高等学校化学II/合成樹脂

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高分子とは[編集]

分子量が10000程度以上の化合物や分子を高分子化合物あるいは高分子という。 常温では固体で、成形が容易な合成高分子を合成樹脂(synthetic resin)あるいはプラスチック(plastic)という。 高分子化合物を作る際、たとえばポリエチレンはエチレンを合成させて作られるが、 このエチレンのように合成の単位になった分子1個のことを単量体(monomer、たんりょうたい)といい、いっぽうポリエチレンなどのように単量体のエチレンが連結したものを多量体(polymer、たりょうたい)という。 単量体を「モノマー」と英語読みで呼ぶ場合も多い。多量体も「ポリマー」と英語読みで読む場合も多い。

単量体どうしが、結合することを重合(じゅうごう、polymerization)という。 重合の際、たとえば二重結合のあるエチレンから、二重結合が単結合となることで重合するポリエチレンのように、二重結合が単結合となることで重合する結合を付加重合(ふか じゅうごう)という。

重合の際に、化合物によっては、たとえば単量体に結合していた水素などが欠落し、副生成物として水分子が出来る場合がある。副生成物を生じて重合することを縮合(しゅくごう)という。特に、重合で水分子が、単量体由来の分子を原料として、水が副生成物として生じる場合の重合反応を脱水縮合(だっすい しゅくごう)という。

なお、単量体が2個、結合して重合したものを2量体(dimer、にりょうたい)といい、単量体が3個結合したものは3量体という。 2量体の数値の「2」や、3量体の「3」など、分子中の単量体の個数を重合度(じゅうごうど)という。 いっぱんに多量体といった場合、特に重合度に決まりはないが、重合度が数百程度以上の物を指すことが多い。

高分子化合物の特徴[編集]

高分子化合物の分子量の分布

高分子化合物を人工的に合成した場合、反応の重合度にばらつきが生じるので、分子量のグラフは右図のようになる。

ある高分子化合物について、その高分子化合物の分子量を平均したものを平均分子量(へいきん ぶんしりょう、mean molcular weight)という。

高分子の分子量の測定は、溶液の浸透圧や粘土を測定することで分子量を求められる。浸透圧を求めるには、いわゆる浸透圧法で、液中の高さを普通に測定すればよい。

なお、凝固点降下法や沸点上昇法では、分子量が大きすぎるために濃度が小さくなるためだろうか、凝固点や沸点が変化せず、よって分子量を求められない。

しかし、浸透圧法では液中の高さが変化するという実験事実があり(分子量が大きくて濃度が小さくなるにもかかわらず)、よって浸透圧法で高分子化合物の平均分子量を求められる。


高分子の非晶質と結晶

高分子化合物の固体には、結晶構造の部分と非結晶構造の部分とが混ざっているが、大部分は非結晶部分である。

結晶構造の部分が多いと強度が高くなり、硬くなり、また、透明度が増す。 非結晶の部分が多いと、やわらかくなり、不透明になる。

高分子化合物は、一定の融点をもたない。


高分子化合物を熱していくと、明確な融点が分からないまま、だんだん軟化していき、しだいに液体になっていく。このように、高分子化合物において、軟化しはじめる温度を軟化点(なんかてん、softening point)という。

高分子化合物が一定の融点をもたない理由として、非晶質の部分がわりあい多かったり、あるいは、一定の分子量をもたず分子量が分布している事などが理由であるというのが定説である。(※ 数研出版のチャート式化学などでも、このような見解。なお検定教科書では、どちらか一方のみを紹介してたりする。)


なお、高分子化合物であっても、タンパク質などのように天然に由来するものは、分子量のばらつきが少ない。

付加重合[編集]

付加重合による樹脂の合成反応

付加重合によって合成される樹脂について、その単量体はエチレン C=C やビニル基 CH2=CH のように二重結合を持ってる。

付加重合で合成せれた分子の構造には直鎖状の構造を持つものが多い。


熱可塑性樹脂と熱硬化性樹脂[編集]

高温に熱すると柔らかくなり、冷やすと固くなる樹脂を熱可塑性樹脂(ねつかそせい じゅし、thermoplastic resin)という。

合成繊維に用いられる高分子は、ほとんどが熱可塑性である。

いっぽう、熱可塑性樹脂に対して、別の種類の樹脂として、熱硬化性樹脂という樹脂がある。熱硬化性樹脂は、加熱しても軟化せず、加熱によって固くなり、また、冷やしても軟化しない樹脂である。

フェノール樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂が、熱硬化性樹脂である。

一般に、熱可塑性樹脂は付加反応で合成される場合が多く、いっぽうで熱硬化性樹脂は縮合反応で合成される場合が多いが、例外もある。

たとえばPET樹脂(ポリエチレンテレフタラート)は縮合反応で合成されるが、熱可塑性である。

熱可塑性樹脂[編集]

ポリエチレン[編集]

ポリエチレンは最も簡単な構造をした高分子である。
製造法によっては、ポリエチレンは分岐構造をもつ。
略称はPE 。

エチレンを付加重合するとポリエチレン(polyetylene)ができる。 ポリエチレンは熱可塑性樹脂である。

ポリエチレンには、重合反応の条件により、高密度ポリエチレン(HDPE)と低密度ポリエチレン(LDPE)がある。

低密度ポリエチレン[編集]

低密度ポリエチレンの分子構造図(概略)
低密度ポリエチレンの分岐構造(例)

低密度ポリエチレン(Low Denscty PE)は高圧を掛けて重合させたものである。重合の開始剤として過酸化水素または酸素O2を用いる。温度100~350℃で、およそ気圧100atm ~ 200atm (およそ10MPa ~ 20MPa)程度で重合させると、ポリエチレンが得られる。

この低密度ポリエチレンの製法を高圧法という。 高圧法で作ったポリエチレンは枝分かれが多く、そのため、密度が低く、また軟らかい。

低密度ポリエチレンは軟らかいので、袋などによく用いられる。また、透明である。極性が無いので、吸水性がない。耐薬品性は良い。気体を透過しやすい。


高密度ポリエチレン[編集]

触媒として、四塩化チタンTiCl4とトリエチルアルミニウムAl(C2H5)3からなる触媒(この触媒をチーグラー・ナッタ触媒という)を用いて、5atm程度の数気圧でエチレンを付加重合させると、ポリエチレンができる。枝分かれの少ないポリエチレンができる。これは高密度のポリエチレンである。この低圧法で作ったポリエチレンを高密度ポリエチレンという。

チーグラー・ナッタ触媒でエチレンを高密度で合成できるこの現象の発見者は、チーグラー本人なので(1953年にチーグラーが発見)、書籍によっては触媒名のうちナッタを省略して「チーグラー触媒」と言う場合もある。

チーグラーは、この業績によりノーベル化学賞を1963年に受賞した。

ポリプロピレン[編集]

プロピレン
(polypropilene)略称はPP 。

製法には、高圧法と低圧法がある。 熱可塑性樹脂である。ポリエチレンより硬い。耐薬品性は高い。

ポリプロピレン

ポリスチレン[編集]

ポリスチレンの化学構造
(polystylene)略称はPS 。

スチレンの付加重合。

熱可塑性樹脂。透明。電気絶縁材料として使われる。イオン交換樹脂の母材に使われる。 いわゆる「発泡スチロール」とは、このポリスチレン樹脂に気泡を含ませた材料。

ビニル化合物[編集]

ポリ塩化ビニル[編集]

ポリ塩化ビニルは、塩化ビニルの付加重合により得られる。

ポリ塩化ビニル合成の化学反応式
(polyvinyl chloride)略称はPVC 。

他の樹脂と比べて、非常に硬い。この硬さの理由は、塩素の極性の強さによるものである。燃やすと有害な塩化水素ガスが発生するので注意が必要である。耐薬品性が高い。

純粋なものは、光によって化学変化をしてしまい塩素が除かれてしまうので、遮光のため顔料を加えてある。

水道管などに用いられる。

ポリ酢酸ビニル[編集]

ポリ酢酸ビニルは、酢酸ビニルの付加重合で得られる。略称はPVAc 。(polyvinyl acetate)

ポリ酢酸ビニル

アルコールなどの溶媒に溶ける。水には溶けない。

軟化点が低く40℃~50℃程度で軟化するので成形品には用いられない。 用途は接着剤や、チューインガムのベースなど。ビニロンの原料である。

接着力のもとは、CO基による水素結合が接着力の理由である。

フッ素樹脂[編集]

ポリテトラフルオロエチレン

テトラフルオロエチレンCF2=CF2 の付加重合。 フッ素樹脂をポリテトラフロロエチレン(polytetrafluoetylene)ともいう。略称はPTFE。

耐薬品性が極めて高い。耐熱性が高く、融点は327℃である。 摩擦係数が低い。

ポリメタクリル酸メチル[編集]

メタクリル酸メチルの付加重合。ポリメチルメタクリレート(polymethylmethacrylate)ともいう。略称は PMMA である。 透明度が高い。光学レンズに用いられる。 溶媒に溶ける。耐薬品性は良くない。 有機ガラスと呼ばれる。プラスチック製のガラス材料として用いられる。


以上の樹脂は熱可塑性樹脂である。以上の樹脂は付加重合によって作られる。付加重合とは重合する際に二重結合や三重結合の結合手の一本が開かれる重合である。一般に付加重合で作られる樹脂は熱可塑性樹脂である。

熱硬化性樹脂[編集]

加熱しても軟化せず、加熱によって固くなり、また、冷やしても軟化しない樹脂を熱硬化性樹脂(ねつこうかせい じゅし、thermosetting resin)という。 構造は立体網目状の構造を持つものが多い。


フェノール樹脂[編集]

フェノール樹脂 3次元網目構造
略称はPFR。(phenol formaldehyde resin)

フェノールにホルムアルデヒドを、酸または塩基触媒で加熱反応させると、酸の場合はノボラック(novolac)、塩基の場合はレゾール(resol)という、重合度のひくい中間生成物ができる。これに効果剤を入れて加熱すると、熱硬化性のフェノール樹脂(ベークライト)ができる。

このフェノール樹脂の合成反応は、付加反応(フェノールとホルムアルデヒドの反応が付加反応)と縮合反応(さきほどの付加反応で生じた2種類の物質がそれぞれ単量体となって縮合していく)が、くりかえし行われて合成される反応なので、付加縮合(ふかしゅくごう、addition condensation)という。

ノボラック[編集]

フェノール樹脂の合成で、フェノールとホルムアルデヒドを反応させるさい、触媒に酸を用いると、ノボラック(novolac)という鎖式構造の重合分子が得られる。ノボラックは軟らかい固体物質である。このノボラックから重合によってフェノール樹脂ができる。 重合の際、ノボラックに硬化剤としてヘキサメチレンテトラミン(CH2)6N4を加える。

ノボラックの構造モデル

レゾール[編集]

フェノール樹脂の合成で、フェノールにホルムアルデヒドを反応させる際に、塩基を触媒としてフェノールにホルムアルデヒドを反応させるとレゾール(resol)という鎖式構造の重合分子が得られる。レゾールは液体であり、また、分子構造がノボラックとは異なる。

レゾールを加熱すると重合反応が進みフェノール樹脂になる。

フェノール樹脂の性質[編集]

フェノール樹脂は電気絶縁材料に用いられている。熱硬化性樹脂である。 アルカリには、やや弱い。

フェノール樹脂は、分子構造が、網目の立体構造になっている。

商品名でベークライトという名称がある。


アミノ樹脂[編集]

アミノ基とホルムアルデヒドの付加縮合によってできる樹脂をアミノ樹脂(amino resin)という。

アミノ樹脂には、尿素樹脂や、メラミン樹脂がある。

尿素樹脂[編集]

尿素樹脂
ユリア樹脂ともいう。略称はUFRである。(urea formaldehyde resin)

尿素樹脂とは、尿素とホルムアルデヒドを縮合縮合させたアミノ樹脂である。透明で、また着色性が良い。酸およびアルカリに弱い。 用途は装飾品や電気器具、食器などに用いられる。

メラミン樹脂[編集]

メラミン樹脂の理想化された構造
略称はMFR 。(melamimine formaldehyde resin)

メラミンとホルムアルデヒドを縮合縮合。 硬い。無色透明。 用途は装飾品や電気器具、食器などに用いられる。

アルキド樹脂[編集]

アルキド樹脂の例。 Phはフェノール基。

アルキド樹脂(alkyd resin)とは、無水フタル酸とグリセリンなどの、多価アルコールと多価カルボン酸の縮合重合。耐候性にすぐれる。この樹脂の用途は、おもに塗料や接着剤などであり、成形品には用いないことが多い。

シリコーン樹脂[編集]

シリコーン樹脂
シリコーン樹脂の立体構造
シリコーン樹脂(silicone)はケイ素樹脂ともいう。

シリコーン樹脂は無機高分子(むき こうぶんし)の樹脂である。 塩化メチルとケイ素の反応によって、クロロトリメチルシランまたはジクロロトリメチルシラン、またはトリクロロメチルシランなどのメチルクロロシランのアルキルシラン類が作られる。このアルキルシラン類の付加重合によってシリコーン樹脂が作られる。

塩化メチルはメタノールと塩酸から作られる。

構造の骨格は、ケイ素Siと酸素Oが結合したシロキサン結合(-O-Si-O-) で形成されている。 耐熱性や耐薬品性が良い。

その他の熱硬化性樹脂[編集]

エポキシ樹脂[編集]

ビスフェノールAジグリシジルエーテルエポキシ樹脂の構造:
nは重合サブユニットの数を示しており、0〜25の範囲である

ビスフェノールとエピクロロヒドリンが架橋(かきょう)して重合。 架橋にはポリアミン化合物などが必要。 エピクロロヒドリンの末端にもつ3員環の基がエポキシ基である。

用途は、よく接着剤に用いられる。接着剤としての利用は、架橋のために加えるポリアミン化合物などを硬化剤として用いる。

不飽和ポリエステル樹脂[編集]

フマル酸やマレイン酸などの、二重結合を持つ不飽和酸と、エチレングリコールを重合させた分子を、スチレンで架橋した分子。 繊維強化プラスチックFRP(Fiber reinforced plastic)の母材として、この不飽和ポリエステルは用いられることが多い。

発展: 高分子の立体規則性[編集]


ポリプロピレンなどの固体の高分子化合物の立体構造において、シンジオタクチック(syndiotactic)やアイソタクチック(isotactic)やアタクチック(atactic)などの立体構造がある。

図中の置換基 R は、ポリプロピレンの場合ならメチル基 CH3 である。

シンジオタクチックは置換基Rが交互についている。

アイソタクチックは、置換基Rの付きかたが、すべて同じ側にある場合の構造である。アイソタクチックのことを「イソタクチック」ともいう。

アタクチック

アタクチックは、置換基Rが不規則に付いている。

触媒を用いないで高分子をつくると、置換基の位置が不規則であるアタクチックが、できる。

アタクチックは、不規則であるため、結晶化しづらく、そのため軟化点も低い。

いっぽう、触媒をもちいて高分子をつくると、アイソタクチックまたはシンジオタクチックが、つくられやすい。 シンジオタクチックおよびアイソタクチックは構造が規則的なので、結晶になりやすく、かたく、耐熱性も比較的に高い。

チーグラー=ナッタ触媒をもちいてポリプロピレンを合成すると、アイソタクチック構造を多くふくむポリプロピレンが出来る。 (なお、チーグラー・ナッタ触媒とは、四塩化チタンTiCl4とトリエチルアルミニウムAl(C2H5)3からなる触媒である。)

チーグラー・ナッタ触媒でポリプロピレンをアイソタクチック構造で合成できるこの現象の発見者は、ナッタ本人なので(1955年にチーグラーが発見)、書籍によっては触媒名のうちチーグラーを省略して「ナッタ触媒」と言う場合もある。

アイソタクチックは、このような耐久性のよい性質のため、ポリプロピレンの日用品などにはアタクチック構造のものが使われている場合が多い。


※個人的な意見:
かつて私(本文の主著者:すじにくシチュー)は、構造式中の -C-C- 結合の単結合の部分で、分子が回転してまうんじゃないかと思ったが、よくよく考えたら、それは気体やゴムの場合だった。このポリプロピレンの場合は、結晶構造のように硬い部分では、そういう回転はしないのだろう。化学の専門家が、どう思ってるかは、私は知らない。
なお、ゴムややわらかい線維などの場合、分子中の -C-C- 単結合の自由回転によって、材料のやわらかさが与えられている、というのが定説である。なので、繊維状の高分子化合物にて、分子構造中 -C-C- 単結合の部分を「ソフトセグメント」という。(※ 東京書籍の教科書に「ソフトセグメント」の用語あり。)いっぽう、繊維状の高分子化合物でのアミド結合 -CONH- は(ナイロン分子にはアミド結合が含まれる)、分子間に水素結合をもつため、かたくなるので、分子構造中のアミド結合 -CONH- を ハードセグメントという。