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竹取物語 かぐや姫のおひたち

出典: フリー教科書『ウィキブックス(Wikibooks)』
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かぐや姫のおひたち

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1今は昔、竹取の(おきな)といふものあり2けり。 野山にまじりて竹をとり3つつ、(よろづ)のことにつかひけり。 名4をば5讃岐造麿(さぬきのみやつこまろ)6なむいひける。 その竹の中に、本光る竹一(すぢ)ありけり。 怪しがりて寄りて見るに、筒の中光りたり。 それを見れば、三寸ばかりなる人いと7美しうてゐたり。 翁いふやう、
「われ朝ごと夕ごとに見る竹の中におはする8にて知りぬ。子になり給ふべき人9なめり。」
とて、手にうち入れて家に持ちて来ぬ。 妻の(おうな)にあづけて養はす。 美しきこと限りなし。 いと幼けれ10ば、()に入れて養ふ。

今となっては昔のことだが、竹取の翁というものがいた。 野山に分け入って竹をとっては、様々なことに使っていた。 名をさぬきのみやつこまろと言った。 その竹の中に、根元が光るものが一本あった。 不思議がって近づいて見ると、竹の筒の中が光っていた。 それを見ると、三寸ほどの人がたいそうかわいらしく座っていた。 翁が言うことは、
「私が毎朝毎晩見ている竹の中にいらっしゃるために分かった。子供になってくださる人であるようだ。」
と、手に入れて家に持って来た。 妻の嫗にあずけて育てさせる。 かわいらしいこと限りがない。 たいそう小さいので、籠に入れて育てる。

  1. 今は昔
    物語のはじめの決まり文句。この場合は現代で言うところの「むかしむかし」にあたる部分で、読者をこの世界に引き込ませる言葉の一つ。
  2. けり
    過去の助動詞。助動詞「」との違いの一つは、「き」が直接経験し記憶にある過去の意味をあらわすのに対し、「けり」は人から伝え聞いたことの回想をあらわすことである。
  3. つつ
    反復・継続の意味の接続助詞。ここでは、「竹をとる」という動作と「よろづのことにつかふ」という動作が同時に行われていることをあらわす。
  4. をば
    格助詞「を」に係助詞「は」が付き、「は」が連濁を起こしたもの。「を」を強調する。係助詞「は」の結びで文末の「けり」が連体形の「ける」になっている。
  5. 讃岐造麿(さぬきのみやつこまろ)
    竹取の翁の名前である。讃岐氏は朝廷に竹細工を献上していたとされる。
  6. なむ
    係助詞。係り結びで文末「ける」は連体形で結ばれている。
  7. 美しう
    形容詞の連用形「―しく」「―く」が助詞「」「しく」や他の用言に続くときはウ音便になる。
  8. にて
    理由や原因をあらわす接続助詞。
  9. なめり
    断定の助動詞「なり」の連体形「なる」に推量の助動詞「めり」が付いた「なるめり」の撥音便形「なんめり」の「ん」が表記されないもの。古くは「ん」の文字は用いられなかった。
  10. 順接の接続助詞。ここでは、前の語「幼けれ」は已然形であるので確定条件である。

竹取の(おきな)この子を見つけて後に、竹をとるに、節をへだてて1よごとに金ある竹を見つくること重なりぬ。 2かくて翁やうやう豊かになりゆく。 この(ちご)養ふ3ほどに、すくすくと大きになりまさる。 三月(みつき)ばかりになる程に、4よき程なる人になりぬれば、5髪上げなどさうして、髪上げさせ6裳着(もぎ)す。 (ちやう)の内よりも(いだ)さず、いつき養ふ。 この児のかたち(けう)らなること7世になく、()の内は暗き処なく光満ちたり。 翁心地あしく苦しき時も、この子を見れば苦しき事も止みぬ。 腹だたしきことも慰みけり。

竹取の翁はこの子を見つけて以後に、竹を取ると、節を隔てて空洞(よ)ごとに金が入っている竹を見つけることが重なった。 このようにして、翁はだんだん豊かになっていく。 この子を育てると、すくすくと大きくなっていく。 三か月ほどたった頃に、成人したので、髪上げなどをあれこれ手配して、髪上げし裳着を行った。 帳台の中からも出さず、心をこめて大切に育てる。 この子の顔だちの美しいことは世に類がなく、家の中は暗いところなど無いほど光に満ち溢れていた。 翁は気分が悪く苦しいときでも、この子を見ると苦しいこともなくなった。 腹立たしいことも気が晴れた。

  1. 竹の節と節の間の空洞のこと。
  2. かくて
    このようにして、の意。
  3. ほどに
    理由や原因をあらわす。
  4. よき程
    かぐや姫は、三か月で十二、三歳のように育ち、成人した。
  5. 髪上げ
    平安時代、女性は成人(十二、三歳ごろ)すると、髪を結い上げた。これを「髪上げ」という。
  6. 裳着
    」は女性が腰から下にまとう衣。女性が成人すると、髪上げと同時に、裳着の式が行われた。
  7. 世になし
    世の中に比類がない、の意。

(おきな)、竹を取ること1久しくなりぬ。 2勢猛(いきほひまう)の者になりにけり。 この子いと大きになりぬれば、名をば三室戸斎部秋田(みむろとのいむべのあきた)を呼びてつけさす。 秋田、3なよ竹のかぐや姫とつけつ。 このほど三日うちあげ4遊ぶ。 (よろづ)の遊びをぞしける。 男女(をとこをうな)きらはず呼び集へて、いとかしこく遊ぶ。

翁は竹を取ることが長くなった。 財力の大きい者になった。 この子の背丈がたいそう大きくなったので、三室戸斎部秋田を呼んで名前をつけさせた。 秋田は、なよ竹のかぐや姫、と名づけた。 この三日間は酒盛りをして楽しむ。 管弦や歌舞などありとあらゆる遊びをした。 男も女も分け隔てなく呼び集めて、たいそう盛大に楽しんだ。

  1. 久しく
    時間の経過が長い、の意。
  2. 勢猛
    大きな財力や権力がある様。
  3. なよ竹
    ほそくしなやかな竹。しなやかな女性に対しても用いる。
  4. 遊ぶ
    歌舞や管弦をして楽しむ。


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