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内乱記 第3巻 (上)

出典: フリー教科書『ウィキブックス(Wikibooks)』

内乱記

          


目次

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内容目次」を参照せよ。


カエサルとポンペイウスの決戦に臨む態勢づくり

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1節

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独裁官カエサルが執政官に選ばれて、債務問題を仲裁し、支援者たちを復権させる

  • ①項 Dictatore habente comitia Caesare
  • consules creantur Iulius Caesar et P. Servilius;
    • ユリウス・カエサルとプブリウス・セルウィリウス(・ウァティア・イサウリクス)が両執政官コンスルに選ばれる。
      (訳注:下線部は、カーター(J.M.Carter, 1991)により C. Iuliusガイウス・ユリウス)と修正提案されている。)
  • is enim erat annus, quo per leges ei consulem fieri liceret.
    • 実際、法律の上からも、その年は彼(カエサル)にとって執政官になることが許されていたのだ。
      (訳注:執政官に一度 任官したら、10年間は就任できないように定められていた。
      カエサルが執政官に前回任官したのはBC59年だったので、BC49年以降は合法的に執政官に就任できた。
      ここの記述は、ポンペイウスがBC55年とBC52年に3年間しか間を置かずに執政官になったことを、あてこすっているとも解釈される。
      あるいは、ルビコン川を渡るという国家反逆と軍事力によって非合法に執政官職を獲得したことへの弁解とも考えられる。)


   独裁官カエサルが、内戦状態による金融不安の解消のために、債務問題の仲裁を指令する

  • ②項 His rebus confectis,
    • (カエサルは)これらの事を成し遂げると、
  • cum fides tota Italia esset angustior neque creditae pecuniae solverentur,
    • (戦時経済で貨幣流通が停滞して)イタリア全域で(商取引上の)信用が乏しくなっており、貸し付けられた金銭が(債務者によって)支払われなかったので、
  • constituit, ut arbitri darentur;
    • (債務問題を解決するための)仲裁人アルビテルたちを指定するように取り決めた。
  • per eos fierent aestimationes possessionum et rerum, quanti quaeque earum ante bellum fuisset,
    • 彼ら(仲裁人たち)を通じて、(債務者たちの)所有地や物品の評価を、それらが戦争の前にはそれぞれどのぐらいであったかを見積もりさせて、
  • atque eae creditoribus traderentur.
    • それらが債権者クレディトルたちに引き渡されるようにした。
      (訳注:スエトニウス『神君ユリウス伝』(42節2項[1])によれば、債務の元金を四分の一まで低減させることができたという。)
  • ③項 Hoc
    • これ(=債務問題の仲裁という方策)が、
  • et ad timorem novarum tabularum tollendum minuendumve,
    • (独裁官カエサルによって)借金が棒引きにされるという懸念を払拭するか、あるいは減らすためにも
      (訳注:novae tabulae 「新しい帳簿」、転じて「債務の帳消し」)
  • qui fere bella et civiles dissensiones sequi consuevit,
    • ── それらは、戦争や内乱に続いて生じるのがほぼ常であったのだが、──
  • et ad debitorum tuendam existimationem
    • 債務者デビトルたちの信用や人望エクシスティマティオを守るためにも
      (訳注:et ad ~, et ad ・・・ 「~ためにも、・・・ためにも」)
  • esse aptissimum existimavit.
    • 最も適切であると、(カエサルは)判断したのだ。


   カエサルが、かつての選挙運動で断罪されていた支援者たちを、民会議決により名誉回復させる

  • ④項 Item praetoribus tribunisque plebis rogationes ad populum ferentibus
    • さらに、法務官プラエトルたちや護民官たちにより、(民会において)民衆ポプルス法案の提出ロガティオをさせて、
  • nonnullos ambitus Pompeia lege damnatos illis temporibus, quibus in urbe praesidia legionum Pompeius habuerat,
    • ポンペイウスが諸軍団レギオからなる守備隊を首都(ローマ市)に保持していた当時に、ポンペイウス法で贈賄の有罪判決をされていた少なからぬ者たちを、
      (訳注:カエサルが二度目の執政官になるための選挙運動で、支援者たちはBC52年のポンペイウス法に違反する行為をしたとして訴追されていた。[1]
  • quae iudicia aliis audientibus iudicibus, aliis sententiam ferentibus singulis diebus erant perfecta,
    • ── その裁判というのは、ある陪審員たちが傍聴して、別の陪審員たちが評決を下すということが、それぞれ一日で処理されていたのだが、 ──
  • in integrum restituit,
    • 原状に復帰させた。
  • qui se illi initio civilis belli obtulerant, si sua opera in bello uti vellet,
    • 彼ら(支援者たち)は、自分たちの尽力を(カエサルが)戦争で用いることを望むのではないかと、内戦初期に(カエサルに)身を捧げていたのだが、
  • proinde aestimans, ac si usus esset,
    • (カエサルは、支援者たちの尽力が)まるで用いられたかのように評価していた。
      (訳注:proinde ac si ~ 「まるで~かのように」)
  • quoniam sui fecissent potestatem.
    • (支援者たちは、カエサル)自身に権力を与えたのだから。
      (訳注:~ potestatem facere 「~に 機会 / 影響力 を与える」)


  • ⑤項 Statuerat enim prius hos iudicio populi debere restitui, quam suo beneficio videri receptos,
    • すなわち、(カエサルは)彼ら(支援者たち)が(カエサル)自身の恩恵により回復されたと思われるよりも、むしろ民衆ポプルスの判断で復権されねばならない、と判断していたのだ。
      (訳注:prius ~ quam ・・・ 「・・・より、むしろ~」)
  • ne aut ingratus in referenda gratia aut arrogans in praeripiendo populi beneficio videretur.
    • (支援者たちに)感謝を表すことにおいて “恩知らず” だと思われないように、あるいは、(贈賄罪をゆるすという)民衆ポプルスの恩恵を先取りして “傲慢” だと思われないように。
      (訳注:ne aut ~ aut ・・・ videretur 「~と思われないように、あるいは・・・と思われないように」)


  • (訳注:本節での独裁官カエサルの施策については、ゲルツァー[2]が詳しく解説している。)


2節

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ブルンディシウムに、カエサルおよび12個軍団と騎兵隊が集結する

  • ①項 His rebus et feriis Latinis comitiisque omnibus perficiendis XI dies tribuit
    • (カエサルは)これらの事柄と、ラティウム祭や、すべての選挙を成し遂げるために、11日間を割り当てて、
  • dictaturaque se abdicat
    • 独裁官ディクタトゥラを辞任して、
      (訳注:se ~ abdicare 「~を辞任する」)
  • et ab urbe proficiscitur Brundisiumque pervenit.
    • 首都(ローマ市)から出発して、ブルンディシウムに到着する。
      (訳注:カエサルが独裁官を辞してローマ市を出発したのは、BC49年の(当時の暦で)12月末であったとされている。)


  • ②項 Eo legiones XII, equitatum omnem venire iusserat.
    • そこに、12個軍団レギオと全騎兵隊に集結することを命じていた。
  • Sed tantum navium repperit
    • けれども、これほどしか船が見つからなかったので、
      (訳注:tantum ~ ut ・・・ 「・・・ほど~」「これほど~なので、・・・」)
  • ut anguste XV milia legionariorum militum, D equites transportari possent.
    • わずかに軍団兵15,000名と騎兵500騎しか運搬することができなかったほどである。
      (訳注:カエサルは、集結させた12個軍団と騎兵隊が何名なのか、そのうちから実際に乗船させたのが何名なのか、明記していない。
      6節②項では、「前述したように7個軍団が乗せられた」と述べているが、そうした記述も見当たらない。
      下線部は、中世の古い写本では XV milia(15,000名)となっているが、より後代の写本では XX milia(20,000名)としており、
      XXV milia(25,000名)とする修正提案もある。
      共和制末期の1個歩兵小隊ケントゥリアの定員が80名とすると、1個軍団は4,800名ほど、12個軍団は60,000名に近いはずであるが、
      軍団というものは兵士が死傷しても、欠員が補充されることはなかったので、ガリア戦争からの長年の戦争で兵員が激減していたと考えられる。
      この後、89節には、(守備隊の7個歩兵大隊を除くと)80個歩兵大隊で22,000名 という記述がある。)
  • Hoc unum [inopia navium] Caesari ad celeritatem conficiendi belli defuit.
    • [船の不足という]この唯一のことが、カエサルにとって、戦争を迅速に成し遂げるために欠けていた。
      (訳注:写本にある inopia navium(船の欠如)は、削除提案されている。)


  • ③項 Atque eae ipsae copiae hoc infrequentiores imponuntur,
    • さらに、(実際に)乗船した当の軍勢も、このことにより、より少なかった。
  • quod multi Gallicis tot bellis defecerant,
    • というのも、多くの者たちがガリアでのあれほどの戦争により落命しており、
      (訳注:写本では Galli 「ガリア人が」であるが、印刷本では Gallicis 「ガリアの(戦争で)」に修正されている。)
  • longumque iter ex Hispania magnum numerum deminuerat,
    • ヒスパニアからの長い行軍が多数(の兵士)を減らしていたし、
  • et gravis autumnus in Apulia circumque Brundisium
  • ex saluberrimis Galliae et Hispaniae regionibus omnem exercitum valetudine temptaverat.
    • ガリアやヒスパニアの健康に良い地域出身の兵隊すべての健康を苦しめていたからである。


  • (訳注:カエサルは、なぜ、船が少なく兵士の健康に良くない季節のイタリア南部にわざわざ軍隊を集結させたのか?
    ローマ史家モムゼンの考察によれば[3]アドリア海を渡らずに陸路でイリュリア地方を通って攻め入る方が、
    ガリアなどから来る軍勢にとっては近道だし、渡海中に敵の艦隊に襲撃される危険も少ない。
    それにもかかわらず、陸路イリュリアを行軍中に、ポンペイウスが艦隊を率いてアドリア海を渡って来れば、イタリアを占領されてしまう、
    ということをカエサルが恐れたためだという。)

3節

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ポンペイウスが、東地中海沿岸や黒海沿岸で、大艦隊を調達させ、多額の戦費を納めさせる


  • ②項 magnam imperatam Asiae, Syriae regibusque omnibus et dynastis et tetrarchis et liberis Achaiae populis pecuniam exegerat,
    • (ポンペイウスは)アシアとシリアのすべての王侯レクスたち、小君主デュナステス小領主テトラルケスアカイアの自由民から、多額の金銭を取り立てており、
      (訳注:dynastēs はギリシア語のデュナステス(δυνάστης 統治者)の音訳で英語の dynasty の語源。
      tetrarchēs もギリシア語のテトラルケス(τετράρχης 「四分領太守」)の音訳。いずれも、ローマに服属する東方の小領主を指す。)
  • magnam societates earum provinciarum, quas ipse obtinebat, sibi numerare coegerat.
    • (ポンペイウス)自身が支配していた諸属州の組合に、自分(ポンペイウス)に多額を支払うことを強いていた。
      (訳注:下線部は、publicanus 徴税請負人プブリカヌスたちの組合 “societas publicanorum”[2] のことと思われる。)

4節

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ポンペイウスが、東方の諸属州や同盟諸国から、重装歩兵9個軍団以上と騎兵7000騎などを召集する

  • ①項 Legiones effecerat civium Romanorum VIIII:
    • (ポンペイウスは)ローマ市民たちからなる9個軍団を編制していた。
  • V ex Italia, quas traduxerat;
    • (それらのうち)5個は、イタリアから渡海させていた。
  • unam ex Cilicia veteranam, quam factam ex duabus gemellam appellabat;
    • 1個は古参(の軍団)をキリキアから。それらは、「双子」と呼んでいた2個(軍団)からつくられていた。
      (訳注:長年の戦争により兵員が著しく減っていたものと思われる。)
ローマ人軍団兵の除隊。
  • unam ex Creta et Macedonia ex veteranis militibus,
  • qui dimissi a superioribus imperatoribus in his provinciis consederant;
    • その者たちは、かつての将軍たちによって除隊されて、これらの属州に定住していた。
      (訳注:満期除隊になった後で、現地に定住させられたものと思われる。)
  • duas ex Asia, quas Lentulus consul conscribendas curaverat.


  • ②項 Praeterea magnum numerum ex Thessalia, Boeotia, Achaia Epiroque supplementi nomine in legiones distribuerat;
  • his Antonianos milites admiscuerat.
    • これらに、(ガイウス・)アントニウスの兵士たちを混ぜ加えていた。
      (訳注:ガイウス・アントニウス Gaius Antonius は、後の三頭政治家として有名なマルクス・アントニウス Marcus Antonius の弟で、
      BC49年の夏頃に、カエサルの副官レガトゥスとしてクリクタ島(Curicta:現在のクロアチアクルク島)に派遣されていたが、
      マルクス・オクタウィウスやガイウス・スクリボニウス・リボが率いるポンペイウス艦隊によって、ドラベッラ率いる護衛艦隊と分断されて、
      15個歩兵大隊とともに降伏。その兵士たちはポンペイウスの諸軍団に組み入れられていた。)


  • ③項 Praeter has exspectabat cum Scipione ex Syria legiones II.
    • これらのほかに、シリアからスピキオともに2個軍団を待ち望んでいた。
      (訳注:スキピオは、ポンペイウスの岳父で、シリアの属州総督として兵士や物資の調達に当たっていた。)
  • Sagittarios Creta, Lacedaemone, ex Ponto atque Syria reliquisque civitatibus III milia numero habebat,
  • funditorum cohortes sescenarias II,
    • 投石兵の600名ずつの2個支援部隊コホルスを、
  • equitum VII milia.
    • 騎兵7,000騎を(保持していた)。


 騎兵7,000騎の陣容


  • ④項 ex Macedonia CC erant, quibus Rhascypolis praeerat, excellenti virtute;
    • マケドニアからは、武勇にすぐれたラスキュポリスが統率する200騎がいた。
  • D ex Gabinianis Alexandria, Gallos Germanosque,
    • アレクサンドリアからは、ガビニウス配下だったガリア人とゲルマニア人の500騎がいて、
  • quos ibi A. Gabinius praesidii causa apud regem Ptolomaeum reliquerat,
  • Pompeius filius cum classe adduxerat;
  • DCCC ex servis suis pastorumque suorum <numero> coegerat;
    • (彼自身も)自分の奴隷たちや牧人たちのうちから800騎を徴募していた。
      (訳注:<numero> は写本にはなく、挿入提案されている。)


  • ⑤項 CCC Tarcondarius Castor et Domnilaus ex Gallograecia dederant
    • 300騎は、タルコンダリウス・カストルとドムニラウスがガラティアから供出していた。
      (訳注:Gallograecia 「ガラティア」)
  • ── horum alter una venerat, alter filium miserat ── ;
    • ── 彼らのうち前者(カストル)は(騎兵たちと)一緒に来ており、後者(ドムニラウス)は息子を派遣していた ──
  • CC ex Syria a Commageno Antiocho, cui magna Pompeius praemia tribuit, missi erant,
  • in his plerique hippotoxotae.
    • 彼らのほとんどは騎馬弓兵であった。


  • ⑥項 Huc Dardanos, Bessos partim mercennarios, partim imperio aut gratia comparatos,
    • これに、ダルダニ族とベッシ族が、一部は傭兵で、一部は命令あるいは厚意により召集された者たちであった。
  • item Macedones, Thessalos ac reliquarum gentium et civitatum adiecerat
  • atque eum, quem supra demonstravimus, numerum expleverat.
    • 前述した数を満たしていたのだ。

5節

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ポンペイウスが、カエサルの渡海阻止のために、アドリア海沿岸地帯に艦隊を配備する

  • ①項 Frumenti vim maximam
    • (ポンペイウスは)この上なく大量の穀物を
      (訳注:magna vīs ~「大量の~」> 最上級 maxima vīs ~「この上なく大量の~」> 対格 maximam vim ~)
  • ex Thessalia, Asia, Aegypto, Creta, Cyrenis reliquisque regionibus comparaverat.


  • ②項 Hiemare Dyrrachii, Apolloniae omnibusque oppidis maritimis constituerat, ut mare transire Caesarem prohiberet,
    • (ポンペイウスは)カエサルが海を渡って来ることをはばむように、デュッラキウムアポッロニアや沿岸のすべての城市で冬営することを決意して、
  • eiusque rei causa omni ora maritima classem disposuerat.
    • その事情のために、海岸沿いの全域に艦隊を配備していた。



  • ④項 Toti tamen officio maritimo M. Bibulus praepositus cuncta administrabat;
  • ad hunc summa imperii respiciebat.
    • 彼に最高司令権が属していた。

カエサルのイッリュリア侵攻と和平交渉

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6節

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カエサルが将兵たちの前で演説して、ブルンディシウムを出港(1月4日)、対岸のパラエステに上陸

  • ①項 Caesar ut Brundisium venit,
  • contionatus apud milites,
    • 兵士たちのもとで熱弁をふるって(以下のように訓示した):
      (訳注:contiōnārī 「(集会に)出席する」あるいは「(集会で)演説する」「(集会で)熱弁を奮う」
  • quoniam prope ad finem laborum ac periculorum esset perventum,
    • (内戦における兵士たちの)骨折りや危難がほぼ終局に達したのであるから、
  • aequo animo mancipia atque impedimenta in Italia relinquerent,
    • 冷静な判断で、奴隷や輜重しちょうをイタリアに残しておくように。
      (訳注:aequō animō 「平静な心で」「冷静な判断で」 ; mancipium 「所有物」あるいは「奴隷」)
  • ipsi expediti naves conscenderent, quo maior numerus militum posset imponi,
    • (兵士たち)自身は、できるだけ多数の兵士たちが(船に)乗せられるように、軽装で船に乗り込むように。
  • omniaque ex victoria et ex sua liberalitate sperarent,
    • 勝利の結果として、自分(=カエサル)の施しに、あらゆるものを期待するように。
ケラウニアCeraunia)の地図(説明はドイツ語)
ケラウニアは、現在のアルバニア南部の海岸沿いの山地。カエサルが上陸したとされるパラエステ(Palaeste)は、地図の左上に見えるPalasa(パラサ)。
カエサルが上陸したとされるパラエステ(Palaeste)、すなわち現在のアルバニア南部のパラサ(Palasa)またはパラセ(Palasë)の景観。海に迫る険しい山の中腹に集落が見える。


 将兵たちが奮い立ち、大声で応える

  • conclamantibus omnibus,
    • (兵士たち)皆が大音声だいおんじょうをあげた。
  • imperaret, quod vellet,
    • (カエサル自身が)望むことを命令してくれ。
  • quodcumque imperavisset, se aequo animo esse facturos,
    • (カエサルが)命令したことは何でも、自分たちは冷静な判断で遂行するであろう、と。
      (訳注:quodcumque は、関係代名詞 quīcumque の中性・単数・対角形 「~するものは何でも」)


 1月4日に、ブルンディシウムを出港する

  • II. Nonas Ianuarias naves solvit.
    • 1月4日に、出帆する。
      (訳注:下線部は、 prīdiē Nōnās Iānuāriās、直訳すると「双頭神の月ヤヌアリウスの(中日の)九日前ノナエ前日プリディエ」。
      当時の暦の1月4日は、フランスの天文学者ルヴェリエ説ではユリウス暦BC49年11月28日、
      ドイツのグレーベ(Paul Groebe)説ではユリウス暦BC49年11月6日と推定されている。)
      (訳注:navem sovere 「船(のともづな)を解く」すなわち「出帆する」)



  • ②項 Impositae, ut supra demonstratum est, legiones VII.
    • (船団に)乗せられたのは、前に述べたように、7個軍団であった。
      (訳注:2節②項の訳注でも記したように、「7個軍団を乗船させた」という記述はない。)
  • Postridie terram attigit.
    • 翌日には、(アドリア海を渡って対岸の)陸地に到達した。
  • Cerauniorum saxa inter et alia loca periculosa quietam nactus stationem
    • ケラウニアの岩場とそのほかの危険な土地の間に、静かな停泊地を得て、
      (訳注:下線部は、写本では Germiniorum「ゲルミニイ人の」あるいは Germaniorum「ゲルマニア人の」だが、Cerauniorum 「ケラウニアの」と修正提案されている。)
  • et portus omnes timens, quos teneri ab adversariis arbitrabatur,
    • 敵方によって支配されていると思われていたすべての港を恐れて、
  • ad eum locum qui appellabatur Palaeste,
    • パラエステと呼ばれていた土地の辺りに、
      (訳注:下線部は、写本では pharsaria 「パルサリア」すなわちパルサルスの決戦場とあるが、これはありえないので、 Palaeste 「パラエステ」に修正提案されている。)
  • omnibus navibus ad unam incolumibus
    • 船団が一つ残らず無傷のままで、
      (訳注:下線部の類似の用例 (第2巻42節⑤項) ad unum omnēs 「一人残らず」)
  • milites exposuit.
    • 兵士たちを上陸させた。

7節

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オリクム港のアシア艦隊とコルキュラ島のビブルスの艦隊が、カエサルを迎撃しそこなう

  • ①項 Erat Orici Lucretius Vespillo et Minucius Rufus cum Asiaticis navibus XVIII,
    • オリクムには、(クィントゥス・)ルクレティウス・ウェスピッロとミヌキウス・ルフスが、アシアの船団18隻とともにいて、
  • quibus iussu D. Laelii praeerant,
    • デキムス・ラエリウスの命令により(彼らが)それらを統率していた。
      (訳注:ラエリウスについては、5節③項を参照。)
  • M. Bibulus cum navibus CX Corcyrae.


  • ②項 Sed neque illi sibi confisi ex portu prodire sunt ausi,
    • けれども、あの者たちは、自らに確信が持てず、港からあえて進み出ようとはしなかった。
  • cum Caesar omnino XII naves longas praesidio duxisset, in quibus erant constratae IIII,
    • カエサルは、全部で12隻の軍船を護衛として率いて、それらのうち甲板を張られていたのは4隻に過ぎなかったのに。
      (訳注:cōnsternere 「甲板を張る」>完了受動分詞 cōnstrātus 「甲板を張られる」)
  • neque Bibulus impeditis navibus dispersisque remigibus satis mature occurrit,
    • ビブルスは船団に手間取らされて、漕ぎ手たちもあちこちに分散していたので、じゅうぶんに早く(カエサルに)立ち向かえなかった。
  • quod prius ad continentem visus est Caesar, quam de eius adventu fama omnino in eas regiones perferretur.
    • というのも、彼(カエサル)の到来についての知らせがそれらの地域にすっかり伝えられるよりも早く、カエサルが大陸に現われたからである。
      (訳注:prius ~ quam ・・・「・・・より早く~」)

8節

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元老院派のビブルス率いる艦隊が、ブルンディシウムに戻る空のカエサル艦隊を焼き討ちする

  • ①項 Expositis militibus
    • 兵士たちを上陸させると、
  • naves eadem nocte Brundisium a Caesare remittuntur,
  • ut reliquae legiones equitatusque transportari possent.
    • (ブルンディシウムで船団を待つ)残りの諸軍団や騎兵隊が運ばれるようにする。


  • ②項 Huic officio praepositus erat Fufius Calenus legatus,
    • この務めには、副官レガトゥス フフィウス・カレヌスが指揮を任されて、
      (訳注:クィントゥス・フフィウス・カレヌス Quintus Fufius Calenus は、カエサルの下でガリア、ヒスパニアと転戦し、翌年(BC47年)の執政官となる。)
  • qui celeritatem in transportandis legionibus adhiberet.
    • 彼をして、すばやく諸軍団を運べるようにした。
  • Sed serius a terra provectae naves
    • けれども、船団はより遅れて陸地から出航したので、
      (訳注:sērō 副詞「遅れて」> 比較級 sērius「より遅れて」)
  • neque usae nocturna aura in redeundo offenderunt.
    • (ブルンディシウムに)戻ることにおいて、夜間の風を用い(ることができ)ずに、(災難に)遭遇していた。


 ビブルスが、カレヌスの艦隊を襲撃して、乗員たちを焼き殺す

  • ③項 Bibulus enim Corcyrae certior factus de adventu Caesaris,
    • なぜなら、ビブルスは、コルキュラ(島)で、カエサルの到来について知らされて、
      (訳注:Bibulum certiorem facere de ~「ビブルスに、~について知らせる」
           Bibulus certior factus de ~「ビブルスは、~について知らされる」)
  • sperans alicui se parti onustarum navium occurrere posse, inanibus occurrit,
    • (兵士ら)荷を積んだ船団の何らかの一部を襲撃できると期待したが、からの(船団)に遭遇して、
  • et nactus circiter XXX in eas indiligentiae suae ac doloris iracundiam erupit
    • 約30隻を捕獲すると、それら(の船団)に、自らの不注意さインディリゲンティア無念さドロルへの憤りイラクンディアをぶつけて、
  • omnesque incendit eodemque igne nautas dominosque navium interfecit,
    • (約30隻の)すべてを焼き討ちして、同じ火で船員たちや船長たちを(焼き)殺して、
  • magnitudine poenae reliquos terreri sperans.
    • 報復ポエナの大きさにより、ほかの者たちがおどしで思いとどまらされることを望んだのである。
      (訳注:下線部は、写本では terreri 「おどしで思いとどまらされること」だが、deterrere 「おどしてやめさせること」という修正提案がある。)


 ビブルスが、カエサルを待ち構えて、沿岸の警備体制を整える

  • ④項 Hoc confecto negotio
    • この任務を成し遂げると、
  • a Sasonis ad Orici portum stationes litoraque omnia longe lateque classibus occupavit,
    • サソン(島)からオリクムの港まで、すべての停泊地と海岸を広範囲に、艦隊で占領して、
  • custodiisque diligentius dispositis,
    • より入念に見張りを配置して、
  • ipse gravissima hieme in navibus excubans
    • (ビブルス)自身は、冬のいちばん厳しいときに、船団にいて警戒して、
  • neque ullum laborem aut munus despiciens,
    • どのような骨折り、あるいは務めもおろそかにせず、
  • neque subsidium exspectans,
    • 援助も期待せず、
  • si in Caesaris complexum venire posset, ・・・
    • もし、カエサルとの格闘戦に持ち込むことができれば、・・・
      (訳注:下線部は、写本では complexum 「格闘戦」だが、 conspectum 「(カエサルが)視界(に現れれば)」と修正提案されている。)
      (訳注:・・・以下、写本の本文が欠落していて、次節では話題が飛んでいる。)

9節

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リブルナLiburna)または リブルニカ(Liburnica) と呼ばれる快速船の復元模型。リブルニア Liburnia の住民 リブルニ族 Liburnians が用いていたので、このように呼ばれている。
ローマ人に支配される以前(BC3世紀)のイッリュリアの部族分布。沿岸地方に、リブルニ族(LIBURNI)やダルマティ族(DALMATI)の名が見える。パルティニ族(PARTHINI)は、11節41節42節に登場する。
サロナエ(Salonae)またはサロナSalona)、すなわち現在のクロアチアソリン(Solin)近郊にあるローマ時代の城壁。

元老院派のオクタウィウスがダルマティアの城市サロナエを攻めあぐねる

  • ①項 Discessu Liburnarum ex Illyrico
  • M. Octavius cum iis quas habebat navibus
    • マルクス・オクタウィウスは、保有していた船団とともに、
  • Salonas pervenit.
  • Ibi concitatis Dalmatis reliquisque barbaris
    • そこにおいて、ダルマティ族やそのほかの蛮族たちを駆り立てて、
  • Issam a Caesaris amicitia avertit;


 オクタウィウスが城市サロナエの攻囲に着手

  • ②項 conventum Salonis
    • サロナエのローマ市民協議会コンウェントゥスを、
  • cum neque pollicitationibus neque denuntiatione periculi permovere posset,
    • (彼らがカエサルから離反した場合の報酬の)約束によっても、(服従しなかった場合の)危険の通告によっても、翻意させることができなかったので、
  • oppidum oppugnare instituit.
    • (サロナエの)城市を攻囲することに取りかかる。
  • Est autem oppidum et loci natura et colle munitum.
    • だが、(サロナエの)城市は、地勢によっても、丘によっても、堅固に守られていた。
      (訳注:mūnitum est は、mūnīre の3人称・単数・中性・完了・受動・直説法「堅固に守られた」)
      (訳注:下線部は、写本では colle 「丘によって」だが、opere「堡塁によって」という修正提案がある。
      また、 <parum> munitum 「<あまり>堅固に守られてい<なかっ>た」とする修正提案もある。)


  • ③項 Sed celeriter cives Romani ligneis effectis turribus
    • けれども、(城市サロナエの)ローマ市民たちは、速やかに、木材からやぐらを建造して、
  • his sese munierunt,
    • これにより、自らを防御していた。
  • et cum essent infirmi ad resistendum propter paucitatem hominum
    • 人員の少なさのために、徹底抗戦するには(戦力が)弱小であったので、
  • crebris confecti vulneribus,
    • たび重なる負傷により消耗して、
  • ad extremum auxilium descenderunt
    • 最後の救済策に訴えた。
  • servosque omnes puberes liberaverunt
    • 大人の奴隷たちを(奴隷身分から)解放して、
  • et praesectis omnium mulierum crinibus tormenta effecerunt.
    • すべての婦人たちの頭髪を切り取って、射出機(の綱)トルメントゥムをこしらえていた。


  • ④項 Quorum cognita sententia
    • 彼らの決意を知ると、
  • Octavius quinis castris oppidum circumdedit
    • オクタウィウスは、五つの陣営により、城市(サロナエ)を取り囲んで、
  • atque uno tempore obsidione et oppugnationibus eos premere coepit.
    • 一時いちどきに包囲と攻撃により、彼らを圧迫し始めた。


  • ⑤項 Illi omnia perpeti parati
    • 彼ら(サロナエのローマ市民たち)は、あらゆることに耐え抜く覚悟をしていたが、
  • maxime a re frumentaria laborabant.
    • とりわけ食糧供給に苦しんでいた。
  • Cui rei missis ad Caesarem legatis
    • その事のために、カエサルのもとに使節たちを遣わして、
  • auxilium ab eo petebant;
    • 彼(カエサル)に助けを求めていた。
  • reliqua, ut poterant, incommoda per se sustinebant.
    • そのほかの苦境については、できるかぎり自分たちで持ちこたえていた。


  • ⑥項 Et longo interposito spatio
    • 長い時間を置いて、
  • cum diuturnitas oppugnationis neglegentiores Octavianos effecisset,
    • 攻囲の長期化がオクタウィウス勢をより注意不足にしたとき、
  • nacti occasionem meridiani temporis discessu eorum
    • 彼ら(オクタウィウス勢)が退却した正午ごろの好機に出くわして、
  • pueris mulieribusque in muro dispositis,
    • (サロナエのローマ市民たちは)子供たちと婦人たちを城壁に配置して、
  • ne quid cotidianae consuetudinis desideraretur,
    • 毎日の習慣を何ら怠っていないようにしつつ、
  • ipsi manu facta cum iis quos nuper maxime liberaverant,
    • (市民たち)自身は、ちょうど少し前に(奴隷身分から)解放していた者たちとともに、手勢をつくって、
  • in proxima Octavii castra inruperunt.
    • 最寄りのオクタウィウスの陣営を襲撃した。


  • ⑦項 His expugnatis
    • これを攻略すると、
  • eodem impetu altera sunt adorti,
    • 同じ勢いで、もう一つ(の陣営)に襲いかかり、
  • inde tertia et quarta et deinceps reliqua
    • そこから、第三、第四の、続いて残り(の陣営に襲いかかり)、
  • omnibusque eos castris expulerunt
    • すべての陣営から彼ら(オクタウィウス勢)を追い出して、
  • et magno numero interfecto
    • 多数を殺戮さつりくし、
  • reliquos atque ipsum Octavium in naves confugere coegerunt.
    • 残りの者たちとオクタウィウス自身をして、船団の中に敗走せしめた。
  • Hic fuit oppugnationis exitus.
    • これが、(サロナエ)攻囲の終わりであった。


  • ⑧項 Iamque hiems adpropinquabat,
    • すでに、冬が近づいていたし、
  • et tantis detrimentis acceptis
    • これほど大きな敗北をこうむったので、
      (訳注:dētrīmentum 「損害」または「敗北」)
  • Octavius desperata oppugnatione oppidi
    • オクタウィウスは、城市(サロナエ)の攻囲に見込みを失って、
  • Dyrrachium sese ad Pompeium recepit.

10節

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兵力を欠くカエサルが、内戦による損害を口実として、ポンペイウスに和平を提案しようとする

  • ①項 Demonstravimus L. Vibullium Rufum, Pompei praefectum,
    • (前に)述べたように、ポンペイウスの部隊長 ルキウス・ウィブッリウス・ルフスは、
  • bis in potestatem pervenisse Caesaris atque ab eo esse dimissum,
    • 二度もカエサルに降参して、彼(カエサル)によって赦免された。
  • semel ad Corfinium, iterum in Hispania.
    • 一度はコルフィニウムの辺りで、もう一度はヒスパニアで、だ。
      (訳注:第1巻34節①項に、コルフィニウムで捕虜となったルフスがカエサルに放免されたのに、<ヒスパニアに>派遣されたことが述べられている。)


  • ②項 Hunc pro suis beneficiis Caesar idoneum iudicaverat, quem cum mandatis ad Cn. Pompeium mitteret,
    • カエサルは、自らの恩赦のゆえに、彼(ルフス)が、グナエウス・ポンペイウスのもとに言伝ことづてとともに遣わすために適当だと判断していた。
  • eundemque apud Cn. Pompeium auctoritatem habere intellegebat.
    • かつ、同人は、グナエウス・ポンペイウスのもとで発言力を持っている、と(カエサルは)理解していた。


 カエサルからポンペイウスへの和平提案の要旨

  • ③項 Erat autem haec summa mandatorum:
    • ところで、言伝ことづての要点は、以下のとおりであった。
  • debere utrumque pertinaciae finem facere et ab armis discedere
    • (カエサルとポンペイウスの)両者とも意固地いこじを終わりにして武力を放棄するべきで、
  • neque amplius fortunam periclitari.
    • これ以上、運命を危うくするべきではない。


  • ④項 Satis esse magna utrimque incommoda accepta, quae pro disciplina et praeceptis habere possent, ut reliquos casus timerent:
    • 両者とも、将来の災厄カススを気づかうのにじゅうぶんなほどの、教訓ディスキプリナ訓戒プラエケプトゥムとして見なし得る、大きな敗北をきっしたのだ。


  • ⑤項 illum Italia expulsum
    • 彼(ポンペイウス)は、イタリアから駆逐されて、
  • amissa Sicilia et Sardinia duabusque Hispaniis
  • et cohortibus <in> Italia atque Hispania civium Romanorum centum atque XXX;
    • イタリアとヒスパニア<において>ローマ市民たちから成る130個歩兵大隊コホルスを(失った)。
      (訳注:in は写本になく、挿入提案されたもの。)
  • <se> morte Curionis et detrimento Africani exercitus
    • <自分(カエサル)は>クリオの死と、アフリカの軍隊の損失や、
      (訳注:se は写本になく、挿入提案されたもの。)
  • et Antoni militumque deditione ad Curictam.
    • アントニウスの兵士たちのクリクタ(島)での降伏(という敗北を喫した)。
      (訳注:ガイウス・アントニウスの降伏については、4節②項の訳注を参照。下線部は、写本では tanto だが、et Antoni と修正提案されている。)


  • ⑥項 Proinde sibi ac rei publicae parcerent,
    • だから、自分たちと国家に配慮するべきだ。
  • <cum> quantum in bello fortuna posset, iam ipsi incommodis suis satis essent documento.
    • 武運が戦争においてどれほど力を持つのか、すでに(我々)自身が自らの敗北により教訓ドクメントゥムとしているのだから。


  • ⑦項 Hoc unum esse tempus de pace agendi, dum sibi uterque confideret et pares ambo viderentur;
    • 両者が自らを信じ、両者が対等と思われている限り、これが和平を協議する唯一の時機である。
  • si vero alteri paulum modo tribuisset fortuna,
    • しかしながら、もし武運が少しだけでも(両者の)一方に敬意を表したならば、
  • non esse usurum condicionibus pacis eum, qui superior videretur,
    • より優勢と思われた者は、和平の条件を利用しないであろうし、
  • neque fore aequa parte contentum, qui se omnia habiturum confideret.
    • 自分がすべてを支配するであろうと確信した者が、(権力の)対等な割り当てに満足しないであろう。


  • ⑧項 Condiciones pacis,
    • 和平の条件は、
  • quoniam antea convenire non potuissent,
    • 以前には合意できなかったので、
  • Romae ab senatu et a populo peti debere.
    • (首都)ローマにおいて元老院と人民から(カエサルとポンペイウスに)求められるべきだ。
  • Interea et rei publicae et ipsis placere oportere,
    • それでも、国家にとって(カエサルとポンペイウス)自身にとって(和平条件は)決められるべきである。
      (訳注1:下線部は、写本では interea et 「それでも」だが、interesse id 「それは(国家にとって)好都合であるし」と修正提案されている。
                 修正案を採れば「それは国家にとって好都合であるし、(カエサルとポンペイウス)自身にとっても決められるべきである。」)
      (訳注2:placēre oportēre 「喜ばれるべきである」あるいは「決められるべきである」⇒どちらの訳をとるかは各訳書によって分かれている。)
  • si uterque in contione statim iuravisset se triduo proximo exercitum dimissurum.
    • もし、両者が集会において、自分は翌日から3日のうちに軍隊を解散するであろう、と誓ったならば(の話だが)。


  • ⑩項 Depositis armis auxiliisque, quibus nunc confiderent,
    • 現在(両者が)信頼している武器と兵力アウクシリアを放棄して、
  • necessario populi senatusque iudicio fore utrumque contentum.
    • 両者とも、当然のことながら、人民と元老院の裁決に満足することになろう。


  • ⑪項 Haec quo facilius Pompeio probari possent,
    • これが、ポンペイウスによって より快く賛同されるように、
  • omnes suas terrestres urbiumque copias dimissurum . . .
    • (カエサルは)陸上および町々にいる自分の全軍勢を解散するであろう・・・
      (訳注:このあと、写本の本文が欠落している。omnes 以下を削除するべきという提案もある。)
      (訳注:下線部は、写本では urbiumque 「および町々の」だが、ubicumque 「いたるところの」という修正提案もある。)

11節

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カエサルの上陸を報告されたポンペイウスが、沿岸地帯へ急ぐ。カエサルは、港湾都市オリクムを制圧

  • ①項 Vibullius his expositis [Corcyrae
    • ウィブッリウスは、[コルキュラ(島)にて]これらを説明されると、
      (訳注:[Corcyrae] [コルキュラ(島)にて] は写本にあるが、コルキュラ島には敵将ビブルスの配下がいたと思われるし、カエサル勢がパラエステにいたとすると位置関係が合わないため、削除提案されている。
         ただし、カエサルの上陸地点がケラウニア山地沿いのパラエステだという6節の記述は写本になく、後世の修正提案にすぎない。)
  • non minus necessarium esse existimavit de repentino adventu Caesaris Pompeium fieri certiorem,
    • カエサルの思いがけない到来について、ポンペイウスが知らされることは、(カエサルの言伝ことづてを伝えることに)劣らず急を要すると判断していた。
      (訳注1:nōn minus 「劣らず」「同様に」 ; necessārius 「緊急の」> 中性・単数・対格 necessārium)
      (訳注2:Pompēium certiōrem facere de ~ 「ポンペイウスに~について知らせること」
           Pompēium certiōrem fierī de ~ 「ポンペイウスが~について知らされること」)
  • uti ad id consilium capere posset, ante quam de mandatis agi inciperetur,
    • (カエサルからの)言伝ことづてについて(双方によって)交渉が始められるより前に、その方策を立てることができるように。
  • atque ideo continuato nocte ac die itinere
    • それゆえに、(ウィブッリウスは)夜間も昼間も旅を続けて、
      (訳注:絶対奪格の例文を参照。)
  • atque omnibus oppidis mutatis ad celeritatem iumentis
    • 急ぐために、それぞれの城市で駄獣だじゅうを乗り換えて、
  • ad Pompeium contendit, ut adesse Caesarem nuntiaret.
    • カエサルが迫っていることを報告するために、ポンペイウスのもとへ急いだ。
エグナティア街道via Egnatia)は、BC2世紀にローマ人が建設した、アドリア海沿岸のデュッラキウムを起点としてビュザンティウムに至る街道(図の赤線部分)。デュッラキウムとアポッロニアを結んでカンダウィア山地(現在のヤブラニツァ山地)に至る沿岸区間はカンダウィア街道via Candavia)と呼ばれていた、と伝わる。


 ポンペイウスが、カンダウィア街道を西へ急ぐ

  • ②項 Pompeius erat eo tempore in Candavia
  • iterque ex Macedonia in hiberna Apolloniam Dyrrachiumque habebat.
  • Sed re nova perturbatus
    • けれども、(カエサルの上陸という)新しい事態に不安をかき立てられて、
  • maioribus itineribus Apolloniam petere coepit,
    • より強行軍で、アポッロニアに向かい始めた。
      (訳注:magnīs itineribus 「強行軍で」> 比較級 māiōribus
  • ne Caesar orae maritimae civitates occuparet.
    • 海岸地帯の諸都市をカエサルに占領されないように。
  • At ille expositis militibus eodem die Oricum proficiscitur.
    • それに対して、彼(カエサル)は、兵士たちを上陸させると、同じ日にオリクムに出発する。
イリュリア海岸地方(ダルマティア)における、イッリュリア人の居住地(図のピンクの領域)。南端にパルティニ族(PARTHINI)の名が見える。


 オリクムを指揮するトルクァトゥスが、カエサルに投降する

  • ③項 Quo cum venisset,
    • (カエサルが)そこに到着すると、
  • L. Torquatus,
    • ルキウス・トルクァトゥスは、
      (訳注:ルキウス・マンリウス・トルクァトゥス Lucius Manlius Torquatus は前年 BC49年に法務官に指名され、
      第1巻24節③項では「法務官ルキウス・マンリウス」として言及されている。)
  • qui iussu Pompei oppido praeerat praesidiumque ibi Parthinorum habebat,
    • ── その者は、ポンペイウスの命令により、城市(オリクム)を統率しており、そこにパルティニ族から成る守備隊を保持していたのだが ──、
      (訳注:パルティニ族 Parthini は、この地域の住民であるイッリュリア人の部族であった。)
  • conatus portis clausis oppidum defendere,
    • 城門を閉ざして、城市を防衛することに努力したが、
  • cum Graecos murum ascendere atque arma capere iuberet,
    • ギリシア人(の兵士)たちに、城壁に上ることと、武器を取ることを命じたが、
      (訳注1:理由を表わす cum の節は、conarentur(接続法)まで 「~ので」)
      (訳注2:この地域の住民の多くはイッリュリア人部族であったが、オリクム・デュッラキウムアポッロニアなどの主要都市は、ギリシア人の植民市であった。)
  • illi autem se contra imperium populi Romani pugnaturos negarent,
    • だが、彼ら(ギリシア人たち)は、自分たちはローマ国民の権力に反抗して戦うことはないであろうと言って、
  • oppidani autem etiam sua sponte Caesarem recipere conarentur,
    • そのうえ、城市の住民たちさえも、自発的にカエサルを迎え入れることを試みていたので
  • desperatis omnibus auxiliis portas aperuit
    • あらゆる救援に絶望し、城門を開いて、
  • et se atque oppidum Caesari dedidit
    • 自らと城市(オリクム)をカエサルに引渡し、
  • incolumisque ab eo conservatus est.
    • 無傷のまま、彼(カエサル)によって(身柄を)保護された。

12節

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カエサルが、城市アポッロニアや近隣の諸都市を服従させる

  • ①項 Recepto Caesar Orico
    • カエサルは、(トルクァトゥスから引き渡された城市)オリクムを受け取ると、
  • nulla interposita mora Apolloniam proficiscitur.
  • eius adventu audito
    • 彼(カエサル)の到来を聞くと、
  • L. Staberius, qui ibi praeerat,
    • そこ(アポッロニア)で統率していたルキウス・スタベリウスは、
  • aquam comportare in arcem atque eam munire obsidesque ab Apolloniatibus exigere coepit.
    • 水を城砦に運び集めること、その防御を固めること、アポッロニアの住民たちから人質を要求すること、を始めた。


   アポッロニアの住民たちが、スタベリウスの命令を拒絶する

  • ②項 Illi vero daturos se negare
    • しかしながら、彼ら(アポッロニアの住民たち)は、自分たちは(人質を)供出しないであろうと言い、
  • neque portas consuli praeclusuros,
    • 執政官コンスル(であるカエサル)に対して城門を閉ざすことはないであろうし、
      (訳注:neque ~ neque ・・・「~でもないし、・・・でもない」)
  • neque sibi iudicium sumpturos contra atque omnis Italia populusque Romanus iudicavisset.
    • 全イタリアおよびローマ人民が採決したのと反対に自分たちの判断を採ることもないであろう(と拒絶した)。
      (訳注1:下線部は、写本では p.r. と略記されており、削除提案され、あるいは populusque Romanus 「およびローマ人民」と修正提案されている。)
      (訳注2:contra atque ~「~のとは反対に」)
カエサルが上陸したイッリュリア南端の地図(1886年に刊行された、ドイツの史家ドロイゼンの歴史地図帳より)。
 緑色で囲まれた領域が属州マケドニア、薄い朱色はイッリュリア、北隣の濃い朱色は属州イッリュリクム、南隣はエピルス
 中央上部にデュッラキウムDyrrhachium)、中央下部にアポッロニアApollonia)やビュッリス(Bullis)が見える。


   アポッロニアの住民たちが、カエサルを迎え入れる

  • ③項 Quorum cognita voluntate
    • 彼ら(アポッロニアの住民たち)の意思を知ると、
  • clam profugit Apollonia Staberius.
    • スタベリウスは、アポッロニアから秘密裏に逃亡した。
  • Illi ad Caesarem legatos mittunt oppidoque recipiunt.
    • 彼ら(住民たち)は、カエサルのもとに使節たちを遣わして、城市に迎え入れる。


  • ④項 Hos sequuntur Byllidenses, Amantini et reliquae finitimae civitates totaque Epirus
    • ビュッリスの住民、アマンティアの住民、そのほかの近隣の諸都市や、エピルス全域が、彼ら(アポッロニアの住民)に続いて、
  • et legatis ad Caesarem missis,
    • カエサルのもとに使節たちを遣わして、
  • quae imperaret, facturos pollicentur.
    • (カエサルが)命令したことを実行するであろう、と約束する。

13節

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ポンペイウスがデュッラキウムに達し、両軍がアプスス川を挟んで対峙する


  • ②項 Simul Caesar adpropinquare dicebatur,
    • 同時に、カエサルが(デュッラキウムに)接近していることを(ウィブッリウス・ルフスから)話されて、
  • tantusque terror incidit eius exercitui,
    • 彼(ポンペイウス)の軍隊に、ものすごい恐怖心が降りかかったので、
      (訳注:tantus ~ ut ・・・ 「・・・ほどの~」「これほどの~ので、・・・ほどである」)
  • quod properans noctem die coniunxerat neque iter intermiserat,
    • ── というのも、夜を昼につないで、行軍を中断せずに急いでいたからなのではあるが、 ──
  • ut paene omnes ex Epiro finitimisque regionibus signa relinquerent,
    • エピルスや近隣の地域出身のほとんどすべて(の兵士たち)が軍旗を置き去りにして、
      (訳注1:下線部は、写本では in 「~において」であるが、ex 「~出身の」と修正提案されている。)
      (訳注2:「軍旗を置き去りにする」とは、行軍隊列からはみ出して行くことだと思われる。)
  • complures arma proicerent,
    • かなりの者たちが武器を放り出して、
  • ac fugae simile iter videretur.
    • 逃亡も同然の行軍と思われたほどであった


   ポンペイウスの将兵たちが、あらためて忠誠を誓う

  • ③項 Sed cum prope Dyrrachium Pompeius constitisset castraque metari iussisset,
    • けれども、ポンペイウスがデュッラキウムの近くで(行軍を)停止し、陣営の地取りを命じたときに、
  • perterrito etiam tum exercitu
    • そのときですら、軍隊が怖れおののいていたので、
  • princeps Labienus procedit
    • ラビエヌスが言いだしっぺとして(ポンペイウスの前に)進み出て、
  • iuratque se eum non deserturum eundemque casum subiturum, quemcumque ei fortuna tribuisset.
    • 運命が彼(ポンペイウス)にどのようなことを与えようとも、自分は彼を見捨てないであろうし、同じ危機を耐え忍ぶであろう、と誓う。


  • ④項 Hoc idem reliqui iurant legati;
    • これと同じことを、ほかの副官レガトゥスたちも誓う。
  • hos tribuni militum centurionesque sequuntur,
    • 彼らに、軍団次官トリブヌス・ミリトゥムたちや百人隊長ケントゥリオたちも続き、
  • atque idem omnis exercitus iurat.
    • 全軍隊が同じことを誓う。


カエサルとポンペイウスの両軍がアプスス川で対峙するまでの行軍ルート。現在のアルバニア国内で展開される。


  カエサルが、デュッラキウム占領を断念して、冬営を決意する

  • ⑤項 Caesar praeoccupato itinere ad Dyrrachium
    • カエサルは、デュッラキウムへの街道を(ポンペイウスによって)先取りされてしまったので、
  • finem properandi facit
    • 急ぐことを終わりにして、
  • castraque ad flumen Apsum ponit in finibus Apolloniatium,
    • アポッロニア住民たちの領地の中の、アプスス川のたもとに陣営を設置して、
  • ut castellis vigiliisque bene meritae civitates tutae essent [praesidio],
    • 城砦や歩哨により、(カエサルにとって)貢献した諸都市が安全であるようにした。
      (訳注:praesidio は削除提案されているが、それとは逆に castellis vigiliisque 「城砦や歩哨により」を削除する提案もある。)
  • ibique reliquarum ex Italia legionum adventum exspectare
    • そこにおいて、イタリアから残りの諸軍団が来着するのを待つこと、
  • et sub pellibus hiemare constituit.
    • 天幕の下で冬営すること、を決める。


   ポンペイウスもアプスス川に達し、両軍が対峙する

  • ⑥項 Hoc idem Pompeius fecit
    • ポンペイウスもこれと同じことをして、
  • et trans flumen Apsum positis castris
    • アプスス川の向こう側に陣営を設置して、
  • eo copias omnes auxiliaque conduxit.
    • そこに、全軍勢と支援軍アウクシリアを結集させた。

14節

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カエサルの副官フフィウス・カレヌスが、ブルンディシウム港に引き返して、ビブルス艦隊の待ち伏せを免れる

  • ①項 Calenus legionibus equitibusque Brundisii in naves impositis, ut erat praeceptum a Caesare, quantam navium facultatem habebat,
    • カレヌスは、カエサルから指示されていたように、船団の収容力が可能なだけ、諸軍団と騎兵たちをブルンディシウムで船団に載せて、
      (訳注1:副官レガトゥス クィントゥス・フフィウス・カレヌス Quintus Fufius Calenus は、8節①~②項で、ブルンディシウムに送り返される船団の指揮を任されていた。)
      (訳注2:下線部は、写本Rや一部の校訂者は quantam とするが、ほかの写本では quantum となっている。)
  • naves solvit
    • 船団を出帆させた。
      (訳注:navem sovere 「船(のともづな)を解く」すなわち「出帆する」)
  • paulumque a portu progressus
    • 港から、いくらか進み出ると
  • litteras a Caesare accepit,
    • カエサルからの書状を受け取って、
  • quibus est certior factus portus litoraque omnia classibus adversariorum teneri.
    • それによって、(対岸の)すべての港や海岸が敵方の艦隊によって掌握されていることを知らされた。
ローマ内戦におけるアドリア海の海流と主要都市の図。


  • ②項 Quo cognito
    • (カレヌスは)それを知らされると、
  • se in portum recipit navesque omnes revocat.
    • (ブルンディシウムの)港に引き返して、すべての船団を呼び戻す。
  • Una ex his,
    • これらのうちの1隻は、
  • quae perseveravit neque imperio Caleni obtemperavit,
    • 断固として(渡航に)固執して、カレヌスの命令に従わずに、
  • quod erat sine militibus privatoque consilio administrabatur,
    • ── というのも、兵士たちが乗っておらず、一般市民の判断で操縦されていたからであるが、 ──
  • delata Oricum atque a Bibulo expugnata est;
    • オリクムに流れ着いて、ビブルスによって攻略された。


  • ③項 qui de servis liberisque omnibus ad impuberes supplicium sumit
    • 彼(ビブルス)は、奴隷も自由民も未成年に至るまですべて、極刑に処して、
      (訳注:dē ~ supplicium sūmere 「~を処罰する / 処刑する」)
  • et ad unum interficit.
    • 最後の一人まで殺してしまう。
  • Ita in exiguo tempore magnoque casu
    • このように、わずかな時間と大いなる偶然において、
      (訳注:in は、σ系写本と写本V にはあるが、ほかの写本にはない。)
  • totius exercitus salus constitit.
    • 軍隊全体の無事が確定したのである。

15節

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元老院派のビブルス艦隊が、海岸線の封鎖に音を上げて、カエサルに休戦を求めようとする

  • ①項 Bibulus, ut supra demonstratum est, erat in classe ad Oricum,
    • ビブルスは、前に述べたように、オリクムの周辺(の海域)で艦隊にいたが、
      (訳注:下線部は、写本L・Nにはあるが、ほかの写本にはない。また、cum に書き換えている訳者もいる。)
  • et sicuti mari portibusque Caesarem prohibebat,
    • (ビブルスの艦隊が)カエサルを海や港(への進出)から妨げていたように、
      (訳注:sīcutī ~ ita ・・・ 「~のと同じように・・・」)
  • ita ipse omni terra earum regionum prohibebatur.
    • (ビブルス)自身もその地方のすべての陸地から妨げられていた。


  • ②項 Praesidiis enim dispositis omnia litora a Caesare tenebantur,
    • なぜなら、守備隊が配置されて、すべての海岸がカエサルによって占領されていたので、
  • neque lignandi atque aquandi
    • 材木を集めることや水をむこと(の機会)も、
      (訳注:neque ~, neque ・・・ 「~もないし、・・・もない」)
  • neque naves ad terram religandi potestas fiebat.
    • 船団を陸地につなぐ機会もならなかった。


  • ③項 Erat res in magna difficultate,
    • 事態は、大きな困難にあって、
  • summisque angustiis rerum necessariarum premebantur,
    • 必需品の重大な欠乏に苦しめられており、
  • adeo ut cogerentur sicuti reliquum commeatum ita ligna atque aquam Corcyra navibus onerariis supportare,
    • ほかの物資と同じように、材木や水もコルキュラ(島)から貨物船団で輸送することを強いられたほどであったし、


  • ④項 atque etiam uno tempore accidit,
    • そのうえ、(次のようなことも)一時いちどきに起こったほどであった。
  • ut difficilioribus usi tempestatibus
    • たいへん困難な嵐をこうむって、
  • ex pellibus, quibus erant tectae naves,
    • 船団をおおっていた皮膜から、
  • nocturnum excipere rorem cogerentur.
    • 夜露を(飲料水などにするために)受け取ることを強いられたのだ。
      (訳注:excipere 「受け取る」)


  • ⑤項 Quas tamen difficultates patienter atque aequo animo ferebant,
    • それにもかかわらず、彼らは困難を我慢強く、冷静な気持ちで耐え抜いていて、
  • neque sibi nudanda litora et relinquendos portus existimabant.
    • 自分たちにとって、海岸を無防備にしたり、港を放置したりするべきではないと判断していた。


  • ⑥項 Sed cum essent in quibus demonstravi angustiis ac se Libo cum Bibulo coniunxisset,
    • けれども、(彼らの艦隊が)既述の欠乏にあって、(スクリボニウス・)リボがビブルスと一緒になったとき、
  • loquuntur ambo ex navibus cum M. Acilio et Statio Murco legatis,
    • 両者は船団の中から、(カエサルの)副官レガトゥス マルクス(またはマニウス)・アキリウスとスタティウス・ムルクスに話しかける。
      (訳注:下線部は、写本では m.(Marcō マルクス)だが、M'.(Māniō マニウス)に修正提案されている。
      Marcus Acilius Caninus ・・・マルクス(またはマニウス)・アキリウス・カニヌス(またはカニアヌス)の名前は諸説がある。)
  • quorum alter oppidi muris, alter praesidiis terrestribus praeerat:
    • ── その者らの前者は(オリクムの)城市の城壁(の守備隊を)、後者は地上の守備隊を統率していたのだ。 ──
  • velle se de maximis rebus cum Caesare loqui,
    • 自分たちは、重大な事柄について、カエサルと話すことを望んでいる。
  • si sibi eius <rei> facultas detur.
    • もし、自分たちにその<事の>機会が与えられるならば(の話だが)。
      (訳注:<rei> は写本になく、挿入提案されている。)


  • ⑦項 Huc addunt pauca rei confirmandae causa,
    • これに、そのことを確言するために、いくつか(の言葉)を加えて、
  • ut de compositione acturi viderentur.
    • (両軍の)和解について協議すると思われるようにした。
  • Interim postulant, ut sint indutiae,
    • (リボとビブルスは)さしあたり、休戦が成るように求め、
  • atque ab iis impetrant.
    • 彼ら(アキリウスら)を通じて達成する。
  • Magnum enim, quod adferebant, videbatur,
    • なぜなら、(リボとビブルスにより)提案されていたことは、(アキリウスらにとっても)重大であると思われたのだし、
  • et Caesarem id summe sciebant cupere,
    • カエサルがそれを最も切望していることを(アキリウスらは)知っており、
  • et profectum aliquid Vibulli mandatis existimabatur.
    • ウィブッリウス(・ルフス)への言伝ことづてにより、(和平交渉に)何らかの進展があると判断されていたのだ。
      (訳注:カエサルがウィブッリウス・ルフスにことづてた和平提案については10節を参照。)

16節

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カエサルが、港湾都市オリクムで、ビブルスの代理人スクリボニウス・リボと会談する

ブトロトゥムButhrotum)すなわち現在のブトリント(Butrint)遺跡にあるローマ時代の公衆浴場跡。ユネスコ世界遺産に登録されている。
  • ①項 Caesar eo tempore cum legione una profectus
    • カエサルは、その時期、(1個)軍団とともに出発して、
  • ad recipiendas ulteriores civitates et rem frumentariam expediendam, qua anguste utebatur,
    • より遠方の諸都市を取り込むためと、欠乏していた糧秣の調達を好都合にするためであったが、
  • erat ad Buthrotum oppidum <quod est oppositum> Corcyrae.
    • コルキュラ(島)の<対岸にある>城市ブトロトゥムの辺りにいた。
      (訳注: <quod est oppositum> <対岸にある>は写本になく、挿入提案された。
      <oppositum> <対岸の>という挿入提案もある。)


  • ②項 Ibi certior ab Acilio et Murco per litteras factus de postulatis Libonis et Bibuli
    • そこで、アキリウスとムルクスからの書状で、リボとビブルスの要求について知らされて、
      (訳注:certior factus de ~「~について知らされる」)
  • legionem relinquit;
    • 軍団を(ブトロトゥムに)残して、
  • ipse Oricum revertitur.
    • (カエサル)自身は、オリクムに帰還する。


   カエサルとスクリボニウス・リボの会談

  • ③項 Eo cum venisset, evocantur illi ad conloquium.
    • (カエサルが)そこに来ると、彼ら(リボとビブルス)は会談に呼び出される。
  • Prodit Libo atque excusat Bibulum,
    • リボが現われて、ビブルス(の欠席)を言い訳する。
  • quod is iracundia summa erat
    • 彼(ビブルス)は、このうえなく激しやすかったし、
  • inimicitiasque habebat etiam privatas cum Caesare ex aedilitate et praetura conceptas;
    • 造営官アエディリス職や法務官プラエトル職を受けて以来、カエサルに個人的な敵意さえ抱いていた、という。
  • ob eam causam conloquium vitasse,
    • その理由のため、(ビブルスは)会談を避けて、
  • ne res maximae spei maximaeque utilitatis eius iracundia impedirentur.
    • 大いに期待し、大いに有益となる事柄が、彼の激しやすさにより妨げられないようにした、というのである。


   スクリボニウス・リボの言い分

  • ④項 Pompei summam esse ac fuisse semper voluntatem, ut componeretur atque ab armis discederetur,
    • (和平に)合意し、武器を放棄することが、[ポンペイウスの]このうえない望みであるし、常にそうであった。
      (訳注:下線部の Pompei 「ポンペイウスの」を削除し、suam 「自分の」とする修正提案がある。)
  • se potestatem eius rei nullam habere,
    • 自分たちは、その事について何ら権限を持っていない。
      (訳注:下線部は、写本では sed 「けれども」であるが、se 「自分たちは」と修正提案されている。)
  • propterea quod de consilii sententia summam belli rerumque omnium Pompeio permiserint.
    • (元老院議員たちの)会議の議決により、戦争および諸事の最高権限をポンペイウスに一任していたのであるからだ。
      (訳注:proptereā quod ~「~であるから」)


  • ⑤項 Sed postulatis Caesaris cognitis
    • けれども、カエサルの要求を確認したら、
  • missuros ad Pompeium,
    • (自分たちが)ポンペイウスのもとに(使節たちを)遣わして、
  • atque illum reliqua per se acturum hortantibus ipsis.
    • さらに、彼(ポンペイウス)が自ら、(リボたち)自身の励ましにより、残りのことを協議するであろう。
  • Interea manerent indutiae, dum ab illo rediri posset,
    • (和平条件について伝える使節たちが)彼のもとから戻れることができるまで、その間は休戦にとどまるべきで、
  • neve alter alteri noceret.
    • また、一方が他方を殺傷するべきではない。
    • (訳注:スクリボニウス・リボの言い分は、ここまで。)
  • Huc addit pauca de causa et de copiis auxiliisque suis.
    • (リボは)これに、(和平の)理由や、味方の軍勢や支援軍アウクシリアについて、いくらか(の言葉)を加える。

17節

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カエサルとスクリボニウス・リボによる和平協議が物別れに終わる

  • ①項 Quibus rebus
    • (リボが最後に付け加えた)それらの事柄に対して、
  • neque tum respondendum Caesar existimavit,
    • そのとき、カエサルは(リボに)答えるべきだとは判断しなかったし、
  • neque nunc, ut memoriae prodatur, satis causae putamus.
    • 今でも、記録されるべき、じゅうぶんな理由があるとは思わない。
      (訳注:memoriae prōdere「記憶/記録 にゆだねる」)


  • ②項 Postulabat Caesar,
    • カエサルは、(次のように)要求していた。
  • ut legatos sibi ad Pompeium sine periculo mittere liceret,
    • 自分の使節たちをポンペイウスのもとへ、危険なしに遣わすことが許されるように、
  • idque ipsi fore reciperent
    • そのことが成ることを、(リボたち)自身が約束するか、
      (訳注:recipere 「約束する、保証する」)
  • aut acceptos per se ad eum perducerent.
    • あるいは、自ら(使節たちを)引き受けて、彼(ポンペイウス)のもとへ連れて行くように、と。


  • ③項 Quod ad indutias pertineret,
    • 休戦に関しては、
      (訳注:quod ad ~ pertinēre 「~に関するかぎり」)
  • sic belli rationem esse divisam,
    • 作戦は(次のように、二つに)分かれている。
      (訳注:sīc ~ ut ・・・ 「・・・と同じように~」)
  • ut illi classe naves auxiliaque sua impedirent,
    • あの者ら(リボとビブルスら)は、艦隊により、自分(カエサル)の船団や増援を妨害していたし、
  • ipse ut aqua terraque eos prohiberet.
    • (カエサル)自身は、彼らを飲み水や陸地から遠ざけていた。


  • ④項 Si hoc sibi remitti vellent,
    • もし、(リボたちが、)自らに対するこれ(=陸上封鎖)が解除されることを望むのなら、
  • remitterent ipsi de maritimis custodiis;
    • (リボたち)自身が、沿岸の警戒を解除するべきだ。
  • si illud tenerent,
    • もし、(リボたちが)あれ(=海上封鎖)を維持するのならば、
  • se quoque id retenturum.
    • 自分(カエサル)もまた、それ(=陸上封鎖)を持続するであろう。
  • Nihilominus tamen agi posse de compositione,
    • とはいっても、やはり、和解について、協議することはできる。
      (訳注:nihilōminus 「にもかかわらず」「とはいっても」)
  • ut haec non remitterentur,
    • これらが解除されなかったとしても、
  • neque hanc rem illi esse impedimento.
    • この事情は、あれ(=和平協議)にとって妨げとはならない。
      (訳注:下線部は、修正提案で、写本では illis esse impedimenti loco となっている。)


  • ⑤項 Libo neque legatos Caesaris recipere
    • リボは、カエサルの使節たちを引き受けもせずに、
  • neque periculum praestare eorum,
    • 彼らの危険に責任を負おうともしなかったが、
      (訳注:praestāre 「責任を負う」)
  • sed totam rem ad Pompeium reicere;
    • けれども、事態をポンペイウスに丸投げしており、
    • (訳注:rēicere ~ ad ・・・ 「~を・・・にゆだねる」)
  • unum instare de indutiis
    • ただ一つ、休戦についてのみ執着して、
  • vehementissimeque contendere.
    • 激しく言い争う。


  • ⑥項 Quem ubi Caesar intellexit praesentis periculi atque inopiae vitandae causa omnem orationem instituisse, neque ullam spem aut condicionem pacis adferre,
    • カエサルは、その者(リボ)が目下の危険や(物資の)欠乏をのがれるために、すべての発言を企てたこと、和平についてのいかなる希望も条件も提示していないことを理解する
  • ad reliquam cogitationem belli sese recepit.
    • 戦争のこれからを考えることに、立ち戻った。

18節

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ビブルスが過労死。ポンペイウスが、カエサルからの和平提案について側近たちと議論するが、和平に拒絶の意思を示す


   ビブルスの病死

  • ①項 Bibulus multos dies terra prohibitus
    • ビブルスは、幾日も陸地から遠ざけられて、
  • et graviore morbo ex frigore ac labore inplicitus,
    • 寒さと過労のせいで重い病気にかかり、
      (訳注:implicārī morbō 「病気にかかる」)
  • cum neque curari posset neque susceptum officium deserere vellet,
    • 治療されることできず、引き受けてしまった任務をおろそかにすること望まなかったので、
  • vim morbi sustinere non potuit.
    • 病気の勢いに持ちこたえることができなかった。


   司令長官を失った連合艦隊

  • ②項 Eo mortuo
    • 彼(ビブルス)が死ぬと、
  • ad neminem unum summa imperii redit,
    • (諸艦隊の)誰ひとりとして最高司令権を手にする者はなく、
  • sed separatim suam quisque classem ad arbitrium suum administrabat.
    • けれども、(各艦隊を率いる)おのおのが自分の艦隊を個別に、自らの裁量に従って指揮していたのだ。
      (訳注:ad ~「~に従って」 ; arbitrium 「判断、裁量」)


   ポンペイウスと側近たちが、カエサルの和平提案について話し合う

  • ③項 Vibullius sedato tumultu, quem repentinus Caesaris adventus concitaverat,
    • ウィブッリウス(・ルフス)は、カエサルの思いがけない到来がかき立てた動揺が落ち着くと、
  • ubi primum e re visum est,
    • 状況から適切と思われるや否や、
      (訳注1:下線部は修正提案されたもので、写本Lでは reversus est 「立ち戻った」、ほかの写本では rursus 「再び」となっている。)
      (訳注2:ubī prīmum ~ 「~するや否や、~するとすぐに」 ; vīsum est 「適切と思われた」はvidēre の受動・非人称的用法)
  • adhibito Libone et L. Lucceio et Theophane,
    • (スクリボニウス・)リボ、ルキウス・ルッケイウス、テオパネスを招き入れて、
  • quibus<cum> communicare de maximis rebus Pompeius consueverat,
    • ── ポンペイウスは、その者たちと重大な事案について話し合うのが常であったのだが、──
  • de mandatis Caesaris agere instituit.
    • (彼らとともに)カエサルからの(和平提案に関する)言伝ことづてについて、協議し始める。


  • ④項 Quem ingressum in sermonem
    • 彼(ウィブッリウス)が話し合いに入ると、
  • Pompeius interpellavit et loqui plura prohibuit.
    • ポンペイウスは(話を)さえぎって、それ以上 話すことを妨げた。
  • “Quid mihi” inquit, “aut vita aut civitate opus est, quam beneficio Caesaris habere videbor?
    • (ポンペイウスは)言った。「(和平を結んだとして)カエサルのおかげで保っていると(人々から)見られるであろう生命や市民権など、どうして私にとって必要だろうか?」
  • cuius rei opinio tolli non poterit, cum in Italiam, ex qua profectus sum, reductus existimabor bello perfecto.”
    • (カエサルに追われて、私が)出発したところのイタリアに、戦争が終わって連れ戻されたと(人々から)判断されるであろうに、その事の世評を打ち消すことなどできるものか。」
      (訳注:下線部 bello perfecto 「戦争が終わって」は、校訂者によっては、次の文の文頭に置く。)
  • Ab iis Caesar haec facta cognovit, qui sermoni interfuerunt.
    • この(ポンペイウスの発言という)事実を、カエサルは、話し合いに出席していた者たちから知った。
  • Conatus tamen nihilominus est aliis rationibus per conloquia de pace agere.
    • しかし、それでもやはり、(カエサルは)別の手段ラティオによって、和平について会談を通じて協議することを試みたのだ。
      (訳注:tamennihilōminus もほぼ同じ意味 「それにもかかわらず」「それでもやはり」で、類語反復による強調表現と思われる。)

19節

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カエサルがアプスス河岸で両軍の協議にこぎつけるが、ラビエヌスが和平交渉の打ち切りを通告する

カエサルとポンペイウスの両軍がアプスス川で対峙するまでの行軍ルート(再掲)。現在のアルバニア国内で展開される。
  • ①項 Inter bina castra Pompei atque Caesaris
  • unum flumen tantum intererat Apsus,
    • アプススというただ一つの川が介在しているだけであって、
      (訳注1:tantum 副詞「ただ~」「だけ」)
      (訳注2:アプスス川 Apsus flumen は、現在のセマン川。)
  • crebraque inter se conloquia milites habebant,
    • 兵士たちは、しばしば、互いに会話をしていた。
  • neque ullum interim telum per pactiones loquentium traiciebatur.
    • その間は、会話する者たちの約定により、いかなる飛び道具も投げつけられることはなかった。


   カエサルが、副官ウァティニウスをして和平を呼びかけさせる

  • ②項 Mittit P. Vatinium legatum ad ripam ipsam fluminis,
    • (カエサルは)副官レガトゥス プブリウス・ウァティニウスを当の川岸に遣わして、
  • qui ea quae maxime ad pacem pertinere viderentur ageret,
    • その者をして、和平に最も関わりがあると思われていたことを協議させようとして、
  • et crebro magna voce pronuntiaret,
    • たびたび大声で(以下のように)通告させた。
  • liceretne civibus ad cives [de pace duos] legatos mittere,
    • (ローマ国家の)市民たちによって市民たちへ[和平についての2名の]使節たちを遣わすことが許されるかね?
      (訳注:[和平についての2名の][de pace duos] は、削除提案されている。)
  • quod etiam fugitivis ab saltu Pyrenaeo praedonibusque licuisset,
  • praesertim cum id agerent, ne cives cum civibus armis decertarent.
    • とりわけ、市民たちが市民たちと武力で決着をつけることのないように、協議する場合には(なおのことだ)。
      (訳注:dēcertāre cum ~ 「~と決着をつける」)


  • ③項 Multa suppliciter locutus, ut de sua atque omnium salute debebat,
    • (ウァティニウスは)自らと皆の身の安全について義務があるかのように、嘆願するようにして多くを語り、
  • silentioque ab utrisque militibus auditus.
    • 双方の兵士たちによって、黙って聞き取られた。


   協議の時刻が決められる

  • ④項 Responsum est ab altera parte
    • 先方から(以下のように)応答があった。
  • Aulum Varronem profiteri
  • se altera die ad conloquium venturum
    • 自分(ウァッロ)は、明くる日に、会談に現われるであろう。
  • atque una visurum, quemadmodum tuto legati venire et quae vellent exponere possent;
    • どのように使節たちが安全に到着して、(彼らが)望むことを説明することができるか、一緒に検討するであろう、と。
  • certumque ei rei tempus constituitur.
    • その事の定刻が決められる。


  • ⑤項 Quo cum esset postero die ventum,
    • 翌日にそれ(=定刻)が来たときに、
  • magna utrimque multitudo convenit,
    • 双方から大群集が集まる。
  • magnaque erat expectatio eius rei
    • その事(=和平の協議)への期待は大きかったし、
  • atque omnium animi intenti esse ad pacem videbantur.
    • 皆の意識が和平に向けられているように思われていた。
      (訳注:animōs ad ~ intendere 「意識を~に向ける」
           animī ad ~ intentī esse 「意識が~に向けられる」)


   ラビエヌスとウァティニウスが和平協議を始める

  • ⑥項 Qua ex frequentia T. Labienus prodit,
  • summissa oratione loqui de pace atque altercari cum Vatinio incipit.
    • 声を抑えた発言で和平について話し、ウァティニウスと論争し始める。
      (訳注:下線部 summissa oratione 「声を抑えた発言で」は、altercari 「口論 / 論争する」やその後の経緯と矛盾するようにも思われるので、
      sed missa oratione 「けれども、言葉を投げつけて」、superbissima oratione 「ひどく傲慢ごうまんな発言で」などの修正提案がある。)


   和平協議が武力によって中断される

  • ⑦項 Quorum mediam orationem interrumpunt subito undique tela immissa;
    • その真っ最中に、突如として四方から飛び道具が射込まれて、会話を中断させる。
  • quae ille obtectus armis militum vitavit;
    • 彼は、兵士たちの武具で防護されて、それ(=飛び道具)を避けた。
      (訳注:ille 「彼」は、カエサル側のウァティニウスのことと思われるが、ラビエヌスと解釈することもできる。)
  • vulnerantur tamen complures,
    • しかしながら、多くの者たちが(飛び道具により)負傷させられる。
  • in his Cornelius Balbus, M. Plotius, L. Tiburtius, centuriones militesque nonnulli.
    • これらの中には、コルネリウス・バルブス、マルクス・プロティウス、ルキウス・ティブルティウス、少なからぬ百人隊長ケントゥリオたちや兵士たちがいた。
      (訳注:ルキウス・コルネリウス・バルブス Lucius Cornelius Balbus は、カエサルの友人で、BC40年に執政官となる。)


   ラビエヌスが和平協議の決裂を宣言する

  • ⑧項 Tum Labienus:
    • その際に、ラビエヌスが以下のように言った:
  • “desinite ergo de compositione loqui;
    • それならば、和解について話し合うことを中止してくれ。
      (訳注:dēsinite は、dēsinere 「中止する、やめる」の2人称・複数・現在・能動・命令法)
  • nam nobis nisi Caesaris capite relato pax esse nulla potest.”
    • なぜなら、我々(元老院派)にとって、カエサルの首級が引き渡されない限り、和平などあり得ないのだから。
      (訳注:カエサルのおじでBC90年の執政官であったルキウス・ユリウス・カエサルは弟とともに内戦で殺害され、元老院で首級をさらされたという。)

カエリウスとミロのイタリア事変

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20節

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法務官カエリウス・ルフスが、過払金訴訟問題で債務者の歓心を得るために、無利子法案を提出


    法務官カエリウス・ルフスが、過払金返還請求訴訟に取り組もうとする

  • ①項 Isdem temporibus
    • 同じ時期に、
  • M. Caelius Rufus praetor causa debitorum suscepta
    • 法務官プラエトル マルクス・カエリウス・ルフスは、債務者デビトルたちの訴訟カウサを引き受けて、
      (訳注:マルクス・カエリウス・ルフス[5](BC82-BC48)は、キケロの『カエリウス弁護』[6] でも知られる政治家・弁論家。)
  • initio magistratus
    • 政務官マギストラトゥス(に任官した)当初は、
  • tribunal suum iuxta C. Treboni, praetoris urbani, sellam conlocavit,
    • 自分の高官席トリブナルを、首都担当の法務官プラエトル・ウルバヌス ガイウス・トレボニウス高官椅子セッラに接して置いていて、
      (訳注1:法務官プラエトルは、執政官コンスル2名に次ぐ高官であるが、スッラによって2名から8名へ増員されていた(後にカエサルによって16名に増員される)。
           トレボニウスが任官していた首都担当の法務官プラエトル・ウルバヌス praetor urbanus は、
           ローマ市民どうしの問題を扱う上位の行政官で、執政官コンスル不在時には首都ローマ市の防衛を任される重職であった。
           これに対して、カエリウスらは、外国人担当の法務官プラエトル・ペレグリヌス praetor peregrinus で、
           ローマ市民権を持たない「外国人ペレグリヌス」が関わる問題を扱う下位の行政官にすぎなかった。)
      (訳注2:ガイウス・トレボニウスは、カエサルの副官レガトゥスとして 第2巻1節15節でマッシリア攻囲戦を指揮した後、
           カエサルから首都を守る重責を任されていた。このため、ポンペイウスとの決戦には参加していない。)
  • et siquis appellavisset de aestimatione et de solutionibus,
    • もし(債務者のうちの)誰かが、(財産の)評価額アエスティマティオについてや、(借金の)返済額ソルティオについて、上訴したならば、
      (訳注:siquis または si quis 「もし、誰かが」 ; appellāre上訴する、控訴する」)
  • quae per arbitrum fierent, ut Caesar praesens constituerat,
    • ── それらは、カエサルが(首都ローマ市に)いるときに取り決めていたように、仲裁人アルビテルたちを通じて処理されていたのだが ──
      (訳注:1節②項~③項を参照。)
  • fore auxilio pollicebatur.
    • (カエリウス自身が、債務者たちにとっての)助っ人になるであろう、と約束していた。
      (訳注:~ auxiliō esse 「~に助けとなる」 > 未来形 auxilio fore)


   トレボニウスの人情裁きにより、カエリウスの活躍の余地がなくなる

  • ②項 Sed fiebat aequitate decreti et humanitate Treboni,
    • けれども、(独裁官のときのカエサルの)決定デクレトゥム公正さアエクウィタスと、トレボニウスの(採決の)人間らしさフマニタスによって、(訴訟が)処理されていた(ので)、
      (訳注:dēcrētī決定デクレトゥムの」の意味上の主語は、カエサルともトレボニウスとも解釈できるので、訳書によって分かれる。
      ガードナー訳(J. P. Gardner, 1976)Caesar's decree was equitable ・・・ (カエサルの行政命令は公正だったし・・・)
      カーター訳(J. M. Carter, 1990)thanks to the fairness of the decree and the decency of Trebonius (トレボニウスの採決の公平さと親切心のおかげで)、としている。)
  • qui <his> temporibus clementer et moderate ius dicendum existimabat,
    • ── 彼(トレボニウス)は、<このような>時節のため、慈悲じひ深く、節度をもって、裁決が下されなければならぬ、と判断していた ──
      (訳注:<his> <このような> は写本になく、挿入提案されたもの。)
  • ut reperiri non possent, a quibus initium appellandi nasceretur.
    • 上訴の先陣イニティウムを切るような者は見出されなかった(ほどであった)。


  • ③項 Nam fortasse
    • なぜなら、おそらくは、
  • inopiam excusare
    • 貧乏なのを口実にしたり、
  • et calamitatem aut propriam suam aut temporum queri
    • 自分に特有な災い、あるいは(内乱という)時代の災いを嘆いたり、
  • et difficultates auctionandi proponere
    • (財産を)競売にかけることの困難さを説明したりすることは、
  • etiam mediocris est animi;
    • 性根アニムスありきたりメディオクリスですらあるだろう。
  • integras vero tenere possessiones, qui se debere fateantur,
    • だが他方で、自分が借金していることを認めながらも、財産を手付かずにがっちり握っていようとすることは、
  • cuius animi aut cuius impudentiae est?
    • 何という性根アニムス、あるいは厚顔無恥インプデンティアであろうか?


  • ④項 Itaque, hoc qui postularet, reperiebatur nemo.
    • こうして、このような告訴をする者は、誰も見出されなかった。
      (訳注:postulāre 「告訴する」)
  • Atque ipsis, ad quorum commodum pertinebat, durior inventus est Caelius.
    • それどころか、利益に関与していた者たち、当人たちに対して、カエリウスの方がより苛烈かれつであることがわかったのである。
      (訳注:ipsīs を与格 と解釈すると、「カエリウスは、(債者)当人たちに対して、(債務者よりも)、より厳しい」、
           ipsīs を比較の奪格と解釈すると「カエリウスは、(債者)当人たちに比べて、(債権者に)より厳しい」と受け取れる。)


   カエリウスが5年間 無利子の法案を出す

  • ⑤項 Et ab hoc profectus initio,
    • (カエリウスは)このような出だしから進んで、
  • ne frustra ingressus turpem causam videretur,
    • 面汚つらよごしな訴訟カウサにむなしく踏み込んだと(世間から)思われないように、
  • legem promulgavit, ut sexenni die sine usuris creditae pecuniae solvantur.
    • 貸し付けられた金銭ペクニアは6年目の日に利息ウスラなしで返済される、という法案を提出した。
      (訳注1:下線部 sexenni die 「6年目の日に」は修正提案されたもので、
            例えばβ系写本では sexies sēnī dies 「6日間に6回ずつ」などとなっている。)
      (訳注2:修正提案された「6年目の日に」は、ローマ人は起点となる年を1年目と数えたので、5年後の期日ということになると思われる。)

21節

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元老院から追い出されたカエリウス・ルフスが、国外追放されていたミロを呼び戻して事変を起こす

  • ①項 Cum resisteret Servilius consul reliquique magistratus et minus opinione sua efficeret,
    • 執政官コンスルセルウィリウスや残りの政務官マギストラトゥスが抵抗して、(カエリウスは)自ら予想したほどじゅうぶんな成果をあげられなかったので、
  • ad hominum excitanda studia
    • 人々の欲望を駆り立てるために、
  • sublata priore lege duas promulgavit,
    • 先の法案を取り下げて、(その代わりに)二つを提出した。
  • unam, qua mercedes habitationum annuas conductoribus donavit,
    • その一つは、借家人コンドゥクトルたちに対して、毎年の住居ハビタティオ家賃メルケスを(公金から)支払うというもの、


   カエリウスが民衆を扇動して、同僚の法務官トレボニウスを襲撃させる

  • ②項 aliam tabularum novarum,
    • もう一つは、借金を棒引きにするというものであった。
      (訳注:novae tabulae 「新しい帳簿」、転じて「債務の帳消し」)
  • impetuque multitudinis in C. Trebonium facto
  • et nonnullis vulneratis
    • 少なからぬ者たちが負傷させられて、
  • eum de tribunali deturbavit.
    • 彼(トレボニウス)を高官席トリブナルから追い払った。


   トレボニウスが元老院のお墨付きを得て、カエリウスを公職追放処分に処す

  • ③項 De quibus rebus Servilius consul ad senatum rettulit,
    • それらの事態について、執政官コンスルセルウィリウスが元老院の審議にかけて、
      (訳注:referre ~「~を討議に付す」> rettulit 完了形・3人称単数)
  • senatusque Caelium ab re publica removendum censuit.
    • 元老院は、カエリウスが国務から追放されるべきだと、決議した。
  • Hoc decreto eum consul senatu prohibuit
    • この議決により、執政官(セルウィリウス)は彼(カエリウス)を元老院から締め出して、
  • et contionari conantem de rostris deduxit.
    • (カエリウスが)演説することを試みていたところを演壇ロストロムから追い出した。


   屈辱に耐えかねたカエリウスが、謀反を起こすためにミロを呼び寄せる

  • ④項 Ille ignominia et dolore permotus
    • 彼(カエリウス)は、恥さらしイグノミニア腹立ちドロルにより身震みぶるいして、
  • palam se proficisci ad Caesarem simulavit;
    • うわべは、カエサルのもとへ出発することに見せかけたが、
  • clam nuntiis ad Milonem missis,
    • ひそかにミロのもとへ使いの者たちを遣わして、
  • qui Clodio interfecto eo nomine erat damnatus,
    • ── その者は、クロディウスが殺害されると、その名目で有罪判決されていたのだが、 ──
      (訳注:ティトゥス・アンニウス・ミロ Titus Annius Milo は、BC57年に護民官、BC55年に法務官を歴任した平民派ポプラレスの政治家。
      プブリウス・クロディウス・プルケル Publius Clodius Pulcher は、元老院派オプティマテスと対立する三頭政治の手下として護民官になったが、
      やがて三頭政治から離れてポンペイウスと対立するようになった。ポンペイウスは護民官ミロを支持してクロディウスに対抗させたが、
      そのうちミロもポンペイウスから離反して元老院派の支持のもとで、暴力集団を組織してクロディウスの武装集団に対抗した。
      BC52年の執政官に立候補したミロは、法務官に立候補したクロディウスと抗争し、BC52年のはじめに暴力団どうしが激突してクロディウスが殺害された。
      ミロはポンペイウスによって法廷に召喚されて弾劾され、ローマの同盟国であったマッシリアに逃亡して余生を送っていた。
      このとき、キケロはミロを法廷で弁護したが、ポンペイウスやクロディウス派の妨害により不首尾に終わった。
      キケロの有名な著作『ミロ弁護』は、後日にキケロが書き上げて、マッシリアのミロに送付したものが後世に伝わったものである。
      クロディウスの殺害については、ガリア戦記 第7巻1節でも言及されている。)
  • atque eo in Italiam evocato,
    • 彼(ミロ)をイタリアに呼び寄せた。
  • quod magnis muneribus datis gladiatoriae familiae reliquias habebat,
    • というのも、(ミロは、剣闘士の)大がかりな見世物ムヌスを供して、剣闘士グラディアトルたちの一団ファミリアの残党を侍らしていたからだ。
  • sibi coniunxit atque eum in Thurinum ad sollicitandos pastores praemisit.
    • (カエリウスは、ミロや剣闘士らと)結び付いて、彼を羊飼いパストルたちを扇動するためにトゥリイに先に遣わした。


  • ⑤項 Ipse cum Casilinum venisset
    • (カエリウス)自身は、カシリヌムにやって来て、
      (訳注:理由を表すcum の節「~ので」は、cumvenisset(接続法・過去完了) ~ appararet(接続法・未完了過去)まで。)
  • unoque tempore signa eius militaria atque arma Capuae essent comprensa
    • カプアで彼の軍旗と武器が一時いちどきに差し押さえられて、
  • et familia Neapoli visa quae proditionem oppidi appararet,
    • ネアポリス (現在のナポリ で、城市への反逆プロディティオを準備していた(剣闘士の)一団が見つかったので
  • patefactis consiliis exclusus Capua
    • 計略コンシリウムが明らかにされて、カプアから排除され、
  • et periculum veritus,
    • 身の危険を恐れて、
  • quod conventus arma ceperat atque eum hostis loco habendum existimabat,
    • ── というのも、(カプアの)ローマ市民協議会コンウェントゥスが武器を捕獲しており、彼(カエリウス)を敵と見なすべきだと判断していたからだが、 ──
  • consilio destitit atque eo itinere sese avertit.
    • 計略コンシリウムを思いとどまって、その進路を転じる。

22節

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ミロとカエリウスが殺害されて、事変が収束する

カエリウス・ルフスが起こした事変の関連図。矢印は、カエリウスのたどったルートを示す。
  • ①項 Interim Milo dimissis circum municipia litteris
    • その間に、ミロは、諸自治都市ムニキピウムの周辺に書状を送って、
  • <se> ea, quae faceret, iussu atque imperio facere Pompei,
    • <自分が、>行なったことは、ポンペイウスの指図と威令により行なっているもので、
      (訳注:<se> <自分が> は写本になく、挿入提案されたもの。)
  • quae mandata ad se per Vibullium delata essent,
    • それらの言伝ことづては、ウィブッリウス(・ルフス)を通じて、自分のもとにもたらされたものだ(と述べて)、
  • quos ex aere alieno laborare arbitrabatur, sollicitabat.
    • 借金により苦悩していると思われた者たちを、扇動していた。


   ミロの最期

  • ②項 Apud quos cum proficere nihil posset,
    • その者たちのもとでは、(ミロは)何ら成功できなかったので、
  • quibusdam solutis ergastulis
    • いくつかの奴隷収監所エルガストゥルムを破壊して(奴隷たちを連れ出し)、
  • Compsam in agro Hirpino oppugnare coepit.
    • ヒルピニ族の領地にあるコンプサ(の城市)を攻囲し始めた。
      (訳注:下線部は修正提案されたもので、写本では Cosam in agro Turino 「トゥリイの領地にあるコサ」となっている。
      これは、ウェッレイウス・パテルクルスの『ローマ史』(第2巻68節 [3])の写本に
       qui Compsam in Hirpinis oppugnans ictusque lapide 「彼(ミロ)がヒルピニ族のコンプサを攻囲しているときに、石を投げられて」
      と記述されていることによる。)
  • Eo cum a Q. Pedio praetore cum legione **** lapide ictus ex muro perit.
    • そこに、法務官プラエトル クィントゥス・ペディウスによって、(1個)軍団とともに****、城壁から石を投げられて(ミロは)絶命した。
      (訳注:****の部分は、欠落があると校訂者たちにより判断されており、次のような挿入提案がある。
          <impediretur>(接続法・未完了過去) ⇒ ペディウスによって・・・<妨害された>ので、
          <impeditus pervenire non posset> ⇒ ペディウスによって・・・<妨害されて到達することができなかった>ので、
          <subventum esset> ⇒ ペディウスによって・・・<救援に来られた>ので、)


   カエリウスの最期

  • ③項 Et Caelius profectus, ut dictitabat, ad Caesarem pervenit Thurios.
    • そして、カエリウスは、たびたび言っていたように、カエサルのもとへ出発して、トゥリイに到着した。
  • Ubi cum quosdam eius municipii sollicitaret
    • そこで、その自治都市ムニキピウムのある者たちを扇動して、
      (訳注:cum の節は、cumsollicitāret(接続法・未完了過去) ~ pollicērētur(接続法・未完了過去)、まで)
  • equitibusque Caesaris Gallis atque Hispanis, qui eo praesidii causa missi erant, pecuniam polliceretur,
    • そこに、守備隊の名目で派兵されていた、ガリア人やヒスパニア人からなるカエサルの騎兵たちに、金銭(の贈賄)を約束したときに
  • ab his est interfectus.
    • 彼ら(騎兵たち)によって殺害された。


   

  • ④項 Ita magnarum initia rerum, quae occupatione magistratuum et temporum sollicitam Italiam habebant,
    • こうして、政務官マギストラトゥスたちと時勢テンプス急襲オックパティオすることにより、イタリアを不穏な状態にしていた大きな事変も、端緒において、
  • celerem et facilem exitum habuerunt.
    • 早々と造作ぞうさもなく、結末に至ったのである。
ポンペイウスがこの年(BC48年)春に発行したデナリウス銀貨
左の人物の横顔は、頭部に「NVMA」の文字があしらわれていることから、王政期の伝説的な王ヌマ・ポンピリウスだとわかる。左端に刻まれた「CN・PISO・PRO・Q」は、ポンペイウスの財務官代理として貨幣を鋳造させたグナエウス・ピソ Gnaeus Calpurnius Piso 。右面の絵柄は、ポンペイウスの軍船で、上の「MACN」はポンペイウスの添え名「マグヌス(Magnus)」を、下の「PRO・COS」は彼が執政官代理プロコンスルであることを示す。
  • (訳注1:カエサルの記述とは裏腹に、事変は続発した。カエサルの子飼いの部下
    プブリウス・コルネリウス・ドラベッラ Publius Cornelius Dolabella は、
    ポンペイウスとの戦いの翌年(BC47年)には、首都ローマで護民官を務めたが、
    借金の棒引きや家賃の支給など、カエリウスと同様の急進的な政策を打ち出して、
    カエサル不在のイタリアを統治していたマルクス・アントニウスと対立したあげく、
    武力で公共広場フォルムを占領して、強引に法案を通そうとしたので、激しい市街戦が勃発した。
    ドラベッラは幸運にも、エジプトから帰還したカエサルによって赦免されて、
    その後の内戦に従軍し、BC44年には、カエサルから補欠執政官に指名された。)
  • (訳注2:このような事変が勃発した背景には、共和制末期の本土イタリアが、
    属州からの納税に依存しきっていたことにある。内戦が始まったBC49年は、
    ポンペイウス派こそが二人の執政官を擁する合法的な政府であったし、
    貨幣を鋳造するための鉱山も、属州の徴税権もポンペイウスが掌握していた。
    右の、ポンペイウスが発行した銀貨は、ポンペイウス派の財力と海軍力を誇示している。)

アントニウスの増援部隊とカエサルの合流

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23節

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スクリボニウス・リボの艦隊がイタリア側のブルンディシウム港に上陸して、カエサル勢の増援を阻もうとする

  • ①項 Libo profectus ab Orico cum classe, cui praeerat, navium L,
    • リボは、50隻の船団からなる、統率していた艦隊とともに、オリクムから出発して、
      (訳注:ルキウス・スクリボニウス・リボ Lucius Scribonius Libo は、ポンペイウスの次男の岳父で、
      5節③項で述べられているように、リブルニア Liburniaアカイア Achaia の艦隊を率いていたと思われる。
      15節17節では、ビブルスとリボらの艦隊は、カエサル勢によりオリクムの陸地から排除されて難渋していたことが言及されていた。
      ところが、18節では、陸上のポンペイウスのもとで、側近たちとの話し合いに参加したと書かれている。)
  • Brundisium venit
  • insulamque, quae contra portum Brundisinum est, occupavit,
    • ブルンディシウム港に面する島を占領した。
  • quod praestare arbitrabatur unum locum, qua necessarius nostris erat egressus, quam omnia litora ac portus custodia clausos tueri.
    • というのも、(イッリュリア側の)海岸や港の全域を哨戒艇クストディアにより封鎖したまま防御するよりも
      我が方(カエサル勢)にとって そこから出帆することが避けられなかった1か所を防御することの方がよりまさると思っていたからだ。
      (訳注1:下線部の praestāre ~ quam ・・・ tuērī 「・・・を守るよりも~を守ることの方がまさる」)
      (訳注2:下線部の tuērī (能動の不定法) は古い写本の記述だが、より後代の写本では tenērī (受動の不定法) となっている。
      どちらも、意味は「守る、維持する」。)


  • ②項 Hic repentino adventu
    • ここへ、突然にやって来て、
  • naves onerarias quasdam nactus incendit
    • いくつかの貨物船を捕獲し、焼き討ちして、
  • et unam frumento onustam abduxit
    • 穀物を満載した1隻を運び去って、
      (訳注:~ onustus 「~をいっぱい積んだ」)
  • magnumque nostris terrorem iniecit
    • 我が方(カエサル勢)に大きな恐怖心を吹き込んだ。
  • et noctu militibus ac sagittariis in terram expositis
    • そして、夜間に兵士(重装歩兵)たちや弓兵たちを陸地に上陸させて、
  • praesidium equitum deiecit
    • 騎兵の守備隊を蹴散けちらして、
  • et adeo loci opportunitate profecit, uti ad Pompeium litteras mitteret,
    • ポンペイウスのもとへ(以下の内容の)書状を送ったほどの地の利を得たのであった。
      (訳注:下線部 adeō ~ uti ・・・ 「・・・ほど~である」。)
  • naves reliquas, si vellet, subduci et refici iuberet;
    • (ポンペイウスが)もし望むのならば、(イッリュリア側に)残しておいた船団を陸揚げすることや、修繕することを、命じてくれ。
  • sua classe auxilia sese Caesaris prohibiturum.
    • 自分の艦隊でもって、(リボ)自らが、カエサルの増援部隊(の出航)を阻んでくれよう、と。


(訳注:①項の訳注で述べたように、リボが、オリクムの沖と陸上のポンペイウスの陣営(18節)とを自由に行き来できたとすると、
本節でわざわざイタリア側から書状を発信するというのは、不自然にも思える。)

24節

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カエサルの部将マルクス・アントニウスが、スクリボニウス・リボの艦隊を撃退する

  • ①項 Erat eo tempore Antonius Brundisii;
  • <is> virtute militum confisus
    • <彼は>兵士たちの武勇を信頼しており、
      (訳注:<is> <彼は>は、写本になく、挿入提案されたものである。)
  • scaphas navium magnarum circiter LX cratibus pluteisque contexit
    • 大型船に属する約60隻の小型船を、枝編み細工や障壁車プルテウスで保護して、
  • eoque milites delectos inposuit
    • そこに、選び抜かれた兵士たちを乗せて、
  • atque eas in litore pluribus locis separatim disposuit
    • それら(の小型船)を、海岸の多くの場所に個別に配置した。
三段櫂船トリレミス漕ぎ手レメクスの位置を示した断面図。
  • navesque triremes duas, quas Brundisii faciendas curaverat,
    • ブルンディシウムで建造されるように取り計らっていた2隻の三段櫂船トリレミス
  • per causam exercendorum remigum
    • 漕ぎ手レメクスを訓練するという口実により、
  • ad faucis portus prodire iussit.
    • 港の出入口に進み出ることを命じた。
五段櫂船クィンクェレミスの想像画。


  • ②項 Has cum audacius progressas Libo vidisset,
    • これら(アントニウス勢の2隻の三段櫂船)がかなり勇敢に出て来るのをリボが見ており、
  • sperans intercipi posse quadriremes V ad eas misit.
    • 捕獲できることを期待して、5隻の四段櫂船クァドリレミスをそれらに向けて派遣した。
  • Quae cum navibus nostris propinquassent, nostri veterani in portum refugiebant,
    • それら(5隻の四段櫂船)が我が方の船団に接近して来て、老練なる我が方が港に引き下がっていたときに、
      (訳注:下線部の veterani in portum は写本にある記述で、たいていは「(我が方の)古参兵たちが港に(後退した)」と訳されるが、
      船団どうしの駆け引きに古参兵が出て来ることに違和感を持たれており、
           ut erat imperatum in portum 「(我が方は)命令されていたように港に(後退した)」
           ut convenerat ante in portum 「(我が方は)事前に同意していたように港に(後退した)」
      などの修正提案が出されている。)
  • illi studio incitati incautius sequebantur.
    • あちら側(リボ勢)は、意気込みに駆り立てられて、かなり不注意に追撃して来ていた。


  • ③項 Iam ex omnibus partibus subito Antonianae scaphae signo dato se in hostes incitaverunt
    • まもなく、あらゆる方向から不意に、アントニウス勢の小型船団が、号令を出されて、敵方に突進して、
      (訳注:se incitāre 「突進する、急ぐ」)
  • primoque impeto
    • はじめの突撃でもって、
  • unam ex his quadriremem cum remigibus defensoribusque suis ceperunt,
    • これらのうちの1隻の四段櫂船クァドリレミスを、漕ぎ手レメクスたちや防御者たちとともに、捕獲して、
  • reliquas turpiter refugere coegerunt.
    • 残り(の敵船)を、不名誉にも敗走せしめた。


  • ④項 Ad hoc detrimentum accessit,
    • この損害に続いて生じたのは、
      (訳注:accēdere ad ~ 「~に続いて生じる」)
  • ut equitibus per oram maritimam ab Antonio dispositis aquari prohiberentur.
    • アントニウスにより沿岸地帯に配置されていた騎兵たちによって、給水することを妨害されていたことであった。
  • Qua necessitate et ignominia permotus
    • その(飲み水の)欠乏と、(敗北という)恥さらしに動揺させられて、
  • Libo discessit a Brundisio
    • リボは、ブルンディシウムから撤退して、
  • obsessionemque nostrorum omisit.
    • 我が方への封鎖を中止した。

25節

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増援が来ないことに業を煮やしたカエサルが、ブルンディシウムの部下たちへ督促の使いを送る

  • ①項 Multi iam menses erant et hiems praecipitaverat,
    • すでに、多くの月が過ぎて、冬が終わりを告げようとしていたが、
      (訳注1:praecipitāre 「急に終わりを告げる」 > 過去完了 praecipitāverat
      (訳注2:下線部、カエサルが渡海してから2か月ほどしか過ぎていないはずだが、ルビコン川を渡ってからは14か月ほど過ぎている。)
  • neque Brundisio naves legionesque ad Caesarem veniebant.
  • Ac nonnullae eius rei praetermissae occasiones Caesari videbantur,
    • そしてまた、そのような事の少なからぬ好機を(部下たちが)利用しそこなっていると、カエサルには思われていた。
  • quod certi saepe flaverant venti, quibus necessario committendum existimabat.
    • というのも、安定した風が頻繁ひんぱんに吹いていたので、当然のことながら、それら(の風)にゆだねられるべきだ、と(カエサルは)判断していたのだ。
      (訳注1:下線部 certī 「安定した(風)」は、修正提案されたもので、写本では certē 「確かに」などとなっている。)
      (訳注2:flāvēre 「(風が)吹く」 > 過去完了 flāverant


  • ②項 Quantoque eius amplius processerat temporis, tanto erant alacriores ad custodias,
    • そのような時がより多く過ぎれば過ぎるほど、ますます哨戒活動はより活発になり、
      (訳注:quantō ~ tantō ・・・ 「~するほど、ますます・・・」)
  • qui classibus praeerant, maioremque fiduciam prohibendi habebant,
    • 艦隊を統率していた者たちは、(カエサル勢の渡海を)妨害するための、より大きな自信を持つに至っていた。
  • et crebris Pompei litteris castigabantur, quoniam primo venientem Caesarem non prohibuissent,
    • かつ、最初にカエサルが来るのを妨げなかったので、ポンペイウスからのたびたびの書状により、叱責しっせきされていた。
  • ut reliquos eius exercitus impedirent,
    • 彼(カエサル)の軍隊の残り(が渡海するの)を妨げるように、と。
  • duriusque cotidie tempus ad transportandum lenioribus ventis exspectabant.
    • そして、風がより穏やかになることによって、時季テンプスが(軍団を)渡すためには より苛酷になるのを毎日待望していた。
      (訳注:dūrē 「厳しく、苛酷に」 > 比較級 dūrius 「より厳しく、より苛酷に」)


  • ③項 Quibus rebus permotus
    • そのような事態に動揺させられて、
  • Caesar Brundisium ad suos severius scripsit,
    • カエサルは、ブルンディシウムの配下の者たちへ、より厳しく(書状を)書き送った。
      (訳注:sevērē 「厳しく」 > 比較級 sevērius 「より厳しく」)
  • nacti idoneum ventum ne occasionem navigandi dimitterent,
    • 適切な風に出くわし、航行するための好機をのがさないように。
  • sive ad litora Apolloniatium <sive ad Labeatium> cursum dirigere atque eo naves eicere possent.
    • アポッロニアの海岸の辺りへ <もしくは、ラベアテス族の辺りへ> 航路を向けて、そこに船団を接岸させられるようにせよ、と。
      (訳注:下線部は、写本では sive だが、<sive ad Labeatium> <もしくは、ラベアテス族の辺りへ> という挿入提案があり、
      また、sive を si vel 「とにかく、~かどうか」に書き換える、などの修正提案がある。)


  • ④項 Haec a custodiis classium loca maxime vacabant,
    • この場所は、(元老院派の)艦隊の哨戒を最も免れていた。
      (訳注:vacāre a ~ 「~を免れる」)
  • quod se longius <a> portibus committere non auderent.
    • というのも、(元老院派の艦隊は)港湾からより遠くにまで、あえてやろうとしなかったからだ。
      (訳注1:<a> は写本にはなく、挿入提案されたもの。)
      (訳注2:下線部は、多くの写本では audērent (接続法・未完了過去)だが、audēbant (直接法・未完了過去)としている写本もある。)

26節

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アントニウスとフフィウス・カレヌス率いる船団が、ブルンディシウムを出港、対岸のニュンパエウム港に上陸を果たす

シロッコと呼ばれる、アフリカ大陸からヨーロッパに吹き付ける南風の模式図。アフリカからヨーロッパに吹く風にはさまざまな呼称があるが、シロッコはおもに南風や東南風を指すようである。南風を表す英語の Ostro は、ラテン語の auster を語源とする。
シロッコは、サハラ砂漠を起源とするので、しばしば砂嵐をともなう。この衛星画像では、南西方向から吹き付けているように見える。
  • ①項 Illi adhibita audacia et virtute
    • あの者ら(イタリアのブルンディシウム港にいたカエサル勢)は、大胆さと武勇を活かして、
  • administrantibus M. Antonio et Fufio Caleno,
  • multum ipsis militibus hortantibus
    • 兵士たち自身が大いに激励し合って、
  • neque ullum periculum pro salute Caesaris recusantibus,
    • カエサルの救済サルスのために、いかなる危険も辞さずに、
  • nacti austrum naves solvunt
    • 南風アウステルに出くわして、出帆して、
      (訳注:navem sovere 「船(のともづな)を解く」すなわち「出帆する」)
  • atque altero die Apolloniam Dyrrachium<que> praetervehuntur.
    • 翌日に、アポッロニア<と>デュッラキウム(の沖)を通り過ぎる。
      (訳注:下線部は、写本では Dyrrachium または Dirrachium だが、削除提案されたり、
      あるいは逆に <que> <と> が挿入提案されている。)


  • ②項 Qui cum essent ex continenti visi, 、
    • 彼ら(アントニウスとフフィウスの帆船)は、大陸コンティネンス側から目撃されていたので*Coponius, qui Dyrrachii classi Rhodiae praeerat,
    • デュッラキウムロドゥス島の艦隊を統率していた、コポニウスは、
  • naves ex portu educit,
    • (デュッラキウムの)港から船団を出航させて、
  • et cum iam nostris remissiore vento adpropinquasset,
    • すでに風が我が方にとって穏やかになって、(コポニウスが)接近して来ていたときに、
      (訳注:下線部 adpropinquāsset は修正提案されたもので、写本では adpropinquāssent となっている。
      修正提案の adpropinquāsset   は、 動詞 adpropinquō の3人称・単数・過去完了・能動・接続法 adpropinquāvisset   の vi が脱落した形。
       写本にある adpropinquāssent は、同じく adpropinquō の3人称・複数・過去完了・能動・接続法 adpropinquāvissent の vi が脱落した形。)
  • idem auster increbuit nostrisque praesidio fuit.
    • 同じく南風アウステル勢いを増して、我が方にとっての助けとなった。
      (訳注:下線部の incrēbuit は多くの写本にある記述だが、一部の写本では increbruit となっている。意味はほぼ同じ。
      前者 incrēbuit  は、動詞 incrēbēscō  の3人称・単数・完了・能動・直説法の形。
      後者 increbruit は、動詞 increbrēscō の3人称・単数・完了・能動・直説法の形。)
シロッコに吹かれて、荒れる波が海岸に打ち寄せる。


  • ③項 Neque vero ille ob eam causam conatu desistebat,
    • しかしながら、彼(コポニウス)は、(南風という)その理由のために(我が方を捕獲するという)試みを思いとどまらずに、
  • sed labore et perseverantia nautarum
    • けれども、船員ナウタたちの骨折りと不屈さによって、
  • et vim tempestatis superari posse sperabat
    • 暴風の勢いに打ち克つことができると期待していて、
  • praetervectosque Dyrrachium magna vi venti
    • デュッラキウム(の沖)を強風の勢いで(我が方の船団が)通り過ぎて行くのを、
  • nihilo secius sequebatur.
    • それでもやはり、追跡して来ていた。
      (訳注:nihilō sēcius = nihilō setīus 「それでもやはり」)


  • ④項 Nostri usi Fortunae beneficio
    • 我が方(の船団)は、運命(の女神)フォルトゥナの恩恵を享受しつつ、
  • tamen impetum classis timebant, si forte ventus remisisset.
    • しかしながら、もし風がはからずも穏やかになってしまったらと、(敵方の)艦隊の突撃を怖れていた。
  • Nacti portum, qui appellatur Nymphaeum, ultra Lissum milia passuum III,
    • (我が方の船団は)リッススの3マイル向こう側のニュンパエウムと呼ばれる港に出くわして、
      (訳注:リッスス Lissus は、現在のアルバニア北西部の町レジャ Lezhë。)
  • eo naves introduxerunt
    • そこに、船団を導き入れた。
  • ── qui portus ab Africo tegebatur, ab austro non erat tutus ──
    • ── その港は、南西風アフリクスから防護されていたが、南風アウステルからは安全ではなかった ──
  • leviusque tempestatis quam classis periculum aestimaverunt.
    • (敵方の)艦隊の危険よりも、暴風(の危険)の方がより軽微であると判断していたのだ。
アドリア海の海流の図(再掲)。イタリア半島のブルンディシウム(図の右下)を出港したカエサル側の帆船は、南下する海流によって南に流されながら、舵を左に切ってコルキュラ島(図の右端)の辺りで北上する海流に乗ることになるが、コルキュラ島やオリクム港周辺の海域は元老院派の艦隊が警戒しており、デュッラキウムの近海もポンペイウスの艦隊に警戒されているため、カエサルがいる中間地点のアポッロニアには上陸できなかったが、より北方のニュンパエウムに入港することができたわけである。


  • ⑤項 Quo simul atque intro est itum,
    • その(港の)内部に進入するや否や、
      (訳注:simul atque = simulatque ~ 「~や否や」)
  • incredibili felicitate
    • 途方もない幸運によって、
  • auster, qui per biduum flaverat, in Africum se vertit.
    • 2日間 吹いていた南風アウステルが、南西風アフリクスに変わったのだ。

27節

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アントニウスらの船団を追尾していた元老院派のロドゥス島艦隊が、強風に遭って壊滅する

  • ①項 Hic
    • このような状況で
      (訳注:hīc 「ここで」「このとき」あるいは「このような状況で」)
  • subitam commutationem fortunae videre licuit.
    • 運命の突然の変動を見ることが可能であった。
  • Qui modo sibi timuerant, hos tutissimus portus recipiebat;
    • たった今、自分の身を案じていた者たちを、この上なく安全な港が受け入れ出して、
      (訳注:modo 「たった今」「今しがた」)
  • qui nostris navibus periculum intulerant, de suo timere cogebantur.
    • 我が方の船団にとって危険を引き起こしていた者たちが、身を案じることを強いられ出したのだ。


  • ②項 Itaque tempore commutato
    • そういうわけで、状況が変わって、
  • tempestas et nostros texit et naves Rhodias adflixit,
    • 暴風が、一方で我が方を防護してくれもしたし、他方でロドゥス(島)の船団を損傷させもした。
      (訳注:et ~ et ・・・ 「一方で~、他方で・・・」)
  • ita ut ad unam omnes constratae numero XVI eliderentur et naufragio interirent,
    • その結果、甲板を張られた16隻がひとつ残らず打ち砕かれて、難破により沈没したほどであり、
  • et ex magno remigum propugnatorumque numero
    • 漕ぎ手たちと防戦する者たちの多数のうち、
  • pars ad scopulos allisa interficeretur,
    • 一部の者たちは、岩塊に打ち付けられて殺され、
  • pars ab nostris detraheretur;
    • 一部の者たちは、我が方によって連れ去られたほどであった。
  • quos omnes conservatos Caesar domum remisit.
    • カエサルは、保護された者たちすべてを郷里に去らせた。
      (訳注:remisit 「去らせた」は多くの写本にある記述だが、写本Vでは dimisit となっている。意味はほぼ同じ。)

28節

[編集]

アントニウスらの船団のうち、新兵の1隻は元老院派のオタキリウス・クラッススに降伏して殺され、古参兵の1隻は味方に合流する

  • ①項 Nostrae naves duae tardius cursu confecto
    • 我が方の船団の2隻が、(ほかの船よりも)航行を成し遂げるのがより遅かったので、
      (訳注:tardē 副詞「遅く」 > 比較級 tardius 「より遅く」)
  • in noctem coniectae,
    • 夜(の暗闇)に投げ込まれてしまって、
  • cum ignorarent, quem locum reliquae cepissent,
    • ほか(の船)がどの地点に達していたのか知らなかったので、
      (訳注:capere 「達する」 > 3人称・複数・過去完了・能動・過去完了 cepissent 「達していた」)
  • contra Lissum in ancoris constiterunt.
    • リッススの向かいに投錨して停止した。


  • ②項 Has scaphis minoribusque navigiis compluribus summissis
    • これら(2隻)へ、多数の小舟や小型船を派遣して、
  • Otacilius Crassus, qui Lissi praeerat, expugnare parabat;
    • リッススで(元老院派の艦隊を)統率していたオタキリウス・クラッススは、攻撃することを準備していた。
  • simul de deditione eorum agebat et incolumitatem deditis pollicebatur.
    • 他方では、彼ら(2隻の乗員)の降伏について協議して、降伏した者たちの無事を約束していた。


   新兵たちがオタキリウスの甘言に屈する

  • ③項 Harum altera navis CCXX e legione tironum sustulerat,
    • これら(2隻)のうち、一方は、新兵ティロたちの軍団のうちの220名を乗せていて、
      (訳注1:hārum altera ~, altera ・・・ 「これら(二つ)のうち、一方は~、もう一方は・・・」)
      (訳注2:tollō 「(船に)乗せる」 > 3人称・単数・過去完了・能動・直説法 sustulerat
  • altera ex veterana paulo minus CC.
    • もう一方は、古参兵たち(の軍団)のうち200名弱を(乗せていた)。


  • ④項 Hic
    • この状況において、
  • cognosci licuit, quantum esset hominibus praesidii in animi firmitudine.
    • 精神の不屈さにおいて、人間たちにとってどれほどの助けがあるのか、を知ることができた。
  • Tirones enim multitudine navium perterriti
    • すなわち、新兵ティロたちは(敵方の)船団の多さに動揺させられ、
  • et salo nausiaque confecti
    • 波浪サルム船酔いナウセアにより疲弊しており、
  • iureiurando accepto nihil iis nocituros hostes
    • 敵方が彼ら(新兵たち)に何ら傷つけることはない、という誓約を受け取ると、
      (訳注:iūsiūrandumiūs iūrandum 「誓約」> 奪格 iūreiūrandō)
  • se Otacilio dediderunt;
    • オタキリウスに降伏した。
  • qui omnes ad eum producti
    • (降伏した)全員が、彼(オタキリウス)のもとへ連行されて、
  • contra religionem iurisiurandi
    • (降伏した者は傷つけないという)誓約の禁忌レリギオに反して、
      (訳注:iūsiūrandum 「誓約」> 属格 iūrisiūrandī)
  • in eius conspectu crudelissime interficiuntur.
    • 彼(オタキリウス)の目の前で、きわめて残酷に、殺害される。
      (訳注:crūdēliter 副詞「残酷に」 > 最上級 crūdēlissimē 「最も残酷に、きわめて残酷に」)


   古参兵たちが不屈さを発揮する

  • ⑤項 At veteranae legionis milites,
    • それに対して、古参の軍団の兵士たちは、
  • item conflictati et tempestatis et sentinae vitiis,
    • (新兵たちと)同様に、暴風雨や船底のたまり水センティナの害に苦しめられていたが、
      (訳注:sentīna, -ae 「船底にたまる汚水(bilgewater )」)
  • neque ex pristina virtute remittendum aliquid putaverunt,
    • 以前からの勇敢さを、これっぽっちも弱めるべきではない、と思った。
      (訳注:aliquid ex pristina virtute 「以前からの勇敢さのうち、いくらかを」)
  • et tractandis condicionibus et simulatione deditionis
    • (降伏の)条件を交渉し、降伏するかのように見せかけることによって、
  • extracto primo noctis tempore
    • 夕暮れ時まで(交渉を)長引かせると、
  • gubernatorem in terram navem eicere cogunt,
    • 操舵手をして、船を陸地に打ち上げるように強いる。


  • ⑥項 ipsi idoneum locum nacti reliquam noctis partem ibi confecerunt
    • (古参兵たち)自身は、適切な場所に着くと、夜の残りの間をそこで過ごした。
      (訳注:cōnficere 「(時を)過ごす」 > 完了形 cōnfēcērunt
  • et luce prima
    • 明け方になると、
  • missis ad eos ab Otacilio equitibus, qui eam partem orae maritimae adservabant, circiter CCCC,
    • 海岸方面を警戒していた、約400騎の騎兵たちが、オタキリウスによって彼ら(古参兵たち)の方へ派遣されて
      (訳注:missis equitibus 「騎兵たちが派遣されて」。ここは絶対奪格句になっている。)
  • quique eos armati ex praesidio secuti sunt,
    • (駐屯していた)守備隊プラエシディウムのうちから武装した者たちが彼ら(騎兵たち)の後に続いたが、
  • se defenderunt et nonnullis eorum interfectis
    • (アントニウス配下の古参兵たちは)自らを守りつつ、彼ら(オタキリウスの兵たち)の少なからぬ者たちを殺害して、
  • incolumes se ad nostros receperunt.
    • 無傷のまま、我が方(=アントニウスが率いる軍勢)のもとへ戻った。

29節

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アントニウスが、城市リッススに迎え入れられ、総勢4個軍団と騎兵800を上陸させる

リッスス(Lissus)、すなわち現在のアルバニア北西部の町 レジャ(Lezhë)の街並み。
  • ①項 Quo facto
    • そうしたことが果たされると、
  • conventus civium Romanorum qui Lissum obtinebant,
    • リッススを統轄していたローマ市民たちの協議会コンウェントゥスは、
  • quod oppidum iis antea Caesar attribuerat muniendumque curaverat,
    • ── 以前、カエサルがその城市を彼ら(市民協議会)にゆだねて、防衛されるべく取り計らっていたのであるが、 ──
  • Antonium recepit omnibusque rebus iuvit.
  • Otacilius sibi timens <ex> oppido fugit et ad Pompeium pervenit.
    • オタキリウスは、自ら(の安全)を気づかって、城市から逃げ出し、ポンペイウスのもとへたどり着く。
      (訳注:<ex> は写本にはなく、挿入提案されたもの。)


  • Expositis omnibus copiis Antonius,
    • アントニウスは、すべての軍勢を上陸させると、
      (訳注:下線部は、写本では ex 「(全軍勢)の内から」だが、expositis 「(全軍勢を)上陸させて」と修正提案されている)
  • quarum erat summa veteranarum trium legionum uniusque tironum et equitum DCCC,
    • ── それら(の軍勢)の全容は、古参兵の3個軍団と、新兵の1個(軍団)と、800騎の騎兵からなっていた、 ──
  • plerasque naves in Italiam remittit ad reliquos milites equitesque transportandos,
    • 大部分の船を、残りの兵士たちと騎兵たちを運ぶために、イタリアに送り返すが、


  • ③項 pontones, quod est genus navium Gallicarum, Lissi relinquit,
    • ガリアの船種である平底の船ポントは、リッススに残す。
  • hoc consilio, ut
    • (この措置は)以下のような考えによる。
      (訳注:ut の節は、ut ~ traiecisset(接続法・過去完了) ~ haberet(接続法・未完了過去) まで。)
  • si forte Pompeius vacuam existimans Italiam eo traiecisset exercitum,
    • もし、ひょっとして、ポンペイウスが、イタリアは無防備(である)と判断して、そこに軍隊を渡らせたならば、
      (訳注:vacuus 「空っぽの」あるいは「無防備の」「支配者不在の」)
  • ── quae opinio erat edita in vulgus ──,
    • ── そのような予想が一般に広められていたのであるが、 ──
      (訳注:in vulgus 「大衆に」「一般に」)
  • aliquam Caesar ad insequendum facultatem haberet,
    • (イタリアへ渡るポンペイウス勢を)追いかけるための何らかの手段を、カエサルが持てるように(という考えによる)。
  • nuntiosque ad eum celeriter mittit,
    • そして(アントニウスは)彼(カエサル)のもとへ伝令たちを派遣する。
  • quibus regionibus exercitum exposuisset et quid militum transvexisset.
    • どの地方に軍隊を上陸させたか、兵士たちをどれくらい渡航させたか(を伝えるために)。
      (訳注:quis 疑問形容詞「どのくらいの~(属格)」 > 中性・単数・対格 quid )

30節

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カエサルとアントニウスが合流を目指し、ポンペイウスがアントニウスを待ち伏せしようとするが、合流が果たされる

  • ①項 Haec eodem fere tempore Caesar atque Pompeius cognoscunt.
    • これらを、ほぼ同時に、カエサルとポンペイウスが知るようになる。
  • Nam praetervectas Apolloniam Dyrrachiumque naves viderant ipsi, <ut> iter secundum eas terras direxerant,
    • なぜなら、(アントニウスの)船団がアポッロニアデュッラキウム(の沖)を通過するのを、それらの陸地に沿って歩みイテルが導いていた<ように>彼ら自身が注視していたからであるが、
      (訳注:下線部は、写本では ipsi iter secundum eas terras direxerant だが、丸ごと削除する提案、あるいは逆に <ut> を挿入する提案などがある。
      船団が海流によって北方に流されて行くのを、浜辺で見つけて、海岸沿いにいくらかは追いかけたのであろう。)
  • sed quo essent eae delatae, primis diebus ignorabant.
    • けれども、それら(の船団)がどこいらに運ばれたのか、はじめの数日は知らなかったのだ。


  • ②項 Cognitaque re
    • (アントニウス勢がリッスス辺りに上陸したという)事情が知られるようになると、
  • diversa sibi ambo consilia capiunt:
    • 両者アンボ(カエサルとポンペイウス)は彼ら自身の(以下のような)正反対の計画を立てる。
  • Caesar, ut quam primum se cum Antonio coniungeret,
    • カエサルは、できるだけ早く、アントニウスと合流するようにと、
      (訳注:se coniungere cum ~ 「自分と~を結び付ける」「~と合流する」)
  • Pompeius, ut venientibus in itinere se opponeret, [et] si inprudentes ex insidiis adoriri posset;
    • ポンペイウスは、(アントニウスが)やって来る行軍中を、待ち伏せを予期していないのを襲撃できるかどうか、対抗しよう(という計画であった)。
      (訳注:写本には [et] とあるが、削除提案されている。)


  • ③項 eodemque die uterque eorum ex castris stativis a flumine Apso exercitum educunt,
    • 同日に、彼ら(カエサルとポンペイウス)の双方が、アプスス川のたもとの常設の陣営から、軍隊を進発させる。
  • Pompeius clam et noctu,
    • ポンペイウスは、夜間にひっそりと、
  • Caesar palam atque interdiu.
    • カエサルは、昼間におおっぴらに。


アプスス川(Apsus flumen)すなわち現在のセマン川の上流に当たる、オスム川の山間部の浅瀬
アルバニア中南部、ベラト市の近郊)。
  • ④項 Sed Caesari circuitu maiore iter erat longius,
    • けれども、カエサルにとっては、大きく遠回りをすることにより、行程はより長いものであった。
  • adverso flumine, ut vado transire posset;
    • 浅瀬を渡ることができるように、川をさかのぼったのだ。
    • (訳注:adversō flūmine 「川をさかのぼって」)
  • Pompeius, quia expedito itinere flumen ei transeundum non erat,
    • ポンペイウスは、困難を伴わない行程により、彼にとって渡らねばならない川がなかったので、
      (訳注:quia ~ 「~ゆえに、~ので」)
  • magnis itineribus ad Antonium contendit,
    • 強行軍により、アントニウスのもとへ急ぐ。
      (訳注:magnīs itineribus 「強行軍により」)


  • ⑤項 atque ubi eum adpropinquare cognovit,
    • (ポンペイウスは)彼(アントニウス)が接近して来ることを知ったときに、
  • idoneum locum nactus ibi copias conlocavit,
    • 適切な場所に着くと、そこに軍勢を配置して、
  • suosque omnes in castris continuit,
    • 配下の総勢を陣営の中に引き止めておき、
      (訳注:下線部の in は、写本Tにはあるが、ほかの写本にはない。意味は同じ。)
  • ignesque fieri prohibuit, quo occultior esset eius adventus.
    • 彼の到着がより秘密であるように、火がともされることを禁じた。


  • ⑥項 Haec ad Antonium statim per Graecos deferuntur.
    • このことは、ギリシア人たちを通じて、ただちにアントニウスのもとへ報知される。
  • Ille missis ad Caesarem nuntiis
    • 彼(アントニウス)は、カエサルのもとへ伝令たちを遣わして、
  • unum diem sese castris tenuit;
    • 丸一日、陣営に身を留めた。
  • altero die ad eum pervenit Caesar.
    • 翌日に、彼(アントニウス)のもとへカエサルが到着する。


  • ⑦項 Cuius adventu cognito
    • 彼(カエサル)の到来を知ると、
  • Pompeius, ne duobus circumcluderetur exercitibus, ex eo loco discedit
    • ポンペイウスは、二つの軍隊によって包囲されないように、その場所から撤退し、
  • omnibusque copiis ad Asparagium Dyrrachinorum pervenit
    • すべての軍勢を伴って、デュッラキウムの支配下にあるアスパラギウムに到着して、
  • atque ibi idoneo loco castra ponit.
    • そこにおいて、適切な場所に陣営を置く。

元老院派のスキピオの来援と、カエサルの部将ドミティウス・カルウィヌスらとの前哨戦

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31節

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元老院派のシリア総督スキピオが、対パルティア戦争を放置したまま、将兵の歓心を買おうとする

アマヌス山(Amanus mons)すなわち現在のトルコ領のヌール山脈(Nur Mountains)の眺望。スキピオが敗れたというのは、アマヌス山峡Amanian Gate)のことであろうか。
スキピオがBC47~46年頃にアフリカで発行したデナリウス銀貨。中央にの皮膚で作った被り物をかぶったスキピオの横顔、右側に「クィントゥス・メテッルス」Q[uintus] METELL[us] 、左側に「将軍スキピオ」SCIPIO IMP[erator] と刻まれている。
パルティアの騎兵像。ポンペイウスがセレウコス朝を滅ぼして属州シリアとしたことにより、ローマ人は宿敵パルティアと直接対峙することになったのだ。馬上で振り向きざまに矢を放って 追跡して来る背後の敵を正確に射抜く高度な射撃技術 「パルティアンショット」は、ローマ軍を大いに震え上がらせた。
マルクス・リキニウス・クラッススMarcus Licinius Crassus)の胸像コペンハーゲンニイ・カールスベルグ・グリプトテク美術館
カエサル、ポンペイウスとともに三頭政治を形成していた彼が対パルティア戦争カルラエの戦いで敗死すると、三頭政治は瓦解して、カエサルとポンペイウスによるローマ内戦が勃発する遠因になった。
ペルガモン、ラテン語名ペルガムムPergamum)の想像画。


   スキピオが、属州シリアに上納金と騎兵の供出を要求する

  • ②項 Quo facto
    • それ(=敗北)をこうむると、
      (訳注:facere 「(害を)こうむる」)
  • civitatibus tyrannisque magnas imperaverat pecunias,
    • 諸都市や領主たちに巨額の金銭(の供出)を要求して、
      (訳注:imperāre 「命令する」あるいは「要求する」)
  • item a publicanis suae provinciae debitam biennii pecuniam exegerat
    • 同じく、自分の属州の徴税請負人プブリカヌスたちから、(上納が)義務付けられた2年間の金銭を取り立てて、
  • et ab isdem insequentis anni mutuam praeceperat
    • 同じ者たちから、次の年の(上納金)を前借りとして受け取っていて、
  • equitesque toti provinciae imperaverat.
    • 属州の全域からの騎兵たち(の供出)を要求していた。


  • ③項 Quibus coactis,
    • それらを徴集すると、
  • finitimis hostibus Parthis post se relictis,
  • qui paulo ante M. Crassum imperatorem interfecerant et M. Bibulum in obsidione habuerant,
    • ── (パルティア人は)ちょっと前に将軍マルクス・クラッススを血祭りに上げ、マルクス・ビブルスを包囲していたのだが、 ──
      (訳注:マルクス・ビブルスは、クラッスス敗死後のBC51年にシリア総督に任命され、パルティア軍に包囲されて苦戦したが、パルティア軍が東方の動乱勃発により撤退したため、生還することができた。アドリア海の艦隊提督となったビブルスが病死したことは、18節で述べられた。)
  • legiones equitesque ex Syria deduxerat.


  • ④項 Summamque in sollicitudinem ac timorem Parthici belli provincia cum venisset,
  • ac nonnullae militum voces cum audirentur
    • 兵士たちの(以下のような)少なからぬ声が聞かれたというのに、
  • sese, contra hostem si ducerentur, ituros,
    • (すなわち、兵士たちは)自分たちは、敵に対抗して率いて行かれたならば、行きましょう、
  • contra civem et consulem arma non laturos,
    • ローマ市民や執政官コンスル(であるカエサル)に対抗して武器を取ることはないでありましょう(と兵士たちは言ったのに)、
  • deductis Pergamum atque in locupletissimas urbes in hiberna legionibus
    • (スキピオは)ペルガムムや富裕な諸都市に冬営のために率いて行った諸軍団に対して
  • maximas largitiones fecit
    • ありったけの大盤振る舞いをして、
  • et confirmandorum militum causa
    • 兵士たちをふるい立たせるために、
  • diripiendas his civitates dedit.
    • この者らに、諸都市を略奪することを容認した。
      (訳注:dare ~(与格) ・・・(対格) 「~に・・・を認める / 許す」)

32節

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スキピオが属州シリアに重税を課したため、金利が高騰する

  • ①項 Interim acerbissime imperatae pecuniae tota provincia exigebantur.
    • そうこうするうちに、(スキピオから)命令されていた金銭が、属州全土で、はなはだ容赦なく取り立てられていた。
      (訳注1:acerbē 副詞「厳しく、過酷に」 > 最上級 acerbissimē
      (訳注2:imperāre 「命令する」あるいは「要求する」 > 完了受動分詞の女性・複数・主格 imperātae「命令されていた、要求されていた」)
  • Multa praeterea generatim ad avaritiam excogitabantur.
    • さらに、部門ごとに多く(の上納金)が、(スキピオの)欲張りのために、ひねり出されていた。
      (訳注1:generātim 「種類(部門)によって」)
      (訳注2:excōgitare 「考案する、案出する」)


  • ②項 In capita singula servorum ac liberorum tributum imponebatur;
    • 奴隷たちや自由な者たちのめいめいの頭数に、租税人頭税が課されていた。
      (訳注:tribūtum impōnere 「租税を課す、課税する」)
  • columnaria ostiaria frumentum milites arma remiges tormenta vecturae imperabantur;
    • 支柱税・玄関税、穀物・兵士・武具・(船の)漕ぎ手・投石機トルメントゥム運送ウェクトゥラが、命令されていた。
      (訳注:columnārium 「建物の柱に課される税」
          ostiarium 「玄関税」
          vectura 「運送」あるいは「運送料、運賃」
      「穀物~運送」は、金銭ではなく物納であろうか?)
  • cuius modo rei nomen reperiri poterat,
    • それらの事柄の名目だけでも思い付くことができて、
      (訳注:reperīre 「見つける」「案出する」 > 受動の不定法 reperīrī
  • hoc satis esse ad cogendas pecunias videbatur.
    • これで、金銭を徴収するためには、充分であると思われていた。


  • ③項 Non solum urbibus, sed paene vicis castellisque singuli cum imperio praeficiebantur.
    • 諸都市だけでなく、ほとんどの村々や城砦にも、1名ずつが職権インペリウムとともに長に任じられていた。
      (訳注1:nōn sōlum ~ sed ・・・「~だけでなく、・・・もまた」)
      (訳注2:下線部は、古い写本では singulis だが、より後代の写本では singuli 「1名ずつが」となっている。
      また、singulis singuli 「(村や城砦)それぞれに、1名ずつが」とするなどの修正提案もある。)
  • Qui horum quid acerbissime crudelissimeque fecerat, is et vir et civis optimus habebatur.
    • これら(の租税)のうち、あるものを はなはだ容赦なく、こっぴどく 執行していた者が、誠にあっぱれな人であり、誠に優良な市民である、と思われていたのだ。
      (訳注1:horum は、「これら(の租税)のうち」とも、「これら(の監督者)のうち」とも受け取れる。)
      (訳注2:acerbē 副詞「厳しく」 > 最上級 acerbissimē 「非常に厳しく」)
      (訳注3:crūdēliter 副詞「残酷に」 > 最上級 crūdēlissimē 「非常に残酷に」)


  • ④項 Erat plena lictorum et imperiorum provincia,
  • differta praefectis atque exactoribus,
    • 監督官プラエフェクトゥスたちや収税吏エクサクトルたちでいっぱいであった。
  • qui praeter imperatas pecunias suo etiam privato conpendio serviebant;
    • その者たちは、(スキピオから徴収を)命令された金銭のほかに、自らの私的な利得にさえも尽力していたし、
  • dictitabant enim se domo patriaque expulsos omnibus necessariis egere rebus,
    • 自分たちは、郷里や故国から追い出されたので、あらゆる必要物資を欠いているのだ、とたびたび言っていて、
      (訳注:egēre ~ 「~を欠いている」)
  • ut honesta praescriptione rem turpissimam tegerent.
    • ご立派な口実で、とても見苦しい事を言い訳していた。
      (訳注:praescriptiō 「口実」)


  • ⑤項 Accedebant ad haec gravissimae usurae,
    • こういったことに、ひどく重い利息ウスラが付け加わっていた。
  • quod in bello plerumque accidere consuevit universis imperatis pecuniis;
    • そのことは、戦時下で、あらゆる金銭が要求されていた中では、たいてい生じるのが常であったのだが、
  • quibus in rebus prolationem diei donationem esse dicebant.
    • そのような状況において、(利息はそのままで、借金の返済)期日を日延べすることは、贈り物であると(人々は)話していたものだ。
      (訳注:誰が話していたのか、主語が明示されていない。)
  • Itaque aes alienum provinciae eo biennio multiplicatum est.
    • このようにして、属州(シリア)の負債額は、その2年間でふくれ上がった。


  • ⑥項 Neque minus ob eam causam
    • 同様に、同じ理由から、
  • civibus Romanis eius provinciae,
    • その属州(シリア)のローマ市民たちにも、
  • sed in singulos conventus singulasque civitates certae pecuniae imperabantur,
    • しかもそのうえに、市民協議会コンウェントゥスのそれぞれ、諸都市のそれぞれににも、一定額の金銭が要求されていたのだ。
  • mutuasque illas ex senatus consulto exigi dictitabant;
    • それらは、元老院決議に従って、借用金として取り立てられるのだ、と(収税吏たち?)はたびたび言っていた。
      (訳注:ex senatus consulto元老院決議セナトゥス・コンスルトゥムに従って」)
  • publicanis, ut ii sortem fecerant, insequentis anni vectigal promutuum.
    • 徴税請負人プブリカヌスたちからは、彼らが(徴税の)割当てを実施していた程度に応じて、次の年の租税ウェクティガルが前貸しされた。
      (訳注1:下線部は、修正提案されたもので、写本によって記述がばらけている。)
      (訳注2:ut ~ 「~の程度に応じて」)

33節

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エペススアルテミス神殿にあったと伝存するアルテミス像の一つトルコのエフェス考古学博物館 :en。胸部に多くの乳房が見られるが、これらは実はの睾丸だともいう。
アルテミスἌρτεμις)はギリシア語では理解不能な名前で、元来は先住民(Pre-Greek )が信仰していた異教の神だったと考えられている。
エペススアルテミス神殿の復元CG画。
世界の七不思議Septem miracula mundi)」の一つに数えられたこの神殿は、破壊と再建が繰り返されたが、やがて信者がことごとくキリスト教へ改宗したために、二度と再建されなかった。

ポンペイウスからの増援要請が届き、スキピオが軍勢を率いて属州マケドニアへ向けて発つ

  • ①項 Praeterea Ephesi a fano Dianae depositas antiquitus pecunias Scipio tolli iubebat.
  • Certaque eius rei die constituta
    • その事の期日を取り決めて、
  • cum in fanum ventum esset adhibitis compluribus ordinis senatorii, quos advocaverat Scipio,
    • スキピオが招き寄せていた元老院議員階級のかなりの者たちを引き入れて神殿のところにやって来たときに、
  • litterae ei redduntur a Pompeio,
  • mare transisse cum legionibus Caesarem;
    • カエサルが諸軍団とともに海を渡って来た。
  • properaret ad se cum exercitu venire omniaque post [ea quae] haberet.
    • すべてを後回しにして、自分(ポンペイウス)のもとへ、軍隊とともに来ることを急がれよ、と。
      (訳注:[ea quae] は写本にある記述だが、削除提案されている。)


  • ②項 His litteris acceptis,
    • この書状を受け取ると、
  • quos advocaverat, dimittit;
    • 招き寄せていた(元老院議員階級の)者たちを、解散して、
  • ipse iter in Macedoniam parare incipit
    • (スキピオ)自身は、マケドニアへの行軍を準備することに取りかかり、
  • paucisque post diebus est profectus.
    • 数日の後に出発した。
  • Haec res Ephesiae pecuniae salutem adtulit.
    • この事がエペススの浄財ペクニアに安全をもたらしたのだ。

34節

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カエサルが、テッサリア・アエトリア・マケドニアの各地にそれぞれ部将と守備隊を派兵する

この節の登場人物:
ルキウス・カッシウス・ロンギヌスLucius Cassius Longinus):カエサル配下の執政官代理プロコンスル、新兵からなる第27軍団および騎兵200騎とともにテッサリアに派遣される。
ガイウス・カルウィシウス・サビヌスGaius Calvisius Sabinus):カエサルの部将、後に元老院議員・執政官。5個歩兵大隊コホルスと少数の騎兵とともにアエトリアに派遣される。
グナエウス・ドミティウス・カルウィヌスGnaeus Domitius Calvinus):BC53年の執政官コンスル。第11軍団・第12軍団の2個軍団および騎兵500騎とともに、マケドニアに派遣される。
  • ①項 Caesar Antoni exercitu coniuncto
  • deducta Orico legione, quam tuendae orae maritimae causa posuerat,
    • アドリア海)沿岸地帯を防衛するために配備していた1個軍団を(港湾都市)オリクムから移動させて、
  • temptandas sibi provincias longiusque procedendum existimabat;
    • 諸属州は、自分(カエサル)にとって働きかけられるべきで、より遠くに進み出るべきだ、と判断していた。
      (訳注:temptāre 「探る」「試す」あるいは「働きかける」 > temptandus, -a, -um 「働きかけられるべき」)


   カッシウス・ロンギヌスをテッサリアへ、カルウィシウス・サビヌスをアエトリアへ、軍勢とともに派遣する

  • ②項 et cum ad eum ex Thessalia Aetoliaque legati venissent,
  • qui praesidio misso pollicerentur earum gentium civitates imperata facturas,
    • (カエサルから)守備隊が派兵されれば、それらの地域ゲンスの諸都市は(カエサルから)命令されたことを行なうでありましょう、と約束していたので
  • L. Cassium Longinum
  • cum legione tironum, quae appellabatur XXVII, atque equitibus CC in Thessaliam,
    • 第27(軍団)と呼ばれていた、新兵たちからなる軍団、および騎兵200騎とともに、テッサリアに(派遣し)、
  • item C. Calvisium Sabinum
    • さらに、ガイウス・カルウィシウス・サビヌス
      (訳注:Gaius Calvisius Sabinus は後に元老院議員に列し、カエサル暗殺のときにカエサルをかばったたった2名の元老院議員の一人となった。
      BC39年に執政官コンスルに就任、息子も帝政初期に執政官になった。)
  • cum cohortibus V paucisque equitibus in Aetoliam misit;
  • maxime eos,
    • とりわけ、彼らに、
  • quod erant propinquae regiones,
    • (二人が派遣される)地域が近かったので、
  • de re frumentaria ut providerent, hortatus est.
    • 糧秣の調達について、準備しておくようにと、促した。



  • ④項 cuius provinciae ab ea parte, quae libera appellabatur,
    • その属州の自由地域と呼ばれていた地方から、
  • Menedemus, princeps earum regionum, missus legatus
    • その地域の第一人者であるメネデムスが、使節として使わされて来て、
      (訳注:メネデムス Menedemus 、ギリシア語名メネデモスΜενέδημος)として知られた人物は何人もいた。)
  • omnium suorum excellens studium profitebatur.
    • 自分ら全員の(カエサルへの)支持ストゥディウムは突出している、と申し出ていた。

35節

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カエサルの部将カルウィシウス・サビヌスがアエトリアに、カッシウス・ロンギヌスがテッサリアに到着。

古代都市カリュドンΚαλυδῶν)にあったアクロポリスの遺跡。カエサルの大甥 オクタウィアヌスアクティウムの戦勝を記念してニコポリス(Nicopolis)を建設、そこに住民を移住させたため、カリュドンは廃市となった。
テッサリアThessalia)における古代都市の位置を示した地形図。
  • ①項 Ex his
    • この者たちのうち、
  • Calvisius primo adventu summa omnium Aetolorum receptus voluntate
    • カルウィシウス(・サビヌス)は、到着のはじめから、アエトリアの住民たち皆の好意により受け入れられて、
  • praesidiis adversariorum Calydone et Naupacto deiectis
    • 敵方の守備隊を、カリュドンとナウパクトゥスから追い払って、
  • omni Aetolia potitus est.


  • ②項 Cassius in Thessaliam cum legione pervenit.
    • カッシウス(・ロンギヌス)は、テッサリアに軍団とともに到着する。
  • Hic cum essent factiones duae,
    • ここでは、二つの派閥があって、
  • varia voluntate civitatium utebatur:
    • 諸都市の相反する意思を経験していた。
  • Hegesaretos, veteris homo potentiae,
    • ヘゲサレトスは、老練なる政治力を持つ人で、
  • Pompeianis rebus studebat;
    • ポンペイウス派の支配レスを支持していた。
      (訳注:studēre ~(与格) 「~に味方する、~を支持する」)
  • Petraeus, summae nobilitatis adulescens,
    • ペトラエウスは、この上なく高貴な家柄ノビリタスの青年で、
  • suis ac suorum opibus Caesarem enixe iuvabat.
    • 自らと従者たちの勢力オペスをあげて、カエサルを熱心に支援していた。
      (訳注:ops 「力」> 複数形 opēs 「財力、兵力、権力、勢力、助力」)

36節

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カエサルの部将ドミティウス・カルウィヌスがマケドニアに到着。スキピオが来襲する。

  • et cum ad eum frequentes civitatium legationes convenire coepissent,
    • 諸都市の使節団レガティオらが、たびたび彼のもとへ訪れ始めていたときに、
  • nuntiatum est adesse Scipionem cum legionibus, magna opinione et fama omnium;
    • スキピオが諸軍団とともに迫って来ている、と皆の世評オピニオ風評ファマを伴って伝えられていた。
  • nam plerumque in novitate <rem> fama antecedit.
    • なぜなら、思いがけないことにおいて、風評ファマはたいてい<事態レスに>先行するものだからだ。
      (訳注:<rem> <事態に> は写本にはないが、挿入提案されている。)


   スキピオ勢が、マケドニアのドミティウスに迫るが、いきなりテッサリアのカッシウス・ロンギヌスへ標的を変更する

  • ②項 Hic nullo in loco Macedoniae moratus
    • この者(スキピオ)は、マケドニアの何処いずこにも滞留せずに、
  • magno impetu tetendit ad Domitium,
    • たいへんな勢いで、ドミティウスを目指していたが、
      (訳注1:tendere ad ~ 「~を目指す、~のもとへ向かう」)
      (訳注2:下線部は、写本では tetendit (完了形) 「目指した」のほかに tendit (現在形) 「目指す」にしているものもあるが、前者であろう。
           ルネサンス期の初期の印刷本では、 contendit 「急いだ」あるいは「急ぐ」としている。)
  • et cum ab eo milia passuum XX afuisset,
    • 彼(ドミティウス)から20ローママイル(=約30km)離れていたときに、
  • subito se ad Cassium Longinum in Thessaliam convertit.
    • 出し抜けに、テッサリアにいる(ルキウス・)カッシウス・ロンギヌスの方へ向きを変える。
      (訳注:se convertere 「向きを変える」)


  • ③項 Hoc adeo celeriter fecit
    • このことを、(スキピオが)すばやく行なったので
      (訳注:adeo ~ ut ・・・ 「・・・ほどに~」「~なので、結果として・・・」)
  • ut simul adesse et venire nuntiaretur,
    • (スキピオが)間近に迫っている(という報告)と、現われた(という報告)が、同時に伝えられていたほどであった
  • et quo iter expeditius faceret,
    • (スキピオは、以下のことにより)行軍をより機敏に遂行しようとしていた。
      (訳注:expedītē 「楽々と」「機敏に」 > 比較級 expedītius 「より機敏に」)
  • M. Favonium ad flumen Aliacmonem, quod Macedoniam a Thessalia dividit,
    • マルクス・ファウォニウスを、マケドニアをテッサリアから分かつアリアクモン川のたもとへ、
      (訳注:下線部の河川名は、写本では alcmonem だが、Aliacmonem あるいは Haliacmonem と修正提案されている。)
  • cum cohortibus VIII praesidio impedimentis legionum reliquit
    • 8個歩兵大隊コホルスとともに、諸軍団の輜重しちょうの守備のために残して、
  • castellumque ibi muniri iussit.
    • そこに、城砦をめぐらすことを命じたのだ。
古代トラキアのオドリュサイ王国(Odrysian)の王セウテス3世(Seuthes III)の青銅像の頭部
(ブルガリア国立考古学博物館 National Archaeological Museum
本節のコテュスより3世紀ほど前の王。
エピルスピュッルス(ピュロス)(BC319年-272年)の像。アンブラキアを都としたこの王は、ローマ軍をたびたび破り、ハンニバルからも名将と讃えられた。


   トラキア人の王コテュスの騎兵隊が、テッサリアのカッシウスの陣営に攻めかかる

  • ④項 Eodem tempore
    • 同じ時期に、
  • equitatus regis Cotyis ad castra Cassi advolavit,
    • (トラキアの)王 コテュスの騎兵隊が、カッシウスの陣営の辺りに、すっ飛んで来た。
      (訳注:下線部は、写本では cotti または cottis となっているが、
      ギリシア語風の Cotyis あるいはラテン語風の Coti などと修正提案されている。)
      (訳注:コテュスとは、4節③項で述べられたトラキア王 コテュスのことである。)
  • qui circum Thessaliam esse consueverat.
    • その者は、テッサリア周辺にいるのが常であったのだが。


   カエサルの部将カッシウス・ロンギヌスが、スキピオの到来を怖れて、テッサリアから逃げ出す

  • ⑤項 Tum timore perterritus Cassius
    • そのとき、カッシウス(・ロンギヌス)は、恐怖に戦慄せんりつして、
  • cognito Scipionis adventu
    • スキピオの到来を知って、
  • visisque equitibus, quos Scipionis esse arbitrabatur,
    • スキピオ配下の者たちであると思われていた騎兵隊を目にすると、
      (訳注:上述のように、実際は王コテュスのトラキア騎兵隊であったのだろう。)
  • ad montes se convertit, qui Thessaliam cingunt,
  • atque ex his locis Ambraciam versus iter facere coepit.
    • これらの地から、アンブラキアに向かって行軍し始めた。
      (訳注1:~ versus 副詞「~に向かって」)
      (訳注2:古代都市アンブラキア Ambracia はアンブラキア湾(現 アンヴラキコス湾)の北岸に位置し、現在はアルタ県の県都アルタΆρτα)という町になっている。テッサリアからアンブラキアへ向かうには、標高2,000メートル級のピンドス山脈を越えて行かねばならない。)


   カエサルの部将ドミティウスをの攻撃を怖れたファウォニウスが、スキピオに助けを求める

  • ⑥項 At Scipionem properantem sequi
    • だがそれに対して、(カッシウスの)追跡を急いでいるスキピオに、
  • litterae sunt consecutae a M. Favonio,
    • マルクス・ファウォニウスから(以下の内容の)書状が届いた:
  • Domitium cum legionibus adesse,
    • ドミティウスが諸軍団とともに迫って来ており、
  • neque se praesidium, ubi constitutus esset, sine auxilio Scipionis tenere posse.
    • 自分(ファウォニウス)は、スキピオの助勢なしには、任された城砦プラエシディウムを保持し得ない、と。
      (訳注:praesidium という単語は『内乱記』では、「守備隊」の意味で用いられることが多いが、ここでは「城砦」の意味であろう。
      ubī は、場所を表わす関係副詞。)


   スキピオが、カッシウスの追跡を思いとどまり、ファウォニウスに加勢するために、マケドニアに引き返す

  • ⑦項 Quibus litteris acceptis
    • その書状を受け取ると、
      (訳注:quae litterae 複数形で「その書状」> 絶対奪格 quibus litteris acceptīs 「その書状が受け取られて」)
  • consilium Scipio iterque commutat;
    • スキピオは、作戦計画コンシリウム行軍進路イテルを変更する。
  • Cassium sequi desistit,
    • カッシウスを追跡することをやめて、
  • Favonio auxilium ferre contendit.
    • ファウォニウスに助勢をもたらすことを急ぐ。


  • ⑧項 Itaque die ac nocte continuato itinere ad eum pervenit,
    • そのいうわけで、(スキピオは)昼間も夜間も行軍を続けて、彼(ファウォニウス)のもとへ到着したが、
      (訳注:下線部と同じ絶対奪格が、11節①項でも用いられている。絶対奪格の例文 を参照。)
  • tam opportuno tempore,
    • (スキピオの到着が)絶好の時機だったので、
      (訳注:tam ~, ut ・・・(接続法) 「・・・ほど~」「~なので、・・・ほどだ」)
    • ut simul Domitiani exercitus pulvis cerneretur
    • ドミティウスの軍隊の(到来により巻き上がる)砂ぼこりが見分けられていたのと同時に、
  • et primi antecursores Scipionis viderentur.
    • スキピオの前衛部隊の先頭が目撃されていたのだ。
  • Ita Cassio industria Domiti,
  • Favonio Scipionis celeritas
    • ファウォニウスにとっては、スキピオの機動力が
      (訳注:機動力=軍隊が迅速に行動する能力[7]
  • salutem adtulit.
    • 安全をもたらしたのだ。

37節

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アリアクモン川の人工湖にかかる大橋。河川名は、古代ギリシア語ではハリアクモーンἉλιάκμων ; Haliákmōn)、
イオニア方言ではアリアクモーンAliákmōn)、現代文語ギリシャ語でアリアクモン(Αλιάκμων, Aliákmon)、現代標準ギリシャ語でアリアクモナス(Αλιάκμονας, Aliákmonas)という。
ラテン語では、ハリアクモーン(Haliacmōn)またはアリアクモーン(Aliacmōn)と表記されている。

アリアクモン川周辺での駆け引き。ドミティウスが、スキピオの伏兵を撃退

  • ①項 Scipio biduum castris stativis moratus
    • スキピオは、2日間を、常設の陣営で滞留した。
  • ad flumen, quod inter eum et Domiti castra fluebat, Aliacmonem,
    • 彼とドミティウス(・カルウィヌス)の陣営との間に流れていたアリアクモン川のたもとで。
      (訳注:下線部の河川名は、写本では alysacam, alisicam, alisacam, alisaicam などばらつき、
      Aliacmonem あるいは 古代ギリシア語風の Haliacmonem などの修正提案がある。)
  • tertio die prima luce exercitum vado traducit
    • 3日目の明け方に、(スキピオは)軍隊を浅瀬で渡河させて、
  • et castris positis
    • (ドミティウスがいる対岸側に)陣営を設営すると、
  • postero die mane copias ante frontem castrorum struit.
    • 翌日の早朝に、陣営の正面の前に、軍勢を配置する。
      (訳注:下線部は、古い写本では struit だが、より後代の写本では instruit となっている。
      意味はほぼ同じ。)


   ドミティウス・カルウィヌスが、スキピオの陣営のそばに接近する

  • ②項 Domitius tum quoque
  • sibi dubitandum non putavit quin productis legionibus proelio decertaret.
    • 諸軍団を(陣営から)出撃させて野外の遭遇戦プロエリウムで決着を付けることは、自分にとってためらわれるべきではない、と思案した。
      (訳注:dubitāre quīn ~ 「~(こと)をためらう」)
  • Sed cum esset inter bina castra campus circiter milium passuum VI,
    • けれども、二つの陣営の間には、約6ローママイルもの平原があったのに、
      (訳注1:写本では VI (6マイル≒9km)だが、III (3マイル≒4.5km)、II (2マイル≒3km) などの修正提案がある。)
      (訳注2:「陣営」を意味する castra という単語は複数形なので、配分数詞[形容詞] fr:Adjectif distributif をとる。
      二進法を表わす英語の binary は、ラテン語の配分数詞 bīnus(男性形), bīna(女性形), bīnum(中性形) の派生語。)
  • Domitius castris Scipionis aciem suam subiecit,
    • ドミティウスは、スキピオの陣営のそばに戦列アキエスを置いた。
      (訳注:subicere 「下に置く」)
  • ille a vallo non discedere perseveravit.
    • 彼(スキピオ)は、防柵から離れないことに固執した。


   スキピオの陣営の下の川が、ドミティウス勢の進軍を阻止する

  • ③項 Ac tamen aegre retentis Domitianis militibus
    • それにもかかわらず、ドミティウスの兵士たちは かろうじて引き留められて、
      (訳注:ac tamen 「それにもかかわらず」)
  • est factum, ne proelio contenderetur,
    • 野外の遭遇戦プロエリウムで争われないようにされた。
  • et maxime quod rivus difficilibus ripis subiectus castris Scipionis
    • というのも、とりわけ、スキピオの陣営の下を流れていた川が、厄介な岸により、
  • progressus nostrorum impediebat.
    • 我が方の前進をはばんでいたからである。


   スキピオが迷ったあげく、川を渡って引き返してしまう

  • ④項 Quorum studium alacritatemque pugnandi
    • その者たち(ドミティウスの兵士)の戦いにかける熱心さストゥディウム熱狂ぶりアラクリタス
  • cum cognovisset Scipio,
    • スキピオが知ったときに、
  • suspicatus fore ut postero die aut invitus dimicare cogeretur,
    • 翌日に、不本意ながらも戦うことを強いられるように、になるのであろうか、と推測して
  • aut magna cum infamia castris se contineret, qui magna exspectatione venisset,
    • あるいは、(元老院派の)大いなる期待とともにやって来た(スキピオ)その人が、大いなる面汚つらよごしをもって陣営に閉じこもることになるのか(と推測して)、
      (訳注:suspicatus fore(sumの不定法・未来) ut aut ~ cōgerētur(接続法・受動・未完了過去),
                                   aut ・・・ se continēret(接続法・能動・未完了過去), qui ○○ vēnisset(接続法・過去完了) 
       「~を強いられるようになるのであろうか、あるいは、○○とともにやって来ていた者が・・・閉じこもることになるのであろうか、と推測して」)
  • temere progressus turpem habuit exitum
    • 無分別に前進しながらも、ぶざまな結末を迎えて、
      (訳注:川の向こう側から戦意もないのに進軍して来て、みじめな退却をする、という意味であろう。)
  • et noctu ne conclamatis quidem vasis flumen transit
    • 夜のうちに、荷造りをせよという号令も出さずに、川を渡って、
      (訳注:conclāmāre vāsa 「荷造りをせよという号令を出す」)
  • atque in eandem partem, ex qua venerat, redit
    • そこからやって来ていた(元の)ところに戻ってしまい、
  • ibique prope flumen edito natura loco castra posuit.
    • そこに、川のそばの地形の高い場所に、陣営を設置した。


   スキピオ勢が、ドミティウス勢に対して伏兵をしかける

  • ⑤項 Paucis diebus interpositis
  • noctu insidias equitum conlocavit,
    • 夜間に、騎兵たちから成る伏兵を配置した。
  • quo in loco superioribus fere diebus nostri pabulari consueverant;
    • その場所には、先日からほぼ毎日、我が方(ドミティウス勢)がまぐさをあさることを習慣としていたのだ。
      (訳注:pābulārī 「糧秣 (兵士の糧食や馬などのまぐさ) をあさる」)
  • et cum cotidiana consuetudine Q. Varus, praefectus equitum Domiti, venisset,
    • ドミティウス(配下)の騎兵たちの指揮官クィントゥス・ウァルスが、毎日の習慣によって、やって来たときに、
  • subito illi ex insidiis consurrexerunt.
    • あの者ら(スキピオ勢)は、いきなり、待ち伏せのところから決起した。
      (訳注:consurgere 「立ち上がる、決起する」 > 完了形 consurrexērunt


   ドミティウス勢が、伏兵にこらえて、反撃に転じる

  • ⑥項 Sed nostri fortiter impetum eorum tulerunt,
    • けれども、我が方(ドミテゥス勢)が果敢に彼ら(スキピオ勢)の突撃に踏ん張ったし、
  • celeriterque ad suos quisque ordines redit,
    • おのおのが、手早く味方の戦闘隊形オルドに戻る。
  • atque ultro universi in hostes impetum fecerunt.
    • さらに、(ドミティウス勢の)総勢が、反対に敵方に対して突撃を行なった。


   ドミティウス勢が緒戦に勝利する

  • ⑦項 Ex his
    • この者ら(敵勢=スキピオ勢)のうち、
  • circiter LXXX interfectis,
    • 約80名が殺戮さつりくされ、
  • reliquis in fugam coniectis,
    • 残りの者たちは、敗走に追い立てられ、
  • duobus amissis in castra se receperunt.
    • (我が方=ドミティウス勢は)2名を失って、陣営に撤退した。

38節

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ドミティウスが逆に伏兵をしかけ、スキピオの2個騎兵小隊あまりを討ち取る

  • ①項 His rebus gestis
    • これらの戦功レスがあげられると、
      (訳注:「絶対奪格の例文」を参照。)
  • Domitius sperans Scipionem ad pugnam elici posse
  • simulavit sese angustiis rei frumentariae adductum castra movere
    • 糧秣補給の乏しさにより陣営を引き払うことを余儀なくされたように見せかけて、
      (訳注1:addūcere 「強要する、余儀なくさせる」 > 完了受動分詞 adductus 「~を余儀なくされた」)
      (訳注2:castra movere 「陣営を引き払う」)
  • vasisque militari more conclamatis
    • 軍務の慣例モスによって、荷造りをせよという号令を出して、
      (訳注:conclāmāre vāsa 「荷造りをせよという号令を出す」)
  • progressus milia passuum III
    • 3ローママイル(=約4.5km)前進して、
  • loco idoneo et occulto omnem exercitum equitatumque conlocavit.
    • 適当な場所に、ひそかに、歩兵隊と騎兵隊のすべてを配置した。
      (訳注:exercitus 「軍隊」、特に騎兵に対しては、軍団兵を構成する「歩兵隊」)


   スキピオの騎兵隊が、ドミティウス勢を偵察するために先遣される

  • ②項 Scipio ad sequendum paratus
    • スキピオは(ドミティウス勢を)追跡することを企てて、
      (訳注:parāre ad ~ 「~を意図する、企てる」)
  • equitatus magnam partem
    • 騎兵隊の大半を
      (訳注:下線部は、写本では equitātum magnamque partem 「騎兵隊と(歩兵の)大半を」とあるが、
      equitātūs magnam partem 「騎兵隊の大半を」あるいは equitum magnam partem 「騎兵たちの大半を」などと修正提案されている。)
  • ad explorandum iter Domiti et cognoscendum praemisit.
    • ドミティウスの行軍を偵察して知るために、先に遣わした。


  • ③項 Qui cum essent progressi primaeque turmae insidias intravissent,
    • その者ら(スキピオの騎兵隊)が前進して、先頭の騎兵小隊トゥルマが潜伏所に入り込んだときに、
      (訳注:īnsidiae 「待ち伏せ、伏兵」あるいは「潜伏所」)
  • ex fremitu equorum inlata suspicione
    • 馬たちのどよめきから、(伏兵が潜んでいるのではないかという)疑念を生じさせられて、
  • ad suos se recipere coeperunt,
    • 味方のもとへ退却し始めた。
  • quique hos sequebantur, celerem eorum receptum conspicati restiterunt.
    • これら(先頭の騎兵小隊)の後に続いていた者たちは、彼らの迅速な退却に気づいて、立ち止まった。


  • ④項 Nostri cognitis [hostium] insidiis,
    • 我が方(ドミティウス勢)は、伏兵に感づかれたので、
      (訳注:写本には [hostium] 「敵方の(伏兵に)」とあるが、削除提案されている。
      あるいは逆に、次のような挿入提案もある。
      Nostri cognitis <per exploratores> hostium insidiis 「我が方は、敵方の<偵察隊によって>伏兵に感づかれたので」)
  • ne frustra reliquos exspectarent,
    • (敵方の)残り(が来るの)をむなしく待つことがないように、
  • duas nacti <hostium> turmas exceperunt,
    • <敵方の> 2個騎兵小隊トゥルマに出くわして、捕らえた。
  • Unus fugit M. Opimius praefectus equitum
    • 騎兵たちの指揮官 マルクス・オピミウス一人が逃げ延びた。
      (訳注:下線部は修正提案されたもので、写本では in his fuit ・・・「これらの中に・・・がいた」となっている。
      このほか、挿入提案として
      <quarum perpauci fuga se ad suos receperunt> in his fuit M. Opimius praefectus equitum,
      「<彼らのうちわずかな者たちが逃げて、味方のもとへ退却した>。これらの中に騎兵たちの指揮官マルクス・オピミウスがいた」
      とするものもあるが、挿入提案としては長すぎる。)
  • reliquos omnes earum turmarum
    • 彼ら騎兵小隊トゥルマの残りのすべてを
  • aut interfecerunt aut captos ad Domitium deduxerunt.
    • 殺戮さつりくするか、あるいは、捕らえてドミティウスのもとへ連行した。

アドリア海の港湾都市をめぐる、カエサル勢とポンペイウス勢の攻防

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39節

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カエサルが、副官カニヌスに命じて、港湾都市オリクムの防備を固めさせる

  • ①項 Deductis orae maritimae praesidiis Caesar, ut supra demonstratum est,
    • 前に述べたように、カエサルは、沿岸地帯の守備隊を連れ出して、
      (訳注:34節①項を参照。)
  • III cohortes Orici oppidi tuendi causa reliquit
    • オリクムの城市を防衛するために3個歩兵大隊コホルスを残して、
  • isdemque custodiam navium longarum tradidit, quas ex Italia traduxerat.
    • 同じ者ら(3個歩兵大隊)に、イタリアから渡らせていた軍船の警戒をゆだねた。
  • Huic officio oppidoque <M'. Acilius> Caninus legatus praeerat.
    • 副官レガトゥス <マニウス・アキリウス・> カニヌスに、この職責オッフィキウムと城市を統率させていた。
      (訳注:下線部の名前は、写本では caninus(カニヌス)、caninius(カニニウス)、caninianus(カニニアヌス) などとなっている。
      次節の氏族名 Acilius とあわせ、Manius(または Marcus)Acilius Caninus(または Caninianus) という人物名が想定されている。)


  • ②項 Is naves nostras interiorem in portum post oppidum reduxit
    • 彼(カニヌス)は、我が方の船団を、城市の後ろにある港の内側に引き込んで、
  • et ad terram deligavit
    • 陸地につないで、
  • faucibusque portus navem onerariam submersam obiecit
    • 港の入口に、貨物船を沈めて障害物として置き、
  • et huic alteram coniunxit;
    • これに対して、もう一隻をつなぎ止めた。
  • super quam turrim effectam ad ipsum introitum portus opposuit
    • それの上に、櫓を建造して、港の入口への向かいに置いて、
  • et militibus complevit
    • (その櫓を)兵士たちで満たして、
  • tuendamque ad omnis repentinos casus tradidit.
    • あらゆる不意の危機に対して防衛されるべく(兵士たちに)ゆだねた。

40節

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ポンペイウスの息子が、オリクム港とリッスス港のカエサル船団を壊滅させる

  • ①項 Quibus cognitis rebus
    • それらの事態を知ると、
  • Cn. Pompeius filius, qui classi Aegyptiae praeerat,
  • ad Oricum venit
    • オリクム周辺にやって来て、
  • submersamque navem remulco multisque contendens funibus adduxit
    • 沈められていた船を、引き綱レムルクムや多くのフニスで引っ張り上げ、持ち去って
      (訳注:下線部の addūxit 「持ち去った」は写本にある記述だが、abdūxit 「運び去った」に修正提案されている。大意は同じと思われる。)
  • atque alteram navem, quae erat ad custodiam ab Acilio posita,
    • アキリウスによって警戒のために置かれていた、もう一つの船に、
  • pluribus adgressus navibus, in quibus ad libram fecerat turres,
    • 船中に同じ高さでやぐらを建造しておいた、より多くの船で攻撃をしかけて、
      (訳注:ad libram 「同じ水準に、同じ高さに」)
  • ut ex superiori pugnans loco
    • より高い場所から戦って、
      (訳注:下線部「より高い場所から」または「より有利な場所から」は、前置詞 ex に支配される単語は奪格になるので、
      たいていは ex superiōre locō となるが、比較級では ex superiōrī locō という語尾を取る場合もある。)
  • integrosque semper defatigatis submittens
    • たえず、無傷の者たちを消耗した者たちに増援して、
  • et reliquis partibus simul ex terra scalis et <telis ex> classe moenia oppidi temptans,
    • ほかの方面からは、同時に地上から はしごにより、艦隊<から飛び道具>により城市の防壁を攻撃して、
      (訳注:<telis ex> <から飛び道具> は写本にはなく、挿入提案されたものである。)
  • uti adversariorum manus diduceret,
    • 敵方(=オリクムを守るカエサル勢)手勢マヌスを分断するようにして、
  • labore et multitudine telorum nostros vicit
    • 疲弊と飛び道具の多さにより、我が方(カエサル勢)を打ち破って
  • deiectisque defensoribus,
    • (城市オリクムの)防戦者たちは撃退されて、
  • qui omnes scaphis excepti refugerunt,
    • 皆が小舟に迎えられて、逃げ出し、
      (訳注:下線部は、写本では refūgerant(過去完了) だが、refūgērunt(完了) に修正提案されている。)
  • eam navem expugnavit.
    • (ポンペイウスの息子らは)その船を制圧した。


  • ②項 Eodemque tempore ex altera parte
    • 同時に、反対の方面から、
  • molem tenuit naturalem obiectam, quae paene insulam oppidum effecerat,
    • 城市を半島にしていた、防壁となっていた天然の構造物モレスを占領して、
      (訳注:paene īnsula(m)「ほとんど島(に)」= paenīnsula(m)「半島(に)」 )
  • IIII biremes subiectis scutulis
    • 4隻の二段櫂船ビレミスの下にころスクトゥラを置き、
  • impulsas vectibus in interiorem partem transduxit.
    • かなてこウェクティスで駆動して、内側の方面に運び込んだ。
      (訳注:下線部は、写本では in interiorem partem 「内側の方面に」だが、
      in interiorem portum 「内側のに」という修正提案を採る校訂者が多い。)


  • ③項 Ita ex utraque parte naves longas adgressus, quae erant deligatae ad terram atque inanes,
    • こうして、(港の内外)両方面から、陸地につながれて空っぽになっていた(オリクムのカエサル勢の)軍船に襲いかかって、
  • IIII ex his adduxit,
    • これら(の軍船)のうち、4隻を連れ去って
    • (訳注:下線部の addūxit 「連れ去った」は多くの写本にある記述だが、abdūxit 「運び去った」という一部の写本の記述が採られる校訂者が多い。)
  • reliquas incendit.
    • そのほか(の軍船)を焼き討ちした。


  • ④項 Hoc confecto negotio
    • この任務が成し遂げられると、
  • D. Laelium ab Asiatica classe abductum reliquit,
    • (ポンペイウスの息子は)デキムス・ラエリウスを(属州)アシアの艦隊から引き離して(オリクムに)残し、
  • qui commeatus Byllide atque Amantia importari in oppidum prohibebat / prohiberet.
    • その者をして、ビュッリスやアマンティアから必需物資が城市(オリクム)に運び込まれることを、はばもうとした。
      (訳注:下線部は、写本では prohibēbat(直説法・未完了過去) だが、prohibēret(接続法・未完了過去) に修正提案されている。)


   ポンペイウスの息子が、リッスス港を攻略しようとする

リッスス(Lissus)すなわち現在のアルバニア北部の町レッジャLezhë)の街並み。
  • ⑤項 Ipse Lissum profectus
    • (ポンペイウスの息子)自身は、リッススに出発し、
  • naves onerarias XXX a M. Antonio relictas intra portum adgressus
  • omnes incendit;
    • すべてを焼き討ちした。
  • Lissum expugnare conatus,
    • (ポンペイウスの息子は)リッススを攻略することを企て、
  • defendentibus civibus Romanis, qui eius conventus erant, militibusque, quos praesidii causa miserat Caesar,
    • その(リッススの)協議会に所属していたローマ市民たちと、カエサルが(城市の)守備のために派遣していた兵士たちとが、防戦したので、
  • triduum moratus paucis in oppugnatione amissis
    • 3日間も手間取ったあげく、攻略中にわずかな者たちを失って、
  • re infecta inde discessit.
    • 事が達成されないままで、そこから撤退した。
      (訳注:「絶対奪格の例文」を参照。)

デュッラキウムの戦い(1)─大陣地戦の始まり

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41節

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カエサルが、ポンペイウス勢を挑発して、アスパラギウム近辺からデュッラキウム近くへ誘い出す

  • ①項 Caesar postquam Pompeium ad Asparagium esse cognovit,
    • カエサルは、ポンペイウスがアスパラギウムの辺りにいることを知った後で、
      (訳注:30節⑦項を参照。)
  • eodem cum exercitu profectus
    • 同じところへ軍隊とともに出発して、
  • expugnato in itinere oppido Parthinorum,
    • 行軍途中で、パルティニ族の城市を攻略した。
      (訳注:11節③項でも言及されたパルティニ族は、イッリュリア南端に居住していたイッリュリア人の部族である。)
  • in quo Pompeius praesidium habebat,
    • ── そこに、ポンペイウスが守備隊を保持していたのだ ──
  • tertio die [Macedoniam] ad Pompeium pervenit
    • 3日目に、ポンペイウスの周辺に到着して、
      (訳注:写本にある [Macedoniam][マケドニアに]は削除提案されている。
      この一帯は、ローマ人の支配区域としてはマケドニア属州の一部であるが、地理的なマケドニアではない。)
  • iuxtaque eum castra posuit
    • 彼(ポンペイウス)のすぐ近くに陣営を設置した。
  • et postridie eductis omnibus copiis acie instructa
    • 翌日に、すべての軍勢を進発させて、戦列アキエスを整えることにより、
  • decernendi potestatem Pompeio fecit.
    • 決着を付ける機会を、ポンペイウスに与えた。


   カエサルが、戦局の打開策を思案する

  • ②項 Ubi illum suis locis se tenere animum advertit,
    • あの者(ポンペイウス)が、自分の陣地に身を留めて(動かないで)いるのに注目するや否や、
      (訳注:animum advertereanimadvertere 「心を向ける、注目する、気づく」)
  • reducto in castra exercitu
    • (カエサルは)軍隊を陣営に撤収させて、
  • aliud sibi consilium capiendum existimavit.
    • 自分(カエサル)にとって、別の戦略コンシリウムが採られるべきだ、と判断した。


   カエサルが、出し抜けに全軍を率いてデュッラキウムへ向かう

  • ③項 Itaque postero die
    • そういうわけで、翌日に、
  • omnibus copiis magno circuitu
    • すべての軍勢をもって、大きくぐるっと回り道をして、
  • difficili angustoque itinere
    • 困難で狭苦しい道を通って、
  • Dyrrachium profectus est
  • sperans Pompeium aut Dyrrachium compelli aut ab eo intercludi posse,
    • ポンペイウスをデュッラキウムに押し込めることができるか、もしくは、そこから切り離してしまうことができるか、と期待しながら。
  • quod omnem commeatum totiusque belli adparatum eo contulisset:
    • というのも、(ポンペイウスは)すべての生活物資コンメアトゥスや、戦争の器具類アドパラトゥスのことごとくを、そこに運び集めていたからだ。
      (訳注:commeātus は、兵士の生活に欠かせない食糧や生活必需品などを指す。
      adparātusapparātus は、戦争に欠かせない機械装置や道具類などを指すと思われる。)
  • ut accidit.
    • (そして実際に)そのように起こったのだ。


   ポンペイウスが、カエサルの誘い出し策に乗って、デュッラキウムへ先回りをしようとする

  • ④項 Pompeius enim primo ignorans eius consilium,
    • 確かに、ポンペイウスは、初めのうちは、彼 (カエサル)戦略コンシリウムを知らずにいて、
      (訳注1:enim 「確かに」は前文を裏付ける文を導く接続詞。)
      (訳注2:prīmō ~, posteā ・・・ 「初めのうちは~、後になって・・・」)
  • quod diverso ab ea regione itinere profectum videbat,
    • ── というのも、(カエサル勢が、デュッラキウムの位置する)その方向からは反対側の進路により出発したことを目撃しており、
  • angustiis rei frumentariae compulsum discessisse existimabat;
    • 糧秣補給の乏しさに強いられて撤退したと、判断していたのだが、──
      (訳注:下線部の表現 angustiis rei frumentariae compulsum discessisse 「糧秣補給の乏しさに強いられて撤退したこと」、
      38節①項に類似表現 angustiis rei frumentariae adductum castra movere 「糧秣補給の乏しさに余儀なくされて陣営を引き払ったこと」がある。)
  • postea per exploratores certior factus
    • 後になって斥候エクスプロラトルたちを通じて(カエサルがデュッラキウムへ向かったことを)報告されると、
      (訳注:certiōrem facere 「(~について)確かな情報を持たせる、報告する」
      >受動 certior factus 「(~について)知らされる」)
  • postero die castra movit
    • 翌日には、陣営を引き払った。
      (訳注:castra mōvēre 「陣営を移動した」すなわち「陣営を引き払った」あるいは「進軍した」)
  • breviore itinere se occurrere ei posse sperans.
    • より短い進路を取ることにより、自ら (ポンペイウス) が彼 (カエサル) を迎撃することができると期待して。
      (訳注:occurrere 「出くわす」あるいは「対抗する」「襲撃する」「迎撃する」)


   カエサルが、ポンペイウスより少し早く、デュッラキウム付近に到着する

  • ⑤項 Quod fore suspicatus Caesar
    • そのことが生じるであろうと、カエサルは推測しており、
  • militesque adhortatus, ut aequo animo laborem ferrent,
    • 兵士たちに、冷静な気持ちで辛さに踏ん張れよ、と気合いを入れて、
  • parva parte noctis itinere intermisso
    • 夜のわずかな間だけ、行軍を中断したが、
      (訳注:絶対奪格の例文を参照。)
  • mane Dyrrachium venit,
    • 朝方には、デュッラキウムに到着した。
  • cum primum agmen Pompei procul cerneretur,
    • そのとき、ポンペイウスの行軍隊列アグメンの前衛が、遠くから視認されており、
  • atque ibi castra posuit.
    • (カエサルは)その場に陣営を設置した。

42節

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デュッラキウム、すなわち現在のアルバニアドゥラスDurrësi ドゥルスィ)の近郊、カヴァヤ(Kavaja)またはカヴァイェ(Kavajë)にあるカヴァイェ岩Shkëmbi i Kavajës)。
この岩山が、本節で言及されるペトラPetra 「岩」)だと考えられている。海岸の近くにあり、現代では周囲にリゾートホテルが立ち並ぶ。

ポンペイウスがデュッラキウム郊外の丘ペトラに拠点を築き、カエサルは周辺地域からの糧秣補給に努める

  • ①項 Pompeius interclusus Dyrrachio,
  • ubi propositum tenere non potuit,
    • そこでの作戦計画の意図プロポシトゥムを達成することができず、
  • secundo usus consilio
    • 次なる作戦計画コンシリウムを採用して、
  • edito loco,
    • (デュッラキウム郊外にある)高地にて、
  • qui appellatur Petra aditumque habet navibus mediocrem atque eas a quibusdam protegit ventis,
    • ──(その高地は)ペトラと呼ばれており、船団にとってのありふれたメディオクリス 出入口アディトゥスを有し、それら(の船団)をある種の風から防護してくれるものであるが、 ──
      (訳注:mediocris, -is, -e 「中程度の、平均的な、平凡な、並みの、ありきたりの」)
  • castra communit.
    • 陣営を(設営して、堡塁で)固める。
      (訳注:commūnīre 「(堡塁などで防備を)固める」)
  • ②項 Eo
    • そこに、
  • partem navium longarum convenire,
    • 軍船の一部が集まること、
  • frumentum commeatumque ab Asia atque omnibus regionibus, quas tenebat, comportari
    • および、(属州)アシアと(ポンペイウスが)掌握していたすべての地域から、穀物や生活物資が運び集められること、
  • imperat.
    • を命令する。


   長期戦を覚悟したカエサルが、糧秣補給に取りかかる

  • ③項 Caesar longius bellum ductum iri existimans
    • カエサルは、より長い間にわたって戦争が長引かされるであろう、と判断し、
      (訳注1:longē 副詞「長い間」 > 比較級 longius 「より長い間」)
      (訳注2:bellum dūcere 「戦争を長引かせる」 > 未来・受動・不定法 bellum ductum īrī 「戦争が長引かされるであろうこと」)
  • et de Italicis commeatibus desperans,
    • イタリアからの生活物資については望みを失い、
  • quod tanta diligentia omnia litora a Pompeianis tenebantur
    • ── というのも、あれほどの注意深さで、すべての海岸がポンペイウス勢によって掌握されていたし、
  • classesque ipsius, quas hieme in Sicilia, Gallia, Italia fecerat, morabantur,
    • かつ、冬季にシキリアガリア、イタリアで建造していた(カエサル)自身の艦隊が、遅れていたからであるが ──
  • in Epirum rei frumentariae causa Q. Tillium et L. Canuleium legatos misit,
    • エピルスに、糧秣調達のために、副官レガトゥスであるクィントゥス・ティッリウスとルキウス・カヌレイウスを遣わした。
ドイツで再建された帝政ローマの長城ザールブルク城砦Castellum Saalaburgense)(ユネスコ世界遺産)に設置された穀物倉庫ホッレウムhorreum )。
  • quodque hae regiones aberant longius,
    • これら(エピルス)の諸地方は、より遠くに離れていたので、
  • locis certis horrea constituit
    • いくつかの場所に穀物倉庫ホッレウムを設置して、
  • vecturasque frumenti finitimis civitatibus discripsit.
    • 近隣の諸都市に対して、穀物の運送を(労役として)割り当てた。
      (訳注:discrībere 「割り当てる」)


  • ④項 Item Lisso Parthinisque et omnibus castellis,
    • さらにまた、リッススやパルティニ族、および(周辺地域の)すべての城砦に対して、
  • quod esset frumenti,
    • あらん限りの穀物が
  • conquiri iussit.
    • 探し集められることを、命じた。


  • ⑤項 Id erat perexiguum
    • それは、微々たるものであった。
  • cum ipsius agri natura, quod sunt loca aspera ac montuosa ac plerumque frumento utuntur inportato,
    • というのも、一方では、当の耕地が荒れ果てて山の多い地勢で、たいていは(よそから)持ち込まれた穀物が消費されており、
      (訳注:cum ~, tum ・・・ 「一方では~、他方では・・・」)
  • tum quod Pompeius haec providerat
    • 他方では、ポンペイウスはこのことを予見していて、
  • et superioribus diebus praedae loco Parthinos habuerat
    • 以前からパルティニ族を戦利品と見なし、
  • frumentumque omne conquisitum spoliatis effossisque eorum domibus
    • 彼らの家々を略奪して掘り返すことによって 徴発されたすべての穀物を、
      (訳注:conquīrere 「探し集める、徴発する」 > 完了受動分詞 conquīsītus 「探し集められた、徴発された」)
  • per equites in Petram comportarat.
    • 騎兵たちを通じて、ペトラに(すでに)運び集めておいたからなのだ。
      (訳注:comportārat は、動詞 comportō の3人称・単数・過去完了・能動・直説法
      comportāverat において、r の前の ve が脱落した語形。)

43節

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糧秣不足や騎兵の劣勢を意識するカエサルが、ポンペイウスの陣営を山砦や塁壁で包囲し始める

  • ①項 Quibus rebus cognitis,
  • Caesar consilium capit ex loci natura.
    • カエサルは、地勢に従った作戦計画コンシリウムを立てる。
      (訳注:cōnsilium capere 「作戦計画を立てる」)
  • Erant enim circum castra Pompei permulti editi atque asperi colles.
    • すなわち、ポンペイウスの陣営の周囲には、とても多くの高くて起伏に富んだ丘陵があった。
  • Hos primum praesidiis tenuit
    • はじめに、これら(の丘陵)を守備隊により掌握して、
  • castellaque ibi communiit.
    • そこに、山砦カステッルムを(設営して、堡塁などで防備を)固めた。
      (訳注1:castra 「陣営」という単語を、カエサルは、行軍中の仮設から常設のものまで広く用いているが、
           ここでは「本陣」「本営」のような意味で記しているのであろう。
           castellum(ここでは「山砦」と訳す)は、castrum 「城砦」の小形のもので、「出城」のようなものか。)
      (訳注2:動詞の完了形が -āvī, -ēvī, -īvī となる語形変化では、母音に挟まれた v が脱落する場合がある。
          下線部 commūnīit は、commūniō の3人称・単数・完了・能動・直説法 commūnīvit の v が脱落した形。)


  • ②項 Inde, ut loci cuiusque natura ferebat,
    • それから、それぞれの地勢が許容していたように、
  • ex castello in castellum perducta munitione
    • 山砦カステッルムから(近隣の)山砦に、塁壁ムニティオが張り巡らされることにより、
      (訳注:perdūcere 「(堡塁などを)張り巡らす」 > 完了受動分詞 perductus
  • circumvallare Pompeium instituit,
    • ポンペイウスを包囲することに取りかかる。
      (訳注:circumvallāre 「(壁で)取り囲む」)


   カエサルのもくろみ(その1):より安全に糧秣補給ができるように

  • ③項 haec spectans,
    • (これらのカエサルの作戦計画は)以下のことをもくろんでいた。
      (訳注:spectāre 「~をもくろむ」 > 現在分詞 spectans 「~をもくろみながら」)
  • quod angusta re frumentaria utebatur,
    • (カエサル勢において)糧秣調達の苦境が味わわれていたので
  • quodque Pompeius multitudine equitum valebat,
    • かつ、ポンペイウスは、騎兵たちの多さにおいて、(カエサルに比べて)優勢であったので
  • quo minore periculo undique frumentum commeatumque exercitui subportare posset,
    • できるだけ少ない危険で、いたるところから穀物や生活物資を(カエサルの)軍隊に輸送できるように
      (訳注:quō ~[比較級] ・・・[接続法] 「それだけいっそう~ ・・・するように」)


   カエサルのもくろみ(その2):ポンペイウスの軍馬を飢えさせるように

  • simul uti pabulatione Pompeium prohiberet
    • 同時に、まぐさをあさることにおいて、ポンペイウスを妨げるように、
      (訳注:utī (ut) ~[接続法] 「~するように」)
  • equitatumque eius ad rem gerendam inutilem efficeret,
    • かつ、彼の騎兵隊を、軍事行動を遂行するためには役立たぬものとするように。
      (訳注1:rem gerere 「戦争・軍事行動を遂行する」> ad rem gerendam [動名詞を動形容詞で代用])
      (訳注2:efficere ~ ・・・ 「~を・・・にする」 ⇒ equitātum inūtilem efficere 「騎兵隊を役立たずにする」)
カエサルとほぼ同時代のギリシア人地理学者ストラボンの『地誌』に基づく“全世界”の地図。


   カエサルのもくろみ(その3):ポンペイウスの権威を、諸国民の間で失墜させるように

  • tertio ut auctoritatem, qua ille maxime apud exteras nationes niti videbatur, minueret,
    • 三番目に、あの者(ポンペイウス)が特に外国の諸国民のもとで支えられていると思われていたところのご威光アウクトリタスをそぐように。
      (訳注:nītī ~[奪格] 「~に支えられている」
      auctōritātem, quā [奪格] niti videbatur, minuere 「(彼が)支えられていると思われていたところのご威光をそぐ」)
  • cum fama per orbem terrarum percrebuisset illum a Caesare obsideri neque audere proelio dimicare.
    • あの者がカエサルによって攻囲されても野外の会戦プロエリウムで闘うことを敢行しない、という世評ファマが全世界を通じて広まっていたその時に。
      (訳注1:間接話法では、主語が対格になり、定動詞が不定法になる。
            fāma illum[対格] neque audēre[不定法] 「彼が敢行しないという世評(が)」)
      (訳注2:orbis terrārum 「全世界」)
      (訳注3:多くの写本は、動詞 percrēbēscō の3人称・単数・過去完了・能動・接続法 percrēbuisset を記すが、
      一部の写本は、別形 percrebrescō の3人称・単数・過去完了・能動・接続法 percrēbruisset を記す。)

44節

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デュッラキウムと海路からの物資補給を重視するポンペイウスが、内側に陣地を構築してカエサルに対抗する

  • ①項 Pompeius neque a mari Dyrrachioque discedere volebat,
  • quod omnem adparatum belli, tela, arma, tormenta ibi conlocaverat
    • というのも、戦争の器具類アドパラトゥス ──(投槍や矢などの)飛び道具、武具、投石機── のことごとくを(すでに)そこに置いてあったし、
  • frumentumque exercitui navibus subportabat,
    • 軍隊への穀物も船団により輸送していたからだ。
  • neque munitiones Caesaris prohibere poterat, nisi proelio decertare vellet;
    • 野外の会戦プロエリウムで決着を付けることを望まない限り、カエサルが塁壁ムニティオを巡らすことを妨げることはできなかった。
      (訳注:neque (= et nōn) ~, nisi ・・・ 「・・・しない限り、~ない」)
  • quod eo tempore statuerat faciendum non esse.
    • (ポンペイウスは)その当時、そのこと(=決戦)がなされるべきではないと、(すでに)決意していたのだ。
      (訳注:ポンペイウスはそう決意していた、とカエサルは記すが、その根拠が示されていないので、憶測かも知れない。
      ただ、33節において、ポンペイウスは、岳父であるスキピオに、カエサルとの戦いのために来援を急ぐように督促しているので、スキピオと合流するまではカエサルとの決戦は避けたということも考えられる。)
デュッラキウムの戦いの陣地の配置図。
デュッラキウムDyrrhachium)から南東へエグナティア街道Via Egnatia)が延び、沿道に両軍の陣地が築かれた。
デュッラキウムの近郊に、カエサルの本営(Caesar's campが置かれ、カエサルの塁壁が南方へ張り巡らされた。これに対して、ポンペイウスの本営(Pompey's camp)がカエサルの本営の近くに置かれ、ポンペイウスの塁壁が内周に張り巡らされた。


   ポンペイウスの最後の手段とは

  • ②項 Relinquebatur
    • (ポンペイウスにとって)残されていたのは、
  • ut extremam rationem belli sequens
    • 戦争の(上記以外の)最後の手段に従って、
  • quam plurimos colles occuparet
    • できるだけ多くの丘陵を占拠して、
      (訳注:quam ~[形容詞の最上級] 「できる限り~」;quam plūrimī 「できる限り多くの」)
  • et quam latissimas regiones praesidiis teneret
    • できるだけ広大な領域を守備隊で掌握して、
  • Caesarisque copias, quam maxime posset, distineret;
    • カエサルの軍勢を、できる限り、分散させることであった。
  • idque accidit.
    • それは、(実際に)そうなったのであるが。


   ポンペイウスも24か所に山砦を建て、軍馬や駄獣を養うための陣地を囲い始める

  • ③項 Castellis enim XXIV effectis
    • 現に、24か所の山砦カステッルムが建造されて
  • XV milia passuum <in> circuitu amplexus
    • 周囲15ローママイル(=約22.5km)が取り囲まれて、
      (訳注:<in> は、写本にはなく、挿入提案されたもの。)
  • hoc spatio pabulabatur;
    • この領域で、秣が徴発されていた。
  • multaque erant intra eum locum manu sata, quibus interim iumenta pasceret.
    • その土地の内部には、さしあたって駄獣を飼育する手植えの作物がたくさんあったのだ。
      (訳注:serere 「植える」 > 完了受動分詞 satus 「植えられた(もの)」 > 中性・複数 sata 「作物」
       ⇒ manū sata 「手で植えられたもの」「手植えの作物」)


   両軍が、互いにすき間なく塁壁を築いて、相手の突入を防ごうとする

  • ④項 Atque ut nostri perpetuas munitiones habebant perductas ex castellis in proxima castella,
    • そのうえ、我が方(カエサル勢)は、山砦カステッルムから最寄りの山砦に、絶え間ない塁壁ムニティオが張り巡らされるようにしていた。
      (訳注:perdūcere 「(堡塁などを)張り巡らす」 > 完了受動分詞 perductus
  • nequo loco erumperent Pompeiani ac nostros post tergum adorirentur [timebant],
    • どこからも、ポンペイウス勢が突き破って、我が方を背後から攻撃することがないように
      (訳注1:nēquō (=nē quō)~[接続法]   < + 副詞 aliquō [不定代名詞 aliquisの単数奪格]。 ここでは、
      nēquō locō(= nē quō locō) ~[接続法]  < + 不定形容詞 aliquō + locō[単数奪格] 「どこからも~ないように」)
      (訳注2:写本にある [timebant] [怖れていた]は削除提案されている。)
  • ita illi interiore spatio perpetuas munitiones efficiebant,
    • それと同様に、あやつら(ポンペイウス勢)も、内側の空間に、絶え間ない塁壁ムニティオを建てていた。
      (訳注:ut ~, ita ・・・ 「~と同様に・・・」「~のように・・・」)
  • nequem locum nostri intrare atque ipsos a tergo circumvenire possent.
    • 我が方(カエサル勢)どこかへ突入して(ポンペイウス勢)自身を背後から取り囲むことができないように
      (訳注:nēquem (=nē quem) locum ~[接続法] < nē + 不定形容詞 aliquem + locum 「どこをも~ないように」)


   兵の数が多く、造る陣地の規模がより小さいポンペイウス勢が有利

  • ⑤項 Sed illi operibus vincebant,
    • けれども、あやつら(ポンペイウス勢)は、堡塁工事オプスにおいて圧倒していた。
      (訳注:opus 「構造物、堡塁」もしくは「作業、工事」)
  • quod et numero militum praestabant
    • というのも、(ポンペイウス勢は、カエサル勢を)兵士たちの数において凌駕りょうがしていたし、
  • et interiore spatio minorem circuitum habebant.
    • より内側の空間で、より小さい周囲を保っていたからだ。


   ポンペイウスが、飛び道具を持った部隊を要所に派兵する

  • ⑥項 Quae cum erant loca Caesari capienda,
    • それらの土地が、カエサルにとって、占拠されるべきであったときに
      (訳注:下線部は、多くの写本では quae [関係形容詞] cum [時を示す接続詞] となっているが、
      例えば quaecumque 「(カエサルにとって占拠されるべき土地は) どこであれ」とする修正提案などがある。
      quaecumquequācumque < 不定代名詞 quīcumque
  • etsi prohibere Pompeius totis copiis et dimicare non constituerat,
    • たとえ、ポンペイウスが、全軍勢をもって(カエサルを)邪魔じゃますることと、合戦することを決心していなかったとしても
  • tamen suis locis sagittarios funditoresque mittebat,
    • それでも好都合な地点に、弓兵たちや投石兵たちを派遣していた。
      (訳注1:etsī ~, tamen ・・・ 「たとえ~としても、それでも・・・」)
      (訳注2:再帰所有形容詞 suus (fr) は、好都合な (fr:propice)、有利な (fr:favorable) という意味も持つ。)
  • quorum magnum habebat numerum,
    • (ポンペイウスは)それらの多数を保持していたのだ。


   カエサル勢が、ポンペイウス勢の飛び道具への防護に努める

  • ⑦項 multique ex nostris vulnerabantur
    • 我が方(カエサル勢)のうち、多くの者たちが(飛び道具により)負傷させられており、
古代ローマの兵士たちが着用していたトゥニカTunicaチュニック)の再現。この上から甲冑を装着していた。
  • magnusque incesserat timor sagittarum,
    • (敵方が放つ)矢への大きな恐怖が(カエサル勢に)ふりかかっていた。
  • atque omnes fere milites
    • そしてまた、ほぼすべての(カエサル勢の)兵士たちが、
  • aut ex coactis
  • aut ex centonibus
    • あるいは つぎはぎ細工から、
      (訳注:centō 「つぎはぎ細工、パッチワーク」)
  • aut ex coriis
    • あるいは 毛皮から、
      (訳注:corium 「毛皮、皮革」)
  • tunicas aut tegimenta fecerant, quibus tela vitarent.
    • 飛び道具を避けるべく、胴着トゥニカ あるいは 防護衣テギメントゥムを作っておいたのだった。
      (訳注1:tunica 「トゥニカ(チュニック)」)
      (訳注2:tegimentumおおい」、あるいは「よろい」または「上着」)

デュッラキウムの戦い(2)─大陣地戦の展開

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45節

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カエサルの第9軍団が陣地を築いていると、ポンペイウス勢が阻止しようとする

  • ①項 In occupandis praesidiis magna vi uterque nitebatur:
    • 陣地プラエシディウムを占拠することにおいて、両者ともたいへんな勢いウィスで争っていた。
      (訳注1:praesidium は、『内乱記』では「守備隊」のような意味で用いられることが多いが、
           ここでは「城砦、とりで」または「陣地」を指すと思われる。)
      (訳注2:nītī 「力をこめる」「努力する」あるいは「争う」)
  • Caesar, ut quam angustissime Pompeium contineret,
    • カエサルといえば、ポンペイウスをできるかぎり狭い範囲に閉じ込めておこうとしていたし、
      (訳注:angustē 副詞「狭く」「狭い範囲に」> 最上級 angustissimē >quam angustissimē 「できるかぎり狭く」)
  • Pompeius, ut quam plurimos colles quam maximo circuitu occuparet;
    • ポンペイウスといえば、できるかぎり多くの丘陵を、できるかぎり大がかりな外周で占拠しようとしていた。
  • crebraque ob eam causam proelia fiebant.
    • その目的カウサのために、たびたび武力衝突プロエリウムが生じていた。


   ポンペイウス勢が、カエサルの第9軍団の工事を妨げようとする

  • ②項 In his
    • これら(の武力衝突)において、
  • cum legio Caesaris nona praesidium quoddam occupavisset et munire coepisset,
    • カエサルの第9軍団が、とある陣地プラエシディウムを(すでに)占拠して(堡塁で)固めようとしていたときに、
      (訳注:quoddam は、不定形容詞 quīdam, quaedam, quoddam 「ある~」の中性・単数・対格。)
  • huic loco propinquum et contrarium collem Pompeius occupavit
    • この地点に近接している向かい合わせの丘陵を、ポンペイウスが占拠して、
  • nostrosque opere prohibere coepit;
    • 我が方(カエサル勢)を、堡塁工事オプスにおいて、邪魔じゃまし始めた。


  • ③項 et cum una ex parte prope aequum aditum haberet,
    • (第9軍団の陣地は、ポンペイウス側の)一方向から、ほぼ平らな接近路を持っていたので
  • primum sagittariis funditoribusque circumiectis,
    • (ポンペイウス勢は)まず、弓兵たちと投石兵たちとで包囲して、
  • postea levis armaturae magna multitudine missa
    • それから、軽武装の大勢(の歩兵)を派遣して、
      (訳注:prīmum ~, posteā ・・・ 「まず~、それから・・・」)
  • tormentisque prolatis
    • 投石機トルメントゥムを前進させて、
  • munitiones impediebat;
    • (第9軍団が)塁壁を巡らすことを妨げていた。
  • neque erat facile nostris uno tempore propugnare et munire.
    • 我が方にとって、一時いちどきに、防戦しつつ(防備を)固めることは、たやすくはなかった。


   見かねたカエサルが、第9軍団に撤退を命じる

  • ④項 Caesar cum suos ex omnibus partibus vulnerari videret,
    • カエサルは、すべての方面で配下の者たちが負傷させられているのを見ていたので
      (訳注:接続詞 cum ~[接続法] で理由などを示す 「~ので」。)
  • recipere se iussit et loco excedere.
    • 陣地を離れて退却することを命じた。
  • Erat per declive receptus.
    • 退却は、傾斜地を降るものであった。


  • ⑤項 Illi autem hoc acrius instabant neque regredi nostros patiebantur, quod timore adducti locum relinquere videbantur.
    • そのうえ、恐怖に陥らされて陣地を断念したように思われていたので、なおさら、あやつらは、より激しく迫って来て、我が方が撤退することを黙認しなかった。
      (訳注:ācriter 副詞「激しく」 > 比較級 ācrius 「より激しく」)


   ポンペイウスが、味方が勝つと豪語する

  • ⑥項 Dicitur eo tempore glorians apud suos Pompeius dixisse,
    • その時に、ポンペイウスは、配下の者たちの面前で、勝ち誇って(以下のように)言い放ったと言われている
  • non recusare se, quin nullius usus imperator existimaretur,
    • 自分は、将軍インペラトルとして何ら役に立たないと思われても異議を唱えない
      (訳注:nōn ~, quīn ・・・[接続法] 「・・・ことに~ない」)
  • si sine maximo detrimento legiones Caesaris sese recepissent inde, quo temere essent progressae.
    • もし仮に、カエサルの諸軍団が、無分別にも進み出てしまったその所から大きな損失もなしに帰陣しえたならばの話だが。

46節

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カエサルが防護策を講じ、第9軍団が反攻に転じて、ポンペイウス勢を撃退する

粗朶そだ (en:fascine) の例。切り取った細い木の枝を集めて束状にしたものである。軍事上の用途としては、塹壕ざんごうを埋めたり、野戦築城の構築などに用いられる。
  • ①項 Caesar receptui suorum timens
    • カエサルは、配下の者たちの退却が気がかりになって、
  • crates ad extremum tumulum contra hostem proferri et adversas locari,
    • 粗朶そだを、丘の外縁の辺りに、敵方に面して運び進めて(敵方に)向かい合うように配置すること(を命じ)、
      (訳注:crātis 「枝編み細工 (en:wickerwork)」または「粗朶 (en:fascine)」)
  • intra has mediocri latitudine fossam tectis militibus obduci iussit
    • これら(の粗朶)の内側で防御された兵士たちによって、標準的な幅の堀を掘り進めることを命じて、
  • locumque in omnis partes quam maxime impediri.
    • すべての方面で、陣地ロクスができるかぎり(敵から)通せんぼされるように(命じた)。


  • ②項 Ipse idoneis locis funditores instruxit,
    • (カエサル)自身は、適当な箇所に投石兵たちを整列させて、
  • ut praesidio nostris se recipientibus essent.
    • 戻ってくる我が方(の将兵たち)にとって援護プラエシディウムとなるようにした
  • His rebus completis legionem reduci iussit.
    • これらの事が成し遂げられると、(第9)軍団が撤退させられることを命じた。
      (訳注:「絶対奪格の例文」を参照。)


   ポンペイウス勢が、障害物を突破してカエサル勢に迫る

  • ③項 Pompeiani hoc insolentius atque audacius
    • ポンペイウス勢は、このことにより、よりふてぶてしくより恐れを知らずに
      (訳注1:insolenter 副詞「傲慢に、横柄に」 > 比較級 insolentius 「より傲慢に、より横柄に」)
      (訳注2:audāciter 副詞「大胆に、勇敢に」あるいは「無謀に」 > 比較級 audācius 「より大胆に、より勇敢に」あるいは「より無謀に」。
      別形 audacter > 比較級 audactius
  • nostros premere et instare coeperunt,
    • 我が方を猛追して、差し迫りだした。
  • cratesque pro munitione obiectas propulerunt,
    • そして、防御のために(敵方の)前に置かれた粗朶そだ前方へ押しやって
      (訳注1:ōbicere 「(障害物として)前に置く」 > 完了受動分詞 ōbiectus > 女性・複数・対格 ōbiectās)
      (訳注2:prōpellere 「前へ押しやる」 > 3人称・複数・完了・能動・直説法 prōpulērunt
  • ut fossas transcenderent.
    • 堀を渡ろうとした。
      (訳注:粗朶そだ は、もともと塹壕ざんごうや堀を埋めて渡るためにも使われるものであるから、そうしたのかも知れない。)


   カエサルが、アントニウスを通じて、第9軍団を反撃に奮い立たせる

  • ④項 Quod cum animadvertisset Caesar,
    • カエサルは、そのことに(すでに)気が付いていたので
  • veritus, ne non reducti, sed deiecti viderentur maiusque detrimentum caperetur,
    • (カエサル勢が)撤退しているのではなく(陣地から)駆逐されていると思われるのではないか、そしてより大きな敗北を喫するのではないか、と恐れて
      (訳注:verēri ~[接続法] 「~ではないか、と恐れる」)
  • a medio fere spatio suos per Antonium, qui ei legioni praeerat, cohortatus
古代ローマ時代のラッパ(Roman tuba
  • tuba signum dari atque in hostes impetum fieri iussit.
    • ラッパで号令シグヌムを出して、敵方に突撃を敢行することを命じた。


   カエサルの第9軍団が、突進して、ポンペイウス勢を撃退する

  • ⑤項 Milites legionis VIIII(nonae) subito conspirati pila coniecerunt
    • 第9軍団の兵士たちは、たちまち気脈を通じ合って投げ槍ピルムを投げつけて、
      (訳注:cōnspīrāre 「共鳴する」「一致、調和する」あるいは「共謀する」
         > 完了受動分詞 cōnspīrātus > 男性・複数・主格 cōnspīrātī
  • et ex inferiore loco adversus clivum incitati cursu
    • より低い地点から、上り坂クリウスに向かって、駆け足で急いで、
  • praecipites Pompeianos egerunt
    • ポンペイウス勢をあたふたさせて、
      (訳注:praeceps 形容詞「あわてふためいて en:headlong」 > 男性・複数・対格 praecipitēs
  • et terga vertere coegerunt;
    • 敗走することを強いた。
      (訳注:terga vertere 「(敵に)背中を向ける(こと)」=「敗走する(こと)」)
  • quibus ad recipiendum
    • そやつら(ポンペイウス勢)にとって、退却するためには、
  • crates directae
    • 散らばった粗朶そだ
      (訳注:下線部は、写本では dērectae 「まっすぐな、垂直な、水平な」あるいは dīrectae 「まっすぐな」または「散らばった scattered」などがあり、
      修正提案として dēiectae 「放り投げられた」、dēreptae 「引き裂かれた、もぎ取られた」、disiectae 「散らばった」などがある。)
  • longuriique obiecti
    • (障害物として)投げ出された 長い棒、
  • et institutae fossae
    • および、着工されていた堀が、
  • magno impedimento fuerunt.
    • (ポンペイウス勢の退却にとって)大きな妨げとなっていたのである。


  • ⑥項 Nostri vero, qui satis habebant sine detrimento discedere,
    • その一方で、我が方(カエサル勢)は、損失なしに撤収することで十分だと思っていたが、
  • compluribus interfectis,
    • (ポンペイウス勢のうち)かなりの者たちが殺戮さつりくされたのに、
  • V omnino suorum amissis
    • (カエサル勢は、たったの)計5名を亡くしただけで、
      (訳注:omnīnō 副詞「全部で、合計で」)
  • quietissime se receperunt
    • 心安らかに帰陣した。
      (訳注1:quiētē 副詞「静かに、穏やかに」 > 最上級 quiētissimē 「実に穏やかに」)
      (訳注2:se は一部の写本にあるが、多くの写本にはない。)


   カエサル勢が堡塁工事を完了する

  • pauloque citra eum locum aliis comprehensis collibus
    • その場所の少しこちら側にて、別のいくつかの丘陵を占領して、
      (訳注:citrā ~ 「~のこちら側に」)
  • munitiones perfecerunt.
    • 塁壁ムニティオを完成させた。

47節

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ポンペイウス勢の糧秣・物資の豊富さ。カエサル勢が、彼我の兵力差と糧秣不足に苦悩する


   未知なる、並外れた大攻囲戦

  • ①項 Erat nova et inusitata belli ratio
    • (このデュッラキウムの戦いにおける)戦争の方法は、新奇で、途轍とてつもないものであった。
      (訳注1:novus, -a, -um 「新しい」「未知の、未経験の」「普通でない」。古代ローマでは、あまり良い意味を持たない。)
      (訳注2:ūsitātus, -a, -um 「慣例の、平常通りの」←→ inūsitātus, -a, -um 「特異な、通常でない、尋常でない」)
  • cum tot castellorum numero
    • これほどおびただしい数の山砦カステッルムにおいて、
  • tantoque spatio
    • これほど計り知れなく広い領域において、
  • et tantis munitionibus
    • これほど果てしなく長い塁壁ムニティオにおいて、
  • et toto obsidionis genere,
    • 封鎖オブシディウム水も漏らさぬやり方において
      (訳注:tōtus genus 「全体的(包括的)な方式」あるいは「完全無欠なやり方」 > 単数・奪格 tōtō genere 「~の点において」)
  • tum etiam reliquis rebus.
    • そればかりではなく、そのほかの物事においてさえもまた(途方もないものであった)。
      (訳注:下線部 cum ~, tum ・・・ 「~ばかりではなく、・・・もまた」)


   攻囲戦と兵糧攻めの原則とは

  • ②項 Nam quicumque alterum obsidere conati sunt,
    • 現に、(対戦相手の)もう一方を包囲することを企てた者は誰であれ
  • perculsos atque infirmos hostes adorti
    • 打ち破られ浮き足立った敵方を攻撃して、
      (訳注1:percellere 「打ち倒す、ひるませる」 > 完了受動分詞 perculsus
      (訳注2:infirmus 「弱い、無力な」「臆病な」)
  • aut proelio superatos aut aliqua offensione permotos continuerunt,
    • 武力衝突プロエリウムで打ち負かされた者たちを、あるいは、何らかの攻撃にたじたじとなった者たちを、閉じ込めたものだ。
      (訳注:aliqua offensiō 「何らかの攻撃」あるいは「何らかの災難」 > 奪格 aliquā offensiōne
  • cum ipsi numero equitum militumque praestarent;
    • (攻囲する者たち)自身は、騎兵たちと歩兵たちの数において、凌駕りょうがしていた場合に、だ。
      (訳注:『孫子』(謀攻篇)では、兵力が敵の10倍ある場合に敵を包囲して降伏させよ、兵力が敵より少ない場合には伏兵を残して逃げよ、と述べている。)
  • causa autem obsidionis haec fere esse consuevit, ut frumento hostes prohiberent.
    • そのうえ、封鎖オブシディウム目的カウサは、おおむね、敵方の糧道を断つのが常であったのだ
      (訳注1:下線部は、hic (haec, hoc) esse cōnsuēscere, ut ~ 「~のが常である」)
      (訳注2:frūmentō hostēs prohibēre 「穀物(の補給)において、敵方を妨害する」=「敵方の糧道を断つ」)


   カエサル、寡兵よく大軍を囲む?!

  • ③項 At tum integras atque incolumes copias Caesar inferiore militum numero continebat,
    • それに対して、そのときカエサルは、新手で無傷の軍勢を、より少数の兵士たちにより、閉じ込めていた。
  • cum illi omnium rerum copia abundarent;
    • そればかりか、あやつら(ポンペイウス勢)は、あらゆる物資の供給コピアで豊かだったのだ。
  • cotidie enim magnus undique navium numerus conveniebat, quae commeatum subportarent,
    • なぜなら、毎日、四方八方から多数の船団が、生活物資を輸送するべく、集まって来ており、
  • neque ullus flare ventus poterat, quin aliqua ex parte secundum cursum haberent.
    • どのような風が吹くことがあり得ても、何らかの方角から好都合な進路を取ることができたのだ。
      (訳注:直訳すると「何らかの方角から好都合な進路を取り得ないような、どのような風も吹くことができなかった。」
      neque ullus ○○ ~, quīn ・・・[接続法] 「・・・でない、いかなる○○も~ない」)


   穀物を残らず食べ荒らしたカエサル勢が、空きっ腹に苦しむ

  • ④項 Ipse autem consumptis omnibus longe lateque frumentis
    • これに反しアウテム、(カエサル)自身は、広範囲に隅々までのすべての穀物を消費し切ってしまい、
      (訳注:longē lātēque 「遠く広く、あまねく」)
  • summis erat in angustiis.
    • (食糧)欠乏の極みに陥っていた。


  • ⑤項 Sed tamen haec singulari patientia milites ferebant.
    • しかし、それでも、これらのことに、兵士たちは類いまれなる辛抱強しんぼうづよさをもって、こらえていた。
      (訳注1:sed tamen 「しかし、それでも」)
      (訳注2:singulāris patientia 「類いまれなる辛抱強さ」 > 奪格 singulārī patientiā)
  • Recordabantur enim eadem
    • すなわち、(カエサル配下の兵士たちは)同じことを思い浮かべていたのだ。
      (訳注:recordārī デポネンティア動詞「思い出す」 > 3人称・複数・未完了過去能動・直説法 recordābantur
  • se superiore anno in Hispania perpessos
    • 前年にヒスパニアにおいて、辛酸をなめ尽くした自分たちが、
      (訳注:perpetī 「(苦労を)味わう」 > 完了受動分詞 perpessus
  • labore et patientia maximum bellum confecisse;
    • 苦闘と辛抱強さをもって、古今未曾有の大戦争マクシムム・ベッルムをやり遂げたこと、を。
  • meminerant
    • (カエサル配下の兵士たちは、以下のことも)忘れずにいた。
      (訳注:meminī 「思い出す、覚えている」[現在形がなく完了の形で現在を、過去完了の形で未完了過去を表わす]
        > 過去完了の形で未完了過去・3人称複数 meminerant
  • ad Alesiam magnam se inopiam perpessos,
  • multo etiam maiorem ad Avaricum,
  • maximarum se gentium victores discessisse.
    • 自分たちは最大級の諸部族への勝利者となったことを(忘れずにいた)。
      (訳注1:maxima gēns 「最大の部族」 > 複数・属格 maximārum gentium 「最大級の諸部族の」)
      (訳注2:下線部の再帰代名詞は、写本にあるが、削除提案されている。)
      (訳注3:discēdere 「(戦争などで)~となる」 ⇒ victōrēs discessisse 「勝利者となったこと」)


  • ⑥項 Non illis hordeum cum daretur,
    • あの者ら(カエサル配下の兵士たち)に、大麦ホルデウム与えられたとしても
      (訳注1:下線部は、 cum ~[接続法] で譲歩を表わす。「~としても」。)
      (訳注2:ordeum はβ系写本にある記述だが、校訂者たちは hordeum としている。意味は、同じく「小麦」。)
  • non legumina recusabant;
  • pecus vero, cuius rei summa erat ex Epiro copia, magno in honore habebant.
    • さらに、家畜ペクスは、エピルスからの供給の総数が豊富であって、(兵士たちは)大いなる謝意を表わしていた。
      (訳注:pecus 「家畜」。ラテン語では、特にヒツジを指すことが多い。)



triticum小麦 hordeum大麦 legumen(豆類) pecus(家畜:ヒツジ)

小麦と小麦加工食品

大麦、燕麦などを含む食品

エンドウマメ

ヒツジの群れ
小麦は、グルテンという粘り気のあるタンパク質を含み、パンを膨らませてやわらかく作ることができるため、ローマ人の主食であり、欧米人にも重宝されてきた。
 だが、現代では、食欲を強め、血糖値を上昇させやすく、さまざまな生活習慣病を引き起こしやすいグルテンの性質から、ダイエットの敵とみなされてもいる。
大麦は、ホルデインという粘り気の少ないタンパク質を含むので、大麦単独でパンを作るのはむずかしい。
その反面、グルテンがなく、食物繊維を多く含むため、現代では「グルテンフリー」の観点から健康志向の人たちからは好まれる傾向にある。
エンドウ(エンドウマメ)jは、地中海沿岸などで今から7000年前ごろには栽培が始まったと考えられる非常に古い豆類。  ヒツジ(羊)は、食肉・乳および毛皮を供給する伝統的な家畜である。
イヌ(犬)・ヤギ(山羊)に次いで古い家畜とされ、今から8000年~9000年前には家畜化されたと推定されている。粗食に耐えながらも乳の出の良いヤギにはかなり遅れを取っていたが、ヤギよりも脂肪・タンパク質の豊富な供給源となりうることから、尊重されるようになったと考えられている。
ラテン語で pecus(家畜)という場合は、特にヒツジを指すことが多い。

48節

[編集]

カエサル勢が、カラという植物の根から作ったパンで飢えをしのぐ

  • ①項 Est etiam genus radicis inventum ab iis, qui fuerant ab alebribus,
    • さらに、栄養価の高いものから成っていたものから(植物の)根の一種が見い出された。
      (訳注:下線部は、写本では valeribus となっているが、意味が取れないのでさまざまな修正提案が出され、
      校訂者によって異なる案が採用されている。ここでは、クロッツのトイプナー版に従った。このほか、つぎのような修正提案がある。
      in vallibus 「谷間に(いた者たちによって)」、 in alaribus 「翼軍(支援軍)に(いた者たちによって)」)
  • quod appellatur chara,
    • それはカラと呼ばれており、
  • quod admixtum lacte multum inopiam levabat.
    • (ヒツジの)乳を混ぜ加えると、大いに(食糧)不足を軽減していた。
  • Id ad similitudinem panis efficiebant.
    • それでパンに似たものを作っていた。


  • ②項 Eius erat magna copia.
    • それは豊富にあった。
  • Ex hoc effectos panes,
    • これから作られたパンを、
  • cum in conloquiis Pompeiani famem nostris obiectarent,
    • 我が方の空腹ファメスに突っ込みを入れていたポンペイウス勢との会話のときに、
  • vulgo in eos iaciebant,
    • 大勢で一斉に、彼らに投げつけて、
  • ut spem eorum minuerent.
    • 彼らの希望をそこなうようにしていた。
      (訳注:この植物の根で作ったパンで飢えをしのぎ、敵に投げつけたというエピソードは、
      ギリシア語で書かれたプルタルコスの『対比列伝』[8]など多くの史料に記載されている。)

49節

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穀物が実ってカエサル勢が活気づき、逆に水脈を断たれたポンペイウス勢が渇水に苦しむ

  • ①項 Iamque frumenta maturescere incipiebant
    • すでに、穀物が成熟し始めていており、
  • atque ipsa spes inopiam sustentabat,
    • (カエサル勢の)まさにその希望が、(食糧)不足に持ちこたえていた。
  • quod celeriter se habituros copiam confidebant;
    • というのも、自分たちは速やかに大量(の穀物)を持つであろう、と確信していたからだ。
  • crebraeque voces militum in vigiliis conloquiisque audiebantur
    • 寝ずの番をしながら会話している兵士たちの声がたびたび聞かれたものだ。
  • prius se cortice ex arboribus victuros, quam Pompeium e manibus dimissuros.
    • ポンペイウス(という大魚)を手中から逸するくらいなら、むしろ木の樹皮(を食べること)で生き永らえるであろう、と。
      (訳注:prius ~, quam ・・・ 「・・・より、むしろ~」)


   ポンペイウス勢が、不健康・死臭・苦役・水不足に弱り切る

  • ②項 Libenter etiam ex perfugis cognoscebant
    • さらには、(ポンペイウス勢からの)脱走兵ペルフガたちから(以下のことを)知って喜んでいたものだ。
  • equos eorum tolerari,
    • 彼らの馬匹は(餌を与えられて)養われているが、
  • reliqua vero iumenta interisse;
    • 他方で、そのほかの駄獣は見殺しにされてしまった、と。
  • uti autem ipsos valetudine non bona
    • 彼ら自身もまた体調を崩して、
  • cum angustiis loci
    • 一方では、土地の狭さにより、
  • et odore taetro ex multitudine cadaverum
    • 多数の死体からの不快な悪臭により、
  • et cotidianis laboribus, insuetos operum,
    • および毎日の労苦により、堡塁工事オプスに慣れず、
  • tum aquae summa inopia adfectos.
    • 他方では、水のこの上ない欠乏に消耗している、と。
      (訳注:adficere 「苦しめる、消耗させる」 > 完了受動分詞 adfectus 「苦しめられた、消耗させられた」)


   カエサル勢が、水の流れをせき止める

  • ③項 Omnia enim flumina atque omnes rivos, qui ad mare pertinebant,
    • なぜなら、海まで及ぶすべての川、すべての流れを、
  • Caesar aut averterat aut magnis operibus obstruxerat,
    • カエサルが、(別の方面へ)そらしてしまったか、あるいは、大工事で遮断してしまっていたからだ。
  • atque ut erant loca montuosa et aspera,
    • 山がちで荒れ果てた土地であったゆえに、
  • angustias vallium, has sublicis in terram demissis praesaepserat
    • 峡谷の狭いところに、棒杭スブリカを地中に突き立てることによって、(柵を)巡らせておいたうえで、
  • terramque adgesserat, ut aquam contineret.


  • ④項 Ita illi necessario loca sequi demissa ac palustria
    • このようにして、あやつら(ポンペイウス勢)は、やむなく、低地や沼沢地を求めて、
  • et puteos fodere cogebantur
    • 井戸プテウスを掘ることを強いられていて、
  • atque hunc laborem ad cotidiana opera addebant;
    • この骨折りが、毎日の工事に付け加わっていた。
  • qui tamen fontes a quibusdam praesidiis aberant longius
    • にもかかわらず、それらの水源フォンスは、いくつもの陣地プラエシディウムからより遠くに離れていたし、
  • et celeriter aestibus exarescebant.
    • 暑さによって、たちまち干上がっていた。


   カエサル勢の健康が回復して、楽観的になる

  • ⑤項 At Caesaris exercitus <cum> optima valetudine
    • それに対して、カエサルの軍隊は、すこぶる壮健で、
  • summaque aquae copia utebatur,
    • この上ない豊富な水を使っていたし、
  • tum commeatus omni genere praeter frumentum abundabat;
    • のみならず、穀物のほかにも、あらゆる類いの生活物資が豊富であった。
  • quibus <rebus> cotidie melius succurrere tempus
    • そのような情勢のもと、日々、時節がより良く向かいつつあり、
      (訳注:下線部は、修正提案の一つで、校訂者によって判断が分かれている。)
  • maioremque spem maturitate frumentorum proponi videbant.
    • 穀物の成熟により、より大いなる希望が示されていると(兵士たちは)思っていたのだ。

50節

[編集]

両軍とも夜襲の新たな戦術を試みる〔写本が欠落〕

  • ①項 In novo genere belli novae ab utrisque bellandi rationes reperiebantur.
    • 新奇な類いの未曾有の戦争において、戦争する方法が、両者によって工夫されていた。
  • Illi cum animum advertissent ex ignibus nocte cohortes nostras ad munitiones excubare,
    • あやつら(ポンペイウス勢)は、(たいまつなどの)火から、夜間に我が方(カエサル勢)歩兵隊コホルス塁壁ムニティオのたもとで警戒していることに気づいたので、
  • silentio adgressi
    • 音もなく襲って来て、
  • universas inter multitudinem sagittas coiciebant
    • 大勢の間に万遍まんべんなく矢をあびせると、
      (訳注:cōicerecōnicere を縮めた別形。)
  • et se confestim ad suos recipiebant.
    • 直ちに、味方のもとへ引き上げていた。


  • ②項 Quibus rebus nostri usu docti haec reperiebant remedia,
    • それらの事態に対して、我が方は経験ウススに教えられて、以下の予防策レメディウムを工夫していた。
  • ut alio loco ignes facerent, <alio excubarent> . . .
    • ある場所で火をおこして、<別の場所で警戒していたのだ。> ・・・・・・
      (訳注1:「声東撃西せいとうげきせい」と呼ばれる陽動戦術の類いであろう。)
      (訳注2:< > <>内は写本になく、挿入提案されたもの。
      以下、写本の相当な部分が欠落していると見られ、次節では別な話題にとんでいる。)

51節

[編集]

カエサルの陣営指揮官プブリウス・スッラが駆け付けて、ポンペイウス勢を撃退するが、深追いを避ける

  • ①項 Interim certior factus
    • そうこうするうちに、(ポンペイウス勢の来襲について)報知されると、
  • P. Sulla, quem discedens catris praefecerat Caesar,
    • カエサルが(陣営を)離れるに当たって陣営の指揮官にしておいたプブリウス・スッラが、
      (訳注:プブリウス・コルネリウス・スッラ Publius Cornelius Sulla は、有名な独裁官スッラの甥に当たる。)
  • auxillo cohorti venit cum legionibus duabus;
    • 2個軍団レギオとともに歩兵隊コホルスの支援にやって来た。
  • cuius adventu facile sunt repulsi Pompeiani.
    • 彼らの到着により、ポンペイウス勢はたやすく撃退された。


  • ②項 Neque vero conspectum aut impetum nostrorum tulerunt,
    • 実際、(ポンペイウス勢は)我が方の眼前にとどまらず、あるいは我が方の突撃に持ちこたえずに、
  • primisque deiectis
    • 前衛が駆逐されると、
  • reliqui se verterunt et loco cesserunt.
    • 残りの者たちは、反転して、戦場から離れた。


   スッラは、深追いすべきだったか?

  • ③項 Sed insequentis nostros, ne longius prosequerentur, Sulla revocavit.
    • けれども、スッラは、あまり遠くへ追撃することがないように、追いかける我が方を呼び戻した。
  • At plerique existimant,
    • ところが、大半の者は(以下のように)思う。
  • si acrius insequi voluisset,
    • もし、(スッラが)より精力的に追撃することを望んでいたならば、
      (訳注:ācriter 副詞「激しく」「精力的に」 > 比較級 ācrius 「より激しく」「より精力的に」)
  • bellum eo die potuisse finire.
    • 戦争をその日のうちに終えられたのではないか、と。
  • Cuius consilium reprehendendum non videtur.
    • 彼(スッラ)の判断は、責められるべきではない、と思われる。
      (訳注:reprehendere 「責める」 > 動形容詞(未来受動分詞) reprehendendus 「責められるべき」)


   副官の判断が将軍と異なるのは当然だ

  • ④項 Aliae enim sunt legati partes atque imperatoris;
    • なぜなら、副官レガトゥス将軍インペラトル役割パルスは異なるからである。
  • alter omnia agere ad praescriptum,
    • 一方(副官)は、指図されたことプラエスクリプトゥムのためにすべてを実行する(べきだ)し、
  • alter libere ad summam rerum consulere debet.
    • もう一方(将軍)は、軍事行動の全般スンマ・レルムのために、(作戦一つ一つに)拘束されずにリベレ、対処するべきである。


  • ⑤項 Sulla a Caesare castris relictus
    • スッラは、カエサルによって陣営に残留されられたので、
  • liberatis suis hoc fuit contentus
    • 味方を解放したこのことで満足して、
  • neque proelio decertare voluit,
    • 戦闘で決着を付けることを望まなかったのだ。
  • quae res tamen fortasse aliquem reciperet casum,
    • それでも、ひょっとして、それらの軍事行動がが何らかの危機カススを受けていたかも知れず、
  • ne imperatorias sibi partes sumpsisse videretur.
    • 自分に対して、将軍インペラトルの役割を引き受けたと思われないようにしていたのだ。


   日が傾き、ポンペイウス勢が進退きわまる

  • ⑥項 Pompeianis magnam res ad receptum difficultatem adferebat.
    • ポンペイウス勢にとって、戦況レスは、退却のためには大きな困難を生じていた。
  • Nam ex iniquo progressioco in summo constiterant;
    • なぜなら、(ポンペイウス勢は)平らでない場所から進み出て、山頂にとどまっていたからだ。
  • si per declive sese reciperent, nostros ex superiore insequentes loco verebantur;
    • 下り斜面を通って撤退していたならば、我が方(カエサル勢)がより高い所から追撃して来るのではないか、と怖れていたのである。
  • neque multum ad solis occasum temporis supererat;
    • 日没までに、時間があまり残っていなかった。
  • spe enim conficiendi negotii prope in noctem rem duxerant.
    • なぜなら、務めを果たすことを望んで、ほぼ夜まで戦いレスを長引かせていたからだ。


   ポンペイウス勢が、急場しのぎで小山に陣を張る

  • ⑦項 Ita necessario atque ex tempore capto consilio
    • こうして、やむを得ず、一時しのぎに作戦を立てて、
      (訳注:ex tempore 「一時しのぎに」)
  • Pompeius tumulum quendam occupavit,
  • qui tantum aberat a nostro castello, ut telum tormento missum adigi non posset.
    • それは、我が方の山砦カステッルムから離れていたので投石機トルメントゥムから発射された飛び道具も投げつけられないほどだった。
  • Hoc consedit loco
    • (ポンペイウス勢は)この地に野営して、
  • atque eum communivit
    • それを(堡塁で)固めて、
  • omnesque ibi copias continuit.
    • そこに、すべての軍勢を取り込んだ。

52節

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ポンペイウス勢が、カエサル勢の兵力分散を意図して、同時多発的に攻撃をしかける

  • ①項 Eodem tempore duobus praeterea locis pugnatum est;
    • (上述の戦いと)同じ時期に、さらに二つの地点で戦われた。
  • nam plura castella Pompeius pariter distinendae manus causa temptaverat,
    • なぜなら、ポンペイウスは、(カエサル勢の)手勢マヌスを分散させる目的で、同時にパリテルより多くの山砦カステッルムを襲撃していて、
      (訳注1:distinēre 「分散させる」 > 動形容詞(未来受動分詞) distinendus [動名詞の代用])
      (訳注2:temptāre 「襲う、攻撃する」 > 3人称単数・過去完了 temptāverat
  • ne ex proximis praesidiis succurri posset.
    • 最寄りの陣地プラエシディウムから、救援に駆け付けることができないようにした。
      (訳注:succurrere 「救う、救援に駆け付ける」 > 受動・不定法 succurrī)


  • ②項 Uno loco Volcacius Tullus impetum legionis sustinuit cohortibus tribus
    • 1か所では、(カエサル配下の)ウォルカキウス・トゥッルスが、(ポンペイウスの1個)軍団の突撃インペトゥスを、3個歩兵大隊コホルスで踏ん張って、
  • atque eam loco depulit;
    • その場から、駆逐した。
      (訳注:dēpellere 「追い払う、駆逐する」 > 3人称単数・完了 dēpulit
  • altero Germani munitiones nostras egressi
    • もう1か所では、(カエサルの騎兵隊の)ゲルマニア人たちが我が方の塁壁ムニティオを進発して、
      (訳注1:ūnō locō ~, alterō (locō) ・・・ 「1か所では~、もう1か所では・・・」)
      (訳注2:ēgredī 「進発する」 > 完了受動分詞 ēgressus
  • compluribus interfectis
    • (ポンペイウス勢の)かなりの者たちが殺戮さつりくされて、
  • sese ad suos incolumes receperunt.
    • (ゲルマニア人たちは)無傷で味方のもとへ引き上げた。

53節

[編集]

カエサル勢が有利な戦果を上げ、カエサルが戦功のある者にほうびを与える

  • ①項 Ita uno die sex proeliis factis,
    • このように、一日に6度の野外の遭遇戦プロエリウムが行なわれて、
  • tribus ad Dyrrachium,
  • tribus ad munitiones,
    • 3度は塁壁ムニティオの辺りであったが、
  • cum horum omnium ratio haberetur,
    • これら全部の(戦績の)勘定ラティオがなされると、
  • ad duo milia numero ex Pompeianis cecidisse reperiebamus,
    • ポンペイウス勢のうち、2,000名の兵数がたおれたことを、我らは見出していた。
      (訳注1:cadere 「倒れる、死ぬ」 > 完了・不定法 cecidisse
      (訳注2:reperīre 「見出す」 > 1人称複数・未完了過去 reperiēbāmus
  • evocatos centurionesque complures;
    • 再召集された兵エウォカトゥスたちや百人隊長ケントゥリオたちも多く、
  • in eo fuit numero Valerius Flaccus, L.(Lucii) filius eius, qui praetor Asiam obtinuerat;
    • その人数の中には、ウァレリウス・フラックス ──前法務官プラエトルとして(属州)アシアを支配していたルキウスの息子── もいた。
      (訳注1:praetor は普通は「法務官プラエトル」を指すが、ここでは prōpraetor前法務官プロプラエトル」=「属州総督」に同義であるとと思われる。)
      (訳注2:ルキウス・ウァレリウス・フラックス Lucius Valerius Flaccus は、
           BC63年に法務官プラエトルを務め、アシア総督に就いた後、BC54年に没している。
           キケロの『フラックス弁護』 Pro L. Valerio Flacco において弁護された人物として知られている。
           ここで述べられているのは、ルキウスの無名の息子プブリウス・ウァレリウス・フラックスである。)
  • signaque sunt militaria sex relata.
    • かつ、(カエサル勢により)6本の(ポンペイウス勢の)軍旗が持ち帰られた。


  • ②項 Nostri non amplius XX omnibus sunt proeliis desiderati.
    • 我が方(カエサル勢)は、すべての遭遇戦において20名より多く(の兵員)を喪失してはいなかった。


  • ③項 Sed in castello nemo fuit omnīnō militum, quin vulneraretur,
    • けれども、山砦カステッルムにおいて、負傷させられていなかった者は、兵士たちのうち まったくいなかったし、
      (訳注:nēmō est, quīn ・・・[接続法] 「・・・でない、いかなる者もいない」
           nēmō fuit, quīn ・・・[接続法] 「・・・でない、いかなる者もいなかった」)
  • quattuorque ex una cohorte centuriones oculos amiserunt.
    • ある1個歩兵大隊コホルスのうち、4名の百人隊長ケントゥリオ視力オクリを失っていた。
      (訳注:oculus 「目」 > 複数形 oculī 「視力」 > 対格 oculōs


  • ④項 Et cum laboris sui periculique testimonium adferre vellent,
    • (カエサルの将兵たちは)自らの労苦と危険の証明となるものテスティモニウムを提出することを望んでいたので
  • milia sagittarum circiter XXX in castellum coniecta Caesari renumeraverunt,
    • 約30,000本もの矢が山砦カステッルムに投じられたと、カエサルに報告していた。
  • scutoque ad eum relato Scaevae centurionis
    • (カエサル)のもとに、百人隊長ケントゥリオスカエウァの長盾スクトゥムが持ち込まれると、
  • inventa sunt in eo foramina CXX.
    • それには、120か所もの穴が見出された。


  • ⑤項 Quem Caesar, ut erat de se meritus et de re publica,
    • その者(スカエウァ)に、カエサルは、自分(カエサル)に対して および国家に対して功績があったということで、
  • donatum milibus CC <nummum>
    • 20万の<金銭を>与えて、
      (訳注:<nummum> <金銭を> は修正提案の一つで、挿入提案されたもの。)
  • ab octavis ordinibus ad primmum pilum se traducere pronuntiavit
    • (百人隊長の序列において)第8の階級から、首席百人隊長の地位へつけることを公表した。
      (訳注:trādūcere 「(別の地位に)つける」)
  • ── eius enim ope castellum magna ex parte conservatum esse constabat ──
    • ── なぜなら、山砦カステッルムが護持されたことは、大部分は彼(スカエウァ)の尽力によることが明確であったからだ。 ──
  • cohortemque postea duplici stipendio,
    • 続いてポステア、(スカエウァの)歩兵大隊コホルスを、俸給スティペンディウムを2倍にして、
  • frumento, veste, cibariis militaribusque donis amplissime donavit
    • 穀物、衣服ウェスティス糧食キバリア、および軍の褒章ドヌムを与えた。

54節

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ポンペイウスが、ぺトラの陣営の周りに塁壁を増築して防御を固める

  • ①項 Pompeius noctu magnis additis munitionibus
    • ポンペイウスは、夜間に、塁壁ムニティオを大幅に付け加えて、
  • reliquis diebus turres extruxit
    • 残りの日中に、やぐらを建造して、
  • et in altitudinem pedum XV effectis
    • (塁壁の)高さを15ペース(=約4.5m)となるようにして、
  • operibus vineis eam partem castrorum obtexit,
    • 陣営カストラのその方面を工作小屋ウィネア構造物オプスで保護した。


  • ②項 et quinque intermissis diebus
  • alteram noctem subnubilam nactus
    • もういちど、曇った薄暗い夜に出くわして、
      (訳注:subnūbilus 「曇った」「薄暗い」)
  • obstructis omnibus castrorum portis
    • 陣営カストラのすべての門を遮断して、
  • et ad impediendum ob<icibus ad>iectis
    • (敵勢に対する)妨害のために障害物オベクスを付け加えて、
      (訳注:下線部は、写本では obiectis だが、ob<icibus ad>iectis とする挿入提案などがある。)
  • tertia inita vigilia silentio exercitum eduxit
    • 第三夜警時のはじめ頃に、音もなく軍隊を進発させて、
      (訳注:第三夜警時は、真夜中から日の出までの間の前半の時間帯を指す。『古代ローマの不定時法』を参照。)
  • et se in antiquas munitiones recepit.
    • 以前からの塁壁ムニティオの中に退却した。

55節

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カエサルが戦列を並べてポンペイウスを決戦に誘うが、ポンペイウスは決戦を避ける

(訳注:本節は、写本では次節(56節)の後に記載されているが、校訂者たちは内容から判断して55節としている。)

  • ①項 Omnibus deinceps diebus
    • 以後、来る日も来る日も
  • Caesar exercitum in aciem aequum in locum produxit, si Pompeius proelio decertare vellet,
    • カエサルは、ポンペイウス野外の遭遇戦プロエリウムで決着を付けることを望んでいはしないかと、軍隊を戦列アキエス(に並べた態勢)で、平らな土地に押し出させて、
  • ut paene castris Pompei legiones subiceret;
    • (カエサルの)諸軍団を、ポンペイウスの陣営のほとんどすぐそばに置いたほどだった
  • tantumque a vallo eius prima acies aberat, uti ne telum tormento adigi posset.
    • (カエサルの)第一戦列プリマ・アキエスは、彼(ポンペイウス)防柵ウァッルムからはかなり離れていたので投石機トルメントゥムで飛び道具が投げつけられ得ないようなほどであった
      (訳注1:ポンペイウスの陣営のすぐ近くには行ったが、投石機の飛び道具が届かないように布陣していた。)
      (訳注2:第一戦列プリマ・アキエス prima aciēs は、ローマ軍の三重の戦列トリプレクス・アキエスの前衛で、比較的若い兵士たちからなる。)


  • ②項 Pompeius autem,
    • これに反して、ポンペイウスは、
  • ut famam opinionemque hominum teneret,
    • 人々の名声ファマ評判オピニオを保つように、
  • sic pro castris exercitum constituebat,
    • 陣営の前に、軍隊を配置していて、
      (訳注:sīc ~, ut ・・・[接続法] 「・・・ように~」「~ので、・・・ほどだ」)
  • ut tertia acies vallum contingeret,
    • 第三戦列テルティア・アキエス防柵ウァッルムに接触するようにして、
      (訳注:第三戦列テルティア・アキエス tertia aciēs は、ローマ軍の三重の戦列トリプレクス・アキエスの後衛で、おもに古参兵たちからなる。)
  • omnis quidem instructus exercitus telis ex vallo abiectis protegi posset.
    • 整列された全軍隊が、防柵ウァッルムのうちから投射される飛び道具によって防護され得るようにした。

カエサルのギリシア各地への工作

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56節

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カエサルが、フフィウス・カレヌスらを派遣して、ギリシア中部の諸都市を帰順させる

  • ①項 Aetolia, Acarnania, Amphilochis per Cassium Longinum et Calvisium Sabinum, ut demonstravimus, receptis
    • 前述したように、カッシウス・ロンギヌスとカルウィシウス・サビヌスを通じて、アエトリア・アカルナニア・アンピロキ族を帰順させると、
      (訳注:34節36節で述べられたように、
      ルキウス・カッシウス・ロンギヌス Lucius Cassius Longinus は、1個軍団と騎兵200騎とともにテッサリアへ派遣され、
      ガイウス・カルウィシウス・サビヌス Gaius Calvisius Sabinus は、5個歩兵大隊とわずかな騎兵とともにアエトリアへ派遣された。
      テッサリアのカッシウスは、スキピオの来襲を怖れてギリシア西部に移動していた。)
  • temptandam sibi Achaiam
    • (カエサル)自らにとって、アカイアは(帰順を)働きかけられるべきで、
      (訳注1:temptāre 動詞「働きかける、攻撃する」 > 動形容詞(未来受動分詞) temptandus 「働きかけられるべき」)
      (訳注2:アカイア Achaia は、ここではペロポネソス半島の北岸地方のこと。)
  • ac paulo longius progrediendum existimabat Caesar.
    • いくらか より遠くに進出するべきだ、とカエサルは判断していた。


  • ②項 Itaque eo Q. <Fufium> Calenum misit
    • そういうわけで、そこに、クィントゥス<・フフィウス>・カレヌスを遣わして、
      (訳注:<Fufium> <・フフィウス> は写本になく、挿入提案されているもの。)
  • eique Sabinum et Cassium cum cohortibus adiungit.
    • 彼に、サビヌスとカッシウスを諸歩兵大隊コホルスとともに付き添わせる。


   ポンペイウスの副官ルティリウス・ルプスが、カエサル勢のアカイア進出を阻止するために、コリントス地峡の防備を固める

  • ③項 Quorum cognito adventu
    • 彼らの到来を知ると、
  • Rutilius Lupus, qui Achaiam missus a Pompeio obtinebat,
    • ポンペイウスによって派遣されてアカエアを支配していた、ルティリウス・ルプスは、
      (訳注:プブリウス・ルティリウス・ルプス Publius Rutilius Lupus は、BC56年に護民官、BC49年に法務官。
      このBC48年に法務官格副官としてアカイアを支配した。)
  • Isthmum praemunire instituit, ut Achaia Fufium prohiberet.
    • フフィウス(・カレヌス)をアカエアから遠ざけるように、イストゥムスコリントス地峡をあらかじめ防備を固めることに着手する。
      (訳注:isthmus は「地峡」を表わす普通名詞だが、固有名詞としてはコリントス地峡を指す。)


   フフィウス・カレヌスが、ギリシア中部のボエオティア地方の諸都市の制圧に専念する

ギリシア中部のボエオティア地方の地図(英語)。
左端にデルピ(Delphi)、右方にテバエ(Thebes)、中央上部にオルコメヌス(Orchomenus)が見て取れる。
図の下端がコリントス地峡で、左下がアカイア地方。
  • nonnullas urbes per vim expugnavit,
    • 少なからぬ町々を、武力にものをいわせて屈服させた。
  • reliquas civitates circummissis legationibus
    • 残りの諸都市を、使節団をくまなく派遣して、
      (訳注:circummittere 「あちらこちらへ送る」 > 完了受動分詞 circummissus
  • amicitiae Caesaris conciliare studebat.
    • カエサルとの友好に引き入れることに努めていた。
      (訳注:conciliāre 「味方に引き入れる」)
  • In his rebus fere erat Fufius occupatus.
    • フフィウス(・カレヌス)は、これらの事柄にほぼ従事していた。

57節

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カエサルが、スキピオを味方にするべく、クロディウスを遣わす

  • ①項 Haec cum in Achaia atque apud Dyrrachium gererentur
  • Scipionemque in Macedoniam venisse constaret,
  • non oblitus pristini instituti
    • 以前からの作戦目的を忘れずに、
      (訳注:oblīvīscī デポネンティア動詞 「忘れる」 > 完了受動分詞 oblitus
  • Caesar mittit ad eum <A.> Clodium, suum atque illius familiarem,
    • カエサルは、自らおよびあの者(スキピオ)と親密な<アウルス・>クロディウスを彼(スキピオ)のもとへ遣わす。
      (訳注:<A.> <アウルス> は写本にはなく、挿入提案されたもの。)
  • quem ab illo traditum initio et commendatum
    • その者(クロディウス)は、当初はあの者(スキピオ)から紹介されて、(カエサルに)任せられて、
      (訳注1:trādere 「ゆだねる、紹介する、推薦する」 > 完了受動分詞 traditus
      (訳注2:commendāre 「ゆだねる、任せる、推薦する」)
  • in suorum necessariorum numero habere instituerat.
    • (カエサルが)自らの側近の類いと見なすことに決めていたのである。
      (訳注:numerus ~[属格] 「~の類い」 > 奪格 numerō
           habēre ・・・[対格] numerō ~[属格] 「・・・を~の類いと見なす」)


  • ②項 Huic dat litteras mandataque ad eum,
    • この者(クロディウス)に、彼(スキピオ)への書状と言伝ことづてを授ける。
  • quorum haec erat summa:
    • それらの要旨スンマは以下の通りであった。
  • sese omnia de pace expertum nihil adhuc <effecisse;
    • 自分(カエサル)は、和平パクスについてあらゆることをやってみたが、これまでに何ら<成し遂げなかった;>
      (訳注1:experīrī デポネンティア動詞 「試みる」 > 完了受動分詞 expertus
      (訳注2:<effecisse; id> は写本にはなく、挿入提案されたもの。)
  • id> arbitrari vitio factum eorum, quos esse auctores eius rei voluisset,
    • そのことは、その事柄の助言者アウクトルであることを(カエサルが)望んだ者たちの行動の手落ちウィティウムと(カエサルは)思っている。
  • quod sua mandata perferre non opportuno tempore ad Pompeium vererentur.
    • というのも、自分(カエサル)言伝ことづてを、ポンペイウスのもとへ持って行くには時宜を得ないと(助言者たちが)恐れたからだ。


  • ③項 Scipionem ea esse auctoritate,
    • スキピオは、それらのこと(=ポンペイウスとの和平)発言力アウクトリタスがあり、
  • ut non solum libere, quae probasset, exponere,
    • (スキピオ自身が)賛同していたことを遠慮なく述べ(られ)るだけでなく
  • sed etiam ex magna parte compellare atque errantem regere posset;
    • 大部分において、しかりつけることや、間違っている者を正すことさえもできる。
      (訳注:compellere 「非難する、しかる」)
  • praeesse autem suo nomine exercitui,
    • そのうえ、(スキピオ)自らの名前で軍隊を統率しているので、
  • ut praeter auctoritatem vires quoque ad coercendum haberet.
    • 発言力アウクトリタスに加えて、誰をも強制するための武力を保有している。


  • ④項 Quod si fecisset,
    • そのこと(=ポンペイウスとの和平)を、もし(スキピオが)果たしたならば、
  • quietem Italiae,
    • イタリアの平穏クイエス
  • pacem provinciarum,
    • 諸属州の和平パクス
  • salutem imperii
    • (ローマ人の)支配圏インペリウムの安全
  • uni omnes acceptam relaturos.
    • が受け入れられたのを、万人が(スキピオ)一人(の功績)に帰するであろう、と。


     クロディウスとスキピオの会談は不調に終わる

  • ⑤項 Haec ad eum mandata Clodius refert
    • これらの言伝ことづてを、クロディウスは彼(スキピオ)のもとへもたらし、
  • ac primis diebus, ut videbatur, libenter auditus,
    • 当初の日々は、(スキピオに)快く聞いてもらえたように思われたが、
  • reliquis ad conloquium non admittitur,
    • 残り(の日々)は、話し合いに関して(面会は)許されず、
  • castigato Scipione a Favonio, ut postea confecto bello reperiebamus,
    • ── 後に戦争が成し遂げられてから(我らが)見出したように、スキピオはファウォニウスによってしかられたのであるが ──
  • infectaque re sese ad Caesarem recepit.
    • (クロディウスは)事を果たせないままでカエサルのもとへ引き上げた。
      (訳注:「絶対奪格の例文」を参照。)

デュッラキウムの戦い(3)─アッロブロゲス族兄弟の離反

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58節

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(まぐさ) の欠乏に耐え切れなくなったポンペイウスが、打開策を練り始める

  • ①項 Caesar,
    • カエサルは、
  • quo facilius equitatum Pompeianum ad Dyrrachium contineret et pabulatione prohiberet,
    • (以下に述べることにより)よりたやすく、ポンペイウス勢をデュッラキウム近郊に押し込めて、糧秣調達パブラティオを阻めるように、
  • aditus duos, quos esse angustos demonstravimus, magnis operibus praemunivit
    • 前述した、狭苦しい二つの進出路を、大がかりな堡塁工事オプスによってあらかじめ防備を固めて、
      (訳注:前述した写本の箇所は、欠落していると考えられる。)
  • castellaque his locis posuit.
    • この場所に城砦カステッルムを設営した。


  • ②項 Pompeius,
  • ubi nihil profici equitatu cognovit,
    • (糧秣調達について)騎兵隊により何ら首尾良く行かないと知ると、
  • paucis intermissis diebus,
  • rursus eum navibus ad se intra munitiones recepit.
    • 再び、それ(騎兵隊)を船団により、塁壁ムニティオの内側の自分のもとへ撤退させた。


  • ③項 Erat summa inopia pabuli,
    • まぐさは欠乏の極みにあって、
  • adeo ut foliis ex arboribus strictis et teneris harundinum radicibus contusis
    • 木々の葉をむしったり、アシのやわらかい根を打ち砕いて、
  • equos alerent;
    • 馬匹を養っていたほどであった
  • frumenta enim, quae fuerant intra munitiones sata, consumpserant.
    • なぜなら、塁壁ムニティオの内側に植えられていた穀物を、(馬たちが)食い尽くしていたからだ。


  • ④項 Et cogebantur Corcyra atque Acarnania longo interiecto navigationis spatio pabulum subportare,
    • コルキュラ(島)や(ギリシア西部の)アカルナニアから、長いコースの航海をはさんで、まぐさを運び込むことを(彼らは)強いられていた
  • quoque erat eius rei minor copia,
    • かつ、その調達レス供給量コピアが少なかった分だけ、
  • hordeo adaugere
    • 大麦(を混ぜ加えること)により(供給量を)増やして、
  • atque his rationibus equitatum tolerare.
    • このような手段により、騎兵隊を養うことも(強いられていた)。


  • ⑤項 Sed postquam non modo hordeum pabulumque omnibus locis herbaeque desectae,
    • けれども、(陣地内の)すべての土地で、大麦まぐさおよび草が刈り取られたばかりでなく、
      (訳注:dēsecāre 「切り取る」 > 完了受動分詞 dēsectus
  • sed etiam frons ex arboribus deficiebat,
    • 木々の葉さえもなくなってしまって以来
      (訳注:frons 「葉」は修正提案されたもので、写本では fructus 「(木の)実」)
  • corruptis equis macie
    • 馬たちは、やせこけて台無しになってしまい、
  • conandum sibi aliquid Pompeius de eruptione existimavit.
    • ポンペイウスは、自らにとり、(カエサルの塁壁を)突破することについて、何らかのことをやってみるべきだ、と判断した。

59節

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カエサル配下のガリア人騎兵隊で、アッロブロゲス族の有力者兄弟の不祥事が発覚する

  • ①項 Erant apud Caesarem in equitum numero Allobroges II(duo) fratres,
    • カエサルの配下の騎兵たちの部隊の中に、アッロブロゲス族である二人の兄弟がいた。
      (訳注1:apud ~[対格] 「~の配下に」)
      (訳注2:numerus 「兵員、兵力」または「部隊」 > in numerō 「部隊の中に」)
      (訳注3:アッロブロゲス族 Allobroges は、現在のフランス南東部にいたガリア人の部族で、
           ガリア・トランサルピナ(ローマから見た「アルプスの向こう側のガリア」)の中でもローマに近い有力な部族で、
           ローマの支配下に入った時期が早かったが、大きな反乱も起こしている。)
  • Roucillus et Aecus,
    • ロウキッルスとアエクス(という名前の者たち)で、
      (訳注:アエクス Aecus は修正提案された名前で、写本ではエグス Egus となっている。
         ロウキッルス Roucillus は、写本によっては Rolcillus, Raucillus と記述されているものもある。)
  • Adbucilli filii, qui principatum in civitate multis annis obtinuerat,
    • (二人は)部族国家キウィタスにおいて多年にわたって指導者の地位プリンキパトゥスを占めていたアドブキッルスの息子たちであり、
      (訳注1:Adbucilli 「アドブキッルスの」は、写本によっては Albucilli, Adbuci などとなっている。)
      (訳注2:principātus 「指導者の地位」。後にカエサルの甥オクタウィアヌスによって始められた政治形態「元首政」をも指す。)
  • singulari virtute homines,
    • 類いまれなる武勇をともなう人物たちで、
  • quorum opera Caesar omnibus Gallicis bellis optima fortissimaque erat usus.
    • カエサルは、ガリア人とのすべての戦争において、彼らの最も有能かつ最も精強な仕事ぶりを役立てていたのだ。


  • ②項 His domi ob has causas amplissimos magistratus mandaverat
    • (カエサルは)この者たちに対して、自国ドムスにおいて、──この理由のために──、最も高位の諸官職マギストラトゥスをゆだねていた。
      (訳注:domus 「家」あるいは「自国、故郷」 > 処格 domī 「自国において」。「処格の用例」を参照。)
  • atque eos extra ordinem in senatum legendos curaverat,
    • そして、彼らが元老院の外国人ポストに任命されるべく取り計らっていたし、
  • agrosque in Gallia ex hostibus captos
    • ガリアにおいて、敵方から奪い取った領地や
  • praemiaque rei pecuniariae magna tribuerat
    • 金銭資産上における多額のほうびを授与していた。
  • locupletesque ex egentibus fecerat.
    • 貧乏な者たちから、裕福な者たちにしてやっていたのだ。
      (訳注1:locuplēs 「裕福な(者)」 > 複数 locuplētēs)
      (訳注2:egēre 「困窮している」 > 現在分詞 egēns 「困窮している(者)」)
      (訳注3:カエサル自身、ガリアに侵攻する前は莫大な借金を抱えていたが、
         ガリア戦争で大勢のガリア人を捕らえて奴隷として売りさばき、巨万の富を得たとされている。)
  • ③項 Hi propter virtutem
    • 彼らは、武勇のゆえに、
  • non solum apud Caesarem in honore erant,
    • カエサル配下において、高官職ホノルにあっただけでなく
  • sed etiam apud exercitum cari habebantur;
    • そればかりか、軍隊のもとでさえも敬愛されていたのだ。
  • sed freti amicitia Caesaris
    • けれども、(二人の兄弟は)カエサルの友情をあてにして、
      (訳注:frētus, -a, -um 「~を信頼している」「~をあてにしている」)
  • et stulta ac barbara adrogantia elati
    • 浅はかさや野蛮人の傲慢さから思い上がって、
  • despiciebant suos
    • 部下たちをめきっており、
  • stipendiumque equitum fraudabant
    • 騎兵たちの俸給スティペンディウムを食い物にしていて、
  • et praedam omnem domum avertebant.
    • 戦利品すべてを私物化していた。


  • ④項 Quibus illi rebus permoti universi Caesarem adierunt
    • そのような事態に、あの者たち(騎兵) は騒然となって、一同がカエサルに相談して、
  • palamque de eorum iniuriis sunt questi
    • 大っぴらに、彼ら(二人の兄弟)の不当行為について不平を言って、
  • et ad cetera addiderunt
    • そして、ほかのことに付け加え(て述べ)た。
  • falsum ab iis equitum numerum deferri, quorum stipendium averterent.
    • 彼らの俸給を私物化するために、彼ら(二人の兄弟)によって、騎兵たちの員数の(水増しされた)虚偽が報告されたということを。

60節

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アッロブロゲス族の有力者兄弟が、ポンペイウス側に寝返りを打つ

  • ①項 Caesar neque tempus illud animadversionis esse existimans
    • カエサルは、そのときは処罰の時ではないと判断して、
  • et multa virtuti eorum concedens
    • 彼ら(アッロブロゲス族の二人の兄弟たち)の武勇にかなり譲歩して、
  • rem totam distulit;
    • 事態をまるまる先延ばしにした。
  • illos secreto castigavit, quod quaestui equites haberent,
    • (カエサルは)騎兵たちを金もうけのタネにしているということで、彼らをひそかにしかりつけて、
  • monuitque, ut ex sua amicitia omnia expectarent
    • 自分(カエサル)の友情にすべてを期待するように、
  • et ex praeteritis suis officiis reliqua sperarent.
    • 自分(カエサル)の従来からの敬意オッフィキウムに、これからのことを望むように、と忠告した。


  • ②項 Magnam tamen haec res illis offensionem et contemptionem ad omnes adtulit,
    • しかしながら、この事態は、彼ら(兄弟)に対する、かなりの うらみつらみやさげすみを、(騎兵たち)皆にもたらした。
  • idque ita esse cum ex aliorum obiectationibus tum etiam ex domestico iudicio atque animi conscientia intellegebant.
    • それは、他人からの非難ばかりか、身内の判断や(兄弟自身の)良心の意識によってさえも自覚していたほどであった。


  • ③項 Quo pudore adducti
    • (アッロブロゲス族の二人の兄弟は)そのような恥辱に駆り立てられて、
  • et fortasse non se liberari,
    • おそらく自分たち(二人の兄弟)は放免されることはなく、
  • sed in aliud tempus reservari arbitrati
    • (処分までに)いくばくかの時間が残されているだけなのだと思って、
  • discedere ab nobis et novam temptare fortunam
    • 我が方(カエサル勢)から離れて、新たな運命を試みること、
  • novasque amicitias experiri constituerunt.
    • 新たな友情を試すこと、を決心した。


  • ④項 Et cum paucis conlocuti clientibus suis,
    • そして、(アッロブロゲス族の兄弟たちは)若干名の自分らの手下どもと話し合って、
  • quibus tantum facinus committere audebant,
    • ── その者らに対しては、(カエサルを裏切るという)大逆をあえて打ち明けていたのだが ──、
  • primum conati sunt praefectum equitum C. Volusenum interficere, ut postea bello confecto cognitum est,
    • 後に戦争が終わってから判明したように、(彼らは)手始めに、騎兵たちの指揮官であるガイウス・ウォルセヌスの殺害を企てた。
  • ut cum munere aliquo perfugisse ad Pompeium viderentur;
    • (兄弟たちは)何がしかの貢ぎ物ムヌスを伴ってポンペイウスのもとへ寝返った、と思われようとしたのである。


  • ⑤項 postquam id difficilius visum est neque facultas perficiendi dabatur,
    • そのこと(ウォルセヌスの暗殺)がより困難だと予見され、成し遂げる機会も与えられなかったので、
  • quam maximas potuerunt pecunias mutuati,
    • (アッロブロゲス族の兄弟たちは)できるだけたくさんの金銭を借りて、
  • proinde ac <si> suis satisfacere et fraudata restituere vellent,
    • まるで、だまし取ったもの(=騎兵たちの給料)を弁済して味方に償うことを望んでいるかのようにして(おきながら)、
      (訳注:proindē ac ~ 「まるで~かのように」 ; <si> は写本にはなく、挿入提案されたもの。)
  • multis coemptis equis
    • 多数の馬を買い占めると、
  • ad Pompeium transierunt
    • ポンペイウスのもとへ寝返った。
  • cum iis, quos sui consilii participes habebant.
    • 自分らの謀りごとコンシリウムの仲間と見なしていた者たちとともに。

61節

[編集]

ポンペイウスに迎え入れられたアッロブロゲス族の兄弟が、カエサル勢の軍事機密を漏らす

  • ①項 Quos Pompeius,
    • ポンペイウスは、その者たち(アッロブロゲス族の二人の兄弟)を、
  • quod erant honesto loco nati et instructi liberaliter
    • ──(彼らが)名誉ある身分ホネストゥス・ロクスの生まれであって、礼儀正しくリベラリテル 教え込まれていたし、
      (訳注:liberaliter 副詞「自由に、寛大に」あるいは「高貴に、上品に、礼儀正しく」)
  • magnoque comitatu et multis iumentis venerant
    • かなりの兵隊の一団コミタトゥスや多くの駄獣を伴って来ていたし、
      (訳注:comitātus 「随行者」あるいは「(兵隊の)一団」(company of soldiers) > 随伴を示す奪格 comitātū 「兵隊の一団を伴って」)
  • virique fortes habebantur
    • 精強な勇者フォルティス・ウィルたちと見なされていたし、
      (訳注:vir 「男」あるいは「勇者、勇士」(brave man)
  • et in honore apud Caesarem fuerant,
    • カエサルの配下において高官職ホノルに就いていたので
  • quodque <id> novum et praeter consuetudinem acciderat,
    • かつ、(カエサル配下の裏切りという)<そのことは>まれに見るもので、通例に反して起こっていたので ──、
      (訳注1:<id> <そのことは>は写本にはなく、挿入提案されたもの。)
      (訳注2:novus, -a, -um 「新しい」あるいは「聞き慣れない」「まれに見る」(unusual)
  • omnia sua praesidia circumduxit atque ostentavit.
    • (ポンペイウスは彼ら兄弟を)自軍のすべての陣地プラエシディウムを連れて回って、示して見せた。
      (訳注:circumdūcere 「連れて回る」)


  • ②項 Nam ante id tempus
    • なぜなら、その時より前には、
  • nemo aut miles aut eques a Caesare ad Pompeium transierat,
    • 歩兵ミレスであれ騎兵エクエスであれ、誰も、カエサルのもとからポンペイウスのもとへ寝返ってはいなかったからだ。
  • cum paene cotidie <nonnulli> a Pompeio ad Caesarem perfugerent,
    • ほとんど毎日、ポンペイウスのもとからカエサルのもとへ <少なからぬ者たちが> 脱走していたというのに
      (訳注1:接続詞 cum ~[接続法] 「~であるというのに」)
      (訳注2:<nonnulli> <少なからぬ>は、以下の milites 「兵士たち」にかかる形容詞で、写本にはなく、挿入提案されたもの。)
  • vulgo vero universi in Epiro atque Aetolia conscripti milites
    • 確かに、エピルスアエトリアで徴集された兵士たちは、集団で大っぴらに(脱走していた)。
      (訳注1:vulgō 副詞「一般に、普通に」「いたるところで」「公然と」)
      (訳注2:cōnscrībere 「(兵を)徴募する」 > 完了受動分詞 cōnscrīptus 「徴募された」)
  • earumque regionum omnium quae a Caesare tenebantur.
    • カエサルによって掌握されていた(ギリシア中部の)全地方の(兵士たち)も(脱走していた)。


  • ③項 Sed hi,
    • けれども、この者ら(アッロブロゲス族の兄弟)は、
  • cognitis omnibus rebus,
    • (カエサル勢の内部事情については)何でもかんでも知っており、
  • seu quid in munitionibus perfectum non erat,
    • 塁壁ムニティオにおいて(工事が)完成していなかったいくらかの所にせよ
      (訳注:seu quid < seualiquid ; seu ~, seu ・・・ 「~にせよ、~にせよ」)
  • seu quid a peritioribus rei militaris desiderari videbatur,
    • 軍事により精通している者たちからは不足に感じられる、と思われていた何らかのことにせよ
      (訳注:perītus 形容詞「熟練の(者)」 > 比較級 perītior 「より熟練の(者)」)
  • temporibusque rerum et spatiis locorum,
    • 軍事行動レス日時テンプスや、陣地ロクス間隔スパティウム
  • et custodiarum varia diligentia animadversa, prout cuiusque eorum, qui negotiis praeerant, aut natura aut studium ferebat,
    • 歩哨クストディアたちの注意深さディリゲンティアが、任務ネゴティウムを統率していた者たち(部隊長)それぞれの気質ナトゥラあるいはやる気ストゥディウムが要求していたことに応じて、さまざまであると気づいてもいた。
  • haec ad Pompeium omnia detulerunt.
    • (彼らアッロブロゲス族の兄弟は)これらのことすべてを、ポンペイウスに知らせた。

デュッラキウムの戦い(4)─ポンペイウス勢によるカエサル陣地への強襲上陸作戦

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62節

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ポンペイウスが、カエサル陣地の沿海方面に、揚陸艦隊と6個軍団相当の大兵力を集中する

  • ①項 Quibus ille cognitis
    • あの者(ポンペイウス)は、それらの事情を(アッロブロゲス族の兄弟から)知らされると、
      (訳注:quibus cognitīs 「それらのことが知られると」。「絶対奪格の例文」を参照。)
  • eruptionisque iam ante capto consilio, ut demonstratum est,
    • 前述したように、すでに以前から、強襲エルプティオ作戦計画コンシリウムを策定していたので、
  • tegimenta galeis milites ex viminibus facere
    • 兵士たちに、鉄兜ガレアおおいを細枝から作ること、
  • atque aggerem iubet conportare.
    • 土砂を運び集めること、を命じる。

 ローマ軍の鉄兜Galeaガレア) 共和制末期~帝制期のものは、ガリアの影響でほお当てが付くようになっていた。


  • ②項 His paratis rebus
  • magnum numerum levis armaturae et sagittariorum aggeremque omnem
    • 多数の軽装歩兵たちや弓兵たちと、すべての土砂を、
  • noctu in scaphas et naves actuarias imponit
    • 夜間に、小形船団や快速船団に、乗せる。
  • et de media nocte cohortes LX ex maximis castris praesidiisque deductas
    • そして真夜中の頃に、60個歩兵大隊コホルスを、(ペトラの丘陵にあるポンペイウスの)大本営や(各地の)山砦プラエシディウムから下山させて、
  • ad eam partem munitionum ducit, quae pertinebat ad mare longissimeque a maximis castris Caesaris aberat.
    • (カエサル側の)塁壁ムニティオのうち、海辺に及び、カエサルの大本営から最も遠い方面へ、率いて行く。


  • ③項 Eodem
    • 同じところへ、
  • naves, quas demonstravimus, aggere et levis armaturae militibus completas,
    • 前述した、土砂と軽装歩兵たちを満載した船団と、
  • quasque ad Dyrrachium naves longas habebat,
  • mittit
    • 派遣する。
  • et, quid a quoque fieri velit, praecipit.
    • そして、(将兵たち)各自によって遂行されることを(ポンペイウスが)望んでいることを、指図する。


  • ④項 Ad eas munitiones
    • それらの塁壁ムニティオのところに、
  • Caesar Lentulum Marcellinum quaestorem cum legione VIIII positum habebat.
    • カエサルは、財務官クァエストル レントゥルス・マルケッリヌスを第9軍団レギオとともに、保持していた。
      (訳注:プブリウス・コルネリウス・レントゥルス・マルケッリヌス Publius Cornelius Lentulus Marcellinusla](生没年不明) は、
      このBC48年に財務官になった後、帝制初期のBC18年に執政官に選出された。)
  • Huic,
    • この者(マルケッリヌス)に対しては、
  • quod valetudine minus commoda utebatur,
    • ──(彼が)健康面ウァレトゥドにおいて、あまり具合が良くない状態と思っていたので ──
      (訳注1:minus 副詞の比較級「あまり~ない」)
      (訳注2:ūtī 「(人がある状態にあることを)見出す、~と思う」)
  • Fulvium Postumum adiutorem submiserat.
    • フルウィウス・ポストゥムスを、補佐官アデュトルとして(すでに)派遣しておいた。
      (訳注:submittere (summittere) 「(補佐として)送る」 > 過去完了 submīserat

63節

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ポンペイウス勢が、カエサル陣地の海に面する最弱地点を強襲して突破する

  • ①項 Erat eo loco fossa pedum XV et vallum contra hostem in altitudinem pedum X,
    • その地点には、敵に向かって、15ペース(=約4.5m幅)のフォッサと、高さにおいて10ペース(=約3m)の防柵ウァッルムがあって、
      (訳注:vallum という単語は「杭」を意味する vallus に由来し、
      全体としての「堡塁」、あるいは部分としての木製の「防柵」「防壁」を意味する。
      本節では、vallus も同様な意味で後出する。 ⇒ w:en:vallum を参照。)
カエサルが建造した、堀および土塁の上に築かれた防柵の再現
(アレシア古戦場跡。フランスのアリーズ=サント=レーヌ)
デュッラキウムの戦いにおける、カエサルの二重の堡塁をめぐるポンペイウス勢との攻防の概略図(ラテン語・日本語)。
本節の記述にできるだけ合致するように、訳者が作図した。
デュッラキウムの戦いの陣地の配置図(再掲)。
図中の下部に描かれた カエサルの二重の堡塁が築かれ、マルケッリヌスの陣営(Camp of Marcellinusが置かれていた。ポンペイウス勢は、ポンペイウスの本営(Pompey's camp)から、カエサルの二重の堡塁を強襲して、カエサル勢を敗走させた。
  • tantundemque eius valli agger in latitudinem patebat;
    • その防柵の土塁アッゲルも、高さにおいて同じぐらい広がっていた。
  • ab eo intermisso spatio pedum DC
    • そこから600ペース(=約180m)の隔たりをあけて、
  • alter conversus in contrariam partem erat vallus humiliore paulo munitione.
    • もう一つの堡塁ウァッルスが、少しより低い塁壁ムニティオを伴って、反対側に向きを変えてあった。


  • ②項 Hoc enim superioribus diebus timens Caesar,
    • なぜなら、先日来、カエサルは、このこと(=ポンペイウス勢の強襲)を恐れていて、
  • ne navibus nostri circumvenirentur,
    • (ポンペイウス配下の)船団により、我が方(の陣地)が回り込まれないように、
  • duplicem eo loco fecerat vallum,
    • その地点に二重の堡塁ウァッルスを(すでに)建造しておいて、
  • ut, si ancipiti proelio dimicaretur, posset resisti.
    • もし、二正面の戦いアンケプス・プロエリウムで闘われたとしても、抗戦され得るようにした


  • ③項 Sed operum magnitudo et continens omnium dierum labor,
    • とはいえ、堡塁工事オプスの壮大さと、終日ずっと続く労役は、
  • quod milia passuum in circuitu XVII munitione erat conplexus,
    • 全周17ローママイル(=約25.5km)にわたって塁壁ムニティオで取り巻かれていたので、
  • perficiendi spatium non dabat.
    • 完成されるべき時間的猶予を与えてくれなかった。


  • ④項 Itaque contra mare transversum vallum, qui has duas munitiones contingeret,
    • このように、これら二つの塁壁ムニティオに接し、海に面して横切る堡塁ウァッルスを、
  • nondum perfecerat.
    • いまだに完成させていなかった。


  • ⑤項 Quae res nota erat Pompeio, delata per Allobroges perfugas,
    • そういった事情は、アッロブロゲス族の逃亡者たちを通じて報告されて、
      ポンペイウスに知られていて、
  • magnumque nostris attulit incommodum.
    • 我が方に対して、大損害をもたらしたのだ。
      (訳注:下線部の attulitafferre の完了形)は修正提案されたもので、
      写本では attulerat (afferre の過去完了形)となっている。)


  • ⑥項 Nam ut ad mare nostrae cohortes [nona leg.] excubuerant,
    • なぜなら、我が方の[第9軍団の]諸歩兵大隊コホルスが海の辺りで警戒していたときに
      (訳注:[nona leg.] [第9軍団(の)] は写本にあるが、削除提案されている。)
  • accessere subito prima luce Pompeiani
    • 明け方に、不意に、ポンペイウス勢が迫って来た。
  • <nostris inprovisus Pompeiani> exercitus adventus extitit;
    • <我が方に対して、思いがけずポンペイウスの> 到来した軍隊が姿を現わしたのだ
      (訳注:下線部は、写本にある記述だが、削除提案されている。
      あるいは逆に、< >部分が挿入提案されてもいる。)
  • simul navibus circumvecti milites in exteriorem vallum tela iaciebant, fossaeque aggere complebantur,
    • 船団で取り巻いた(ポンペイウス勢の)兵士たちが(カエサルの)外側の堡塁に飛び道具を投げ付け、フォッサ土砂アッゲルで埋められていたのと同時に
      (訳注:simul ~, et ・・・ 「~と同時に・・・」)
ポンペイウス勢が強襲した時点のデュッラキウムの戦いにおける戦況の図解(訳者が作成)。
  • et legionarii interioris munitionis defensores
    • (ポンペイウス勢の)軍団兵レギオナリウスたちが(カエサルの)内側の塁壁ムニティオの防戦者たちを、
  • scalis admotis tormentis cuiusque generis telisque terrebant,
    • はしごスカラを(塁壁に)あてがって、各種類の投石機トルメントゥムと飛び道具でおびやかしていたし、
  • magnaque multitudo sagittariorum ab utraque parte circumfundebatur.
    • かなり大勢の弓兵たちが、両側から取り囲んでいた。
      (訳注:circumfundere ⇒ 受動で「取り囲む」 )


  • ⑦項 Multum autem ab ictu lapidum, quod unum nostris erat telum,
    • 他方では、我が方にとって ただひとつの飛び道具であった、多数のラピス打撃イクトゥスから、
  • viminea tegimenta galeis inposita defendebant.
    • (ポンペイウス勢の)鉄兜ガレアえ付けられた細枝細工のおおいが防護していた。


  • ⑧項 Itaque cum omnibus rebus nostri premerentur atque aegre resisterent,
    • このように、我が方(カエサル勢)があらゆる事で圧倒されていて、かろうじて抗戦していたときに
  • animadversum est vitium munitionis, quod supra demonstratum est,
    • 上で述べた、塁壁ムニティオ欠陥ウィティウムが(ポンペイウス勢によって)気づかれた。
  • atque inter duos vallos, qua perfectum opus non erat,
    • そして、二つの堡塁ウァッルスの間の、堡塁工事オプスが完成していなかったところを通って
  • per mare navibus expositi in aversos nostros impetum fecerunt
    • (ポンペイウス勢の)海から船団で上陸した者たちが、背を向けている我が方に突撃インペトゥスをして、
  • atque ex utraque munitione deiectos
    • (カエサル勢の内外)両方の塁壁ムニティオから駆逐された者たちを
  • terga vertere coegerunt
    • 敗走せしめた。
      (訳注:terga vertere 「背を向けること」=「敗走すること」)

64節

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カエサル陣地の南方を指揮していた財務官マルケッリヌスが、第14軍団から増援部隊を派兵するが、敗勢に陥る

  • ①項 Hoc tumultu nuntiato
    • この奇襲攻撃トゥムルトゥスが報告されると、
      (訳注:「絶対奪格の例文」を参照。)
  • Marcellinus cohortes subsidio nostris laborantibus submittit ex castris;
    • マルケッリヌスは、苦戦している我が方に対して、陣営から諸歩兵大隊コホルス増援部隊スブシディウムとして派遣する。
      (訳注:labōrāre 「苦しむ」 > 現在分詞 labōrāns 「苦しんでいる(者)」
                    > 男性・複数・与格 labōrantibus 「苦しんでいる者たちに対して」)
  • quae fugientes conspicatae
    • それら (諸歩兵大隊) は、敗走して来る者たちに気づくと、
      (訳注:cōnspicārī 動詞 「見る」「気づく」 > 完了受動分詞 cōnspicātus > 女性・複数・主格 conspicātae
  • neque illos suo adventu confirmare potuerunt
    • (敗走して来る)あの者たちを、自分たちの到着により元気づけることもできなかったし
  • neque ipsae hostium impetum tulerunt.
    • 彼ら自身、敵方の突撃インペトゥスを持ちこたえ(ることができ)なかった
      (訳注:neque ~, neque ・・・ 「~でもないし、・・・でもない」)



   鷲の徽章の旗手の最後の頼み

ローマ軍の軍団旗に相当する鷲の徽章(aquila)を持つ旗手(aquilifer)の再現。
鷲の徽章(aquila
  • ③項 In eo proelio
    • その遭遇戦プロエリウムにおいて、
  • cum gravi vulnere esset adfectus aquilifer et a viribus deficeretur,
    • 鷲の徽章の旗手アクィリフェルが重い傷をこうむって、力を消耗し尽くしたので、
  • conspicatus equites nostros
    • 我が方の騎兵たちに気づいて、
  • "hanc ego" inquit
    • 「私は、これを」と言い、
      (訳注:ここからの旗手の発言は、カエサルの著作には珍しい直接話法 で語られる。)
  • "et vivus multos per annos magna diligentia defendi
    • 「長年にわたって生き延びて、たいへんな注意を払って守り抜いたが、
      (訳注:dēfendere 「守る」 > 1人称・単数・完了 dēfendī 「私は守った」)
  • et nunc moriens
    • 今や死にかけており、
      (訳注:morī 「死ぬ」 > 現在分詞 moriēns
  • eadem fide Caesari restituo.
    • (今までと)同じ忠実さをもって、カエサルにお返しする。
  • Nolite, obsecro, committere, quod ante in exercitu Caesaris non accidit, ut rei militaris dedecus admittatur,
    • 頼むから、カエサルの軍隊において以前は生じたことのない、軍事の汚名デデクスをこうむるような過ちをするな。
      (訳注1:nōlle 「欲しない」「~するな」 > 2人称・複数・現在・命令法 nōlīte
      (訳注2:obsecrō 動詞「頼む」、挿入句として「頼むから」)
      (訳注3:committere 「過ちをおかす」)
  • incolumemque ad eum deferte."
    • 無事に、彼(カエサル)のもとへ運んで行け。」
      (訳注:dēferre 動詞「運ぶ、運んで行く」 > 2人称・複数・現在・命令法 dēferte


  • ④項 Hoc casu aquila conservatur,
    • この危機カススから、鷲の徽章アクィラは守られているが、
  • omnibus primae cohortis centurionibus interfectis praeter principem priorem.
    • 第一歩兵大隊コホルス百人隊長ケントゥリオたちは、プリンケプス・プリオルを除いてことごとく虐殺された。
      (訳注:プリンケプス・プリオル Princeps prior は、第二戦列兵プリンキペスを構成する歩兵中隊マニプルスの中隊長を兼任する歩兵小隊長(百人隊長)であり、
      軍団ごとに定員60名の百人隊長のうちでも、首席百人隊長 Primus pilus に次ぐ高位の百人隊長であったらしい。)

65節

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マルクス・アントニウスがポンペイウス勢の進撃を食い止め、カエサルは戦術を変えて防備を固めさせる

  • ①項 Iamque Pompeiani magna caede nostrorum
    • すでに、ポンペイウス勢は、我が方への大殺戮さつりくにより、
  • castris Marcellini adpropinquabant, non mediocri terrore inlato reliquis cohortibus,
    • (カエサル勢の)残りの諸歩兵大隊コホルス並大抵メディオクリスでない恐慌状態テッロルを誘発しながら、マルケッリヌスの陣営カストラに接近していた。
  • et M. Antonius qui proximum locum praesidiorum tenebat,
  • ea re nuntiata
    • その事態を報告されると、
  • cum cohortibus XII descendens ex loco superiore cernebatur.
    • 12個歩兵大隊コホルスとともに、より高い地点から降って来るのが視認されていた。
  • Cuius adventus Pompeianos conpressit
    • 彼の到来は、ポンペイウス勢(の進撃)をせき止めて、
  • nostrosque firmavit,
    • 我が方を元気づけて、
  • ut se ex maximo timore colligerent.
    • たいへんな怖気おじけから気を取り直させるようにした。
      (訳注:se colligere = se animum colligere 「気を取り直す」)


  • ②項 Neque multo post Caesar,
    • 幾許いくばくもなくして、カエサルは、
      (訳注:neque multō post 「あまり後でなく」=「幾許もなく」)
  • significatione per castella fumo facta, ut erat superioris temporis consuetudo,
    • 往時に慣例であったように、山砦カステッルムを通じて煙による合図をして、
  • deductis quibusdam cohortibus ex praesidiis eodem venit.
    • いくつかの歩兵大隊コホルス陣地プラエシディウムから引き出して、同所へ到着した。


  • ③項 Qui, cognito detrimento,
    • 彼(カエサル)は、敗北デトリメントゥムを知ると、
  • cum animadvertisset Pompeium extra munitiones egressum, castra secundum mare <munire>,
    • ポンペイウス塁壁ムニティオの外側に突出して来て、海に沿って陣営カストラを <(堡塁で)固めて>、
  • ut libere pabulari posset nec minus aditum navibus haberet,
    • 自由にまぐさの調達ができるように、船団の出入口をいくらか持てるようにしたのに気づいていたので
  • commutata ratione belli, quoniam propositum non tenuerat,
    • 戦略目的プロポシトゥムを保てなくなっていたので、戦争の手段を変更して、
  • castra iuxta Pompeium munire iussit.
    • ポンペイウス(の陣地)のすぐ近くに陣営カストラを固めることを命じた。

デュッラキウムの戦い(5)─ポンペイウス勢がカエサル勢を撃ち破る (レスニキア川の戦い)

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66節

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ポンペイウス勢が、カエサルが放棄した古い陣営を接収し、塁壁で囲んでより大きな陣営を造営する

  • ①項 Qua perfecta munitione
    • その塁壁ムニティオが完成したとき、
      (訳注:「絶対奪格の例文」を参照。)
  • animadversum est ab speculatoribus Caesaris,
    • カエサルの斥候たちによって気づかれたことには、
  • cohortes quasdam, quod instar legionis videretur,
    • (1個)軍団レギオと同等のものと思われていた、いくつかの諸歩兵大隊コホルス
      (訳注:īnstar ~[属格] 「~と同等のもの」)
  • esse post silvam et in vetera castra duci.
    • 森林の後方にあって、(カエサルの)古い陣営カストラに率いて行かれている(ということであった)。


  • ②項 Castrorum hic situs erat.
    • 陣営の位置は、以下の通りであった。
  • Superioribus diebus nona Caesaris legio
    • 先般、カエサルの第9軍団が、
  • cum se obiecisset Pompeianis copiis atque opere, ut demonstravimus, circummuniret,
    • 前述のように、ポンペイウスの軍勢と対峙していて、堡塁オプスで取り巻いていたときに、
      (訳注1:45節46節を参照。)
      (訳注2:ōbicere 「対峙させる」 > se ōbicere 「対峙する」)
      (訳注3:circummūnire 「(堡塁を)めぐらす、取り巻く」)
  • castra eo loco posuit.
    • その場所に、陣営を設置した。


デュッラキウムの戦いの戦況の図解(訳者が作成)。
古代ローマ時代の陣営の跡の図面(ドイツのザールブルク城砦跡)
古い小さい陣営の跡を、新しい大きい陣営で増強していることが見て取れる。
  • ③項 Haec silvam quandam contingebant
    • これ (古い陣営) は、とある森林に隣接していて、
  • neque longius a mari passibus CCC aberant.
    • 海から300パッスス(=約450m)ほどしか離れていなかった。


  • ④項 Post,
    • 後になって、
  • mutato consilio quibusdam de causis,
    • いくつかの理由から、作戦計画コンシリウムを変更して、
  • Caesar paulo ultra eum locum castra transtulit,
    • その場所のいくらか向こう側に陣営を移した。
      (訳注:ultrā 「向こう側に」;
      海沿いのポンペイウスの陣営の方向へ、ということか。)
  • paucisque intermissis diebus
  • eadem haec Pompeius occupaverat,
    • 同じこれ (古い陣営)ポンペイウスが(すでに)占領していて、
  • et, quod eo loco plures erat legiones habiturus,
    • その場所で多くの軍団を収容するつもりであったので
  • relicto interiore vallo maiorem adiecerat munitionem.
    • 内側の堡塁ウァッルスを残したまま、より大きな塁壁ムニティオを付け加えてあった。


  • ⑤項 Ita minora castra inclusa maioribus
    • このように、より小さい陣営を、より大きなもので囲い込んで、
      (訳注:inclūdere 「囲う、閉じ込める」 > 完了受動分詞 inclūsus
  • castelli atque arcis locum obtinebant.
    • 城砦カステッルム要塞アルクスの役割を占めていた。
      (訳注:右の図面が参考になるであろう。)


  • ⑥項 Item ab angulo castrorum sinistro
    • そのうえ、陣営の左側の隅から、
  • munitionem ad flumen perduxerat circiter passus CCCC,
    • 塁壁ムニティオを川のたもとまで、およそ400パッスス(=約600m)延ばしておいて、
  • quo liberius a periculo milites aquarentur.
    • それによって、兵士たちが より危険に拘束されずに 給水するようにしたのである。
      (訳注:līberē 副詞 「自由に」「拘束されずに」 > 比較級 līberius)


  • ⑦項 Sed is quoque, mutato consilio quibusdam de causis,
    • けれども、彼(ポンペイウス)もまた、いくつかの理由から、作戦計画コンシリウムを変更して、
  • quas commemorari necesse non est,
    • ── それに言及する必要はないが ──、
  • eo loco excesserat.
    • その地点から(すでに)撤収していた。
  • Ita conplures dies <vacua> manserant castra;
    • このように、かなりの日数にわたり、陣営を<空っぽに>とどめておいた。
      (訳注:<vacua> <空っぽな> は写本になく、挿入提案されたもの。<inania> <空っぽな> という挿入提案もある。)
  • munitiones quidem omnes integrae erant.
    • すべての塁壁ムニティオは、まったく無傷であった。

67節

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ローマ軍の軍旗(Signum militare)各種。

ポンペイウスの1個軍団ほどが守る大陣営を、カエサルが33個歩兵大隊で急襲、制圧する

  • ①項 Eo signa legionis inlata
    • そこへ、(ポンペイウス勢の1個)軍団の軍旗が運び入れられていると、
      (訳注:signa īnferre 「軍旗を運び入れる」=「進撃する」)
  • speculatores Caesari renuntiarunt.
    • カエサルの斥候たちが報告した。
  • Hoc idem visum ex superioribus quibusdam castellis confirmaverunt.
    • これと同じことが、より高いところのいくつかの山砦カステッルムから見られたと、(斥候たちは)確認した。
  • Is locus aberat <a> novis Pompei castris circiter passus quingentos.
    • その地点は、ポンペイウスの新しい陣営<から>およそ500パッスス(=約750m)離れていた。
      (訳注:新しい陣営とは、65節③項でポンペイウスが海に沿って固めた陣営のことだと思われる。)


  • ②項 Hanc legionem sperans Caesar se opprimere posse
    • カエサルは、この(1個)軍団を打ちのめすことができると期待しつつ、
  • et cupiens eius diei detrimentum sarcire,
    • あの日の敗北デトリメントゥムを埋め合わせすることを切望して、
  • reliquit in opere cohortes duas,
    • 2個歩兵大隊コホルス堡塁オプスの中に残して、
  • quae speciem munitionis praeberent;
    • (彼らをして)塁壁工事ムニティオの見せかけを示させていた。


  • ③項 ipse,
    • (カエサル)自身は、
  • diverso itinere, quam potuit occultissime,
    • 反対方向の道すじから、できるだけひそかに、
      (訳注:occultē 副詞 「密かに」 > 最上級 occultissimē 「最も密かに」)
  • reliquas cohortes, numero XXXIII (trigintatres),
    • 数にして33個の残りの歩兵大隊コホルスを、
  • in quibus erat legio nona multis amissis centurionibus deminutoque militum numero,
    • ── それらの中には、多くの百人隊長ケントゥリオたちを失い、兵士たちの数も減っていた第9軍団がいたのだが ──、
  • ad legionem Pompei castraque minora duplici acie eduxit.
    • (それらの部隊を)ポンペイウスの(1個)軍団とより小さな陣営のもとへ、二重の戦列ドゥプレクス・アキエスにより、進軍させた。


  • ④項 Neque eum prima opinio fefellit.
    • 当初の予測オピニオは、彼(カエサル)を誤らせなかった。 (=カエサルの当初の予測は、誤っていなかった)
      (訳注:fallere ~[対格] 「~を誤らせる」)
  • Nam et pervenit priusquam Pompeius sentire posset,
    • 実際、ポンペイウスが感づくことができるより前に、(カエサルは)到着した
  • et tametsi erant munitiones castrorum magnae,
    • たとえ、(ポンペイウスの)陣営の塁壁ムニティオが大がかりであったとしても、
      (訳注:tametsitamen ・・・ 「たとえ~としても、それにもかかわらず・・・」)
  • tamen sinistro cornu, ubi erat ipse, celeriter adgressus
    • それにもかかわらず、(カエサル)自身がいた左翼から、速やかに襲撃して、
  • Pompeianos ex vallo deturbavit.
    • ポンペイウス勢を堡塁ウァッルスから追い払った。
      (訳注:dēturbāre 「追い出す、駆逐する」)


拒馬きょばCheval de frise)の例。
  • ⑤項 Erat obiectus portis ericius.
    • (陣営の)諸門には拒馬きょばが(障害物として)前に置かれていた。
      (訳注1:ōbicere 「(障害物として)前方へ置く」 > 完了受動分詞 obiectus
      (訳注2:ericius 一般名詞としては「ハリネズミ」「ヤマアラシ」。
               軍事用語で「鋭利な杭で武装された梁」A beam armed with sharp spikes。)
  • Hic paulisper est pugnatum,
    • この場所で、ちょっとの間、戦われたが、
  • cum inrumpere nostri conarentur,
    • 我が方(カエサル勢)が突入することを試みていたときには、
  • illi castra defenderent,
    • あちら(ポンペイウス勢)は、陣営を守ろうとしていたし、
  • fortissimeque T.(Tito) Puleione,
    • 勇猛なるティトゥス・プレイオが、
  • cuius opera proditum exercitum C. Antoni demonstravimus,
    • ── その者の尽力により、ガイウス・アントニウスの軍隊が(ポンペイウス勢に)寝返ったことは前述したが ──、
      (訳注:このことについては、4節②節、10節⑤項、でちょっとだけ述べられているが、
      詳しくは述べられていないか、あるいは写本が欠落していると考えられる。
       ガイウス・アントニウス Gaius Antonius は、後の三頭政治家マルクス・アントニウス Marcus Antonius の弟で、
      前年(BC49年)の夏頃に、カエサルの副官レガトゥスとしてクリクタ島(Curicta:現在のクロアチアクルク島)に派遣されていたが、
      マルクス・オクタウィウスやガイウス・スクリボニウス・リボが率いるポンペイウス艦隊によって、ドラベッラ率いる護衛艦隊と分断されて、
      15個歩兵大隊とともに降伏。その兵士たちはポンペイウスの諸軍団に組み入れられていた。)
  • eo loco propugnante.
    • その場所で防戦していた。


  • ⑥項 Sed tamen nostri virtute vicerunt,
    • しかし、それでも、我が方(カエサル勢)は、勇敢さでまさり、
      (訳注:sed tamen 「しかし、それでも」「しかし、とにかく」)
  • excisoque ericio
    • 拒馬きょばを除去すると、
      (訳注:excīdere 「切り倒す、取り除く、破壊する」 > 完了受動分詞 excīsus
  • primo in maiora castra,
    • まず、大きい方の陣営の中に、
      (訳注:prīmō ~, post ・・・ 「はじめに~、その後・・・」)
  • post etiam in castellum, quod erat inclusum maioribus castris, inruperunt,
    • それから、大きい方の陣営により取り巻かれていた城砦カステッルムの中に、突入した。
  • quod eo pulsa legio sese receperat;
    • というのも、そこへ(大きい方の陣営から)駆逐された(ポンペイウス勢の1個)軍団が退却していたからだ。
  • nonnullos ibi repugnantes interfecerunt.
    • そこにて、抗戦している少なからぬ者たちを殺戮さつりくした。

68節

[編集]

カエサル勢の右翼の歩兵と騎兵が、敵を追撃するあまり、ポンペイウスの塁壁の向こう側に深入りしてしまう

  • ①項 Sed fortuna, quae plurimum potest cum in reliquis rebus tum praecipue in bello,
    • けれども、運命 (の女神)フォルトゥナ というものは、ほかのことばかりでなくとりわけ戦争においてもまた、とてつもない影響力があり、
      (訳注:cum ~ tum praecipue ・・・ 「~ばかりでなく、とりわけ・・・もまた」)
  • parvis momentis magnas rerum commutationes efficit;
    • わずかな瞬間モメントゥムにおいて、戦況レスの大きな変動を引き起こすものである。
  • ut tum accidit.
    • そのとき、起こったように。


   カエサルの右翼の歩兵たちが、川岸へ延びている塁壁を、陣営の一部だと思い込む

  • ②項 Munitionem, quam pertinere a castris ad flumen supra demonstravimus,
    • (ポンペイウスの)陣営から川のたもとまで達していることを前述した 塁壁ムニティオを、
      (訳注:66節⑥項で述べられている。)
  • dextri Caesaris cornus cohortes ignorantia loci sunt secutae,
    • カエサルの右翼の諸歩兵大隊コホルスが、(敵の)陣地に無知なままで、(塁壁に)沿って進んだ。
      (訳注1:dextrum cornū 中性・単数・主格 「右翼」 > 属格 dextrī cornūs 「右翼の」)
      (訳注2:sequī 「沿って進む、たどる」 > 完了受動分詞 secūtus 「沿って進んだ(能動)」)
  • cum portam quaererent
    • (陣営の)門を探し求めていたので、
  • castrorumque eam munitionem esse arbitrarentur.
    • その塁壁ムニティオ陣営カストラのものであると、思い込んでいたのだ。



   カエサルの歩兵たちが、塁壁の一部を突き破って、騎兵たちも後に続く

  • ③項 Quod cum esset animadversum coniunctam esse flumini,
    • (カエサルの歩兵たちは)それが、川に接していることに気づいていたときに、
  • prorutis munitionibus defendente nullo transcenderunt,
    • 誰も守っていなかったので、塁壁ムニティオ(の一部)を崩壊させて、登り越えた。
      (訳注:prōruere 「倒壊させる、崩壊させる」 > 完了受動分詞 prōrutus
  • omnisque noster equitatus eas cohortes est secutus.
    • 我が方(カエサル勢)のすべての騎兵隊が、それらの諸歩兵大隊コホルスに追随した。

69節

[編集]

ポンペイウスが5個軍団を引っ提げて反攻に転じ、浮足立ったカエサル勢が潰走する

  • ①項 Interim Pompeius hac satis longa interiecta mora et re nuntiata
    • そうしている間に、ポンペイウスは、じゅうぶんに長い時間を置いてこの事が報告されると
      (訳注1:longa interiecta mora 長い時間を置いて 『絶対奪格の例文』を参照。)
      (訳注2:hac re nuntiata この事が報告されると 『絶対奪格の例文』を参照。)
  • V legiones ab opere deductas
    • 5個軍団レギオを(海沿いの陣営の)堡塁作業オプスから引き出して、
  • subsidio suis duxit;
    • 味方に対する救援スブシディウムのために率いて行った。
      (訳注:subsidium 「救援、増援」「加勢」 > subsidiō 「救援のために」
       目的を表わす与格で、動詞とともに用いられる。)
  • eodemque tempore equitatus eius nostris equitibus adpropinquabat,
    • (ポンペイウス)騎兵隊エクィタトゥスが、我が方(カエサル勢)騎兵エクエスたちに接近していたのと同じ頃に、
  • et acies instructa a nostris, qui castra occupaverant, cernebatur,
    • 陣営カストラを奪取していた我が方によって、(ポンペイウス勢の)戦列アキエスが整列されたのが、視認されていた。
  • omniaque sunt subito mutata.
    • すべて(の状況)が、あれよあれよという間に、変わってしまったのだ。


   陣営の裏門あたりに追い詰められていたポンペイウスの1個軍団が、息を吹き返す

ローマ軍の陣営カストラの概略図。
(1) Principia(本営)
(2) Via Praetoria(正門道)
(3) Via Principalis(主道)
(4) Porta Principalis Dextra(右の脇門)
(5) Porta Praetoria(正門)
(6) Porta Principalis Sinistra(左の脇門)
(7) Porta Decumana(裏門)
  • ②項 Pompeiana legio celeris spe subsidii confirmata
    • ポンペイウスの(1個)軍団は、すばやい救援スブシディウムへの希望により元気づけられて、
  • ab decumana porta resistere conabatur
    • (陣営の)裏門から(カエサル勢の攻勢に)抵抗することを試みていたし、
      (訳注:porta decumāna または porta decimāna は、
      第10歩兵大隊コホルスが守備していた陣営の裏門を指す。右の図を参照。)
  • atque ultro in nostros impetum faciebat.
    • さらには(逆に)、我が方に突撃をして来た。
      (訳注:ultrō 「向こう側へ」、「さらに」besides, moreover、または「反対に、逆に」conversely


   カエサル勢の右翼の騎兵たちが、不安に駆られて退散し始める

  • Equitatus Caesaris,
    • カエサルの騎兵隊エクィタトゥスは、
      (訳注:前節=68節の末尾で、カエサルのすべての騎兵隊は右翼の歩兵隊に追随した
      とあるので、右翼にいた騎兵隊のことであろう。)
  • quod angusto itinere per aggeres ascendebat,
    • 土塁アッゲルを越えて、狭苦しい進路を登っていたので
  • receptui suo timens
    • 自らの退却を気づかって、
  • initium fugae faciebat.
    • 敗走フガ口火イニティウムを切っていた。
デュッラキウムの戦いの戦況の図解(訳者が作成)。
ポンペイウスが5個軍団を率いて救援にかけつけると(青い矢印)、
カエサル勢はパニック状態に陥って、潰走する(赤い矢印)。


   カエサル勢の右翼の歩兵たちが、うろたえて我先にと敗走し始める

  • ③項 Dextrum cornu,
    • 右翼(の歩兵たち)は、
      (訳注:dextrum cornū 中性・単数 「右翼」)
  • quod erat a sinistro seclusum,
    • 左(翼)から隔離されていたので
      (訳注:(fr:) sēclūdere 「隔離する」
       > 完了受動分詞 seclusus 「隔離された」)
  • terrore equitum animadverso,
    • 騎兵たちの怖気おじけに気づくと、
  • ne intra munitionem opprimeretur,
    • 塁壁ムニティオの内側で圧倒されないように、
  • ea parte, quam proruerat, sese recipiebat,
    • (彼らがすでに)崩壊させていた一部分から、退却していた。
      (訳注:前節=68節③項で述べられていた。)
  • ac plerique ex his, ne in angustias inciderent,
    • この者らの大多数は、狭いところに陥らないように、
      (訳注1:plērīque 「大多数、ほとんど」)
      (訳注2:incidere 「陥る」)
  • X pedum munitione se in fossas praecipitabant,
    • 10ペース(=約3m)の塁壁ムニティオから、堀の中に、身を投げ落としていた。
  • primisque oppressis
    • 先頭の者たちは押しつぶされて、
  • reliqui per horum corpora
    • 残りの者たちは、彼らの身体を越えて、
  • salutem sibi atque exitum pariebant.
    • 自らの安全と脱出を獲得していた。


   カエサル勢の左翼の歩兵たちが、無我夢中で遁走する

  • ④項 Sinistro cornu milites
    • 左翼の兵士たちは、
      (訳注:sinistrum cornū 中性・単数 「左翼」 > 与格 sinistrō cornū 「左翼の」)
  • cum ex vallo Pompeium adesse et suos fugere cernerent,
    • ポンペイウスが迫っていることと、味方が敗走していることを、防柵ウァッルムから視認していたので、
  • veriti ne angustiis intercluderentur, cum extra et intus hostem haberent,
    • (陣営の)外部にも内部にも敵がいたので、狭いところに閉塞されるのではないかと怖れて、
      (訳注:habēre ~ 「~がいる」 > hostem habēre 「敵がいる」)
  • eodem quo venerant receptu sibi consulebant,
    • やって来ていたのと同じところを退却することにより、身を処していた。
  • omniaque erant tumultus, timoris, fugae plena,
    • すべてが、(焦る兵士たちの)ごったがえし、パニック、脱走 で満ちており、
      (訳注1:plēnus ~[属格] 「~でいっぱいの」 > 中性・複数・主格 plēna
      (訳注2:tumultus 「不安」「動揺」あるいは「騒ぎ」「混乱」 > 単数・属格 tumultūs)
      (訳注3:timor 「懸念」「恐怖」 > 単数・属格 timōris
      (訳注4:fuga 「逃走」「敗走」 > 単数・属格 fugae
  • adeo ut, cum Caesar signa fugientium manu prenderet et consistere iuberet,
    • カエサルが敗走して来る者たちの軍旗を手に取って、とどまることを命じていたときも、
  • alii dimissis equis eundem cursum confugerent,
    • ある者たちは、馬を放棄しても、同じ方向に逃げていたし、
  • alii ex metu etiam signa dimitterent,
    • ある者たちは、恐怖から、軍旗さえも放棄していたし、
  • neque quisquam omnino consisteret.
    • 誰一人として、まったくとどまらなかったほどであった

70節

[編集]

ポンペイウスが伏兵を警戒して、追撃をためらい、カエサル勢はかろうじて総崩れを免れる

  • ①項 His tantis malis
    • これらの手ひどい災厄マルムに対して、
  • haec subsidia succurrebant, quominus omnis deleretur exercitus,
    • 以下のことが、(カエサル勢の)すべての軍隊が全滅させられることないように、助け舟として支えていた。


   カエサル勢を全滅から救った要因は・・・

  • quod Pompeius insidias timens, credo,
    • ポンペイウス伏兵インシディアエを恐れていて ─と私(カエサル)は確信しているのだが─、
      (訳注:わざと敵に負かされたように見せかけて敗走し、
          敵が追撃して来たところを伏兵で不意打ちすることは戦術の常であった。)
  • quod haec praeter spem acciderant eius,
    • ━━ というのも、これら(の戦況)は、彼(ポンペイウス)の期待を超えて起こっていたからで、
  • qui paulo ante ex castris fugientes suos conspexerat,
    • 彼は、少し前には、陣営から脱走する配下の者たちを見ていたのだ ━━
  • munitionibus adpropinquare aliquamdiu non audebat,
    • (ポンペイウスは)しばらくの間、塁壁ムニティオに近づくことを、あえてしないでいた。
  • equitesque eius angustiis atque his a Caesaris militibus occupatis,
    • そして、彼(ポンペイウス)の騎兵たちは、狭いところがカエサルの兵士たちによって占められていたことにより、
  • ad insequendum tardabantur.
    • 追撃することに妨げられていた。


  • ②項 Ita parvae res magnum in utramque partem momentum habuerunt.
    • このように、ちまちました事柄が、双方にとって、局面モメントゥムを大きく支配したのである。
  • Munitiones enim a castris ad flumen perductae,
    • すなわち、陣営から川のたもとまで張り巡らされていた塁壁ムニティオが、
  • expugnatis iam castris Pompei, prope iam expeditam Caesaris victoriam interpellaverunt,
    • すでにポンペイウスの陣営を占領して、もはやほとんど成就していたカエサルの勝利を、邪魔したが、
  • eadem res celeritate insequentium tardata nostris salutem attulit.
    • 同じものが、(ポンペイウス勢の)追撃する者たちの速さを遅らせて、我が方(カエサル勢)に身の安全をもたらしたのである。

71節

[編集]

カエサル勢は約1000名が戦死し、ポンペイウスは戦勝将軍と讃えられる

  • ①項 Duobus his unius diei proeliis
    • 一日のうちの、これら2度の遭遇戦プロエリウムにより、
  • Caesar desideravit
    • カエサルは失った。
  • milites DCCCCLX
    • 兵士960名と、
  • et notos equites Romanos
    • 名高いローマ人騎士階級エクェスの者たち、
  • [Felginatem] Tuticanum Gallum, senatoris filium,
    • 元老院議員の息子[フェルギナス・]トゥティカヌス・ガッルス、
      (訳注:下線部は、Felginatem または Fleginatem などとなっているが、削除提案されている。)
  • C. Felginatem Placentia,
    • プラケンティア出身のガイウス・フェルギナス、
      (訳注:Placentiā 「プラケンティア(Placentia)出身の」
      プラケンティアは、現在のピアチェンツァ。ローマの軍事植民地で、騎士階級の入植者が多かったという。
      ヒスパニアから帰還した第9軍団がカエサルに反抗して反乱未遂事件を起こしたと、多くの史料が伝えているが、
      カエサル自身にとっては非常に都合の悪いことであり、『内乱記』ではまったく無視されている。)
  • A. Granium Puteolis,
    • プテオリ出身のアウルス・グラニウス、
      (訳注:Puteolīs 「プテオリ(Puteoli)出身の」。プテオリは、現在のナポリ近郊のポッツオーリ。)
  • M. Sacrativirum Capua,
    • カプア出身のマルクス・サクラティウィル、
      (訳注:CapuāカプアCapua)出身の」)
  • tribunos militum V(quinque),
    • 軍団次官トリブヌス・ミリトゥム5名、
      (訳注:写本では tr. mil. L などとなっており「軍団次官50名」と読めるが、多すぎると判断されている。
      5名に修正する提案があり、あるいは数を削除して上記の4名のことと解釈する提案がある。)
  • et centuriones XXXII;
    • および百人隊長ケントゥリオ32名を(カエサルは失った)。
(訳注:カエサルの記述では、戦死者は約1,000名と伝えているが、帝政期のギリシア人史家プルタルコスの『対比列伝』の「ポンペイウス」の章の65 では、カエサル勢の死者は約2,000名と伝えている。村川堅太郎 編『プルタルコス英雄伝 下』(ちくま学芸文庫) などを参照。)


  • ②項 sed horum omnium pars magna
    • けれども、この者たち皆のうちの大部分が、
  • in fossis munitionibusque et fluminis ripis oppressa suorum in terrore ac fuga
    • 怖気おじけや敗走のさなか、堀・塁壁ムニティオや川岸で、味方に押しつぶされて、
  • sine ullo vulnere interiit;
    • 何ら負傷なしに絶命したのだ。
  • signaque sunt militaria amissa XXXII.
    • 軍旗32本が失われた。
米国でかつて発行されていた10セント硬貨(1916~1945年)の裏面。
月桂樹で飾られた束桿ファスケスがデザインされている。
ファスケス(fascēs)というラテン語がファシズム fascism の語源であることは知られているが、ファシズムと戦った米国でも神聖なものとして重要なデザインに多用されており、実に興味深い。
月桂樹があしらわれたローマ軍の軍旗。
月桂樹は神聖なものとして、多くの特に重要なものにあしらわれていた。


   ポンペイウスが戦勝将軍と歓呼される

  • ③項 Pompeius eo proelio imperator est appellatus.
    • ポンペイウスは、その遭遇戦プロエリウム(の勝利)により、戦勝将軍インペラトルと(将兵たちから)呼びかけられた。
      (訳注:impĕrātor という単語は、一般に「命令する者、司令官、将軍」を意味するが、
      転じて「戦勝将軍、凱旋将軍、大将軍」というニュアンスで、
      戦いに勝った司令官を歓呼するときの呼称になった。
      のちには「支配者」「(帝政期の)君主」をも指すようになる。)
  • Hoc nomen obtinuit
    • (ポンペイウスは)この称号ノメンを保持して、
  • atque ita se postea salutari passus,
    • 以後は、そのように呼ばれることを黙認した。
      (訳注:salūtāre 「~と呼ぶ」または「あいさつする」)
  • sed <neque> in litteris praescribere est solitus,
    • けれども、手紙において頭書することを習慣とし<なかっ>たし、
      (訳注1:<neque> <なかった> は写本にはなく、挿入提案されたもの。
           neque ~, neque ・・・ 「~でもないし、・・・でもない」)
      (訳注2:下線部は、写本では quas scribere だが、
           praescrībere 「前書きする」、
           あるいは ādscrībere 「書き添える」などと修正提案されている。)
  • neque in fascibus insignia laureae praetulit.
    • 束桿(そっかん)ファスケス月桂樹ラウルス記章インシグネを顕示することもなかった。


   ラビエヌスが、捕虜たちを惨殺する

  • ④項 At Labienus,
  • cum ab eo impetravisset, ut sibi captivos tradi iuberet,
    • (カエサル配下の)捕虜たちが自分に引き渡されることを命じるように、
      (ポンペイウス)(すでに)頼み込んで獲得してあったので
  • omnes productos ostentationis, ut videbatur, causa,
    • 見せしめのため ──と思われたが── 全員を引き出して、
  • quo maior perfugae fides haberetur,
    • そのことによって、裏切り者ペルフガ忠誠フィデスがより大きいと思われるようにと、
  • commilitones appellans
    • 戦友たちよ、と呼びかけながら、
  • et magna verborum contumelia
    • かなりさげすんだ言葉で、
  • interrogans, solerentne veterani milites fugere,
    • 古参の兵士たちは逃亡することを習慣としているのか、と尋問しながら、
  • in omnium conspectu interfecit.
    • 皆の見ている前で、殺害した。
      (訳注:ラビエヌスは、『ガリア戦記』では、カエサルの無二の片腕のように描かれていた。
          そのラビエヌスの裏切りに対するカエサル自身の主観的な恨みつらみが込められているのであろう。
          『ガリア戦記』とは逆に、ポンペイウスとは対照的に、完全な悪役として描かれている。)

72節

[編集]

敗軍の将カエサルが敗因について弁解しつつ、勝者ポンペイウスの非をあげつらう

  • ①項 His rebus
    • これらの事態により、
  • tantum fiduciae ac spiritus Pompeianis accessit,
    • これほどの自信フィドゥキア慢心スピリトゥスが、ポンペイウス勢に加わったので
      (訳注:tantum ~, ut ・・・ 「これほどの~ので、・・・ほどである」「・・・ほど~である」)
  • ut non de ratione belli cogitarent,
    • 戦争の方法について熟慮することもなく、
  • sed vicisse iam sibi viderentur.
    • しかも、もはや、自分たちが勝利したと思われていたほどであった


  • ②項 Non illi paucitatem nostrorum militum,
    • あやつら(ポンペイウス勢)は、我が方(カエサル勢)の兵士たちが少数であること、
  • non iniquitatem loci atque angustias praeoccupatis castris
    • (カエサル勢により)奪取されていた陣営カストラにとっての地の利のなさ や狭さ、
  • et ancipitem terrorem intra extraque munitiones,
    • および塁壁ムニティオの内部と外部での二正面の恐怖、
  • non abscisum in duas partes exercitum,
    • (カエサルの左翼と右翼の)軍隊が二方面に隔てられていて、
      (訳注:abscīdere 「隔てる、分離する」 > 完了受動分詞 abscīsus 「隔てられた」)
  • cum altera alteri auxilium ferre non posset,
    • そのとき、一方が、もう一方に対して、助けをもたらすことができなかったこと、
  • causae fuisse cogitabant.
    • (これらが勝敗の)要因カウサであったと、熟慮することはなかった


  • ③項 Non ad haec addebant
    • これら(の要因)に、(以下の理由を)付け加えることもなかった。
  • non [ex] concursu acri facto,
    • 激しい急襲コンクルススがなされることもなく、
  • non proelio dimicatum,
    • 野外の会戦プロエリウムが闘われることもなく、
  • sibique ipsos multitudine atque angustiis maius attulisse detrimentum, quam ab hoste accepissent.
    • 敵から受けていたよりも、より大きな損害を、(カエサル勢)自身が大勢で狭いところにいたことで引き起こしたということを。


  • ④項 Non denique communes belli casus recordabantur,
    • 結局のところ、戦争に共通の偶発事カススを(彼らは)思い浮かべなかったのだ。
  • quam parvulae saepe causae
    • しばしば、どんなに取るに足らない要因カウサが、
  • vel falsae suspicionis
    • まちがった予測ススピキオ
      (訳注:suspīciō 「疑念」あるいは「予測」など。)
  • vel terroris repentini
    • あるいは 予期せぬ恐怖、
  • vel obiectae religionis
    • あるいは 引き起こされる疑念レリギオ(といったとるに足りない要因)が、
      (訳注:religiō 「疑念」「ためらい」ほか。)
  • magna detrimenta intulissent,
    • 大きな損害を引き起こしていたか、
  • quotiens vel ducis vitio vel culpa tribuni in exercitu esset offensum;
    • 何としばしば将帥ドゥクス過ちウィティウムにより、あるいは軍団次官トリブヌス過失クルパにより、軍隊において失敗したことか。
  • sed proinde ac si virtute vicissent
    • そればかりか(ポンペイウス勢が)まるで武勇により勝利したかのように
      (訳注:proinde ac si 「まるで~かのように」)
  • neque ulla commutatio rerum posset accidere,
    • 戦況レスの変化が何ら起こりえない(かのように)、
  • per orbem terrarum fama ac litteris
    • 世界中に、風評ファマ書状リッテラエにより、
      (訳注:orbis terrārum 「全世界」)
  • victoriam eius diei concelebrabant.
    • その日の勝利を、あまねく知らせていた。
      (訳注:concelēbrāre 「あまねく知らせる」)
  • (訳注:ポンペイウスらが勝敗の要因に思い至らないという本節の説明は、カエサルの主観的な憶測なのか、根拠が明示されていない。)

73節

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カエサルがデュッラキウム近郊の陣地から撤収して、演説で将兵たちを鼓舞する

  • ①項 Caesar ab superioribus consiliis depulsus
    • カエサルは、従前からの作戦計画コンシリウムを断念させられて、
      (訳注:dēpellere a(ab) ~ 「~を断念させる」 > 完了受動分詞 dēpulsus
  • omnem sibi commutandam belli rationem existimavit.
    • 自分の戦争のやり方のことごとくを変えるべきだ、と判断した。


   カエサルが兵士たちを集めて演説をする

  • ②項 Itaque,
    • そういうわけで、
  • uno tempore praesidiis omnibus deductis
    • 一時いちどきに、すべての陣地プラエシディウムから(軍勢を)引き出して、
  • et oppugnatione dimissa
    • 攻囲戦オップグナティオを断念して、
      (訳注:dīmittere 「放棄する」「断念する」 > 完了受動分詞 dīmissus
  • coactoque in unum locum exercitu,
    • 軍隊を1か所に集結させて、
  • contionem apud milites habuit
    • 兵士たちのもとで集会での演説コンティオをして、
  • hortatusque est,
    • (以下のように)勇気づけた。
  • ne ea, quae accidissent, graviter ferrent,
    • 起こってしまったことを、重く受け止めるな。
  • neve his rebus terrerentur
    • また、これらの事態におびえるな。
      (訳注:terrēre 「こわがらせる、おびえさせる」 > 3人称・複数・未完了過去受動接続法 terrērentur
  • multisque secundis proeliis unum adversum et id mediocre opponerent.
    • (従来の)順境のうちの幾多の戦闘に、ただ一度の逆境 ──それもとるに足らぬもの── を対比させてみよ。
      (訳注:oppōnere ~[与格] ・・・[対格] 「~に・・・を対比させる」)


  • ③項 Habendam fortunae gratiam,
  • quod Italiam sine aliquo vulnere cepissent,
    • というのも、(カエサルの兵士たちが)何ら負傷することなしにイタリアを(すでに)奪回したのだから。
  • quod duas Hispanias bellicosissimorum hominum peritissimis atque exercitatissimis ducibus pacavissent,
    • というのも、このうえなく好戦的な連中の二つのヒスパニアを、このうえなく磨きのかかった手練てだれの将帥ドゥクスたちによっていながらも、平定したのだから。
      (訳注1:duae Hispāniae 「二つのヒスパニア」・・・ 第1巻~第2巻でカエサルが制圧した Hispania CiteriorHispania Ulterior のこと。)
      (訳注2:bellicōsus, -a, -um 「好戦的な」 > 最上級 bellicosissimus 「このうえなく好戦的な」)
      (訳注3:perītus, -a, -um 「経験のある、熟練の」 > 最上級 peritissimus 「このうえなく経験のある」)
      (訳注4:exercitātus, -a, -um 「訓練された、熟練の」 > 最上級 exercitatissimus 「このうえなく訓練された」)
  • quod finitimas frumentariasque provincias in potestatem redegissent;
    • というのも、穀物を産出する近隣の諸属州を統制下に置いたのだから。
      (訳注:in potestatem redigere 「統制下に置く」)
  • denique recordari debere,
    • さらには、(以下のことを)想起しなければならぬ。
  • qua felicitate
    • 何という幸運によって、
  • inter medias hostium classes oppletis non solum portibus, sed etiam litoribus
    • 港湾だけでなく海岸さえも満ち満ちた敵方の艦隊の真っただ中を
  • omnes incolumes essent transportati.
    • 皆が無事に渡って来たではないか。


   カエサルが、敗戦の責任を免れようとする

  • ④項 Si non omnia caderent secunda,
    • もし、すべてのことが順調に起こるわけではないとすれば、
  • fortunam esse industria sublevandam.
    • 運命(の女神)フォルトゥナを、粉骨砕身インドゥストリアでもって手助けするべきだ。
  • Quod esset acceptum detrimenti,
    • 味わったその敗北デトリメントゥムは、
  • cuiusvis potius quam suae culpae debere tribui.
    • 自分(カエサル)責任クルパというよりもむしろ、誰(の責任)にも着せられるべきものだ。


  • ⑤項 Locum se aequum ad dimicandum dedisse,
    • 自分(カエサル)は、闘うための好都合な陣地ロクスを与え、
  • potitum se esse hostium castris,
    • 自分(カエサル)は、敵方の陣営を獲得して、
  • expulisse ac superasse pugnantes.
    • 敵対する者たちを駆逐して打ち破ったのだ。
      (訳注1:expellere 「追い払う」 > 完了・能動・不定法 expulisse
      (訳注2:superāre 「打ち負かす」 > 完了・能動・不定法 superasse
      (訳注3:pugnāre 「戦う」あるいは「敵対する oppose」 > 現在分詞 pugnāns
  • Sed sive ipsorum perturbatio
    • だが、(兵士)自身らの仰天ぶりが、
  • sive error aliquis
    • あるいは、何らかの過誤が、
  • sive etiam fortuna
  • partam iam praesentemque victoriam interpellavisset,
    • すでに手に入れていた眼前の勝利を、邪魔じゃましてしまったのだ。
      (訳注1:parere 「手に入れる、獲得する」 > 完了受動分詞 partus
      (訳注2:interpellāre 「妨害する、じゃまする」)
  • dandam omnibus operam, ut acceptum incommodum virtute sarciretur.
    • 味わった敗北を武勇で埋め合わせするように、(兵士ら)全員にとって、尽力オプスが捧げられるべきだ。
      (= 兵士たち全員は、味わった敗北を埋め合わせするべく、尽力を捧げるべきである。)


  • ⑥項 Quod si esset factum,
    • もしも、そのことが実行されたなら、
  • <futurum>, ut detrimentum in bonum verteret, uti ad Gergoviam accidisset,
    • ゲルゴウィアで生じたように、災禍を転じて福となす<ことになるであろう>。
      (訳注:『ガリア戦記』第7巻で述べられたように、ゲルゴウィアの戦いでウェルキンゲトリクス率いるガリア軍にカエサルは完敗した。)
  • atque ei, qui ante dimicare timuissent,
    • 従前には闘うことが気がかりであった者も、
  • ultro se proelio offerrent.
    • 自ら進んで、戦闘に身をていするのだ。

74節

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カエサル配下の将兵たちは雪辱に燃えるが、カエサルは当面の戦闘回避を判断

  • ①項 Hac habita contione
    • こういう(集会での)演説コンティオをすると、
  • nonnullos signiferos ignominia notavit
    • 少なからぬ軍旗の旗手シグニフェルたちを不名誉イグノミニアということで訓戒して、
      (訳注:notāre 「不名誉の烙印を押す、汚名を着せる」brand as infamous または「非難する、とがめる」censure
  • ac loco movit.
    • (旗手の)職位ロクスから解任した。
      (訳注:movēre 「解任する」remove


  • ②項 Exercitui quidem omni tantus incessit ex incommodo dolor tantumque studium infamiae sarciendae,
    • まったく全軍隊に、敗戦インコンモドゥムゆえのこれほどの無念さドロルや、面汚しインファミアを埋め合わせるべきだというこれほどの意気込みストゥディウム が降りかかって、
  • ut nemo aut tribuni aut centurionis imperium desideraret
    • 軍団次官トリブヌスあるいは百人隊長ケントゥリオ号令インペリウムを、誰も望むことなかったし、
  • et sibi quisque etiam poenae loco graviores inponeret labores
    • さらには、おのおのが、懲罰ポエナとして、より重い労務を自らに課して、
  • simulque omnes arderent cupiditate pugnandi,
    • 同時に、皆が戦う功名心クピディタスに燃え上がっていた。
  • cum superioris etiam ordinis nonnulli ratione permoti
    • そのとき、より高い階級の少なからぬ者たちでさえも、(戦争の)やり方ラティオに突き動かされて、
  • manendum eo loco et rem proelio committendam existimarent.
    • その地にとどまるべきで、戦闘に命運レスをゆだねるべきだ、と判断していたのだ。


  • ③項 Contra ea Caesar
    • それに反して、カエサルは、
  • neque satis militibus perterritis confidebat
    • 怖気おじけづいていた兵士たちを十分に信頼していなかったし、
  • spatiumque interponendum ad recreandos animos putabat,
    • 闘志アニムスを回復させるために、時間的猶予スパティウムが間に置かれるべきだ、と考えていて、
  • relictisque munitionibus magnopere rei frumentariae timebat.
    • 塁壁ムニティオを放置したので、糧秣補給について大いに心配していた。

(上巻おわり)

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内乱記』第3巻 は長いため、カエサルの敗戦をもって上巻をおわりとし、これ以降を 下巻 とする。



脚注

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  1. ^ マティアス・ゲルツァー著『ローマ政治家伝Ⅰ カエサル』(長谷川博隆訳、名古屋大学出版会)p.185 を参照。
  2. ^ マティアス・ゲルツァー著『ローマ政治家伝Ⅰ カエサル』(長谷川博隆訳、名古屋大学出版会)p.184~185 を参照。
  3. ^ 『ローマの歴史 Ⅳ──カエサルの時代』モムゼン著、長谷川博隆訳、名古屋大学出版会、p.356を参照。
  4. ^ Dictionary of Greek and Roman Geography (1854), VIA EGNA´TIA などを参照。
  5. ^ カエリウス・ルフスとは - コトバンクなどを参照。
  6. ^ キケロ『カエリウス弁護』(対訳版)(個人訳)などを参照。
  7. ^ 機動力(キドウリョク)とは - コトバンク
  8. ^ 例えば、『プルタルコス英雄伝 下』(筑摩書房)の長谷川博隆訳「カエサル」p.227~228