高等学校倫理/芸術Ⅱ

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 本節は、芸術と社会について扱います。

関係を生むものとしての芸術[編集]

 現在、インターネットを通じて世界中の人間と繋がり、日々大量の情報をやり取りしています。しかし、利用者の感情を操るようなイメージも数多く作られています。このようなイメージは、私達の行動や社会全体に大きな影響を与えています。例えば、Z世代のような一般的なイメージが広まったり、嘘の報道や広告を信じたりすれば、言い争いや蟠りが生まれます。フランスの作家・映画作家ギー・ドゥボールは、上記のイメージを重視するような社会を「スペクタクル社会(見世物社会)」と表現しています。

 イメージは無意識に縛られており、このような支配から自由になるために、どのような芸術をしたらいいでしょうか?芸術家の豊かな表現が、私達の見方を大きく変えてしまうかもしれません。また、芸術は、現実の問題に様々な人々が関わり、新たな関係性を築き、その問題を取り巻く環境を変えようとします。つまり、芸術は作者と鑑賞者の立場に留まらず、現実の問題に関心を持って、その問題について話し合うような様々な立場の人の意見を聞く姿勢こそ、自分の考え方・生き方・社会の仕組みを変えるきっかけになるかもしれません。現在、「ソーシャリー・エンゲイジド・アート(社会関与の芸術)」が世界中で注目を集めています。

ソーシャリー・エンゲイジド・アート〔Socially Engaged Art〕
 ソーシャル・エンゲイジド・アートは、具体的な地域・社会の問題と向きあうための関係性を生み出すためにあります。例えば、メキシコでは、クーポン券と引き換えにピストルを集めてシャベルに変え、発砲事件の対策に役立てようと試みています。また、日本でもひきこもり問題に関心を持たせるために、ひきこもり当事者が部屋を撮影して、撮影済みの部屋を展示しています。さらに、心に傷を抱えた人の言葉から関係を築こうとするような企画もあります。このような活動の大半は、公共空間をもっと良くするために、人々の協働や関係に注目するので、作者や作品の考え方を超えています。

資料出所[編集]

  • 竹内整一ほか編著『倫理』東京書籍株式会社 2023年