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MS-DOS

出典: フリー教科書『ウィキブックス(Wikibooks)』

はじめに

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MS-DOS(Microsoft Disk Operating System)は、1981年にMicrosoft社によって開発されたコマンドライン主体のオペレーティングシステムです。本ハンドブックでは、MS-DOSの基本的な使い方から応用的なテクニックまでを、実践的なコード例と共に解説します。

第1章:基本コマンド

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1.1 ディレクトリ操作

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ディレクトリ(フォルダ)の操作は、MS-DOSの基本的なファイル管理機能です。

ディレクトリの表示 (DIR)

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現在のディレクトリ内のファイルとフォルダを表示します:

C:\>DIR
Volume in drive C is SYSTEM
Directory of C:\

AUTOEXEC BAT    512  01-01-2000  12:00p
CONFIG   SYS    384  01-01-2000  12:00p
COMMAND  COM  54528  01-01-2000  12:00p

オプションを使用することで、表示形式を変更できます:

  • /W: ワイド表示
  • /P: 一画面ずつ表示
  • /A: 属性指定表示
C:\>DIR /W

ディレクトリの作成 (MD/MKDIR)

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新しいディレクトリを作成します:

C:\>MD NEWDIR
C:\>MKDIR DOCUMENTS

ディレクトリの移動 (CD/CHDIR)

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別のディレクトリに移動します:

C:\>CD NEWDIR
C:\NEWDIR>
上位ディレクトリへの移動:
C:\NEWDIR>CD ..
C:\>

1.2 ファイル操作

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ファイルのコピー (COPY)

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ファイルをコピーする基本的な構文:

C:\>COPY SOURCE.TXT DEST.TXT
C:\>COPY *.TXT BACKUP\

ファイルの移動/名前変更 (MOVE/REN)

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ファイルを移動または名前を変更します:

C:\>MOVE OLD.TXT NEW.TXT
C:\>REN SOURCE.DOC TARGET.DOC

ファイルの削除 (DEL/ERASE)

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ファイルを削除します:
C:\>DEL OLDFILE.TXT
C:\>ERASE *.BAK

第2章:バッチファイルの作成

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バッチファイルは、複数のコマンドを自動実行するためのスクリプトファイルです。

2.1 基本的なバッチファイル

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簡単なバッチファイルの例(HELLO.BAT):

@ECHO OFF
CLS
ECHO Hello, World!
PAUSE

2.2 変数の使用

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バッチファイルでの変数使用例(GREET.BAT):

@ECHO OFF
SET NAME=%1
IF "%NAME%"=="" SET NAME=User
ECHO Hello, %NAME%!
PAUSE
使用方法:
C:\>GREET John
Hello, John!

2.3 条件分岐

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IF文を使用した条件分岐の例(CHECK.BAT):

@ECHO OFF
IF EXIST %1 (
    ECHO File %1 exists
) ELSE (
    ECHO File %1 not found
)
PAUSE

第3章:環境設定

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3.1 CONFIG.SYS

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システム設定ファイルの基本的な設定例:

DEVICE=C:\DOS\HIMEM.SYS
DOS=HIGH,UMB
COUNTRY=081
FILES=40
BUFFERS=20

3.2 AUTOEXEC.BAT

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システム起動時の自動実行ファイルの例:

@ECHO OFF
PATH C:\DOS;C:\WINDOWS
SET TEMP=C:\TEMP
PROMPT $P$G
CLS
ECHO System ready.

第4章:高度なテクニック

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4.1 リダイレクションとパイプ

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コマンド出力の制御:
C:\>DIR > DIRLIST.TXT
C:\>TYPE FILE.TXT | SORT > SORTED.TXT

4.2 フィルタコマンド

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テキスト処理のための便利なコマンド:

C:\>FIND "Error" LOG.TXT
C:\>SORT < NAMES.TXT > SORTED.TXT

第5章:MS-DOSの歴史

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5.1 誕生と発展

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5.1.1 MS-DOSの誕生(1981年)

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MS-DOSは、IBMのパーソナルコンピュータ向けOSとして開発されました。その起源は、シアトル・コンピュータ・プロダクツ社が開発したQDOS(Quick and Dirty Operating System)にさかのぼります。マイクロソフト社はQDOSの権利を購入し、これを基にMS-DOSを開発しました。

主な初期バージョンの特徴:
  • MS-DOS 1.0 (1981): 最初のリリース
  • MS-DOS 1.25 (1982): 倍密度ディスクのサポート追加
  • MS-DOS 2.0 (1983): ディレクトリ構造とパイプライン機能の導入

5.1.2 成長期(1984-1990)

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この時期、MS-DOSは急速な進化を遂げ、多くの重要な機能が追加されました:

  • MS-DOS 3.0 (1984):
    • 1.2MBフロッピーディスクサポート
    • ネットワーク機能の強化
  • MS-DOS 3.3 (1987):
    • 3.5インチ1.44MBフロッピーディスクサポート
    • 国際化対応の強化
  • MS-DOS 4.0 (1988):
    • シェル機能の導入
    • EMS(Expanded Memory)のサポート強化

5.2 黄金期と進化

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5.2.1 機能の充実(1991-1994)

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この時期のMS-DOSは、機能面で大きく成熟しました:

  • MS-DOS 5.0 (1991):
    DOSSHELL
    MEM /C
    UNDELETE
    
主な特徴:
  • メモリ管理の改善
  • テキストエディタの強化
  • ファイル復元機能の追加
  • MS-DOS 6.0 (1993):
    MEMMAKER
    DEFRAG
    MSBACKUP
    
追加された重要機能:
  • ディスク圧縮(DoubleSpace)
  • メモリ最適化
  • バックアップユーティリティ

5.2.2 最終期(1995-2000)

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Windowsの台頭とともに、MS-DOSは徐々にその役割を変化させていきました:

  • MS-DOS 6.22 (1994): 最後の単独バージョン
  • Windows 95/98でのMS-DOS 7.0/7.1: Windows統合版

5.3 MS-DOSの遺産

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5.3.1 現代のコンピューティングへの影響

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MS-DOSが残した重要な遺産:

  1. コマンドライン文化
  2. ファイルシステムの概念
    • 階層的なディレクトリ構造
    • 8.3形式のファイル名規則(現代のFAT32にも影響)
  3. バッチ処理の考え方
    • 現代のスクリプト言語やタスク自動化の基礎
    • シェルスクリプティングの基本概念

5.3.2 現代でも活きるMS-DOSの考え方

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現代のシステム管理でも有用なMS-DOSの概念:

  1. リソース効率
    @ECHO OFF
    REM メモリ使用の最適化例
    LOADHIGH PROGRAM.EXE
    
  2. モジュール性
    REM サブルーチンの呼び出し
    CALL SUBROUTINE.BAT
    
  3. 自動化の基本
    REM 条件分岐による処理の自動化
    IF EXIST FILE.TXT (
        PROCESS.EXE FILE.TXT
    ) ELSE (
        ECHO File not found
    )
    

5.4 歴史から学ぶ教訓

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  1. シンプルさの価値
    • 単純な機能の組み合わせによる強力な処理能力
    • 低リソースでの効率的な動作
  2. 後方互換性の重要性
    • 古いプログラムの実行保証
    • ビジネス環境での継続性確保
  3. 標準化の意義
    • コマンド体系の統一
    • ファイルシステムの標準化

この歴史を理解することは、現代のコンピュータシステムをより深く理解することにつながります。MS-DOSの設計思想や機能の多くは、現代のオペレーティングシステムにも受け継がれています。

まとめ

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MS-DOSは、シンプルながら強力な機能を持つオペレーティングシステムです。本ハンドブックで紹介したコマンドやテクニックを活用することで、効率的なシステム運用が可能になります。特に、バッチファイルを活用することで、複雑な処理も自動化することができます。

附録:よく使用するコマンド一覧

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  • DIR: ディレクトリ内容の表示
  • CD: ディレクトリの移動
  • COPY: ファイルのコピー
  • DEL: ファイルの削除
  • TYPE: ファイルの内容表示
  • CLS: 画面のクリア
  • HELP: コマンドのヘルプ表示
  • EXIT: MS-DOSの終了

これらのコマンドを組み合わせることで、より効率的なシステム管理が可能になります。