高等学校生物/生物I/細胞の増殖
細胞の増殖と生物体の構造
[編集]細胞分裂
[編集]細胞分裂(cell division)には、体細胞分裂(たいさいぼう ぶんれつ)と減数分裂(げんすう ぶんれつ)がある。 ここでは体細胞分裂について扱う。
多細胞生物は多数の細胞でできている。 これらの細胞は元は1つの細胞であり、細胞が分裂することによって構造を維持している。 この分裂を体細胞分裂(somatic cell division)と呼ぶ。 分裂の前の細胞を母細胞(ぼさいぼう、ははさいぼう、mother cell)、分裂で生じた2個の細胞を娘細胞(むすめさいぼう、daughter cells)と呼ぶ。
体細胞分裂では核が2つに分裂する核分裂(かくぶんれつ、karyokinesis)が起こる。 体細胞分裂の核分裂は染色体の数が核分裂の前後で変わらない同数分裂()である。 また、核分裂の終わりには細胞質が2つに分かれる細胞質分裂(cytokinesis)が起こる。
核分裂と核分裂の間の時期を間期(かんき、interphase)と呼ぶ。 核分裂が行われる時期を分裂期(ぶんれつき、M phase)と呼ぶ。分裂期をM期ともいう。 分裂期は、その段階により、さらに、前期(prophase)・中期(metaphase)・後期(anaphase)・終期(telophase)に分けられる。
- 間期
細胞分裂の準備が行われる。 DNAやタンパク質を合成し、染色体を複製する(複製された染色体は離れてしまわないように、つながれている)。DNAは間期に複製され2倍になっている。 染色体は核内に分散している。 間期はG1期、S、G2期からなる。
G1期は合成準備期。 S期は合成期。 G2期は分裂準備期。
細胞分裂の過程は、まず最初に、核分裂がおこる。つづいて細胞質分裂がおこる。
- 分裂期(M期)
M期は前期、中期、後期、終期に分けられる。 前期にあらわれる染色体は、核内に分散していた染色体が凝縮したもの。 分裂期に染色体が等分されるとともに、DNAも等分される。よって、分裂後の最終的な染色体数およびDNA数は、もとの細胞と同じである。
- 分裂期-前期
核膜が消失し、核の中にあった染色体が現れる。分散していた染色体が細長いひも状に集まっている。 核膜と核小体は消失する。 両極から紡錘糸(ぼうすいし、spindle fiber)が伸びて紡錘体(ぼうすいたい、spindle)ができはじめる。 このとき、動物細胞では、中心体が両極へ移動し、星状体(せいじょうたい、aster)となり、その星状体から紡錘糸が伸びる。 やがて、染色体は太く短い棒状になり、裂け目(縦裂)が生じる。 紡錘糸(ぼうすいし)は染色体のくびれた部分である動原体(どうげんたい, centromere)に付着する。
- 分裂期-中期
染色体が細胞の中央の面にあつまる。この、染色体が集まってる細胞の中央の面を赤道面(せきどうめん)という。紡錘体が完成し、すべての染色体の動原体が細胞の赤道面に並ぶ。
- 分裂期-後期
それぞれの染色体が2本に分離して、細胞の両極に移動する。分離の際、染色体が縦裂面で2つに分かれ、紡錘糸に引かれるように(実際には引っ張られるわけではない)両極に移動する。
- 分裂期-終期
核が現れ始め、染色体は核内に分散する。集まっていた染色体が次第に分散していき、 核膜と核小体が再び出現する。また、この頃に細胞質分裂もはじまり、植物細胞の場合、細胞板(さいぼうばん、cell plate)があらわれる。植物細胞では、ゴルジ体から細胞板が形成され、細胞を二分する。動物細胞では、赤道面で細胞膜がくびれ、細胞を二分する。
以上のような、細胞分裂の分裂の周期のことを細胞周期(cell cycle)という。 細胞の中には分裂を停止しているものもあり、これをG0期(ジーゼロき)という。「G」とはgap(ギャップ)。
核相と相同染色体
[編集]染色体の数、大きさ、形は種によって決まっている。 体細胞の多くは大きさや形が同じ2つの染色分体をもっており、 これを相同染色体(そうどう せんしょくたい、homologous chromosomes)と呼ぶ。 相同染色体は、それぞれ両親から受け継いだものである。
- 核相(かくそう)
生殖細胞は、染色体数が半分になっている。 体細胞では、染色体は父母から継いだ相同染色体が一対になっており、相同染色体1対あたり2個の染色体である。 このような関係を表すため、一般に染色体の対の数を n で表し、したがって体細胞の染色体数を 2n で表す。つまり、生殖細胞の染色体数は n で表す。生殖細胞は減数分裂によって染色体数が、体細胞と比べて、半減している。
ヒトの場合、染色体数は46本あり、23対である。常染色体が22対、性染色体が1対である。 ヒトの場合、n=23である。 このようなnや2nの表記を核相(かくそう)という。
生殖細胞などnのことを単相(たんそう)といい、体細胞など2nのことを複相(ふくそう)という。
核相の表記のアルファベットは、nで表すのが慣習である。
参考: 減数分裂
[編集]精子や卵などの生殖細胞を作る際、通常の分裂とは違う。生殖細胞をつくる分裂は減数分裂といい、分裂が2回起きる。減数分裂での1回目の分裂を第一分裂といい、2回目の分裂を第二分裂という。
減数分裂でも、分裂前の間期のS期にDNAが複製される。複製されたDNAが第一分裂で分配されるので、第一分裂後のDNA量は複製前(G1期)と同じである。
第二分裂ではDNAの複製は行われず、第二分裂後にDNA量が複製前の半分になる。
DNA複製のしくみ
[編集]2本鎖DNAの塩基どうしの結合が、一部分、ほどける。そして、部分的に1本鎖になったDNAが2本ぶんできる。
1本鎖のそれぞれが鋳型となって複製が始まる。それぞれの一本鎖の塩基に対応するヌクレオチドが結合して(AとT、GとCが結合)、相補的な塩基の対が出切る。そして塩基対どうしの新しい鎖のほうのヌクレオチドは、酵素のDNAポリメラーゼなどの働きによって、となりあったヌクレオチドのリン酸と糖が結合して、次々と連結していって新しい鎖ができ、よって2本鎖のDNAになる。複製前のDNAのもう一方のほうの一本鎖も同様に複製されて2本鎖になる。こうして、複製前のDNAのそれぞれの一本鎖が2本鎖のDNAになり、複製後はDNAが2個になる。
このような複製のしくみを半保存的複製(はんほぞんてき ふくせい)といい、アメリカのメセルソンとスタールによって1958年ごろに大腸菌と窒素の同位元素(通常の14Nと、同位元素の15N)を用いた実験で証明された。
- メセルソンとスタールの実験 (発展: 生物IIの範囲)
- ※ メセルソンとスタールの実験が、第一学習社『生物基礎』の教科書で紹介されている。
まず、基準として、あらかじめ通常の窒素14Nをふくむ培地で、大腸菌を培養しておく。この基準とはべつに、もう一種類、重窒素15Nをふくむ培地を、次のように用いる。
(1) 大腸菌を培養する際、区別のため、重窒素15Nをふくむ塩化アンモニウム(15NH4Cl)を窒素源とする培地で、培養して増殖させる。
すると、大腸菌の窒素原子に、すべて重窒素15Nだけをふくむ大腸菌が得られる。
まず、この大腸菌を保存しておく。もうひとつの基準とするため。
(2) さらに、15Nだけをふくむ大腸菌を、ふつうの窒素14Nをふくむ培地に移して培養して、分裂1回目・2回目・・・といった分裂ごとにDNAを抽出するため遠心分離機で遠心分離して、DNAの比重を調べる。
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塩化セシウム(CsCl)溶液を加えた試験管を遠心分離機に取り付け、高速回転させると、試験管の底ほど塩化セシウム濃度が高くなるという密度勾配が出来る。 このときDNAを混ぜておくと、DNAの密度とつりあう溶液の密度の位置に、DNAが集まる。 こうして、DNAの質量のわずかな違いを検出できる。 |
結果
・ 1回分裂後のDNAからは、15Nと14Nを半々にふくむDNAだけが得られ、重さは中間の重さだった。
・ 2回分裂直後のDNAからは、15N-14Nの半々のDNAと、14NだけをふくむDNAが、1:1の割合で得られた。 重さは、14NだけをふくむDNAが、もっとも軽い。
・ 3回目の分裂後は、軽いDNAと中間の重さのDNAの比が3:1だった。
・ 4回目の分裂後は、軽いDNAと中間の重さのDNAの比が7:1だった。
・ n回目の分裂後は、軽いDNAと中間の重さのDNAの比が 2n-1:1 だった。
中間の重さのDNAは、何世代たっても消滅しなかった。
この実験によって、DNAの半保存的複製は証明された。
単細胞生物と多細胞生物
[編集]アメーバ、ミドリムシ、ゾウリムシなど、個体が単一の細胞からできている生物は単細胞生物(unicellular organism)と呼ばれる。 例えばゾウリムシは、一つの細胞で、繊毛を使って泳いだり、細胞口を使って食べたり、食胞を使って消化したりしている。
単細胞生物に対して、形や働きの異なる多くの細胞からなる生物は多細胞生物(multicellular organism)と呼ばれる。多細胞生物において、藻類や腔腸動物は、種子植物や脊椎動物に比べると簡単な構造を持っている。 例えばヒドラは、8種類約10万個の細胞からなる多細胞生物であり、刺細胞で攻撃したり、腺細胞で消化液を分泌したり、消化細胞で消化を行ったりしている。