量子力学

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物理学>量子力学


そもそも量子論とは何か[編集]

量子力学を使うだけの立場から見れば、量子論というのはミクロの世界で起こる出来事を記述するための体系です。 なぜ古典力学ではいけないのかと思うかもしれませんが、古典力学がミクロな現象をうまく説明できない事は実験などで判っています。 ミクロの世界では古典力学は使えないのです。


古典力学に従えば、あらゆる物体の初期条件が測定できれば、その後の運動(位置と運動量)を完全に記述できることが期待されます。

しかし、実際には原子や分子、電子、素粒子などの非常に小さなスケールの現象を扱う場合、粒子の位置と運動量は同時に両方を正確に測定することができないのです。また、原子や電子が粒子としての特徴をもつと同時に波としての特徴をもつことが知られています。一方、光や電波のような電磁波もまた、波としての性質を持つと同時に粒子としての特徴をもつことが知られています。知られていますといわれても、それを頭で理解したり、理解したことにするのはちょっとした困難を伴います。多くの量子力学の教科書では最初にどうやってそれが知られるようになったかという経緯を示そうとしています。読者は抵抗無くこの概念をうけとめられるようになることを期待されているのです。

波のような性質と粒子のような性質をあわせもっている「何か」を私たちは日常見かけることもありません。そもそも位置と運動量は同時に両方を正確に測定することができない「何か」もみかけることはありません。当然、そのような「何か」はもちろん古典力学では扱うことができないでしょう。しかし、原子や分子、電子、素粒子は本当は身近にあるものですし、原子の大きさでの現象が見えてくる研究分野は物理学でも工学でも沢山あります。量子力学は原子や分子、電子、素粒子の振る舞いを記述するにはなくてはならない学問です。量子力学を学んだというためには、原子や分子、電子の振舞いのうち何が記述できて何が記述できないのかを知ること、そしてどういう形で記述するのかを知ること、が必要です。

あなたが物理学を学ぶ学生だったり科学マニアならば、どのように物理学の中で量子力学が確立したのかを理解するだけでも十分量子力学の深みにはまることができるでしょう。あなたが工学を学ぶ学生だったりエンジニア、あるいは普通の人ならば、原子や分子、電子の振舞いを理解して何の役に立つんだ?と思うかもしれません。そういう人は本書を読む前に量子力学がどんな世界で実際に役に立っているのかを調べてみるべきでしょう。でも、本当は物理学を学ぶ人も工学を学ぶ人もその両方を試してみるのは大切なことです(Wikipediaがあれば、執筆がまだ不完全な部分はありますが概観することは容易にできるでしょう)。

量子力学といってもミクロな現象を説明できる体系が大きく分けて三つあります。それぞれシュレーディンガーのつくった波動力学、ハイゼンベルクの作った行列力学、ファインマンの経路積分と呼ばれています。最初の二つはほぼ同時期に開発され、後にそれが数学的にまったく同じことをしているということが証明されました。ファインマンの経路積分も全く同じ目的でつくられていますが、一応それぞれ便利な特徴があります。

ただ、どの理論も基本的には同じ事を違う見方で計算しているだけなので結果は同じです。とりあえずは一番最初に開発されて、最も親しまれている波動力学で量子力学を学ぶことにしましょう。

量子力学以前の物理学の発展[編集]

ワットの蒸気機関はニュートン力学の成果

ニュートン力学は、17世紀にアイザック・ニュートンが創始した一連の物理法則による力学です。ニュートン力学では、物体は質点すなわち質量を伴った数学的な点の集まりとして扱われます。各質点は、力の影響を受け、ニュートンの3法則に従って運動します。ニュートン力学を学んでいると、質点の初期条件(位置と速度)が分かって場の状態(重力場や電磁場)が分かっていると、以後の物体の運動を完全に記述することができます。ニュートン力学によって、私たちは簡単な機械を設計できるようになったり、ケプラーの惑星運動の法則を証明したりできます。実際に、18世紀にはじまった産業革命はニュートン力学に支えられていたといっても大袈裟ではないでしょう。産業革命期には、熱力学や統計力学も発展しました。熱力学はボイルシャルルの法則などを仮定して、気体を扱う学問です。一方、統計力学では、気体を粒子の集まりとして、それぞれの運動方程式を書き、結論として例えば熱力学の問題を証明することができます。熱力学や統計力学のおかげで、エンジニアが内燃機関を設計することができます。このように、ニュートン力学は物理学の実験としてもさまざまな工学的な成功によっても証明されたとみなされていました。

電磁波は波動である

古典的な電磁気学は18世紀の終わりに、ファラデーやガウスが幾何学的な解析を行い、1864年にジェームズ・クラーク・マクスウェルが数学的形式として整理し導きました。電磁気学は、ニュートン力学よりもはるかに最近完成した学問です。マクスウェルの方程式は電磁波が波として伝播することを予想していますが、この予想に基づいて、ハインリヒ・ヘルツは有名な実験を行い、電磁波の伝送に成功しました。これが無線通信の始まりであり、後にマルコーニらによって無線通信が開拓されます。マクスウェルの方程式もやはり、工学的に成功した基礎方程式でした。量子力学以前の物理学では、このニュートンの運動方程式とマクスウェルの方程式によって世界が描かれていたのです。

しかし、この二つの基礎方程式に疑問を呈する観測事実が複数発見されます。これらの発見のいくつかが、実学的な研究におけるものだったことは興味深いことです。

  • 黒体放射の発見(キルヒホッフによる溶鉱炉の研究から)
  • 光電効果の発見(ヘルツによる無線通信の実験から)
  • 荷電粒子によって原子が構成されているという発見(原子モデルの議論)
  • 物質波の発見(光電効果におけるアインシュタインの考察に発想を得てド・ブロイが考案)

物理学者はいかにしてこれらの発見を説明しようとしたのか?説明の過程で何が古典力学と矛盾したのか?それこそが、量子力学の重要な概念を与えます。また、これらの取り組みを前期量子論と呼びます。早速シュレーディンガー方程式を解きたい初学者にとって、これらの概念は瑣末なことに思えるかもしれませんが、量子力学的な直感を作る上でこれらの概念が非常に大切であることをここで強調します。

後で登場するシュレーディンガー方程式はこれらの概念をまとめあげてできた微分方程式に過ぎないということがやがて分かるでしょう。それ以降の本書の内容は、そのシュレーディンガー方程式の数学的な扱い方と解釈になっています。初学者は、ニュートン力学、電磁気学、微分方程式、線形代数とを理解している必要がありますが、それ以上の高度な物理や数学が必要になることはありません。

黒体放射の理論[編集]

19世紀の製鉄の様子と、高炉の図(高炉は空洞放射と近似できる)

黒体とは、外部から入射する熱放射など(光・電磁波による)を、あらゆる波長に渡って完全に吸収し、また放出できる理想的な物体のことである。完全な意味での黒体(完全黒体)は現実には存在しないと言われているが、ブラックホールなど近似的にそうみなせる物質、物体もある。

十分に大きな空洞を考え、空洞を囲む壁は光を含む一切の電磁波を遮断するものとする。この空洞に、その大きさに対し十分に小さな孔を開ける。孔を開けることによる空洞内部の状態の変化は無視できるとする。外部からその孔を通して入った電磁波(ある特定の波長のものが光)が、空洞内部で反射するなどして再び出てくることは、孔が十分に小さければ無視することができる。つまりこの空洞は、外部から入射する電磁波を(ほぼ)完全に吸収する黒体とみなすことができる。

理想的な黒体放射を現実にもっとも再現するとされる空洞放射が温度のみに依存する、という法則はグスターブ・キルヒホッフにより1859年に発見された。実際には、キルヒホッフは鉄を精製するための高炉の研究を行っていた(右図)。以来、空洞放射のスペクトルを説明する理論が研究された。もちろん、当初は単に色から高炉内の温度をセンシングしたいというモチベーションではじまった研究であるが、19世紀も終わりに近づくと、電磁波がどのように伝達するのか、それが微視的にみればどのような現象に相当するのかという統計力学的な問題に発展した。最終的に1900年にマックス・プランクによりプランク分布が発見されたことで、その理論が完成された。

まず、1893年ウィーンによってウィーンの変位則が発見された。黒体からの輻射のピークの波長が温度に反比例するという法則である。

\lambda_\mathrm{max} = \frac{0.002898}{T}

ここでTは黒体の温度(K)、\lambda_\mbox{max} はピーク波長(m)、0.002898 が比例定数である。CGS単位系では 0.29 cm·K である。しかし、上式は波長が短い領域では実験と良く一致するが、波長が長くなればなるほど実験結果とズレが大きくなる。


一方、レイリー・ジーンズの法則が、レイリー卿によって1900年に最初に発表しされた。その後、1905年にジェームズ・ジーンズが係数に誤りがあることを指摘した。黒体から放射される電磁波のうち、波長が λ から λ+dλの間にある電磁波のエネルギー密度を f(λ)dλ とすると、レイリー・ジーンズの法則は、

 f(\lambda) = 8\pi k\frac{T}{\lambda^4}

と表される。ここで、Tは温度(K)、k はボルツマン定数である。

この式は、

  • 光は波(電磁波)である
  • 波の全てのモードに対してエネルギー等配分の法則が成り立つ

という2つの古典物理学的な仮定から導出される。しかし、上式は波長が長い領域では実験と良く一致するが、波長が短くなればなるほど実験結果とズレが大きくなる。また、放射の全エネルギー密度

\int_{0}^{\infty} f(\lambda)d\lambda

を計算しようとすると発散して無限大になってしまう。このことは、黒体放射の問題に対して古典物理学が破綻することを端的に示していた

レイリー・ジーンズの法則は、波長が短いときに実験結果と合わない。逆に、ヴィーンの法則は波長が短いときに実験と一致するが長波長領域では実験と合わない。そこで、1905年にマックス・プランクはこれら2つの公式を内挿する理論式として、プランクの公式

f(\lambda) = \frac{8\pi hc}{\lambda^5}~\frac{1}{e^\frac{hc}{\lambda kT}-1}

を得た。ここでhはプランク定数、c は光速度である。(波長λ=c/ν)この式は、波長の長い時、または高温の時レイリー・ジーンズの式に近づく。また、放射の全エネルギー密度も有限の値になる。

物理的に黒体放射をプランク分布で説明するためには、黒体が電磁波を放出する(電気双極子が振動する)ときの振動子の量子化を仮定する必要がある。つまり、振動子が持ちうるエネルギー (E) は振動数 (ν) の整数倍に比例しなければならない。

E = nhν (n = 0, 1, 2, ...)

この比例定数 h = 6.626×10-34 [J・s] は後に、プランク定数とよばれ物理学の基本定数となった。これは古典力学と反する仮定であった(古典力学では物理量は連続な値をとり、量子化されない)が、1905年にアルベルト・アインシュタインがこのプランクの量子化の仮定と、光子の概念を用いて光電効果を説明したことにより、この量子化の仮定に基づいた量子力学が築かれることとなった。

光電効果の理論[編集]

ハインリヒ・ヘルツはすでに述べた電磁波を発生させる実験の中で、紫外線を照射することで帯電した物体が電荷を容易に失う現象を発見しました。これは後に光電効果と呼ばれた現象です。

原子モデル[編集]

歴史的導入[編集]

  • 注意:より正確な歴史的記述についてはw:物理学を参照。

1900年ごろ、古典的な力学の知識は既に確定したものと思われており、 更に古典電磁気学もマクスウェル方程式の完成とともにその全容が知られていた。 そのため、その時点で物理学者の多くは、既に物理学は完成しており、 残る仕事は知られている定数をより正確に調べることだけだと考えていた。 実際には、この予測は正しくなく1905年の特殊相対性理論の発見や、 1915年の一般相対性理論の導出により更なる物理学の発展が進んだのである。 しかし、物理学に対して相対論に比肩するほどの変革をせまった事実が 1926年頃に始まる量子力学の始まりである。 その手法は物体の状態がある場合に離散的な数によって記述されるものであることを 予言し、更にある物体の位置と運動量は同時に定めることが出来ないものであることを 予言した。 当時、離散的な量で記述される物理量は既に知られていたが、それらに体系的な記述法を 与えたのである。一方、通常のより大きなスケールでの物体の運動では物体の 位置や速度は連続的な量で表される。量子力学はこのような古典力学で記述 される量を含んでおり、上の離散的な量を扱う体系と同じ体系を用いて、 古典力学のような連続的な量の記述も行なうことが出来るのである。 こういった意味で、量子力学は離散的な物理量と連続的な物理量を 統一的に扱う手法を提供したのである。 一方、後者の予言である物体の位置と運動量が同時に定めることが出来ないという 主張は奇妙に思えるが、これも量子力学を用いると必ず得ることが出来る 主張である。古典力学ではある物体の運動は粒子の速度と位置を同時に決めることで 記述することが出来た。一方、量子力学では物体の位置と運動量を同時に定めることが できない。直観的にはこのことは非常に小さい物体の位置を観測しようとするとき どのような手法でその位置を計測しても、その計測手法は物体に力を加えてしまい、 物体の運動量を変化させてしまうということとして把握できる。 しかし、この様な記述はあくまで古典的な量子論の類似物であり必ずしも 正しくは無いのである。

ここで再び1900年代初頭に戻ると、その時期には既に分子や原子の存在が 知られており、ある分子がいくつかの原子の組み合わせで出来ており、 ある原子もまた、何らかの粒子の組み合わせで出来ていることが知られていた。 w:ラザフォードの有名な実験により、原子を形作っている粒子がどんなもので あるにせよ、原子の質量の非常に多くの割合は、原子の中心付近に存在し、 その中心にある物体は正の電荷を持っていることが知られていた。 一方、原子は全体として電気的に中性であることも知られていたので、 原子の中には中心の物体と同じだけの電荷を持っており、非常に軽い物体が 存在することが予想された。現代的には上の重い粒子はw:原子核であり、 それぞれの元素は原子核中のw:陽子の数によって特徴づけられている。 一方、負の電荷を持った小さい粒子はw:電子であり、現在では 最も軽い原子核である水素原子の原子核でも、その質量は電子の質量の およそ2000倍であることが知られている。 上で知られていた事実から、原子のモデルとして、中心に原子核が存在し それのまわりを電子が電気的な力を向心力として回転しているという模型が たてられた。これは、あたかも太陽のまわりを地球が回転しているように して、原子核のまわりを電子が回転しているという予想である。 この模型は原子の性質をよく記述しているように思えたが この模型には2つの重要な難点があった。 1つには太陽のまわりを回転する地球の場合と異なって、原子核のまわりを 回転する電子は電荷を持っている。このため、原子核のまわりを回転するときには、 その粒子が持っている運動エネルギーを、電磁気力による放射を通じて 失ってしまい、原子核に向かって落下してしまうのである。

このことは電子が落下するまでの時間が十分に長ければ問題にならないはずであるが、 電子が運動する速度や電子の電荷の大きさを考えて電磁気学の計算を行なうと、 電子が原子核に落下するまでの時間は1秒にも満たないことが予想された。 現実の原子はこれよりもはるかに長い寿命を持っているため、このことは 大きな障害であった。 更に、このような運動に関しては、電子の運動エネルギーは自由に定められることが 予想された。これは、太陽のまわりの運動を考えると太陽と惑星の距離は自由に 定められ、それぞれの惑星が異なった速度を持っており、それらの運動エネルギーも それぞれ勝手な値を持っていることが予想されることを考えると直観的に理解できる。 より詳しい記述は古典力学を参照。 しかし、実験的には電子のエネルギーは離散的な定まった値しか取れないことが 知られていた。これはある原子に対して電気的なエネルギーを与え、電子に より高いエネルギーを与えて、その際に電子が放射する光のエネルギーを 測定することで行なわれた。ここで、この様な過程でエネルギー保存則が 成立することが仮定されていることに注意。現代的にもこのようなときに エネルギー保存則は成立することが知られている。 この実験の結果についてはw:ライマン系列などを参照。 結果として、原子核のまわりに存在する電子のエネルギーは


-\frac 1 {n^2}

(nはある整数。)のように整数を用いて記述されることが実験的に知られたのである。 電子が原子核のまわりを回転しているとすれば、電子の運動エネルギーは任意で あるので、これは電子が原子核のまわりを回転する模型では全く説明の出来ない 事実であった。

これらの実験事実からの違いによって、電子が原子核のまわりを回転する 模型は正確ではないことが分かった。しかし、これを頼りにして 高名な物理学者であるw:ボーアは、これを解決する非常に不思議に 思える提案をした。これは、電子は原子核のまわりを回転しているのだが、 この物体が持つ角運動量がある整数で現わされる量で記述されるという 要請である。

  • 問題例
    • 問題

質量m、電荷eを持つ物体が電荷eをもつ物体のまわりを円運動している。このとき 物体の持つエネルギーを求めよ。ただし、この物体の持つ角運動量Jは、


J = \hbar n

(hはある定数。nは1以上の整数とする。)で表わされるとする。

    • 解答

物体の回りの円運動について物体間のクーロン力が物体の運動の向心力と なっていることを用いると、物体の速度v等を用いて、


m \frac {v^2} r = \frac 1 {4\pi\epsilon _0 } \cdot \frac {e^2} {r^2}

が成立する。ここで、上の条件


J = \hbar n = m rv

を用いてvを消去すると、


r = \frac {4\pi \epsilon _0 } {e^2} \cdot \frac {\hbar ^2 n^2} m

が得られる。ここで、上の式でn=1とおいたものはw:ボーア半径と呼ばれ、 原子の大きさを表わす典型的な量として知られている。 ここで、この系の力学的エネルギーEは


E = T+U= \frac 1 2 m v^2 - \frac 1{4\pi \epsilon _0 } \cdot \frac {e^2} r

で表わされるが、w:ビリアル定理によりこの場合については、


T = -\frac  1 2 U

が成り立つ。もちろん直接vとrの値を代入してもこの結果は正しい事が分かる。 このことを用いると、


E = \frac 1 2 U = \frac  1 2(- \frac 1{4\pi \epsilon _0 } \cdot \frac {e^2} r)

となるが、上で得たrの値を代入すると、


E = - \frac {e^4} {32 \pi^2 \epsilon _0^2} \cdot \frac m {\hbar ^2 n^2}

が得られる。この結果はちょうど原子のスペクトルによって示された 値と一致しており、大きな影響を与えた。

上で得られた通り、この模型は電子の運動の様子をよく記述していることが分かった。 しかし、上で導入された整数nが何を現わしているかはこの時点では 示されていなかった。

この模型で導入された整数の意味は別の計算から知られることとなった。 1926年w:シュレディンガーは、w:ルイ・ド・ブロイの物質波の主張に触発されて、 粒子の運動が波動の性質と粒子の性質をあわせ持っていると主張し、 既存の力学と新しい粒子運動の描像を統合するための手法を述べた。 この方程式をシュレディンガー方程式と呼ぶ。

ここからは、シュレディンガー方程式の性質について解説する。 また、ここからの議論では上で述べた原子核のまわりの電子の性質については 述べることが出来ない。詳細については量子力学IIを参照。

シュレディンガー方程式の導入[編集]

ここからはある物理的な定数を持つことが量子力学的にどのような 意味を持つかについて考える。物理的な定数とは例えば、 ある物体の持つ位置や運動量のことである。 古典力学ではある物体の物理的な状態は位置、運動量などを指定することによって 得ることが出来、これらの間に特別な関係は無かった。これらはそれぞれの 値を適当に取ってもよい量であったのである。 量子力学的にもある物体の物理的状態を定める量は存在しており、そのような 量を定めることで物体がどのような状態にあるかを指定することが出来る。 問題なのは、ある場合においてこれらの間に特殊な関係があらわれ、 それらの量を任意に選ぶことが出来なくなることである。重要な例として、 ある物体の位置と運動量は同時に定めることが出来ない。 このことは、古典的には位置と運動量について運動量が物体の位置を動かす微小変換に 関する保存量になっていることによる。 このことについては解析力学のネーターの定理を参照。 ここでは位置と運動量が同時に定められないことを認めて、ある物理的状態を 表わすために必要な物理量がどんなものであるかを考える。 ここではその様な量として各々の状態の持つエネルギーを取る。 ここで、解析力学の知識を援用して、ある物体の持つエネルギーEが古典的に ハミルトニアンHという量で表わされることを用いる。


E = H

ここで、ある物理的な状態の全てが数え上げられたとしてこれらの状態全体で 張られるベクトルを取る。通常、ある物体が持つ物理的な状態は無数のエネルギーを 持ち、このような操作は不可能に思える。実際このことは量子力学の発展の 初期に大きな数学的な問題となった。しかし、現在ではベクトルの内積の取り方などを 工夫することで、この様な作業が実際可能であることが示されている。 詳しくはw:ヒルベルト空間などを参照。 このように全ての物理的状態が数え上げられたとするとき、それらの状態は あるエネルギーを持った状態として存在する。 例えば、ある状態\psi _1がエネルギーE _1を持っていたとする。 数学的にはこの様な状態はある行列\hat Hを用いて


\hat H \psi  _1 = E _1 \psi  _1

と表わせる。ここで、\hat Hは、全ての数え上げられた物理的な状態を 1つの基底として持つような行列として考えられている。更に\hat Hは、 それぞれの物理的状態に対して対角化されており、


\psi _1, \psi _2,\psi _3, \cdots

などの全ての物理的状態に対して対応するエネルギーE _1,E _2,E _3などを 返すものとする。 このため、仮に全ての量子的状態がエネルギーという量だけで特定されるのならば、 ある力学系が取り得るエネルギーを全て定めることが量子的状態を 全て求めることになる。 ここまでの議論をより数学的な用語を用いてまとめると、出て来た量で \hat Hは全ての物理的な状態によって張られた行列であり 物理的な状態を表わす\psiは、\hat HがかかることによってE倍されるような ベクトルであるので、\hat Hの固有ベクトルであると考えられる。このとき エネルギーEは、固有値方程式


\hat H \psi =  E \psi

の固有値である。

ここまでのことで、それぞれの量子的状態はエネルギーというただ1つの量で 完全に区別されることを仮定して来た。実際にはこのことは必ずしも 正しくなく、ある2つの量子的状態が等しいエネルギーを持っていることがある。 この時には、各々の量子的状態は互いに区別することが出来ない。 しかし、ある状態が持っている量子数は通常エネルギーだけはなく、 位置、運動量や角運動量なども含まれている。このような量も用いて それらの量を区別することが出来る。このとき、エネルギーの場合と同様 位置x、運動量pなども量子的状態によって張られる行列となることが予想される。 ここでは、それぞれの行列について\hat x,\hat pなどを用いて 行列とそうでない量を区別する。

(*注意 行列でかかれる量をq-number,行列でかかれない量をc-numberと呼ぶことがある。)

ここまでで位置xと運動量pが行列でかかれることが分かった。 ここで、以前の主張である、量子論である物体の位置と運動量を同時に定めることが 出来ないということを用いる。エネルギーの時には、物体の物理量を 定めることは対応する物理量を表わす行列を対角化できることに 対応していた。このことを用いると、物体の2つの物理量を同時に定められないと いう主張は対応する2つの物理量を同時に対角化するような基底の張り替え方が 存在しないことに対応する。実際に数学的な計算をすることで


AB = BA

を満たす2つの行列A,Bについてはこれらを同時に対角化するような基底が 取れることが知られる。このことは位置と運動量を表わす行列について


\hat x \hat p \ne \hat p \hat x

が成り立つことを示している。ここで、この結果をまとめるために、 ある2つの行列A,Bに対してそれらの交換子[A,B]を、


[A,B] = AB - BA

で定義する。性質


[A,B] = - [B,A]

に注意。このとき、この記号を用いると位置と運動量に関して


[\hat x, \hat p] \ne 0

が成り立つ。実際には実験的にも\hat x\hat pの交換子に関して


[\hat x, \hat p] = i \hbar

が成り立つことが知られている。ここで、\hbarは、w:プランク定数と呼ばれ 単位は[J\cdot s]で与えられる。ここでプランク定数はきわめて小さい数であり、 xやpがある程度大きい量を持つような運動については上の方程式の右辺は 0と等しいものとして扱ってよく、このときにはxとpは交換可能であり、 2つの量を同時に定めることが出来る。このことは古典力学では2つの量を 同時に定めることが可能であることに対応しており、上のようなx,pの交換関係が 古典力学とよく適合していることが分かる。

ここまでで量子的な状態\psi


\hat H \psi = E \psi

の固有方程式で与えられることが分かり、xとpには


[\hat x, \hat p] = i \hbar

の交換関係が存在することが分かった。実際にはxとpについて上のような交換関係を 満たすような行列を用意することはしばしば困難である。この困難に対応する 数学的手法として、ヒルベルト空間の1つとしてw:関数空間が存在することが あげられる。関数空間とはある変数に関する関数をベクトルとして取る手法である。 このとき、ベクトルの和は関数の和で表わされ、ベクトルの内積は適当な 範囲での関数の積分を用いる。詳しくはw:関数空間を参照。 このような仕方で行列とベクトルを取るとき、固有状態である\psiはある変数の 関数となり、それにかかる\hat x,\hat p,\hat Hなどの行列は その関数にかかるオペレーターとして表わされる。オペレーターの取り方は 元の関数にある関数をかけたり、元の関数を微分したりと様々だが、 上の交換関係を満たすような方法は、例えば、 xについて


\hat x \rightarrow x

のかけ算を対応させ、pに対して、


\hat p \rightarrow -i\hbar \frac{\partial{{}}}{\partial{{x}}}

を対応させることがあげられる。一方、 pについて


\hat p \rightarrow p

のかけ算を対応させ、xに対して、


\hat x \rightarrow -i\hbar \frac{\partial{{}}}{\partial{{x}}}

としても同様の結果が得られることが知られており、 xとpが互いに入れ換え可能であるという解析力学の結果に適合している。

仮に自由に動く質量mの粒子を考えたとき


H = \frac {p^2} {2m}

に対して


\hat H = -\frac {\hbar ^2}{2m} \frac {\partial ^2}{\partial x ^2}

が対応することが分かる。このとき上の固有方程式は


-\frac {\hbar ^2}{2m} \frac {\partial ^2}{\partial x ^2} \psi (x) = E \psi (x)

となり\psi (x)に関する2階微分方程式になる。ここでいうEのように 未知数が含まれている形の微分方程式を特に固有関数方程式と呼ぶことがある。

ここまでで、量子的な状態を計算する手法が1つ得られた。まず、ある古典的な ハミルトニアンを選び、それに対して


p \rightarrow -i \hbar \frac{\partial{{}}}{\partial{{x}}}

の置き換えをする。これについて


\hat H \psi = E \psi

の微分方程式を解き、対応する微分方程式を解くことで、量子的状態が計算される。 ここで、最後の固有値方程式を""時間に依存しないシュレディンガー方程式""と呼ぶ。 後に量子力学における時間発展の方程式も扱うが、この名称はそれと比較しての ことである。

  • 問題例
    • 問題

1次元の系で質量mの物体が、0<x<aで、


V(x) = 0

を満たし、x<0,a<xで、


V(x) = \infty

を満たすとする。このときシュレディンガー方程式を解いて、この系に対する 波動関数を求めよ。

    • 解答

後に波動関数が0で無い地点では、物体が見つかる可能性があることを解説する。 ここで、


V(x) = \infty

の地点で粒子が見つかってしまうと、その地点で粒子は無限に大きいエネルギーを 持っていることになってしまうが、無限のエネルギーというようなことは 考えづらいので、ここでは、x<0,a<xで波動関数\psiは、0となることにする。 また、量子論でよく用いられる関数空間の要請により、波動関数は連続であることが 必要となる。そのため、


\psi (0) = \psi(a) = 0

が必要となる。さて、このときのシュレディンガー方程式は0<x<aで、 V(x)=0より、


-\frac {\hbar ^2}{2m} \frac {\partial ^2}{\partial x ^2} \psi (x) = E \psi (x)

\frac {\partial ^2}{\partial x ^2} \psi (x) = -\frac {2mE}{\hbar ^2}  \psi (x)

となることが分かるが、これを満たす\psi(x)


\psi(x) = A\sin (kx ) + B\cos (kx)

で与えられることが分かる。ただし、A,Bは任意の定数であり、


k = \sqrt { \frac {2mE}{\hbar ^2} }

とする。更に、


\psi (0) = \psi(a) = 0

を用いると、


\psi (0) =  B  = 0

よりB = 0が分かり、


\psi (a) = A\sin (ka) = 0

より、nを任意の整数として、


ka = n\pi

が得られる。よって、それぞれの整数nに対して波動関数\psi _n(x)


\psi  _n (x) = A \sin (k _n x)

で与えられる。ただし、


k _n = \frac {\pi n} a

である。また、上で波動関数の前の任意定数をそのままにしたが、これは関数空間では 関数そのものがベクトルであり、それの定数倍はベクトルの性質を変えないことから そのままに残したものである。ただし、後に分かる通り、波動関数の規格化を 考えると、この定数は1通りに決まることが示される。

更に、この系において粒子が持つことが出来るエネルギーE _nも、


k _n = \sqrt { \frac {2mE _n}{\hbar ^2} }

を解くことで得ることが出来る。答えは、


E _n = \frac {\hbar ^2}{2m} k _n^2

= \frac {\hbar ^2}{2m} \{ \frac {\pi n} a \}^2

= \frac {\hbar ^2}{2m} \frac {\pi^2 n^2} {a^2}

となり、ある整数nに対して


n^2

に比例するエネルギーを持つようになる。このように量子的な系が取り得る エネルギーのことをエネルギー準位と呼ぶことがある。

波動関数の性質[編集]

上で波動関数を計算する方法を得た。ここでは、波動関数の性質について考える。 上ではある量子論的な状態をベクトルと見て、ある量子力学の演算子を それらによって張られた行列として扱った。 ここでは一般的にある量子論的な状態を、それらを代表する量子論的な量iを用いて


|i>

と書く。後に述べられる通り、この記法はブラケット記法と呼ばれ、 元はw:ディラックによるものである。 ここで、量子論的な状態を定めるiのような量をその状態の量子数と呼ぶ。 例えば、無限大のポテンシャルによって束縛されている粒子では整数nが量子数 となっている。一般には量子数は整数のような離散的な量である場合も 任意の実数で与えられる連続的な量であることもある。 ここで、ある状態|i>と、それと異なる状態|j>を取る。ただし、これらの状態は ハミルトニアン演算子の、互いに異なった固有値を持つ固有ベクトルであるとする。 ここで、ハミルトニアンの固有値は必ず実数でなければならないことが分かる。 なぜなら、そうでないときにはエネルギーが虚数になるような量子論的状態が 存在することになってしまうからである。一般に、複素数の行列要素を持っており、 しかもその固有値が実数になる行列の種類として、エルミート行列があげられる。 エルミート行列については物理数学Iを参照。 ここでは、ハミルトニアンはエルミート行列で与えられるものとする。一般に 量子論の演算子は通常エルミート演算子である。 更に、あるエルミート行列に対してその行列は必ず対角化され、その固有ベクトルは 互いに直交することが知られている。この結果を用いると、 エルミート演算子であるハミルトニアンの固有ベクトルである|i>|j>は、 互いに直交することが知られる。更に、それぞれの状態の長さを適切に 変更することで、任意の状態|i>,|j>についてこれらの内積を\delta _{ij}と することが出来る。\delta _{ij}については、物理数学Iを参照。 ここで、状態の長さを調整することを量子状態の規格化と呼ぶ。 ただし、慣習的に状態|i>,|j>の内積は<i|j>のように書くことが多い。 この記法を用いると、任意の|i>,|j>に対して、


<i|j> = \delta={ij}

が成り立つ。ここで、ある状態|i>とそれに対応する波動関数f(x)の関係を、


f(x) = <x|i>

で取る。ここで、|x>は対応する粒子がちょうどxで表わされる点にある 状態である。この記法は、関数空間の内積の定義と、上で述べた量子論的状態の内積の 定義を整合的にすることが分かる。 このことを述べるためにまず、関数空間の内積について説明する。 ここでは、一般的に波動関数がある複素関数であるとして考える。 関数空間の性質によるとある元f(x),g(x)を関数空間の元としたとき ある積分\intが存在して、


\int f^* (x) g(x) dx

を元f(x),g(x)の内積と呼ぶ。ここで、xについての積分の範囲は、 -\infty <x<\inftyとする。ただし、無限大のポテンシャルがある場合のように、 波動関数が0となる範囲については積分しなくてもよい。このときには積分範囲は より狭い範囲になるのである。ここで、上の記法を用いると


\int f^* (x)  g(x) dx = \int dx <i|x><x|j>

= <i|j> = \delta _{ij}

となる。ここで、


\int dx <i|x><x|j>

についてはまず、 <i|x><x|j> は、任意のxについてもともと|j>の状態にあった粒子が、 xで表わされる点を通過して|i>の状態に変化することを表わしている。 ここで、上では全てのxについてその結果を足し合わせているので、 結局、その結果は、|j>の状態にあった粒子が、 |i>の状態に変化すること方法の全てをつくしていると考えるのである。上で得た


\int |x><x| = 1

のような表式はベクトルの完全性と呼ばれ、このあと頻繁にでてくる性質である。 特に、エルミート演算子に対しては対応する固有ベクトルが完全性の要請を 満たすことが知られており、あるエルミート演算子の固有ベクトル|i>に対して、


\Sigma _i |i><i| = 1

が知られている。しかし、特に対応するベクトルが無限個あるときにはこの性質の 数学的な証明は難しい場合が多い。

さて、上のことから分かる通り、


\int f^* (x)  g(x) dx =  <i|j> = \delta _{ij}

となって、量子論的ベクトルの正規化と対応させるために、 波動関数の長さも、1つに定める必要があることが分かる。この条件は 全ての波動関数\psi(x)に対して、


\int |\psi(x)|^2 dx =1

とすることで満たされる。このことを波動関数の正規化と呼ぶ。

ここまでで粒子がどの状態にいるのかを指定する方法が分かった。 それぞれのエネルギーの固有状態は|i>などの表示で表わされ、 それらの量はどれも対応する波動関数を持つのである。ただし、これらの量は どれも正規化されていなければならない。 次に粒子がある状態にいるときに、粒子が実際にどの位置にいるのかを 知る方法を考える。ここでいう位置とは古典的な座標の意味であり、 あるエネルギー固有値を持った状態にいる粒子が古典的に見たときには どの位置で発見されるのかという意味である。仮に対応するエネルギーの固有状態が 偶然位置の演算子に対しても固有ベクトルとなっていたとすると、その状態は 位置の演算子に対してただ1つの値を持つため、その状態にある粒子が発見される 位置は決定している。一方、仮に対応するエネルギーの固有状態が 位置の演算子に対して固有ベクトルとなっていなかったとすると、 そのときにその粒子は様々な位置で発見されるように思える。 実際実験的な結果はそのとおりであり、ある位置の固有状態でない状態にあるとき その物体は位置の演算子が値を取り得る位置全体で見つかる確率がある。 そして、実際にどの位置にあるかは実際に観測をしてみるまでは、 知ることが出来ないのである。このことは全く不思議な結果であるが、 例えば量子論的なヤングの実験などにおいてこの結果は確かに確認 されているのである。

ここで、あるエネルギーの固有状態|i>からある位置に発見されてその位置に あることが確定している状態に移行する過程は、対応する位置をxとすると、


<x|i>

で与えられることが予想される。しかし、この値はちょうどある固有状態に 対応する波動関数f(x)であった。


<x|i> = f(x)

このことから、波動関数f(x)は対応するエネルギーの固有状態にある粒子が ある場所xに発見される位置に見つかる過程について関係していることがわかる。 実際には更に、この量の絶対値を2乗した量が、ちょうどこの対応する状態に ある粒子がその位置に見つかる確率となっているのである。


P(x) = |f(x)|^2

しかし、この量はちょうど


\int dx |f(x)|^2 = P(x) =1

として、波動関数の正規化を行なった量に対応するが、このことはP(x)を確率を 表わす量として扱うための条件とも適合しているのである。

  • 問題例
    • 問題

波動関数f(x)が、


f(x) = \frac 1 {{}^4\sqrt \pi} e^{-x^2/2 }

で与えられるとする。このとき、ある点xで粒子が発見される確率を計算せよ。 また、この波動関数が正しく正規化されていることを示せ。

    • 解答

ある点xで粒子が発見される確率P(x)について、


P(x) = |f(x)|^2

が成り立つことを用いればよい。よって、


P(x) = |f(x)|^2
=\frac 1 {\sqrt \pi} e^{-x^2 }

が得られる。更に、ガウス積分を用いて


\int  _{-\infty }^{\infty} e^{-x^2} = \sqrt \pi

を用いると、


\int dx P(x) = 1

が得られ、正しい正規化がなされていることが分かる。ガウス積分については 物理数学Iを参照。

実際にはある状態|a>からある状態|b>に移行する確率が


|<b|a>|^2

で与えられることはあるエネルギーの固有状態がある位置に移行する場合だけに とどまらず、より広い場合にあてはまる。特に上の場合について


<b|a>

をaからbへの確率振幅と呼ぶ。波動関数は対応するエネルギーの固有状態から ある位置で表わされる状態への確率振幅といえる。

  • 問題例
    • 問題

互いに直交する状態|1>,|2>,|3>がある。 このとき、 (I) |1> (II)


\frac 1 {\sqrt 2} (|1>+|2>)

(III)


\frac 1 {\sqrt 3} (|1>+|2>+|3>)

(IV) |2> で与えられる量子状態と状態|1>との確率振幅を求めよ。それぞれの状態が 正しく正規化されていることを示せ。

    • 解答

与えられた状態と|1>との内積を取ればよい。それぞれの1,2,3で表わされる それぞれの状態は互いに直交していることに注意せよ。 正規化されていることを 調べるにはそれぞれの状態の大きさが1となっていることを調べればよい。

(I) 確率振幅は


<1|1> = 1

となり、正規化も


<1|1> = 1

となり正しいことが分かる。 (II)


<1|\frac 1 {\sqrt 2}  (|1> +|2>)

= \frac 1 {\sqrt 2} (1+0) = \frac 1 {\sqrt 2}

となる。正規化については


\frac 1 {\sqrt 2}  (<1| +<2|) \frac 1 {\sqrt 2}  (|1> +|2>)

= \frac 1 2 (1 + 0 + 0 +1) = 1

となり正しいことが分かる。 (III)


<1|\frac 1 {\sqrt 3}  (|1> +|2>+|3>)

= \frac 1 {\sqrt 3} (1+0+0) = \frac 1 {\sqrt 3}

となる。正規化については


\frac 1 {\sqrt 3}  (<1| +<2|+<3|) \frac 1 {\sqrt 3}  (|1> +|2>+|3>)

= \frac 1 3 (1 + 0 + 0 +0+1+0 +0+0+1) = 1

となり正しいことが分かる。 (IV) 確率振幅は


<1|2> = 0

となる。正規化は


<2|2> = 1

となって正しいことが分かる。


ここで、あるエネルギーの固有状態|i>と、対応する波動関数f(x)に対して


<i|x|i> = \int dx x |f(x)|^2

がどのような意味を持つかを考える。ここで、 |f(x)|^2が、対応する粒子がxで見つかる確率を表わしていることを考えると、 上の式はxの期待値を表わす式そのものである。そのため、 <i|x|i>のようなx演算子の対角成分は、対応する状態に粒子が存在するときの 粒子が見つかる位置の期待値となることが分かる。一方、位置演算子の非対角成分は それほど簡単な解釈は持っていない。ただし、これらの量は量子力学的な 摂動などでよく使われる。詳しくは量子力学IIを参照。

1次元井戸型ポテンシャル[編集]

1次元井戸型ポテンシャル

\begin{cases}
 V(x)=\infty(-\infty<x<0)\\
 V(x)=0(0 \le x \le L)\\
 V(x)=\infty(L<x<\infty)
\end{cases}

を考える。このときのシュレディンガー方程式は

E\psi(x) =-\frac{\hbar^2}{2m}\frac{d^{2}\psi(x)}{dx^2}+V(x)\psi(x)

となる。このときV(x)=\inftyの領域(-\infty<x<0,L<x<\infty)では粒子侵入不可なので、この領域における波動関数は\psi(x)=0となる。波動関数\psi(x)x=0,x=Lでそれぞれ連続なので、\psi(0)=\psi(L)=0となる。0 \le x \le Lにおける波動関数を考えると

E\psi(x) =-\frac{\hbar^2}{2m}\frac{d^{2}\psi(x)}{dx^2}V(x)=0
\frac{d^{2}\psi(x)}{dx^2} = -\frac{2mE}{\hbar^2}\psi(x) = -k^2\psi(x)k^2=\frac{2mE}{\hbar^2}
\psi(x)=A\cos kx+B\sin kx

\psi(0)=\psi(L)=0より

\psi(x)=B\sin \frac{n\pi x}{L}A=0,k=\frac{n \pi}{L}

となる。また\int_0^{L}(\psi(x))^2 dx = 1となるようにBを求めると

B=\sqrt{\frac{2}{L}}

となり

\psi(x)=\sqrt{\frac{2}{L}}\sin \frac{n\pi x}{L}

となる。またこのときのエネルギーE

E=\frac{\hbar^2 k^2}{2m}=\frac{\hbar^2 n^2 \pi^2}{2m L^2}

となり、とびとびの値をとることが分かる。

1次元階段型ポテンシャル[編集]

1次元調和振動子[編集]

量子論の基礎法則:スピンを例にとって[編集]

量子論の基礎法則は数学的にはむしろ単純で、線形代数に他ならない。但し、扱う系によりベクトル空間の次元が無限大になったり関数空間になったりするので、そこからくる複雑さが大きい。ここでは有限次元(2次元!)の線形代数で完全に扱うことができる系、「電子のスピン」を例にとりながら、基礎法則を導入する。

スピン[編集]

電子は点粒子であり位置という属性を持つが、実はそれだけでなく「自転する棒磁石」が持つような属性も持っている。棒磁石がN極とS極を結ぶ線を軸として自転しているとしよう。そこに磁場をかけると(1)棒磁石はその向きに応じたエネルギーを持ち、また(2)磁場を軸としてコマのようにプリセッション(首振運動)を行う。(1)は磁石であることから起き、(2)は((1)に加えて)角運動量を持つことから起きる。

電子も「向き」を持っており、磁場の中に入れると(1)その向きに応じたエネルギーをもち、かつ(2)その向きが棒磁石の向きと同様のプリセッションを起こす。このような事実を称して「電子はスピンをもつ」といい、「向き」を「スピンの向き」と呼ぶ。スピンの起源(Diracによる)や物性との関係は重要な主題となるのだが、ここでは量子力学の法則を説明する例として用いるだけなので、単に 「電子は位置だけでなく、向きという属性を持つ」 という点にのみ着目する。ダイナミクスの説明を行う時に物理的な意味 「電子を棒磁石とみなした時の向きであり、かつ電子のもつ角運動量の向き」 を使う。なお、角運動量の大きさは一定(hbar/2)であり、変わりうるのはその向きだけである。

この向きを単位ベクトル\hat{s}で表し、その成分を(s_x,s_y,s_z)と書く。単位ベクトルなのでs_x^2+s_y^2+s_z^2=1。普通に考えるとこの成分(3つの実数、動く範囲はそれぞれ-1から1)を指定すればスピンの状態を記述したことになるはずである。ところがスピンは量子力学の法則に従うのでそうはならない。

スピンの測定:量子力学的な特徴[編集]

スピンの向きの測定方法で代表的なのはStern-Gerlach型実験と呼ばれるもの。空間的な勾配を持つ磁場をかけることでスピンの向きに依存した力が電子にかかるようにする。大雑把に理解するには、棒磁石に磁場をかけることを考えればよい。磁場が一様だとN極とS極にかかる力が正反対かつ同じ大きさになるので全体としてキャンセルしてしまう。そこでz方向に勾配を持つ、つまり上に行くほど強くなる磁場をかけるとしよう。すると磁石の向きがz軸方向の成分をもつ(s_z\ne 0)ならば上側の極により大きな力がかかるので全体にかかる力が残る。適切に磁場を設定することで、近似的にszに比例した力  \vec{F}\approx(0,0,k s_z) が磁石にかかるようにできる。そのような磁場の中に小さい磁石を飛ばすと、磁石の向きのz成分に比例した力がかかり、軌道がそれる。従って軌道が上下にどれだけそれたかを調べれば磁石のs_zが分かるのである。もちろん同じ議論がz軸方向以外でも成り立つ。まとめると、

\vec{u}方向(\vec{u}は単位ベクトル)の勾配を持つ磁場を使うことで、\vec{s}\vec{u}成分s_u\equiv\vec{s}\cdot\vec{u}を測定することができる。

z方向に勾配を持つ磁場にランダムな向きの磁石をたくさんいれると、たまたまsz=1だったものの軌道は大きく上にそれ、sz=-1だったものは大きく下にそれる。そしてその中間、特にsz=0に近いものでは軌道はほとんどそれない。磁石の出口に磁石がきたことを感知するスクリーンをおけば、そこには上から下までほぼまんべんなく磁石がきた後が残るであろう。

量子力学の特徴1:観測値の離散化(「量子化」)[編集]

これで舞台は整ったので、磁石の代りに向きがばらばらの電子を通してみる。すると、驚くべきことに磁石の場合とは全く異なる結果になる。スクリーンの一番上(sz=1に対応)と一番下(sz=-1に対応)にしか電子がこないのである! あたかもsz=1の電子とsz=-1の電子しかないかのような結果になってしまう。それではと、今度は装置を90度回して、sxに応じて軌道が変わるようにしてみる。すると今度は(同じ源からきた電子なのに)sx=1とsx=-1のものしかないかのような結果になる。つまり一番右と左にしか電子がこない。

これは測定法を変えても成り立つ一般的な結果である。即ち、

・電子スピン\vec{s}\vec{u}方向成分\vec{s}\cdot\vec{u}を測定すると、その結果は必ず1か-1のどちらかにしかならない。本来連続的な値をとるはずの量\vec{s}\cdot\vec{u}の測定結果が、1,-1という離散的な値だけになる。

この、「連続的であるはず物理量の測定値が離散的になる」ことが微視的スケールの物理の大きな特徴である。但し、あらゆる量の測定値が離散的になるわけではない。例えば電子の位置の測定値は連続的な値をとりえるし、エネルギーの測定値は系によって連続的な場合も離散的な場合も、両者が混合する場合もある。量子力学の大きな成果(の一つ)は、物理量の測定値がとりえる値のセット(スペクトルという)を求めるための首尾一貫した計算法として与えたことにある。

量子力学の特徴2:観測結果のランダム性[編集]

szの測定値は1,-1しか取り得ないと述べた。では、例えばスピンがx方向を向いている場合にszを測ると測定値はどうなるだろうか。常識的な答である0は取れない。しかも1,-1のどちらを取るにしても妙である。答は「1,-1を全くランダムに取る。つまり等確率で1,-1が現れる」となる(一回ごとでは常識的な値0は取らないが、多数回実験を行った平均値としては常識的な値0になる)。このように、測定結果が確率的になることが微視的世界の法則のもう一つの大きな特徴。

但し上の実験を行うには「スピンがx方向を向いた状態」を作らなければならない。どうするか。実験装置自身を「フィルタ」として使う。例えば上記Stern-Gerlachの実験ではsz=1の電子は軌道が上に曲げられ、-1のものは下に曲げられる。よって上に来た電子だけを集めれば、それらは全てsz=1である、といえる。実際、もう一つ実験装置を用意し、最初の装置で上に曲げられた電子だけを通してszをもう一度測る。すると、確かに全ての電子でsz=1になるのである。もちろん最初の装置と二つの装置の間に磁場などを掛けてしまうと向きが変わることもあるが、そのような「スピンの向きを変える要因」がなければ、一度目と二度目の測定値は必ず同じ値になる。以上のことを踏まえ次の定義を行う。

「sz=1の状態を取っている」電子とは、実験によりsz=1という測定値を取り、その後向きを変えられていない電子のこととする。

任意の向きへの一般化は自明であろう。任意の単位ベクトル\vec{u}に対し、

\vec{u}方向を向いた電子とは、\vec{s}\cdot\vec{u}の測定で測定値1を取り、その後向きを変えられていない電子である。

この定義が意味をなす理由は、上記の通りこの定義に従う電子でもう一度\vec{s}\cdot\vec{u}を測定すれば必ず1を取る、という実験的裏づけがあるためである。但しこの定義に従う電子で\vec{u}と垂直な成分を測っても測定結果は決して0にはならないことを忘れてはならない。

この定義を使うと、上記のランダム性を実験で確かめるには、まずStern-Gerachの装置を横に倒してsxの値に応じて軌道が曲げられるようにする。そして、右(sx=1に対応)に来た電子だけを第2の装置に通してszを測る。すると、半分はsz=1、残り半分はsz=-1となるのである。

より一般的な場合、つまり\vec{u}とz軸との角度が任意の角度A(0<=A<=\pi) の場合を述べよう。z方向を向いた電子スピンの\vec{u}方向の成分\vec{s}\cdot\vec{u}を測るとする。すると、

測定値が1になる確率は\cos^2(A/2)、-1になる確率は\sin^2(A/2)となる。(特にA=\pi/2の場合には上記の結果に帰着することに注意)。

スピンの数学的な記述[編集]

このような観測値の離散化をどう説明するか。一つの素直な考え方は、本来連続的な値をとるものが観測過程での何かのメカニズムで離散的になると考え、そのメカニズムを追求することだろう。根底では連続なものが何かの原因で離散化すると考えるのである。しかし量子力学ではそのような方針はとらない。観測値が離散化することこそが根底の法則、自然の本性であると捉え、それを適切に記述する数学的な法則を与えるのである。以下でその法則を述べるが、これは別の法則(例えば古典力学)から論理的に導かれるものではない。これ自身がいわば「公理」であり、それが正しいかどうかは実験結果を予言・再現できるかにより判定される。特に古典力学や電磁気学はある範囲内で実験と合うことが確立された理論であるから、それらもこの「公理」から導出されなければならない。

以下、まずスピンという特殊な場合について述べる。一般的な場合への拡張は、少なくとも形式上は単純なこととなる。

スピンの量子力学公理1   物理量の数学的表現は行列、測定値が取りうる値はその固有値[編集]

スピンがもつ物理量はそのx成分sx、y成分sy, z成分szである(一般の方向の成分はこれらの一次結合となる)。これらの物理量はある2x2行列(Pauli行列と呼ばれる)に対応する。sxに対応する行列をXと書き、sy,szそれぞれに対応する行列をY,Zと書くことにすると、

	X=\begin{pmatrix} 0 & 1 \\ 1 & 0 \end{pmatrix} 	Y=\begin{pmatrix} 0 & -i \\ i & 0 \end{pmatrix} 	Z=\begin{pmatrix} 1 & 0 \\0 & -1 \end{pmatrix}

「対応する」の意味は段階的に説明していく。まず重要なのは観測値が取り得る値が決められることである。物理量szを例にとると

szの測定値になりえるのは対応する行列Zの固有値のみ。つまりszの測定値が1,-1に限られるのは、対応するZの固有値が1,-1だけだからである。

sx,syについても同様。どちらも対応する行列X,Yの固有値が1,-1しかないので測定値としては1,-1しか現れない。

一般的に言うと、スピンに限らず物理量はある行列(より一般的には線形演算子)に対応する。つまりその物理量の観測値は対応する行列の固有値に限られる。逆にいうとある物理量がとりうる測定値を知りたいと思ったら、それに対応する行列を求めその固有値を求めればよい、ということである。

では対応する行列(線形演算子)をどう求めるかという疑問が当然浮かぶが、それは扱う物理系個々の問題になる。基本的なのは正準量子化と呼ばれる手法で、古典力学のポアソン括弧と呼ばれるものから演算子が満たすべき交換関係を推測し、それを満たすような演算子を探す。特にそのような手法から角運動量の一般論を展開でき、上で導入したスピンのPauli行列はその特別な場合として得られる。

但し基本的な物理量の行列が分かれば、それらの関数になっている物理量の行列は行列代数により得られる。例えばsx+syという物理量に対応する行列はX+Yになる。その固有値は(普通の線形代数の方法で計算すると)\pm\sqrt2 なのでsx+syがとりえる観測値は\pm\sqrt2 のどちらかになる。従って扱う系で基本的な物理量(例えば位置xと運動量p)に対応する演算子が分かれば、その系の任意の物理量(基本的な物理量の関数になっている量、例えばエネルギー p^2/(2m)+V(x))が対応する行列は演算子の代数(線形代数)で分かってしまうのである。

スピンの量子力学公理2   物理状態の数学的表現は複素列ベクトル=ケット、確率は固有ベクトルとの内積の絶対値自乗[編集]

次に、離散的な観測値(物理量に対応する行列の固有値)のどれが観測されるかの規則を述べる。まず、スピンの状態はスピンの物理量に対応する行列(X,Y,Z)が作用するベクトル、即ち2行1列の複素列ベクトル 	\begin{pmatrix}  \alpha_0 \\ \alpha_1 \end{pmatrix} で表される。ここで\alpha_0, \alpha_1はどぢらも複素数だが、次の正規化条件を満たすものとする  |\alpha_0~|^2+|\alpha_1|^2=1 。このような複素列ベクトルをDiracによる「ブラケット記号」を使い、「ケット」  | \alpha > で表す。

 |\alpha > =\begin{pmatrix}  \alpha_0 \\ \alpha_1 \end{pmatrix}

線形代数によると、複素列ベクトル同士の間には自然に内積が定義される。ケット |\alpha > =\begin{pmatrix}  \alpha_0 \\ \alpha_1 \end{pmatrix} |\beta > =\begin{pmatrix}  \beta_0 \\ \beta_1 \end{pmatrix} の間の内積  ( |\alpha>, |\beta> ) は次で与えられる:

 (|\alpha>,|\beta>)=\alpha_0^* \beta_0 + \alpha_1^* \beta_1

この内積は、成分が実数の場合には普通の実ベクトル同士の内積になるが、複素数の場合には左側の要素に複素共役を取る。こう定義する理由は、「自分自身との内積  (|\alpha>,|\alpha>) 」が必ず0以上の実数になるようにするためである。特に上記の規格化条件は  (|\alpha>,|\alpha>)=1 と書くことができる。

では、このケットの物理的意味について述べよう。上で導入した「z向きの状態」、即ちszを観測すれば必ずsz=1の結果を得られる状態は、行列Zの固有値1の固有ベクトル(で規格化されたもの)で記述される。つまり「szを測定すれば、結果が必ずsz=1になる状態を表すケット」を|sz=1>と書くことにすると次が成立:

 |sz=1> =\begin{pmatrix} 1 \\ 0 \end{pmatrix}

(実際にはこの成分で1の代わりに絶対値1の任意の複素数e^{i\theta} をおいても同じなのだが、その任意性については後で述べる。とりあえず単位固有ベクトルの中で一番成分が簡単なものを選んだと考えてほしい。)

これは一般的に拡張される。即ち、

任意の物理量Aに対して、Aを測定したときに確実に測定値aが得られる状態は、数学的にはAに対応する行列(または演算子)の 固有値aの固有ベクトル(で規格化されたもの)で記述される。このような状態を、やや略した言い方で物理量Aの固有値aの固有状態と呼ぶ。

スピンの例に戻ると、sxを測定して必ずsx=1の結果を得られる状態|sx=1>は、行列Xの固有値1の固有状態なので

 |sx=1> =2^{-1/2}\begin{pmatrix} 1 \\ 1 \end{pmatrix}

必ずsx=-1の結果を得られる状態は

 |sx=-1> =2^{-1/2}\begin{pmatrix} 1 \\ -1 \end{pmatrix}

非固有状態の測定[編集]

では、szを測定する際に、状態がszの固有状態でなかったら結果はどうなるだろうか。ここで始めて実験と比べられる記述が現れる。量子力学が与える予言は次の通り。

スピンの状態|\alpha>がszの固有状態とは限らない場合にszを測定すると、その結果(測定値が1になるか-1になるか)はランダムな事象となり、確率的にしか予言できない。その確率はもとの状態と固有状態の内積の絶対値自乗で与えられる。例えばsz=1となる確率P(sz=1)は

 P(sz=1)=|(|sz=1>, |\alpha>)|^2 = |\alpha_0|^2

同様に、sx=1になる確率P(sx=1)は

 P(sx=1)=|(|sx=1>, |\alpha>)|^2 = |\frac{\alpha_0+\alpha_1}{2}|^2

特に前の例として取り上げた、スピンがx方向を向いている場合にszを測定した結果は、

 P(sz=1)=|(|sz=1>, |sx=1>)|^2 = |2^{-1/2}|^2=\frac{1}{2}

となり、実験結果とあう確率が与えられる。

さらに、実験例として取り上げた「z方向を向いた電子スピンの\vec{u}方向の成分\vec{s}\cdot\vec{u}を測る」場合の結果を計算してみる。法則から

 P(\vec{s}\cdot\vec{u}=1)=|(|sz=1>, |\vec{s}\cdot\vec{u}=1>)|^2

問題は|\vec{s}\cdot\vec{u}=1>だが、\vec{u}の成分を球座標での方向\theta,\phiを使い (\sin\theta\cos\phi, \sin\theta\sin\phi, \cos\theta)と表すと

\vec{s}\cdot\vec{u}=u_x X+u_y Y+u_z Z=
\begin{pmatrix} u_z & u_x-i u_y \\ u_x + i u_y & -u_z \end{pmatrix}=
\begin{pmatrix} \cos\theta & e^{-i\phi}\sin\theta \\ e^{i\phi}\sin\theta & -\cos\theta \end{pmatrix}

その固有値1の固有ベクトル(で規格化されているもの)は \begin{pmatrix} \cos\frac{\theta}{2} \\ e^{i^\phi}\sin\frac{\theta}{2} \end{pmatrix}

これを使うと次が得られ、実験結果をきちんと再現する計算結果となる。

 P(\vec{s}\cdot\vec{u}=1)=|(|sz=1>, |\vec{s}\cdot\vec{u}=1>)|^2=\cos^2\frac{\theta}{2}

運動法則[編集]

ここまで状態の数学的な記述と測定の関係を書いた。次は状態の運動法則である。簡単な例としてスピンに一様な磁場をかけた場合を考える。

時間に依存するシュレディンガー方程式[編集]

実際の物理的な系は常に時間に依存して変化する。このため、量子的な状態も 何らかの仕方で時間依存性を持つ必要がある。ここで、量子論的な系の 時間依存性を考える前に、特殊相対論において、 時間と空間を統一的に扱う方法を得たことを思いだす。 上の議論で空間方向の成分に対しては


\vec p _i \rightarrow 
-i \hbar \frac{\partial{{}}}{\partial{{x _i}}}

(ただし、i=1,2,3。) のような置き換えをしたことを考え、エネルギーと時間方向に同じ様な関係が あることを考えると、上の置き換えに対応して


E \rightarrow 
i \hbar \frac{\partial{{}}}{\partial{t}}

のような置き換えが出来ることが予想される。一方、量子論的な系では 特殊相対論的な考え方が適用できるのかということは疑問が残る。 例えば、量子論ではある物体が存在する位置は観測をする前に原理的に知ることが できず、観測をした瞬間に物体の位置が決定することが知られている。 しかし、ある一瞬で物体の位置が決定されるのなら、その瞬間にその物体は もともと物体があった場所から非常に速い速度で移動しているように思え、 その速度は光速を超えてしまうように思える。 この様な事情を考えると、特殊相対論量子力学をお互いに適合させる ことは非常に困難に思え、上のような置き換えをする理由は定かでないように思える。 しかし、実際にはこの様な困難を乗り越えて上の2つを適合させる方法は 既に知られており、その結果を用いるなら確かに上の置き換えは正しい結果を 与えることが知られるのである。詳しくは場の量子論を参照。

上の置き換えを古典的な方程式


E = H

に対して用いるなら、量子論的な方程式は


i \hbar \frac{\partial{{}}}{\partial{t}} = \hat H

のようになる。ここでは、一般に系の量子状態を張るベクトルを\Psiと書いて、 上の方程式を、


i \hbar \frac{\partial{{}}}{\partial{t}} \Psi = \hat H \Psi

と書き換える。仮に\Psiが、エネルギーEを持つハミルトニアンの固有状態だった とする。このとき、上の方程式は


i \hbar \frac{\partial{{}}}{\partial{t}} \Psi = E \Psi

となり、この式は通常の方法で解くことが出来る。仮にt=0で、


\Psi (t=0) = \psi

が成り立つとすると、上の式の解は


\Psi (t) = e^{-i E t/ \hbar } \psi

となる。このことによって、ある時刻t _0において、あるハミルトニアンの 固有状態で張られる状態にいた物体が時間的にどの状態に変化するかが 分かったことになる。一方、ハミルトニアンの固有状態は時間に依存しない シュレディンガー方程式によって計算されることから、 どの状態がどのような時間発展をするかは時間に依存しないシュレディンガー 方程式を解くことによって求められることが分かる。

また、時間に依存するシュレディンガー方程式と、時間に依存しないシュレディンガー 方程式は互いに関連している。 仮に、ある状態\Psi(t)の時間発展がある定数Eを用いて、


\Psi(t) = \psi \cdot e^{-i E t/\hbar }

で書かれたとする。この時この\Psi(t)を時間に依存するシュレディンガー方程式に 代入すると、結果は、


E \psi = \hat H \psi

となり、時間に依存しないシュレディンガー方程式に等しくなる。

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