場合の数と確率
たとえば、おはじきを一列に並べる場合、並べ方の数には、いくつもの方法がある。じっさいに全ての並び方を試すことも、時間さえあれば実験可能である。
このように、「全部で何通りがあるか」という、その「何通り」の「何」にあたる数字を、場合の数(ばあいのかず) と呼ぶ。
このように事柄には、それらのやり方が全部で何通りあるかを数えることが出来る事柄がある。
ある事柄について(そのことが起こりうる)場合の数を正確に数えることが理解の基礎であり、その事柄について、どのことが起こりやすくどのことが起こりづらいかを見分けるための基礎となる。
つまり、場合の数は事柄が起こりうる確率と密接な関係にある。
例えば、ポーカーなどのカードゲームでは集めることが難しい役は高いランクが与えられているが、
これは起こりにくい役が出来るトランプの組み合わせの現われる確率が小さいことによる。このことは、52枚のカードから5枚を引いて来たときに全てのカードを引く確率が同じであるとしたとき、ある役に対応するカードの組み合わせを引く場合の数がより少ないことに対応する。
このように、場合の数は事柄が起こりうる確率と密接な関係にある。
カードゲームのように確率が具体的に計算できる場合の他にも、
確率の考え方を用いて計算される事柄は多くある。
たとえば、保険(ほけん)と呼ばれるものはある事柄に値段をつけるものであるが、
保険を下ろさなくてはならない事柄が起こりにくいと客観的に思われるものほど、そのものの値段が下がるという特徴がある。例えば、自動車保険に加入するのに必要な代金は若者では高く、年令を重ねるごとに低くなっていく。
これは、若者は自動車の免許を取得して時間が短い場合が多く、保険金の支払を必要とする自動車事故をおこす可能性が高いことによる。
いっぽう、年令を重ねたものについては運転の技量が時とともに上達すると一般に考えられるので保険をかけるための代金は少なくなるのである。
また、同じ若者でも既に何度か事故を重ねたものは同じ年代の他の若者よりも保険料が高くなる傾向がある。
これは、何度か事故を重ねたものは運転の仕方に何らかの問題がある傾向があり、それによってふたたび事故をおこす可能性が通常のものと比べてより高いと考えられることによる。
銀行の融資(ゆうし)でもやはり確率の考えを用いて高い利益を出すことが実践されている。
融資でもやはり保険業とおなじく、より貸倒れになる可能性が高い相手に対しては高い金利で資金を貸し付け、
より安定した資金を持っている相手に対してはより低い金利で資金を貸し付けることを実行して来た。
利益を安定的に稼ぐ方法として、いくつかの会社が発行する互いに性質の異なった株などを合わせて購入先を分散することで株の値段が下がったときでも値段があまり減ることが無いようにする方法が考案されている。
(ただし、値段が減りづらいのと同様に、値段は上がりづらい。)
これは、性質の異なった商品を合わせて扱うことで、値段が急変する確率を下げることが出来ることを表わしている。
しかし、確率では、必ずしも予測した通りに事が進むわけでは無いことに注意する必要がある。
この章では場合の数と確率の計算法を紹介する。まず先に様々な事柄の場合の数の計算法を扱い、その結果を用いてある事柄が起こる確率を計算する方法を紹介する。
順列・組合せ
階乗
場合の数の計算方法の始めとして、n個の異なったものを並べ換える仕方の数を数える。
まず最初に並べるものはn個、次に並べるものは(n-1)個、その次に並べるものは(n-2)個 ... とだんだんと選べるものの数が減って行き、最後には1個しか残らなくなることに注目すると、この事柄に関する場合の数は
となることが分る。
ここで、
を定義するとこのときの場合の数は、n!であると言うことが出来る。
n!をnの階乗(かいじょう、factorial)と呼ぶ。
をそれぞれ計算せよ。
を用いて計算すればよい。
答えは、
となる。
それぞれに1から5までの数字が書かれた5枚のカードが置いてある。
このカードを並べ換えたとき、
(I)カードの並べ方の数、 (II)偶数が得られるカードの並べ方の数、 (III)奇数が出るカードの並べ方の数を、それぞれ計算せよ。
(I)
カードの数が5枚でそれぞれが区別できることから、カードの並べ方の数は
となり、120となる。
(II)
偶数を得るためには一の位である最も右に出るカードが、偶数となればよい。
このようなカードは2と4であり、それぞれに対して後の4枚は自由に選んでよい。
このため、このようなカードの並べ方は、
となる。
(III)
奇数を得るためには一の位である最も右に出るカードが、奇数となればよい。
このようなカードは1,3,5であり、それぞれに対して後の4枚は自由に選んでよい。
このため、このようなカードの並べ方は、
となる。一方、5枚のカードを並べ換えて得られる数は必ず偶数か奇数の
どちらかであるので、(I)の結果から(II)の結果を引くことによっても
(III)の結果は得られるはずだが、実際にそれを計算すると
となり、確かにそのようになっている。
0,1,2,3,5が書かれた5枚のカードがある。これを並び換えたとき、
- (I)5桁の数が得られる数、 (II) 5桁の偶数が得られる数、(III) 5桁の奇数が得られる数、(IV) 5桁の5の倍数が得られる数
をそれぞれ求めよ。
(I)
先頭が0になったときには5桁の数にならないことに注意すればよい。求める場合の数は
となる。
(II)
最初が0でなく最後が0か2である数を数えればよい。まず、最後が0であるときには、残りの4枚は任意であるので
通りの組み合わせがある。
次に、最後が2であるときには最初は0であってはいけないので、
通りある。
2つを合わせた数が5桁の偶数が得られる場合の数である。答えは、
となる。
(III)
(I)の結果から(II)の結果を引けばよいが、ここではその結果が正しいかどうか
確かめるためにも5桁の奇数が得られる組み合わせを数え上げてみる。
5桁の奇数を得るためには最後の数は1,3,5のいずれかでなくてはならない。
このうちのどの場合についても5桁の数を得るためには最初の数が0で
合ってはならないのでそれぞれの場合の数は、
となりこれが5桁の奇数を得る場合の数である。
(II)の結果と足し合わせると確かに(I)の結果と等しい96を得る。
(IV)
5の倍数を得るためには最後の数が0か5であればよい。
このとき最後が0になる場合の数は他の4つが任意であるため
存在する。次に、最後が5になる場合の数は最初の数が0であってはならないため
だけ存在する。
よって答えは
となる。
順列
n個の異なったものからr個を選んで、順番をつけて並べる仕方の数を、と書く。
また、このような計算の仕方を 順列(じゅんれつ、英:permutation) という。
この数は、最初に並べるものはn個、次に並べるものは(n-1)個、その次に並べるものは(n-2)個 ... 最後には(n-(r-1))個というように、だんだんとるものの数が減って行くことに注目すると、
が得られる。
(I)
(II)
(III)
(IV)
(V)
(VI)
をそれぞれ計算せよ。
それぞれ
を用いて計算すればよい。
結果は、
(I)
(II)
(III)
(IV)
(V)
(VI)
となる。
(V)と(VI)については一般的に整数nに対して
が得られる。このとき
は元々の順列の定義からすると"n個のものの中から1つも選ばない場合の数"に対応しており、少々不自然なように思えるが、このように値を置いておくと便利であるため通常このように置くのである。あまり、実際の場合の数の計算でこのような値を扱うことは多くはないといえる。
組み合わせ
n個の異なったものからr個を選んで、順番をつけずに並べる仕方の数を、と書き、このような計算を 組み合わせ(くみあわせ、英:combination) という。
例えば、いくつもあるボールに番号がふってあるなどの方法で、それぞれのボールが区別できるn個のボールが入った箱の中からr個のボールを取りだす時、取りだしたボールを取りだした順に並べるとすると、この場合の数は順列に対応する。
一方、取りだしたボールの種類が重要であり取りだした順番が特に必要でないときには、この場合の数は組み合わせに対応する。これらの数はお互いに異なった場合の数であり、互いに異なった計算法が必要となる。
は、通りの並べ方を作った後にそれらの並びを無視したものに等しい。ここで、r個を取りだして作った並びについて、並べ方を無視するとr!個の並びが同一視されることがわかる。
なぜなら、r個のお互いに区別できる数を自由に並び換える場合の数はr!であり、それらが全て同一視されるとすれば全体の場合の数は
r!の分だけ減ることになるからである。よって、
が得られる。
(I)
(II)
(III)
(VI)
を計算せよ。
それぞれについて
を用いて計算すればよい。
(I)
(II)
(III)
(VI)
となる。(IV)については一般に整数nに対して
を定義する。
これはもともとの組み合わせの計算としてはn個の物体のなかから0個の物体を選ぶ場合の数に対応しており、
実際にはこのような場合の数を計算しようと考えることはあまり無いと思われるが、計算の便宜上のため定義を上のようにする。
また、上の計算では
の式をそのまま用いると、
つまり、
となっている。
実際には階乗の計算は整数nについてはnから1までを下がりながらかけ算していくという仕方で計算されていたので、上の結果は妙に思える。
しかし実際には、より進んだ理論によってこの結果は正当化されるのであり、
この場合も便宜上
を0の階乗の定義として受けいれるのである。
5個のボールが入ったボール入れから2つのボールを取りだすとき(ボールはそれぞれ
区別できるものとする。)2つのボールの選び方は、
何通りあるか計算せよ。
ボールの取りだし方は組み合わせの数を用いて計算できる。
5つのボールの中から2つを取りだすのであるからその場合の数は、
となる。よって、ボールの取りだし方は10通りであることがわかる。
6個の互いに区別できるボールが入った箱がある。
この中から (I)3つのボールと2つのボールを取りだす方法の場合の数、(II)2つのボールを取り出すことを2回くり返し、それぞれを別の互いに区別できる袋にいれる場合の数、(III)2つのボールを取り出すことを2回くり返し、それぞれを別の互いに区別できない袋にいれる場合の数、をそれぞれ計算せよ。
(I)
最初にボールを取りだすときには、6つのボールの中から3つのボールを取りだすことからその場合の数は
だけある。また、次にそれを取り除いた中から2つのボールを取り除くときには
その取りだし方は、
だけある。
よって、このときの場合の数は
だけになる。実際この値を計算すると、
となり、60通りであることが分かる。
(II)
(I)の場合と同様に6つのボールの中から2つのボールを
取りだすことからその場合の数は
だけある。また、次にそれを取り除いた中から2つのボールを取り除くときには
その取りだし方は、
だけある。
よって、このときの場合の数は
だけになる。実際この値を計算すると、
となり、90通りであることが分かる。
(III)
(II)と同じ計算で値を求めることが出来るが、今回はボールをいれた袋が
互いに区別できないことに注意しなくてはならない。
このことによって、起こりうる場合の数は(II)の場合の半分になるので
求める場合の数は45通りとなる。
について以下の式が成り立つ。
- ,
導出
を用いると、
が得られ、示された。
同様に
を用いると、
となり示された。
2つ目の式は、
"n個のものからr個を選ぶ仕方の数は、次の数の和である。
最初の1つを選ばずに他のn-1個からr個を選ぶ仕方の数と、最初の1つを選んで他のn-1個からr-1個を選ぶ仕方の数との
和である。"
ということを表わしている。
を用いて
(I)
(II)
(III)
(VI)
をそれぞれ計算せよ。
上の式を用いて計算することが出来る。もちろん直接に計算しても
答えを得ることが出来るが、通常は簡単化してから計算した方が楽である。
(I)
(II)
(III)
(VI)
となる。
図のようなルートを左下の点から右上の点まで歩いて行く人がいる。
ただし、この人は右か上にしか進めないとする。このとき、
- (I) 左下から右上まで進む仕方の数
- (II) a点を通過して右上まで進む仕方の数
を計算せよ。ただしa点は*と書かれている点のすぐ下の通路のことをさしている。
それぞれのルートは途切れていない縦4つ、横5つの碁盤目上のルートに
なっていることに注意せよ。
___________
|_|_|_|_|_|
|_|_|*|_|_|
|_|_|_|_|_|
|_|_|_|_|_|
(I)
左下にいる人は9回進むことで右上の点に辿り着ける。そのため、左下にいる人が選びうるルートの数は9回のうちのどの回で右ではなく上を
選ぶかの場合の数に等しい。このような場合の数は、9回のうちから自由に4つの場所を選ぶ方法に等しく、組み合わせを用いて書くことが出来る。実際に9回のうちから自由に4つの場所を選ぶ方法は、
で書かれる。この量を計算すると、
が得られる。
(II)
a点を通過して進むルートの数はa点の左の点までいってからa点を通過し、a点の右の点を通って右上の点までいく仕方の数に等しい。
それぞれのルートの数は(I)の方法を用いて計算することができる。この数を実際に計算すると、
となり、36通りであることが分かる。
二項定理
上で紹介した組み合わせの計算を多項式の展開に応用することが出来る。
を展開することを考える。これは、
という式を展開したものであり、その係数は
"n個の(a+b)の中からいくつのa(またはb)を選ぶか"で決めることが出来る。
(かけ算なのでaかbのどちらかを必ず選ばなくてはならないことに注意。)
しかし、この仕方の数は、aについてr次の項ではに等しい。
よって、次の式が得られる。
ここで、
は、整数rを0から0以上の整数nまで変化させながらその結果のそれぞれを足し合わせるという意味である。この記号はシグマと読まれる。
この式を 2項定理(にこうていり、英:binomial theorem) という。また、それぞれの項にかかる係数を 2項係数(にこうけいすう、英:binomial coefficient) と呼ぶことがある。
これによって、大きい次数の多項式を展開する方法が分かったことになる。
また、それぞれの2項係数はw:パスカルの三角形(英:Pascal's triangle)と呼ばれる方法でも計算することができる。
次数の低いものをあげておくと、
が得られる。
(I)
(II)
(II)
(II)
をそれぞれ計算せよ。
2項定理を用いて計算すればよい。実際に計算を行なうと、
(I)
(II)
(III)
(VI)
となる。
2項定理
を用いてある整数nに対して
(I)
(II)
(III)
が成り立つことを示せ。
2項定理
についてa,bに適当な値を代入すればよい。
(I)
a = 1,b=1を代入すると、
となり確かに与えられた関係が成立することが分かる。
(II)
a=2,b=1を代入すると、
となり確かに与えられた関係が成立することが分かる。
(III)
a=1,b=-1を代入すると、
となり確かに与えられた関係が成立することが分かる。
確率とその基本的な法則
確率の計算
ある場合の数が、実際に現われる割合のことを確率(かくりつ、英:probability)と呼ぶ。
ある場合の数が実際に現われる割合は、その場合の数を割り算で、その事柄において起こり得る全ての事柄の場合の数で割ったものに等しい。
たとえば、全く等しい割合で全ての面が出るさいころをふったときに1が出る確率はである。
これは1が出る場合の数1を、1,2,3,4,5,6のいずれかが出る場合の数6で割ったものに等しい。
事象Aの確率
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起こりうるすべての場合の数をN、事象Aの起こる場合の数をaとするとき、事象Aの起こる確率P(A)は以下の式で求められる。
|
赤玉2個と白玉3個が入った袋から、玉を2個同時に取り出す。このとき、2個とも白玉が出る確率を求めよ。
赤白あわせて5個の玉から2個を取り出す方法は
- (通り)
このうち、2個とも白玉になる場合は
- (通り)
よって求める確率は
確率の性質
確率の定義から、次の性質が得られる。
確率の性質
|
(1)どんな事象Aについても 、
(2)決して起こらない事象の確率は 0
(3)必ず起こる事象の確率は 1
|
排反事象の確率
2つの事象A,Bが同時に起こらないとき、事象AとBは互いに排反(はいはん、英:exclusive)である、またはAとBは排反事象であるという。
排反事象の確率
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AとBが排反事象のとき、AまたはBが起こる確率は
|
男子7人、女子5人の中から、くじ引きで3人の委員を選ぶとき、3人とも同性である確率を求めよ。
12人の中から3人の委員を選ぶ場合の数は
- (通り)
ここで、「3人とも男子である」事象をA、「3人とも女子である」事象をBとすると、「3人とも同性である」事象は、和事象A ∪ Bであり、しかも、AとBは排反事象である。
-
-
よって求める確率は
余事象の確率
事象Aに対して、「Aでない」事象をで表し、Aの余事象という。
余事象の確率
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Aの余事象をとすると
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赤玉5個、白玉3個の計8個入っている袋から3個の玉を取り出すとき、少なくとも1個は白玉である確率を求めよ。
8個の玉から3個の玉を取り出す場合の数は
- (通り)
いま、「少なくとも1個は白玉である」事象をAとすると、は「3個とも赤玉である」という事象だから
よって求める確率は
独立な試行と確率
独立な試行と確率
たがいに他の結果に対して影響をおよぼさない操作を繰りかえすとき、それぞれの試行は独立(どくりつ、英:independent)であると言う。独立な試行については、ある試行の起こる確率が定められていて、それをn回繰りかえしたとき、それらが起こる確率は、それぞれの試行が起こる確率の積となる。
独立な試行と確率
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2つの独立な試行S,Tについて、Sでは事象Aが、Tでは事象Bが起こる確率は
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赤玉3個、白玉2個の計5個入っている袋がある。この中から1個の玉を取り出して色を確かめてから袋に戻し、再び1個を取り出すとき、1回目は赤玉、2回目は白玉を取り出す確率を求めよ。
1回目に取り出した玉を袋に戻すので、「1回目に取り出す」試行と「2回目に取り出す」試行とは互いに独立である。
1回目に取り出した1個が赤玉である確率は
2回目に取り出した1個が白玉である確率は
したがって求める確率は
反復試行の確率
同じ試行を何回か繰り返して行うとき、各回の試行は独立である。この一連の独立な試行をまとめて考えるとき、それを反復試行(はんぷく しこう)という。
反復試行の確率
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ある試行で、事象Eの起こる確率がpであるとする。この試行をn回繰り返すとき、事象Eがそのうちr回だけ起こる確率は
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1個のさいころを5回投げるとき、3の倍数の目が4回出る確率を求めよ。
1個のさいころを1回投げるとき、3の倍数の目が出る確率は
- である。
よって、1個のさいころを5回投げるとき、3の倍数の目が4回出る確率は
期待値
ある試行があったとき、
その試行で得られると期待される値のことを期待値(きたいち、英:expected value)という。期待値の与え方は、ある結果に対して、だけの値が得られ、それぞれの結果が起こる確率がで与えられているとき、
によって与えられる。例えば、さいころをふったとき出る目の期待値は、
となる。