「線型代数学/計量ベクトル空間」の版間の差分

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Ninomy (トーク | 投稿記録)
線型代数学/ベクトル 2009年6月11日 (木) 00:58 (UTC) より「ノルム」「内積」セクションを移動; 執筆者: 61.210.160.13, 122.18.219.134, 61.121.74.171, 122.18.219.134, 61.121.73.226 ほか
 
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一般のノルム・内積
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このページでは、2、3次元の数ベクトルの長さや内積を拡張し、一般の線型空間のベクトルについても、長さ(ノルム)や内積を定義する。
== ノルム ==

2、3次元の数ベクトルの場合は、[[高等学校数学B ベクトル#ベクトルの長さ|高等学校数学B ベクトル]]を参照のこと。

== 数ベクトルのノルム・内積 ==
=== ノルム ===
ベクトルには大きさも定義される。ふつうそれは||a||で表され、
ベクトルには大きさも定義される。ふつうそれは||a||で表され、
:<math>||\mathbf{a}||=\sqrt {\sum^{n}_{i=1} |a_i|^2}</math>
:<math>||\mathbf{a}||=\sqrt {\sum^{n}_{i=1} |a_i|^2}</math>
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\end{pmatrix}</math>
\end{pmatrix}</math>


== 内積 ==
=== 内積 ===
ここでは実ベクトルの場合に関して述べる。
ここでは実ベクトルの場合に関して述べる。
:<math>(\mathbf{a},\mathbf{b}) = \sum^{n}_{i=1} a_ib_i</math>
:<math>(\mathbf{a},\mathbf{b}) = \sum^{n}_{i=1} a_ib_i</math>
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注)そのようなベクトルはただひとつではない。
注)そのようなベクトルはただひとつではない。

==一般の線型空間でのノルム・内積==
次に、上で書いたような数ベクトルのノルム・内積の概念をさらに拡張しよう。
===定義===
<math>\ V</math> を <math>\bold K</math>上の線型空間とする。

<math> \bold x,\bold y \in \ V </math> に対して、<math> \bold K </math> の元をかえすような演算<math> (\bold x, \bold y)</math>が次の'''(Ⅰ)'''~'''(Ⅳ)'''の性質をみたすとき、<math> (\bold x, \bold y)</math>を'''内積'''という。

;(Ⅰ)<math>(\bold x,\bold y_1 + \bold y_2) = (\bold x,\bold y_1) + (\bold x,\bold y_2)</math> :<math>(\bold x_1 +\bold x_2, \bold y) = (\bold x_1,\bold y) + (\bold x_2,\bold y) </math>

;(Ⅱ)<math>(c\bold x,\bold y) = c(\bold x,\bold y) ,(\bold x,c\bold y) = \bar c(\bold x,\bold y) </math> :(<math>\bar c </math>は<math>\ c</math> の複素共役)

;(Ⅲ)<math>(\bold x,\bold y) = \overline {(\bold y,\bold x)} </math>

;(Ⅳ)<math>(\bold x, \bold x) \geq 0 </math> :<math>(\bold x,\bold x) = 0 </math> が成り立つのは、<math>\bold x = \bold 0 </math> のときに限る。

また、
:<math>|| \bold x || = \sqrt{(\bold x ,\bold x)}</math>
で定義される量を'''x'''の'''ノルム'''という。

このように、内積が定義された線型空間を'''計量ベクトル空間'''('''計量線型空間''')という。

===例===
1.<math> \ V = \C^n ,\bold x,\bold y \in \C^n</math> のとき、
:<math> (\bold x,\bold y) = \sum^{n}_{i=1} x_i\bar y_i </math>
とすれば、これは内積になっている。

2.<math>\ V = \ M(m,n;\R) ,\ A,\ B \in \ M(m,n;\R)</math> のとき、
:<math>(\ A,\ B) = \ Tr(^tA \ B)</math>
とすれば、これは内積になっている。(Trについては[[線型代数学/行列概論#その他|行列概論]]を参照)

3.<math>\ V = </math>{<math>0 \leq x \leq 1 </math>上連続な関数} ,<math>\ f(x),\ g(x)</math> は<math>0 \leq x \leq 1 </math>上連続な関数のとき、
:<math>(\ f(x),\ g(x)) = \int^{1}_{0} f(x)g(x) dx </math>
とすれば、これは内積になっている。

===三角不等式・シュワルツの不等式===
ここで定義した内積・ノルムに関しても数ベクトルの場合と同様に三角不等式・シュワルツの不等式が成り立つ。

''定理'' <math>\forall \bold x,\forall \bold y \in \ V </math> に対して、次の(1),(2)の不等式が成り立つ。

(1)<math> |(\bold x,\bold y)| \leq ||\bold x|| \cdot ||\bold y|| </math>(シュワルツの不等式)

等号が成り立つのは、<math>\bold x = \ a\bold y</math>と書ける場合のみ。

(2)<math>|| \bold x + \bold y || \leq || \bold x || + || \bold y || </math>

等号が成り立つのは、<math> \ a \geq 0 </math> を用いて、<math> \bold x = \ a\bold y</math> と書ける場合のみ。

(証明)(1)

2009年6月20日 (土) 10:40時点における版

このページでは、2、3次元の数ベクトルの長さや内積を拡張し、一般の線型空間のベクトルについても、長さ(ノルム)や内積を定義する。

2、3次元の数ベクトルの場合は、高等学校数学B ベクトルを参照のこと。

数ベクトルのノルム・内積

ノルム

ベクトルには大きさも定義される。ふつうそれは||a||で表され、

と定義される。これをaのノルムと言う。

演習

次のベクトルのノルムを求めよ

内積

ここでは実ベクトルの場合に関して述べる。

ab内積という。

特に2,3次元空間ベクトルabとの内積は、abのなす角をθとすると、

と表される。逆に、一般のn次元実ベクトルのなす角という概念を、この関係式によって定義することができる。

内積については、次の性質が成り立つ。いずれも証明は易しい。

  • (a,a)=||a||2
  • abが直交する⇔(a,b)=0[1]
  • c(a,b)=(ca,b)=(a,cb)
  • (a,b+c)=(a,b)+(a,c)
  • (a+b,c)=(a,c)+(b,c)
  • (a,b)=(b,a)
  • ||a||+||b||≧||a+b||(三角不等式)
  • |(a,b)|≦||a||||b||(シュワルツの不等式)
  1. ^ なす角について上で述べたのと同様に、これは二次元・三次元の実ベクトルについては「性質」である。逆に、それ以外のベクトルではこれは直交の「定義」である。

演習

空間ベクトル

とのなす角がであり、かつ

とのなす角がであるようなノルムが1のベクトルを求めよ。

注)そのようなベクトルはただひとつではない。

一般の線型空間でのノルム・内積

次に、上で書いたような数ベクトルのノルム・内積の概念をさらに拡張しよう。

定義

 を 上の線型空間とする。

に対して、 の元をかえすような演算が次の(Ⅰ)(Ⅳ)の性質をみたすとき、内積という。

(Ⅰ)
(Ⅱ)
の複素共役)
(Ⅲ)
(Ⅳ)
が成り立つのは、 のときに限る。

また、

で定義される量をxノルムという。

このように、内積が定義された線型空間を計量ベクトル空間計量線型空間)という。

1. のとき、

とすれば、これは内積になっている。

2. のとき、

とすれば、これは内積になっている。(Trについては行列概論を参照)

3.{上連続な関数} ,上連続な関数のとき、

とすれば、これは内積になっている。

三角不等式・シュワルツの不等式

ここで定義した内積・ノルムに関しても数ベクトルの場合と同様に三角不等式・シュワルツの不等式が成り立つ。

定理  に対して、次の(1),(2)の不等式が成り立つ。

(1)(シュワルツの不等式)

等号が成り立つのは、と書ける場合のみ。

(2)

等号が成り立つのは、 を用いて、 と書ける場合のみ。

(証明)(1)