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X Window Programming/X Toolkit Intrinsics

出典: フリー教科書『ウィキブックス(Wikibooks)』

Xt(X Toolkit Intrinsics)は、X Window System上で動作するGUIアプリケーションを開発するための中間層ライブラリです。Xtは、ウィジェット(GUI要素)を構築するための基本的なフレームワークを提供し、ウィジェットツールキット(例: Motif, Athena Widgets)を作成するための基盤となっています。

本章では、Xtの基本構造、プログラミングの手順、主要な概念について説明します。

Xtの概要

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Xtは、以下のような特性を持つフレームワークです:

  • イベント駆動型のアーキテクチャ: Xtは、Xサーバーからのイベントを処理するためのイベントループを提供します。
  • ウィジェット階層: Xtでは、ウィジェットは親子関係を持つ階層構造で管理されます。
  • リソース管理: Xtは、アプリケーションの動作や外観を柔軟に設定できるリソースデータベースを提供します。
  • ポータビリティ: Xtは、標準化されたインターフェースを提供し、異なるウィジェットツールキット間での互換性を高めています。

Xtアプリケーションの基本構造

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Xtを使用したアプリケーションは、以下のような基本的な構造を持ちます:

  1. Xtライブラリの初期化
  2. ウィジェットの作成
  3. リソースの設定
  4. イベントループの開始

以下に、基本的なプログラムの例を示します。

プログラム例: ウィンドウの作成

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#include <X11/Intrinsic.h>
#include <X11/StringDefs.h>
#include <X11/Xaw/Command.h>

int main(int argc, char *argv[]) {
    XtAppContext app_context;

    /* Xtの初期化 */
    Widget top_level = XtVaAppInitialize(&app_context, "SimpleApp", NULL, 0,
                                  &argc, argv, NULL, NULL);

    /* 子ウィジェットの作成 */
    Widget button = XtVaCreateManagedWidget("button", commandWidgetClass, top_level,
                                     XtNlabel, "Hello, Xt!",
                                     NULL);

    /* イベントループの開始 */
    XtRealizeWidget(top_level);
    XtAppMainLoop(app_context);

    return 0;
}

コードの解説

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  1. Xtの初期化
    XtVaAppInitialize関数を使用して、Xtアプリケーションを初期化します。この関数は、コマンドライン引数を解析し、リソースデータベースを初期化します。
  2. ウィジェットの作成
    XtVaCreateManagedWidget関数を使って、ボタンウィジェットを作成します。この関数では、ウィジェットのクラス(commandWidgetClass)と親ウィジェット(top_level)を指定します。
  3. イベントループの開始
    XtRealizeWidgetでウィジェットを画面に表示し、XtAppMainLoopでイベントループを開始します。

Xtの主要概念

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1. ウィジェット階層

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Xtでは、ウィジェットは親子関係を持ち、ツリー構造で管理されます。ルートとなるトップレベルウィジェットの下に、子ウィジェットが階層的に配置されます。この構造により、ウィジェット間のイベント伝播やリソースの継承が可能になります。

トップレベルウィジェット
└── コンテナウィジェット
    ├── ボタンウィジェット
    └── ラベルウィジェット

2. リソース管理

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Xtは、ウィジェットの外観や動作を柔軟に設定するために、リソースデータベースを使用します。リソースは、コマンドライン引数や設定ファイル、またはプログラム内で指定できます。

~/.Xresourcesに設定を記述
SimpleApp*button.label: Click Me!

プログラムはこのリソースを自動的に読み込みます。

3. コールバック関数

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Xtでは、イベントが発生した際に実行されるコールバック関数を登録できます。以下に、ボタンのクリックイベントを処理する例を示します。

void button_callback(Widget widget, XtPointer client_data, XtPointer call_data) {
    printf("ボタンがクリックされました!\n");
}

XtAddCallback(button, XtNcallback, button_callback, NULL);

このコードで、XtAddCallbackを使用してコールバック関数をボタンウィジェットに登録します。

4. イベントループ

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Xtのイベントループは、Xサーバーからのイベントを処理する役割を担います。XtAppMainLoopを呼び出すことで、アプリケーションはイベントを待機し続けます。

Xtの利点と制限

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利点

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  • 柔軟性: リソースデータベースを使用して、アプリケーションの外観や動作を簡単に変更できます。
  • 拡張性: ウィジェットツールキットの基盤として設計されており、新しいウィジェットの開発が容易です。
  • 標準化: 多くのプラットフォームで利用可能な標準的なインターフェースを提供します。

制限

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  • 複雑さ: Xtは低レベルのライブラリであり、学習曲線が急です。
  • 古さ: Xtは古い設計思想に基づいており、モダンなGUIフレームワーク(例: GTK, Qt)に比べると柔軟性に欠ける場合があります。

まとめ

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Wikipedia
Wikipedia
ウィキペディアX Toolkit Intrinsicsの記事があります。

Xtは、X Window SystemでGUIアプリケーションを開発するための強力な基盤を提供します。特に、リソース管理やウィジェット階層といった特徴は、柔軟性の高いアプリケーション開発を可能にします。しかし、モダンなGUIフレームワークと比較すると、設計がやや古い点には注意が必要です。Xtの基本を理解することで、MotifやAthena Widgetsなどのツールキットの仕組みをより深く学ぶことができます。