X Window Programming/X Toolkit Intrinsics
Xt(X Toolkit Intrinsics)は、X Window System上で動作するGUIアプリケーションを開発するための中間層ライブラリです。Xtは、ウィジェット(GUI要素)を構築するための基本的なフレームワークを提供し、ウィジェットツールキット(例: Motif, Athena Widgets)を作成するための基盤となっています。
本章では、Xtの基本構造、プログラミングの手順、主要な概念について説明します。
Xtの概要
[編集]Xtは、以下のような特性を持つフレームワークです:
- イベント駆動型のアーキテクチャ: Xtは、Xサーバーからのイベントを処理するためのイベントループを提供します。
- ウィジェット階層: Xtでは、ウィジェットは親子関係を持つ階層構造で管理されます。
- リソース管理: Xtは、アプリケーションの動作や外観を柔軟に設定できるリソースデータベースを提供します。
- ポータビリティ: Xtは、標準化されたインターフェースを提供し、異なるウィジェットツールキット間での互換性を高めています。
Xtアプリケーションの基本構造
[編集]Xtを使用したアプリケーションは、以下のような基本的な構造を持ちます:
- Xtライブラリの初期化
- ウィジェットの作成
- リソースの設定
- イベントループの開始
以下に、基本的なプログラムの例を示します。
プログラム例: ウィンドウの作成
[編集]#include <X11/Intrinsic.h> #include <X11/StringDefs.h> #include <X11/Xaw/Command.h> int main(int argc, char *argv[]) { XtAppContext app_context; /* Xtの初期化 */ Widget top_level = XtVaAppInitialize(&app_context, "SimpleApp", NULL, 0, &argc, argv, NULL, NULL); /* 子ウィジェットの作成 */ Widget button = XtVaCreateManagedWidget("button", commandWidgetClass, top_level, XtNlabel, "Hello, Xt!", NULL); /* イベントループの開始 */ XtRealizeWidget(top_level); XtAppMainLoop(app_context); return 0; }
コードの解説
[編集]- Xtの初期化
XtVaAppInitialize
関数を使用して、Xtアプリケーションを初期化します。この関数は、コマンドライン引数を解析し、リソースデータベースを初期化します。
- ウィジェットの作成
XtVaCreateManagedWidget
関数を使って、ボタンウィジェットを作成します。この関数では、ウィジェットのクラス(commandWidgetClass
)と親ウィジェット(top_level
)を指定します。
- イベントループの開始
XtRealizeWidget
でウィジェットを画面に表示し、XtAppMainLoop
でイベントループを開始します。
Xtの主要概念
[編集]1. ウィジェット階層
[編集]Xtでは、ウィジェットは親子関係を持ち、ツリー構造で管理されます。ルートとなるトップレベルウィジェットの下に、子ウィジェットが階層的に配置されます。この構造により、ウィジェット間のイベント伝播やリソースの継承が可能になります。
トップレベルウィジェット └── コンテナウィジェット ├── ボタンウィジェット └── ラベルウィジェット
2. リソース管理
[編集]Xtは、ウィジェットの外観や動作を柔軟に設定するために、リソースデータベースを使用します。リソースは、コマンドライン引数や設定ファイル、またはプログラム内で指定できます。
- 例
~/.Xresources
に設定を記述SimpleApp*button.label: Click Me!
プログラムはこのリソースを自動的に読み込みます。
3. コールバック関数
[編集]Xtでは、イベントが発生した際に実行されるコールバック関数を登録できます。以下に、ボタンのクリックイベントを処理する例を示します。
void button_callback(Widget widget, XtPointer client_data, XtPointer call_data) { printf("ボタンがクリックされました!\n"); } XtAddCallback(button, XtNcallback, button_callback, NULL);
このコードで、XtAddCallback
を使用してコールバック関数をボタンウィジェットに登録します。
4. イベントループ
[編集]Xtのイベントループは、Xサーバーからのイベントを処理する役割を担います。XtAppMainLoop
を呼び出すことで、アプリケーションはイベントを待機し続けます。
Xtの利点と制限
[編集]利点
[編集]- 柔軟性: リソースデータベースを使用して、アプリケーションの外観や動作を簡単に変更できます。
- 拡張性: ウィジェットツールキットの基盤として設計されており、新しいウィジェットの開発が容易です。
- 標準化: 多くのプラットフォームで利用可能な標準的なインターフェースを提供します。
制限
[編集]まとめ
[編集]Xtは、X Window SystemでGUIアプリケーションを開発するための強力な基盤を提供します。特に、リソース管理やウィジェット階層といった特徴は、柔軟性の高いアプリケーション開発を可能にします。しかし、モダンなGUIフレームワークと比較すると、設計がやや古い点には注意が必要です。Xtの基本を理解することで、MotifやAthena Widgetsなどのツールキットの仕組みをより深く学ぶことができます。