TCP/IP

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TCP/IPとは[編集]

TCP/IPは、Transmission Control Protocol (TCP) とInternet Protocol (IP) の組み合わせを指します。これらは、インターネットを含むネットワークでデータ通信を行うための主要なプロトコルです。

TCP (Transmission Control Protocol)
TCPは、信頼性の高いデータ転送を提供するためのコネクション指向のプロトコルです。データをパケットに分割し、それらのパケットが確実に送信され、順序通りに受信されることを保証します。TCPは、Webブラウジング、ファイル転送、電子メールなどのアプリケーションで広く使用されています。
IP (Internet Protocol)
IPは、データグラム形式でパケットを送受信するためのプロトコルです。IPは、パケットが送信元から目的地までの経路を決定し、それらのパケットが正しい宛先に届くことを保証します。IPはインターネット上のデータ通信の基盤となっています。

TCP/IPは、世界中のさまざまな種類のネットワークで使用されており、インターネットのコアプロトコルとして広く採用されています。これにより、異なるネットワークやコンピュータ間でのデータ通信が可能になります。

TCP/IPの歴史[編集]

TCP/IPの歴史は、インターネットの発展と密接に関連しています。以下に、その主要なマイルストーンを示します。

1960年代後半
ARPANETの開発が始まり、パケットスイッチング技術が研究されます。この時期に、ARPANETのための通信プロトコルとして、初期の形態のインターネットプロトコルが開発されました。
1970年代初頭
ARPANETの実装に向けて、最初のネットワーキングプロトコルであるNCP(Network Control Protocol)が開発されました。その後、TCP(Transmission Control Protocol)が開発され、1974年に公式に提案されました。
1970年代後半
1978年、Bob KahnとVint CerfによってTCP/IPプロトコルスイートが提案され、ARPANETでの実装が始まりました。これにより、複数のネットワーク間での通信が可能となり、インターネットの基盤が整いました。
1980年代
TCP/IPプロトコルは広く普及し、ARPANET以外のネットワークにも採用されました。1983年1月1日、ARPANETはTCP/IPに移行し、これが「インターネットの誕生」と見なされています。
1980年代後半から1990年代
インターネットの普及が加速し、世界中の大学、企業、政府機関がネットワークに接続されるようになりました。これにより、TCP/IPは標準的なネットワーキングプロトコルとして確立されました。
2000年代以降
インターネットの急速な普及と発展に伴い、TCP/IPはますます重要な役割を果たすようになりました。新しい技術やアプリケーションが登場し、TCP/IPはその基盤として不可欠な存在となりました。

TCP/IPの歴史は、ネットワーク技術の進化とインターネットの成長に密接に結びついており、その重要性は今後もますます高まるでしょう。

OSI参照モデル[編集]

TCP/IPは、OSI(Open Systems Interconnection)参照モデルとは独立して開発および実装されました。OSI参照モデルは、国際標準化機構(ISO)によって提案された7層のネットワークアーキテクチャですが、TCP/IPはその時期にはすでに広く使用されていました。

TCP/IPは、ARPANETおよびその後のインターネットのために開発され、そのデザインは実用性と効率性に焦点を当てています。一方、OSI参照モデルは理論的なモデルであり、TCP/IPとは異なるアプローチを取っています。

TCP/IPは、実際のネットワーク通信において非常に成功し、インターネットの成長と普及に大きく貢献しました。そのため、TCP/IPはOSI参照モデルとは無関係に、広く採用され、現在もインターネットの基盤として重要な役割を果たしています。

DARPA[編集]

TCP/IPは、DARPA(Defense Advanced Research Projects Agency)が1960年代後半にARPANETの開発を推進するために開発された通信プロトコルです。DARPAは、米国国防総省の研究開発機関であり、ARPANETは当初、軍事通信ネットワークとしての要件に応えるために設計されました。

ARPANETの目的は、複数のコンピュータを異なる場所に分散配置し、これらのコンピュータ間でデータを交換することで、通信の信頼性と耐障害性を高めることでした。このために、信頼性の高いデータ転送を実現するTCPと、パケットネットワークの基盤となるIPが開発されました。

ARPANETは当初、米国国防総省の研究機関や大学によって使用されましたが、その後、民間部門や他の国の研究機関にも拡大しました。そして、これがインターネットの誕生と成長につながりました。

TCP/IPの開発とARPANETの構築は、軍事通信の要件に応えるだけでなく、異なるコンピュータシステムやネットワーク間の相互接続性を実現するための基盤となりました。その結果、TCP/IPはインターネットの発展に欠かせないプロトコルとなり、現代の情報通信社会を支える基盤として確立されました。

TCP/IPとBSD[編集]

TCP/IPとBSD(Berkeley Software Distribution)は、密接に関連しています。以下にその関係を説明します。

BSDの開発
BSDは、Unixオペレーティングシステムの一種であり、1970年代から1980年代にかけてカリフォルニア大学バークレー校(UC Berkeley)で開発されました。BSDは、TCP/IPプロトコルスタックなど、多くのネットワーキング機能を含んでいました。
TCP/IPの統合
BSDの開発者は、ARPANETとの通信を可能にするためにTCP/IPプロトコルスタックをBSDに統合しました。この統合により、BSDはインターネットの成長と普及に重要な役割を果たしました。
BSDライセンス
BSDライセンスは、オープンソースソフトウェアのライセンスの1つであり、BSDから派生したソフトウェアのソースコードを自由に使用、変更、再配布することを許可します。BSDライセンスの下でリリースされたソフトウェアは、TCP/IPの普及に大きく貢献しました。
TCP/IPの普及
BSDのTCP/IP実装は非常に高い品質であり、多くのUNIX系オペレーティングシステムに採用されました。これにより、TCP/IPは広く利用される標準プロトコルとなり、インターネットの発展に寄与しました。

総じて、BSDの開発とTCP/IPの統合は、インターネットの成長と普及における重要なマイルストーンであり、両者は密接に関連しています。BSDの貢献は、TCP/IPを広く利用可能にし、オープンソースの精神を広めることにも貢献しました。

IPv4からIPv6へ[編集]

IPv4からIPv6への移行は、インターネットのアドレス空間の枯渇と新しい技術の導入によるものです。以下に、IPv4からIPv6への移行の背景と主な理由を示します。

アドレス空間の枯渇
IPv4は32ビットのアドレス空間を持ち、おおよそ42億のアドレスを提供します。しかし、インターネットの普及と機器の増加に伴い、IPv4のアドレスは枯渇しています。これに対し、IPv6は128ビットのアドレス空間を持ち、圧倒的に大量のアドレスを提供することができます。
新しい機能とセキュリティ
IPv6はIPv4に比べて多くの新機能を提供します。例えば、IPv6では自動アドレス構成やモバイルIP、マルチキャストアドレスの改善などが可能です。また、セキュリティ面でもIPv6はより強力な暗号化と認証を提供します。
ネットワークの拡張性
IPv6は、インターネット・オブ・シングス(IoT)やモバイルデバイスなど、将来のネットワークの拡張に適したプロトコルです。IPv6は、さまざまな種類のデバイスをインターネットに接続し、効率的な通信を可能にします。
技術の進歩と標準化
IPv6は長年にわたって開発され、標準化されてきました。IPv6の普及に向けた技術的な取り組みや標準化作業が進められ、IPv4からIPv6への移行が推進されています。

総じて、IPv4からIPv6への移行は、インターネットの成長と発展に不可欠な要素であり、アドレス枯渇や新しい技術の導入によって促進されています。

ICMPやDHCPなどの統合[編集]

IPv6では、従来のTCP/IPスイートに含まれていなかったプロトコルが統合されています。以下にその一部を紹介します。

ICMPv6(Internet Control Message Protocol version 6)
ICMPv6は、IPv6ネットワークで使用されるコントロールメッセージプロトコルです。IPv4ではICMPv4が使用されていましたが、IPv6ではICMPv6がネットワークの状態やエラーの通知、パケットのフラグメントなどの機能を提供します。
DHCPv6(Dynamic Host Configuration Protocol version 6)
DHCPv6は、IPv6ネットワークでのホストの動的なIPアドレスの割り当てやネットワーク構成情報の提供を行うプロトコルです。IPv4ではDHCPv4が使用されていましたが、IPv6ではDHCPv6が同様の機能を提供します。
NDP(Neighbor Discovery Protocol)
NDPは、IPv6ネットワークでのノードの隣接関係の発見や、ルーターの広告、自動アドレス構成、ネイバーキャッシュのメンテナンスなどの機能を提供します。IPv4には存在しないプロトコルであり、IPv6の特徴的な機能の1つです。
IPv6 over PPP(Point-to-Point Protocol)
PPPは、シリアルリンクを介したポイントツーポイント接続で使用されるプロトコルです。IPv6 over PPPは、PPP接続でIPv6を使用するための仕様であり、IPv6ネットワークの拡張性を向上させます。
IPv6 over Ethernet
Ethernet上でIPv6を使用するための仕様もあります。これにより、従来のEthernetネットワークでもIPv6をサポートすることが可能となります。

IPv6ではこれらのプロトコルが統合されることで、IPv4からIPv6への移行がスムーズに進み、IPv6ネットワークでの機能や性能が向上します。

TCP/IPの将来[編集]

TCP/IPの将来に関して、いくつかの重要なトレンドや技術があります。HTTP/3でTCPの代わりにQUIC(Quick UDP Internet Connections)が使用されるようになったことは、その一例です。以下に、TCP/IPの将来に関するいくつかのポイントを示します。

QUICプロトコルの普及
HTTP/3では、従来のTCPを使用したHTTP/2の代わりに、QUICプロトコルが採用されました。QUICはUDPベースのプロトコルであり、TCPよりも高速で信頼性があり、特に高遅延ネットワークやモバイルネットワークでのパフォーマンスが向上します。将来的には、他のプロトコルやアプリケーションでもQUICが採用される可能性があります。
IPv6の普及
IPv6の普及が進み、従来のIPv4との混在状態から徐々に移行していくことが期待されています。IPv6は大規模なアドレス空間を提供し、セキュリティやモバイルデバイスなどの新しい要件に対応しています。将来的には、IPv6がインターネットの主流となることが予想されます。
IoTや5Gの普及
インターネット・オブ・シングス(IoT)や5Gの普及により、大量のデバイスがネットワークに接続されることが予想されます。これにより、ネットワークのトラフィックが増加し、新しい要件や課題が生じる可能性があります。TCP/IPプロトコルスタックは、これらの新しい環境に適応して進化する必要があります。
セキュリティとプライバシーの強化
インターネットの利用が増えるにつれて、セキュリティとプライバシーの保護がますます重要になります。将来的には、TCP/IPプロトコルスタックにおけるセキュリティ機能の強化や、プライバシー保護のための新しい仕組みが導入される可能性があります。

総じて、TCP/IPプロトコルスタックは、インターネットの基盤として不可欠な存在であり、技術の進化やニーズの変化に適応していく必要があります。将来的には、より高速で信頼性の高い通信を実現するための新しいプロトコルや技術が導入されることが期待されます。

用語集[編集]

確かに、TCP/IPに関する重要な用語をまとめましょう。

TCP (Transmission Control Protocol)
信頼性の高い双方向の通信を行うためのプロトコル。データの順序、重複、損失を処理し、エラー制御を行います。
IP (Internet Protocol)
ネットワーク層のプロトコル。パケットの論理アドレス指定とルーティングに使用されます。
ポート番号
TCP/IPプロトコルスイートでは、ポートを使ってプロセス間の通信を識別します。
ソケット
プロセス間通信のためのプログラミングインターフェース。
3ウェイハンドシェイク
TCP接続を確立する際の手順。クライアントからサーバへの同期シーケンス番号の送信、サーバからの応答、クライアントからの確認応答で構成されます。
MTU (Maximum Transmission Unit)
ネットワーク経路上で転送できる最大のパケットサイズ。
フラグメンテーション
大きなパケットをMTUに合わせて分割すること。
ウィンドウサイズ
受信側が一度に受け取れるデータの最大量を通知するメカニズム。
ナグル化
小さなパケットを集約して送信遅延を最小化する技術。
スロースタート
輻輳制御アルゴリズムの一種で、通信開始時にウィンドウサイズを徐々に増やす手法。
ルーティング
ネットワーク間でパケットを転送するための経路選択プロセス。
ARP (Address Resolution Protocol)
IPアドレスからMACアドレスを解決するプロトコル。
DHCP (Dynamic Host Configuration Protocol)
IPアドレスを自動的に割り当てるプロトコル。
DNS (Domain Name System)
ドメイン名とIPアドレスの解決に使われるシステム。
TCP/IPモデル
インターネット通信のための階層モデル。アプリケーション層、トランスポート層、インターネット層、ネットワークアクセス層で構成される。

これらはTCP/IPに関する代表的な用語の一部ですが、ネットワークの理解には重要な概念となります。