C++/C++開発環境の整備

出典: フリー教科書『ウィキブックス(Wikibooks)』
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C++開発環境の基本知識[編集]

C++の概要と歴史[編集]

C++は、Bjarne Stroustrupによって1983年に開発された汎用プログラミング言語であり、C言語にオブジェクト指向の概念を取り入れたものです。C++は、システムプログラミングやゲーム開発、デバイスドライバ、グラフィックスアプリケーションなど幅広い分野で使用されています。 2020年12月に規格出版された ISO/IEC 14882:2020(通称 C++20)では、モジュールやコルーチン、コンセプトなどの新機能が導入され、さらに表現力が向上しました。

C++開発環境の必要要素[編集]

C++開発環境を整えるためには、以下の要素が必要です。

コンパイラ
ソースコードを実行可能なバイナリに変換するツール。
エディタ/IDE
コードの編集、デバッグ、ビルドを支援するツール。
ビルドシステム
プロジェクトのビルドを管理するツール(例: CMake)。
デバッガ
実行中のプログラムを解析し、問題を見つけるツール。
パッケージ管理ツール
外部ライブラリの管理を行うツール(例: Conan、vcpkg)。

クロスプラットフォーム開発の利点と課題[編集]

クロスプラットフォーム開発の主な利点は、同一のコードベースで複数のプラットフォームに対応できることです。これにより、開発コストや保守コストを削減できます。一方で、各プラットフォームの特有の問題や依存関係を管理する必要があるため、慎重な設計とテストが求められます。


Windows向けC++開発環境の整備[編集]

必要なハードウェアとソフトウェアの要件[編集]

ハードウェア
現代的なプロセッサ、8GB以上のRAM、十分なディスクスペース
ソフトウェア
Windows 10/11、最新のWindows SDK

Visual Studioのインストールと設定[編集]

Visual Studioのダウンロードとインストール
Visual Studioの公式サイトからインストーラーをダウンロードします。
インストーラーを実行し、「C++によるデスクトップ開発」を選択して必要なコンポーネントをインストールします。
Visual Studioの初期設定
初回起動時に、IDEのテーマや設定をカスタマイズします。
「ツール」 -> 「オプション」 -> 「プロジェクトおよびソリューション」からビルドと実行の設定を確認し、必要に応じて変更します。
プロジェクトの作成
「新しいプロジェクトの作成」から「コンソールアプリケーション」を選択し、C++プロジェクトを作成します。
ソースコードファイル(.cpp)を追加し、基本的なC++プログラムを記述します。
デバッグとビルド
F5キーを押してデバッグモードでプログラムを実行します。
デバッグウィンドウを使用して変数の値やコールスタックを確認します。

MSYS2の導入と設定[編集]

MSYS2のインストール
MSYS2公式サイトからインストーラーをダウンロードします。
インストーラーを実行し、基本的なC++ツールチェインをインストールします。
MSYS2
環境変数の設定
システムの「環境変数」設定から、MSYS2のbinディレクトリを「Path」に追加します。

VS Codeと他のエディタの使用方法[編集]

VS Codeのインストール
VS Codeの公式サイトからインストーラーをダウンロードし、インストールします。
C++拡張機能の設定
VS Codeを起動し、「拡張機能」パネルから「C++」拡張機能(Microsoft提供)をインストールします。
「settings.json」ファイルでインクルードパスやコンパイルコマンドを設定します。
他のエディタ(例
Sublime Text, Atom)の設定
各エディタの公式サイトからダウンロードしてインストールします。
必要なプラグインや拡張機能をインストールしてC++開発環境を整備します。

Windows向け開発のベストプラクティス[編集]

コードの整形とスタイルの統一
clang-formatを使用してコードスタイルを統一します。
バージョン管理の使用
Gitを使用してコードのバージョン管理を行います。
自動化ツールの活用
CMakeを使用してプロジェクトのビルドを自動化します。

macOS向けC++開発環境の整備[編集]

必要なハードウェアとソフトウェアの要件[編集]

ハードウェア
MacBookやiMacなどのApple製デバイス、8GB以上のRAM、十分なディスクスペース
ソフトウェア
macOS最新バージョン、Xcode、Homebrew

Xcodeのインストールと設定[編集]

Xcodeのダウンロードとインストール
App StoreからXcodeをダウンロードし、インストールします。
Xcodeの初期設定
初回起動時に、必要なコンポーネントが自動的にインストールされます。
「Preferences」 -> 「Locations」からコマンドラインツールの設定を確認します。
プロジェクトの作成
「Create a new Xcode project」から「macOS」 -> 「Command Line Tool」を選択し、C++プロジェクトを作成します。
デバッグとビルド
Xcodeのビルドボタンを押してプログラムをビルドし、デバッグモードで実行します。
デバッグコンソールで変数の値やコールスタックを確認します。

Homebrewを使用したツールチェインの整備[編集]

Homebrewのインストール
ターミナルを開き、以下のコマンドを実行してHomebrewをインストールします。
      /bin/bash -c "$(curl -fsSL https://raw.githubusercontent.com/Homebrew/install/HEAD/install.sh)"
必要なパッケージのインストール
gccやcmakeなど、必要なツールをHomebrewを使ってインストールします。
      brew install gcc cmake

VS CodeやCLionの設定[編集]

VS Codeのインストール
VS Codeの公式サイトからインストーラーをダウンロードし、インストールします。
C++拡張機能の設定
VS Codeを起動し、「拡張機能」パネルから「C++」拡張機能(Microsoft提供)をインストールします。
「settings.json」ファイルでインクルードパスやコンパイルコマンドを設定します。
CLionのインストールと設定
CLionの公式サイトからインストーラーをダウンロードし、インストールします。
初回起動時にライセンスの設定と初期設定を行います。

macOS向け開発のベストプラクティス[編集]

クロスプラットフォームコードの記述
POSIX標準APIを使用し、プラットフォーム依存コードを最小限にします。
ユニットテストの導入
Google TestやCatch2を使用してユニットテストを導入します。
継続的インテグレーション(CI)
GitHub ActionsやTravis CIを使用して、継続的インテグレーションを設定します。

Linux向けC++開発環境の整備[編集]

必要なハードウェアとソフトウェアの要件[編集]

ハードウェア
モダンなプロセッサ、8GB以上のRAM、十分なディスクスペース
ソフトウェア
最新のLinuxディストリビューション(Debian, Fedoraなど)

gccやclangのインストールと設定[編集]

gccのインストール
ターミナルを開き、以下のコマンドを実行してgccをインストールします(Debianの場合)。
      sudo apt update
      sudo apt install build-essential
clangのインストール
ターミナルを開き、以下のコマンドを実行してclangをインストールします(Debianの場合)。
      sudo apt install clang
コンパイルと実行
簡単なC++プログラムを作成し、以下のコマンドでコンパイルと実行を行います。
      g++ -o my_program my_program.cpp
      ./my_program

各種Linuxディストリビューション(Debian、Fedoraなど)での環境整備[編集]

Debian
aptパッケージマネージャーを使用して必要なツールをインストールします。
Fedora
dnfパッケージマネージャーを使用して必要なツールをインストールします。
      sudo dnf install gcc-c++ make
その他のディストリビューション
各ディストリビューションの公式パッケージマネージャーを使用してツールをインストールします。

IDEの選定と設定(VS Code、CLion、Eclipseなど)[編集]

VS Codeのインストール
VS Codeの公式サイトからインストーラーをダウンロードし、インストールします。
C++拡張機能の設定
VS Codeを起動し、「拡張機能」パネルから「C++」拡張機能(Microsoft提供)をインストールします。
「settings.json」ファイルでインクルードパスやコンパイルコマンドを設定します。
CLionのインストールと設定
CLionの公式サイトからインストーラーをダウンロードし、インストールします。
初回起動時にライセンスの設定と初期設定を行います。
Eclipseのインストール
Eclipseの公式サイトからインストーラーをダウンロードし、Eclipse IDE for C/C++ Developersを選択してインストールします。

Linux向け開発のベストプラクティス[編集]

パッケージ管理の利用
aptやdnfを使用して必要なライブラリを管理します。
Makefileの活用
Makefileを使用してビルドプロセスを自動化します。
コードのテスト
Valgrindを使用してメモリリークやメモリ管理の問題を検出します。

クラウド環境でのC++開発[編集]

クラウド環境の概要と利点[編集]

クラウド環境は、スケーラブルなコンピューティングリソースを提供し、インフラストラクチャの管理を簡素化します。これにより、リソースの効率的な使用、コストの削減、迅速なデプロイが可能になります。

AWS、Azure、GCPでのC++開発環境整備[編集]

AWSでの環境整備
EC2インスタンスの作成
AWS Management Consoleにアクセスし、EC2ダッシュボードから新しいインスタンスを作成します。
必要な設定(インスタンスタイプ、ストレージ、セキュリティグループなど)を行い、インスタンスを起動します。
ツールのインストール
SSHを使用してインスタンスに接続し、必要な開発ツール(gcc, cmakeなど)をインストールします。
Azureでの環境整備
仮想マシンの作成
Azure Portalにアクセスし、新しい仮想マシンを作成します。
必要な設定を行い、仮想マシンを起動します。
ツールのインストール
SSHを使用して仮想マシンに接続し、必要な開発ツールをインストールします。
GCPでの環境整備
Compute Engineインスタンスの作成
GCP Consoleにアクセスし、新しいCompute Engineインスタンスを作成します。
必要な設定を行い、インスタンスを起動します。
ツールのインストール
SSHを使用してインスタンスに接続し、必要な開発ツールをインストールします。

Dockerを使用したコンテナ化と環境設定[編集]

Dockerのインストール
Docker公式サイトからインストーラーをダウンロードし、インストールします。
Dockerfileの作成
プロジェクトのルートディレクトリにDockerfileを作成し、開発環境を定義します。
    FROM ubuntu:latest
    RUN apt-get update && apt-get install -y build-essential cmake
    WORKDIR /app
    COPY . /app
Dockerイメージのビルドとコンテナの実行
以下のコマンドを実行してDockerイメージをビルドし、コンテナを起動します。
    docker build -t my_cpp_app .
    docker run -it --rm my_cpp_app

CI/CDパイプラインの構築[編集]

GitHub Actionsを使用したCI設定
.github/workflowsディレクトリにCI用のワークフローファイルを作成します。
    name: C++ CI

    on: [push, pull_request]

    jobs:
      build:
        runs-on: ubuntu-latest
        steps:
        - uses: actions/checkout@v2
        - name: Install Dependencies
          run: sudo apt-get install -y build-essential cmake
        - name: Build
          run: |
            cmake .
            make
        - name: Run Tests
          run: ./tests
Travis CIを使用したCI設定
プロジェクトルートに.travis.ymlファイルを作成し、CI設定を定義します。
    language: cpp
    compiler:
      - gcc
      - clang
    before_install:
      - sudo apt-get update -qq
      - sudo apt-get install -y build-essential cmake
    script:
      - cmake .
      - make
      - ./tests

クラウド開発のベストプラクティス[編集]

インフラストラクチャのコード化
TerraformやCloudFormationを使用してインフラをコードとして管理します。
自動スケーリング
負荷に応じて自動的にリソースをスケーリングする設定を行います。
セキュリティの確保
適切なアクセス制御とネットワークセキュリティを設定します。

プラットフォームに依存しないツールとテクニック[編集]

バージョン管理システム(Gitなど)[編集]

Gitのインストール
各プラットフォームに応じた方法でGit

をインストールします(例: apt-get install git)。

基本的なGitコマンド
リポジトリの初期化: git init
ファイルの追加とコミット: git add .git commit -m "初回コミット"
リモートリポジトリの設定: git remote add origin <リポジトリURL>
プッシュとプル: git push origin mastergit pull origin master

テストフレームワーク(Google Test、Catch2など)[編集]

Google Testのインストールと設定
ソースコードをダウンロードし、ビルドします。
    git clone https://github.com/google/googletest.git
    cd googletest
    cmake .
    make
    sudo make install
基本的なテストケースの作成
    #include <gtest/gtest.h>

    TEST(SampleTest, Test1) {
        EXPECT_EQ(1, 1);
    }

    auto main(int argc, char **argv) -> int{
        ::testing::InitGoogleTest(&argc, argv);
        return RUN_ALL_TESTS();
    }
Catch2のインストールと設定
シングルヘッダーファイルをダウンロードし、プロジェクトに追加します。
    #define CATCH_CONFIG_MAIN
    #include "catch.hpp"

    TEST_CASE("Sample test case") {
        REQUIRE(1 == 1);
    }

パッケージ管理(Conan、vcpkgなど)[編集]

Conanのインストール
pipを使用してConanをインストールします。
    pip install conan
Conanプロジェクトの設定
conanfile.txtを作成し、必要なパッケージを定義します。
    [requires]
    gtest/1.10.0

    [generators]
    cmake
vcpkgのインストールと使用
vcpkgをダウンロードし、ビルドします。
    git clone https://github.com/microsoft/vcpkg.git
    cd vcpkg
    ./bootstrap-vcpkg.sh
パッケージのインストール
    ./vcpkg install gtest

クロスコンパイルと移植性の確保[編集]

クロスコンパイルの設定
CMakeを使用してクロスコンパイルの設定を行います。
    set(CMAKE_SYSTEM_NAME Linux)
    set(CMAKE_C_COMPILER arm-linux-gnueabi-gcc)
    set(CMAKE_CXX_COMPILER arm-linux-gnueabi-g++)
移植性のあるコードの書き方
POSIX標準APIやBoostライブラリを使用して移植性を確保します。
プラットフォーム依存のコードは条件付きコンパイルを使用して分離します。


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