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アラビア語便覧:文の構造/コピュラ

出典: フリー教科書『ウィキブックス(Wikibooks)』

اَلْعِمَادُ (اَلْدِعَامَةُ) فِي الْعَرَبِيَّةِ

コピュラとは

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コピュラ[1] (英 copula[2], 仏 Copule, 独 Kopula) とは、名詞どうし または 名詞と形容詞や前置詞句などを連結させて、主語と述語の関係を作り出す語のことを指す。英語のbe動詞、フランス語のêtre (エートル)動詞、ドイツ語のsein (ザイン)動詞などがこれに該当するとされ、「繋辞(けいじ)」「連結詞」などと訳されている。例えば、

英   語 「He is a student.」
フランス語 「Il est un étudiant.」
ド イ ツ語 「Er ist ein Student」
日 本 語 「彼、(ある一人の)学生です。」

という文の 「is」「est」「ist」「~は~です」 がコピュラに相当するとされている。

現代言語学の概念であるコピュラは、アラビア語では 支柱عِمَادٌ あるいは دِعَامَةٌ など) と訳されるが、アラブ固有の文法学にはない概念であり、言語学者たちの見解は、以下の立場に分かれている。

  1. アラビア語には、コピュラはない。
  2. 主語と述語の間に置かれる人称代名詞 ( هُوَ あるいは هِيَ など) がコピュラとして機能する。
  3. 存在を表わす特殊な動詞 كَانَ や 否定を示すلَيْسَ などがコピュラとして機能する。

ここでは、言語学的な厳密さ、見解の相異などには立ち入らず、コピュラ的に機能するものを扱うことにする。

ゼロ・コピュラの構文

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以下に、アラビア語に特徴的な、コピュラのない構文 「ゼロ・コピュラ」(Zero copula [3][4]) の例を示す。

例文1-1 名詞(主語)+名詞(述語)
述語 主語
例文   .تِلْمِيذٌ     زَيْدٌ  
品詞 男性名詞・
非限定・主格
男性名詞・
限定・主格
和訳 生徒 ザイドは
ザイド(男)は、生徒です。


例文1-2 名詞(主語)+形容詞(述語)
述語 主語
例文   .جَادَّةٌ     سَارَةُ  
品詞 形容詞・女性形・
非限定・主格
女性名詞・
限定・主格
和訳 まじめ サーラは
サーラ(女)は、まじめです。


例文1-3 代名詞(主語)+名詞(述語)
述語 主語
例文   .كِتَابٌ     هَذَا  
品詞 男性名詞・
非限定・主格
指示代名詞・
限定・主格
和訳 これは
これは、(ある1冊の)本です。


例文1-4 名詞句(主部)+前置詞句(述部)
述部 主部
例文   .فِي طُوكِيو     مَنْزِلِي  
品詞 前置詞
+非限定名詞・属格
男性名詞+人称代名詞・
限定・主格
和訳 東京に 私の家は
私の家は、東京にあります。

上に挙げた四つの簡単な例文は、いずれも主語となる名詞や名詞句が限定・主格であり、(前置詞句以外は)述語となる名詞や形容詞は非限定・主格である。これらは、コピュラ(繋辞)を必要としない文型であり、名詞文(الجملة الاسمية)に分類される。


例文
述語 主語
例文   .      
品詞

和訳

分離人称代名詞

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アラブでは、アラビア語においてコピュラとして機能するものは、分離人称代名詞( ضمير الفصل )だと考えられる場合がある。⇒ w:ar:عماد (لغة) などを参照。

前項で、例文1-1、1-2、1-3において、述語を限定させようとすると

  1. .زَيْدٌ التِّلْمِيذُ  「(男子)生徒であるザイド」
  2. .سَارَةُ الْجَادَّةُ  「まじめであるサーラ(女性)」
  3. .هَذَا الْكِتَابُ  「この(一冊の)本」

となり、文ではなく、単なる名詞句になってしまう。これを回避するために、主語(主部)と述語(述部)の間に、以下の3人称の分離人称代名詞が置かれる。

  1. هُوَ  男性・単数 「彼は」「それ(男性名詞)は」
  2. هِيَ  女性・単数 「彼女は」「それは(女性名詞)は」
  3. هُمَا  双数 「彼ら二人は」「彼女ら二人は」「それら二つは」
  4. هُمْ  男性・複数 「彼らは」「それらは」
  5. هُنَّ  女性・複数 「彼女らは」


例文2-1 名詞(主語)+名詞(述語)
述語 主語
例文   .التِّلْمِيذُ     هُوَ     زَيْدٌ  
品詞 男性名詞・
限定・主格
男性名詞・
限定・主格
和訳 その(男子)生徒 ザイドは
ザイド(男)、その(男子)生徒です。


例文2-2 名詞(主語)+形容詞(述語)
述語 主語
例文   .الْجَادَّةُ     هِيَ     سَارَةُ  
品詞 形容詞・女性形・
限定・主格
女性名詞・
限定・主格
和訳 そのまじめな女性 サーラは
サーラ(女)、そのまじめな女性です。


例文2-3 代名詞(主語)+名詞(述語)
述語 主語
例文   .الْكِتَابُ     هُوَ     هَذَا  
品詞 男性名詞・
限定・主格
指示代名詞・
限定・主格
和訳 その本 これは
これ、その(1冊の)本です。

コピュラ動詞①

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コピュラは、一般的には、主語と述語を結びつける動詞فِعْلٌ يَرْبُطُ بَيْنَ الْمُبْتَدَأِ‏ وَالْخَبَرِ‏ [5])だと考えられ、これを特に コピュラ動詞copulative verb)または連結動詞(linking verb [6])、アラビア語では اَلْفِعْلُ الرَّابِطُ [7] などと訳される。

欧米や日本では、アラビア語におけるコピュラ動詞は、「~であった」「~である」を意味する特殊な動詞 كَانَ や否定を表わす特殊な動詞 لَيْسَ であると見なされる傾向が強い。

#ゼロ・コピュラの構文で挙げた名詞文の時制は 現在 であるが、過去時制を表わすためには كَانَ 完了形)が用いられ、未来時制を表わすためには سَيَكُونُ 未完了形)が用いられる。

例文3-1(a) 名詞(主語)+ كان +名詞(補語)
補語 動詞 名詞文の主語
例文   .تِلْمِيذًا     كَانَ     زَيْدٌ  
品詞 男性名詞・
非限定・対格
動詞・3人称・
単数・完了
男性名詞・
限定・主格
和訳 生徒 だった ザイドは
ザイド(男)は、生徒だった


例文3-1(b) 名詞(主語)+ سيكون +名詞(補語)
補語 動詞 名詞文の主語
例文   .تِلْمِيذًا     سَيَكُونُ     زَيْدٌ  
品詞 男性名詞・
非限定・対格
動詞・3人称・
単数・未完了
男性名詞・
限定・主格
和訳 生徒 であるだろう ザイドは
ザイド(男)は、生徒であるだろう(未来)
例文3-1(b)´
.زَيْدٌ سَيَكُونُ تِلْمِيذًا مُجْتَهِدًا
  「ザイドは、勤勉な生徒になっているだろう。」


例文3-1(a)、例文3-1(b) は、伝統的な文法学では「名詞文」として扱われるが、実質的には 動詞文(جملة فعلية )の主語を文頭に移しただけのもので、述語は動詞の補語に変わっている。


否定を表わすためには、 لَيْسَ 語形は完了形だが、過去時制ではない)が用いられる。例文1-3から、次のような否定文が作られる。

例文3-3 代名詞(主語)+ ليس +名詞(述語)
補語 動詞 名詞文の主語
例文   .كِتَابًا     لَيْسَ     هَذَا  
品詞 男性名詞・
非限定・対格
動詞・3人称・
単数・完了
指示代名詞・
限定・主格
和訳 ではない これは
これは、本ではない
例文3-3´
.هَذَا لَيْسَ كِتَابًا جَدِيدًا
  「これは、新しい本ではない。」

コピュラ動詞②

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脚注

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  1. ^ コプラとは - コトバンク
  2. ^ copulaの意味 - 英和辞典 - コトバンク
  3. ^ w:en:Zero_copula#Arabic
  4. ^ wikt:en:zero copula
  5. ^ Al-Mawrid Alhadeeth: A Modern English-Arabic Dictionary の copula の項より。
  6. ^ wikt:en:linking verb
  7. ^ Al-Mawrid Alhadeeth: A Modern English-Arabic Dictionary の copula の項より。

参考文献

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アラビア語におけるコピュラの有無について、日本語で解説したものに、次の論文がある。

Soliman, Alaaeldin (2008)

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  • Soliman, Alaaeldin 「標準アラビア語における繋辞(コピュラ)の欠如について--分離人称代名詞の機能」、
    「言語情報科学」 (ISSN 1347-8931) 第6号、2008年3月発行、
    編集・発行=東京大学大学院総合文化研究科言語情報科学専攻
    ※エジプト人言語学者アラーエルディーン・スライマーン( علاء الدين سليمان )が日本語で論じている。

参考記事

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関連項目

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