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高等学校農業 植物バイオテクノロジー/組織培養と遺伝子組み換えの原理

出典: フリー教科書『ウィキブックス(Wikibooks)』
  • 予備知識
高等学校理科/生物I 進捗状況: 75% (2015-05-06) (2015-05-06)
高等学校理科/生物II 進捗状況: 75% (2015-05-06) (2015-05-06)

組織培養

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植物細胞の培養

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タバコのカルス

植物の細胞片に植物ホルモンや培養液などを与えると、それから未分化の細胞の塊(かたまり)を育成したり、さらには個体を育成できる。こうしてできた未分化の細胞塊(さいぼうかい)をカルス(callus)という。

培養する前の細胞片は、植物の分化した細胞だったわけだから、その培養細胞から個体が作れたということは、再び分化したことになる。このような植物は条件を整えれば再度の分化をすることを再分化(さいぶんか)という。また、植物の細胞片から培養などで個体を作れることを分化全能性(ぶんかぜんのうせい)あるいは単に全能性という。 このように、分化した細胞片が全能性のある細胞に戻ることを脱分化(だつぶんか)という。

ちなみに細胞壁を除去した植物細胞であるプロトプラストを培養すると、細胞壁を再生する。

茎頂培養

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一般の植物は、たとえ病変が現れていなくても、その植物体のほぼ全体が、なんらかのウイルスに感染している。

なので培養をおこなう際、培養元の細胞片がウイルスに感染していると、培養中にウイルスごと培養して増殖してしまう。

しかし、植物の茎の頂上である茎頂(けいちょう)の組織は、つねに成長分裂をしているので(茎頂分裂組織)、一般に、まだウイルスに感染していない(「ウイルスフリー」という)。なので茎頂から採取した細胞片が、培養によく用いられる。(茎頂培養)

品種によるが、茎頂から、0.2mm〜0.3mmていどを切り取る。

切り取る範囲が小さくないと、ウイルスに感染してる範囲を含んでしまう可能性があるので、茎頂の小さな範囲だけを切り取る必要がある。 茎頂の切り取りに、技能が必要であり、難しい。

なお、茎頂培養によって作られた苗を「メリクロン」という。

やく培養

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おしべの やく から取った花粉も、培養できる。花粉を培養すると、カルスあるいは不定胚を経由して、植物体になる。 これをやく培養という。

なお、一般の植物の生殖細胞の核相は、減数分裂によって核相が体細胞の半分(核相:n)である。(体細胞の核相は2nである。)

なので、やく培養された植物の細胞も半数体(核相:n)である。

よって、やく培養された植物は、そのままでは花粉などの生殖細胞をつくれず生殖できない。これにコルヒチンを茎頂に加えると、コルヒチンは細胞分裂での紡錘体の形成を阻害して倍数体をつくる作用があるので、半数体の核相が2倍になって、もとの核相(2n)に戻る。

なお、コルヒチンなどを加えて、染色体を2倍にすることを倍加(ばいか)という。

コルヒチンなどで倍加された染色体の2本鎖の両方とは、もともと同じ半数体の染色体だったので、コルヒチン処理後の染色体の遺伝子は純系(じゅんけい)になっており、やく培養前の遺伝子とは異なっている。


短時間で純系の植物を培養したい場合に、やく培養が、よく利用される。

イネでは、通常の自家受粉による方法で純系を得ようとすると、10年以上は掛かるというのが定説(農業高校用の検定教科書にも書かれてる定説)である。

やく培養によって、1年ていどまでに、純系を得るための期間を短縮できる。

やく培養の成功実績は、これまでに、イネ・ナス・ハクサイ・キャベツ・ナタネなど、多くの植物で成功している。

ホモとヘテロ

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ホモとはつまり、相同染色帯の、同じ形質に関わる1対(つまり2本)の遺伝子(対立遺伝子)が、同じ遺伝子どうしということである。

一方、一般の動植物の体細胞のように、対立遺伝子が異なる遺伝子を、ヘテロという。

完全な純系の個体とは、つまり、すべての対立遺伝子がホモの遺伝子のことである。

胚培養

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異種の植物どうしを人工的に受精させても、通常では、胚の発生が途中で止まり、それ以上は発生が進まないので、異種どうしは掛け合せできなきないのが通常である。

だが、この異種どうしを受粉させて途中まで発生の進んだ胚(はい)を培養すると、その後も発生が進む場合があり、よって異種間の雑種が得られる場合がある。このような、異種どうしを掛け合わせて発生の止まってしまった胚を、培養によって、その後も発生を進行させて、異種間雑種の植物体を得る方法を胚培養(はい ばいよう、embryo culture)という。

野生種と栽培種との掛け合せでも、発生が進行しない場合もある。そのような場合にも、胚培養が有効である。

胚の培養のかわりに、胚をふくむ胚珠(はいしゅ)を培養したり、または胚をふくむ子房全体を培養する場合もある。


キャベツとハクサイを掛けあわせたハクランは、胚培養によって1959年に作られた。

千宝菜(せんぽうさい)は、 キャベツ×コマツナ の胚培養によって1987年につくられた。

なおハクランを得る方法は、胚培養のほかにも、細胞融合によって得られる方法もある。


参考: 雑菌への対策

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実際の培養では、あまり細菌が培養液などに繁殖しすぎないように工夫する必要があり、そのため器具の消毒・殺菌・洗浄や、実験者の手指などの消毒・洗浄などが必要である。とくに、培養液は栄養が豊富なので、雑菌には注意しなければならない。
しかし、培養したい植物も生物なので、植物そのものを消毒しきれないので、なので培養中には、どうしても雑菌は混ざってしまうので、うまく工夫する必要がある。もし雑菌対策が実験で必要なら、高校なら教員が詳しいことは教えてくれるだろうから、高校生は深入りする必要は無い。
高校生の実験時での雑菌対策には設備などには限界があるだろうが、少なくとも実験前に手をよく洗浄することぐらいの対策は行っておこう。

培養前の通常の植物体の状態なら、殺菌が必要なら、70%エタノールに数十秒ほどつけることで、表面殺菌をするなどの方法もある。(イネの穂の表面殺菌の方法として、検定教科書に記述あり。)

なお、アブラムシなどがついてると、そのムシが植物体にウイルスを運んでしまうので、ムシは除去しておく必要がある。


順化

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培養液による培養では、光合成をしなくても植物体が成長できるため、培養によって得られた植物体は、そのままでは光合成能力などが弱い。

つまり、培養によって得られた植物体は、そのままでは、通常の土壌での生存能力が弱い。

そこで、いきなり通常の土壌に戻すのではなく、まず、少しずつ、通常の環境に近づけることで、植物体をならしていく必要がある。

この、通常の環境に、少しづつ近づけることで、培養で得られた植物体を、通常環境にならしていくことを順化(じゅんか)という。


ウイルス検定

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汁液摂取法

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(じゅうえき せっしゅほう)

茎頂培養した個体はウイルスが少ないのだが、実際にウイルスに感染してないかどうかを、どうやって調べたのか、読者が疑問に思うのは当然だろう。

じつは、次に述べる「ウイルス検定」を用いて、ウイルスに感染してないことを確かめるのである。

ウイルス検定の原理を大まかに言うと(正確さを後回しにして)、培養したあとの個体の抽出液などを、別の指標植物(しひょう しょくぶつ)にこすりつけて、病変などが現れるかどうかの反応を見るのである。 なお、指標植物のことを検定植物(けんていしょくぶつ)ともいう。

もちろん、その指標側物(検定植物)には、ウイルスの影響があらわれやすい植物を用いるというわけである。

こうすれば、たとえば、病変が現れた場合なら、

病変が現れた場合 → 抽出液にウイルスが混入してた → つまり、培養後の植物体がウイルス感染してた → 茎頂培養は失敗してしまった!

となるし、一方、病変が現れなかった場合なら、

病変が現れない場合 → 抽出液にウイルスが混入してない(指標植物はウイルスに弱いので、少しでもウイルスが混ざってたら病変が出るはず) → つまり、培養後の植物体がウイルスに感染してない → 茎頂培養は成功。

というわけである。(茎頂培養などの説明として言われる)「ウイルスフリー」とは、下記のようなウイルス検定で、病変が起きないという事を確認した、というような意味である。


では、より詳しく「ウイルス検定」を説明しよう。

仮に、培養前の個体を「A」と呼ぼう。

仮に、培養後の個体を仮に「B」と呼ぼう。

Bは、Aの茎頂を培養したものである。

Bが検定したい植物である。

このBをスリ潰して出来た液を、別の指標植物(検定植物)Cに、こすりつける。・・・というような手順である。

なお、培養前の植物Aや、それを培養した植物Bのことを「被検定植物」(ひけんてい しょくぶつ)という。


ウイルス検定をおこなう環境の前提として、アブラムシなどが飛来しない環境である必要がある。 アブラムシなどの虫は、ウイルスを運んできてしまい、アブラムシからウイルスが植物に感染してしまう。

ウイルス検定(汁液摂取法) の手順

  1. まずBの葉を、乳鉢・乳棒で、すり潰す。すり潰した乳鉢内に、純水またはリン酸緩衝液を適量、混ぜることにより、摂種液をつくる。
  2. 指標植物の葉を傷つけるための研磨剤として、炭化ケイ素(カーボランダム)を、摂取液に混ぜておく。(もしくは、あとで指標植物の葉に、直接、炭化ケイ素を掛けてもいい。)
  3. 綿棒、または脱脂綿に、さきほど乳鉢ですり潰して生成しといた接種液を、しみこまさせる。脱脂綿を用いる場合は、ピンセットなどで持ち運ぶ。
  4. もし、炭化ケイ素を摂取液に混ぜてない場合なら、このとき、指標植物(検定植物)の、検定したい葉に、炭化ケイ素を振りかける。
  5. 綿棒または脱脂綿にしみこませた摂取液を、指標植物の葉に、2〜3回こすりつける。
  6. しばらくして、摂取液(および炭化ケイ素)を、霧吹きなどで、軽く洗い流す。
  7. (その後、温室などで、5〜10日間ほど、植物C(つまり、こすりつけられた植物のほう)を育成する。)

これが、ウイルス検定のさまざまな方式のうちの、汁液摂取法(じゅうえき せっしゅほう)である。

ウイルス検定には、汁液摂取法つぎ木摂取法がある。

一般的には、汁液摂取法が多く用いられる。

なお、ウイルス検定にもちいる炭化ケイ素の粉末の粒径は、汁液摂取法の場合、400〜600メッシュのものを用いる。

おもな植物に発生するウイルスと検定植物
植物名 おもなウイルス おもな検定植物(指標植物) 摂取法
サツマイモ サツマイモ斑紋モザイクウイルス アサガオ つぎ木
ニンニク リークイエローストライプウイル アマランティカラー、キノア、センニチコウ 汁液
シャロット潜在ウイルス ソラマメ 汁液
キク キクBウイルス ペチュニア 汁液
トマトアスパミーミイウイルス タバコ類、ペチュニア、アマランティカラー、キュウリ 汁液
チューリップ チューリップモザイクウイルス テッポウユリ 汁液
リンゴ リンゴ高つぎ病ウイルス マルバカイドウ、ミツバカイドウ つぎ木
ウンシュウミカン ウンシュウい縮ウイルス ササゲ、シロゴマ 汁液

※ 一覧表の参考文献

・ 高等学校農業科用(検定教科書)『植物バイオテクノロジー』、著: 江面 浩 など、農文協、平成24年2月1日検定済み、平成25年1月31日発行
・ 高等学校農業科用(検定教科書)『図解 植物バイオテクノロジー』、著: 古川 仁朗 など、実教出版、平成24年2月1日検定済み、平成25年1月20日発行
・ 農文協『農学基礎セミナー 植物・微生物バイテク入門』、編: 大澤勝次・久保田旺 など、著: 相原修・永田栄一など、2005年3月31日第2刷発行、

ウイルス検定のその他の方法

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・ 抗原抗体反応を利用してウイルスなどの病原体を調べる「エライザ法」、もしくは、それに類した酵素反応を利用して病原体を調べる方法も「エライザ法」という
・ PCR法をもちいて核酸を大量生産して、DNAごと、直接、調べる方法

などがある。


細胞融合とミトコンドリア

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※ 高校理科の生物IIの範囲である。『高等学校生物/生物II‐遺伝情報の発現』を参照し、プロトプラスト、ポリエチレングリコールなどを調べよ。

細胞融合の方法には、ポリエチレングリコールなどの薬剤を用いてプロトプラストを融合させる方法がある。

プロトプラストとは、セルラーゼやペクチナーゼをもちいて、植物細胞を処理して細胞壁を溶かしたものであり、もしまだ細胞が生きてるなら、一般に球形をしている。

  • プロトプラストどうしの融合の場合

なお、細胞融合では、細胞本体のそれぞれの核内DNAどうしが混ざるほかにも、ミトコンドリアや葉緑体などの核外遺伝子どうしも混ざりあう。

さて、植物には、品種の系統によっては、花粉ができない品種があり、そのような品種や系統を雄性不稔(ゆうせい ふねん)という。

雄性不稔は、花粉がつくれないため自家受粉ができない。よって、雄性不稔の品種の子は、かならず雑種になる。 このため、雑種を効率よく得たいとき、雄性不稔の系統の品種が利用される。

ミトコンドリアなどの細胞質に由来する雄性不稔がある事が知られており、このような性質を細胞質雄性不稔という。

細胞融合を行なうとき、もし片方の細胞が細胞質雄性不稔なら、もう一方の細胞質が雄性不稔でないほうのミトコンドリアを放射線などで殺しておけば、細胞融合で効率よく、融合後の細胞に、細胞質不稔の性質を受け継がせられる。

植物への遺伝子組み換え

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細胞に植物に組み換え遺伝子を導入する方法には、土壌細菌のアグロバクテリウムなどを感染させる方法がある。

なお、大腸菌に組み換え遺伝子を導入する場合なら、塩化カルシウムなどを加えるだけで、遺伝子ごと取り込んでくれる。だが、植物細胞の場合は、大腸菌とちがい、そう簡単には、いかない。

  • その他の方法

プロトプラストに遺伝子を導入する場合、DNAの存在する溶液の中で、溶液に電圧をかけてプロトプラストに小さな穴を開けて、直接、DNAを取り込ませるエレクトロポレーション法もある。

他にも、金属微粒子に、組み込みたいDNAを付着させ、微粒子ごと目的の細胞に撃ち込むパーティクルガン法もある。

法律

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遺伝子組み換えの実験は、カルタヘナ法にもとづいて行われなけばならない。また、国の定めた規則があるので、それに従わなければならない。

組み換えた作物が、外部環境に影響を与えないよう、拡散防止の設備の整った、特定の実験施設で、組み換え実験を行う必要がある。

拡散防止の設備の程度には、段階がある。

どの段階でも、実験室には、まずは通常の実験室に必要な機能があるのが当然とされる。さらに、組み換え実験の実験室には、関係者以外は、立ち入りしてはならないし、そのような構造の実験室でなければならない。また、昆虫などが組み換え実験の実験室に侵入してはならない。

法律については、カルタヘナ法に加えて、さらに農産物の用途によって、その農産物をあつかう業界の関わる法律による規制がある。

食品として利用する品種の場合なら、「食品安全基本法」「食品衛生法」に従わなければならない。 同様に、飼料として利用する品種の場合なら、「飼料安全法」に従わなければならない。

また、流通のために遺伝子組み換えされた農産物は、流通の前に、これらの法律にもとづいて、科学的な見地をふくむ審査によって、評価される。