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高等学校政治経済/政治/裁判所

出典: フリー教科書『ウィキブックス(Wikibooks)』

司法権と裁判所

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司法権の概念

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具体的な争訟(事件や紛争)について、法を適用して宣言することによって、これを裁定・解決する国家作用を司法権という。日本国憲法第76条第1項は、「すべて司法権は、最高裁判所及び法律の定めるところにより設置する下級裁判所に属する」と定めている。

司法権の独立

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公正な裁判を行い、国民の基本的人権を守るため、司法権が立法権や行政権、あるいは世論などの外部の圧力から独立していることを司法権の独立という。

  • 裁判所の独立(第76条第1項・第2項):
    • 行政機関が終審として裁判を行うことは禁止されている(行政機関による前審・不服審査は認められるが、最終的には裁判所に上訴できなければならない)。
    • 憲法外の例外的な裁判機関である特別裁判所(軍法会議や大日本帝国憲法下の行政裁判所・皇室裁判所など)の設置は禁止されている。
  • 裁判官の独立(第76条第3項):
    • 「すべて裁判官は、その良心に従ひ独立してその職権を行ひ、この憲法及び法律にのみ拘束される。」
  • 裁判官の身分保障(第78条・第80条):
    • 裁判官は、原則として公開の弾劾裁判または心身の故障による裁判によって職務を執ることができないと決定された場合を除き、意に反して免官・減俸・転官などの不利益な処分を受けない。行政機関による裁判官の懲戒処分は禁止されている。
    • 報酬は在任中減額されない。

司法権の独立をめぐる歴史的事件

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  • 大津事件(1891年): ロシア皇太子ニコライが警備の警察官・津田三蔵に切りつけられて負傷した事件。政府は死刑を適用するよう司法部に強い圧力をかけたが、大審院長児島惟謙は法と良心に従い、刑法の謀殺未遂罪を適用して無期徒刑を言い渡した。近代日本における「司法権の独立」の先例として評価されている。
  • 浦和充子(じゅんこ)裁判事件(1948年): 育児ノイローゼから我が子を殺害した母親に対し、浦和地裁が情状酌量して懲役3年・執行猶予3年の判決を下したことに対し、参議院法務委員会が国政調査権を発動して判決が軽すぎると批判した事件。最高裁は「国政調査権の逸脱であり、司法権の独立を侵害する」と強く抗議した。

裁判所の組織と審理

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裁判所の構成

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日本の裁判所は、最高裁判所と4種類の下級裁判所から構成される。

裁判所の種類と役割
区分 裁判所名 設置数 主な管轄・役割
最高裁判所 最高裁判所(最高裁) 全国に1か所(東京) 終審裁判所。「憲法の番人」。長官1名と判事14名の計15名で構成。大法廷(15名全員)と小法廷(各5名)で審理。
下級裁判所 高等裁判所(高裁) 本庁8か所(支部6か所) 主に第一審判決に対する控訴事件を審理する控訴審裁判所(知的財産高等裁判所も設置)。
地方裁判所(地裁) 本庁50か所(各都道府県に1、北海道に4) 原則として民事・刑事訴訟の第一審を管轄。
家庭裁判所(家裁) 本庁50か所(地裁と同位置) 家事事件(遺産分割・離婚調停等)および少年法に基づく少年保護事件を管轄。
簡易裁判所(簡裁) 全国に438か所 軽微な民事事件(訴額140万円以下)および軽微な刑事事件(罰金以下の刑など)の第一審を管轄。

三審制

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裁判の誤りを防ぎ、公平で慎重な判断を確保するため、同一の事件について原則として3回まで裁判を受けることができる仕組みを三審制という。

  • 第一審の判決に対する不服申立て: 控訴(こうそ)
  • 第二審の判決に対する不服申立て: 上告(じょうこく)
  • ※判決以外の決定や命令に対する不服申立ては抗告(こうこく)という。

裁判の公開(第82条)

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裁判の対審(審理・口頭弁論)および判決は、公開法廷で行われなければならない。

  • 例外として、裁判官全員の一致で「公の秩序または善良の風俗を害するおそれがある」と決した場合は、対審を非公開にできる。ただし、政治犯罪、出版に関する犯罪、憲法上の人権が問題となっている事件の対審は、いかなる場合も非公開にできない。

裁判の種類

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  1. 民事裁判(民事訴訟): 個人や企業などの私人相互間における財産権や身分関係の争いを解決する裁判(原告が被告を訴える)。
  2. 刑事裁判(刑事訴訟): 犯罪を犯した疑いのある者(被告人)を有罪として処罰するか否かを決定する裁判(国家機関である検察官が起訴する)。
  3. 行政裁判(行政訴訟): 国や地方自治体など行政機関の違法な行為や処分によって権利を侵害された国民が、その処分の取り消しや損害賠償を求める裁判(形式上は民事訴訟の手続きに準じて行われる)。

違憲審査制(違憲立法審査権)

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概念と性格

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国会が制定した法律や内閣が定めた命令・処分などが憲法に違反していないかどうかを審査・判断する権限を違憲審査権(違憲立法審査権)という(第81条)。

  • 日本国憲法はすべての裁判所に違憲審査権を認めているが、最高裁判所が最終的な決定権を持つため、最高裁は「憲法の番人」と呼ばれる。
  • 付随的違憲審査制: 日本の違憲審査制はアメリカ型を採用しており、現実に具体的な権利侵害の争訟(事件)が発生した際に、その前提として法令の合憲性を判断する。具体的な事件を離れて抽象的に法令の合憲性を判断する「抽象的違憲審査制」(ドイツの連邦憲法裁判所など)はとらない。

最高裁判所が下した主な法令違憲判決

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最高裁判所が法律や政令の規定を「違憲」と判断した主な例は以下の通りである。

  • 尊属殺重罰規定違憲判決(1973年): 尊属殺人を普通殺人より過度に重罰とする規定が法の下の平等(第14条)に反し違憲。
  • 薬事法距離制限違憲判決(1975年): 薬局開設の距離制限が職業選択・営業の自由(第22条)に反し違憲。
  • 議員定数不均衡違憲判決(1976年・1985年など): 一票の格差が不合理な程度に達した選挙区割りを法の下の平等に反し違憲(ただし事情判決の法理により選挙自体は有効)。
  • 森林法共有林分割制限違憲判決(1987年): 共有林の分割請求権を制限する規定が財産権(第29条)に反し違憲。
  • 郵便法免責規定違憲判決(2002年): 郵便物損害に対する国の免責規定が国家賠償請求権(第17条)等に反し違憲。
  • 国籍法婚外子国籍取得差別違憲判決(2008年): 日本人父から出生後に認知された嫡出でない子に対する国籍取得制限が法の下の平等に反し違憲。
  • 非嫡出子相続分差別規定違憲決定(2013年): 民法の婚外子相続分規定が法の下の平等に反し違憲。
  • 女性の再婚禁止期間違憲判決(2015年): 6か月の再婚禁止期間のうち100日を超える部分が過度な制約として違憲。
  • 在外日本人国民審査権制限違憲判決(2022年): 国外に居住する国民に最高裁裁判官の国民審査権を認めない規定が違憲。

裁判所に対する民主的統制

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司法権の独立を保障する一方で、司法の独善や暴走を防ぐための民主的統制システムが設けられている。

  • 最高裁判所裁判官の国民審査(第79条): 最高裁裁判官の任命後初めての衆議院議員総選挙の際、およびその後10年を経過した後の総選挙の際に、国民の直接投票によって信任・不信任を問う制度(不信任の票が過半数に達した裁判官は罷免される)。
  • 裁判官弾劾裁判所(第64条): 著しい職務違反や職務怠慢、裁判官としての品位を著しく失う非行があった裁判官を罷免するため、国会内に設置される機関(衆参両院の議員各7名、計14名で構成)。

司法制度改革と国民の司法参加

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1990年代末以降、「国民にとって身近で、迅速かつ頼りがいのある司法」を目指す司法制度改革が進められた。

  • 法科大学院(ロースクール)の設置と新司法試験(2004年〜): 法曹(裁判官・検察官・弁護士)の質と量を確保するための法曹養成制度改革。
  • 日本司法支援センター(法テラス)の設立(2006年): 経済的理由で弁護士費用を払えない国民に対する民事法律扶助や情報提供の窓口。
  • 裁判員制度(2009年導入):
    • 概要: 有権者の中から無作為に選ばれた国民(裁判員)が、地方裁判所における特定の重大な刑事事件(殺人、強盗致死傷、放火など)の審理に参加する制度。
    • 構成: 原則として裁判官3名と裁判員6名(計9名)が合議体を構成。
    • 権限: 有罪・無罪の決定(事実認定)および刑の重さ(量刑)を判断する。過半数の賛成かつ双方(裁判官・裁判員)の少なくとも1名の賛成が必要。法律判断や訴訟指揮は裁判官のみが行う。
  • 検察審査会制度の強化(2009年〜): 検察官による不起訴処分の妥当性を審査する機関(一般有権者11名で構成)。2009年以降、審査会が2回「起訴すべき」と議決(起訴相当・起訴議決)した場合、裁判所が指定した弁護士により強制的に起訴される仕組みが導入された。

参考文献

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  • 文部科学省検定済教科書『高等学校 政治・経済』各社版
  • 芦部信喜『憲法 第八版』岩波書店、2023年。

脚注

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