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アイヌ語 アクセント

出典: フリー教科書『ウィキブックス(Wikibooks)』


アクセントはそれほど難しくない。日本語よりも遥かに簡単。

i. 基本的な原理

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アイヌ語のアクセントは高低アクセントである。アクセントのある音節の後は高くても低くても良い[1]が、アクセントのある音節の前の音節は必ず低く発音する。樺太方言や北海道の美幌方言、静内方言などではアクセントの区別ははっきりしない。

基本的に、初めの音節が開音節か閉音節かで決まる。

  1. 1音節の単語では、開音節でも閉音節でも、当然アクセントはその音節にある。また、開音節の単語は樺太アイヌ語で長音になる。
    • 例)ㇰ kík 〜を叩く |  pú (樺:ー pū) 倉 |  é (樺:エー ē) 食べる
  2. 最初の音節が閉音節なら、最初の音節にアクセントがある。
    • 例)ィヌ áy-nu 人 | ノ pón-no 少し | チㇿポキヒ cór-po-ki-hi 〜の枝
  3. 最初の音節が開音節なら、2つ目の音節にアクセントがある。
    • 例)チ ci-sé 家 | カィ ka-múy 神 | イパスィ i-kú-pa-suy 奉酒箆
  4. ただし、3.には例外も少数ある。これを例外アクセントというが、そこまで例外的でもない。詳しくは下を参照。
    • 例)カㇻ yú-kar (樺太:ーカラ yū-ka-ra) ユカル(神謡)[2] | サㇺ sí-sam (樺:シーサㇺ sī-sam) 和人

アクセントは基本的に1単語につき1個だが、複合語などの場合、稀に2個以上アクセントを持つ単語がある。このとき、2つ目のアクセントの前も音を下げる。(コ⃣カニ⃣ kónkaní ко́нннкани́金、シ sirókaní широ́кани́銀など)また、付属語類(アナㇰ anak анак ~は 等)にアクセントが付くことは通常ない。

アクセントの後は、急な変化をセず、自然に少しづつ下がっていくことが多い。

ii. 例外アクセント

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最初の音節が開音節でも、その音節にアクセントのある単語がある。このような単語を例外アクセントの単語という。この一部を日本語訳とともに下に示した。また、このとき、樺太アイヌ語では、アクセントの部分(はじめの音節)が長母音になる(例:セィ úsey ушэй → ウーセィ ūsey уушэй)。元は北海道アイヌ語(の原型)でも長母音で、その後に長短の区別が消滅してアクセントの区別に変化したと言われている。

先頭の語が一音節の合成語だと、そのアクセント位置が移動せずに例外アクセントになることがある(mát + ák → mátakなど)。ただし、移動することもある(mát + ápa → matápaなど)。これには一定の規則のようなものはあるが、方言によって変わることもあるし、一つ一つ覚えていった方が多分早い。

例外アクセントの単語例
カナ ラテン キリル 日本語訳
イネ íne инэ 4つの
ウセィ usey ушэй (飲む)湯
ウナ úna уна
カニ kani 私、金属
クスヱㇷ゚ kusuwep キジバト
クレ kure
ケラ kera
シサㇺ sísam шишам 和人
シノ sino 本当に
セセㇰ sesek 熱い
サ゚ペ(チャペ) cape
チポ cipo 船に乗る
ソ゚カ(チョカ) coka 私たち(聞き手を除く)
タタタタ tatatata 〜を切り刻む
ツ゚キ(トゥキ) tuki
テレ tere 待つ
トカㇷ゚ tokap
トペ𛅧(トペ) topen 甘い
パセ pase 重い,えらい
ペカ𛅧ケ(ペカケ) pekanke 浮かぶ
ハポ hapo
フチ huci 祖母、おばあさん
フラ hura におい
フレ hure 赤い
レラ rera
ニサㇷ゚ nisap 急である、急に
ニナ nina 薪とりをする
ヌマ𛅧(ヌマ) numan 昨日
ミチ mici
ミナ mina 笑う
ユカㇻ yukar 英雄叙事詩
ユポ yupo

iii. アクセントの移動

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単語の頭に人称接辞[3]がついた場合、アクセントが移動することがある。これは方言によっても相異なる。

沙流方言の場合

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  • e=, ci=, の場合はその次の音節にアクセントが来る。
    • e=é
    • ci=kár
  • en=, un= の場合は、閉音節なので接辞に来る。
    • én=kore
  • a=, i=, eci=がついた場合、元の位置から移動しない。
    • a=nukár, a=réspa
    • i=nukár, i=eháyta
    • eci=nukár, eci=síknu

iv. 表記の仕方「´」

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アクセントの表記には、(ラテン、キリル両方の)アルファベットでは、アキュートアクセント(´)を使う。カナでは定まった表記法がない。また、長音にアクセントがある場合、サーカムフレックスを付けて、アクセントと長音を表す。また、どの文字でも、状況や表記方針、人によって、

  1. 全てのアクセントを表記する。
  2. 例外アクセントの単語のみ表記する。
  3. アクセントを表記しない。

と、対応が分かれる。

また、仮名表記では確立した方法がない。表記する場合、

  1. 傍点を使う。例:カ
  2. 太字にする。例:カ
  3. 囲み文字を使う。例:カム⃣ィ
  4. 平仮名を使う。カむィ

などの方法がある。

全てのアクセントを表記するときの例を下に示した。

イソ⃣サケカムィ アナㇰ パ⃣セ カム⃣ィ ネ ルヱ ネ。 isósankekamuy anak páse kamúy ne ruwe ne. フクロウはえらいカムイなのだ。

ト リキキノ クㇷ゚キ クス クケヘ ㇻカ。 今日は一生懸命働いたので、手が痛い。(ニューエクスプレス アイヌ語〈白水社、中川裕 著〉より引用、どちらも沙流方言)

v. 付属語のアクセント

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「anak 〜は」「yakka 〜けれど」「hine 〜して」などの付属語類は、前の単語と一まとまりでで発音されることが多く、通常アクセントは付かない。

註釈

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  1. ^ 基本的には段々と自然に下がってゆく。
  2. ^ 北海道方言ではこの意味だが、樺太方言では単に「歌」という意味。
  3. ^ 動詞や名詞などについて、誰の動作や物かを示す部分。アイヌ語の学習で特に大事なものの一つ。x章のx回(未定)で詳しく説明する。今は読み流すだけでもよい。