユニタリ行列の固有値は複素数平面で単位円上に並ぶ
複素ベクトルの内積は随伴を用いて表示されたが、同様にして
は
の列ベクトルと
の行ベクトルの複素内積を並べた行列とわかる。
ここで、
のとき、則ち
をグラム行列という。
グラム行列はエルミート行列であり、実行列の場合は対称行列となる。
また、グラム行列は半正定値行列であり、行列式も非負である。
- (エルミート性)

- よりエルミート行列であり、実行列ならば対称行列である。
- (半正定値性)
- 随伴行列の性質:
より

- (行列式が非負)

正規行列
射影行列・直交射影行列
斜交行列・パスカル行列
ヒルベルト行列
M-行列・L-行列・P-行列・スティルチェス行列
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