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ゲスタ・ローマーノールム/De Fabio, qui captivos redimerat

出典: フリー教科書『ウィキブックス(Wikibooks)』
De Fabio, qui captivos redimerat

ラテン語原文

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s:la:Gesta Romanorum (Oesterley)/52 を元に、レクラム文庫版などを参考にして、若干の修整を施した。)

Refert Valerius, quod Fabius redemerat captivos Romanorum promissa pecunia, quam cum senatus dare nollet, ipse fundum unicum habens vendidit et promissum premium solvit, volens se pocius patrimonio privare, quam propria fide inopem esse.

Moralisacio : Carissimi, Fabius iste est dominus noster Ihesus Christus, qui ob captivos, scilicet totum genus humanum a diabolo captum, non pecuniam, sed proprium sanguinem dedit in precium, volens se pocius patrimonio, scilicet vita propria, privare, quam genus humanum dimittere.


注解付きテキスト

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Refert[1] Valerius[2], quod[3] Fabius[4] redēmerat[5] captīvōs[6] Rōmānōrum[7] prōmissā[8] pecūniā[9], [10]quam[11] cum[12] senātus[13] dare[14] nōllet[15], ipse[16] fundum[17] ūnicum[18] habēns[19] vēndidit[20] et[21] prōmissum[22] premium[23] solvit[24], volēns[25][26] pocius[27] pātrimōniō[28] prīvāre[29], quam[30] propriā[31] fidē[32] inopem[33] esse[34].

Mōrālisaciō[35] : Cārissimī[36], Fabius iste[37] est[38] dominus[39] noster[40] Ihēsus[41] Christus[42], quī[43] ob[44] captīvōs, scīlicet[45] tōtum[46] genus[47] hūmānum[48] ā[49] diabolō[50] captum[51], nōn[52] pecūniam[53], sed[54] proprium[55] sanguinem[56] dedit[57] in[58] precium[59], volēns sē pocius pātrimōniō, scīlicet vītā[60] propriā, prīvāre, quam genus hūmānum dīmittere[61].

語釈

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  1. ^ refert は、不規則動詞referōの三人称・単数・現在・能動・直接法 「彼は語っている」
  2. ^ Valeriusは、第二変化・男性・固有名詞の単数・主格で、ローマの氏族名「ウァレリウス(が)」
  3. ^ quodは、接続詞「~こと(を)」
  4. ^ Fabiusは、第二変化・男性・固有名詞の単数・主格で、ローマの氏族名「ファビウス(が)」
  5. ^ redēmeratは、第三活用動詞redimō 「買い戻す、身請けする、救出する」の三人称・単数・過去完了・能動・直接法 「身請けしていた」
  6. ^ captīvōsは、第二変化・男性名詞captīvus「捕虜」の複数・対格 「捕虜たちを」
  7. ^ Rōmānōrumは、形容詞Rōmānus「ローマ人の」の男性・複数・属格。captīvōsを修飾し、性・数・格を一致させている。
  8. ^ prōmissāは、第三活用動詞prōmittō「約束する、保証する」の完了受動分詞prōmissusの女性・単数・奪格。pecūniāに性・数・格を一致させている。
  9. ^ pecūniāは、第一変化・女性名詞pecūnia「金銭」の単数・奪格
  10. ^ cum ~ nollet : cum +接続法で「理由」を表わす節。関係代名詞quamがcumより先んじる。
  11. ^ quamは、関係代名詞quī, quae, quodの女性・単数・対格「それを」。pecūniāを受けている。
  12. ^ cumは、接続詞で、接続法の動詞を伴って理由を表わす。
  13. ^ senātusは、第四変化・男性名詞「元老院」の単数・主格「元老院が」。
  14. ^ dareは、第一活用・不規則動詞「与える、支払う」の現在・能動・不定法「与えること、支払うこと」。
  15. ^ nōlletは、不規則動詞nōlō「欲しない、拒絶する」の三人称・単数・未完了過去・能動・接続法
  16. ^ ipseは、人称代名詞ipse, ipsa, ipsum「自身」の男性・単数・主格「自身が」
  17. ^ fundumは、第二変化・男性名詞fundus「地所、耕地」の単数・対格「地所を、耕地を」
  18. ^ ūnicumは、形容詞ūnicus, ūnica, ūnicum「唯一の」の男性・単数・対格。fundumを修飾し、性・数・格を一致させている。
  19. ^ habēnsは、第二活用動詞habeō「持つ、所有する」の現在能動分詞「持っている」。
  20. ^ vēndiditは、第三活用動詞vēndō「売る」の三人称・単数・完了・能動・直説法「売った」。
  21. ^ etは、接続詞「と、および、そして」
  22. ^ prōmissumは、第三活用動詞prōmittō「約束する、保証する」の完了受動分詞prōmissusの中性・単数・対格。premiumに性・数・格を一致させている。
  23. ^ premiumは、中世ラテン語の第二変化・中性名詞「報酬、償い」の単数・対格。古典ラテン語のpraemiumの二重母音aeがeに変化した形。
  24. ^ solvitは、第三活用動詞solvō「解く」あるいは「支払う、弁済する」の三人称・単数・完了・能動・直説法
  25. ^ volēnsは、不規則動詞volō「欲する、望む」の現在能動分詞「欲している」。
  26. ^ は、三人称再帰代名詞の奪格「自分から」。
  27. ^ pociusは、中世ラテン語の副詞で pocius ~ quam ・・・ 「・・・よりむしろ~」。古典ラテン語のpotiusのtiがciに変化した形。
  28. ^ pātrimōniōは、第二変化・中性名詞patrimōnium「世襲財産、相続財産」の単数・奪格。
  29. ^ prīvāreは、第一活用動詞prīvō「(対格)から(奪格)を奪う、取り上げる」の現在・能動・不定法
  30. ^ quamは、接続詞で「・・・よりも」。
  31. ^ propriāは、形容詞proprius, -a, -um「自分の、固有の、個人の」の女性・単数・奪格。
  32. ^ fidēは、第五変化・女性名詞fidēs「信義、信頼」の単数・奪格。
  33. ^ inopemは、形容詞inops「(奪格)に欠乏している」の男性・単数・対格。
  34. ^ esseは、不規則動詞sumの現在・不定法。
  35. ^ Mōrālisaciō は、中世ラテン語の語彙で、「道徳的教訓、訓戒」などと訳されている(#國原 1975,2007のp.209を参照)。
  36. ^ cārissimīは、形容詞cārus, cāra, cārum「親愛な」の最上級cārissimusの男性・複数・呼格「親愛なる者たちよ」。
  37. ^ isteは、指示形容詞の男性・単数・主格。古典ラテン語では二人称的に用いられることが多いが、中世ラテン語ではしばしば三人称的に用いられる。
  38. ^ estは、不規則動詞sumの三人称・単数・現在・能動・直説法「~である」。
  39. ^ dominusは、第二変化・男性名詞「主人」の単数・主格
  40. ^ nosterは、所有形容詞「我々の」の男性・単数・主格
  41. ^ Ihēsusは、第四変化・男性・固有名詞「イヘースス」の単数・主格で、Iēsus「イエースス」の別形。
  42. ^ Christusは、第二変化・男性名詞「クリストゥス(キリスト)」の単数・主格。
  43. ^ quīは、関係代名詞quī, quae, quodの男性・単数(または複数)・主格。
  44. ^ obは、前置詞「(対格)のために」。
  45. ^ scīlicetは、副詞「すなわち」。
  46. ^ tōtumは、第二変化・中性名詞「全体」の単数・対格。
  47. ^ genusは、第三変化・中性名詞「種族」の単数・対格。
  48. ^ hūmānumは、形容詞hūmānus, -a, -um「人間の」の中性・単数・対格。
  49. ^ āは、前置詞「(奪格)によって」。
  50. ^ diabolōは、第二変化・男性名詞diabolus「悪魔」の単数・奪格。
  51. ^ captumは、第三活用動詞capiō「捕らえる」の完了受動分詞captusの中性・単数・対格。
  52. ^ nōnは、否定辞「~でない」。
  53. ^ pecūniamは、第一変化・女性名詞pecūnia「金銭」の単数・対格。
  54. ^ sedは、接続詞「しかし」。nōn ~ sed ・・・ 「~でなく・・・」。
  55. ^ propriumは、形容詞proprius, -a, -um「自分の、固有の、個人の」の男性・単数・対格。sanguinemを修飾し、性・数・格を一致させている。
  56. ^ sanguinemは、第三変化・男性名詞sanguis「血」の単数・対格。
  57. ^ deditは、第一活用・不規則動詞「与える、捧げる」の三人称・単数・完了・能動・直説法「捧げた」。
  58. ^ inは、奪格支配または対格支配の前置詞「~(対格)において」
  59. ^ preciumは、中世ラテン語の第二変化・中性名詞「価値、代価、代償」の単数・対格。古典ラテン語のpretiumのtiがciに変化した形。
  60. ^ vītāは、第一変化・女性名詞vīta「生命」の単数・奪格。
  61. ^ dīmittereは、第三活用動詞dīmittō「放棄する」の現在・能動・不定法。

節・句ごとの訳

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本編
  • Refert Valerius, quod ~
    • ウァレリウスは以下のことを述べている。
      (古典ラテン語では不定法句を用いて語られた内容を表わすが、中世ラテン語では接続詞quodを用いて副文とすることが多い。)
  • Fabius redēmerat captīvōs Rōmānōrum prōmissā pecūniā,
    • ファビウスは金銭を約束することでローマ人の捕虜たちを身請けしていた (過去完了) が、
      (prōmissā pecūniā : やり方を表わす奪格「約束された金銭でもって」、または絶対奪格的に「金銭を約束することによって」)
  • quam cum senātus dare nōllet,
    • 元老院がそれを支払うことを拒絶していた (未完了過去) ので、
      (接続法の動詞を伴って理由を表わすcumの節で、関係代名詞quamが先に出る。)
  • ipse fundum ūnicum habēns vēndidit
    • (ファビウス)自身が持っていた唯一の地所を売り払って (完了)
  • et prōmissum premium solvit,
    • 約束されていた賠償金を支払った (完了)
  • volēns sē pocius pātrimōniō prīvāre, quam propriā fidē inopem esse.
    • 自分の信義を欠くことよりも、むしろ己から相続財産を奪うことを欲していたのだ。
      (現在分詞句で、上記の行為の状況を説明している。)
訓戒編
  • Mōrālisaciō :
    • 訓戒
  • Cārissimī,
    • 親愛なる者たちよ、
      (説教を聴いているキリスト教信者たちへの呼びかけ)
  • Fabius iste est dominus noster Ihēsus Christus,
    • かのファビウスは、我らが主イヘースス・クリストゥス (イエス・キリスト) であり、
  • quī ob captīvōs, scīlicet tōtum genus hūmānum ā diabolō captum,
    • 捕虜たち ──すなわち、悪魔によってとりこにされた人類全体── のために、
  • nōn pecūniam, sed proprium sanguinem dedit in precium,
    • 金銭ではなく、自分の血を代償に捧げたのだ。
  • volēns sē pocius pātrimōniō, scīlicet vītā propriā, prīvāre, quam genus hūmānum dīmittere.
    • 人類を見棄てることよりも、むしろ相続財産 ──すなわち自分の生命── を己から奪うことを欲していたのだ。

物語の解説

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日本語訳の例

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参考

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脚注

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