軍事入門/戦争法の基礎

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本章では戦時国際法について触れ、以後の学習の導入とする。

戦争法の基本[編集]

戦争にもその方法に制限が定められている。これは現代では国際法によって様々に規定されている。戦争法、戦時国際法または国際人道法として呼称されるこの国際法は戦闘行為を制約するものであるが、これには二つの原則がある。まず一つは軍事的な必要性がある。すなわち軍事作戦を行うために必要な最低限度の行為を正当化する原則である。また第二に人道性の原則がある。つまりこれは人権や人間の尊厳を侵害する行為を禁止するものであり、不必要な殺戮や破壊、文民への攻撃など軍事目的達成に必要ではない暴力を禁止する原則である。

陸戦法規[編集]

ノルウェー陸軍の衛生兵。衛生要員は戦闘員ではないが、死傷率が他の兵士と比べて低いわけではない

陸戦法規は陸上の戦闘行為を制限する規則であり、1977年の「ジュネーブ条約に追加される国際武力紛争の犠牲者の保護に関する議定書」などによって規定されている。まず原則として攻撃は軍事目標と敵の戦闘員に限定することである。軍事目標とは敵軍の陣地や基地、兵器類などの物的な軍事作戦で用いられる物的な目標である。戦闘員は軍隊の兵士たちのことであり、衛生要員や宗教要員を除外したものである。また陸戦法規では攻撃を禁止する目標についても規定している。降伏した兵士、捕獲者、戦闘不能者、軍隊の衛生兵や宗教要員、文民、病院などの医療施設、歴史遺産、芸術品、礼拝所、住民生活に必要な食料施設、作物、灌漑設備、ダム、堤防、原発、民間防衛団体の要員などである。さらに無差別攻撃、文民への被害が大きすぎる攻撃なども禁じられる。

海戦法規[編集]

米海軍の病院船。このように赤十字の標示が行われている

海戦法規は陸戦法とは異なった内容を持ち、海戦は敵艦隊の撃破だけでなく敵の商船隊を壊滅させることや中立国船舶の利敵行為を阻止するためにも固有の目標となりうる。そのために陸戦法では禁止される私有財産、すなわち敵国の民間人が運航する商船と貨物を没収することが可能であり、また場合によって敵国の商船を無警告で撃沈することも可能であり、条件が満たされれば中立国商船も拿捕することができる。これらの基本的な原則としては海戦法では軍人と文民で区別するのではなく、敵軍の戦争遂行努力に参加した私的な船舶すらも軍事目標として攻撃することが出来るのだ。ただし、病院船や救助用の船舶などの人道目的の船舶及び、中立国の軍艦や軍用機や船舶は公海と排他的経済水域で自由に行動する権利があるため軍事目標とはならない。

演習問題[編集]

  1. 敵の輸送を阻害するために鉄道を爆破する場合、爆破目標が駅とトンネルのどちらを軍事目標として攻撃すべきか述べて、その理由を説明せよ。
  2. 射撃で被弾した敵兵に赤十字の腕章をつけた兵士が駆け寄った場合、この兵士を射撃すべきか述べよ。
  3. 小規模な貨物を積んだ敵国の漁船が国際水域で航行していたのを発見した場合、これを軍事目標として攻撃すべきかどうかを述べて、その理由を説明せよ。