コンテンツにスキップ

線形代数学/行列式

出典: フリー教科書『ウィキブックス(Wikibooks)』
線型代数学
← 線型方程式の解 行列式 余因子行列→

置換

[編集]

置換

[編集]

1,2,⋯,nを互いに重複しないように、1,2,⋯,nにうつす操作をn次の置換という。

置換σによってiがうつされる行き先をσ(i)と表す。

置換σは、次のように、上にもとの元を、下の行き先を並べて表現される。

σ=(12⋯nσ(1)σ(2)⋯σ(n))

これは、行列と同じ表現だが、行列ではないことに注意する。

例えば、 1を2に、2を3に、3を1にうつす置換σは、3次の置換であり、σ(1)=2,σ(2)=3,σ(3)=1となり、この置換は、 σ=(123231)と表せる。

単位置換

[編集]

e=(12⋯n12⋯n)のように、すべての整数が変化しない置換のことを単位置換という。

逆置換

[編集]

ある置換σに対し、σ−1=(σ(1)σ(2)⋯σ(n)12⋯n)を逆置換という。

置換全体の集合

[編集]

n次の置換全体の集合をSnと表す。 例えば、S3={(123123),(123132),(123321),(123213),(123312),(123231)}である。

n次の置換全体の集合の個数がn!であることは自明であろう。

置換の合成

[編集]

置換σ,τ∈Snに対し、置換の合成をστ=(12⋯nσ(1)σ(2)⋯σ(n))(12⋯nτ(1)τ(2)⋯τ(n))=(12⋯nσ(τ(1))σ(τ(2))⋯σ(τ(n)))と定める。
これは、1≤i≤nに対し、στ(i)=σ(τ(i))と表記することもできる。 こうすると、記述量が少なくなり、便利だろう。

置換の性質

[編集]

置換について、以下の性質が成り立つ。

  1. (στ)ρ=σ(τρ)
  2. σe=eσ=σ
  3. σσ−1=σ−1σ=e
証明
  1. 1≤i≤nに対し、
    ((στ)ρ)(i)=(στ)(ρ(i))=σ(τ(ρ(i)))

    (σ(τρ))(i)=(σ)(τρ(i))=σ(τ(ρ(i)))

    よって、(στ)ρ=σ(τρ)である。


  2. 1≤i≤nに対し、
    (σe)(i)=(σ(e(i)))=σ(i)

    eσ=(e(σ(i)))=σ(i)

    よってσe=eσ=σである。


  3. 1≤i≤nに対し、
    (σσ−1)(i)=(σ(σ−1(i)))=i

    (σ−1σ)(i)=(σ−1(σ(i)))=i

    よってσσ−1=σ−1σ=eである。

互換

[編集]

σ=(12⋯i⋯j⋯n12⋯j⋯i⋯n)のように、iとjだけを交換する置換を互換という。

任意の置換は互換の積で表すことができ、互換の個数の偶奇は互換のとり方によらず、同じであるという性質がある。 置換を互換の積で表したとき、互換の個数が偶数個の置換を偶置換、奇数個の置換を奇置換という。

証明

符号

[編集]

sgn⁡(σ)={1σが偶置換のとき−1σが奇置換のとき  を σ の符号という。

行列式

[編集]

行列 A=(a11⋯a1n⋮⋱⋮an1⋯ann) に対して、

|A|=det⁡A=∑σ∈Snsgn⁡(σ)a1,σ(1)⋯an,σ(n) をAの行列式という。

※ ∑σ∈Sn とは、σ に Sn の元をすべて代入して足し合わせろという意味である。
たとえば、A={1,2,3} のとき、∑i∈A と ∑i=13 は同じ意味である。


2次正方行列A=(abcd)の行列式を求めてみよう。
行列式の定義に当てはめると、|A|=∑σ∈S2sgn⁡(σ)a1,σ(1)an,σ(2) である。
S2={(1212),(1221)}, sgn⁡(1212)=1, sgn⁡(1221)=−1
であるから行列式は ad−bc である。


3次の行列式では、

det⁡A=|abcdefghi|=aei+bfg+cdh−afh−bdi−ceg

となる。

サラスの方法: 左三列の行列式は、赤線で結んだ斜め三項の積の和から青線で結んだ逆斜め三項の積の和を引いたものになる。

これは、「Sarrus(サラス)の展開」または「Sarrusの方法」、「たすきがけの法」と呼ぶもので、右図のように斜めに数を乗じたものの和と考えることができる。 例えば、第1項 aei は、1行1列の a から、3行3列の i までを右下に向かって順に乗じたものに等しい。また、次の bfg は、1行2列の b から始めて、右下に向かって順に乗じたものに等しい。2行3列の f の次は端を突き抜けて、3行1列の g に至る。第3項も同様である。 4から6番目の項は、右下に向かってではなく左下(右図では右上)に向かって乗じて、符号を反転したものである。


4×4 以降の行列ではこのような簡単な計算法は得られない。 項の数は n×n 行列で n! 個であるため、大きな行列について計算機を使わずに行列式を計算するのは困難である。

行列式の基本性質

[編集]

行列式について成り立つ性質のうち、以下の4つは基本的である。

  1. |a1,1⋯a1,i+a1′,i⋯a1,n⋮⋱⋮⋱⋮an,1⋯an,i+an′,i⋯an,n|=|a1,1⋯a1,i⋯a1,n⋮⋱⋮⋱⋮an,1⋯an,i⋯an,n|+|a1,1⋯a1′,i⋯a1,n⋮⋱⋮⋱⋮an,1⋯an′,i⋯an,n|
  2. |a1,1⋯ca1,i⋯a1,n⋮⋱⋮⋱⋮an,1⋯can,i⋯an,n|=c|a1,1⋯a1,i⋯a1,n⋮⋱⋮⋱⋮an,1⋯an,i⋯an,n|
  3. |a1,1⋯a1,i⋯a1,j⋯a1,n⋮⋱⋮⋱⋮⋱⋮an,1⋯an,i⋯an,j⋯an,n|=−|a1,1⋯a1,j⋯a1,i⋯a1,n⋮⋱⋮⋱⋮⋱⋮an,1⋯an,j⋯an,i⋯an,n|
  4. 単位行列の行列式は1。

1. と 2. の性質を合わせて「列についての多重線型性」という。3. の性質は「列についての交代性」という。一般に任意の正方行列 A について|A|=|tA| であるから、これらの性質は行についても成り立つ。

証明
  1. ∑σ∈Snsgn⁡(σ)a1,σ(1)⋯(ai,σ(i)+ai′,σ(i))⋯an,σ(n)=∑σ∈Sn(sgn⁡(σ)a1,σ(1)⋯ai,σ(i)⋯an,σ(n)+sgn⁡(σ)a1,σ(1)⋯ai′,σ(i)⋯an,σ(n))
    =∑σ∈Snsgn⁡(σ)a1,σ(1)⋯ai,σ(i)⋯an,σ(n)+∑σ∈Snsgn⁡(σ)a1,σ(1)⋯ai′,σ(i)⋯an,σ(n). よって証明された。
  2. ∑σ∈Snsgn⁡(σ)a1,σ(1)⋯cai,σ(i)⋯an,σ(n)=c∑σ∈Snsgn⁡(σ)a1,σ(1)⋯ai,σ(i)⋯an,σ(n). よって証明された。
  3. n次の置換 σ に i,j の互換を合成した置換を τ とする。このとき σ(i)=τ(j), σ(j)=τ(i), σ(k)=τ(k) (k≠i,j) である。もし σ が奇置換であれば τ は偶置換、σ が偶置換であれば τ は奇置換であるから sgn⁡(τ)=−sgn⁡(σ) である。ゆえに
    ∑σ∈Snsgn⁡(σ)a1,σ(1)⋯ai,σ(i)⋯aj,σ(j)⋯an,σ(n)=∑τ∈Sn(−sgn⁡(τ))a1,τ(1)⋯ai,τ(j)⋯aj,τ(i)⋯an,τ(n)
    =−∑τ∈Snsgn⁡(τ)a1,τ(1)⋯ai,τ(i)⋯aj,τ(j)⋯an,τ(n). よって証明された。
  4. 行列式を計算すると、対角成分の積の項が1、それ以外の項は0になることから直ちに得られる。
(転置についての不変性) 任意の置換とその逆置換について符号は等しいから、τ=σ−1 として以下のように示される。
|tA|=∑σ∈Snsgn⁡(σ)aσ(1),1⋯aσ(n),n=∑σ∈Snsgn⁡(σ−1)a1,σ−1(1)⋯an,σ−1(n)=∑τ∈Snsgn⁡(τ)a1,τ(1)⋯an,τ(n)=|A|.

任意の正方行列に対してある実数を対応付ける作用のうち、この4つの性質を全て満たすのは行列式だけであり、この性質を定義として行列式を導出できる。


線型代数学
← 線型方程式の解 行列式 余因子行列→