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中学校理科 第2分野/生物の細胞と生殖

出典: フリー教科書『ウィキブックス(Wikibooks)』

生物の成長と細胞分裂

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生物が成長する際には、細胞分裂が起きている。一度の細胞分裂で、1個の細胞が2個に分かれる。3個には分裂しない。

大まかに順序を見ると、細胞分裂は、つぎのようになっている。

  • 細胞分裂の順序
まず、核が分かれる → つづけて、細胞質が分かれる。


植物の細胞分裂の細かい順序

細胞分裂 植物細胞 模式図
  1. 核の中に、染色体が現れる。
  2. 染色体が2倍に複製される。
  3. 染色体が、細胞の、縦方向の中央付近に並ぶ。
  4. 中央に並んでいる染色体が、それぞれ両端に分かれるように移動する。紡すい糸(ぼうすいし)というものによって、染色体が引っ張られる。
  5. 両端に分かれた核がまとまって、細胞1個の中に核が2個できる。染色体は、やがて見えなくなる。まだ、細胞は分かれていない。
  6. 核と核の間に、しきり(細胞板) が内側から出来はじめ、細胞が2つに分けられる。こうして、細胞が2つに分かれる。
  7. 2つの細胞に分かれたら、それぞれが大きくなる。
  8. それぞれの細胞が、もとの大きさくらいになったら、再び、細胞分裂が始まり、以上の工程を繰り返す。

以上の分裂の順序は、植物の場合の順序である。

(動物の場合も、ほとんど順序は同じだが、植物で細胞のしきりが出来るところが、動物はちがう。動物細胞では、しきりのかわりに、くびれ が、外側から出来て、2個の細胞に分かれる。)


染色体とは、細胞分裂のときに見える、ひも のような物である。染色体の中には、生物の形質を決める遺伝子(いでんし)が入っている。細胞分裂のとき以外は、染色体は顕微鏡では見えない。染色体の本数は、生物の種類ごとに決まっている。

動物のヒトの場合、染色体の本数は22対の常染色体と1対の性染色体の46本である。

ソラマメによる根の成長の観察

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(図中のピンク線は成長点ではなく、等間隔につけた点です)

ソラマメによる根の成長の観察と細胞分裂

方法


  1. ソラマメの種子を発芽させ、根が2cm~3cmほど伸びたら、今後の成長の早さを観察するため、根に印を等間隔に4個~8個ほど、印をつける。
  2. 根につけた印の間隔を、1日ごとに観察する。


観察の結果、同じ根でも、成長の大きい場所と、成長の小さい場所があることが分かる。

根の先端付近が、成長が大きい。いっぽう、根元の付近(種の近く)は、ほとんど成長していない。

この、根の先端近くの、成長の大きい(細胞分裂が活発な)箇所を、成長点(せいちょうてん)と言う。

※ 成長点のことを「頂端成長組織」(ちょうたん せいちょう そしき)とも言う(受験研究社)。中学の段階では、「成長点」の表記で覚えられれば良い。

なお、根の先端そのものより、ほんの少しだけ根に近い側が成長点である。根の先端は、成長点を保護するための組織になっており、根の先端を「根冠」(こんかん) と言う。右図のように、根冠はあまり成長しない。

タマネギによる細胞分裂の観察

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方法
タマネギを水に数日間つけて、根を出させる。観察するのは、この根のほうである。

  1. 根の先端部分を5mmほど切り取る。
  2. 切り取った根をうすい塩酸の入った試験管につけて、60度の湯の入ったビーカーで、塩酸の試験管を温める。(細胞の1つ1つを、離れやすくするため。)
  3. 温めた根を取り出し、プレパラートに根をのせ、柄つき針で、根を軽くつぶして、ほぐす。
  4. プレパラート上の根に染色液を加え、観察しやすくする。染色液には、酢酸カーミンや酢酸オルセインなどを用いる。
  5. カバーガラスをかける。
  6. カバーガラスの上から、ろ紙を乗せ、静かに、根をおしつぶして広げる。(細胞をばらばらにして、観察しやすくするため。)
  7. 顕微鏡で観察する。

顕微鏡の観察では、まず、低倍率で100倍くらいで観察する。しだいに倍率を高くするため、倍率を変えていき、100倍~600倍くらいで観察する。

染色体の数

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いろいろな生物の染色体の数
植物名 染色体の数
 タマネギ   16本 
 トウモロコシ   20本 
 イネ   24本 
 イチョウ   24本 
 サツマイモ   90本 
 スギナ   216本 
動物名 染色体の数
 キイロショウジョウバエ   8本 
 アマガエル   24本 
 ネコ   38本 
 ヒト   46本 
 チンパンジー   48本 
 ウシ   60本 
 ニワトリ   78本 
 イヌ   78本 
 フナ   100本 
 アメリカザリガニ   200本 

1つの細胞あたりの染色体の本数は、生物の種類ごとに決まっている。 染色体の本数は偶数である。

生物の殖え方

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有性生殖と無性生殖

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生物の生殖(せいしょく、英:reproduction リプロダクション)のしかたには、有性生殖(ゆうせいせいしょく:Sexual reproduction)と無性生殖(むせいせいしょく、asexual reproduction )の、二つの殖え方がある。

有性生殖とは、雄と雌の生殖細胞(卵、精子)が かかわり、受精によって増える、子孫の殖やし方のことを言う。
無性生殖とは、雄と雌が かかわらない、受精を行わない、子孫の殖やし方を言う。

無性生殖には、おもに、分裂(ぶんれつ)・出芽(しゅつが)・栄養生殖(えいようせいしょく)がある。

無性生殖

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  • 分裂
アメーバの分裂

分裂(ぶんれつ、fission)とは一つの体が二つの体に分かれて殖える方法。

例:アメーバ、ゾウリムシ、多くの細菌類など。

分裂は、アメーバなど、おもに単細胞生物に多い生殖方法である。一部の多細胞生物の中にも、分裂で増える物がいる。


  • 出芽
ヒドラの出芽
コウボ菌の出芽

からだの一部が膨らみ、その部分が分かれて、新しい個体をつくる方法
ヒドラなど。

例:ヒドラ、イソギンチャク、コウボ菌、ゴカイ


  • 栄養生殖

栄養生殖(えいようせいしょく、英語:vegetative propagation)では、体の一部が膨らむ。

例:ジャガイモ、オランダイチゴ、ユキノシタなど。

栄養生殖の例

  • さし木、つぎ木 ・・・ さし木 や つぎ木 も、栄養生殖に、ふくまれる。
  • 茎を伸ばして増える。 ・・・ オランダイチゴ、ユキノシタ
  • 地下の根から芽を出して増える。 ・・・ サツマイモ
  • 地下の茎から芽を出して増える。 ・・・ ジャガイモ


無性生殖の特徴

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無性生殖での染色体のしくみは、
体細胞分裂(たいさいぼう ぶんれつ)と同じ。

無性生殖では、親と同じ遺伝子の染色体を、子は受け継ぐ。 分裂(ぶんれつ)・出芽(しゅつが)・栄養生殖(えいようせいしょく)のどれも、細胞分裂によって増殖しており、体細胞分裂(たいさいぼうぶんれつ)という方法である。体細胞分裂では、分裂の前と後で、染色体は同じである。そのため、親の形質(けいしつ)と、まったく同じ形質を、子供はそのまま受け継ぐ。

無性生殖では、有性生殖とちがい、雄と雌が出会う必要が無いので、無性生殖では、比較的に短い時間に個体数が増えやすい。

有性生殖

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減数分裂

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有性生殖では、一般の細胞とは別に、精子(せいし)や卵(らん)といった生殖のための特別な細胞をつくる。この、精子や卵などを生殖細胞(せいしょく さいぼう)という、いっぽう、ふつうの細胞を体細胞(たいさいぼう)という。

精子は、1個の細胞でもある。細胞の観点から見た場合の精子のことを、精細胞(せいさいぼう)という。

同様に、卵のことを卵細胞(らんさいぼう)という。卵は、1個の細胞でもある。

有性生殖

精細胞や卵細胞の染色体の1対あたりの染色体数は、通常の体細胞(たいさいぼう)の半分の染色体数である。そのため、子は、親の遺伝子を半分ずつ受け継ぐ。

この半分ずつの染色体を持つ精細胞と卵細胞が受精して、卵が受精卵になることで、染色体の数は足しあわされる。受精卵の染色体の本数は元の体細胞と同じ本数である。

  • 近親交配(きんしんこうはい)の問題 (参考)

ふつうの染色体の一対では、母方からの染色体の持つ情報と、父方からの染色体の持つ情報とが、ちがっている。このように、染色体の一対は異なる情報どうしで、働きを補い合っている。

しかし、もし、血のつながった親子どうしで交配して子供を産んでしまったり、あるいは兄弟姉妹どうしで交配して子供を産んだりすると、生まれる子供の染色体は、家族どうしの子なので、染色体の一対のうち2本とも似たような染色体となってしまい、染色体の情報が重なってしまう。このため近親交配では、生まれた子の染色体の一対では2本の情報が重なってしまい、その結果、身体に異常を持つ場合が多くなる。

日本では法律で、血のつながった親子どうしの結婚は禁止されている。同様に兄弟姉妹どうしの結婚も禁止されている。

なにも人間だけに限らず、犬や猫などの動物の場合でも、近親交配は、弱い子供を作ってしまう傾向が高い。有性生殖をする生物では、親子や兄弟同士の近親交配をすると、生まれる子供が身体などに不具合を持つ場合が多くなる。

減数分裂と体細胞分裂

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  • 減数分裂

減数分裂(げんすう ぶんれつ)とは、精細胞や卵細胞ができるときの分裂で、染色体の数が半分になる。この精細胞や卵細胞ができるときの分裂を減数分裂(げんすう ぶんれつ)と言う。

受精卵のときに、染色体の数が卵と精子の両方の染色体があわさって、もとの数の染色体にもどる。有性生殖では、子は、両親の染色体および遺伝子を半分ずつ受け継ぐ。親の染色体の半分を受け継ぐため、子の特徴は、親になる。しかし、子の染色体・遺伝子は、親の染色体・遺伝子と異なる。 このため、有性生殖では、多様な個体が生まれていく。

有性生殖には、雄と雌が必要だが、子に遺伝的な多様性が得られるため、環境の変化に対応できる可能性がある。

  • 体細胞分裂
体細胞分裂 模式図

いっぽう、生殖細胞でない通常の細胞(体細胞)が分裂するときの分裂のことを、体細胞分裂(たいさいぼう ぶんれつ)と言う。 分裂前の細胞の染色体と、分裂後の細胞の染色体は、まったく同じである。そのため、遺伝子は同じである。

染色体の数は、分裂の直前に2倍に増え、分裂のときに、その染色体が半分になって、もとの数に戻るので、分裂後の染色体の数は分裂前の通常時と同じである。

植物の有性生殖

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被子植物の花のつくり。

花粉の中に精細胞がふくまれている。

めしべの胚珠の中に、卵細胞がふくまれている。

  1. めしべの先に花粉がつく受粉をすると、花粉から花粉管がのびる。この受粉しただけの段階では、まだ受精卵が出来ていない。
  2. 花粉管が胚珠に達すると、花粉管の中の精細胞と、卵細胞が結びつく。こうして、受精が行われ、受精卵ができる。
花粉管の観察
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ホウセンカなどの植物の花粉と、寒天と砂糖(ショ糖)を用いて、顕微鏡などを用いて観察できる。

砂糖を混ぜた寒天の溶液を固まらせた物は、めしべと状態が似ているので、この砂糖入りの寒天を使って、花粉管が観察できる。

まず、砂糖を混ぜた寒天を作る必要がある。

  1. 5%~10%の砂糖水50cm3~100cm3に、寒天を1g~2gほど混ぜて、砂糖の混ざった寒天溶液を作る。
  2. プレパラートを作るため、まずスポイトで、寒天容器の一部を取り出し、スライドガラスに1滴・2滴ほど落とす。
  3. スライドガラス上に落とした寒天溶液を、冷やして固める。
  4. 寒天上に、ホウセンカなどの花粉をまく。
  5. 花粉のまかれた寒天の上に、カバーガラスをかける。これで、プレパラートができる。
  6. ペトリ皿の中に、折った割り箸(わりばし)で浮かせた足場を2本ほど作って、その割り箸の上にプレパラートごと置く。乾燥しないように、ペトリ皿の中には、プレパラートに水がつかない程度に、ペトリ皿に水を入れておく。
  7. 3分~5分ごとに、プレパラートを取り出して、顕微鏡で観察する。(倍率100倍~200倍くらい)

動物の有性生殖

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有性生殖をする動物には、雄(おす)と雌(めす)との区別がある。

精子には、尾のような物があり、この尾を、べん毛(べんもう、flagellum フラジェルム)という。

卵(らん)を作る器官は、雌の体の中にある卵巣(らんそう、英:ovary オウバリー)で、卵は作られる。卵は、1個の細胞でもある。
精子を作る器官は、雄の体の中にある精巣(せいそう、英:testicle タスティコウル)で、精子は作られる。精子は、1個の細胞でもある。
精子の卵への侵入
生殖で、卵に精子が一つ受精すると、卵の表面に変化がおこり、それ以上の精子が卵に入れないようになる。精子と卵が合体することを受精(じゅせい、fertilization ファテレゼイション)と呼び、受精によって精子と結合した卵を受精卵(じゅせいらん、zygote ザイゴウト)と呼ぶ。受精したとき、受精膜(じゅせいまく、fertilization membrane)と呼ばれる、他の精子の侵入を妨げる膜を形成するため、精子は、1個の卵にふつう1個しか受精しない。受精した精子は、頭部が 精核(sperm nucleus)となって、卵核(egg nucleus)と合体する。

性染色体と常染色体

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(※ 性染色体については、くわしくは、高校で習う。)

図5 ヒトの男性の性染色体。常染色体は大きい順に並べ、番号で呼びあらわす。

ヒトの体細胞は、染色体の対(つい)を23組、あわせて46本の染色体をもつ。

  • 生殖細胞

ヒトの精子と卵は、23組のペアのうち1本ずつ23本の染色体を持っている。受精卵になると精子と卵の染色体をあわせて46本の染色体となる。

  • 男女の違い

性の決定に関与する染色体を性染色体(せい せんしょくたい、sex-chromosome)と呼ぶ。いっぽう、性染色体でない染色体を、常染色体(じょう せんしょくたい)と言う。


ヒトの男女の違いは、X染色体とY染色体を1つずつ持っていれば男性で、X染色体を2本持っていれば女性となる。生殖細胞の精子は22本+X染色体または22本+Y染色体の場合があり、卵は22本+X染色体の場合だけである。つまり、X染色体をもつ精子とX染色体をもつ卵が受精すれば女性に、Y染色体をもつ精子とX染色体をもつ卵が受精すれば男性になる。

ヒトの場合、男性ホルモン(テストステロンなど)を女性に投与しても、性別は変わらない。同様に、女性ホルモン(エストロゲンなど)を男性に投与しても、性別は変わらない。性ホルモンでは性別は変わらない。ヒトの性別を決定するのは遺伝子である。 (※ 性ホルモンについて、より詳しくは保健体育や高校生物などであつかう。)

動物の発生

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エルンスト・ヘッケルによるセキツイ動物の胚の比較。なお、図の初期胚には形態的な類似性が見られるが、今日ではマチガイだといわれている。左の4つは魚類、両生類、爬虫類、鳥類。右半分はホ乳類。右端がヒト。

受精卵から成長した個体になるまでの過程を発生(はっせい、embryogenesis)と呼ぶ そして発生中の子の体のことを(はい)という。つまり受精卵になってから成長いた個体になるまでの間の時期の子の体を胚(はい)という。

例えば、ニワトリの雌(めす)は1日に1個程度の卵を産む。交尾をしないでも卵は産まれるが、孵化(ふか)しない。交尾をしないで受精しないで産まれた卵を無精卵(むせいらん)と呼び、交尾をして受精して産まれた卵を有精卵(ゆうせいらん)と呼ぶ。無精卵と有精卵をニワトリの体温と同じ37℃で保温すると、無精卵は変化しないが、有精卵は2日程度で血管が3日程度で心臓が形成され、7日程度で脳や目や手足などが形成され、20日程度で生まれヒヨコになる。血管や心臓が発生の初期に形成されるのは、卵黄にある栄養を血管や心臓で取り入れるためである。

発展

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(※ 本節の以下の文は、記事が完成するまで、とりあえず高校理科の記事(高等学校生物 生物I‐生殖と発生)を借用した。いくつかの参考書には同等の内容が見られるので、余裕があれば読んでいただきたい。)
卵割の様式

受精卵は体細胞分裂を繰り返して成長するが、その体細胞分裂を卵割(らんかつ、cleavage)と呼ぶ。 卵割で生じた細胞を割球(かっきゅう、blastomere)と呼ぶ。

受精卵は体細胞分裂を繰り返して成長するため、それぞれの細胞は受精卵の遺伝子を全てそのまま受け継ぐ。発生の過程で、それぞれの細胞は遺伝子の異なる部分を使うことで、それぞれ異なる細胞になっていき、これを分化(ぶんか、differentiation)と呼ぶ。つまり、個体の全ての細胞は同じ遺伝子をもつが、使う遺伝子の組み合わせで異なる細胞になっていく。

  • カエルの発生
カエルの発生. 原腸胚から神経胚まで

カエル(flog)の受精では、精子は動物極側から侵入する。精子が卵に侵入した位置の反対側には、灰色の部分が三日月になっている箇所が生じる。これを灰色三日月(はいいろ みかづき)という。発生が進むと灰色三日月の位置に原口(げんこう)が生じる。

カエルの卵は、卵黄が植物極側に片寄った端黄卵である。 カエルの発生は、

受精卵→2細胞期→4細胞期→8細胞期→16細胞期→桑実胚(そうじつはい)→胞胚(ほうはい)→原腸胚(げんちょうはい)→神経胚(しんけいはい)→尾芽胚(びがはい)→おたまじゃくし→成体(せいたい)

の順で起こる。

  • ~4細胞期 等割(とうかつ)を行う。
  • 8細胞期~ 不等割を行う。動物極の割球が小さい。
  • 桑実胚(そうじつはい)期 動物極側に卵割腔という空所が生じる。
  • 胞胚期 胞胚腔(ほうはいこう)が、動物極側に偏った位置にできる。
  • 原腸胚期 灰色三日月のあった所に、半月上の溝ができ、原口となる。この原口が陥入して、動物極の方に陥入し、原腸ができる。発生が進むに連れて原腸が拡大する。原口の上側の位置を原口背唇(げんこうはいしん)といい、主にこの部分が陥入していく。外胚葉・内胚葉・中胚葉が、それぞれできる。原口は陥入が進むにつれて弓形から円形へと変わり、表面から見ると円形の卵黄栓(らんおうせん)ができる。
  • 神経胚期 外胚葉の背側に生じる肥厚を神経板(しんけいばん、neural plate)と呼ぶ。神経板はやがて管状になり、これを神経管(しんけいかん、neural tube)と呼ぶ。神経管は将来、脳や脊髄になる。神経板ができてから神経管ができるまでの胚を神経胚(しんけいはい、neurula)と呼ぶ。
  • 尾芽胚 尾ができはじめた胚を尾芽胚(びがはい、tail bud)と呼ぶ。
  • おたまじゃくし(幼生)独立し食物をとる。

原腸胚のころになると、胚葉は、外胚葉、中胚葉、内胚葉に分化する。

神経胚のころになると、外肺葉は表面を覆う表皮(epidermis)と管状体の神経管に分化し、中胚葉は支持器官の脊索(せきさく、notochord)と体節(たいせつ、somite)と腎節(じんせつ、nephrotome)と側板(そくばん、abdominal plate)に分化し、内胚葉は管状の腸管(enteron)に分化する。

その後、外胚葉性の器官では、表皮は皮膚の表皮、眼の水晶体や角膜、口や鼻の上皮に分化し、神経管は脳や脊髄、眼の眼胞や網膜に分化する。

中胚葉性の器官では、脊索は退化し、体節は脊椎骨・骨格・骨格筋、皮膚の真皮に分化し、腎節は腎臓や輸尿管に分化し、側板は心臓などの内臓、血管の結合組織や筋組織に分化する。 内胚葉性の器官では、腸管は前部が気管・肺、食道、胃、肝臓、膵臓に分化し、中・後部が小腸、大腸、膀胱に分化する。


遺伝の法則

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遺伝と形質

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遺伝(いでん、heredity)とは、生物の形や性質が、遺伝子によって、親から子へ伝わることである。

また、生物の形や性質のことを形質(けいしつ、trait, character)と呼ぶ。 形質には、親から子へ遺伝する遺伝形質(いでんけいしつ)と、 環境の影響によって獲得した遺伝しない獲得形質(かくとくけいしつ、acquired character)がある。 このページでは、「形質」とは遺伝形質のことを指す。

メンデルの遺伝の法則

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対立形質と純系

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メンデル

メンデルは、エンドウの形質の遺伝の規則性を調べた。

エンドウの種子の形の遺伝
  • 対立形質(たいりつ けいしつ)

エンドウには、種子の形が「丸形」(まるがた)の物と、「しわ形」の物がある。種の丸形の性質と、しわ形の性質は、1個の個体には、同時には表れない。 このような、けっして同時には現れない形質を対立形質(たいりつ けいしつ)と言う。


エンドウの対立形質には、種子の丸形・しわ形の他にも、子葉の色(黄色、または緑色)、種皮の色(灰色、または白色)、花の位置(茎の途中、または茎の頂上)、草たけ(高い、または低い)などがある。

メンデルは、この対立形質に注目して、エンドウの形質の遺伝の実験を行い、遺伝の規則性を調べた。


  • 純系(じゅんけい)

メンデルは実験を行う準備にあたり、ある個体を親、子、孫、……と何代にもわたって自家受粉させ、丸形の種しか残さない個体を選びだした。 同様に、何代にもわたって自家受粉させ、しわ形の種しか残さない個体を選びだした。


裏をかえすと、丸形の種の個体を自家受粉させたときに、必ずしも、子の形質は丸形の種になるとはかぎらず、しわ形の種の形質を持つ子が出てくる場合もある。

つまり、丸形の親であっても、しわ形の形質の遺伝子を持っている場合がある。

なのでメンデルは、丸形の遺伝子のみを持っている個体を選び出すために、丸形の種を持つエンドウのみの自家受粉をくりかえし、何代にもわたって丸形の形質を表すエンドウを選び出す必要があったのである。

このように、何代にもわたって個体を自家受粉させても、丸形の種の形質のみを出し、しわ形の形質を出さない場合は、その系統の個体は、しわ形の遺伝子を持っていないと考えられる。


これらのように、何代にもわたって、同じ形質のみを現す系統の個体を純系(じゅんけい)と言う。そして、純系でない個体を雑種(ざっしゅ)と言う。対立形質どうしを持つ純系どうしの親をかけあわせてできた子は、雑種である。

純系の親どうしを掛け合わせた雑種の子では、それぞれの形質で、それぞれ片方の親の形質だけが現れる。これを優性の法則(ゆうせいのほうそく)という。 このとき、雑種の子にあらわれるほうの形質を優性形質という。子にあらわれないほうの形質を劣性形質という。

雑種の子は、優勢の形質の遺伝子も、劣性の形質の遺伝子も、両方とも親から受け継いでいる。しかし、劣性のほうの遺伝子は、優性の遺伝子があるときには形質が発現しないのである。

優性の形質のほうの遺伝子を優性遺伝子と言う。劣性の形質のほうの遺伝子を劣性遺伝子という。


ここでいう優性・劣性の「優劣」とは、べつに生存に適しているかどうかを示していない。単に、子が、親から優性・劣性の両方の遺伝子を受け継いだときに、子に形質が現れるほうの遺伝子を「優性」といい、子に形質が現れないほうの遺伝子を「劣性」というだけの事である。

…のだが、令和2年度教科書からは、「優性」「劣性」が、それぞれ「顕性」「潜性」に改められた。また、啓林館の教科書では「優性の法則」が削除された。また、日本医学会においても「顕性」「潜性」の使用が推奨されている。このため、学校で「顕性」、「潜性」と習った場合、そちらを使用されたい。


純系の対立形質を持つ親どうしを掛け合わせた子を雑種第一代という。雑種第一代どうしを掛け合わせた子を(つまり純系の孫にあたる)、雑種第二代という。

雑種第一代である子の、劣性のほうの遺伝子は、べつに消えたわけではないので、子どうしを掛け合わせて次世代をつくると、その次世代である孫にあたる雑種第二代では、ときどき両方の親から劣性の形質だけを受け継ぐ場合があるので、その場合には劣性の形質が現れる。

また、このような孫世代の実験から、劣性の遺伝子が消えたわけではないことが確認できる。 劣性遺伝子が形質を現さない場合とは、優性遺伝子とあわさった場合だけである。

メンデルの実験

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オーストリア人のメンデル(1822年~1884年)は、遺伝のしくみを調べるため、エンドウを使って、次のような実験を行った。 このメンデルの実験によって、遺伝における優性や劣性のしくみが明らかになっていった。

[1]

メンデルの実験方法

メンデルは、異なる形質をもつエンドウの品種を用意し、2年間にわたり育て、 同一個体の配偶子間で行われる自家受精(autogamy)で 全く同じで変化しない子孫を生じる純系(じゅんけい、pure line)の品種を選んだ。 その際、対立形質が明確な、たがいに異なる対立形質を7つ採用し、

実験に採用された対立形質

  1. 熟した種子の形の違い(丸形、しわ形)
  2. 子葉の色の違い(黄色、緑色)
  3. 種皮の色の違い(灰色、白色)
  4. 熟した さやの形の違い(ふくらみ、くびれ)
  5. 未熟な さやの色の違い(緑色、黄色)
  6. 花の位置の違い(茎の途中、頂上)
  7. 茎の長さの違い(高い、低い)

1856年から62年にかけてエンドウの交配実験を行った。そして、実験結果を記録した。

実験結果

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 メンデルによるエンドウの交雑実験の結果
形質  親 (P)  子 (F1)  孫 (F2)  孫 (F2) 
 合計 
 孫 (F2) 
 比率 
 優性   劣性 
種子の形  丸×しわ   丸   丸 5474個   しわ 1759個   7324個   2.96 : 1 
子葉の色  黄色×緑   黄色   黄色 6022個   緑色 2001個   8023個   3.01 : 1 
種皮の色  灰色×白色   灰色   灰色 705個   白色 224個  929個   3.15 : 1
熟した さやの形  ふくれ×くびれ   ふくれ   ふくれ 882個   くびれ 299個   1181個   2.95 : 1 
未熟な さやの色  緑×黄色   緑   緑 428個   黄色 152個  580個   2.82 : 1 
花の位置  茎の途中×頂上   茎の途中   途中 651個   頂上 207個   858個   3.14 : 1
茎の高さ  高×低緑   高   緑 787個   黄色 277個   1064個   2.84 : 1


実験1
1.種子の形について、
丸と しわ の純系を用意して両親P(Parens)としたところ、 その子である雑種第一代[2]F1(Filius)は、全て丸であった。 このように子(F1)では、対立形質の片方のみが表れる。 子(F1)で現れる形質を 優性形質(ゆうせい けいしつ、dominant trait) と呼び、子(F1)で現れない形質を 劣性形質(れっせいけいしつ、recessive trait) と呼ぶ。 ここでの優性・劣性は、単に形質が現れやすい・現れにくいを意味し、べつに形質が優秀である・劣等であることを意味しない。

このエンドウの場合、種子の丸形が優性形質であり、種子の しわ形 が劣性形質である。

優性形質のことを、単に「優性」と略す場合もある。同様に、劣性形質のことを、単に「劣性」と略す場合もある。


実験2
F1(子)を自家受精したところ、 雑種第二代F2(孫)では、丸と しわ が5474個と1850個で、およそ 3:1 の出現比であった。 このようにF2(孫)では、 優性形質と劣性形質が、およそ3:1の比で出現する。

優性:劣性 = 3:1

実験3
F2(孫)を自家受精したところ、 F2で しわ だったものは、F3で全てしわの純系となり、 F2で丸だったものは、565株のF3の内、 193株は丸の純系となり、 372株は丸と しわ を3:1の比で生じた。 このようにF3では、F2で劣性形質を示すものは、劣性形質の純系となり、 F2で優性形質を示すものは、このうち、3分の2は優性形質と劣性形質を3:1の比で生ずる子孫を作り、 3分の1は優性形質の純系となる。

実験4
1.種子の形と2.胚乳の色について、 種子の形が丸で胚乳の色が黄の純系と種子の形がしわで胚乳の色が緑の純系を用意して両親Pとしたところ、 その子F1はすべて丸で黄であった。

実験5
F1を自家受精したところ、 F2では丸・黄、丸・緑、しわ・黄、しわ・緑が315個、108個、101個、32個で、 およそ9:3:3:1の出現比であった。

遺伝子型と表現型

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個体の遺伝子の構成を記号で表したものを遺伝子型(いでんしがた、genotype)と呼ぶ。 遺伝子型はふつう優性形質をAやBなどのアルファベットの大文字で表し、いっぽう劣性形質をaやbなどのアルファベットの小文字で表す。 ある形質を決定する遺伝子は、ペアの染色体の同じ位置に1つずつ、あわせて2つあるため、アルファベット2文字で表される。

(例: AA は優性のみ。 Aa は優性と劣性。 aa は劣性のみ。)


遺伝子型によって現れる形質を表現型(phenotype)と呼ぶ。 遺伝子型の記号を [ ] で囲んで表すこともある。( 例: [A] , [a] )

優性の法則

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Pの配偶子
A
Pの配偶子 a Aa
[A]

実験1では、 種子の形が丸をA、しわをaと表すとすると、 遺伝子型は、丸の純系はAA、しわの純系はaaと表せる。 この両親Pの配偶子はそれぞれA、aとなり、 その子F1の遺伝子型はAaとなり、表現型は[A]となる。 このように、優性形質の純系と劣性形質の純系とを交雑すると、 その子は優性形質のみを表し、 これを優性の法則(law of dominance)と呼ぶ。

なお、今日では、エンドウの種子の形を決める遺伝子は、 実際には酵素を作る遺伝子であり、その酵素がデンプンを作って種子の形を丸にしていることがわかっている。デンプンの量は、AaはAAとaaの中間であるが、種子の形を丸にするには十分な量であるため、Aaの種子の形は丸となっている。

分離の法則

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F1の配偶子
A a
F1の配偶子 A AA
[A]
Aa
[A]
a Aa
[A]
aa
[a]

実験2では、 F1の遺伝子型はAaと表され、 配偶子が作られるとき分離し、 それぞれの配偶子はA,aとなる。 このように配偶子形成の際ペアの遺伝子が分離し、 それぞれ配偶子に受け継がれることを分離の法則(ぶんりのほうそく、law of segregation)と呼ぶ。 F1の自家受精では、 その配偶子がそれぞれ受精するため、 F2ではAA:Aa:aa=1:2:1となり、 結果[A]:[a]=3:1となる。

実験3では、 F2で[a]だったものは、aaであるから、 その配偶子はaであり、自家受精でaaつまり[a]となる。 F2で[A]だったものは、AA:Aa=1:2であるから、 3分の1のAAの配偶子はAであり、自家受精でAAつまり[A]となり、 3分の2のAaの配偶子はA,aとなり、自家受精でAA:Aa:aa=1:2:1つまり[A]:[a]=3:1となる。

独立の法則

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Pの配偶子
AB
Pの配偶子 ab AaBb
[AB]

実験4では、 種子の形が丸をA、しわをa、胚乳の色が黄をB、緑をbと表すとすると、 遺伝子型は、丸で黄の純系はAABB、しわで緑の純系はaabbと表せる。 この両親Pの配偶子はそれぞれAB,abとなり、 その子F1の遺伝子型はAaBbとなり、表現型は[AB]となる。

F1の配偶子
AB Ab aB ab
F1の配偶子 AB AABB
[AB]
AABb
[AB]
AaBB
[AB]
AaBb
[AB]
Ab AABb
[AB]
AAbb
[Ab]
AaBb
[AB]
Aabb
[Ab]
aB AaBB
[AB]
AaBb
[AB]
aaBB
[aB]
aaBb
[aB]
ab AaBb
[AB]
Aabb
[Ab]
aaBb
[aB]
aabb
[ab]

実験5では、 F1の遺伝子型はAaBbとあらわされ、 配偶子が作られるとき分離し、 それぞれの配偶子は、AB,Ab,aB,abとなる。 F1の自家受精では、 その配偶子がそれぞれ受精するため、 F2で

AABB:AABb:AaBB:AaBb:AAbb:Aabb:aaBB:aaBb:aabb = 1:2:2:4:1:2:1:2:1

となり、 結果

[AB]:[Ab]:[aB]:[ab] = 9:3:3:1

となる。

[AB]:[Ab]:[aB]:[ab] = (1+2+2+4) :(1+2):(1+2):1 = 9:3:3:1


実験4・5では、 種子の形だけあるいは胚乳の色だけに注目すると、 それぞれ優性の法則と分離の法則に従い独立して遺伝している。 このように、2つの遺伝子が異なる染色体に存在するとき、 その遺伝子が互いに影響しないことを独立の法則(どくりつのほうそく、law of independence)と呼ぶ。

※ 発展

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不完全優性

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※ ラサール高校が入試に出している(受験研究社)。
高校1年レベルで理解できる簡単な内容なので(1990年代ではそうだった。現代では高校3年に送られたが)、勉強してしまおう。・
ここを読んでいる頭のいい中学生なら、簡単に理解できる内容である。


マルバアサガオには、花の色の遺伝子は、赤R と 白r の2種類の遺伝子がある。

だが、花の色は、赤と白だけではなく、さらに桃色がある。

この桃色は、遺伝子が Rr の場合である。

その証拠として、親の花の色が赤の純系RRと白の純系rrを両親Pとすると、

その子 F1 の花の色は必ず Rrなので色が中間の桃色となる。

さらにその子(つまり P の孫である) F2 は、RR:Rr:rr=1:2:1で、赤色:桃色:白色=1:2:1となる。

P RR
赤色
× rr
白色
F1 Rr
桃色
F2 RR:Rr:Rr:rr
赤色:桃色:桃色:白色


さて、「分離の法則」の表を再掲。

F1の配偶子
A a
F1の配偶子 A AA
[A]
Aa
[A]
a Aa
[A]
aa
[a]

ここで、大文字 Aを R に置き換え、小文字aを r に置き替えると、

F1の配偶子
R r
F1の配偶子 R RR
[赤]
Rr
[桃色]
r Rr
[桃色]
rr
[白]

これはちょうど、Pの孫である F2 の比率と一致する。なお、F2の比率は、冒頭の実験結果では、

RR:Rr:rr=1:2:1 で、 赤色:桃色:白色 = 1:2:1

である。

つまり、「分離の法則」は、マルバアサガオの場合でも、成り立っている。


入試では、このままの結果ではなく、たとえば、桃色の花を持つ個体を親の片方として、赤色または白色の花とかけあわせたら。どうなるか、というのが出題されたりする。(受験研究社では、白色との かけ合わせの問題。)

では、受験研究社の過去問の場合を考える。

桃色×白色の問題である。この場合は、次のように、以上と同様に、表にまず親の配偶子を書いて、それをもとに考えれば良い。

F1の配偶子
F1自体は白色
r r
F1の配偶子
F1自体は桃色
R
r

つづいて、空欄部に、親F1の子の遺伝子の組み合わせを、親の位置に従って、それぞれの場所に書けば済む。


F1の配偶子
白色
r r
F1の配偶子
桃色
R Rr
[桃色]
Rr
[桃色]
r rr
[白]
rr
[白]

あとは、単に、表にある、子の形質の数を数えればいい。

これを見ると、

赤: 桃 : 白 = 0 : 2 : 2

の比率になっている。

赤はゼロなので排除して、

桃 : 白 = 2 : 2

と答えるのも良いが、約分をして

桃 : 白 = 1 : 1

と答えるのも良い。

ともかく、表を書いて考えればよい。答案でも、表で説明するのが良いだろう。

※ 細かな数値を覚えるのではなく、表の書き方を覚えるのが良い。表を書けば、解けるように作られている。なぜなら、そもそも「分離の法則」の内容そのものが、上記のような配偶子の表で、解けるという事を意味しているからである。よって原理的には、上記の花の色のように対立形質が1種類だけなら、表を解く事によって、基本的には、遺伝の問題は解けるはずである。もし解けないなら、そもそも出題されない。

遺伝子

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DNAの並び方の説明図。AはTと結びつく。GはCと結びつく。
細胞中のDNAの場所。細胞(cell)中に核(nucleus)があり、核の中に染色体(Chromosome)があり、染色体の中にDNAがある。

遺伝子のある場所は、染色体のなかにある。染色体のなかにある物質で、DNA(読み:ディー・エヌ・エー)という物質が、遺伝子の本体・正体である。DNAとはデオキシリボ核酸(deoxyribonucleic acid)の略である。

DNAの構造

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DNAは、A,T,G,Cという4種の記号で表される4種類の構成要素(「塩基」(えんき)という)が多数つながった鎖である。そして、DNAのその構造は、2本の鎖が一対になり、らせん状になっている。この塩基の並び方で、遺伝の情報が決定される。

AとT、GとCとが、互いに結びつきあう。2本の鎖が形づくられている。


つまり、塩基配列上では、AはかならずT と結びつく。具体例をいうなら、AはT以外の塩基とは結びつかない。たとえばAはGは結びつかない。AはCは結びつかない。Aは、他のA塩基とも結びつかない。

同様にTもA以外の塩基とは結びつかない。Tは他のT塩基とも結びつかない。

同様にGもC以外とは結びつかない。CもG以外とは結びつかない。

遺伝子の正体は、DNAにおける塩基の並び方である。この遺伝子の並び方が、生物の形や性質を決めている。


なお、DNAの二重らせん構造を発見した学者はワトソンとクリックである。なお、DNAそのものを発見した人物はミーシャという人である。DNAが遺伝子であることを解明した人物は、ワトソン・クリックとは別の学者(エイブリーや、ハーシーとチェイスなど)である。

※ エイブリー、ハーシーとチェイスについては高校の範囲の人名であるので、中学生は暗記しなくてよい。


  • 個人の違い
DNAの塩基配列が少し異なっていて、異なった遺伝子の情報となることがある。この違いが、個人の違いとなる。


遺伝子の伝わり方

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一人の人間の中では遺伝子は、受精卵の時から、細胞分裂の際は、必ず複製されている。

親から子に伝わる遺伝子は、組み合わせは変わるが、子は両親から遺伝子を受け継ぐ。

そして、親から子へ、子から孫へと、遺伝情報を子孫に伝えている。

全生物がDNAをもつ

DNAが4種類の塩基から成り立っている事は、すべての生物において共通である(受験研究社)。

この事から、現存しているすべての生物は、共通の祖先をもとに発生したと考えられている(受験研究社)。

セキツイ動物だけでなく、細菌や植物も含めて、すべての生物で、DNAが4種類の塩基から成り立っている。なので、そのようなすべての生物において、共通の祖先をもとに発生したと考えられている(受験研究社)。

また、すべての生物のタンパク質を構成しているアミノ酸も、共通であり、たかだか20種類まで、である(受験研究社)。

さらに、すべての生物が、細胞膜として、リン脂質の膜を使っている(受験研究社)[3]

遺伝子の研究成果の活用

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遺伝子操作によって開発された、青いバラ。

遺伝子の研究成果は多くあるが、近年の成果を、この節では取り上げよう。

  • クローン羊のドリー
  • 青いバラ ・・・ バラにパンジー(青い花)の遺伝子を導入して、開発された。
  • 遺伝子組み換え作物 ・・・ ダイズなどの作物に、害虫に強くなる遺伝子を入れることで、除草剤や農薬の量を減らせる。

このような成果がある。では、関連する技術を解説していこう。

クローン

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生物学で言うクローン (clone [4]) とは、ある個体と、まったく同じ遺伝子を持つ別の個体を、作ることである。

植物のクローンは、さし木などで、簡単にクローンが作成できる。

現代でも技術的に難しいのは、動物のうち、ウシやヒツジなどのような、有性生殖する動物のクローン作成である。

現在の技術では、動物のクローンの作成では、胚や体細胞から取り出したDNAを含む核を、未受精卵に移植する「核移植」によって作った卵を代理母の子宮に移植して、代理母にクローンを出産させ、クローンを作成する。


通常の受精などとは違う仕組みである。

現在の技術では、(代理母でなく、)出産されたクローン動物には、身体の異常がある事が多い。

ヒトのクローン作成は、各国の法律などによって禁止されている。

遺伝子組み換え

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遺伝子の組み換え方法には、いろいろな方法があるが、酵素を用いた方法が、有力な方法である。

ある酵素には、特定のパターンのDNA塩基配列を切断する酵素がある。このような、特定パターンの塩基を切断できる酵素を、制限酵素(せいげん こうそ、英: restriction enzyme)と言う。このような酵素を切断のパターンごとに集めて、DNAと混ぜれば、酵素との組み合わせによって、思い通りの切断が出来る。

切断だけだと、単にDNAが切断されただけなので、DNAをつなぐ事の出来る別の酵素を用いて、つなげたりする。DNAをつなげられる酵素をDNAリガーゼ(ディーエヌエーリガーゼ、DNA ligase)と言う。

このほか、様々な組み換え方法を用いて、DNAを目的の配列に組み替えて、その組み替えたDNAを細胞などに戻して培養し、遺伝子組み換えが出来る。

(※ 制限酵素やDNAリガーゼなどは、詳しくは、高校・大学で習う。中学では、制限酵素やDNAリガーゼは、覚えなくても良いだろう。)

制限酵素の応用は、遺伝子組み換え以外にも、遺伝子の配列の分析・調査などにも応用できる。


  • 生態系への影響

遺伝子組み換えをした品種は、自然界には存在していないので、それを利用するさいに未知の問題が起きる可能性がある。そのため、遺伝子組み換えをするさいには、注意が必要である。

食品の成分表などに「遺伝子組み換えでない」などの注意書きがあるのは、このような組み換え品種を原材料に利用していない事を示している。

青いバラ

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自然界のバラは、青い色素をつくることができないため、青いバラは無かった。しかし、パンジーの花に、青い品種があるので、このパンジーの青い色素をつくる遺伝子を、遺伝子組み換えの技術をもちいてバラに導入することによって、青い色素をつくるバラが開発された。こうして、青いバラが開発された。2004年、日本で、青いバラが世界で初めて、つくられた。

安全なインスリンの大量生産

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糖尿病の患者は、インスリンという物質をつくる事ができないため、体内でインスリンが不足し、そのため症状がでる。そこで、インスリンを大量生産するのに、微生物が使われている。

ヒトのインスリンをつくる遺伝子を、遺伝子組み換え技術をもちいて大腸菌に導入し、大腸菌にヒトのインスリンをつくらせる。

そして、そのインスリンを、注射などで、体内に送っている事で、糖尿病の症状をやわらげてる。


大腸菌によるインスリンの生産手法が発明されるまでは、化学的に合成したものか、ブタのインスリンを使っていた。しかし、ブタのインスリンは、ヒトのインスリンとは構造がちがうし、化学的に合成したものもヒトのインスリンとは構造がちがうため、有害な副作用が起こる原因になっていた。

しかし、ヒトのインスリンと同じものを大腸菌でつくれるようになったので、糖尿病患者のインスリン注射によるアレルギー症状の発生が減った。


  1. ^ 岩槻邦夫、須原準平訳『メンデル 雑種植物の研究』岩波書店、1999年発行
  2. ^ メンデルは「雑種第一代」を単に「雑種」(ざっしゅ)と呼び、「雑種第二代」を「雑種第一代」と呼んでいた。
  3. ^ 『すべての生物が使っている細胞膜が「何十億年も進化していない」理由』ダイヤモンド・オンライン , 2020.1.26 5:05
  4. ^ 高等学校外国語科用『Standard Vision Quest English Logic and Expression I』、啓林館、令和3年3月5日検定済、令和3年12月10日発行、P121