「高等学校化学II/イオン交換樹脂」の版間の差分

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製塩工業についての参考文献を追加。
ボイラー水について、「純水化」ではなく「硬水(こうすい)成分を除去」に変更。 ついでに冒頭の食塩製造の話をコラム化。検定教科書でもコラム的に紹介されてるし。
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;イオン交換樹脂
== 「イオン交換樹脂」とは ==
純水の製造や、溶液中の成分の濃縮に、'''イオン交換樹脂'''(ion-exchange resin)が用いられている。イオン交換樹脂とは、溶液中のイオンを、べつのイオンに交換する樹脂である。
純水の製造や、溶液中の成分の濃縮に、'''イオン交換樹脂'''(ion-exchange resin)が用いられている。イオン交換樹脂とは、溶液中のイオンを、べつのイオンに交換する樹脂である。


純水の製造には、海水の淡水化(塩水から、真水(まみず)にすること。)や、他には工業用の純水化がある(※ 範囲外: たとえばボイラーに使う水の純水化などに、イオン交換樹脂が使われている。 参考文献: 工業高校用の教科書『工業材料』平成16年発行版)。
純水の製造には、海水の淡水化(塩水から、真水(まみず)にすること。)や、他には工業用の純水化がある(※ 範囲外: たとえばボイラーに使う水からカルシウムなど硬水(こうすい)成分を除去するのに、イオン交換樹脂が使われている。 参考文献: 工業高校用の教科書『工業材料』平成16年発行版)。(※ 硬水については『[[高等学校化学I/金属元素の単体と化合物/2族元素/Be・Mgとアルカリ土類金属]]』を参照せよ。)



:( ※ 発展:)またイオン交換樹脂は、食塩の製造にも使われている。(※ 啓林館および第一学習社の検定教科書で記述を確認。) 「イオン交換膜」という技術が使われる。(※ 本wikibooksでは「イオン交換膜」の詳しい説明は、省略する。)
{{コラム|食塩の製造 ( ※ 発展)|
:食塩の製造では、まず海水をもとに、イオン交換膜をつかって食塩水の塩分濃度を上げ、それを他の容器に移して煮詰める事で、食塩を製造している。(※ 参考文献: サイエンス社『工学のための無機化学 [新訂版]』、橋本和明 著、2016年 新訂版、120ページ) 結局、食塩の製造では、最終的には、塩田と同様に蒸発に頼ることになる - 現代の(イオン交換膜を使う)方法でも。
食塩の製造にも、イオン交換樹脂が使われている。(※ 啓林館および第一学習社の検定教科書で記述を確認。) 「イオン交換膜」という技術が使われる。(※ 本wikibooksでは「イオン交換膜」の詳しい説明は、省略する。)

食塩の製造では、まず海水をもとに、イオン交換膜をつかって食塩水の塩分濃度を上げ、それを他の容器に移して煮詰める事で、食塩を製造している。(※ 参考文献: サイエンス社『工学のための無機化学 [新訂版]』、橋本和明 著、2016年 新訂版、120ページ) 結局、食塩の製造では、最終的には、塩田と同様に蒸発に頼ることになる - 現代の(イオン交換膜を使う)方法でも。
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== 陽イオン交換樹脂 ==
== 陽イオン交換樹脂 ==

2018年3月11日 (日) 04:58時点における版

「イオン交換樹脂」とは

純水の製造や、溶液中の成分の濃縮に、イオン交換樹脂(ion-exchange resin)が用いられている。イオン交換樹脂とは、溶液中のイオンを、べつのイオンに交換する樹脂である。

純水の製造には、海水の淡水化(塩水から、真水(まみず)にすること。)や、他には工業用の純水化がある(※ 範囲外: たとえばボイラーに使う水からカルシウムなど硬水(こうすい)成分を除去するのに、イオン交換樹脂が使われている。 参考文献: 工業高校用の教科書『工業材料』平成16年発行版)。(※ 硬水については『高等学校化学I/金属元素の単体と化合物/2族元素/Be・Mgとアルカリ土類金属』を参照せよ。)


食塩の製造 ( ※ 発展)

食塩の製造にも、イオン交換樹脂が使われている。(※ 啓林館および第一学習社の検定教科書で記述を確認。) 「イオン交換膜」という技術が使われる。(※ 本wikibooksでは「イオン交換膜」の詳しい説明は、省略する。)

食塩の製造では、まず海水をもとに、イオン交換膜をつかって食塩水の塩分濃度を上げ、それを他の容器に移して煮詰める事で、食塩を製造している。(※ 参考文献: サイエンス社『工学のための無機化学 [新訂版]』、橋本和明 著、2016年 新訂版、120ページ) 結局、食塩の製造では、最終的には、塩田と同様に蒸発に頼ることになる - 現代の(イオン交換膜を使う)方法でも。


陽イオン交換樹脂

陽イオン交換樹脂の構造

スチレンC6H5-CH=CH2 とp-ジビニルベンゼン CH2=CH-C6H5-CH=CH2 を共重合化させると、立体網目状で、水には不溶の高分子が得られる。これを濃硫酸でスルホン化すると、スチレンのベンゼン環にスルホ基-SO3Hが導入される。 この樹脂は、水溶液中では水素イオンを放出し、代わりに溶液中の他の陽イオンと結合する事ができる。このような、水溶液中では水素イオンを放出し、代わりに溶液中の他の陽イオンと結合する事ができる 樹脂を陽イオン交換樹脂という。 このスチレンとp-ジビニルベンゼンを共重合化させたものを濃硫酸でスルホ化させた樹脂は、陽イオン交換樹脂の代表的なものとして、よく用いられる。

使用して、陽イオンが水素以外と交換したものは、そのままでは交換能力を失っているが、この樹脂に希塩酸や希硫酸などの酸性の溶液を通すと、ふたたびスルホ基-SO3 に水素分子Hが結合した状態-SO3Hに戻り、陽イオンの交換能力を取り戻す。 使用済みの陽イオン交換樹脂が、陽イオンの交換能力を取り戻すことを、イオン交換樹脂の再生という。


陰イオン交換樹脂

ポリスチレン分子中に、トリメチルアンモニウム基-N+(CH3)3などの塩基性の基を導入し、さらに強塩基でアルカリ化して基を-N+(CH3)3OH- にしておく。

この基は、溶液中の陰イオンとOH- を交換する能力を持つ。このような樹脂を、陰イオン交換樹脂と呼ばれる。

使用済みの陰イオン交換樹脂は、水酸化ナトリウム溶液などの強塩基を通すことで、イオン交換が再生する。


水酸化ナトリウムの製造

※ 教科書の範囲内。数研出版や東京書籍や実教出版の教科書に記述あり。

工業的に水酸化ナトリウムの作る際に、イオン交換膜をもちいて設備で、食塩水を電気分解する方法が利用されている。

イオン交換膜法によるNaOHの製造法

図のように陽イオン交換膜による隔壁でへだてて片方に陽極、もう片方に陰極の電極を配置する。 そして、陽極側にNaCl水溶液を入れる。電圧をなにも加えて無い状体では、NaイオンとClイオンに分離している。

そして電圧を加えると、Clイオンが陽極のプラス電荷を受け取って塩素ガスになり気体となって排出される。いっぽうで、Naイオンはそのまま水溶液中にとどまるので、陽極側にある水溶液中のNaイオン濃度が高くなる。

またイオン交換膜を通過できるのはNaイオンだけなので、隔壁の反対側の水には、溶質にはNaイオンだけが存在することになる(※ 説明の単純化のため、空気中の不純物などは無視する)。Naイオンは陰極側でマイナス電荷を受け取り、その結果、NaOHと水素を発生する。水素は排出する。

よって、隔壁の反対側がNaOH水溶液になる。


※ なお「アンモニアソーダ法」は炭酸水素ナトリウムの製法である。混同しないように。

※ 範囲外: 応用について

  • 医療用の人工透析

医療でもちいる人工透析でも、イオン交換膜が用いられている。(啓林館の検定教科書で確認。)

  • 半導体用の超純水

なお、半導体の製造に使う「超純水」は、じつは純粋な水ではなく、半導体製造用に成分のコントロールされた水である。この超純水の製造も、水道水をもとにイオン交換樹脂で純度を上げた水が、使われているらしい。「工業材料」の教科書にも、超純水の製造にイオン交換樹脂が使われてると書いてある。また、ネットで検索すると、たとえば電機メーカーの日立の技術報告書『日立評論』の、90年代の超純水のイオン交換樹脂による論文の記事も出て来る。

電気分解は、どうやら半導体製造用の超純水の製造には用いていないようである。たしか1990年代にテレビの科学番組(『たけしの万物創世記』)だったかで、電気分解による超純水の開発の研究があるという話を聞いたような記憶があるが、どうも実用化しなかったようだ。