「高等学校国語総合/漢文/先従隗始」の版間の差分
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先従隗始(先づ隗より始めよ)とは、古代中国の歴史文学の一種である。 |
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:(まず かいより はじめよ。) |
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:原作者: 曾先之 (そう せんし) |
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===現代語訳=== |
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2017年9月22日 (金) 14:41時点における版
先従隗始(先づ隗より始めよ)とは、古代中国の歴史文学の一種である。
先従隗始
- (まず かいより はじめよ。)
- 原作者: 曾先之 (そう せんし)
現代語訳
燕(えん)の国は太子の平を立てて王とした。これが昭王(しょうおう)である。戦死者を弔い(とむらい)、生存者を見舞い、へりくだった言葉遣いをし、多くの礼物を用意して、賢者を招聘(しょうへい)しようとした。昭王は郭隗にたずねて、「斉はわが国の混乱につけこんで、燕を攻め破った。私は燕が小国で、報復できないことをよく承知している。(そこで)ぜひとも賢者を味方に得て、その人物と共に政治を行い、先代の王の恥をすすぐことが、私の願いである。先生、それにふさわしい人物を推薦していただきたい。私自身その人物を師としてお仕えしたい」と言った。
郭隗(かくかい)は、「昔の王で、涓人(けんじん)に千金(せんきん)を持たせて、一日(いちにち)に千里(せんり)走る名馬(めいば)を買いに行かせた者(もの)がおりました。(ところが、涓人は)死んだ馬の骨を五百金で買って帰って来ました。王は怒りました。涓人は言いました『(名馬であれば)死んだ馬の骨でさえ(大金を出して)買ったのです。まして生きている馬だったらなおさら(高く買うに違いないと世間の人は思うことでしょう)。千里の馬はすぐにやって来ます』と。一年もたたないうちに、千里の馬が三頭もやって来ました。今、王がぜひとも賢者を招き寄せたいとお考えならば、まずこの隗(かい)からお始めください。(そうしたら)私より賢い人は、どうして千里の道を遠いと思いましょうか。(いや、遠いと思わずにやって来るでしょう。)」と答えた。
そこで昭王は、郭隗のために新たに邸宅を造って郭隗に師事(しじ)した。その結果、賢者たちは先を争って燕に駆けつけた。
解説
「隗より始めよ」(かいより はじめよ)という故事成語の基になった話である。もともとこの話からわかるように「私からまず使ってください」という自薦の言葉だったのが、だんだん意味が変化して「言い出した人物から物事を始めるべき」という意味で使われることが多くなっている。
気をつけたいのは郭隗のたとえ話である。「死んだ馬」といっても、けっして、なんでもよい訳ではない。名馬だからこそ死んでも価値があり、まして生きた名馬ならもっと価値がある、ということである。「どこぞの馬の骨」でも良いわけではない。ここに郭隗の(いくらか謙遜の混じった)自己推薦が見えてくるようである。
さて、ここでは省略したが、この郭隗の策は大当たりして、後に戦国時代の名将とされる楽毅(がくき、がっき)が燕にやってくる。そして昭王の望んだとおり燕は斉に猛反撃を行い、楽毅の活躍によって斉の70あまりの城を奪ったという。
白文と書き下し文
燕人立太子平為君。是為昭王。弔死問生、 於是昭王為隗改築宮、師事之。於是士争趨燕。 |
隗(かひ)曰はく(いわく)、「 是(ここ)に於いて(おいて)昭王(しょうおう)隗(かい)の為に(ために)改めて(あらためて)宮(きゅう)を築き(きずき)、之(これ)に師事(しじ)す。是(ここ)に於いて(おいて)士6(し)争ひて(あらそいて)燕(えん)に |
(原典: 十八史略)
重要表現
- 死馬且買之。況生者乎
- 死馬すら且つ之を買ふ。況んや生ける者をや。
- 「A すら且つ(かつ) B 、況んや(いわんや) C 乎(や)」
- Aですら B するのだ。まして C ならば、なおさらでBあろう。
この「死馬且〜」の場合、「死馬ですら、これを買うのだから、まして生きている名馬なら、なおさら高く買うだろう。」のような意味。 なお、文中の「之」とは、死んだ名馬のこと。
このような句法( A 且 B 、況 C )を、抑揚(よくよう)という。
- 豈遠千里哉
- 豈に(あに)千里(せんり)を遠し(とおし)とせん哉(や)。
- どうして「千里を遠い」と思うのだろうか。(いや、思うはずがない。)
「豈に」(あに)で、反語(はんご)の意味である。訳すときは、「どうして〜〜か。いや、そうではない。」などのように訳す。
また、文末の「哉」(や)は、感動を表す助字。
- 先従隗始
- まず隗より始めよ
「従」は「より」と読む助字であり、「〜から」と訳す。
まず、この隗から、始めてください。
- 於いて
- 賢於隗者
- 隗より賢なる者は
ここでは、比較を表す。(いろんな意味がある助字。)
参考
- 幣(へい) - 礼物。
- 孤(こ) - 王侯の謙遜した一人称。特に喪中(死者を弔う間)に使う。
- 涓人(けんじん) - 「涓」は「潔」の意味。王の左右にいて清掃をつかさどる者。
- 千里の馬 - 古来より中国では、最高の名馬は一日に千里走るとされた。なお、当時の中国の1里は540m。
- 期年(きねん) - 一年。
- 士(し) - 賢士・賢者。
- 今(いま) - もともとは現在を表す意味だが、仮定を表す意味で、よく用いられる。
- 使涓人求千里馬 - 「使」で使役を表す。「涓人に千里馬を買いに行かせた。」のような意味。
語釈
- 燕 - 国名。
- 昭王(しょうおう) - 燕の国の王のこと。
- 郭隗(かくかい) - 昭王の重臣。人物名。
現在の意味
現在、「まず隗(かい)より始めよ」とは、「物事にとりかかろうとする時は、まずは、なるべく身近な課題から解決しなさい。まずは言い出した本人から、始めなさい。」というような意味。