中学校社会 地理/世界と比べてみた日本 環境問題

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世界では18世紀後半から始まった 産業革命(さんぎょう かくめい)以降、急速に産業が発展していった。その結果、現代では自動車でいつでも好きな場所へ移動できたり、冷房の普及で夏場も快適に過ごせるなど、私たちの暮らしはとても豊かになった。

しかし、人類による資源の大量消費は地球環境に深刻な問題を起こしつつある。

地球環境問題の現状[編集]

  • 地球温暖化(ちきゅう おんだんか)
  • 森林の破壊や減少
  • 砂漠化
  • 大気汚染
  • オゾン層の破壊
  • 希少動物の絶滅などの生態系の破壊

などの問題がある。

地球温暖化[編集]

1940年–1980年の平均値に対する1995年から2004年の地表面の平均気温の変化
温室効果の概念図

地球温暖化(ちきゅう おんだんか、英:global warming) の主な原因は、石油などの化石燃料(かせき ねんりょう、英:fossil fuel)の大量使用によって、排気にふくまれる二酸化炭素(にさんかたんそ)により、空気中の二酸化炭素が増加したためと考えられている。

  • 温室効果(おんしつ こうか,英:greenhouse effect)
大気中の二酸化炭素には、熱を吸収する働きがあるので、地上の熱が宇宙に逃れず地球の周囲に閉じ込められることが、温暖化の原因と考えられている。また、大気中の二酸化炭素が熱を閉じ込める作用のことを 温室効果(おんしつ こうか) と言う。二酸化炭素など、熱を閉じ込める温室効果のある気体のことを温室効果ガスと言う。


国連では温暖化の防止のため、1992年に国連環境開発会議(地球サミット)がブラジルのリオデジャネイロで開かれ、地球サミットで条約として地球温暖化防止条約( 気候変動枠組み(わくぐみ)条約 )が採択された。

また1997年には、国連の会議(地球温暖化防止 京都会議)で,温室効果ガスの削減目標を定めた京都議定書(きょうとぎていしょ)が採択された。

しかし、中国などの発展途上国と見なされていた国には、削減が義務づけられていない。 また、アメリカは当時に会議から離脱した。

国別の排出量では2009年では、中国が1位であり、アメリカが2位である。

このような理由のため、京都議定書の実効性が疑問視されている。

(削減義務を負わない)発展途上国と見なされた国の反論は、「地球環境問題を引き起こした原因は、主に先進国の活動が原因であり、われわれ途上国に負担を負わせるのはおかしい。」というような反論を途上国している。

海抜の低いツバル、モルディブ、キリバスの国は、海水面が上がれば国土の多くが水没してしまう恐れがある。 南極の大陸上の氷や氷河の氷が溶ければ、海面上昇。低地が水没する。なお、北極の氷が溶けても、もともと北極海に浮かんでいる氷が水に変わるだけなので、海面は上昇しない。

マラリア原虫を媒介するハマダラカ

温暖化によって、マラリアを媒介する蚊のハマダラカの生息域が広がる恐れが有る。

なお、二酸化炭素のことを化学式から CO2(シー・オーツー) とも言う。Cが炭素(英:carbon カーボン)のことで、Oが酸素(英:Oxygen オキシジェン)および酸化(Oxidation オキシデイション)のことである。

森林破壊と砂漠化[編集]

  • 森林破壊

主に発展途上国で、耕作や放牧や工業化を目的にした森林伐採などで、森林面積が減少している。温暖化の原因にもなっていると考えられている。また、動物の生息域が減るので、生態系の保護の観点からも、森林破壊が問題である。

なお、温暖化の化石燃料以外の他の原因として、森林伐採などによる森林の減少によって、植物の光合成(こうごうせい)による二酸化炭素の吸収量が減ったのも理由の一つでは、という説もある。

  • 砂漠化

もともと植物の少ない地域で、その地域が砂漠になる現象が世界の各地で起きている。原因は、過度の農業化や周辺の森林伐採などにより、 土壌の保水性が失われたことなどである。

酸性雨[編集]

酸性雨の発生に関わる概念

酸性雨の原因は、化石燃料の排気にふくまれる窒素酸化物などの物質が、雨の酸性化の原因と考えられている。酸性雨により、森林が枯れたり、湖や川の魚が死んだりする場合もある。

オゾン層の破壊[編集]

フロンガスという物質が原因で、オゾン層が破壊されることが1980年代に分かった。

国際社会と環境問題への取り組み[編集]

地球環境問題は一国だけの問題ではなく、複数の国々、さらに世界中全ての国に影響を与える問題である。このため、1970年代から国際会議でも取り上げられる重大なテーマとなった。

地球環境問題についての最初の国際会議は1972年にスウェーデンのストックホルムで開かれた国連人間環境会議(ストックホルム会議)である。このとき「かけがえのない地球」というキャッチフレーズが用いられた。

1992年にはブラジルのリオデジャネイロで国連地球サミットが開かれた。( ※ 正式名称は「環境と開発に関する国際連合会議」。ただし、「リオ会議」「国際連合環境開発会議」などとも呼ばれる。 ) 国連地球サミットにおいて、「持続可能な開発」という考え方が示された。

1997年には京都で開かれた京都会議( ※ 正式名称は「第3回 気候変動枠組(わくぐみ)条約 締約国(ていやくこく)会議」 )において京都議定書(きょうと ぎていしょ)が締結され、世界の主要国が温室効果ガスの削減を求められるようになった。議定書の発効は2005年からである。

このようにして世界の国々が地球環境問題に対して一致して取り組むことが求められるようになったが、京都議定書からのアメリカの離脱、中国の経済発展にともなう温室効果ガス排出量の急増、発展途上国の経済発展と環境への影響の増大などに見られるように、各国の事情や利害の対立から一致した行動にはほど遠いという問題は解決されていない。

ヨーロッパでは陸続きの国が多いので、一つの国の環境問題が周囲の国に影響を与えることも大きく、環境問題が外交問題になりかねないこともあり、ヨーロッパでは1970年代ごろから環境問題の取り組みが積極的に行われてきた。

公害[編集]

工場などからでる排水や排煙などの処理が不十分だと、排水・排煙にふくまれる有害物質により、周辺の環境が汚染され、近隣の住民など多くの人の健康に被害が出る場合がある。このように、産業活動による多くの人への健康への悪影響を 公害(こうがい、英:pollution ) という。

日本での公害は、第二次大戦の前から知られていたが、戦後の高度経済成長期に日本の全国各地が急激に工業化していくにつれて、さまざまな公害が全国各地で発生し、公害の被害が目立ち始めた。

公害とは、主に、以下の7つの公害が典型的である。

  • 大気汚染(たいき おせん) ・・・ 排煙などで、空気が、よごれること。
  • 水質汚濁(すいしつ おだく) ・・・ 川や海などの水がよごれること。
  • 土壌汚染(どじょう おせん) ・・・ 大地が汚染され人々の健康に影響を及ぼす。
  • 騒音(そうおん) ・・・ 大きな音が響き渡る。
  • 振動(しんどう) ・・・建物が揺れる。
  • 地盤沈下(じばん ちんか) ・・・ 地下水を大量に取り出すと、地面が低くなる地盤沈下が起きることがある。
  • 悪臭(あくしゅう) ・・・ ゴミなどの匂いが広まる。

環境基本法では、この7つの種類の公害を、典型七公害(てんけい ななこうがい)としている。

四大公害病[編集]

日本でも、かつて、大きな公害をおこしたことがある。四大公害(よんだい こうがい)として、水俣病(みなまたびょう)、四日市ぜんそく(よっかいち ぜんそく)、イタイイタイ病新潟水俣病(にいがた みなまたびょう)の4つの公害が、とくに被害が大きい公害として有名である。


  • 水俣病(みなまたびょう)
熊本水俣病
赤:水俣市、青:葦北郡、薄黄色:その他の熊本県

化学工場の排水にふくまれていた水銀および水銀化合物(有機水銀、メチル水銀)が原因でおきた病気です。水銀は猛毒(もうどく)なので、この水銀に汚染された水を飲んだり、水銀に汚染された海水で育った魚や貝を食べたりすると、病気になります。体が水銀におかされると、神経細胞が破壊され、手足がしびれたり、うごかなくなります。

熊本県の水俣(みなまた)という地域や、水俣湾(みなまたわん)の周辺で、1953年ごろに新聞報道などで有名になった公害なので、水俣病(みなまたびょう)と言います。

なお、有名になったのは1953年ごろからだが、それ以前の1940年代ごろから、水俣病とおぼしき症例が知られている。

人間以外にも、猫や鳥など、水銀に汚染された魚を食べたり水を飲んだりしたと思われる動物の不審死がいくつもあり、当初は、水俣病の原因もよく分かっていなかったので、しびれている猫が踊って(おどって)るようにも見えたことから、当初は「猫おどり病」(ねこおどりびょう)とも言われた。


  • 四日市ぜんそく(よっかいち ぜんそく)

三重県の四日市市は石油化学工業で、1940年ごろから、さかえていました。多くの石油化学工場があつまった 石油化学コンビナート といわれる工場のあつまりが、あります。

1950年ごろから、この周辺では、ぜんそくや気管支炎(きかんしえん)など、のどをいためる病気の人が、ふえてきました。また、この近くの海でとれた魚は油くさい、と言われたりもしました。

四日市ぜんそくの原因の物質は 亜硫酸ガス(ありゅうさんガス) だということが、今では分かっています。

どうも、石油化学コンビナートから出る、けむりや排水(はいすい)が、環境に悪い影響をあたえているらしいと言うことが1960年ころから言われはじめ、社会問題になりました。

このうち、とくに ぜんそく の被害が有名なので、この四日市(よっかいち)でおきた公害を 四日市ぜんそく というのです。

四日市ぜんそくの、ぜんそくの原因は、今ではわかっており、けむりにふくまれる亜硫酸ガス(ありゅうさんガス)や窒素酸化物(ちっそ さんかぶつ)が、おもな原因だと分かっています。


  • イタイイタイ病

1955年ごろ富山県の 神通川(じんづうがわ) の周辺で起きた病気であり、体の ふしぶし が痛くなり、骨が折れやすくなる病気です。 カドミウム が原因です。カドミウムは猛毒です。

川の上流にある鉱山から流れ出る廃水にカドミウムがふくまれており、その廃水を飲んだ人や、廃水に汚染された米などの農産物などを食べた人に、被害が出ました。


  • 新潟水俣病(にいがた みなまたびょう)

1964年ごろに新潟県の 阿賀野川(あがのがわ) の流域で起きた、水銀および水銀化合物による公害です。 化学工場の排水中の水銀化合物が原因です。

症状は、熊本県の水俣病と同じです。 第二水俣病(だいに みなまたびょう)とも言われます。

四大公害裁判[編集]

これらの公害病の原因の物質を排出した会社や工場に対し、住民らが国に裁判を、訴え(うったえ)でます。 1960年代の後半に裁判が起こされ、1970年代の前半の1971年〜1973年ごろに判決が出ます。 判決は、企業側の責任を認め、企業側は被害住民に 賠償金(ばいしょうきん) を支払うように命じた判決が出ます。