高等学校化学I/金属の精錬

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鉄鋼[編集]

銑鉄[編集]

鉄鉱石からの鉄の精錬では、赤鉄鉱 Fe2O3 などの鉄鉱石を溶鉱炉でとかし、炭素などを加えて還元し、また不純物をとりのぞくため石灰石 CaCO3 を加える。石灰石によりシリカSiO2やアルミナAl2O3などの脈石(岩石を構成する成分のこと。)が分離される。 このようにして得た鉄を銑鉄(せんてつ)という。

高炉プロセスの概略図。
Trocken -und Vorwärmzone:乾燥および予熱
Reductionzone :還元の領域 。 Kohlungzone :浸炭の領域
Schmelzzone :融解の領域 。 
Roheisen :銑鉄
schlacke :スラグ

Erz :鉱石 。  koks :コークス 。 zuschläge :追加物

Gichtgas :高炉ガス

石灰石は、鉱石中のケイ酸塩と反応しスラグ CaSiO3 を形成し、スラグは比重が銑鉄より軽いため、スラグは銑鉄に浮かぶので、これを溶鉱炉から分離する。スラグはセメントの原料になるので、スラグは廃棄せず分離して回収する。

また、炭素や石灰石などの添加は、融点を下げる役割も有る。凝固点降下と同じ原理である。一般に混合物は融点が下がる。

銑鉄は還元に用いた炭素Cを多く含む。 炭素を4%以上より多く含む鉄など、鉄中の炭素が多いと、粘りが無くなり、衝撃などに対して脆く、硬いが割れやすくなる。 このような鉄は、割れやすいが混合物のため融点が低く、また流動性も良いため鋳造(ちゅうぞう)に用いられる。そのため、このように炭素含有量の多い鉄は鋳鉄(ちゅうてつ)と呼ばれる。

しかし鋳鉄は割れやすいため、鋳造以外の他の用途には不便である。 丈夫な鉄を得るには銑鉄の炭素量を適量に減らす必要があり、転炉で酸素を加えて燃焼させて取り除く。転炉には、酸素吹き込み転炉などを用いる。この酸素吹き込みの酸化熱が、鉄を溶かし続ける熱源に使える。


炭素含有量を減らして炭素Cを0.02%~2%ほど含む鉄を(こう)という。

鋼の中の炭素および他の合金成分の量が少ないと、鋼は柔らかくなり、比較的に軟らかい鋼を軟鋼(なんこう)という。 炭素量および他の合金成分が多いと、鋼は固くなるので、このような、固い鋼を硬鋼(こうこう)という。


鉄鉱石の還元反応は以下の反応である。

溶鉱炉内では段階的に還元し、

と還元していく。

   [450℃]
   [800℃]
   [1200℃]

添加物のため融点は下がり、およそ1400℃で融解し、溶鉱炉の底に溶けた鉄がたまる。 なお、1200℃での反応の式について、温度が高くなりすぎると、逆方向に反応が進んでしまいCO2によるFeの酸化が起きるので、1200℃程度を保つ必要がある。

鋼にCrやNiを混ぜた合金がステンレス鋼である。このステンレス鋼は化学的な耐食性が高い。

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銅の鉱石には黄銅鉱CuFeS2がある。精錬にはまず、黄銅鉱を溶鉱炉で溶かす。溶鉱炉にはコークスCおよびケイ砂SiO2を加える。

硫化銅Cu2Sは「かわ」とよばれる。この硫化銅は炉の下層に沈む。FeSiO3 は上層に分離する。溶鉱で発生したFeSiO33は「からみ」という。なおFeSiO3 の式をFeOSiO2と書く場合もある。

この硫化銅を転炉で空気を吹き込むと、銅が遊離する。


転炉で作った銅を粗銅(そどう)という。粗銅の純度は98.5%程度である。

粗銅の純度を上げる目的で金属のイオン化傾向を利用した電気精錬が行われる。粗銅を陽極にして、純銅板を陰極にして硫酸銅CuSO4水溶液中で電気分解すると、陰極に純度が高い銅(99.97%程度)が析出する。 このように電気精錬で得た銅を電気銅という。 この電気銅が、現在(西暦2013年に記事を執筆)、用いられている銅材料の原料である。

なお、電気精錬の際に、銅中に銀Agや金Auなどの不純物が混ざっていると、電気精錬の際に、銀や金はイオン化傾向が銅よりも低いのでイオン化せず、金や銀が陽極の下に沈殿する。この沈殿を陽極泥という。


電気銅は、まだ水素や硫黄などの不純物が含まれており、それらの不純物を取り除くため電気銅のあとにも精錬は続く。 特に、銅への水素の混入は、水素脆性(すいそぜいせい)という金属材料が脆くなる原因になるので、取り除かなければならない。

銅の特徴として、銅は電気の伝導性がよく、また熱の伝導性も良い。なお、一般に純金属の熱伝導性と電気伝導性は比例する。


アルミニウム[編集]

アルミニウムの精錬は、鉱石のボーキサイトからアルミナAl2O3を抽出する工程と、アルミナAl2O3から電解してアルミニウムを得る工程からなる。

バイヤー法[編集]

アルミニウムの天然の鉱石はボーキサイト(bauxite)といい、ボーキサイトの化学式はAl2O3・nH2Oである。ボーキサイトに濃い水酸化ナトリウム溶液NaOHを加えてアルミン酸ナトリウム2Na[Al(OH)4]が得られる。正確にはテトラヒドロキドアルミン酸ナトリウムという。

アルミン酸ナトリウム2Na[Al(OH)_4]の溶液を冷却し、加水分解がおこると水酸化アルミニウムAl(OH)3 の沈殿が析出する。

生じたAl(OH)3 を分離して、このAl(OH)3を1200℃に加熱して酸化アルミニウムAl2O3にする。 これらのボーキサイトからアルミナまでの工程をバイヤー法という。

Al2O3アルミナという。アルミナは融点が高く、約2000℃の融点なので、融点を次の融解塩電解という処理で下げる。

アルミナの融解塩電解[編集]

まず、氷晶石を加える。すると融点が下がる。これを電解してアルミニウムにする。 この氷晶石を用いたアルミナの融解の方法をホール・エルー法という。


※ 化学1でも電気分解を紹介してるので、読者は必要に応じ参照されたい。

工程は以下のとおり。 アルミナAl2O3(融点 2072 °C)に氷晶石Na3 AlF6(融点 1012℃)を、割合が氷晶石9.5重量%ほどになるまで少しずつ加える。氷晶石はアルミナにとって不純物であり、不純物との混合によって溶融温度が下がり、融点が約970℃になる。 溶融したアルミナを電気分解によって、精錬する。

また、このように添加物を加えて融点を下げ、溶融させて電解する方法を融解塩電解または溶融塩電解という。


溶融塩電解による精錬は、アルミニウムの他に、酸化マグネシウムMgOからマグネシウムMgを精錬する場合や、酸化チタンTiO2からチタンTiを精錬する場合に用いられる。

ちなみにアルミナAl2O3 はセラミック材料として様々な優れた性質を持っている。 酸化マグネシウム(マグネシアという)や酸化チタンもセラミックス材料として優れた性質を持っている。

アルミニウムやマグネシウムなどのように酸化物からの精錬に手間が掛かる材料は、裏を返せば、アルミナやマグネシアのように酸化物はセラミックスとして安定した性質を持っているということでもある。