高校化学 2族元素

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周期表の2族の元素は、すべて金属元素である。2価の価電子をもち、2価の陽イオンになりやすい。天然には塩として存在している。

2族元素のことをアルカリ土類金属という[1]

アルカリ土類金属元素[編集]

マグネシウムの燃焼

2族元素の単体は、いずれも、空気中で激しく燃焼して酸化物を生じる。たとえばマグネシウムは白い強い光を出しながら燃焼して白色の酸化マグネシウム(MgO)を生じる。

2Mg + O2 → 2MgO

マグネシウムは二酸化炭素とも熱や光を出しながら激しく反応する。

2Mg + CO2 → 2MgO + C

2族元素の酸化物はいずれも塩基性酸化物であり、酸と反応する。たとえば酸化マグネシウムは塩酸と反応して塩化マグネシウムを生じる。

MgO + 2HCl → MgCl2 + H2O
塩化マグネシウムの潮解

塩化マグネシウムは白色の固体であり、潮解性がある。

ベリリウム・マグネシウムとアルカリ土類金属とでは、次のような違いがある。

  • 炎色反応
    ベリリウムとマグネシウムの単体は、炎色反応を示さない。アルカリ土類金属元素は炎色反応を示し、イオンの水溶液を白金線の先につけてガスバーナーの炎に入れると、カルシウムでは橙赤色に、ストロンチウムでは紅色に、バリウムでは黄緑色に、それぞれ炎が色づく。
カルシウムの炎色反応 ストロンチウムの炎色反応
Ca Sr
2族元素の単体の性質
元素名 元素記号 融点(℃) 密度(g/cm3 炎色反応
ベリリウム Be 1282 1.85 示さない
マグネシウム Mg 649 1.74 示さない
アルカリ
土類金属
カルシウム Ca 839 1.55 橙赤
ストロンチウム Sr 769 2.54
バリウム Ba 729 3.59 黄緑
  • 水との反応性
    アルカリ土類金属の単体は常温で水と反応し、水素を発生する。
    Ca + 2H2O → Ca(OH)2 + H2
    一方で、ベリリウムやマグネシウムの単体は常温では水と反応しない。ただし、マグネシウムは熱水と反応して水素を発生しながら水酸化物となる。
    Mg + 2H2O → Mg(OH)2 + H2
  • 水酸化物の水への溶けやすさ
    例外的に、水酸化ベリリウム、水酸化マグネシウムは水に溶けにくい。だが、それ以外のアルカリ土類金属の水酸化物は水に溶けやすい。
  • 硫酸塩の水への溶けやすさ
    例外的に、硫酸ベリリウム、硫酸マグネシウムは水に溶けやすい。だが、それ以外のアルカリ土類金属の硫酸塩は水に溶けにくい。

バリウム[編集]

水酸化バリウムの水溶液などに希硫酸を加えると、硫酸バリウム BaSO4 の白色沈殿が得られる。

硫酸バリウム BaSO4 は白色の粉末で、水に溶けず、酸にも反応しない。

硫酸バリウムの実社会の用途として、医療では、この性質(水に溶けにくい、酸に反応しない、など)を利用して、人体のX線撮影の造影剤として、胃や腸など消化器官のようすを撮影するための造影剤として、硫酸バリウムは用いられる。

なおバリウムおよび硫酸バリウムは、X線を透過させにくい。そのため、X線撮影の際、人体内のバリウムのある場所でX線が遮断され、撮影装置にX線が届かなくなるので、胃や腸でのバリウムのようすが見える、という仕組みである。

カルシウム[編集]

カルシウムの単体

カルシウム(Ca)はアルカリ土類金属のひとつである。単体は塩化カルシウムの融解塩電解により得られる。

二酸化炭素の発生

カルシウムの酸化物[編集]

単体を空気中で燃焼させると酸化カルシウム(CaO)を生じる。酸化カルシウムは生石灰(せいせっかい)とも呼ばれる。

2Ca + O2 → 2CaO


酸化カルシウムに水を加えると熱を出しながら水酸化カルシウム(Ca(OH)2)を生じる。水酸化カルシウムは消石灰とも呼ばれる。

CaO + H2O → Ca(OH)2

酸化カルシウムは水を吸収し、そのさい発熱することから、乾燥剤や発熱材として用いられる。

カルシウムの水酸化物[編集]

酸化カルシウムに水を加えると熱を出しながら水酸化カルシウム(Ca(OH)2)を生じる。

CaO + H2O → Ca(OH)2

逆に、水酸化カルシウムを加熱すると酸化カルシウムが得られる。

Ca(OH)2 → CaO + H2O

水酸化カルシウムはカルシウムを水と反応させることによっても得られる。

Ca + 2H2O → Ca(OH)2 + H2

水酸化カルシウムは白色の粉末であり、水酸化カルシウムは消石灰(しょうせっかい)とも呼ばれる。水酸化カルシウムの水溶液は塩基性を示し、一般に石灰水(せっかいすい、lime water)と呼ばれる。石灰水に二酸化炭素を通じると、炭酸カルシウムの白色沈殿を生じて白濁する。この反応は二酸化炭素の検出に用いられる。

Ca(OH)2 + CO2 → CaCO3↓ + H2O

しかし、白濁した石灰水にさらに二酸化炭素を通じ続けると、炭酸水素カルシウムとなって沈殿は溶解し、無色の水溶液になる。

CaCO3 + CO2 + H2O → Ca(HCO3)2

この炭酸水素カルシウム水溶液を加熱すると、ふたたび炭酸カルシウムの沈殿が生じる。

Ca(HCO3)2 → CaCO3 + CO2 + H2O


水酸化カルシウム水溶液に塩酸を加えると、塩化カルシウムを生じる。塩化カルシウムは吸湿性があり、乾燥剤としてしばしば用いられる。

Ca(OH)2 + 2HCl → CaCl2 + 2H2O

水酸化カルシウム水溶液に塩素を通じると、さらし粉を生じる。

Ca(OH)2 + Cl2 → CaCl(ClO)・H2O

カルシウムの炭酸塩[編集]

炭酸カルシウム CaCO3 の固体は、天然には石灰岩や大理石として存在する。

鍾乳洞(しょうにゅうどう)や鍾乳石(しょうにゅうせき)は、炭酸カルシウムが地下水にいったん溶けて、水中で炭酸水素ナトリウムとなり、その後、炭酸カルシウムに戻り、再度、固まったものでる。

炭酸カルシウムは塩酸などの強酸と反応して、二酸化炭素を発生する。

CaCO3 + 2HCl → CaCl2 + H2O + CO2

炭酸カルシウムは、セメントの原料や、チョークの原料、ガラスの原料、歯みがき粉の原料などとして、使われている。

カルシウムの硫酸塩[編集]

水酸化カルシウム水溶液に硫酸を加えると、硫酸カルシウム CaSO4 の白色沈殿を生じる。硫酸カルシウムは天然には二水和物がセッコウ(石膏)として存在する。セッコウを約130℃で焼くことにより、二分の一水和物である焼きセッコウの白色粉末となる。

Ca(OH)2 + H2SO4 → CaSO4 + 2H2O

焼きセッコウの粉末に水を少量まぜると、硬化して、体積が少し増え、セッコウになる。セッコウ像や医療用ギプスは、この性質を利用している。


カルシウムやバリウムの硫酸塩は水に溶けにくく、この性質は陽イオンの系統分離において重要である。また日常生活においても重要で、硫酸カルシウムは建築材や医療用ギプスに、硫酸バリウムBaSO4はX線撮影の造影剤として用いられる。

発展: 硬水と軟水[編集]

Ca2+やMg2+を多く含む水を硬水という。それらが少量しか含まれていない水のことを軟水という。

日本では一般に、地下水には硬水が多い。日本では河川水には軟水が多い。

また、硬水を飲むと、下痢を起こしてしまう。なので、食用には硬水は不適切である。

しかし、農業用水に硬水を使う分には問題がない。

もしボイラーで硬水を使うと、沈殿が残るので、配管の詰まりを起こしやすく、危険であり不適切である。

工業用水や生活用水には、硬水は不適切である。


大陸の河川水では、硬水が多い。その理由は、大陸の河川水は緩流なので、鉱物質が溶けこんでいるので、硬水が多い。

いっぽう、日本では急流が多いことが、日本の河川水に軟水が多い。

水の硬度
をすべて と考えたときの の 1L 当たりの質量(mg)を硬度という。

基本的に水の硬度の数値が低いほど軟水である。いっぽう、水の硬度の数値が高いと硬水である。

硬度60までが「軟水」。
硬度120以上は「硬水」。
硬度60~120は「中硬水」というのに分類する。
なお、フランスノミネラルウォーターの「エビアン」は硬度が約300であり、硬水である。フランスでも、ボルヴィック(ミネラルウォーターの商品のひとつ)は硬度が約60で、軟水に近い。


※ 範囲外:[編集]

ベリリウムとマグネシウムは、金属に分類されている(高校教科書でも、ベリリウムなどは金属に分類されている。)。しかし、上述のように特殊な性質を示すこともあり、一説には、ベリリウムはやや共有結合よりの金属結合をしている中間的な結合であるかもしれないと解釈する理論も存在する。(※ 参考文献: 東京化学同人『無機化学 - その現代的アプローチ -』、第二版、94ページ )

ベリリウムに他の金属が衝撃的にぶつかっても火花が飛び散りづらい性質があるので、そのため特殊なカナヅチの材料としてベリリウム系の合金(ベリリウムと銅の合金)が使われていることも多い。

またベリリウムはX線および電磁波を透過するので、X線管の材料のうち、X線を透過させたい部分の材料に使われる。

天然では、宝石のエメラルドにベリリウムが含まれる。

なお、化学的には、ベリリウムはアルミニウムに近い反応をすることも多い。(※ 参考文献: 東京化学同人『無機化学 - その現代的アプローチ -』、第二版、94ページ )

エメラルドにも、アルミニウムは含まれる。(エメラルドの主成分は、シリコンとアルミニウムとベリリウムである。)

※ 範囲外2: 耐火レンガ[編集]

酸化マグネシウム MgO は融点が高く(約2800℃)、耐火レンガやるつぼの材料などに用いられている。(※ 数研出版のチャート式にこのように書かれている。)

※ 古い版のチャート式では、融点が高いから耐火レンガに使われていると書かれているが、最新の版では訂正されており、これらは別個のこととして説明されている。
※ 検定教科書では、啓林館の科目『科学と人間生活』教科書で、組成は書かれてないが、耐火レンガというものが存在する事が書かれている。
熱の伝わりやすさの調節

(チャート式などでは範囲外(普通科高校の範囲外)なので触られてないが)、耐火レンガの材料などに酸化マグネシウムや酸化アルミニウムなどが用いられる理由のひとつとして、融点の高さのほかにも、熱の伝わりやすさという、重大な理由がある。(※ 工業高校などの一部の学科で習う。)(※参考文献: 文部科学省著作教科書『セラミック工業』平成15年3月25日 初版発行、平成18年1月25日、実教出版 発行、188ページや203ページなど。)転炉や電気炉で近年、マグネシアカーボンれんが が用いられているという。なお、高炉はアルミナ質れんが や 炭化ケイ素れんが が用いられているという。また、製鉄の溶融スラグは塩基性であると考えられており、酸化マグネシウムは耐塩基性としての耐腐食性が高い(つまり、腐食しにくい)と考えられていることも、各所で酸化マグネシウムが使われる一因である。

もし るつぼ等の使用中に高熱が一箇所に蓄積すると、るつぼ等が溶融してしまい破壊されてしまうので、熱を伝えやすい材料を適切な場所に用いることで、るつぼ等の寿命をのばしているのである。


酸化マグネシウムや酸化アルミニウムなど、いちぶの金属の酸化物は(金属酸化物を含まない単なる粘土レンガと比べれば)比較的に熱を伝えやすい。


名前こそ「耐火」レンガであるが、酸化マグネシウムを含まないからといって、耐熱性が低いわけでもないし、燃えやすいわけでもない。

酸化マグネシウム系レンガなどが必要とされる本当の理由は、熱を分散・拡散しやすいことである。

※ 『耐火レンガ』という名称が、あまり適切ではないかもしれないが、社会では、この名前で定着してしまっている。

耐火レンガを作る際、そもそもレンガの母材として粘土が必要であるが、それに酸化マグネシウムや酸化アルミニウムなどを適量に混ぜることで、熱の伝わりやすさを調節して、耐火レンガは設計される。

  1. ^ アルカリ土類金属の定義として、「Be,Mgを除く2族元素」と定義しているところもある。これは、後述するようにBe,Mgとその他の2族元素の性質に異なるところがあるからである。