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高等学校教育課程

出典: フリー教科書『ウィキブックス(Wikibooks)』

はじめに

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高等学校の教育課程が小中学校と大きく異なる点の一つとして、各教科・科目の授業をどれだけの時数行いどれだけの単位数を認定して卒業させるかに、学校の裁量の範囲がかなり広く認められている点があるだろう。これは、小中学校の授業時数が学校教育法施行規則(小学校は第51条及び別表第1、中学校は第73条及び別表第2)に明示されていることとは対照的である。しかし、高等学校の教育課程も何もかも自由なわけではなく、学習指導要領の制約を守ることは前提である。そして、この学習指導要領には難解な部分も多々あり、また約10年に一度大きく改定されることも理解を難しくしている。

この本は、読者が高等学校の教育課程編成の実務に関連する学習指導要領の諸規定を正しく理解することを目的としている。しかし、諸規定を順にただ解説するだけでは理解は深まりにくい。そこで、ここでは以下のような設定の下で、ある架空の普通科高校の教育課程を実際に編成するというミッションをこなすことを目標にしてみたい。

  • 語り手は、新設の普通科高校の開校準備委員に任じられた。開校の暁には教務主任になることが内定している。準備委員としての主な任務の一つとして、教育課程の編成を任されている。
  • 開校準備委員会は校長(内定者)、教頭(内定者)、教務主任(内定者)=語り手、以上3名でスタートする。途中から各教科の教科主任(内定者)が加わる。以下本文中では簡単のため「(内定者)」の文言は省略する。
  • 開校予定の高等学校は普通科のみ・5クラス規模である。
  • 教育課程の前提として、学習指導要領には当然従う必要がある。それに加え校長から以下の指示を受けている。
    • 日課は月曜日から金曜日まで各6時間とし、週の授業時数は30時間とすること。
    • なるべく幅広い大学の大学入試に一般選抜で挑戦できる教育課程とすること。

この前提の下で教育課程を編成していく中で、教育課程が完成したときには読者の学習指導要領への理解が深まっていることを期待している。

以下、本文中で「要領p○○」とあれば高等学校学習指導要領(平成30年告示)のページ数、「解説p○○」とあれば高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説総則編のページ数を指すこととする。総則編以外の各教科ごとの学習指導要領解説を参照する場合は「解説○○編p○○」と書く。

「教育課程の編成における共通的事項」を理解する

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それでは、さっそく教育課程の編成作業を始めよう。まず、学習指導要領が「教育課程の編成における共通的事項」として要求している内容にはどのようなものがあるのか、順に確認していこう。

卒業までに履修させる単位数

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まず、3年間で履修すべき総単位数について見てみる。要領p20には、「各教科・科目及び総合的な探究の時間の単位数の計は,(略)各教科・科目の単位数並びに総合的な探究の時間の単位数を含めて74単位以上とする。」とある。本校の場合は、週30時間のうち1時間をホームルーム活動に充てる(後述)として、残りの29時間を各教科・科目及び総合的な探究の時間に充てることができるので、3年間で87単位を履修することになりこの条件は自動的に満たしている。

各教科・科目及び総合的な探究の時間並びに標準単位数

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要領p21を見ると、普通科高校で開講することができる教科・科目とその標準単位数が表になっている。このすべてを開講する授業時数は確保できないので、この中から科目を選択して各学年に配当することが、教育課程編成として今回与えられているミッションである。このほか、要領p22には専門学科で開講する科目の一覧があるが、今回は普通科高校の教育課程を考えているので対象外である。また、要領p23によれば学校設定科目・学校設定教科というものを開講することもできるのだが、これは必要になったところで考えることにしよう。

標準単位数とは何だろうか。解説p63によれば「標準単位数の制度は,学習指導要領に掲げた単位数を標準として一定の幅の範囲内で具体的な単位数を配当することができるものである。これにより,各学校においては,その実態に応じて適切な単位数を配当し,それぞれ特色をもたせた教育課程を編成することができる。」「各教科・科目の内容はそれぞれの目標に応じて標準単位数に見合うものとして定められている。したがって,通常の場合,標準単位数によって授業を行えば,内容は全体に無理なく指導できるようになっている。」というものである。この趣旨を受けて、今回はまずは標準単位数を各科目の単位数として配当し、必要に応じて増減を考えることにしよう。なお、ホームルーム活動についてはこの表にはないが、要領p25に「ホームルーム活動の授業時数については,原則として,年間35単位時間以上とするものとする。」とあるので、標準単位数が3時間の授業と同等に扱うことにしよう。

要領p23には「全ての生徒に履修させる各教科・科目」が列挙されており、これらの履修は「標準単位数として示された単位数を下らないものとする。」とされている。つまり、これらの科目の履修を外したり、減らしたりすることは認められていない。ここまで見てきたことのまとめとして、各教科ごとに必履修科目とその他の科目に分けて、先ほどの要領p21の表にある科目を下に一覧にまとめておこう。(括弧内の数字は標準単位数)

国語

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  • 必履修科目:現代の国語(2)、言語文化(2)
  • その他の科目:論理国語(4)、文学国語(4)、国語表現(4)、古典探究(4)
  • 特記事項:論理国語、文学国語、国語表現、古典探究の履修は原則として、現代の国語、言語文化を履修した後(要領p47)

地理歴史

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  • 必履修科目:地理総合(2)、歴史総合(2)
  • その他の科目:地理探究(3)、日本史探究(3)、世界史探究(3)
  • 特記事項:地理探究の履修は地理探究を履修した後、日本史探究、世界史探究の履修は歴史総合を履修した後(要領p77)

公民

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  • 必履修科目:公共(2)
  • その他の科目:倫理(2)、政治・経済(2)
  • 特記事項:倫理、政治・経済の履修は公共を履修した後、公共は1年生または2年生のうちに履修(要領p90)

数学

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  • 必履修科目:数学Ⅰ(3)
  • その他の科目:数学Ⅱ(4)、数学Ⅲ(3)、数学A(2)、数学B(2)、数学C(2)
  • 特記事項:数学Ⅰ、数学Ⅱ、数学Ⅲはこの順に履修する。数学Aは数学Ⅰと並行して履修しても数学Ⅰの後に履修してもよい。数学B、数学Cの履修は数学Ⅰを履修した後(要領p102)

理科

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  • 必履修科目:物理基礎(2)・化学基礎(2)・生物基礎(2)・地学基礎(2)のうち3科目、またはこれらのうち1科目+科学と人間生活(2)の計2科目
  • その他の科目:物理(4)、化学(4)、生物(4)、地学(4)
  • 特記事項:物理、化学、生物、地学の履修は、それぞれに対応する基礎を付した科目を履修した後(要領p130)

保健体育

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  • 必履修科目:体育(7~8)、保健(2)
  • その他の科目:なし
  • 特記事項:体育は各年次継続して履修できるようにし、各年次の単位数はなるべく均分して配当する。保健は1年生と2年生の2か年にわたり履修(要領p140)

芸術

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  • 必履修科目:音楽Ⅰ(2)・美術Ⅰ(2)・工芸Ⅰ(2)・書道Ⅰ(2)のうち1科目
  • その他の科目:音楽Ⅱ(2)、音楽Ⅲ(2)、美術Ⅱ(2)、美術Ⅲ(2)、工芸Ⅱ(2)、工芸Ⅲ(2)、書道Ⅱ(2)、書道Ⅲ(2)
  • 特記事項:Ⅱを付した科目の履修ははそれぞれに対応するⅠを付した科目を履修した後、Ⅲを付した科目の履修はそれぞれに対応するⅡを付した科目を履修した後(要領p162)

外国語

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  • 必履修科目:英語コミュニケーションⅠ(3)
  • その他の科目:英語コミュニケーションⅡ(4)、英語コミュニケーションⅢ(4)、論理・表現Ⅰ(2)、論理・表現Ⅱ(2)、論理・表現Ⅲ(2)
  • 特記事項:英語コミュニケーションⅠ、英語コミュニケーションⅡ、英語コミュニケーションⅢはこの順に履修する。論理・表現Ⅰ、論理・表現Ⅱ、論理・表現Ⅲはこの順に履修する(要領p178-179)

家庭

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  • 必履修科目:家庭基礎(2)または家庭総合(4)
  • その他の科目:なし
  • 特記事項:家庭基礎は原則として同一年次で履修。家庭総合は連続する2か年に分割してもよい。家庭基礎、家庭総合いずれにおいても1年生または2年生のうちに履修(要領p188)

情報

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  • 必履修科目:情報Ⅰ(2)
  • その他の科目:情報Ⅱ(2)
  • 特記事項:各科目は原則として同一年次で履修。情報Ⅱの履修は情報Ⅰを履修した後(要領p195)

理数

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  • 必履修科目:なし
  • その他の科目:理数探究基礎(1)、理数探究(2~5)

総合的な探究の時間

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  • 必履修:総合的な探究の時間(3~6)
  • 特記事項:理数探究基礎、理数探究の履修履修をもって総合的な探究の時間の履修の一部又は全部に替えることができる。(要領p25)

とりあえず必履修科目を配当してみる

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以上からわかったのは、必履修科目・総合的な探究の時間・ホームルーム活動は教育課程から欠かすことができないということである。そこでまずは、いきなり3年間のすべての科目を埋めるのではなく、とりあえずこれらだけを配当した表を作ってみることにしよう。

教育課程編成表暫定版(必履修科目まで)
第1学年 第2学年 第3学年
国語 現代の国語 2 2
言語文化 2 2
地理歴史 地理総合 2 2
歴史総合 2 2
公民 公共 2 2
数学 数学Ⅰ 3 3
理科 物理基礎 2 2
化学基礎 2 2
生物基礎 2 2
保健体育 体育 3 2 2 7
保健 1 1 2
芸術 音楽Ⅰまたは美術Ⅰ 2 2
外国語 英語コミュニケーションⅠ 3 3
家庭 家庭基礎 2 2
情報 情報Ⅰ 2 2
総合的な探究の時間 1 1 1 3
ホームルーム活動 1 1 1 3
30 9 4 43

必履修科目の履修は他の科目を履修するための前提条件となることが多いため、1年生の30単位を優先的に埋めてみたが、それでも必履修科目のすべてを履修することはできず、2年生以降にはみ出している科目がある。なお、理科および芸術の科目は、教員の確保の見込みについての教頭からの情報を受けて設定した。地学を担当可能な理科の教員は確保できず、また芸術については、5クラスで3科目選択可能とすると週2時間のみの非常勤講師が必要でありそれは確保できない、音楽(週6時間)と美術(週4時間)の講師は確保できる見込み、とのことであった。

さて、2,3年生にはまだまだ他の科目を履修する余地がある。ここに入る科目は、どのように考えていけばよいだろうか。

大学入試を研究する

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必履修科目の履修が満たされていれば、それ以外の科目としてどのような科目を開講するかは、学校の特色や校長の学校経営方針を打ち出せる部分である。今回は「なるべく幅広い大学の大学入試に一般選抜で挑戦できる教育課程とすること」という指示を受けているので、大学入試について研究してみよう。大学入試に関する情報は既に各種受験産業がわかりやすくまとめているのでここでは細部を詳述はせず、河合塾による「大学入試の基礎知識」を参照し、引用するにとどめる。ポイントになる点をまとめてみると以下のとおりである。

  • 国公立大学の一般選抜は、大学入学共通テストと個別学力検査の二段階で行われる。
  • 大学入学共通テストは7教科21科目の試験があり、受験者はその中から最大で9科目を選択して受験する。
  • 大学入学共通テストのどの科目が受験に必要となるかは大学・学部等により異なるがおおよそ3種、外・数2・国・理・地公2・情(文型)、外・数2・国・理2・地公・情(理型)、外・数2・国・情必須、理・地公から3(選択型)に大別される。
  • 個別学力検査で課される教科科目は、文系学部で「外国語、数学、国語、地歴・公民」から2~3教科、理系学部では「外国語、数学、理科」から2~3教科が課されるのが一般的。理系学部では数学Ⅲ(大学入学共通テストにはない)を課されることが多い。

ということである。以上の出題範囲を踏まえると、必履修科目以外に履修が必要となる可能性がある科目は各教科以下のとおりであろうか。

  • 国語 - 論理国語、文学国語、古典探究
  • 地理歴史 - 地理探究、日本史探究、世界史探究から1
  • 公民 - 倫理、政治・経済から1
  • 数学 - 数学Ⅱ、数学Ⅲ、数学A、数学B、数学C
  • 理科 - 物理、化学、生物、地学から2
  • 英語 - 英語コミュニケーションⅡ、英語コミュニケーションⅢ、論理・表現Ⅰ、論理・表現Ⅱ、論理・表現Ⅲ

この科目の選択においては、校長や教頭と相談しながら、以下のように考えた。共通テストの出題範囲は国語は必履修科目のみ、英語は必履修科目に加えて英語コミュニケーションⅡと論理・表現Ⅰということになっているが、教科特性上どこまでが出題範囲と特定することが困難であり、他教科と同程度以上に学習することが必要という判断から選択科目を加えよう。地理歴史・公民・理科については全科目履修する必要はなく、生徒に選択させて履修させればよいだろう。理科は2科目要求されることが一般的だが、地理歴史を2科目要求する大学は東京大学などごく少数のため、それは生徒自身の自助努力に任せることにしよう。

これらの科目を標準単位数で教育課程に加えるとどのようになるだろうか。先ほどの表に付け加えてみよう。

教育課程編成表暫定版(大学入試科目を加えて)
第1学年 第2学年 第3学年
国語 現代の国語 2 2
言語文化 2 2
論理国語 2 2 4
文学国語 2 2 4
古典探究 2 2 4
地理歴史 地理総合 2 2
歴史総合 2 2
地理探究または日本史探究または世界史探究 3 3
公民 公共 2 2
倫理または政治・経済 2 2
数学 数学Ⅰ 3 3
数学Ⅱ 4 4
数学Ⅲ 3 3
数学A 2 2
数学B 2 2
数学C 2 2
理科 物理基礎 2 2
化学基礎 2 2
生物基礎 2 2
物理または化学または生物 2 2 4
物理または化学または生物 2 2 4
保健体育 体育 3 2 2 7
保健 1 1 2
芸術 音楽Ⅰまたは美術Ⅰ 2 2
外国語 英語コミュニケーションⅠ 3 3
英語コミュニケーションⅡ 4 4
英語コミュニケーションⅢ 4 4
論理・表現Ⅰ 2 2
論理・表現Ⅱ 2 2
論理・表現Ⅲ 2 2
家庭 家庭基礎 2 2
情報 情報Ⅰ 2 2
総合的な探究の時間 1 1 1 3
ホームルーム活動 1 1 1 3
34 31 30 95

今度は週30時間では収まりきらなくなってしまった。週30時間の日課で開講できるように、調整をしなければならない。

類型選択

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前節では、すべての生徒がすべての大学入試に対応できるような科目を履修させる教育課程を編成するには、週30時間では困難であることがわかった。要領p25には「全日制の課程における週当たりの授業時数は,30単位時間を標準とする。ただし,必要がある場合には,これを増加することができる。」という記載があり、あくまで標準でしかない週30時間という授業時数は増加することもできる。しかし、このことを校長に改めて確認してみたが、本校では増加させるつもりはないということであるから、なんとか30時間に収めることを考えねばならない。

このような場合には、生徒に履修科目をある程度の幅で選択させることが必要になってくる。解説p95には「生徒の卒業までの学習計画に系統性,計画性,継続性をもたせるために,類型を設け,ある規模の集団の生徒が共通に履修する各教科・科目をあらかじめ配列することも考えられる」という記載がある。本校では、文系と理系の2つの類型を設けることにし、2年生からは類型選択をさせることにしてみよう。文系では数学や理科の履修を絞ることができ、逆に理系では国語や地歴公民の履修を絞ることができるので、週30時間に収まるめどが立つ。その分、類型の中でさらに科目選択の幅を広くとりすぎると、クラス編成や時間割編成に困難が生じるので、類型の中での科目選択の幅はこれまでよりも制限することにしてみる。

具体的には、文系では数学Ⅲと、基礎を付さない理科の履修を諦めよう。逆に理系では文学国語と、倫理または政治・経済の履修を諦めよう。加えて、クラス編成に困難を生じないように地理歴史と理科の選択の幅を狭める。また、1年生の単位数が過多なので、2年生以降に履修しても問題のない必履修科目は上の学年で履修することに改めよう。以上のような考え方で教育課程を整理しなおしてみたものが、次の表である。

教育課程編成表暫定版(類型選択の導入)
第1学年 第2学年 第3学年
文系 理系 文系 理系 文系 理系
国語 現代の国語 2 2 2
言語文化 2 2 2
論理国語 2 2 2 2 4 4
文学国語 2 2 4
古典探究 2 2 2 2 4 4
地理歴史 地理総合 2 2 2 2
歴史総合 2 2 2
地理探究または日本史探究 3 3
日本史探究または世界史探究 3 3
公民 公共 2 2 2 2
倫理または政治・経済 2 2
数学 数学Ⅰ 3 3 3
数学Ⅱ 4 4 4 4
数学Ⅲ 3 3
数学A 2 2 2
数学B 2 2 2 2
数学C 2 2 2 2
理科 物理基礎 2 2 2
化学基礎 2 2 2
生物基礎 2 2 2
物理または生物 2 2 4
化学 2 2 4
保健体育 体育 3 2 2 2 2 7 7
保健 1 1 1 2 2
芸術 音楽Ⅰまたは美術Ⅰ 2 2 2
外国語 英語コミュニケーションⅠ 3 3 3
英語コミュニケーションⅡ 4 4 4 4
英語コミュニケーションⅢ 4 4 4 4
論理・表現Ⅰ 2 2 2
論理・表現Ⅱ 2 2 2 2
論理・表現Ⅲ 2 2 2 2
家庭 家庭基礎 2 2 2 2
情報 情報Ⅰ 2 2 2 2
総合的な探究の時間 1 1 1 1 1 3 3
ホームルーム活動 1 1 1 1 1 3 3
30 29 31 25 28 84 89

3年間で90に収めることはできている。学年ごとのばらつきはあるが、ここでは自分だけでこれ以上の改良をする前に、まずは各教科主任の意見を聞き、それを踏まえてさらに調整することにしよう。