出典: フリー教科書『ウィキブックス(Wikibooks)』
8つの円盤のハノイの塔
- 「ハノイの塔」は数学ゲームのひとつです。
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- 場面としては、3本の杭があって、それに、穴が空いた大きさがそれぞれ違う円盤が、何個か刺さっています。最初の形は、杭の一つに全ての円盤が、上から小さい順に並んでいます。
- ゲームの目的は、この円盤の重なりを別の杭に移すことです。この時、以下のルールに従います。
- 円盤は、ある杭の一番上にあるものを1個ずつしか動かせない。
- 小さな円盤の上に、大きな円盤を置くことはできない。
- パズルとしては、最も少ない手順(円盤の移動の回数)を求めるものです。
- ハノイの塔は、フランスの数学者エドゥアール・リュカが1883年に発売したゲーム『ハノイの塔』がルーツです。
- 同梱のリーフレットには、次のような伝説があると書かれていました。
インドのガンジス河の畔のヴァラナシ(ベナレス)に、世界の中心を表すという巨大な寺院がある。そこには青銅の板の上に、長さ1キュビット(約50cm)、太さが蜂の体ほどの3本のダイヤモンドの針が立てられている。そのうちの1本には、天地創造のときに神が64枚の純金の円盤を大きい円盤から順に重ねて置いた。これが「ブラフマー(インド神話の神)の塔」である。司祭たちはそこで、昼夜を通して円盤を別の柱に移し替えている(移し変えのルールの説明は省略)。そして、全ての円盤の移し替えが終わったときに、世界は崩壊し終焉を迎える。
- リーフレットでは「ブラフマーの塔」となっていましたが、パッケージでは「ハノイの塔」となって発売されました。ハノイはベトナムの都市(現在は首都)で、1883年当時、フランスはベトナムへ侵攻を深めており、その年はハノイ周辺を保護領化した年でした(1887年ベトナム全体がフランスの植民地となります。なお、ベトナムは仏教国で、インド神話の神ブラフマーとは、直接の縁はなくあまり馴染みはありません)。この伝説は、リュカによるフィクションであって、インドやベトナムに伝えられていたものではありません。
円盤が6個の場合の解き方
- 解き方を考えましょう。
- 1. 最も基本的な形として、杭をA,B,Cとして、まず、Aに、上からa,b,cの円盤が重なっているものとします(円盤の大きさは a<b<c です)。
- 2. 一番上のaしか移せませんから、aをBに移します。
- 3. 次に、bをCに移します。
- 4. 次に、cを移す場所を確保するため、aをCに移し、bに重ねます。
- 5. cを空いているBに移します。
- 6. bを移すために、aをAかBに移すのですが、Bに移すと手順が増えるのでAに移します。
- 7. bをBに移し、cに重ねます。
- 8. aをBに移し、bに重ねることで、AからBへの円盤の移動が完成しました。手順としては、7回の円盤の移動で完成です。
- さて、ここで、これを数学的に考えてみましょう。
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- 円盤は
個あって、杭Aに積まれているとします(上から順につまれた円盤を「山」とここでは呼びます)。
個の山を別の杭に移す最小の手順があって、その回数は
回だとします。
- 一番下の
個目の円盤を杭Bに移すには、
個の山を杭Cに移さなければなりません。つまり、ここで
回の手順が発生します。
- 杭Bには何も残っておらず、また、
個目の円盤の上に別の円盤はないので、
個目の円盤を杭Bに移します。ここで、手順が1個発生しました。
個の山を移すには、杭Cにある
個の山を杭Bに移さなければなりません。ここで、また、
回の手順が発生し、全ての山が杭Bに移りました。
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- 以上から、
個の山を別の杭に移す最小の手順
は、上の3.~5.の手順の合計
に等しい即ち、
であることがわかります。
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- 上の円盤3個の例を当てはめると、
、
は円盤2個の山を動かす手順なので3回、代入して
となります。
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- 同様に円盤4個の場合は、
となります。試してみてください。
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- 一般式に
は、
が1桁程度であれば、順々に計算していけばその数を求めることができますが、数が大きくなると大変で、計算ミスの可能性も増えます。「世界崩壊」の64個を計算するとかとんでもない話です。
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- そこで、これが
の値を得ることで求められる式(一般式)がないかを探求します。
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のように、順を追って値を求める式を漸化式と言い、高等学校数学Bの数列で履修します。
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- 漸化式:
は、
と変形できます。同様に、
なので、
となります。
- これを、順々にやっていくと、
を見ると、
の
の部分と、
の累乗の指数
の和が
であることがわかります。
- そうすると、
は上で
と計算されていますし、
は、1個の円盤を別の杭に移す手順なので
です。いずれにせよ、代入すると、
となり、
- 一般式(数列計算では「一般項」と呼びます):
を得ることができました(公式は、公式集参照)。
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- 伝説はどうなる?
- では、リュカが作った伝説に当てはめてみましょう。
- 世界の寿命は、
の円盤の移動回数なので、
回となります。
- 桁数計算してみましょう。常用対数を使います。
と近似、桁数計算で
は無視できるものとして、
で 20桁の数になります。1億(
)→ 1兆(
)→ 1京(
)→ 1000京(
)の桁となります。
- 円盤が
回移動するのに
秒要するとしましょう。
となり、5,845億年が世界の寿命ということになります。なお、宇宙の始まりであるビッグバンから現在まで約137億年が経過していると言われています。