ゲスタ・ローマーノールム/De philomela et buphone

出典: フリー教科書『ウィキブックス(Wikibooks)』
ナビゲーションに移動 検索に移動
De philomela et buphone

ラテン語テキスト[編集]

(Oesterley編 "Gesta Romanorum" を元に、若干の修整を施した。)

Dicitur quod inter philomelam et buphonem[* 1] sit odium naturale in cantu, ideo quia philomela[* 2] de nocte dum dulciter cantat tunc bupho nititur ipsam in predam capere et ei fortiter insidiatur, ut eam interficiat. Quod intelligens philomela[* 3] rubum vel spinam densissimam intrat et ita se a buphonis insidiis custodit et conservat.


テキスト引用についての注釈
  1. ^ Oesterley版に記載されている綴りで、これは bupho の単数・対格で、ワシミミズクを指す būbō の俗ラテン語形 būfo の別綴りと考えられる。
  2. ^ Oesterley版では philomena となっているが、philomela と修整した。
  3. ^ Oesterley版では phylomela となっているが、philomela と修整した。

注解付きテキスト[編集]

Dīcitur[1] quod[2] inter[3] philomēlam[4] et[5] būphōnem[6] sit[7] odium[8] nātūrāle[9] in[10] cantū[11], ideō[12] quia[13] philomēla[14][15] nocte[16] dum[17] dulciter[18] cantat[19] tunc[20] būphō[21] nītitur[22] ipsam[23] in predam[24] capere[25] et eī[26] fortiter[27] insidiātur[28], ut[29] eam[30] interficiat[31]. Quod[32] intelligēns[33] philomēla[34] rubum[35] vel[36] spīnam[37] dēnsissimam[38] intrat[39] et ita[40][41] ā[42] būphōnis[43] īnsidiīs[44] custōdit[45] et cōnservat[46] .

語釈[編集]

  1. ^ dīcitur は、第三活用・不規則動詞 dīcō 「言う」の三人称・単数・現在・受動・直説法 「言われている」
  2. ^ quodは、接続詞「~こと(を)」
  3. ^ inter は、対格支配の前置詞「~の間に」
  4. ^ philomēlam は、第一変化・女性名詞 philomēlaサヨナキドリ(ナイチンゲール)」の単数・対格
  5. ^ etは、接続詞「と、および、そして」
  6. ^ būphōnem は、古典ラテン語の第三変化・男性名詞 būbōワシミミズク」の単数・対格 būbōnem の俗ラテン語形 (būfōnem の別綴り)と考えられる。
  7. ^ sitは、不規則動詞sumの三人称・単数・現在・能動・接続法
  8. ^ odium は、第二変化・中性名詞「嫌悪、憎悪」の単数・主格
  9. ^ nātūrāle は、形容詞 nātūrālis, -is, -e「自然な、生まれつきの、生来の」の中性・単数・主格。
  10. ^ in は、前置詞(奪格支配または対格支配)。この場合は 「~(奪格)において」
  11. ^ cantū は、第四変化・男性名詞 cantus「歌」あるいは「(鳥などの)鳴き声」の単数・奪格。
  12. ^ ideō は、副詞「その理由により」
  13. ^ quia は、接続詞「というのは」
  14. ^ philomēla は、第一変化・女性名詞 「サヨナキドリ(ナイチンゲール)」の単数・主格
  15. ^ は、奪格支配の前置詞。この場合は「(時間的に)~の間に」。dē nocte 「夜間に」
  16. ^ nocte は、第三変化・女性名詞 nox 「夜」の単数・奪格
  17. ^ dum は、接続詞「~する間に」または「~するならば」
  18. ^ dulciter は、副詞「甘く、甘美に」
  19. ^ cantat は、第一活用動詞 cantō 「歌う」または「(鳥が)鳴く」の三人称・単数・現在・能動・直説法
  20. ^ tunc は、副詞「そのときに」
  21. ^ būphō は、古典ラテン語の第三変化・男性名詞 būbō 「ワシミミズク」の単数・主格 の俗ラテン語形 (būfō の別綴り)と考えられる。
  22. ^ nītitur は、第三活用・デポネンティア(能動欠如)動詞 nītor の三人称・単数・現在・能動・直説法。この場合は、不定法を伴って「~することに努力する」
  23. ^ ipsam は、人称代名詞 ipse, ipsa, ipsum 「自身」の女性・単数・対格「それ自身を」
  24. ^ predam は、第一変化・女性名詞 praeda 「獲物、餌食」の単数・対格 praedam の中世ラテン語形
  25. ^ capere は、第三活用動詞(-iō型) capiō 「得る、獲得する」の現在・能動・不定法
  26. ^ は、指示代名詞 is, ea, id 「それ」の女性・単数・与格
  27. ^ fortiter は、副詞「強く」または「大胆に」
  28. ^ insidiātur は、第一変化・デポネンティア(能動欠如)動詞 īnsidior の三人称・単数・現在・能動・直説法。あるいは第一活用動詞 īnsidiō の三人称・単数・現在・受動・直説法。与格名詞を伴う
  29. ^ ut は、副詞または接続詞。この場合は、接続法の動詞を伴って目的を表わす。
  30. ^ eam は、指示代名詞 is, ea, id 「それ」の女性・単数・対格「それを」
  31. ^ interficiat は、第三活用動詞 (-iō型)interficiō の三人称・単数・現在・能動・接続法
  32. ^ quod は、関係代名詞 quī, quae, quodの中性・単数・対格 「それを、そのことを」
  33. ^ intelligēns は、第三活用動詞 intelligō の現在分詞の女性・単数・主格
  34. ^ philomēla は、第一変化・女性名詞 「サヨナキドリ(ナイチンゲール)」の単数・主格
  35. ^ rubum は、第二変化・男性名詞 rubus の単数・対格。「キイチゴ」あるいは「茨などの、とげのある低木」(bramble, blackberry bush )などを指す。
  36. ^ vel は、接続詞「あるいは」
  37. ^ spīnam は、第一変化・女性名詞 spīna の単数・対格。「サンザシスピノサスモモのような、とげのある木や低木」(a thorny tree or shrub, such as whitethorn, hawthorn, or blackthorn)などを指す。
  38. ^ dēnsissimam は、形容詞 dēnsus, -a, -um 「密な」の最上級 dēnsissimus の女性・単数・対格
  39. ^ intrat は、第一活用動詞 intrō 「入る、入り込む」の三人称・単数・現在・能動・直説法
  40. ^ ita は、副詞「このように」
  41. ^ は、再帰人称代名詞「それ自身」の単数・対格
  42. ^ ā は、奪格支配の前置詞。この場合は「~から」
  43. ^ būphōnis は、古典ラテン語の第三変化・男性名詞 būbōワシミミズク」の単数・属格 būbōnis の俗ラテン語形 (būfōnis の別綴り)と考えられる。
  44. ^ īnsidiīs は、第一変化・女性名詞 īnsidia 「待ち伏せ」の複数・奪格
  45. ^ custōdit は、第四活用動詞 custōdiō の三人称・単数・現在・能動・直説法。この場合は「守る」
  46. ^ cōnservat は、第一活用動詞 cōnservō の三人称・単数・現在・能動・直説法。「守る、保護する」

節・句ごとの訳[編集]

  • Dīcitur quod ~
    • ~以下のことが言われている。
      (古典ラテン語では不定法句を用いて語られた内容を表わすが、中世ラテン語では接続詞quodを用いて副文とすることが多い[注 1]。)
  • inter philomēlam et būphōnem sit odium nātūrāle in cantū,
  • ideō quia philomēla dē nocte dum dulciter cantat
    • というのは、サヨナキドリが夜間に甘美に鳴いているならば、
      (ideō quia : 理由を表わす副文を導く接続詞は、このように冗語的に重ねて用いられることが多い[注 3]。)
  • tunc būphō nītitur ipsam in predam capere
    • そのときに、ワシミミズクは、(サヨナキドリ)そのものを獲物として捕らえることに努め、
      (ipsam : 指示代名詞 ipse, ipsa, ipsum は、本来的には再帰的な代名詞だが、ここでは定冠詞的な意味を持つと考えられる[注 4]。)
  • et eī fortiter insidiātur, ut eam interficiat.
    • それ(サヨナキドリ)を捕殺するために大胆にも待ち伏せする。
      (ut eam interficiat : ut +接続法 で目的を表わす古典ラテン語と同じ用法。
      なお、中世ラテン語ではこれに代わる用法が見られる[注 5]。)
  • Quod intelligēns philomēla rubum vel spīnam dēnsissimam intrat
    • そのことを察知するやサヨナキドリは、キイチゴやサンザシなどとげのある低木が密集するところへ入り込み、
  • et ita sē ā būphōnis īnsidiīs custōdit et cōnservat.
    • このようにして、ワシミミズクの待ち伏せから身を守り抜くのである。


解説[編集]

捕食者[1]被食者[2]のせめぎ合い(捕食-被食関係)を観察・描写した説話である。12~13世紀頃の中世ヨーロッパで流行したこのような物語は、ラテン語ではリベル・ベースティアーリウム(liber bēstiārium:獣の書)または単にベースティアーリウムbēstiārium)などと呼ばれ、動物寓意譚bestiary、ベスティアリ[3])などと訳される。

philomēla [4] は、古典ラテン語ではギリシア語由来で「サヨナキドリ」を指すが、中世の用例では「ツバメ」の意味に用いられることもある。しかしながら、夜間に美しい声でさえずるという内容が前者の特徴であることから、ツバメの可能性は排除される。

būbō [5] は、ギリシア語由来の古典ラテン語で「ワシミミズク」を指し、この話に出て来る bupho はその中世・俗ラテン語形と考えられる。 bubo はワシミミズク属の学名にもなっているが、鳴き声が「ブーボ」と聞こえる[6]とされることから、特徴をよく表わしている。


Nachtigall singend Stromkabel (cropped).jpg Uhu-3.jpg
サヨナキドリ / 小夜啼鳥
学名 Luscinia megarhynchos
ワシミミズク / 鷲木菟
学名 Bubo bubo
サヨナキドリ[7][8]は、スズメ目 ヒタキ科 サヨナキドリ属(Luscinia)に属する鳥類で、別名 ナイチンゲールCommon nightingale )、ヨナキウグイス(夜鳴鶯)、ハカバドリ(墓場鳥)などと呼ばれる。全長15~16.5cm。
サヨナキドリは、藪の中や低木・草地を好む
 ヨーロッパ南部から西アジア・中央アジア・中国北西部などで繁殖分布し、ヨーロッパからはアフリカに渡って越冬する。森林地帯などのよく茂った藪の中・低木や草地などに生息する。外見は地味な褐色や灰色で目立たないが、繁殖期になると雄は雌への求愛行動として、夜明けや夕暮れ時などに美しい鳴き声でさえずることがよく知られている。つがいになると、日中のみにさえずる。
(鳴き声は、こちら
ワシミミズクの分布図
 
ワシミミズクの捕食
ワシミミズク[9]は、フクロウ目 フクロウ科 ワシミミズク属に属する鳥類で、全長約60~70cm、翼長45cmにも達する最大クラスのフクロウ類[10]羽角うかく[11]と呼ばれる羽毛の耳状突起があるためミミズク(木菟)[12]と称される。
 ユーラシアに広く分布する大形・夜行性の猛禽類[13]で、森林や岩山などさまざまな環境に生息でき、木の洞や岩棚などに営巣する。夜間に、見張り場とする樹上の枝や岩壁の上で待ち伏せして、ノウサギや小形の鳥類などを捕食する。


日本語訳の例[編集]

脚注[編集]

  1. ^ 國原 1975,2007 『新版 中世ラテン語入門』のp.93「3.quod文」などを参照。
  2. ^ 國原 1975,2007 『新版 中世ラテン語入門』のp.94「3.quod文」の「b.quod文中の法」などを参照。
  3. ^ 國原 1975,2007 『新版 中世ラテン語入門』のp.100「2.理由文」の「c.」などを参照。
  4. ^ 國原 1975,2007 『新版 中世ラテン語入門』のp.69の「1.指示代名詞」の「b.」と「d.」、ならびにp.70の「6.ipse」の「c.」などを参照。
  5. ^ 國原 1975,2007 『新版 中世ラテン語入門』のp.98の「1.目的文」などを参照。
  1. ^ 「捕食者」とは、ほかの動物を餌として捕えて食べる動物のこと。捕食者(ほしょくしゃ)とは - コトバンク などを参照。
  2. ^ 「被食者」とは、ほかの生物から餌として捕えて食べられる立場にある生物(おもに動物)のこと。被食者(ヒショクシャ)とは - コトバンク などを参照。
  3. ^ ベスティアリとは - コトバンク などを参照。
  4. ^ Charlton T. Lewis, Charles Short, A Latin Dictionary, Phĭlŏmēla(英語)やGaffiot(仏語)中の“Phĭlŏmēla” などを参照。
  5. ^ wikt:en:bubo#Etymology_1 などを参照。
  6. ^ 「学研の図鑑LIVE(ライブ)『鳥』」、学研出版、2014年、ISBN 978-4-05-203923-2 などを参照。
  7. ^ サヨナキドリとは - コトバンク などを参照。
  8. ^ 鳥の図鑑「サヨナキドリ」 などを参照。
  9. ^ ワシミミズクとは - コトバンク などを参照。
  10. ^ フクロウとは - コトバンク などを参照。
  11. ^ 羽角(うかく)とは - コトバンク などを参照。
  12. ^ ミミズク(木菟)(ミミズク)とは - コトバンク などを参照。
  13. ^ 猛禽類(もうきんるい)とは - コトバンク などを参照。