「高校化学 鉄」の版間の差分

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ステンレスをステンレス鋼に変更。英語のStainless steelと対応させるため。
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=== 鉄 ===
=== 鉄 ===
[[File:Eisen 1.jpg|right|100px|鉄]]
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== 性質 ==
'''鉄'''(Fe)は灰白色の金属、日常にも広く利用されて。たとえば鉄道のレール、流し台や窓枠のステンレス鋼、建材の鉄骨、遊具の鉄棒など、さまざまなものに鉄が用いられている。
'''鉄'''(Fe)の単体は灰白色で比較やわらかい。、合金にして、鉄道のレール、流し台や窓枠のステンレス鋼、建材の鉄骨など、さまざまなものに鉄が用いられている。


なお、鉄は、磁石に引き寄せられる。

== 製法 ==
[[File:Castingiron.jpg|right|100px|鉄製品の鋳造]]
[[File:Castingiron.jpg|right|100px|鉄製品の鋳造]]
鉄は鉄鉱石から製造される。鉄鉱石には酸化鉄(Ⅲ)などの鉄の酸化物とその他不純物が含まれている。鉄を取り出すために、溶鉱炉に鉄鉱石とコークス(C)、石灰石(CaCO{{sub|3}})を加え、加熱する。コークスは酸化され一酸化炭素(CO)となり、酸化鉄を還元して最終的に鉄単体とる。
鉄は鉄鉱石(てっこうせき)から製造される。鉄鉱石には酸化鉄(Ⅲ)などの鉄の酸化物とその他不純物が含まれている。鉄を取り出すために、溶鉱炉に鉄鉱石とコークス(C)、石灰石(CaCO{{sub|3}})を加え、加熱する。コークスは酸化され一酸化炭素(CO)となり、酸化鉄を還元して最終的に鉄単体とる。
ここで溶鉱炉から得られる鉄は'''銑鉄'''と呼ばれ、炭素を多く含んでいる。これは鋳物に用いられるが、もろいため材には向かない。銑鉄とともに溶鉱炉からはスラグが得られる。鉄鉱石中にはケイ酸塩が含まれており、これと石灰石とが反応したものがスラグである。


ここで溶鉱炉から得られる鉄は'''銑鉄'''(せんてつ)と呼ばれ、炭素を多く含んでいる。これは鋳物に用いられるが、もろいため、実用的なには向かない。銑鉄とともに溶鉱炉からはスラグ」というものが得られる。鉄鉱石中にはケイ酸塩が含まれており、これと石灰石とが反応したものがスラグである。
銑鉄を転炉に移し、加熱して溶解しながら酸素を吹き込むと'''鋼'''が得られる。炭素の含有量が銑鉄より少なく、強靭で弾性があることから、レールや建築材などに用いられる。


銑鉄を転炉に移し、加熱して溶解しながら酸素を吹き込むと'''鋼'''(こう、steel)が得られる。鋼は、炭素の含有量が銑鉄より少なく、硬くて、弾性があることから、建築材や構造材などに用いられる。
鉄は乾燥した空気中で安定であるが、湿った空気中では酸化されて赤さびを生じる。また、鉄の塊は空気中で燃焼しないが、スチールウールは酸素中で激しく燃焼し、酸化鉄となる。
: 3Fe + 2O{{sub|2}} → Fe{{sub|3}}O{{sub|4}}


鉄は酸と反応し水素を生じる。たし、濃硝とは不動態となり、反応しない。
は、湿った空気中では酸化され赤さびを生じる。、鉄の塊は空気中で燃焼ないがスチールウールは素中で激しく燃焼し、酸化鉄となる。(酸化鉄には何種類かあり、ここでは覚えくてよい。

== 化学的な性質 ==
鉄は、酸に溶けて、水素を生じる。
: Fe + 2HCl → FeCl{{sub|2}} + H{{sub|2}}↑
: Fe + 2HCl → FeCl{{sub|2}} + H{{sub|2}}↑


ただし、濃硝酸では、表面に皮膜ができる不動態となり、それ以上は反応が進行しない。

== 鉄イオンの水溶液 ==
鉄イオンは陽イオンであるが2価と3価のものがある。価数により異なる性質をもつ。
鉄イオンは陽イオンであるが2価と3価のものがある。価数により異なる性質をもつ。


=== 鉄(Ⅱ)イオン ===
鉄(Ⅱ)イオン(Fe{{sup|2+}})は淡緑色をしている。アンモニア水や水酸化ナトリウム水溶液のような塩基と反応して水酸化鉄(Ⅱ)の淡緑色沈殿を生じる。
鉄(Ⅱ)イオン(Fe{{sup|2+}})は淡緑色をしている。アンモニア水や水酸化ナトリウム水溶液のような塩基と反応して水酸化鉄(Ⅱ)の淡緑色沈殿を生じる。
: Fe{{sup|2+}} + 2OH{{sup|-}} → Fe(OH){{sub|2}}↓
: Fe{{sup|2+}} + 2OH{{sup|-}} → Fe(OH){{sub|2}}↓
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酸化剤である過酸化水素水を加えると、イオンが酸化されてFe{{sup|3+}}となり、黄褐色の水溶液となる。
酸化剤である過酸化水素水を加えると、イオンが酸化されてFe{{sup|3+}}となり、黄褐色の水溶液となる。


* ヘキサシアノ鉄(Ⅲ)酸カリウム水溶液(K{{sub|3}}[Fe(CN){{sub|6}}])をFe{{sup|2+}}水溶液に加えると、'''ターンブル青'''と呼ばれる濃青色の沈殿を生じる。一方Fe{{sup|3+}}水溶液に加えると暗褐色の水溶液となる。

このヘキサシアノ鉄(Ⅲ)酸カリウム水溶液の反応は、鉄イオンの検出に用いられる。

=== 鉄(Ⅲ)イオン ===
一方、鉄(Ⅲ)イオン(Fe{{sup|3+}})は黄褐色をしている。アンモニア水や水酸化ナトリウム水溶液のような塩基と反応して水酸化鉄(Ⅲ)の赤褐色沈殿を生じる。
一方、鉄(Ⅲ)イオン(Fe{{sup|3+}})は黄褐色をしている。アンモニア水や水酸化ナトリウム水溶液のような塩基と反応して水酸化鉄(Ⅲ)の赤褐色沈殿を生じる。
: Fe{{sup|3+}} + 3OH{{sup|-}} → Fe(OH){{sub|3}}↓
: Fe{{sup|3+}} + 3OH{{sup|-}} → Fe(OH){{sub|3}}↓
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鉄イオンは上記の他にも次のような反応をする。これらは、鉄イオンの検出・分離に有用である。
鉄イオンは上記の他にも次のような反応をする。これらは、鉄イオンの検出・分離に有用である。
[[File:Eisen(III)-Ionen und Thiocyanat.JPG|right|150px|鉄(Ⅲ)イオン水溶液(左)にチオシアン酸カリウム水溶液を加える(右)]]
[[File:Eisen(III)-Ionen und Thiocyanat.JPG|right|150px|鉄(Ⅲ)イオン水溶液(左)にチオシアン酸カリウム水溶液を加える(右)]]

* チオシアン酸カリウム水溶液(KSCN)をFe{{sup|3+}}水溶液に加えると、血赤色の水溶液となる。Fe{{sup|2+}}水溶液とは反応しない。
* チオシアン酸カリウム水溶液(KSCN)をFe{{sup|3+}}水溶液に加えると、血赤色の水溶液となる。なお、Fe{{sup|2+}}水溶液とは反応しない。
*: Fe{{sup|3+}} + SCN{{sup|-}} → [FeSCN]{{sup|2+}}
*: Fe{{sup|3+}} + SCN{{sup|-}} → [FeSCN]{{sup|2+}}
* ヘキサシアノ鉄(Ⅱ)酸カリウム水溶液(K{{sub|4}}[Fe(CN){{sub|6}}])をFe{{sup|3+}}水溶液に加えると、ベルリンブルーと呼ばれる濃青色の沈殿を生じる。一方Fe{{sup|2+}}水溶液に加えると青白色の沈殿を生じる。
* ヘキサシアノ鉄(Ⅱ)酸カリウム水溶液(K{{sub|4}}[Fe(CN){{sub|6}}])をFe{{sup|3+}}水溶液に加えると、'''ベルリン青'''と呼ばれる濃青色の沈殿を生じる。

* ヘキサシアノ鉄(Ⅲ)酸カリウム水溶液(K{{sub|3}}[Fe(CN){{sub|6}}])をFe{{sup|2+}}水溶液に加えると、ターンブルブルーと呼ばれる濃青色の沈殿を生じる。一方Fe{{sup|3+}}水溶液に加えると暗褐色の水溶液となる。
これらのチオシアン酸カリウム水溶液(KSCN)やヘキサシアノ鉄(Ⅲ)酸カリウム水溶液の反応は、鉄イオンの検出に用いられる。
なお、ベルリンブルーとターンブルブルーは一般に「紺青」「プルシアンブルー」などと呼ばれる顔料であり、製法により異なる名前をもつが、同一の構造をもつ物質である。

[[File:Eisen(II),(III).JPG|center|250px|左から、鉄(Ⅱ)イオン、ターンブルブルー、鉄(Ⅲ)イオン、ベルリンブルー]]
[[File:Eisen(II),(III).JPG|center|250px|左から、鉄(Ⅱ)イオン、ターンブルブルー、鉄(Ⅲ)イオン、ベルリンブルー]]
なお、ベルリン青とターンブル青は、色調は異なるが、同一の化合物である。

2016年1月11日 (月) 05:03時点における版

金属元素 アルカリ金属元素 2族元素 典型金属 遷移金属

鉄

性質

(Fe)の単体は灰白色で比較的やわらかい。また、合金にして、鉄道のレール、流し台や窓枠のステンレス鋼、建築材の鉄骨など、さまざまなものに鉄が用いられている。

なお、鉄は、磁石に引き寄せられる。

製法

鉄製品の鋳造
鉄製品の鋳造

鉄は鉄鉱石(てっこうせき)から製造される。鉄鉱石には、酸化鉄(Ⅲ)などの鉄の酸化物とその他不純物が含まれている。鉄を取り出すために、溶鉱炉に鉄鉱石とコークス(C)、石灰石(CaCO3)を加え、加熱する。コークスは酸化され一酸化炭素(CO)となり、酸化鉄を還元して最終的に鉄の単体となる。

ここで溶鉱炉から得られる鉄は銑鉄(せんてつ)と呼ばれ、炭素を多く含んでいる。これは鋳物に用いられるが、もろいため、実用的な材料には向かない。銑鉄とともに溶鉱炉からは「スラグ」というものが得られる。鉄鉱石中にはケイ酸塩が含まれており、これと石灰石とが反応したものがスラグである。

銑鉄を転炉に移し、加熱して溶解しながら酸素を吹き込むと(こう、steel)が得られる。鋼は、炭素の含有量が銑鉄より少なく、硬くて、弾性があることから、建築材や構造材などに用いられる。

鉄は、湿った空気中では酸化されて赤さびを生じる。また、鉄の塊は空気中で燃焼しないが、スチールウールは酸素中で激しく燃焼し、酸化鉄となる。(酸化鉄には何種類かあり、ここでは覚えなくてよい。)

化学的な性質

鉄は、酸に溶けて、水素を生じる。

Fe + 2HCl → FeCl2 + H2

ただし、濃硝酸では、表面に皮膜ができる不動態となり、それ以上は反応が進行しない。

鉄イオンの水溶液

鉄イオンは陽イオンであるが2価と3価のものがある。価数により異なる性質をもつ。

鉄(Ⅱ)イオン

鉄(Ⅱ)イオン(Fe2+)は淡緑色をしている。アンモニア水や水酸化ナトリウム水溶液のような塩基と反応して水酸化鉄(Ⅱ)の淡緑色沈殿を生じる。

Fe2+ + 2OH- → Fe(OH)2

この沈殿は空気中で酸化されて水酸化鉄(Ⅲ)になる。

4Fe(OH)2 + O2 + 2H2O → 4Fe(OH)3

硫化水素とは塩基性条件下で反応して、硫化鉄(Ⅱ)の黒色沈殿を生じる。酸性条件下では反応しない。

Fe2+ + S2- → FeS↓

酸化剤である過酸化水素水を加えると、イオンが酸化されてFe3+となり、黄褐色の水溶液となる。

  • ヘキサシアノ鉄(Ⅲ)酸カリウム水溶液(K3[Fe(CN)6])をFe2+水溶液に加えると、ターンブル青と呼ばれる濃青色の沈殿を生じる。一方、Fe3+水溶液に加えると暗褐色の水溶液となる。

このヘキサシアノ鉄(Ⅲ)酸カリウム水溶液の反応は、鉄イオンの検出に用いられる。

鉄(Ⅲ)イオン

一方、鉄(Ⅲ)イオン(Fe3+)は黄褐色をしている。アンモニア水や水酸化ナトリウム水溶液のような塩基と反応して水酸化鉄(Ⅲ)の赤褐色沈殿を生じる。

Fe3+ + 3OH- → Fe(OH)3

硫化水素とは塩基性条件下で反応して、一度イオンを還元してFe2+とした後、硫化鉄(Ⅱ)の黒色沈殿を生じる。酸性条件下ではイオンを還元してFe2+とするのみで、沈殿を生じない。

Fe2+ + S2- → FeS↓

鉄(Ⅲ)イオンの塩として、塩化鉄(Ⅲ)六水和物(FeCl3・6H2O)がある。黄褐色の固体であるが、潮解性がある。

塩化鉄(Ⅲ)六水和物の潮解
塩化鉄(Ⅲ)六水和物の潮解

鉄イオンは上記の他にも次のような反応をする。これらは、鉄イオンの検出・分離に有用である。

鉄(Ⅲ)イオン水溶液(左)にチオシアン酸カリウム水溶液を加える(右)
鉄(Ⅲ)イオン水溶液(左)にチオシアン酸カリウム水溶液を加える(右)
  • チオシアン酸カリウム水溶液(KSCN)をFe3+水溶液に加えると、血赤色の水溶液となる。なお、Fe2+水溶液とは反応しない。
    Fe3+ + SCN- → [FeSCN]2+
  • ヘキサシアノ鉄(Ⅱ)酸カリウム水溶液(K4[Fe(CN)6])をFe3+水溶液に加えると、ベルリン青と呼ばれる濃青色の沈殿を生じる。

これらのチオシアン酸カリウム水溶液(KSCN)やヘキサシアノ鉄(Ⅲ)酸カリウム水溶液の反応は、鉄イオンの検出に用いられる。

左から、鉄(Ⅱ)イオン、ターンブルブルー、鉄(Ⅲ)イオン、ベルリンブルー
左から、鉄(Ⅱ)イオン、ターンブルブルー、鉄(Ⅲ)イオン、ベルリンブルー

なお、ベルリン青とターンブル青は、色調は異なるが、同一の化合物である。