京大対策
本項は、京都大学の「一般入学試験」対策に関する事項である。
京都大学ホームページ 入試要項記載<令和3年度版>
https://www.kyoto-u.ac.jp/ja/admissions/undergrad/requirements/requirements-pdf.html
京都大学(京大)は、我が国で2番目に設立された帝国大学である。
入試概要[編集]
京大の入試問題には難問が多いが、引っ掛け問題や、極度の暗記を必要とするマニアックな問題といった悪問・奇問は一切出題されず、予め指定された範囲において、思考力・表現力・構想力を試す、十分に練られた良問が出題される。特に英語に顕著な様に、他大学と比べ特殊な形態の出題方法が採られることが多い。文系数学の場合、出題範囲には数学IIIの一部、及び旧旧課程の範囲が含まれており(通常の大学の場合、文系の出題範囲は数学IAIIBである)、独自の対策が必要である。また、ほとんどの大学が時流やトレンドに合わせて問題形式を変化させてきているのに対し、京大の場合は、単年度限りの些細な変更はあるものの、良くも悪くも約30年にわたり同一の出題形式を維持し続けている。このように京大は他大学に比べクセの強い問題を出題してくるが、裏を返せばそのぶん京大に絞った対策は立てやすいということになる。
京大対応模試として、河合塾のオープン[1]、SAPIX YOZEMI GROUPのプレ、駿台の実戦模試(2019年度実施分より、駿台・Z会共催で実施される予定)[2]、東進の京大本番レベル模試などがある。各予備校は京大入試を徹底分析し、精度の高い予想問題を作成している為、受験すれば本番入試に向けての大きな指針となる。その為、京大志願者はこれらの模試をできる限り受験することをお勧めする。(駿台予備校・河合塾・SAPIX YOZEMI GROUPでは8月と11月、東進ハイスクールでは6月及び9月と1月に実施される。)多くの京大受験生がこれらの模試を受験する為、模試の母集団のレベルと、本番のそれは、ほぼ一致する。京大合格者で、これらの模試を全く受験していない者は皆無と言っても過言ではない。また、これらの模試と、センター試験対策のマーク模試でドッキング判定(総合判定)される場合が多いので、出来れば、ドッキング対象のマーク模試も同時に受験するべきである。2009年度からは全学部学科において後期日程が廃止、前期日程に入学選抜が一本化された。
平成23年度に起きた本学入試における不正行為さらには腕時計型端末が普及した影響も有り、不正行為の巧妙化そして再発を恐れ、平成28年度入試より筆記試験の際に個人所有の時計(腕時計,置時計,スマートウォッチ等)を使用することが全面禁止になった。同時に受験生側が解答上において不利を強いられることを懸念し、本学側が試験会場に壁掛け式の電波時計を設置することとした。また壁掛け時計の場合、座席位置などによって受験生側から時計が見えづらなくなる可能性も配慮して試験官にも自主的に時計を見せる等で経過時間を報告するように促されている。受験の際に個人で使用する時計の持ち込みが禁止になることは、全国の大学で初めての措置である。
アドミッションポリシー-概要-[編集]
本学は、日本の文化や学問が育まれた古都を擁する西日本の一大拠点に創設された。
創立より1世紀以上を経た今日においてなお、建学以来継承される「自由の学風」と「学術の伝統性」を重んじる教育活動および研究活動に取り組んでいる。
京都大学は教育の基本理念に「対話を根幹とした自学自習」の精神を大きく掲げており、周囲の人々と分け隔てのない意思疎通や研鑽を重ねてゆく独立一個としての一人一人の人間個人を何よりも重んじている。
そこでは社会的バックボーンを貴賎に敷いた教育指導や上下関係はむしろ妨げであり、本学は日本にはびこるこの姿勢に正面切って異を唱える独自の学問一大拠点であり続けたい。
この理念の上で、優れた学知を継承しうる創造的精神の涵養を目指し、また自らの積極性や主体性を携える人物を歓迎する。
幸いにも本学は高度で独創的研究を束ねる学問機関として世界的に広く知られるところとなり、そうした研究は多様な世界観や自然観、人間観を培う素地にもなっている。
そしてこのような優れた研究は例外なく、基礎的学識の養成を達成したもとで成り立つことを常としている。
だからこそ、京都大学入学を志す者には、以下に掲げるように学問研究の礎となる能力すべてを高い水準で要求する。
1.高等学校の教育課程の教科科目の修得により培われる分析力と俯瞰力
2.高等学校の教育課程の教科科目で修得した内容を活用する力
3.外国語運用能力を含むコミュニケーションに関する能力
これらが高い水準で達成されてはじめて、入学者は前述した京都大学の理念を継承するに足る人物として、自らの自由な発想を生かしたより高度な学びの場へ進むことが可能となる。
本学の学風と理念に理解を寄せ、志を同じくする強い意志を宿した者の入学を決して拒まない。
受け入れにおいては、各学部ごとの詳細な理念と教育目的に応じ、その必要とするところにもとづき、本学が実施する入学選抜試験の結果にしたがい入学者を選抜するものとする。
大学入学新共通テスト(旧制:センター試験)[編集]
2021年度より満を持して実施される新共通テストとなっても、各学部ともに配点傾斜や点数圧縮に変更点は加えられることはなかった。
なお新共通テストの英語において、圧縮前の点数比で筆記とリスニングの配点が1:1となっているが、京大はこの配点比を筆記重視の3:1に修正したうえで採用する方針が決まった。
詳細は大学ホームページや進学資料等を各自参照のこと。
京大入試において、配点が低いからと言って一次試験を軽視するのは間違いである。
京大の入試問題の難易度を考慮すると、共通テストにおける1点が合否に大きく影響することも多々あると考えられるので、一次試験に関しては稼げるだけ稼いでおく姿勢が重要となる。
学部や学科によって多少の違いこそあれ、医学科以外であってもトータル85%以上の得点は確保したい。
ちなみに、東京大学が全科類において第一段階選抜(足切り)を実施する(所定倍率を越えなかったことで実施されなかった年度・科類も有るが)のに対し、京都大学ではこれらの大学ほどの大規模な第一段階選抜は行われない。(第一段階選抜自体は存在するが、例年それで落とされる人はそれほど多くは無い。例えば工学部では受験生の人数が定員の3倍程度を超えた場合足切りが行われることがある。詳しくは各自京大のHPを参照するか、学生募集要項を取り寄せて確認すること。)
問題総観[編集]
京大の問題は本学の学者・研究者養成という目的を反映してか、どの科目においても、簡単な問題を短時間で効率よく処理する力ではなく、比較的長い時間の中で、難解な課題をじっくり解く力・発想力・表現力・思考力といったものが求められていると言える。このような問題に対抗するには小手先のテクニックは通用しない。例えば国語なら安易な読解法に頼るのではなく、文章をじっくり読み理解するのみならず、本文に基づいて、作者の裏の考えまでも理解し、それに自らの理解を補ってわかりやすく表現する力、数学なら暗記した解法を組み合わせて解くのみならず、新しい視点で問題を見つめ数式の意味を多面的に見る発想力、誘導の無い問題を最初から最後まで自力で計画を立て解ききるという構想力、そしてそれらをわかりやすく採点者に伝える表現力、英語なら型どおりに語句や構文をとって訳すのではなく素材文の著者の全体主張を深く把握し自ら思考しつつ訳す力が求められる。また、全科目の問題において、ほぼ全てが記述論述形式であり、また、その記述量も大学入試問題で求められる平均的な記述量と比べても桁違いに多い。ここからもわかるように京大の問題では自分で考えたことを正確に論述し相手に伝えるということが強く意識されていると言える。いくら発想力が優れ、深い思考力があっても、相手に伝えることができなければ意味は無い。表現力とは一朝一夕に身につくものではなく、日々の弛まぬ努力が必要である。こういったことを反映していることもあってか、筆記試験の解答時間は他の大学と比べて比較的多めに与えられている(例:理科は旧帝大の中では唯一2科目で180分)。これは、時間が十分与えられるだけに完成度の高い答案が求められることを意味する。
いずれの試験教科とも非常に癖が強いのはここで取り沙汰すまでもなく、出題形式の独創性、異質性、現行の大学入試のトレンドや他大学の傾向とは一線を画す独自路線が光る。
“二言語概念”の京大英語 、 “完答主義”の京大数学 、 “論客捻り”の京大国語 、 “アカデミズム”の京大理科 、 “知悉体系”の京大地歴 という受験業界において知られる通称が示す通り、各教科とも一筋縄ではいかない曲者揃いであり、この錚々たるメンツ一挙と互角に渡り合うには、平素から徹底して鍛え上げられた論理的思考力が頼みの綱になる。地道な思考力研鑽を捨て、暗記や詰め込み学習で場当たり的にやり過ごす習慣で勉強をかいくぐってきただけの受験生を返り討ちにさせることに特化した、アドリブ色の押し出された試験である。
以上のように、京大の入試問題は、カリキュラムによって線引きされた、いわゆる“科目”の個別の学力だけでない教養や素養が広く求められる。すなわち京大の入試問題に対抗するには、多様な事象に興味を持ち文系・理系に関わらない広い教養を備え、付け焼刃の学習ではなく、日々の学習を地道に行い主体的にじっくり思考することを繰り返すという学問の王道を行くことが、遠回りであり、長い時間を要するが、もっとも確実な方法なのである。また、そのような学びの姿勢こそが京大入学後の学問の糧となろう。
また、上述のように京大は他大学と異なった出題形式がとられることが多く、問題が特徴的であるのに加えて、数十年間にわたって試験問題の形式に変化は見られないため、とりわけ過去問研究が重要かつ効果的である。教学社の「京大の○○25ヵ年」シリーズや赤本・青本などで過去問を研究し、各予備校から出版されている京大模試の過去問集などで演習を積むのが良いだろう。
合格最低点の推移[編集]
各学部ごとに、共通一次試験(センター試験/新共通テスト)の圧縮配点比率、二次試験の科目別配点が異なる。
ただいずれの学部も、二次試験の配点に大きく偏っている点は文理問わず共通しており、共通一次試験での合否予想判定はたやすく覆る。
配点からたどる数学の重要性[編集]
いずれの学部も数学の得点が総合成績に与える影響が極めて大きい配点比であり、この一科目の易化ないし難化が全体の得点率に大きく響く。
その年度において合格者の中に全科目総合の最高得点率で80%を超えた者が存在したか否かはその年の総合難度の一つと指標となるが、本学の受験水準の影響もあってか、稀に常識の枠外に占める傑出した資質を備えた受験生が紛れており、目安はその限りではなくなる。このため資料の参照に当たっては、合格最高点のみならず平均点も加味した上で判断することを高等学校の進路相談担当者や受験指導担当者にはくれぐれも周知願いたい。もっとも当事者である受験生としては、合格最高点よりも合格最低点が注目の的となることがつねであり、目標点からの逆算において数学の得点をどれだけ狙い定めるかで、他教科で要求される水準も大きく変動するので、目標ラインの設定は現実的かつ多少の失敗もおりこんでおくことが望まれる。京大模試の数学で達成できた最高完答数が、本番での実現可能性の高い目標ラインとなる。入試本番は模試と異なり、A判定を安定して維持していたようなレベルの受験生でさえも緊張感で思考が鈍る。計算力や発想力なども普段通りとはいかなかったとの体験談で溢れているため、チャレンジ精神は大切であるが、度の過ぎた高望みは禁物である。土台無理な目標を掲げて当日失敗すると、二日目の試験に向けてのメンタルやモチベーションの低迷に拍車がかかり、余計に自分で自分の首を絞めるだけとなる。また京大の数学採点の方針上、処理能力重視の設問における計算ミスは他大学以上にかなりの痛手となるので、試験本番は今まで受けてきたどの模試よりも計算ミスを誘発しやすいコンディションであるという自覚のもとで、完答したと思われる問題についても疑いの目で、最低一度は自分の答案を見直しするか検算に時間を割くべきである。
釣り上げたと思った魚を入れていた魚篭に穴が空いていたら、すべては元の木阿弥である。
京大本試の数学における心得は、「これまで一年間を積み上げた過去すべての自分を信じること、そして、入試に臨む今この瞬間の自分だけを唯一信じないこと」である。
京大国語の功罪と伝説[編集]
本学は理系受験であっても二次試験科目で国語が課されるが、国語は例年のべ8,000人に上る本学受験生の中で得点率が80%を超える者はわずか数名にとどまる。医学科合格者の中に数名まぎれている年度がまれに散見される程度であり、満点はおろか90%を超える得点を打ち出した受験生は、長い京大入試の歴史を振り返っても過去一度として存在しないとされる。
京大国語の9割超えの不在記録は、令和を迎えた今なお更新され続けている。
いつの日か、90%の大台を越える得点を打ち立てる誰かが現れるのを、毎年ひそかに予備校業界は心待ちにしている。
夢物語ではあろうが、もし待ち望まれる日が来るとすれば、予備校業界やSNSなどすべてを巻き込み一世を風靡する一大ムーブメントとなることは必至である。
大学入試選抜の幕開けから早数十年の年月が過ぎ去り、いつかに待ち望まれたそれを叶える人物の到来は今なお果たされていない。
突出した採点の厳しさゆえにいずれの学部も国語の合格者平均点は35~45%前後かつ標準偏差が極めて小さいことでも有名である。
番狂わせが生じにくい反面で逆転に結びつけにくいという扱いに難渋する科目であり、予備校講師も解答例作成には肝を冷やす。
・補記
京都大学当局が公式として明かす入試選抜結果のデータは、各学部の総合得点に関わるもの(合格者最低点、合格者平均点、合格者最高点)のみである。
このため、各教科ごとの得点詳細の判断材料は各予備校などが独自に集計した非公式データなどにとどまる。各教科の得点分布やボーダー得点、集計最高得点などは大々的に開示を募るこうした大手予備校が非公式に掲載するものにすぎず、さらには近年ではツイッターやLINEといったSNSにおける開示報告などがそれに並ぶ状況である。集計はそれなりの規模をもってなされ、とくにSNSにおいては画像掲載のおかげで、内輪だけの噂話や伝聞に頼らざるを得なかった当時よりも透明性の高さが保たれるようになった(国語は予備校集計とSNSともに7割超えすらまばらで、8割超えは観測さえままならない)。
しかし当然ながら、これですべての母数がカバーされるわけではない。
また高得点者が顕示欲や名声とは無縁の人物であった場合、見過ごされることは容易である。
みずから脚光を浴びることを拒み、京大国語の伝説を伝説のままにとどめ置こうと身を引いた誰かがかつて存在した可能性は、誰しも一度は頭によぎる。脇道で称えられる名声すべてを素通りにした誰かが過去に一度として存在しえなかった、と言い切れる保証はどこにもない。それを証明する手立ても今となっては存在しえない。
また近年は比較的大人しくなったが、SNS台頭期における個人塾講師による京大国語の満点開示報告(※証拠となる開示の画像掲載無し)を釣り餌にした塾サイトへの誘導や、駅前配布の個人経営塾のビラ広告における真偽不詳の塾生の京大国語8割超え連発を謳う煽り文句、さらに自称京大生による英語や国語の9割達成や数学全完(※いずれも開示の掲載画像無し)告知を盾に自らのアカウント登録やフォローを促そうとする野蛮な行為はありふれていた。
いずれも私欲にまみれた出所不明の内容にすぎず、こうした手合いは取り合うだけ無駄である。
総合人間学部(文系) ~募集人員62名~[編集]
合格者の平均的な水準は例年総合得点率で6割前後に落ち着くため、目標ラインもこの付近に設定して計画することが求められる。
本学は東大とは異なり、一次試験における足切りは積極的には行われていないが、総合人間学部においては例外で、年度によっては志願者倍率が4倍以上ということも珍しくないため、受験者倍率が3.0倍付近になるように足切りが実施されやすい。志願者倍率が3.5倍を超えると、その年度の足切り実施の可能性が高くなる。
最終的な合否判定の得点として用いられるのは、総合人間学部文系選抜の一次試験においては社会科の50点と理科の100点の計150点分のみとなる。しかし足切りが実施される場合においては、足切り判定に用いられる点数は5教科7科目の900点集計にもとづく総合点となるため、一次試験の社会科と理科以外の対策をおろそかにする行為は博打でしかなく、決して推奨されない。
最高得点率が80%の大台を超えたのはここ十数年で2011年度と2013年度の二回のみである。
2011年度と2013年度は文系理系ともに数学の難易度が大幅に易化したため、この変動が全体に大きく影響を与えている。
研究分野および志願者動向については、<総合人間学部(理系)>の項目を参照のこと。
年度 | 合格者最低点 | 合格者平均点 | 合格者最高点 |
---|---|---|---|
2007年度 | 414.00 (55.2%) | 450.93 (60.1%) | 513.66 (68.5%) |
2008年度 | 401.66 (53.6%) | 450.58 (60.1%) | 548.00 (73.1%) |
2009年度 | 426.33 (56.8%) | 461.37 (61.5%) | 538.33(71.8%) |
2010年度 | 475.00 (63.3%) | 497.04 (66.3%) | 572.00 (76.3%) |
2011年度 | 469.66 (62.6%) | 506.10 (67.5%) | 627.00 (83.6%) |
2012年度 | 432.33 (54.0%) | 466.87(58.4%) | 600.50(75.1%) |
2013年度 | 542.33 (67.8%) | 573.58 (71.7%) | 653.83(81.7%) |
2014年度 | 465.66 (58.2%) | 509.69 (63.7%) | 620.16 (77.5%) |
2015年度 | 446.16 (55.8%) | 480.64 (60.1%) | 563.66 (70.5%) |
2016年度 | 488.41 (61.1%) | 521.20 (65.2%) | 596.41 (74.6%) |
2017年度 | 478.16 (59.8%) | 509.80 (63.8%) | 602.83 (75.4%) |
2018年度 | 507.74 (63.5%) | 538.83 (67.4%) | 614.32 (76.8%) |
2019年度 | 464.50 (58.1%) | 498.23 (62.3%) | 558.08 (69.8%) |
2020年度 | 448.91 (56.1%) | 475.47 (59.4%) | 550.99 (68.9%) |
総合人間学部(理系) ~募集人員53名~[編集]
合格者の平均的な水準は例年総合得点率で6割弱(55%~60%)であり、同学部の文系選抜受験の水準よりもやや下回る。
大学入学後に扱う学問分野が極めて幅広く、進路の選択肢を限定することなく勉学に打ち込むことができ、かつカリキュラムも他学部に比べてかなりゆるい。大学における学び以外に時間を割けることから、ここ十数年で人気に火が付き、例年高倍率のまま横ばいの志願状況が続いている。
総合人間と銘打ってはいるが、必ずしも対象を人間に限定して研究する学部というわけではない。自然科学系と人文科学系の双方をバランス良く学ぶ機会に恵まれ、おそらくは文理の垣根を最も意識せずに自由自適に学問に触れることができる。
数学、語学、哲学、社会学、文芸学、歴史学、生態学、自然史学、地球環境学、生化学、宇宙科学、スポーツ学など、同じ学部に属しているとは思えないほどに多彩な研究室を擁している。
本学は東大とは異なり、一次試験における足切りは積極的には行われていないが、総合人間学部においては例外で、年度によっては志願者倍率が4倍以上ということも珍しくないため、受験者倍率が3.0倍付近になるように足切りが実施されやすい。志願者倍率が3.5倍を超えると、その年度の足切り実施の可能性が高くなる。
最終的な合否判定の得点として用いられるのは、総合人間学部理系選抜の一次試験においては社会科の100点分のみとなる。しかし足切りが実施される場合においては、足切り判定に用いられる点数は5教科7科目の900点集計にもとづく総合点となるため、一次試験の社会科以外の対策をおろそかにする行為は博打でしかなく、決して推奨されない。
最高得点率が80%の大台を超えたのはここ十数年で2011年度のみにとどまる。
数学や物理、化学などいずれか一つが難化した場合、合格者最低点が4割台水準にまで落ち込む傾向が強い。
年度 | 合格者最低点 | 合格者平均点 | 合格者最高点 |
---|---|---|---|
2007年度 | 388.75 (48.6%) | 450.46 (56.3%) | 611.00 (76.4%) |
2008年度 | 366.75 (45.8%) | 416.51 (52.1%) | 563.75 (70.5%) |
2009年度 | 390.50 (48.8%) | 429.03 (53.6%) | 524.25 (65.5%) |
2010年度 | 401.00 (50.1%) | 449.42 (56.2%) | 556.75 (69.6%) |
2011年度 | 417.25 (52.2%) | 463.26 (57.9%) | 640.00 (80.0%) |
2012年度 | 377.75 (47.2%) | 414.82 (51.9%) | 517.00 (64.6%) |
2013年度 | 409.50 (51.2%) | 451.62 (56.5%) | 602.50 (75.3%) |
2014年度 | 428.50 (53.6%) | 470.10 (58.8%) | 614.00 (76.8%) |
2015年度 | 402.50 (50.3%) | 440.78 (55.1%) | 512.00 (64.0%) |
2016年度 | 433.50 (54.2%) | 469.88 (58.7%) | 583.00 (72.9%) |
2017年度 | 433.00 (54.1%) | 466.01 (58.3%) | 545.50 (68.2%) |
2018年度 | 496.50 (62.1%) | 532.41 (66.6%) | 623.50 (77.9%) |
2019年度 | 467.50 (58.4%) | 511.27 (63.9%) | 589.00 (73.6%) |
2020年度 | 413.00 (51.6%) | 442.68 (55.3%) | 503.50 (62.9%) |
文学部 ~募集人員210名~[編集]
他学部とは打って変わって、合格者最低点が6割を切った年度は無い。
さらに合格者最低点と合格者平均の差もそれほど顕著ではなく、合格者中間層は横並びになりやすい傾向がうかがえる。
最高得点率が80%の大台を超えたのはここ十数年で2011年度、2013年度、2014年度の三回である。
年度 | 合格者最低点 | 合格者平均点 | 合格者最高点 |
---|---|---|---|
2007年度 | 427.00 (61.0%) | 457.85 (65.4%) | 524.73 (75.0%) |
2008年度 | 452.00 (64.6%) | 480.51 (68.6%) | 543.26 (77.6%) |
2009年度 | 431.16 (61.6%) | 461.36 (65.9%) | 533.61 (76.2%) |
2010年度 | 488.45 (65.1%) | 515.86 (68.8%) | 584.53 (77.9%) |
2011年度 | 517.60 (69.0%) | 545.73 (72.8%) | 615.63 (82.1%) |
2012年度 | 458.15 (61.1%) | 486.16 (64.8%) | 552.28 (73.6%) |
2013年度 | 487.83 (65.0%) | 519.96 (69.3%) | 621.60 (82.9%) |
2014年度 | 483.00 (64.4%) | 516.39 (68.9%) | 606.41 (80.9%) |
2015年度 | 482.10 (64.3%) | 507.65 (67.7%) | 586.08 (78.1%) |
2016年度 | 478.11 (63.8%) | 506.68 (67.6%) | 591.11 (78.8%) |
2017年度 | 465.21 (62.0%) | 495.13 (66.0%) | 585.80 (78.1%) |
2018年度 | 480.26 (64.0%) | 507.80 (67.7%) | 588.23 (78.4%) |
2019年度 | 476.01 (63.5%) | 503.92 (67.2%) | 578.36 (77.1%) |
2020年度 | 470.25 (62.7%) | 495.67 (66.1%) | 568.38 (75.8%) |
法学部 ~募集人員300名~[編集]
文系受験者のトップ層が集う学部であることを裏付けるかのごとく、最上位層の得点は文系学部の中では頭一つ抜けている。
最高得点率が80%の大台を超えることも珍しくなく、ここ十数年だけでもその回数は6回と群を抜いている。
特定科目の難化によってもそこまで大きく崩れることはない傾向が強く、難化で動揺する並みの精神力の人間はお払い箱と言わんばかりである。
入学後に控える司法試験などを始めとする試験に太刀打ちすることを鑑みれば妥当な結果の反映といえる。
年度 | 合格者最低点 | 合格者平均点 | 合格者最高点 |
---|---|---|---|
2007年度 | 485.90 (64.8%) | 518.47 (69.1%) | 606.20 (80.8%) |
2008年度 | 481.10 (64.2%) | 523.17 (69.8%) | 632.35 (84.3%) |
2009年度 | 465.45 (62.1%) | 500.27 (66.7%) | 595.20 (79.4%) |
2010年度 | 492.40 (65.7%) | 523.50 (69.8%) | 606.85 (80.9%) |
2011年度 | 507.40 (67.7%) | 536.02 (71.5%) | 629.50 (83.9%) |
2012年度 | 437.95 (58.4%) | 475.47 (63.4%) | 579.80 (77.3%) |
2013年度 | 475.90 (63.5%) | 512.08 (68.3%) | 646.10 (86.2%) |
2014年度 | 480.60 (64.1%) | 515.55 (68.7%) | 616.55 (82.2%) |
2015年度 | 484.28 (59.1%) | 515.94 (62.3%) | 599.92 (73.2%) |
2016年度 | 507.74 (61.9%) | 540.13 (65.9%) | 644.24 (78.6%) |
2017年度 | 498.60 (60.8%) | 530.00 (64.6%) | 652.24 (79.5%) |
2018年度 | 527.04 (64.3%) | 560.84 (68.4%) | 653.94 (79.8%) |
2019年度 | 505.50 (61.7%) | 542.42 (66.2%) | 644.42 (78.6%) |
2020年度 | 507.46 (61.9%) | 538.73 (65.7%) | 605.84 (73.9%) |
教育学部(文系) ~募集人員44名~[編集]
6割の得点が最低水準ラインの安定した推移が続いている。
受験者数の少なさもあり、最高得点率が80%の大台を超えた年度はまだ見られない。
年度 | 合格者最低点 | 合格者平均点 | 合格者最高点 |
---|---|---|---|
2007年度 | 551.66 (61.3%) | 584.99 (65.0%) | 646.43 (71.8%) |
2008年度 | 551.16 (61.2%) | 588.60 (65.4%) | 655.63 (72.9%) |
2009年度 | 554.29 (61.6%) | 586.89 (65.2%) | 636.35 (70.7%) |
2010年度 | 583.06 (64.8%) | 612.13 (68.0%) | 682.01 (75.8%) |
2011年度 | 599.24 (66.6%) | 629.62 (70.0%) | 701.99 (78.0%) |
2012年度 | 521.46 (57.9%) | 559.57 (62.2%) | 683.70 (75.6%) |
2013年度 | 602.96 (67.0%) | 639.30 (71.0%) | 706.74 (78.5%) |
2014年度 | 565.33 (62.8%) | 600.33 (66.7%) | 715.16 (79.5%) |
2015年度 | 543.21 (60.4%) | 574.34 (63.8%) | 638.11 (70.9%) |
2016年度 | 540.06 (60.0%) | 580.66 (64.5%) | 636.63 (70.7%) |
2017年度 | 545.20 (60.6%) | 570.09 (63.3%) | 617.11 (68.6%) |
2018年度 | 547.64 (60.9%) | 588.13 (65.4%) | 659.74 (73.3%) |
2019年度 | 559.64 (62.2%) | 591.80 (65.8%) | 674.04 (74.9%) |
2020年度 | 525.13 (58.4%) | 551.33 (61.3%) | 620.41 (68.9%) |
教育学部(理系) ~募集人員10名~[編集]
6割の得点が最低水準ラインの安定した推移が続いている。
同学部の文系選抜と同じく受験者数は少ない。志望者40名前後に対して合格枠を勝ち取れるのはおよそ10名と狭き門である。
この事実は極めて重い意味を持ち、一部の突出した成績上位者一名がこの学部を志望するだけで全受験生にとって甚大な影響が出ることを意味する。
経年で追うと受験する学力レベルに占める上位レベルの学力に顕著な差があり、資料の参照には注意を要する。
というのも、試験問題の難易変化と合格者最低点や最高点の推移の相関性が薄い。この理由は前述の母集団の少なさによるランダム要素が大きく影響していると思われる。
夏や秋に実施の京大模試の学部志望者別の最高点や得点分布のデータに必ず目を通し、その年のトップ層に合格者枠を事実上確約させうる脅威となる者が紛れていないかどうかの確認を怠るべきではない。
しかし駆け引きを心得ている手練れの指導者のもとにいるトップ層の中で、かつてライバルの油断を誘うためか、京大模試の第一志望にこの学部を記すことを一貫して伏せて受験した者も存在したことを申し添えておく。
入試後に明るみに出た折に、模試の成績資料を逆手に取った志望者動向のかく乱行為として当時非難の的となり紛糾したが、これも一つの長いスパンでの高度な情報戦であったという見立てに押される形となった。
試験本番前の模試の段階で、自ら頭角を現すことを避ける戦略に徹した受験生の暗躍に最も警戒すべき学部であり、このあたりの駆け引きをめぐる立ち回りについては、信頼できる指導者の指示を仰ぐことが望まれる。
最高得点率が80%の大台を超えた年度は2011年度の一度のみにとどまる。
年度 | 合格者最低点 | 合格者平均点 | 合格者最高点 |
---|---|---|---|
2007年度 | 533.43 (59.3%) | 581.67 (64.6%) | 627.03 (69.7%) |
2008年度 | 540.28 (60.0%) | 571.18 (63.5%) | 616.73 (68.5%) |
2009年度 | 558.13 (62.0%) | 595.21 (66.1%) | 638.93 (71.0%) |
2010年度 | 591.66 (65.7%) | 608.23 (67.6%) | 658.78 (73.2%) |
2011年度 | 529.10 (58.8%) | 602.17 (66.9%) | 723.73 (80.4%) |
2012年度 | 491.98 (54.7%) | 520.29 (57.8%) | 604.63 (67.2%) |
2013年度 | 544.55 (60.5%) | 579.95 (64.4%) | 628.50 (69.8%) |
2014年度 | 580.13 (64.5%) | 612.63 (68.1%) | 671.11 (74.6%) |
2015年度 | 524.55 (58.3%) | 564.71 (62.8%) | 665.10 (73.9%) |
2016年度 | 516.75 (57.4%) | 550.56 (61.2%) | 608.96 (67.7%) |
2017年度 | 556.98 (61.9%) | 594.03 (66.0%) | 688.45 (76.5%) |
2018年度 | 588.01 (65.3%) | 615.21 (68.4%) | 689.95 (76.7%) |
2019年度 | 578.56 (64.3%) | 612.18 (68.0%) | 671.43 (74.6%) |
2020年度 | 542.88 (60.3%) | 571.99 (63.6%) | 646.71 (71.9%) |
経済学部(文系) ~募集人員180名~[編集]
センター試験の配点比は31%であり、これは文系の他学部と比較しても標準的な水準である。しかし、経済学部受験生は入学後の学習でも数学的能力が必要とされる事から、二次試験における数学の平均得点率が高く、それに伴い総合得点も他学部に比べて高くなる。
合格者は、国語や英語や地歴についても他学部の合格者と遜色ない水準の得点を取る(そもそもこれらの教科は数学と比較して採点時に点数差が付けづらいという側面もある)事から、こと合格難易度に関しては一般的な文系受験生にとって最難関学部であると言えるだろう。
また、他学部と異なり、国語や英語が京大の合格水準に届いていなくても、己の数学力だけを頼りに挑む受験生や、元は理系であったが、文系入試が理系入試よりも門戸が広い事を理由に文転をして挑む受験生など様々なタイプが存在する。その為、入試の合格と、入学後の生活の両面を考えた時に、一定の数学力は受験生にとって必須であると言えるだろう。
もちろん、二次試験が多少不得手であっても、センターで9割以上の高得点を稼ぐことができれば十分に合格は可能であるが、前述の様な傾向があるので、センター試験が振るわなかった受験生の逆転合格が起こりやすいという事は留意しておきたい。
二次試験数学の難易度の煽りを受けやすい学部であるため、数学が大幅に難化した2020年入試は多くの数学自慢達が撃沈し、試験終了後には白旗宣言を出す受験生も数多く見受けられる事態となったと言われている。この様な事から、1教科に特化した学習を行うのはあまり得策とは言えず、センター試験と二次試験の双方においてどの教科も満遍なく点数が取れる様な準備をするのが重要となってくるだろう。
信頼できる指導教員に相談するなどして、目先の動向に左右されない落ち着き払った立ち回りを心がけることを第一義とすべきである。
年度 | 合格者最低点 | 合格者平均点 | 合格者最高点 |
---|---|---|---|
2007年度 | 479.05 (59.9%) | 516.69 (64.6%) | 604.55 (75.6%) |
2008年度 | 510.50 (63.8%) | 545.99 (68.3%) | 660.70 (82.6%) |
2009年度 | 512.65 (64.1%) | 539.79 (67.5%) | 633.95 (79.2%) |
2010年度 | 526.40 (65.8%) | 555.24 (69.4%) | 621.30 (77.0%) |
2011年度 | 563.05 (70.4%) | 590.51 (73.8%) | 679.55 (85.0%) |
2012年度 | 487.35 (60.9%) | 526.83 (65.9%) | 623.15 (77.9%) |
2013年度 | 533.15 (66.6%) | 563.86 (70.5%) | 645.75 (80.7%) |
2014年度 | 531.30 (66.4%) | 566.75 (70.8%) | 646.10 (80.8%) |
2015年度 | 465.85 (58.2%) | 501.48 (62.7%) | 586.10 (73.3%) |
2016年度 | 510.80 (63.9%) | 543.40 (67.9%) | 625.15 (78.1%) |
2017年度 | 506.55 (63.3%) | 536.58 (67.0%) | 630.35 (78.8%) |
2018年度 | 525.80 (65.7%) | 560.06 (70.0%) | 665.10 (83.1%) |
2019年度 | 490.80 (61.4%) | 528.66 (66.1%) | 631.70 (79.0%) |
2020年度 | 491.55 (61.4%) | 523.15 (65.4%) | 615.20 (76.9%) |
経済学部(理系) ~募集人員25名~[編集]
京大学部の中で、二次試験科目が唯一三科目のみ(英数国)の省エネ対策が可能な受験枠として知られる。
とりわけ数学の配点傾斜が高めに設定されており、数学を得点源とする受験生の出願を歓迎する姿勢が強く出ている。
そのせいもあり、数学の難易差が如実に合格最低点などに大きく影響しており、数学による波乱の巻き起こりやすい受験形態である。
現在のところ最高得点率が80%の大台を超えた例は、2018年度の一回きりである。
年度 | 合格者最低点 | 合格者平均点 | 合格者最高点 |
---|---|---|---|
2007年度 | -------- | -------- | -------- |
2008年度 | -------- | -------- | -------- |
2009年度 | 569.76 (60.0%) | 604.51 (63.6%) | 723.65 (76.2%) |
2010年度 | 584.60 (61.5%) | 640.22 (67.4%) | 714.00 (75.2%) |
2011年度 | 616.96 (64.9%) | 651.00 (68.5%) | 724,38 (76.3%) |
2012年度 | 504.41 (56.1%) | 544.05 (60.5%) | 622.00 (69.1%) |
2013年度 | 563.21 (62.6%) | 604.83 (67.2%) | 713.30 (79.3%) |
2014年度 | 569.56 (63.3%) | 609.55 (67.7%) | 661.05 (73.5%) |
2015年度 | 565.23 (62.8%) | 601.65 (66.9%) | 682.18 (75.8%) |
2016年度 | 547.68 (60.9%) | 595.07 (66.1%) | 669.28 (74.4%) |
2017年度 | 544.53 (60.5%) | 581.74 (64.7%) | 662.73 (73.6%) |
2018年度 | 587.70 (65.3%) | 631.91 (70.2%) | 730.45 (81.2%) |
2019年度 | 593.53 (66.0%) | 627.12 (69.7%) | 699.10 (77.7%) |
2020年度 | 506.91 (56.3%) | 560.77 (62.3%) | 665.33 (73.9%) |
理学部 ~募集人員306名~[編集]
今西錦司に代表される人類学の原点であり、また数多くの著名な数学者を輩出する名実ともに京大の看板を背負う学部である。
本人にその気があれば、入学時点から専門性に特化したカリキュラムを設計することも可能であり、入学以降の目的が受験時点からハッキリしている人には最適の学部となっている。
学問は他学部以上に基礎研究に重きが置かれ、数学、物理学、天文学、惑星科学、量子化学、人類学、古生物学といった、あまたの研究がつどう理系研究者にとってのメッカである。
旧型配点時代はその歴史の古さゆえか採点も独自の基準を設け、とりわけ数学の答案採点はことのほか厳しいと噂されていた。
旧型配点時代はセンターの得点を足切りのみに用いて、総合得点には計上しないという独自の方針を打ち出していたため、総合得点は二次試験の得点のみであり、このため得点率が他学部に比べて異様なほど
低かった。つまりセンターによる点数の上積みやリードが不可能な入試形態であった。
2013年以降はこの取り組みは廃止され、センター試験の点数も総合得点に圧縮した上で計上される仕組みが採用されたことで総合得点率の低さは以前より緩和されることとなった。
数学の才に秀でた傑物や将来の日本の数学界を牽引しうる人材が例年数多く本学の理学部を受験することで知られ、二次試験の数学を満点近い得点で合格する常軌を逸した者も必ず一定数含まれている。
いわゆるギフテッドと称される幼少よりの天才児であることが多いが、こうした数学満点層は学習の習熟度にかなりの偏りが認められる学習障害を抱えていることも多く、数学が満点でありながら英語や国語で0点に近い壊滅的な得点しか見込めない者も見受けられる。この救済も兼ねて、京大理学部においてのみ、2012年度までは数学および理科の合計得点のみを判断基準に上位30名を無条件で合格させるという異例の特例選抜を実施していた過去がある。このように数学理科のみの総点集計で上位に食い込みさえすれば、英語や国語の成績によらず合格となる破格の待遇姿勢が敷かれていた。
この取り組みの廃止以後、その役目はもっぱら“理学部特色入試”が引き継ぎ現在に至る。
また一方で、小中学校時代や幼少期に自らの数学的才能をめぐって周囲との亀裂やトラウマを抱えた破滅的経験で心を閉ざす者も少数ながら見られ、京大入試本番において全科目でわざと得点率60%前後の解答を意図的に仕上げることで、自らの卓越した才能をひた隠しにしながらに入学する者も存在する。こうした常人離れした点数調整をしてなお合格する芸当からもうかがえる通り、彼ら彼女らは例外なく傑物と言って差し支えのない天賦の才の持ち主である。とくに受験勉強に本腰を入れずとももともと合格は容易いため、模試では冊子掲載を拒否しているか模試受験そのものを拒んできた者が多い。すべての科目であまりにも几帳面に揃えられた得点成績の不自然さを周囲から指摘される恐怖心に耐えきれず、入学後に京大学生課のカウンセリングセンターで打ち明けたり、研究室配属の折りに教授に告白するなどといった例もたびたび報告される。心に傷を負うがあまりの防衛反応と理解されているが、慎重な姿勢でのカウンセリングによる徹底したフォローや支援プログラムの推奨といった後押しが強く望まれる事例といえる。もっぱらASD(自閉症スペクトラム)やサヴァン症候群の傾向が強い学生であることが多く、対人関係や意思疎通に難を抱えていることが多いため、入学後に才能を埋もれさせてしまうケースへの対策も必要という声が根強い。
以前に理学部が直面するこの課題について、京都大学の発達心理学の講義のある回のテーマとして扱われ、とりわけ女性の場合はなおのこと、この問題の根は深くなるとの指摘が上がった。日本におけるジェンダー論の遅れを浮き彫りにする象徴であるという立場からの公述もあり、登壇した当該テーマ発表者は日本においてこの連鎖を生みやすい事例として、日本の漫画作品『やさしいセカイのつくりかた』をわかりやすく伝えるための一例として挙げた。引用されたこの漫画の内容はあくまでフィクションではあるが、学生に向けても感情移入しやすい題材として扱われた。この作品のヒロインであるギフテッドの数学少女は、京都大学への進学を果たすことで自身の幼少期からのトラウマとの決別を果たし、一つの救いの形が示されて物語はしめくくられる。また日本と対比される海外でのこの問題を、家族という共同体を起点にして描いた例として、前述の漫画作品とは対比される形で2017年公開の映画『gifted/ギフテッド』(原題: Gifted)もまた引き合いに出した。
誤解されやすいが、この問題は一般によく議論に上がりがちな英才教育の悲劇とは根本からまったく別の所から生じたものである。
実際に本学理学部生と意見を通わせてみると、数学をこよなく愛するユニークな者が目立たないながらも確かに一定数存在している。入試に限った小噺を一つ挙げるなら、世間でも有名な「1998年の東大後期試験における数学の難問(グラフ理論をテーマにした日本の大学入試数学史上の最難問)」が出題された背景について議論を交わした折に、1997年12月公開のアメリカ映画『グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち』を持ち出した一人の理学部生がみられた。
この映画に登場するMITの数学者のランボー教授は、物語序盤に大学講義の受講学生を相手にグラフ理論をテーマとした難問を廊下の掲示板にて告知し、もしもこの難問を解くことができた学生が存在したならば大学を挙げての賞賛と栄誉に資する人物として扱う、と発破をかける。ハナから一学生には無理と分かりながら突き付けられたこの難問を唯一解いたのが、この映画の主人公ウィルである。彼は幼少期より卓越した数学の才に恵まれるも、その才を周囲に隠したまま心を閉ざす、スラム出身の青年であった。シュリニヴァーサ・ラマヌジャンの生い立ちに一部着想を得て作られた作品と思われるが、作中序盤で示されたこの難問こそがまさしくグラフ理論であったことから、当時数学をテーマに扱った希少なこの作品に入れ込んだと思われる東大の教官が、この映画の筋書きになぞらえた天才発掘を目的に、映画の再現に憧れてあの98年の難問の出題に踏み切ったのではないか、との興味深い分析をする本学理学部生は印象的であった。映画の公開年度と件の該当する東大入試の年度を鑑みると、時期的に奇妙な符合があり、大胆に仮説を立てた一つの考察としては京大生らしい切り口であると言えるが、今となってはあくまで仮説検証不能の考察であり、真相は定かではない。
年度 | 合格者最低点 | 合格者平均点 | 合格者最高点 |
---|---|---|---|
2007年度 | 313.00 (48.2%) | 359.09 (55.2%) | 556.00 (85.5%) |
2008年度 | 294.00 (45.2%) | 343.01 (52.8%) | 513.00 (78.9%) |
2009年度 | 324.00 (49.9%) | 360.91 (55.5%) | 484.00 (74.5%) |
2010年度 | 361.00 (55.5%) | 403.51 (62.1%) | 535.00 (82.3%) |
2011年度 | 365.00 (56.2%) | 407.33 (62.7%) | 513.00 (78.9%) |
2012年度 | 302.00 (46.4%) | 346.54 (53.3%) | 507.00 (78.0%) |
年度 | 合格者最低点 | 合格者平均点 | 合格者最高点 |
---|---|---|---|
2013年度 | 724.10 (60.3%) | 793.8 (66.2%) | 975.50 (81.3%) |
2014年度 | 726.25 (60.5%) | 800.78 (66.7%) | 1018.95 (84.9%) |
2015年度 | 709.05 (59.1%) | 773.85 (64.5%) | 959.25 (79.9%) |
2016年度 | 720.60 (60.1%) | 792.44 (66.0%) | 990.45 (82.5%) |
2017年度 | 702.40 (58.5%) | 764.27 (63.4%) | 957.20 (79.8%) |
2018年度 | 740.50 (61.7%) | 810.24 (67.5%) | 982.90 (81.9%) |
2019年度 | 749.55 (62.5%) | 821.47 (68.5%) | 1057.40 (88.1%) |
2020年度 | 629.35 (52.5%) | 705.09 (58.8%) | 928.65 (77.4%) |
工学部 ~募集人員928名~[編集]
京大屈指のマンモス学部であり、例年3,000人に迫る受験者をこの学部のみで集める。
扱う分野は物理学あるいは化学をベースとし、建築学、機械工学、電気電子工学、材料工学、通信工学、メディア工学、航空宇宙工学、高分子重合工学、物質科学などインフラ基盤や文明の基幹をなすような“物の成り立ち”を対象としている。
例年学部内の男女比では9割近くを男性が占め、理系学部の中でも特に男所帯の代名詞とされている。
以前は集客度で見劣りしていた情報学科であったが、就職の幅や時代への適合性と相まって時流に乗ったことで、ここ数年の人気はとくにめざましいものがあり、工学部学科において最も合格難度が高いとされていた物理工学科に並ぶほどの看板学科にまで登りつめた。
母体が大きいことから、学問領域は学科単位で細分化されており、一部学科は上回生時に拠点キャンパスが移動となるため、大学生活の半ばでの引っ越しが必要となる人も多い。このため、合格後の入居場所やアパート更新の計画面での注意をおりこんだうえでの生活が必要である。
2009年度入試より新たに二次試験に国語が課されるようになった。
理学部、農学部、薬学部、医学部などがかねてより理系でありながら国語を入試に課していたことを踏まえても、工学部は国語の導入において後発に当たる。
センター試験において総合点に計上されるのは英語、国語、社会の文系科目のみであることも大きな特徴である。
数学、理科といった理系科目は二次試験のみで課される特殊形態をとる。
なお理科は、他の理系学部においては【物理、化学、生物、地学】の4科目のうちから当日任意に2科目を選択となっているが、工学部のみ【物理、化学】の二科目選択が義務付けられている。
2008年度に京大入試史上初となる総合得点において90%を超える得点率が出たが特殊例である。
年度 | 合格者最低点 | 合格者平均点 | 合格者最高点 |
---|---|---|---|
2007年度 | 506.35 (50.6%) | 未集計 (---) | 800.28 (80.0%) |
2008年度 | 521.38 (52.1%) | 未集計 (---) | 926.68 (92.6%) |
2009年度 | 488.70 (48.9%) | 未集計 (---) | 847.23 (84.7%) |
2010年度 | 523.40 (52.3%) | 未集計 (---) | 825.33 (82.5%) |
2011年度 | 545.73 (54.6%) | 未集計 (---) | 848.45 (84.9%) |
2012年度 | 496.46 (49.7%) | 未集計 (---) | 779.93 (78.0%) |
2013年度 | 545,21 (54.5%) | 未集計 (---) | 805.90 (80.6%) |
2014年度 | 560.15 (56.0%) | 未集計 (---) | 796.25 (79.6%) |
2015年度 | 567.90 (56.8%) | 未集計 (---) | 798.21 (79.8%) |
2016年度 | 565.06 (56.5%) | 未集計 (---) | 817.88 (81.8%) |
2017年度 | 574.08 (57.4%) | 未集計 (---) | 781.66 (78.2%) |
2018年度 | 614.76 (61.5%) | 未集計 (---) | 824.48 (82.5%) |
2019年度 | 578.06 (57.8%) | 未集計 (---) | 838.33 (83.8%) |
2020年度 | 503.06 (50.3%) | 未集計 (---) | 795.76 (79.6%) |
農学部 ~募集人員281名~[編集]
学部名から誤解が生じやすいが、農業はあくまで扱う一領域にすぎず、細分化された数多くの生物学を幅広く取り扱う。
植物学、動物学、海洋生物学、昆虫学、微生物学、生化学、栄養学、有機化学、環境工学、造園学、資源経済学、土壌学、食物学、気象学、遺伝子工学などバリエーションに富んだ分野が占め、人間以外を対象として網羅された生物学と、食糧や資源といった人間の営みの考究を学問対象とする。
ユニークな研究テーマを扱う研究室も多く、ソフトクリームなどの嗜好品の食感や舌ざわりの心地よさを物理的ないし化学的に研究するといったものや、発酵を扱う研究室においてはビールなどのアルコール飲料の探求、他にもまだ日本で成し遂げられていないマツタケの栽培化の実現へのアプローチを目指す研究員の在籍もある。大手食品メーカーの研究員がヒット商品の食味をテーマにセミナーを開講することもある。京都水族館や京都市動物園との共同企画やイベントも盛んで、海洋系の研究においては京都大学フィールド科学研究センターを運営母体とする白浜水族館とともに繋がりが大きい。さらに京大附属の設備としては京都大学医学部附属病院に次ぐ収益を上げる京都大学農学研究科附属牧場を有し、和牛の肉質や霜降りなどの美食方面に通じる研究にも力を入れている。また生態学分野においては、絶滅危惧種に指定される動物の保全研究活動も行われている。
理系学部でありながら、二つの点で特殊な位置づけの学部とされている。
一つには、理系所帯であるにもかかわらず、他の理系学部と比較しても志望者に女性の割合が比較的高い点がある。
この理由として、農学部の一次試験傾斜において国語と社会といった文系科目の占める割合が高く設定されていること、さらに二次試験科目における英語の傾斜割合も理学部や工学部などに比べても高めに設定されていることを指摘する声が多い。
また女性受験者の割合が男性受験者に迫ることの影響か、受験母集団の科目別合格者平均において数学の得点率が理系のわりに伸び悩んでいることも指摘に上がっている。
一方で英語や国語といった本来理系受験生が不得手としがちな科目の合格者平均が、理学部や工学部を凌ぐなど特異な傾向も目立ち、理系受験であるにもかかわらず文系科目で好成績を収めてバランスの良い成績で合格する者も多い。突出した武器はもたないがオールラウンドに健闘する自信のあるバランス型受験生と相性の良い学部とされている。
続いて二つ目の特殊性として、理科の選択科目に化学と生物を選ぶ受験者の割合が他学部に比べて多いという点も無視できない。
多くの理系学部は工学部を除けば、物理、化学、生物、地学の4つの種目から2つを当日任意で選択する形式をとるが、一般的には物理&化学で勝負をかける者が大多数である。
しかしながら農学部においては、前述の女性受験者の志望も目立つことに加えて生物系の学部であるというウリが色濃く反映され、化学&生物選択で当日臨む受験者も少なくない。
農学部であっても依然物理&化学を選ぶ者の割合が上回ってはいるものの、化学&生物もそれに肉薄する勢いであり、この選択もまた大きく明暗を分ける一つの要素となっている。
というのも、本学では理科種目間の難易差がいかに顕著であったとしても、理科の得点調整が恐らく行われていないであろうことが、これまでの得点開示結果や予備校の分析から
見て取れるからである。大半が種目として選択する化学の難易変動とは打って変わり、物理ないし生物いずれか片方のみの難化は想像以上の波乱を巻き起こす。遡れば数年に一度発生してしまっている事態である現実を受け止めつつ、慎重に戦略を組み立てる必要がある。
本学の物理は平均点は低水準傾向であるが標準偏差は高くなりやすい一方で、生物は平均点は振れ幅の少ない並み水準であるものの標準偏差が極めて小さい。
この傾向や種目との相性などから自己分析し、自らの受験スタイルと馴染む方を指導者と相談しつつ選択する必要がある。
年度 | 合格者最低点 | 合格者平均点 | 合格者最高点 |
---|---|---|---|
2007年度 | 571.48 (54.4%) | 630.03 (60.0%) | 793.23 (75.6%) |
2008年度 | 586.40 (55.9%) | 640.49 (61.0%) | 773.03 (73.6%) |
2009年度 | 601.95 (57.3%) | 648.66 (61.8%) | 815.93 (77.7%) |
2010年度 | 620.23 (59.1%) | 673.36 (64.1%) | 837.58 (79.8%) |
2011年度 | 648.35 (61.8%) | 698.04 (66.5%) | 839.13 (79.9%) |
2012年度 | 592.46 (56.4%) | 641.91 (61.1%) | 745.71 (71.0%) |
2013年度 | 634.58 (60.4%) | 682.88 (65.0%) | 843.73 (80.4%) |
2014年度 | 631.13 (60.1%) | 679.55 (64.7%) | 872.63 (83.1%) |
2015年度 | 644.71 (61.4%) | 684.01 (65.1%) | 826.10 (78.7%) |
2016年度 | 658.46 (62.7%) | 704.79 (67.1%) | 852.43 (81.2%) |
2017年度 | 629.90 (60.0%) | 681.89 (64.9%) | 842.53 (80.2%) |
2018年度 | 668.05 (63.6%) | 716.4 (68.2%) | 858.11 (81.7%) |
2019年度 | 667.70 (63.6%) | 713.88 (68.0%) | 866.05 (82.5%) |
2020年度 | 593.96 (56.6%) | 638.22 (60.8%) | 752.71 (71.7%) |
薬学部 ~募集人員74名~[編集]
化学系に特化した学部であり、扱う分野は有機合成化学、病理学、製剤学、薬用植物学、神経制御学、免疫学など、薬理作用の理解をベースとしたうえでの医学系との結びつきが強い。
傾斜配点は二次試験重視であり、例年大多数の受験生が不安を覚えるセンター試験国語のリスクを最小限に抑えることができる学部でもある。
理数科目の二次配点傾斜を偏らせていることもないため、センター試験に限らず二次試験においても特定の科目の失敗に対して予防線を張る事前準備を整えやすい。
いわゆるリスク回避型戦略を好む受験生にとって、相性のいい選抜スタイルである。
配点比が特定の科目に片寄っている学部が目立つ中で、センター、二次試験ともに均整のとれた配点が敷かれているのは見方によっては希少であり、ここを自分の強みを生かす場にできる受験生にはうってつけであろう。京大入試は二日間にわたる長丁場の試験であるが、試験当日一科目での失敗を引きずるあまり、二日目の形勢逆転をメンタルの弱さゆえにみすみす逃す受験生も一定数存在する。リスク分散もまた一つの戦略ないし知略であるという認識に立ち、志願先として妥当であるか否かを検討したい。
年度 | 合格者最低点 | 合格者平均点 | 合格者最高点 |
---|---|---|---|
2007年度 | 530.33 (55.8%) | 586.46 (61.7%) | 693.25 (73.0%) |
2008年度 | 530.26 (55.8%) | 589.70 (62.1%) | 671.36 (70.7%) |
2009年度 | 565.26 (59.5%) | 612.73 (64.5%) | 710.05 (74.7%) |
2010年度 | 560/11 (59.0%) | 619.92 (65.3%) | 737.85 (77.7%) |
2011年度 | 563.93 (59.4%) | 未集計 (----) | 731.35 (77.0%) |
2012年度 | 540.45 (56.9%) | 未集計 (----) | 686.68 (72.3%) |
2013年度 | 600.86 (63.3%) | 未集計 (----) | 800.71 (84.3%) |
2014年度 | 580.25 (61.1%) | 未集計 (----) | 771.00 (81.2%) |
2015年度 | 554.21 (58.3%) | 未集計 (----) | 735.61 (77.4%) |
2016年度 | 559.16 (58.9%) | 未集計 (----) | 706.75 (74.4%) |
2017年度 | 569.86 (60.0%) | 未集計 (----) | 734.00 (77.3%) |
2018年度 | 619.41 (65.2%) | 665.91 (70.1%) | 769.61 (81.0%) |
2019年度 | 599.88 (63.2%) | 646.03 (68.0%) | 750.08 (79.0%) |
2020年度 | 503.96 (53.1%) | 566.74 (59.7%) | 718.78 (75.7%) |
医学部医学科 ~募集人員102名~[編集]
グループとしては基礎医学と臨床医学に産学連携の分野が並び、研究機関としては複数の部門が擁立されている。
世間一般での認知度に大きく貢献を果たした山中伸弥教授が束ねる京都大学iPS細胞研究所は、言わずと知れたこの学科の目玉の一つである。
発生学、組織学、脳科学、免疫学、神経生理学、衛生学、ゲノミクス、ウィルス学、病理病態学などからの多角的アプローチを通じた人体の包括的かつ体系的理解を目指す。
入学後のカリキュラムや研修もハードであり、持ち前のマルチタスク能力と器量の良さにキャンパスライフとの両立が大きく左右されるとの声が大きい。このため人によって日々の心理的負担や忙殺の度合いの体感については、差が生まれがちのようである。
設立以来、京都大学最難関を誇る志願者枠であり、生半可な時間と労力の投資での合格は不可能といえる。
一次試験(センター試験)、二次試験(個別学力試験)ともに極めて好成績でかいくぐったのちにも、事実上の三次試験として面接試験も課され、のべ三日間にわたる重厚な試験日程が待ち受けている。強靭な精神力に裏打ちされた実力が備わっていない受験生は容赦なくふるいにかけられ、本学医学科の門戸を叩くことさえ叶わない。選りすぐりの精鋭が集う試験会場で、本学の中でも別格的位置づけで他学部とは比べることすら許されないとされている。
二次試験においては英語と理科の配点が最も高く、次いで数学に占めるべきウェイトが置かれる。
他学部では合格に必要な数学完答数(〇完と表現)は一般的な難易度水準年度で3完とされ、5完や満点となる6完の出現は理学部以外においてはごく少数にとどまるものであるが、医学科においてはむしろ5完は合格切符の獲得を盤石にするためのスタンダードラインとされることからも、いかに遥か雲の上で繰り広げられるハイレベルな争いであるかがうかがえる。
なお、過去の得点開示によれば全学部含めた歴代英語最高得点記録は現在のところ医学科が保持しているとされており、その得点は140点/150点を上回っていたがこれは大学側からの公式発表によるものではないため、他学部で卒業まで沈黙を保ち続けた者の中に現在認知されているこの得点を凌ぐ者が紛れていたとしても、なんら不思議はないのが本学の恐るべきところである。他学部で文理問わず、散発性の出現にとどまる80%以上の総合得点者が、この医学科においては上位合格者層に溢れかえっており、これを魑魅魍魎と全学共通科目の講義で身震いとともに評した非常勤講師がいたことは当時一部でひそかな笑いを誘っていた。このいっときの表現に影響されてかは不明だが、一時期において入学式典会場への医学科グループの移動を百鬼夜行と表現する不届き者さえいた。
入試制度改革の大規模編成がなされた2007年度以降から、例年途絶えることのなかった総合得点80%越えの最高点水準の記録更新が、ついに令和初の選抜試験となった2020年度において打ち止めとなった。
現在進行形で樹立し続けていた連続更新記録の事実上のストップであるが、静まり返ったこの年度の試験会場で起こっていた事態はこの数字だけでは到底推し量ることが困難なほどに異様なものであった。
一般に入試における難化現象というのは、単一科目の変動によっても十分にもたらされる。たった一つの科目の難易の落差が体感難易度として十分に刻まれうるほどに、受験生にとっての危うい精神面と隣り合わせのデリケートなものである。本学においても、それは決して例外ではなかった。
これを踏まえた時、2020年度京都大学入学者選抜試験にもたらされた事態の異常性が浮き彫りになる。
令和初を飾ったこの年度、理系数学、物理、化学は突如として軒並み記録的な大幅難化を果たし、受験生一同に牙をむいた。
さらに追い打ちをかけるかのごとく、英語はこれまでの入試傾向を大きく覆す変化がもたらされ、入試会場の垣根を超えてSNS界隈においてさえも瞬く間に激震が走った。
初日開幕を飾る理系国語を除くすべての4科目(数学、英語、物理、化学)において想像を絶する難易度の試験が展開され、試験会場は絶叫を胸に押し殺したままに地獄絵図と化した。
入試日程2日目の半ばでは阿鼻叫喚を通り越した意気消沈のムードが立ち込め、医学科会場に立ち会った試験監督でさえもその異常な空気を察知したとのちに伝え聞くほどであった。
最後に控える試験時間3時間の理科は本学入試のラスボスと称されるが、前述したように医学科における理科の配点比の高さから起死回生に全神経を研ぎ澄ませて勝負に勇んだ医学科受験生最後の賭けさえも、脆くも崩れ去ることとなった。
「理科の試験時間中に嘔吐、失神が医学科会場で複数名発生。連鎖的に緊張の糸が切れて相次ぎトイレに駆け込む者、緊急搬送される者の対応に医学科試験監督らが追われたことはこの年度の大学入試史上に残る伝説」である。
世界中が新型コロナウィルスの災禍に見舞われる中で、京都大学医学科会場においてこの脅威の人災をかいくぐった精鋭一同に、改めての敬服の念とともに惜しみのない賛辞を贈りたい。
年度 | 合格者最低点 | 合格者平均点 | 合格者最高点 |
---|---|---|---|
2007年度 | 855.87 (65.8%) | 908.89 (69.9%) | 1045.23 (80.4%) |
2008年度 | 864.16 (66.5%) | 926.05 (71.2%) | 1063.91 (81.8%) |
2009年度 | 884.99 (68.1%) | 940.81 (72.4%) | 1067.01 (82.1%) |
2010年度 | 900.86 (69.3%) | 964.01 (74.2%) | 1080.98 (83.2%) |
2011年度 | 920.28 (70.8%) | 975.99 (75.1%) | 1116.50 (85.9%) |
2012年度 | 868.80 (66.8%) | 936.89 (72.1%) | 1101.25 (84.7%) |
2013年度 | 946.85 (72.8%) | 1003.49 (77.2%) | 1143.15 (87.9%) |
2014年度 | 900.90 (69.3%) | 957.07 (73.6%) | 1072.85 (82.5%) |
2015年度 | 897.65 (69.1%) | 958.66 (73.7%) | 1080.20 (83.1%) |
2016年度 | 911.30 (72.9%) | 968.75 (77.5%) | 1078.50 (86.3%) |
2017年度 | 888.50 (71.1%) | 944.16 (75.5%) | 1044.20 (83.5%) |
2018年度 | 913.30 (73.1%) | 960.74 (76.9%) | 1054.40 (84.4%) |
2019年度 | 915.60 (73.3%) | 970.85 (77.7%) | 1080.10 (86.4%) |
2020年度 | 789.95 (63.2%) | 858.06 (68.6%) | 995.60 (79.7%) |
医学部人間健康科学科 ~募集人員70名~[編集]
元々は医療技術短期大学を前身とする独立した機関が統合吸収されたことで、京都大学看護学科が設立された経緯がある。
このため他学部と比べて歴史的にはまだ浅く、総合大学内部に位置していながらも職業訓練校という独自色が強い。
放射線技師や看護を始めとする医療専門スタッフとしての専門性やスキルを身に着けることができる反面、入学後の学びの自由度や活動域はかなり限定的となる。
募集形態も日進月歩の改組やマイナーチェンジが行われ、近年も入学後の希望学科コースの振り分け方式に変更が加えられた。
誠に遺憾であるが、合格者水増しを図ろうとする一部の私立高校において、本人の希望にかかわらずこの学科の受験を強制する指導をなす教職員が幅を利かせていたという切実な相談が、予備校面談で後を絶たなかった時期があった。先立っての本学科の大学選抜方式の改組は、こうした合格者実績の上乗せのためならば一切の手段をもいとわない強引かつ乱暴な広報戦略を掲げていた高等学校に対しての一つの予防線でもあろう。
さらにその年度の京大受験生にとって貴重な資料となる京大模試の志願者数や志望者成績分布を意図して改ざんする目的で、極めて高い偏差値を維持している他学志望の受験生をあたかも本学部本学科を第一志望としているかのように見せかけて、京大模試にて本学科を第一志望に記入させるなど極めて悪質で独善的な駆け引きを企てた指導部の方針も伝え聞いた過去がある。
こういった高等学校指導教員に対して猛省を促すとともに、受験生には自らの将来設計や目標に沿った悔いのない選択を応援したい限りである。
年度 | 合格者最低点 | 合格者平均点 | 合格者最高点 |
---|---|---|---|
2017年度 | 517.16 (51.7%) | 559.76 (56.0%) | 667.61 (66.8%) |
2018年度 | 549.18 (54.9%) | 591.82 (59.2%) | 671.30 (67.1%) |
2019年度 | 559.15 (55.9%) | 607.72 (60.8%) | 748.65 (74.9%) |
2020年度 | 481.65 (48.2%) | 522.25 (52.2%) | 647.38 (64.7%) |
京大模試について[編集]
作問委員と広報[編集]
本学を志望する大多数の受験生にとって、最大の登竜門として立ちはだかるのは大手予備校主催の“京大模試”である。
大手予備校主催の模試の中でも、花形を担うとされ、毎年大々的な告知やポスターが打ち出される。
河合塾の京大入試オープン、駿台予備校の京大入試実戦模試、代々木ゼミナールの京大入試プレ、東進ハイスクールの京大本番レベル模試とそれぞれ銘打ち、数多くの京大受験生を集める。
このなかでも、河合塾の京大入試オープンと駿台予備校の京大入試実戦模試は京大模試の“二大巨頭”に位置付けられ、京大本試に匹敵する受験者数を集める業界最大規模の信頼性の高い模試である。
東大模試と並んで各予備校ともに威信をかけて作成する模試の一つであるだけに、これらの模試のクオリティや母集団水準がそのまま予備校母体の影響度に及ぼすバロメーターとなる。各予備校講師を代表する選りすぐりのメンバーが作問チームに選出され、各科目の作成チーフは入試科の重鎮や大御所に一任されることからも、目下入試業界において多額の予算が投じられる一大プロフェクトである。
徹底したスケジュール管理や作問会議が繰り返されることで、毎年精度の高い京大入試の模擬体験の場を提供することが可能となっている。本気で京大合格を目指す受験生がこの模試をペースメーカーに着々と実力を高めている間に、作問委員会のメンバーもそうした受験生のために京大入試に匹敵する高クオリティの試験作成に注力し、水面下での多大なる労力と貢献を積み上げている事実を本学受験生は決してないがしろにしてはならない。
一つの問題セットが組み上がるまでに、山のような没問がデスクに積み上がるのである。こうした没問は次年度以降改良して再利用されることもあれば、チーフのダメ出しで選外となった問題を夏期講習や冬期講習のオリジナル問題やテスト演習用の問題として採用するなどして有効活用されることもある。
なお、問題の漏洩や秘匿性を高めるために、模試は最終稿の完成版が印刷所に渡り入稿されるまで、没案も含めたすべての模試に関わる印刷物の持ち出し、廃棄が固く禁じられている。
また科目ごとに各予備校独自のノウハウが蓄積されており、題材の選定ひとつをとっても並みの講師陣では務まらない。
このため作問委員メンバー入りは地味で堅実さが求められる長丁場ながらも、予備校業界においては栄誉ある花形とされる。
入試本番の的中を徹底して狙う予備校もあれば、問題的中の広報を前面に押し出さずトップ講師陣のブランド力で受験者を動員する体制を敷く戦略をとる予備校もある。例えば駿台予備校主催の京大入試実戦模試は、化学科チーフの石川正明氏による牽引が著しいとされ、化学の項にて後述するように、問題冊子と解答解説入手のためだけに同業者の受験さえも目立つ現状があり、ファン層を受験生にとどめおかない点で駿台予備校は石川氏に頭が上がらない状況がある。夏実施という時期と鑑みて、ある同業者は石川氏の京大入試実戦模試の化学冊子を「京大化学の同人誌」とまで言い切り収集する者さえ一部に存在するが、これは受験業界においてもかなりマニアックな部類に入る特殊例である。
ただいずれも学問的な深みを垣間見せる思考トレーニングの場として最適である、ということを受験生は最低限認識さえしていればよい。
実施時期と集客[編集]
一般に、夏期と秋期に実施される。
夏期実施の模試は、夏期講習講座と並び大手予備校にとってその年度の資金調達に臨む最大の山場であり、受験者層の限られる大学別模試の宣伝も大々的になされる。多くは夏期講習受講特典として模試の受験料割引などで集客ノルマ達成を目指すため、京大模試といえど他大学志望者も受験母体に加えられる傾向は特に夏期の模試では顕著である。このため夏期の模試は秋期の模試に比べて平均点が低く出やすく、判定結果に一喜一憂することも好ましいとは言えない。
「模試の判定は予言ではない」ため、結果がどうであれ暫定的な参考指標にとどめおくのが最適である。
夏期実施の京大模試などは、入試会場として京都大学を用意することもある(毎年必ずというわけではない)。
これは本番の臨場感を体験するのにうってつけというだけでなく、周辺の交通の便や移動距離の概算などを助ける貴重な予行演習の場ともなる。
金銭的ないし時間的余力がある場合は、前日からホテルを確保して会場入りまでを含めた予行演習をしてみるのもよい。
入試本番と唯一違いがあるとすれば、折田先生像や京大名物の立て看板の有無である。
採点業務と成績出力[編集]
河合塾と駿台の京大模試の採点基準は模試実施前および、模試実施直後の答案サンプリングによって多段階にわたり審議にかけ、議論を重ねた末に設けられる。
前者はベースとなる統一的基準に重きが置かれ、後者は作題者が想定していなかった別解や論述における採点基準の柔軟性を目的になされる。
ただしここでの採点基準は京大入試本番に即したものでは決してなく、あくまで主催予備校の当該作問委員会が独自の解釈のもとで設定した一つの基準にすぎない。京都大学の本試験における採点基準は長きにわたりブラックボックスであり、得点開示や再現答案をもとにあくまで予備校側の解釈にもとづき策定された指標にすぎない。また採点業務は予備校講師ではなく、公募アルバイトによる採点員が採点基準マニュアルやガイドラインに遵守して採点業務を行うにすぎないため、ミスを最小限にとどめるためにやや過剰ともとれる杓子定規な基準が敷かれがちであり、これが一部の答案においては災いとなることもある。予備校側にクレームをつける受験者やその保護者が残念ながら例年一定数は見られるが、返却期限までのノルマを急ピッチで敢行する激務を思えば止む無しといったところであろう。明らかなミスや大規模な採点事故はごく一部で発生してしまうとはいえ、全体としては一定基準を超える採点の質は保たれているといえよう。
なお、東進の京大模試は実施から返却までの期間がわずか10日間とスピード返却をウリとしており、他の予備校と差別化を図るために独自の路線をひた走っている。
これらの京大模試全般に注意すべきところがあるとすれば、まず英語と国語の採点基準である。
とくに京大模試における英語の得点と本番の入試における英語の成績は相関性が必ずしも高くないことは以前から言われており、これは採点における答案の許容範囲が大きく異なっているからだと指摘する声が大きい。また英語の採点の厳しさも予備校ごとにかなりの開きがあり、得点が上がったからといって学力が向上したと早とちりするべきではない。
東進の京大模試の英語はとくに採点が甘いためかなりの高得点が出やすい反面、駿台の英語は採点が厳密化されすぎていることで過剰な減点が発生しがちで、平均点そのものが低く出やすい傾向がある。大手の京大模試の英語のなかで、本番の採点基準に最も近い可能性が高いのは河合塾の京大オープンであると言われているが、これもあくまで特定の立場からの一意見にすぎず、お墨付きがあるというわけでは決してない。
また国語については、採点基準というよりも解答例そのものが京大本試の求めるそれにどこまで即しているか、といった判断がそもそも不可能であるため、解答例や採点基準を神の啓示のごとく受け止めることは控えた方が無難であろう。白黒をハッキリさせなければ勉学がままならないという姿勢を正す契機、くらいにとらえつつ堅実に学力を高めていくことが望ましい。
さらに数学においては、近年の京大の方針である「“適度な標準問題”を誘導無しで最後まで解き切る能力の選定」という性質上、入試本番では未完成答案における小刻みの部分点は発生しづらい。
しかし学習到達度の測定や偏差値を出して返却するという模擬試験における役割を優先し、数学は意図して本番とは全く異なる採点基準のもとで採点処理をおこなっている。
京大本試においては、京大模試のように書かれている内容に応じて5点単位の小刻みの加点がなされるといった部分点方式はほとんどなされないと心得ておくべきである(とはいえまったく部分点が存在しないという意味ではなく、発想重視の大問において、明確なゴールを見定めてある程度山場を越えている答案については相応の得点が与えられることはある)。こういった模試の意義を見出すための折衷案として、数学の採点がおこなわれている事情については、駿台の秋実施のイベントである京大突破レクチャーや予備校が夏期や冬期に開講する京大向け講習会の資料等でもたびたび注意喚起がなされている。
方針や見通しが明らかに立っていないような模試の答案で、「問題文の与式をとりあえず知っている定理などを使って式変形したり、場当たり的な記述で答案の空白をとにかく埋めようとしているもの」が相当数見られるが、模試においてはこうした「題意との結び付けや方針設定を明らかにないがしろにしている答案」でも、平均点を極端に低く出さないために、杓子定規な採点基準と照らして10点~15点の加点がなされてしまうことが多々ある。このような答案で各大問について約10点ずつ得点を積み上げ、全大問で60~80点の得点となっている生徒が本試の採点でまともな評価が得られるはずはなく、そうした受験生は本試の開示得点が本人の想像以上に低く出て、そこで初めて自らの過ちに気づくことが大半である。こうしたお世辞にも数学の答案とは言い難い“採点官へのゴマすり”で汚された答案は本番においては紙くず同然である。京大志望者に限らず一般に受験生というものは、どうやら論理的に正しい記述を数行連ねることよりも、行き当たりばったりな式変形で黒く塗りつぶした答案を書いて安心する傾向があるが、いっときの安心感や達成感に浸りたいがためのその場しのぎが果たして、プロの数学者の採点官のお眼鏡にどこまでかなうかを、今一度よく考え直す必要がある。
また、まれにみられる大問1で小問2題が出題される形式においては、「All or Nothing」採点方式のための出題であるという意図を、大学入試懇談会の場で京大の出題教官自身が打ち明けた事実がある。このため、最後の求値を誤っているか、もしくは求値は正しいが論理に不備が認められる場合は他大学と異なり一律で0点処理となるため細心の注意を払って解答することが求められる。自分なりに検算方法などを平素から磨いておくなどして、ミスの発見における鋭敏さを高めておくことである。
以前の大学入試懇談会において、「近年は京都大学の数学は以前よりも易化路線で標準問題が中心の出題」と指摘された際に、「受験生や予備校講師が平易ないし標準と難易評価する設問であっても、実際に採点してみると出来は芳しくなく、これでも十分に学力差が反映されている」 と述べられていた。このことからも、受験生の口にする「完答」と採点官が求める水準の「完答」の認識にも開きが依然あることが十分推察されるため、たとえ求値が正しくても論理的な飛躍や不備のない答案を石橋を叩くつもりで意識しながら作り上げることが何よりも重要である。
このため京大模試における成績確認において、数学の得点のかき集め方が完答数によって積み上げられたものでなく、未完成答案の部分点の寄せ集めによるものである場合は、たとえ偏差値が高く出ていても危機意識を持って学習スタイルを見直した方がよい。例年一定数見られる、「京大模試の判定が良くても不合格になった」という人の成績資料を詳細に分析すると、数学の得点の仕方にこのような問題が潜んでいたケースが共通して見つかることが多い。
なお、本試の数学採点の詳細については、本ページの第9項<数学>における<9.3-問題> および<9.7-採点・答案作成に関して> 等を参照のこと。
高3・既卒受験者向け[編集]
現役受験組となる高3生と浪人組となる既卒生が一堂に会するが、科目別の現浪別平均点をみると、英語や国語などは浪人生よりも現役生の平均点がわずかに高いケースも少なくない。
共通一次試験や全統記述模試、駿台全国模試などとは異なりハイレベル受験者層が難度の高い問題セットで競い合うという試験の性質上、普通の模試と比べて現役と浪人にそこまで顕著な学力差は認められない。一年余分に勉強している分、既卒生が一歩リードしているというような甘い考えは難関大学になればなるほど通用しなくなることを示す好例である。特に英語の英作文と国語の現代文の大問別平均点は現役生と浪人生の間で差はほぼ無い。
また理科の範囲において一部現役生に未習範囲が見られることから理科のみ現浪で平均点にやや開きが見られるものの、これはあくまで一過性のもので、本番までに予想以上にこの差は現役生の追い上げによって縮まるのが通例である。
浪人した事実がアドバンテージになると思い込んでいる受験生は、何年費やしても成果が実を結ぶことはない。
また他の模試と違い、現役生に配慮して理科の難易度を本番より易しくするなどの配慮はなされないため、理科の平均点はとくに夏期実施のものはかなり低く(得点率25%前後)出やすいので、とくに現役生は理科で失敗しても過剰に落ち込む必要はない。
例年京大模試を受験した現役受験生の多くが、理科で挫折感を味わい洗礼を受けるのは恒例と化している。
高1・高2受験者向け[編集]
一口に受験生といっても、第一志望の大学が決まる時期は人によってまちまちである。
ただ高1や高2の時点から本気で京大合格を目指す長期的ビジョンで受験計画を立てる受験生もまた一定数見られる。
とくに進学校になるほどこの傾向は強く、こうした受験生は高2の時点で一度京大模試を受験してみることを強く推奨する。
合格者に話を聞くと、「高2時点からの受験経験がある」と回答した人は意外に多い。
まだ高2のうちはいずれの科目も未習範囲は複数あることに加え、既習範囲の完成度も高まっていないことを不安視する声があるが、高2のうちの京大模試受験の意義は結果を出すことにはない。
高2で京大模試を受ける場合、以下3点をとくに意識して臨むべきである。
①京大で要求される長丁場の試験で求められる体力がどれほどかを早期に経験しておく |
京大の試験は重厚かつ長いことで知られる。
とくに本学理科の試験時間は旧帝大の中で唯一3時間という異例の時間設定による長丁場の試験であり、一科目が終わるごとに他の一般模試以上に体力を奪われることを体感として知っておくことは重要である。
また高2という早期に、最終的に超えるべきハードルの高さを挫折感をもって実感する体験というのは、その後一年先までにわたるモチベーションを途切れさせることなく維持し続けるうえでかなりの効果を発揮することが知られる。受験は長期戦であるがゆえに中だるみや油断が発生しやすいものであるが、まるで歯が立たなかったという苦い経験を実感としてもっているか否かは、長いスパンでの当人の成長や飛躍を大きく助けるものとなる。
少年漫画などでも「物語序盤に強敵に挑み大敗を喫する」というエピソードが王道的に描かれることがあるが、元来人間はリベンジを胸に宿すという精神性が向上心と密接な生き物であり、その性質を逆手にとることは受験においても極めて有効である。
特に高1や高2の模試で高偏差値を出して浮かれている人ほど、入試の厳しい現実や全貌をまだ把握しきれていないので、“慢心”という自らに寄生する最大の敵が今後出現するのを阻むためにも、自ら挫折体験に身を投じる勇気は文字通り怪我の功名となろう。
京大受験においては、傷を負うほどに、その一切はのちの糧<かて>である。
作問者の遊び心[編集]
前述した通り、各科目の作問チーフはその予備校を代表するトップ講師に一任される体制が敷かれているため、後進育成を目的に作問委員に選ばれた若手のメンバーは、この場がトップ講師と意見を交わし合う貴重な機会となる。また作問能力が傑出しているか否かに年齢はあまり関係がなく、憧れのトップ講師が自身が作題した問題を解けるかどうかその力量を試す目的で、ハナから京大受験生を度外視して超難問を作題してチーフに添削を仰ぐ新進気鋭の確信犯も見受けられるのはもはや伝統である。
特に数学科においてはかなり顕著で、駿台の京大入試実戦模試においては関西駿台数学科“最後の砦”の異名をもつ米村明芳に難問を持ち寄った某数学科講師が、わずか数分で別解付きで解答を仕上げられて玉砕したなどの面白い逸話も満載であるが、ここでは詳細は割愛する。
また年度によっては明らかに理系数学6題中の1題に、受験生目線ではなく作問チーム内での合戦目的で作られたと思しき超弩級の難問が見られることもあり、講習会などでまれにこういった捨て問が収録された内情のエピソードなどを聞くこともできる。京大模試の数学の大問において、過去に平均点が0.2点/35点という難問の出題歴がまれにみられるが、こうした“講師間の高度な遊戯の産物”に巻き込まれて犠牲者と成り果てないために、捨て問を見極める技術体得の一環と割り切る姿勢もまた大切である。
またとりわけ化学の問題は、一般向け模試や他の大学別模試では完全にお蔵入りとなるような難問の出題が唯一許容される風土があるため、入試化学における頂点の難易度の作題のお披露目会の役目を果たしているとする評もあり、以前には化学はとくに各予備校の難問合戦の場として内輪で過熱化しやすいとの舞台裏の告白も見られたほどであった。しかし決して悪問というわけではないため、自分が喰らいつけるレベルまでしっかりと復習を徹底することで貴重な高地トレーニングの場となる。
このように京大模試の作問委員会も、ある意味でこの集いに楽しみを見出している小粋な一面も見られるのは、京大のポリシーを汲んだ遊び心や自由の精神を忘れていないがゆえ、と語る指導者も多い。どう受け止めるかは教職員、講師、受験生、保護者など立場によって十人十色であろうが、ここでの明言は伏せることとしたい。
入試後の過ごし方[編集]
合格発表までのSNSとの付き合い方[編集]
毎年のことであるが、入試直後はSNSや予備校の談話室に多くの情報が氾濫する。
第一志望の入試を終えた脱力感と達成感で、気持ちが開放的になる勢いに歯止めがかからず、感情的なコメントに翻弄される受験生は多い。とくに京都大学は国立大学の中でも合格発表がかなり遅いグループに属するため、入試日程終了から合格発表までのおよそ二週間を手持無沙汰に過ごすことになる。後期日程の受験予定がなければなおのことこれに拍車がかかるが、後期受験を控えている受験生であってもまともに勉強に身が入らず、自己採点や解答速報の難易度評価の閲覧を何度も無意味に繰り返して一日を終えてしまうなど、メンタル面でかなり不安定になりがちである。
京大受験に関係したSNS界隈や掲示板などには例年、配点や予想採点基準をめぐる受験生同士による質疑応答や、建設性を欠く議論が横行し、さらには一部失敗のはけ口を求めて過激化した投稿者がデタラメの基準を騙るなどして、その年度の予想合格者最低点の情報が一人歩きしがちである。塾の講師室にSNSや掲示板の最低点予想や採点基準の是非を問う相談が毎年持ち寄られるが、毎回決まって返答しているのは「京大本試の採点基準は誰もわからないし、知りようがない」の一言である。
「受験生が知恵をしぼって京大の採点基準を推測したところで、それは長年受験産業に身を置くトップ講師でさえも、成しえなかった芸当である。一受験生が寄ってたかって、なんの猿真似をしようと言うのか。ましてや合格者最低点の正確な予想など、大手予備校さえも不可能な所業である。身のほどを知りなさい」という戒めのセリフは毎年恒例耳にするものである。
また「数学で何完できたか」といった自己申告やアンケートを問うサイトなども見受けられるが、重複投稿が可能であることに加えてサンプリング数も不明であり、またいくらでも嘘の申告がまかり通る状況であることから当然のごとく、実際その年度に求められた完答数よりも多めの数字が平均値として出力されている傾向があり、まったくなんの参考にもならない。こういった情報に振り回されるくらいなら、いさぎよく開き直り、合格発表までの期間好きなことに没頭して過ごす方がはるかに有意義である。
自己採点がボーダー層の受験者にとっては藁にもすがる思いで自己採点を無限に繰り返し、発表までの空白の時間を埋めるためにSNSなどで情報をかき集めることに全神経を注ぐなど錯乱傾向がみられるが、このあたりは本人がメンタルコンディションを自覚する以外にも、保護者や友人間のフォローが救いとなる。見た目以上に、受験生は一年の受験勉強と入試日程終了で憔悴しきっているため、身近な人間は些細な変化や機微を見落とさないであげることも大切である。
失敗して打ちひしがれている状況であっても、これまでサポートに当たってきた周囲の人間や家族は、合格発表が終わり一段落つくまでは決して今後の身の振り方についてを打診したりせず、一年を捧げた労苦や過酷峻厳であったその道のりを全力でねぎらうことで、少しずつ当人の日常を取り戻していくリハビリの場とするべきである。
結果が振るわなかったことを責め立てることができるのは、一年身を賭して勉強に打ち込み続けた自分自身だけである。
京大入試再現答案の依頼[編集]
京大本試において解答用紙に記した内容を、すべての科目について再現したうえで提出するという各予備校やZ会が実施する企画である。
受験生が合格切符を勝ち取る以外でも、予備校側に直接貢献できる晴れ舞台であり、京大が長年秘匿している本試の採点基準や各問題の配点を探る貴重な材料となる。
本試験より前に応募がなされ、応募が多数寄せられた場合は抽選がかかることもある。
協力した受験生には各予備校などから報酬が支払われるため、自身が所属する以外のすべての予備校やZ会などに再現答案を提出する受験生も多い。
報酬は謝礼金の他、アマゾンギフト券、図書カードなどであり、すべての機関に協力すればそれなりの金額が手に入るため、受験直後に後期日程の予定などが無く暇を持て余している場合は、再現答案の作成準備に取りかかるのもよい。ただ一度入試で提出した解答を再び組み立てるのは想像以上に骨が折れる作業である。とりわけ京大はいずれの科目もかなりの論述量を誇る重量級の試験であるため、合格を知る前の不安定な精神状態ではかなり難航すると思っておいた方がよい。
またこの作業の過程で、計算ミスや論述の不備に合格発表前の時点で気付いてしまい、改めて精神的に追い討ちがかかることは想像以上につらいものがある。合格発表までの期間すべてを忘れて過ごしたい場合は応募は控えるのが賢明である。
京大入試得点開示[編集]
入試出願時に得点開示を希望した場合、本試の得点結果を知ることができる。
なお、理科のみ科目別の点数は明かされず、理科(物理,化学,生物,地学)のうち選択した二科目の合計得点として示されることとなる。
また東大入試の得点開示とは異なり、不合格者を成績ランクによって分類するといったことはなされない。
例年ゴールデンウィーク明けの5月上旬に、京大本試における各科目の得点結果が郵送ハガキで届けられる。
東大の開示結果が入試直後に判明することとは対照的に、かなり遅れて成績開示に触れることになる。
合格者はGW明けに大学内やサークルで開示得点が話題の中心となり、この結果次第で学科内で一目置かれたり、ネタにされたりと脚光を浴びるイベントの一つとなりがちであるが、度の過ぎたアピールは人間関係の亀裂のもとであるため、合格で浮かれた気持ちを引きずるあまり築いて間もないコミュニティ内に思わぬ火種を持ち込まないように気を付けるべきである。
京大の印字がなされた得点開示ハガキは塾講師や家庭教師のアルバイト面接において提出が求められることもあり、また特定の科目で高得点を収めている場合は採用や時給面で有利に働く交渉材料となりやすいこともあるため、可能ならば京大入試出願書には得点開示希望にチェックしておくと後々身動きがとりやすい。得点開示ハガキは、京大キャンパスライフを充実させるカードとなる可能性を秘めており、受験関係のアルバイトの際には切り札ともなりうるため、少なくとも4年間は手元に残しておいて損はない。
近年はスマートフォンの普及でSNSにおける開示合戦も盛んとなっているが、ハガキの写真無しに直接文字入力で点数を打ち込んでいる場合は、虚偽の申告が疑わしいケースも見受けられるため、ハガキの写真以外はガセネタの可能性を疑った方がよい。とくに英語と国語の開示報告はSNSが本格的に普及する黎明期は注目を集める目的で真実かどうか極めて疑わしい報告も散見された。英語や国語で8割以上をおさめた者や、数学で全完した者は英雄視されやすいが、その分ツイッターなどはとくに嘘も紛れ込みやすいため気を付けるべきである。
不合格者は浪人生活の中だるみが発生しがちなGW明けに送り届けられるため、今一度気持ちを引き締める良い機会となる。
また自分が想定していた点数とどれほど乖離があったか、合格まで後何点及ばなかったかなどを知ることを今後の受験勉強のモチベーションとうまく接続させることも重要である。長期的な学習計画の再考材料ともなる。
得点開示結果は受験生当人のみならず、予備校関係者にとっても採点基準や小問別配点を探る貴重な手がかりであり、受験業界に携わる講師の間でも注目の的であり、京大受験生を擁する大手予備校であるほど毎年信頼性の高い統計的分析がなされている。
英語[編集]
京都大学の英語は、数十年間にわたり傾向を変えることなく、英文和訳と和文英訳の2つを軸とした出題を続けてきた。最近でこそ、選択式問題や内容説明問題、要約問題が出されるようになったとはいえ、これらは、大学入試英語の伝統を汲む最も正統的かつ本格的なものであり、シンプルながらに総合的な力が問われる出題である。大問Ⅰ、大問Ⅱがそれぞれ英文解釈問題で各50点、大問Ⅲ、Ⅳが英作文問題で25点ずつ、合計150点満点であり、採点後、学部ごとの配点にそれぞれ換算し直される。受験生は文系・理系とも英文解釈2題、英作文1題(うち小問2問)で120分、1題にかけられる時間はおおよそ40分程度であり、時間的な余裕はあるものの、裏を返せばその分完成度の高い解答が要求されるということでもあるので、簡単な文法ミスや語句の意味の取り違えなど些細なミスは、トップレベルの生徒が集まる京大入試本番では命取りになると心得るべきである。
採点基準と独自の外国語哲学観[編集]
京大英語の入試問題については、その独自性ゆえに入試現場の枠組みを超えて注目される機会が多い。
通訳や翻訳の業種に携わる業界人においても講演会の題材やコラムとしてたびたび話題を集め、もっぱら論題は「概念としての意思伝達可能性」に及んでいる。
すなわち、表面的な「英語⇒日本語」および「日本語⇒英語」の相互変換で間に合わせの表現に終始する入試英作への姿勢が、かえって言語の境界概念を置き去りにしたまま横行することを恐れるものである。この問題はかねてより、京大が大変な危惧をもって慎重に扱うテーマであり、この思想が往年より初志貫徹といった具合にはっきり大学入試に反映されているのは、日本の大学入試においては京大が唯一といってもいい。
これは外国語をより一般化した言語の翻訳不可能性に自覚的であるべきというメッセージを内包し、かつそれは克服不可能であるというジレンマを抱えることをむしろ正当化する。
問題への無知が、グローバル標榜を教育論の王道に誘導してはばからない速読偏重主義に陥らせたと言わんばかりに、今日において市民権を得て横行する言語理解に対しての紛れもない警句である。アドミッションポリシーにあるような京大が求める“外国語運用力”の下地には、“言語概念への挫折経験”が話者本人(この文脈では受験生)にとって“肯定されるべき体験ないし実感”としていかに受け止めているかがあり、のちの教養の深さに直結していることを正々堂々と試しているのである。
この意味で、みてくれや形ばかりを追う流行の英語テストとは一線を画する姿勢が貫かれ続けている。
2015年度以降の形式面のわずかな変化があるとはいえ、TOEIC/TOEFLスコアや一言語完結式の速解型外国語入試といった現在トレンド真っ只中とされる英語入試形態の脆弱性を知って、“処理能力の手際のよさの測定手段”として英語を用いることを今なお固く否定し続けている。
「京大英語は日本語と英語の二言語概念を問う試験」であって、単なる「外国語処理能力試験」ではないという理解は、大学受験業界の枠組みを超えて、翻訳業界や通訳業界でも共通の認識であると、メディアの番組やコラムでも紹介されたことがある。
通訳業界の第一線を張った松本道弘はとある番組において、京大英語の英作文に貫かれた哲学を語る際に、大手予備校が示す解答速報の解答例に真っ向から異議を唱える立場を示した。
とりわけ“if”と“when”の包括的概念を混同したまま“変換”に終始しがちな解答例を京都大学の採点官は是認しないであろう見解を述べ、この意味で予備校側の解答でさえも、京大側の英語入試に対する哲学観と志を同じくする解答にはなりえず、方向性の面での乖離が際立っていることが明確化されたといえよう。
無論、受験生という立場でここまで高度な言語観や哲学観を答案のレベルで落とし込むのは現実的に厳しいであろうから、計画的で消去法的な受験指導と、京大が求めてやまない「広義の外国語教養達成」を両面から実現させる戦略は、“必要悪”であろうという声もある。
英語が“外国語として”認識される限りにおいて、単独に言語が概念化されることに誤謬が生まれる。
“外国”語という文脈では、鏡合わせのように対置される概念がその言葉の中にすでに含意される。
対置されたその二つを照らし合わせて、「往復」はそのとき発生する。
二言語の間を行き交う“往復”こそが核心を突くべき急所であり、その必然性を引き寄せる過程において、日本語はむしろ英語と対等に渡り合う水準であることを当事者に要求している。
私たちの良く知る言葉で、それは「教養」と呼ばれるものである。
京大英語を難しいと思わせる本質は、その一点に尽きる。
英語を英語として成立させるものとしてではなく、英語に外国語の輪郭をふちどらせてこれを浮かび上がらせる難しさを自覚したときになってはじめて、“往復”運動の重みを思い知るのである。
京大英語に貫かれる外国語観を前にした、このような受験生の挫折経験はむしろ一生の宝である。
そしてたとえどれだけ高得点をおさめても克服されないその苦しみが、いつか学問を引き受けて立つときの最大の財産である。
京大英語最大のタブーとされる答案[編集]
京大模試と京大本試では、採点基準は大きく異なることが長年の得点開示分析から明らかとなっている。
しかし具体的な基準の大部分は依然ブラックボックスのままで、あくまで京大教授や講演会で飛び出た小噺、予備校の分析などを総合して推測するよりほかにない。
しかし確実にタブーであると判明している事実もある。
例えばその一つに「虫食い答案」と呼ばれるものがある。
これは英文解釈などにおいて不明の単語の訳出を放棄し、そこだけ虫食いのように空欄にして文章を繋げる答案である。
模試の採点基準では2~3点減点程度で済むが、京大教授が以前に英語講義中に「推測して誤ることと最初から放棄して誤ることが同じであるはずがない」と断言し、また「後者の姿勢は学問のなんたるかを軽視しており、京大にとって親の仇そのもの」と痛烈な批判を展開したことからおそらく相当に厳しい採点がなされてしまうことは想像にかたくない。
某大手予備校講師は京大英語の冬期講習において、「虫食い答案は採点官の不信感を煽るだけで百害あって一利なし」とまで述べた。
この虫食い答案問題は英作文においても同様で、試行錯誤を最初から放棄した学問への姿勢が誤魔化しとして透けて見える答案は、手ずから自身の答案のみ採点を厳しくさせ、自分で自分の首をしめる愚行であると肝に銘じるべきといえよう。
英文解釈[編集]
概説[編集]
文体の硬い文章と、柔らかい文章が出題され、素材文のテーマは科学論、哲学論、歴史論などが多く、抽象度は高い。いずれもありきたりな説を述べるような文章ではなく視点を変えるような新鮮かつ奥が深い文章が多い。近年は2題とも論文が多いが、以前は、柔らかい文章として随筆、小説なども出題されたことがある。また論説文にしても1題はかなり硬質、もう1題は硬さが他方よりも多少抑えられたものが出題されることが多い。
以前は小説の出題がたびたび見られたが、近年は2012年IIを最後に出題はされなくなった。駿台予備校で京大英語を担当した折に英語講師の竹岡広信は京大の英語小説は極めて抽象的な心情描写や感情と同期する複雑かつ繊細な情景描写が成熟した視点から描かれる大人の鑑賞に堪えうる内容であり、一般的な10代,20代の若者がその真意を汲み取ることは極めて難しいと評した。さらに竹岡氏によると、こうした内容面での難しさ以外にも、構文面でもこなれた表現や受験王道から外れた言い回しも散見され、とくに“描出話法”といったものに習熟することの困難さにも問題があるとの評が続いた。そもそも数百ページに及ぶ一冊の中の数ページを切り取って、前置きや注釈も無く出題せざるを得ない小説は読解のハードルが高い。当然ながら、論説文よりも論旨も明快ではない。竹岡氏は小説の出題を近年京大が控えるようになった背景には、小説の出来の悪さや出題者側の抱えるジレンマが大きいのだろうと自論を展開している。
論説文は自然科学分野と人文科学分野から一題ずつ出題され、文系と理系のいずれか一方にテーマが偏らないように工夫がなれている。また年度によっては文理の境界をまたいでテーマが展開されることもある。
誰の目にもそうであると映る一般化された視点から展開される内容は少なく、マイノリティ的視点や著者独自の自論を惜しみのない語り口で述べるような“斬新な解釈”や“一個人の独特な解釈”にスポットを当てた題材の選定が目立つ。常識に縛られるだけの当たり障りのない社会論や高校のディベート大会や時事問題でありふれたようなテーマからの出題は無く、出題陣の題材選びに対してのこだわりは相当に強いといえる。
とくに2005年度大問Iの“ビュフォンの針”をテーマとした出題は、受験産業の内外を問わず高い評価を得ている。
年度 | 問題I | 問題II |
---|---|---|
2020 | 生物の複雑な神経系が有する高度な認知能力 | アメリカ先住民について考古学的観点からたどる歴史 |
2019 | 実像としての人間と仮想現実 | デジタル写真技術の普及による変化 |
2018 | 他者の存在を損ねない人助けの指針 | 地球近傍に占める天体軌道修正 |
2017 | 砂漠化という言葉が招く誤解 | 今現在を生きようとすることに伴う困難さについて |
2016 | 宗教観点によって左右される歴史的理解~アメリカ史を題材に~ | 中枢神経の妙が織りなす謎多き記憶回路 |
2015 | 階層構造によって実現される普遍性~タンパク質構造の音階変換を例にとって~ | “無”という概念の今昔 |
2014 | 難題を前にして哲学者が心がけること | 数学者のひらめきを助ける生き方指南術 |
2013 | 子供の道徳観念発達におけるピアジェの主張 | 日常における工夫の凝らし方~ドアノブ改良を題材に~ |
2012 | 北極圏をまたにかけるキツネの追跡 | 彼の名は Marion・Stone ~とある外科医の人生観~ |
2011 | 記録と向き合う姿勢から気付く視点~歴史研究を例に~ | 物理学という学問に触れる醍醐味 |
2010 | 人間の意思決定の曖昧さについて | 教育の機会均等と富の分配の関係をめぐる諸理解 |
2009 | 脳機能と精神性の関係 | シンプルな構造が果たすことのできる十全な機能性~爪楊枝を題材に~ |
2008 | 公文書記録に見る大統領任期中のリンカーンの生きざま | 科学研究を志す若き者たちへ |
2007 | 社会構成員としての子供の位置づけと教育の役割について | 大学における科学教育の考察 |
2006 | 理想の実現を古代の哲学者から読み解く | ニュートンの分光実験とスペクトルの発見 |
2005 | ビュフォンの針~身近に探すπ<パイ>の妙~ | 集団で明滅し合うホタルの発光現象 |
2004 | 科学的理解と科学的認知の相違~一般人の科学関心を例に~ | 写真現像で広がる可能性/車社会の弊害 |
2003 | 哲学が存在する理由とは | 人類が歩む指向性について~文明を例にとって~ |
2002 | 論理的思考の伝達に付随する意味付けとは | モーツァルト音楽から紐解く知的活動の無数の広がり |
2001 | 哲学的幸福論~満たされる意味~ | 夢~遊離した意識の起源はどこか?~ |
2000 | 事実と価値を区別することの意義~歴史的視点を例にとって~ | アメリカ放浪記~旅が教えてくれること~ |
問題[編集]
基本的には本文の3箇所(年度によって2箇所や4箇所のときもある)に下線部が施され、それを和訳しなさい、という設問が与えられる。大問2つで小問は6問前後ということになる。下線は文章の要点であったり訳す際に文脈が重視される部分に施されることが多く、また一文がかなり長く、カンマやダッシュ、等位接続詞が多く含まれ、同格や省略、倒置、挿入など文構造が複雑な部分が特に好まれる。構文把握とともに文脈を意識してごく自然な日本語に直すことが求められる。
2004年度は大問Ⅱで短めの二つの文章が出題され、それぞれ2箇所に下線部が施され訳す問題になった。文章が二つになったが、文章の長さも短かかったので実質的な訳出量は前年度以前とそれほど差は無かった。2005年度以降は従来通り長文が1つだけの形式に戻った。2005年度には本文に下線が施されず、設問の内容に適する箇所を発見し訳せという問題が出題された。訳出箇所の発見は文脈を考えればそれほど困難ではないが、実際は訳出箇所の選定を誤った受験者も多くいたようである。2006年度以降は従来通りの形式に戻った。2012年度は大問Ⅱで選択式の問題が2題出題された。
難易度[編集]
まず第一に素材文がかなり硬く抽象的であり、英文のテーマもありきたりな内容では無い。さらに、本文は構文がかなり複雑に入り組んでいる文や難度の高い専門的な単語で構成されるほか比喩なども用いられたりするため、素材文のレベルはまず間違いなく受験英語の中では最高の難易度と言える(ネイティブさえも京大の英文はかなり難しいと評している)。また、柔らかめの随筆、小説などの場合は独特な言い回しや比喩など多用される文章が出題される。さらに下線部和訳であるが、そのような英文を直訳したのでは、ほとんど意味が通らない日本語になる。本文全体の理解の上で、下線部の構文をとり、文脈上どう訳すのが適当なのかを、逐一考えながら訳を作る必要がある。また、簡単な英単語でも第二語義や第三語義や、あるいは辞書に載っていないような筆者自らが文章内で定義する語義で登場するものが多く、大学受験の範疇を超えた英単語も出てくる。これも文脈、本文全体の趣旨、筆者の主張をうまくとらえているかどうかでうまく訳せるかが決まるので差がつく部分である。このような点から見ても全大学の和訳問題の中では最高レベルの難易度と言えよう。なお、例年入試直後に各大手予備校が公表する解答速報においてさえも、構造分析や解釈のミスから誤答を公開してしまう事態になってしまう年度もたびたび見受けられる。修正が二度三度なんの告知もなく平然となされることさえ珍しくないため、入試終了直後に出されて間もない解答例から自己採点を行うことは推奨されていない。さらに英作文の解答例は「決して満点に足る解答」ではないことはくれぐれも留意すべきことである。一説によれば、大学側の採点水準にもとづけば7割水準の解答であるとの評もある。 また各大手予備校主催の実戦型模試と入試本番では、そもそもの採点基準が両者で大きく異なるため、普段の模試の偏差値(母集団における位置づけ)と本番の成績に相関性が見られないケースはたびたび指摘されている。とりわけウェイトを占める和訳(英文解釈)の採点基準がおそらく本番では大きく異なっている。本番では単語の訳出ミスや些細なニュアンスのミスはお咎めなしで寛容な場合が多い反面、前後の文脈を踏まえていない直訳調の逐語訳や、日本語として不自然で表現力の乏しさを露呈している答案は、ほぼ得点が見込めていない(模試では大学院卒業を採用基準としたアルバイト採点官が杓子定規のマニュアルに即した採点を徹底するため、不自然な逐語訳の答案でもある程度の点数が見込めてしまう事例が発生しがちである)。 正確な構造分析をしたうえで、なおかつそれを日本語上、不自然にならない表現として反映させる日本語運用力との両立が本番では求められる。 英語の入試である以前に、京大英語は確かな国語力に裏付けられていることを前提としている。こうした出題姿勢は、ルース・ベネディクトが『菊と刀』で英語圏にありながら日本文化を人口に膾炙することに尽力したことと、新渡戸稲造が日本語文化圏にありながら海外へ日本文化や素養を発揮したことに対照されるような、言語横断的に発揮される素養が決して一言語に依らないという母国語軽視の流れへの警鐘であり、京都大学側から公的に意見表明がかつてなされたことに本学受験生は留意されたい。早2020年に差しかかり、他大学や英語技能検定試験の英語一辺倒が加速化している時代の趨勢にあってなお、京都大学は研究生命や教養の涵養には一定以上の日本語運用力ならびに語彙力が必須であるという哲学観を貫いており、その姿勢は今後にわたって変わることはないであろうと思われる。近年は和訳や英訳のみならず説明問題や自由英作など出題が多角化しつつはあるが、これは他大学が血道をあげているような日本語能力を二の次にした傾向の多様化とは趣を異にしている。新規性の高い説明問題は凝縮された表現から噛み砕いた柔軟な説明をできるかどうか、自由英作は言語が言語として認識される事実背景に、異なる文化圏が広がっていることを意識できているかが本質として問われている。このことを反映して、英文やテーマもこうした哲学観に沿ったお題が頻繁に出されている。
近年の傾向[編集]
2007年度はそれ以前に比べて訳出語数が大幅に増加し、2008年度でもこの傾向が踏襲され、さらに語数が増加し、受験生に大きな負担を強いることとなった。
2008年度は2007年度に比べて、構文や抽象性といった点では易化したと言えるが、難単語が例年よりも多く含まれ、分量もかなり多いという点で2007年度と同様、京大の英文解釈としてはやや難度が高かったと言える。
2009年度の語数は、これまでと一転して、2008年度の語数の約半分近くにまで激減した。これはここ10年の京大英語の中で最も少ない語数である。大問Ⅰは比較的抽象的な英文であり、大問Ⅱは、柔らかみがあり、訳出の表現に苦労しそうな英文であった。前年に比べて時間的な余裕はかなり生まれただろうが、構文や訳出の難しさの点では2008年度を多少上回ると思われる。京大の英語としては比較的平易な英文を短時間で大量に読解する、という傾向から、抽象度の高い英文・情緒豊かな英文を時間をかけて咀嚼し、じっくり思考するという京大本来の傾向に戻ったとも言える。
2012年度、2015年度以降は、記号式選択問題や内容説明の問題が、また、2017年度には下線部の趣旨に沿った130字〜160字程度での要約問題が出題された。さらに大学側の模索は続き、2018年度以降は和訳のみならず理由説明や指示語説明を問う出題傾向がよりいっそう強まった。題材文を読み進めていく上で論の展開を整理していく姿勢が今まで以上に求められている。2019年度は英語長文の設問に指定語数100語以上の長文型の自由英作の設問が組み込まれ、大胆な形式面でのリニューアルが目を引いた。これは入試業界に長年根付いている英文解釈の素材としての長文という古典的意識が崩れつつある一例であり、今後もこうした出題は一定頻度で見られる公算が高い。自由英作などは出題形式が神戸大学と似通うようになった。類題演習として神戸大学の問題をやっておくのも一つの手である。また、要約問題に慣れるためには広島大学や東大英語の大問1に挑戦してみるのもいいだろう。広島大学の要約は250字前後の長めの要約を求める一方で、東大の要約は80字程度の字数制限の厳しい要約である。自分の補うべき能力と相談しつつ、両大学の過去問を参照するとよいだろう。
2020年度は「奨学金の申請についての問い合わせ」を行うための英語書類作成を求める自由英作文が出題されたが、日本の一般的な英語教育では口語体の英語と書面で用いる文語体の英語といったような英語表現の使用領域(英文マナー)の使い分けの学習がおろそかになりがちであるため、受験生のみならず教育業界の現場からも、この出題に驚きを隠せない声が上がった。採点基準は決して甘くはないため、英語表現を磨くかたわらで、こうした使用領域をめぐる理解水準を高めていくことが課題であろう。ある意味で京都大学側からの警鐘ともとれるとの指摘も上がっている。
従来型の和訳一辺倒の時代は終焉を迎えつつあるが、それでも息の長い一文の和訳を問う出題は依然毎年見られるため、対策は怠らないようにしたい。しかしそれ以外の指示語説明、理由説明、要約、パラグラフ理解を前提とした空所補充など、毎年マイナーチェンジを繰り返しながら新規性の高い出題が途切れることはないため、傾向に左右されない確固たる読解力を培っておくことが京大英語突破の鍵となる。
※以下の表はスマートフォンの場合は横画面でのスクロールを推奨
大問 | 説問構成 | 解答行数(解答欄サイズ) |
---|---|---|
2020[I] | (1)該当箇所の3点箇条書きの説明 (2)専門用語の文脈に即した説明 (3)下線部和訳 |
(1) 2行×3 (2) 7行 (3) 9行 |
2020[II] | (1)該当パラグラフの要約を踏まえた理由説明 (2)該当パラグラフの要約を踏まえた理由説明 |
(1) 12行 (2) 12行 |
2019[I] | (1)該当箇所の具体化説明 (2)該当箇所の具体化説明 (3)下線部和訳 (4)動詞の空所補充(4か所;活用変化含む) |
(1) 6行 (2) 5行 (3) 8行 (4)---- |
2019[II] | (1)下線部和訳 (2)該当箇所を踏まえた指示説明 (3)下線部和訳 (4)本文論旨を踏まえた自由英作文(“100語程度”と語数指定あり) |
(1) 4行 (2) 9行 (3) 10行 (4) 13行 |
2018[I] | (1)該当フレーズの本文に即した具体化説明 (2)下線部和訳 (3)熟語動詞の空所補充(5か所;客観選択式) |
(1) 6行 (2) 12行 (3) ---- |
2018[II] | (1)該当フレーズの本文に即した簡潔な説明 (2)下線部和訳 (3)下線部和訳 |
(1) 3行 (2) 10行 (3) 10行 |
2017[I] | (1)指示語内容の具体化説明 (2)指示語の具体化を反映させた下線部和訳 (3)下線部和訳 |
(1) 3行 (2) 8行 (3) 8行 |
2017[II] | (1)論の展開と密接な接続詞と形容詞の空所補充(4か所;客観選択式) (2)下線部和訳 (3)全文を踏まえて筆者が明示した見解についての要約説明 |
(1) ---- (2) 7行 (3) 130字以上~160字以内 |
2016[I] | (1)下線部和訳 (2)二種類の対比フレーズについての史実に当てはめた比較説明 |
(1) 10行 (2) <the middle> 60字以上~80字以内 <the margins> 60字以上~80字以内 |
2016[II] | (1)論の展開に即した形容詞の空所補充(5か所;客観選択式) (2)下線部和訳 (3)下線部和訳 |
(1) ---- (2) 9行 (3) 10行 |
2015[I] | (1)下線部和訳 (2)該当フレーズの本文に即した簡潔な説明 (3)下線部和訳 |
(1) 8行 (2) 30字以上~50字以内 (3) 11行 |
2015[II] | (1)指示語の具体化を盛り込んだ下線部和訳 (2)下線部和訳 (3)動詞の空所補充(2か所;活用変化含む) |
(1) 7行 (2) 8行 (3)---- |
※2014年度以前については、一部年度(2012年度,2005年度)を除き下線部和訳のみの旧来形式であるため割愛。
対策[編集]
まずは授業、教科書、テキスト、参考書などで英文法、英語の主要な構文、重要英単語などをマスターすべきである。受験生は京大の傾向として和訳することにばかり目がいってしまい、文法事項の学習が疎かになってしまいがちだが、京大の英語で文法問題が出題されないからといって文法の学習で手を抜くのは本末転倒である。というのも基礎文法の徹底的な理解があってこそ初めて的確な和訳・解釈が可能となるので、文法をしっかり固めて、穴のないようにしておきたい。その上で英文解釈の練習として、教科書、テキスト、参考書で取り扱われている文章を和訳する練習をするとよい。あるいは和訳練習用の参考書や問題集をこなしてもよい。その際には不自然な日本語になっていないか、文脈に沿った訳になっているかを注意すべきである。場合によっては全文和訳するのもよい対策になる。和訳の際には、分からない単語や箇所がいくつかあるはずだから、文意や文脈から判断して適切な意味に訳すことができるようになるために、まずは辞書を引かずに推測して訳してみると良い。また、和訳したらそれで終わりという学習態度ではなかなか英語の力はつかないので、出来れば暗唱できるくらい読み込むことを勧める。この過程で単語や使えるフレーズ、さらに英語の感覚を身につけることができるのである。さらにテキストの文章には必ず「移植問題」などのテーマが少なくとも1つはあるはずであるから、それについて自分で書籍やインターネットなどで調べ、自分なりに考えてみることも大切である。本番で京大の問題にとりかかる時には、文章で取り上げられている内容について知っていると、知っていない場合に比べて理解のスピードは全然違うので、そこでも差が出てしまうのである。
また、英文解釈・和訳の練習と並行して英文の全体を俯瞰し筆者の主張や文章のテーマを掴む練習も積んでおくべきである。京大の和訳問題において下線部が引かれる箇所は周囲の文脈と関係を持つ部分である場合が多く、文章の構成やテーマを理解できていれば理解できていない場合に比べてスムーズに和訳できる。センター試験レベルの文章の内容やテーマを一読で理解できるのはもちろんのこと、一般の記述模試や難関国公立・私立大学に出題されるレベルの英文でも一読でテーマを理解できる状態にはしておきたい。それができなければ、京大レベルの抽象的で硬い文章のテーマを掴むことは覚束ないだろう。
これらの「京大入試における基礎」が十分固まったら京大の過去問にとりかかるとよい。1題40分が与えられた時間であるが、最初は時間を気にせずに本文をじっくり読み、自分の最大限のレベルの和訳を完成させることを目標にしたい。その後、解答解説で本文の内容を理解し、構文がとれているかはもちろんのこと、適切な訳語を用いているか、文脈に沿った訳になっているか、という視点から自分の書いた和訳の検討をじっくり行いたい。京大の問題に慣れてきたら今度は制限時間内で解く事を目標にしてさらに過去問をこなすとよい。また、解き終わった京大の過去問はそれで終わりではなく繰り返し何度も読むようにしたい。その際には、今度はじっくり読んで訳すのではなく、速読を目標にし、難解な構文を逐一考え込まずに前から意味を取って理解し、頭の中に自然と訳が浮かぶようになりたい。たとえ読みなれた文章であっても京大の文章でそれができるようになれば、初見の京大英文を理解するのに十分な力がつくだろう。
次に問題を解く際の注意点を述べる。過去問練習に際し、下線部だけを読んで訳す人間もいるが、上述の通り、京大の和訳は文脈や本文理解が重視されるので、まず本文を一読し(できればこの段階で本文全体のテーマや内容はおおよそ理解できるのが望ましい)、その後、下線部の吟味にとりかかるべきである。本文理解と下線部和訳の際にはテーマに関する自分の知識と教養をフル活用して臨みたい。
以上のことからもわかる通り、京大の英文和訳は単なる和訳の技術を見るのではなく、和訳問題を通して受験生の教養・国語力も含めた英語における総合的な学力を測っていることがわかる。受験生は小手先の受験技術の習得に終始するのではなく、学問の王道を突き進むべきである。つまり、常日頃から英語の「読み・書き」に触れ、また、さまざまなテーマに興味関心を持ち、自発的に物事を考える癖を身につけるようにする、ということである。結局のところ、このような積み重ねこそ、京大英語攻略への近道なのである。
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タイトル | 出版 | 分類 |
---|---|---|
世界一わかりやすい 京大の英語 合格講座 | KADOKAWA | 講義系参考書 |
京大入試詳解25年 英語-2019~1995 | 駿台文庫 | 過去問集 |
京大入試に学ぶ 和文英訳の技術 | LACE | 講義系参考書 |
竹岡広信のトークで攻略 京大への英語塾 | 語学春秋社 | CD付き講義系参考書 |
英文読解の透視図 | KENKYUSHA | 英文解釈演習書 |
ポレポレ英文読解プロセス50 | 代々木ライブリー | 英文解釈演習書 |
竹岡広信の 英作文が面白いほど書ける本 | 中経出版 | 網羅型講義系英作指導 |
入試攻略問題集 京都大学 英語 | 河合出版 | 京大予想問題集 |
京都大学への英語 | 駿台文庫 | 京大予想問題集 |
京大英語の指導を的確にできる実力を備えた人材は絶対的に少ない。
自分が信頼できる教員ないし外国語科の大学院卒業生の知人などにコンタクトをとるなどして、早期に添削指導の申し入れを試みるのが望ましいがなかなかに難しいと言えよう。
一般的な長文問題集や英作文問題集よりかは、京大に即した熟考型・精読型の英語教材を用いて粘り強い思考力の養成を第一義とするのが大切である。
速読や処理能力を鍛える瞬発型の対策が現代の英語入試の王道となっているが、これとは突き進むべき道筋は大きく異なる。
上記はいずれも難解かつ独特な京大入試への対応の一助となる書籍ばかりであり、可能ならば高2のうちから少しずつ着手してゆっくりと京大が求める思考力、分析力、表現力をバランスよく伸ばしていってほしい。
添削指導を引き受けてくれた先生も、あくまで一人の人間にすぎない。
京大が高い水準で求めている非の打ちどころのない完璧な答案を仕上げられる人間は、たとえ教育者や著名な翻訳家といえどまず存在しないし、それが当たり前であると理解しながら添削指導者と議論を重ねながら、実力をお互いに高めていく姿勢にこそ、本来あるべき学びの姿がある。
教育者を心の中で勝手に全知全能の神のように祭り上げて、少しでも粗を覗かせた途端に勝手に失望するような傲慢な姿勢は最大の恥である。
固く戒めるべき蛮行となり、自分の中に消えない汚点を残すことになる。相手に寄りかかる丸投げの姿勢は京大を志す受験生としての背信行為である。
“対話を根幹とした自学自習”をアドミッションポリシーに据える京大が願ってやまない本物の教育に対して、その瞬間にもう裏切りを働いてしまっており、自らの手を汚す行いとなる。
「添削」とは、契約関係である。
その契約を結んだ添削指導者と京大受験生は、その限りにおいて対等である。
互いが互いを敬い、仕上げた答案とその添削を双方向性をもった議論の種として磨き上げることで、高みへといざなう対話の証となろう。
そこに、京大が真に求める教育があると、議論の果てに気づくことである。
それが達成されたとき、本人も気づかぬうちに、京大英語で戦えるだけの実力が身についており、また同時にアドミッションポリシーに見合った人物像が達成されているはずだ。
英作文はインプット系講義書の『竹岡広信の 英作文が面白いほど書ける本』で確実な表現ストックを増やし、同時に並行してアウトプット系の演習として『京大の過去問』および京大予想問題集の『入試攻略問題集 京都大学 英語 』,『京都大学への英語』で試行錯誤をくり返すことが重要である。
いつまでもインプットばかりにしがみついて、アウトプットの演習を冬期や直前期まで先送りにしていては手遅れとなる。インプットを完璧に仕上げることも大事であるが、覚えていることと実際に覚えたことを頭の中で組み替えたり自分の力で表現する能力は別物である。そもそも覚えたものがなにかを、いざ引き出すときにできなくなっていることに本人すら気づいていなかったりする。いくら記憶を蓄積させても海馬から記憶を掘り起こすことができなくては何の意味は無いし、そもそも暗記に傾倒する行為は京大受験では愚行でしかない。
求められるのはあくまで柔軟な思考力、磨き上げられた表現力の二つであって、前提となる知識量の確保はスポーツでいうところの準備運動にすぎず、基礎練の域にすら達していないことを肝に銘じることである。
ここを誤解したまま突き進むのは、自ら成長する機会を潰してしまっている。
長い受験勉強で右往左往して脇道にそれることはあっても、目指すべき場所だけは間違えないように一歩一歩進むことを願いたい。
英作文[編集]
概説[編集]
和文英訳問題と自由英作文問題であり、前者では、非常にこなれた日本語表現が用いられた素材文が出題される。これは逐語訳が非常に難しい。各予備校の京大模試の解答を見ればわかるように、日本語の本意に沿った英訳をすると、かなり高度な単語や表現を駆使しなければならず、とても受験生には成し得ないような解答になる。そのため、高得点を得るためには“いかに簡単な表現に言い換えられるか”の力が必要となる。言い換えれば、受験生の日本語に対する文学的素養がどれだけ身についているかが勝負の分かれ目になると言える。
2015年度までは出題歴のなかった自由英作文の出題が2016年度より開始され、毎年25点分の配点を占めている。
年度 | 題目 | 分類種 | 行数(解答欄サイズ) |
---|---|---|---|
2020 | 奨学金申請についての書簡作成 | 書面形式(文語体) / 丁寧な表現 | 11行 <横12.0cm × 11 > ※語数指定無し |
2019 | 記録保存,人間関係の維持,自己表現のうち、 スマートフォンのカメラ機能を使う際に重視するもの |
文語体による意見陳述 | 13行 <横12.1cm × 13 > ※“100語程度”と指定あり |
2018 | 教員と指導学生の課題をめぐる質疑応答 | 口語体による日常会話表現 | (1) 2行 (2) 2行 (3) 4行 (4) 2行 ※いずれも横12.1cmで語数指定無し |
2017 | 音楽に国境は存在するかどうか | ディベート形式による口語表現を用いた意見陳述 | (1) 7行 (2) 7行 ※いずれも横12.1cmで語数指定無し |
2016 | 積ん読の語義説明 / 積ん読をめぐる賛否 | ディベート形式による口語表現を用いた意見陳述 | (1) 7行 (2) 7行 ※いずれも横12.1cmで語数指定無し |
なお、2020年度の英語試験における自由英作文出題意図および採点基準について、大学ホームページにおいて公式アナウンスがなされた。
内容は以下の通りであり、入試選抜要項より確認が可能である。<以下、令和2年度 試験問題および出題意図等より抜粋>
“英語に関する知識だけでなく、それを使いこなしながら表出する能力が定着しているかを評価する。従来の単語や文法規則の暗記に留まらず、場面・文脈・状況において、適切に英語表現を運用することができるかを確認する。具体的には、礼節をもって情報提供を依頼する文章を英語で書く基礎的な能力を判定するための設問である。
依頼文の形式を踏まえ、必要となる英語の丁寧表現を適切に使用できているかが最も重要であり、文法的な正確さだけに留まらず、語用論的的確さを評価する”
問題[編集]
まとまった量の文章が与えられ、全文英訳せよ、という問題が出題される。さらに2016年以降は自由英作文も約25点分の配点で出題が始まった。
すなわち、従来の和文英訳25点と、新形式の自由英作25点の配点で定着した。
和文英訳は日本文は1問につき2~6文程度から成り、長めのものが多い。また文語体表現か口語表現のどちらかがふさわしいかを文章から見極め、適切な表現を吟味する必要がある。
2018年のみ出題があった、大問3の和文英訳の途中が空所になった自由英作との複合型形式については、この年度の大問IIIの京大の採点が非常に複雑化して難航したとの声があり、極めて不評であったとの話が上がった。実際に、これ以後和文英訳においてこの形式が採用されることはなくなったため、この噂の信憑性は増すこととなった。
夏期の京大英語講座においても、「あの形式は統一的な基準での採点が難しいことから、予備校の京大模試でも採点を任せることに不安がかなりあった。できれば模試でも出題したくない形式」との声が漏れた。巷での評判もあまり思わしくないことから、この出題が再びなされる可能性は低いと考えられる。
英作分野の大問IIIと大問IVは、1つの大問につき、20分を費やすのが理想である。
難易度[編集]
和文英訳は非常にこなれた日本語文を訳さなければならず、難易度は相当高い。
自由英作も10行以上にわたる解答用紙の罫線が用意されており、論理関係や主張を明確化したうえでの英語論述は生半可な努力では到底歯が立たないであろう。
プロの予備校講師や塾講師にとどまらず、現役の国家通訳案内士などが腕試しに京大英語において英作文の大問のみを解答し、仲間内同士で得点開示の点数を競うなど、企画の一環として受験する者も見られる。
こうしたプロの精鋭集団の得点開示を踏まえても、彼らの成績が8割弱の得点(73~78%程度)にとどまることから、一般の受験生が得点可能な現実的なラインは7割が限界だと思われる。
また予備校の解答速報や赤本の解答例については、様々な立場の人間が、各々の基準からその妥当性について極めて慎重な姿勢をみせていることからも、おそらく完璧な解答と呼ばれる水準には届いていない。英作文指導の第一人者である竹岡広信は、講習会において赤本の英作文解答例を自身のプリントで引用添削したうえで、酷評することがもっぱらである。書籍や予備校の解答例も、「7割水準の解答」だと割り切った上で、完璧主義を捨てることも必要である。
京大本試における英作文の採点基準はブラックボックスであるため、詳細な評価基準については不明である。
しかし各予備校やZ会に提出する再現答案や得点開示を踏まえるなら、「京大模試でなされているような要素単位で区切った2点刻みの減点式採点ではない」ことだけは明確である。これは前述したとおり、あくまでアルバイト採点官による最もミスを減らした上での採点業務の効率化のための方針にすぎない。
近年の傾向[編集]
2005年度以降、素材文の分量がかなり増加している。ここ5年間程度で考えると難易差はあまり無いが、長いスパンで見ると、問題自体のレベルは高い状態で推移しているまま分量が増加しているので、難化していると言える。
2007年度はとりわけ分量が多かった。(1)、(2)ともに京大英作文では標準レベルの問題であり、こなれた文体で英語に直すのが難しい。英文和訳とともに和文英訳の(1)でも教育に関する問題が出題されたのが印象的だが、あくまで単年度の傾向であったと見てよいだろう。
2008年度は分量は2007年度よりもやや減少したが、それでも訳すべき情報量はかなり多い。(1)は一見素直だが、英語に訳す際にやはり一筋縄でいかないものであり、京大らしさが現れている。京大英作文では標準レベルと言える。(2)は息の長い、直訳不可能な文章であり、さらに分量も多めである。(1)よりも難度は高く、京大英作文の中ではやや難から難レベルと言える。総合的には2007年度よりもやや難化したと言える。
和文英訳は、 ①主義主張が強い格調の高い日本語文 ②随想的な要素や情緒を醸すやわらかめの日本語文 ③ト書きを軸にした口語表現を問う会話文 の3パターンが主流である。
・①主義主張が強い格調の高い日本語文
以下全文を英訳せよ。 (2019年度大問III) マイノリティという言葉を聞くと、全体のなかの少数者をまず思い浮かべるかもしれない。しかしマイノリティという概念を数だけの問題に還元するのは間違いのもとである。 |
以下全文を英訳せよ。 (2017年度大問III) 生兵法は大怪我のもとというが、現代のように個人が簡単に発信できる時代にはとくに注意しなければならない。 |
文語体表現を用いて、主張の骨子を掴みながら、自分の手持ちの英作表現に落とし込める糸口がどこかを適切に手探りしていく柔軟性が問われる。
このタイプは、②の情緒を醸すやわらかめの日本語文とは異なり、細かい情緒を汲んで微に入り細を穿つ表現にこだわりすぎると泥沼化しやすく、展開される論と自分の表現力を折衝する解答案を組み立てていくことが何よりも重要である。2019年度で言えば、「概念を数だけの問題に還元する」、「属性によって定義づけられる集団」などは字面だけにとらわれすぎておかしな表現にならないようにしなければならない。
2017年度はそもそもの日本語のボキャブラリーや素養が問われている。「生兵法は大怪我のもと」、「聞きかじった知識」「油断は禁物」「専門外では素人」などは、京大受験生の腕の見せ所である。
・②随想的な要素や情緒を醸すやわらかめの日本語文
以下全文を英訳せよ。 (2014年度大問III) きのう通勤帰りの満員電車で揺られていたら、小学生ぐらいの男の子が大きな声を張り上げて、車内の人混みをかき分けて走ってきた。 |
以下全文を英訳せよ。 (2010年度大問III) 子供のころには列車での旅行というのは心躍るものであった。年に一度、夏休みに祖父母の家に行くときには何時間も列車に乗ると考えただけでわくわくした。 |
以下全文を英訳せよ。 (2008年度大問III) コンクリートの建物に囲まれ機能第一主義の無機質な都会で生活していると、鳥や虫の鳴き声に耳を澄ませたり、名も知らぬような草木に目をやったりしながら、季節の微妙な移り変わりを実感するようなことが、めっきり少なくなってきたように思う。もっと心に余裕をもち、一回きりのかけがえのない人生をうるおいのあるものにしたいと考えて、田舎に移住することを決断する人が近年増えてきているのも無理からぬことである。 |
以下全文を英訳せよ。 (2007年度大問III) 最近久しぶりに旅行して実感したのですが、田舎の夜空には星が驚くほどたくさん見えます。 |
繊細な情感や日本語表現に潜む意味を、英語表現になじませなければならず、最も難しい形式である。
英語文化圏に馴染みのある表現があるとは限らず、独特な日本人の自然観や感性をどこまで英語文脈下に込めることができるかという難題が立ちはだかる。
またこのタイプは日本語文の一文が非常に長くなりがちで、英語に落とし込む際のまとまりを意識する必要もある。冗長な表現を重ねると、英語に直したときにかえって散漫で要領を得ないということになりかねないのも難しいところである。複数の表現を天秤にかけながら、試行錯誤を重ねながら表現力を磨いていくしかないであろう。
「車内の人混みをかきわけて」、「発車の瞬間の独特の高揚感」、「機能第一主義の無機質な都会」、「季節の微妙な移り変わりを実感」、「一回きりのかけがえのない人生をうるおいのあるものに」、「風景はそれを見る者の心を映す」などは、単に逐語的に表現しても評価は得られないであろう。
・③ト書きを軸にした口語表現を問う会話文
以下全文を英訳せよ。 (2015年度大問III) 花子:昨日の夕刊見た? 絶滅の危機に瀕していたトキの雛が孵ったと書いてあったわ。 |
このように、出題頻度は低いが、ト書き調の会話文の訳出も求められる年度がある。
このタイプにおいて、文語体の表現を答案に含めることはご法度であり、口語表現として不自然ではない英文で解答を仕上げることが原則となる。
また接続詞も、字義にとらわれすぎて、文脈下の意味から外れた表現に置き換えるだけというケアレスミスはくれぐれも避けたい。
2016年度以降、自由英作の作題が始まってからは、会話式の和文英訳は完全にその役目を終えたと言っていいかもしれない。もともと出題される頻度は10年に一度あるかないかというものであったため、口語表現を試すうえでよりふさわしい出題形式にシフトした今となっては、参考程度にとどめおくのがよい。
これは余談であるが、「問題文の二人の会話が、会話のキャッチボールの体をなしていない」というぎこちなさを指摘する声が、京大英語講座のみならず京大に合格した京大生内でもたびたび上がっている。
コミュニケーション能力の不足した人間同士の意思疎通をあえて試している、と好意的に解釈するならば、血の通っていない定型文会話よりかは生々しく実用的であるとも言えなくもないが、さすがにこれは深読みが過ぎると思われる。作題した人間がそもそも日本語においても会話面で不器用であった、あるいは、太郎と花子という男女異性の会話という状況から、女性の前で背伸びしたがりな太郎の肥大化した自意識を最後の長いセリフに込めていると下種の勘繰りをする英語講師もいたが、筆者はこれについてのコメントは差し控えたい。
・その他(名著からの引用抜粋)
以下全文を英訳せよ。 出典:司馬遼太郎『アメリカ素描』 たとえば青信号で人や車は進み、赤で停止する。このとりきめは世界に及ぼしうるし、現に及んでもいる。 |
近年は出題がめっきりなくなったが、過去には書籍からの抜粋箇所の全訳がこのようにして求められた。
極めて出来が悪かったという採点事情の舞台裏を伝え聞いたのみにとどまるが、このような出題がされる際には、外国には概念としてみられない日本人独特の文化的振る舞いを、いかにそうした事情に疎い相手を想定しながら伝えるべきかという問題意識が強く表れることとなる。
対策[編集]
まずは英文法や頻出単語、重要構文で英語の基礎を磐石なものにしたい。それとともに例文集などを使用して、頻出のフレーズを数十個暗記しておくことも重要である。日々の授業や参考書などで英文の組み立て方をしっかり習得し、その後、基礎レベルから標準レベルの英作文の問題集やテキストで演習を積み英文を書き慣れておきたい。実際に自分の手で多くの英文を書いてみることが英作文向上の鍵である。
これらの学習を通して英作文の基礎が固まったら京大の英作文にとりかかろう。京大の英作文は、「いかにも入試問題」といった頻出フレーズで表せるような文章が出題されることは無く、実際に日本語で書かれた小説や随筆の一部を切り取ったごく一般的でかつ非常に日本語らしいこなれた文章が出題される。例えば、「子どもは本の世界の中で生きることができる」「先生の教えが心に響く」「肉が苦手な私」「お茶を濁す」といったようなものであり、これらは逐語訳が非常に難く、仮に逐語訳で表せたとしても本来の意味から離れてしまうことも多々ある。また、「~だから」という接続詞を含む文があれば理由だ、などと即断してはならないし、「~だから」といった理由を表す接続詞が無くても前文の理由を表している、ということもある。京大英作文においては、ただ単に機械的に訳すのではなく、難解でこなれた部分を前後の文脈から把握し、「結局これらの言葉の意味するところはなにか」を把握することが重要である。すなわち、日本語で情報を理解したあといったんその日本語を忘れ、同様の意味を別の平易な日本語で表すことから取り掛かかり、そしてその平易な日本語を自分の持つ語彙・構文の範囲内で客観的・叙述的に組み立てることがコツである。また、単に接続詞の有無などで文をとらえるのではなく、各文を全体の文脈の中で位置づけ、その文が文章全体の中で比喩・譲歩・理由・累加など、どのような要素として働いているのかを理解することもポイントである。主客を転換する、2文に分ける、句ではなく節で表す、といったことも京大英作文における重要なテクニックである。実は知識それ自体はそれほどなくても良い。とはいえ、合格点を取れる答案を作る学力を一朝一夕で養成するのはまず不可能であるし、日本語を別の日本語で置き換えるという作業もなかなか容易に出来るものではない。やはり日ごろから積極的に英文を書く練習を続けることが重要であり、また、京大英作文の対策として、英語の学習のみならず、難解でこなれた日本語を簡潔な表現に直すという練習も積んでおきたい。問題の別解を考えてみるのも、柔軟な思考力を養成するのに効果的であろう。やはり和文英訳同様、最初は1問20分の制約を無視して時間を気にせず最高の答案を作り上げるようにしたい。その後、赤本・青本や、教学社の「京大の英語25カ年」などを使用して、数をこなし、徐々に制限時間内に問題の趣旨に合う答案が書けるようトレーニングを積んでいきたい。そして二次試験直前期には各予備校から発売されている京大模試の過去問などで演習を積めば京大英作文は磐石なものとなるだろう。
やはり京大の英語においては、英文和訳と同様に、和文英訳もまた英語力だけでなく、豊富な日本語の語彙の知識といった、ある種の教養というものが求められる。さらに語彙の知識のみならず自分の日本語を縦横無尽に駆使する日本語力も不可欠だと言えるだろう。他の教科にも言えることだが、京大の問題に対抗するには科目を越えた幅広い能力と知性・教養を身につけておきたいものである。
その他留意点[編集]
過去にはごく稀ながら、英文和訳の代わりに要旨要約問題や文中の空欄を選択肢から選んで補充する問題、和文英訳の代わりに自由英作文問題の出題がなされたことがあった。また、2005年度には、英文和訳大問2つのうち、1つは「~について書かれた文を見つけて、その文を和訳せよ」という指示に変わった。従来どおりの英文和訳という姿勢は変わらないが、該当箇所を発見するという読解問題の要素が加わっており、該当箇所の発見を誤ると、和訳自体は満点でも零点になってしまうので、十分な注意が必要である(2006年度においては読解問題の要素は消え、再び該当箇所に下線を引いて指示する形態に戻った。2007年度も元の形式である)。年度によっては多少の変更があるかもしれないがここ30年間で出題形式が変化していないことを考えると今後も同様の形式が続くと思われる。
英文和訳問題においては、10年以上前の京大英語と違って、近年の問題は訳す際に日本語のニュアンスに困ったり、かなり複雑に構文が入り組んだ文章はあまり見られない(それでも現在の文章・設問のレベルは全大学の入試問題中、トップレベルの難度ではあるが)。その代わり、以前は問題量に比して時間が十分なほうであったが、近年は訳出すべき分量がかなり増加している。2006年度以降、年々増加傾向にあり、2008年度現在、和訳部分の総語数は、数年前までの約2倍近くまで増加しており、構文や訳をじっくり吟味する時間や見直しの時間がほとんどとれないばかりか、制限時間内に全問題を解き終えることさえ困難なほどである。精読力のみならずかなりの速読力をつけないと対応できないので普段から京大レベルの難解で抽象的な文章を速読する練習を積んでおく必要がある。また時間配分等もしっかり考えておくべきである。2009年度は一転して語数が大幅に減少したが、来年度以降、再び2007・2008年度の語数に戻るともわからないので、油断は禁物である。
数学[編集]
概説[編集]
京都大学の理系は150分間で6題(200点満点・各学部で配点に応じて素点を換算)、文系では120分間で5題(150点満点・各学部で配点に応じて素点を換算)を解答することになる。各大問の配点は30点または35点であり、各大問の配点は問題用紙に記載されている。
京都大学の数学は、受験生の思考力や論証力、論理力といった、数学の習得に必要不可欠な能力を図る上で非常に良く練られた問題を提示してくる。また、本学の学者養成という目的を反映してか、伝統的に代数学(方程式・ベクトル・行列等のこと。)の色合いが濃い。そして、他の大学の数学の問題や一般的な模試と違って、京大の数学には小問が無いことも大きな特徴である。
これは 誘導無しで1題を自力で解ききる構想力と粘り強さを求めており、これもまた自力で問題の解答を見出すという学者・研究者の姿勢に沿うものであり、本学の目的を反映していると言えよう。
出題範囲[編集]
理系・文系を問わず、数列、確率、ベクトル(空間図形も含める)、微積分が頻出である。また整数問題が出題されやすく(年に2問の出題もある)整数問題及びその他の分野に関しても証明問題が多い(年度によっては半分以上が証明問題のときもある)。証明問題以外でも論理展開が重要な問題が出題されることが多く、これが古くから「論証の京大」と呼ばれる所以である。
場合の数と確率、整数、図形、微積分の4つは毎年必ず出題される。
確率はn絡みで一般化された確率の設問であるが、他大学のように小問で誘導されることが無いため、入り口の方針でつまずくと泥沼にはまることが多い。漸化式で推移を整理できるときもあればそうではないときもある。平素の演習を通じて慣れと直感を養っておくことは必須である。確率については一橋大学が京大のレベルや特徴に合致していることが多いので、一橋大学も演習としては格好の対象である。
整数は年度による難易差の乱高下があまりにも激しいので、ハズレの年度に本番当たった時は潔く捨てる覚悟も必要である。図形の設問も誘導が与えられることは稀であり、多くはどのような方針で初手を打つかで明暗が分かれることが多い。初等幾何、ベクトル、座標設定、角変数設定による三角関数のいずれかのうち、どれか一つが最もシンプルに決着するよう設計されていることが多い。逆を言えば、一般性を失わないように座標を設定すれば楽になるところをベクトルなどで初めてしまうことで、初めから出口の無い迷路に自ら迷い込んでしまうような恐ろしい事態になることも往々にしてありうる。京大の図形は最初の方針にこそ、慎重を期す必要がある。
微積は理系であっても計算量は他大学と比べても煩雑なものは出題されず、むしろ計算自体はシンプルであることが多い。ただしこれも積分の立式までの誘導が一切設けられていないため、変数の設定やその定義域も含めてみずから自力で行う必要がある。図形的考察が絡んだ立式一つとっても、tを用いた線分の長さ、角度θ、tanθなど変数の取り方一つでその設問は変幻自在に難易度を変える。自ら問題の難易度を引き上げてしまうような設定をしないようにするには、やはり数学的素養や勘の鋭さを平素の演習で養って経験値を積む他ない。
問題[編集]
問題は全問記述式である。理系配当の数学は6つの大問を150分で解答し、文系配当の数学では5題を120分で解答する。配点は各大問30点または35点である。どの問題が何点配当かは問題用紙に記載されており、配点を見ながら解く順番を決めることも可能である。
例年30点問題が2題、35点問題が4題出題される。一般的に30点問題は理系・文系共通問題が割り当てられる事が多く比較的穏やかな出題であることが多いが、過去に何度か30点問題にもかかわらず難易度の高い出題がなされたことがあるため、どの問題が解きやすいかは本番当日に実物を目の前にして判断するほかない。
京大数学では証明問題が多かったり、誘導・小問のない問題が出題されるなど、処理能力より構想力や論証力を主に見る出題形式になっている。これは前述した通り、研究者としてやっていくのに必要な構想力や発想力、論証力を試す目的でこのような出題形式に落ち着いているものと考えられる。
1990年代後半~2000年頃は1問も完答せず各問題で部分点を取って合格する、といった生徒が多く、教授陣がそのような試験では数学の実力を測ることができないと考えた。
そこで一問を完璧な論理性で以って完答できる生徒をとろうという意図から、2001年より小問を無くし原則として完答を求め、草稿の部分は採点の対象にせず(03年より、右側の「下書き用紙」を「計算用紙」に名称変更)、採点基準もきびしくなった。
この方針転換により、以前よりも問題の難易度は下がったが、論理的妥当性をめぐっての採点は以前にも増して厳しくなり、最後の求値を正しく求めていても、半分の得点しか与えられなかった、ということは珍しくない。近年はとくに京大の問題は易しいと揶揄されがちだが、それは他大学のように途中経過に応じた部分点に寛容であるという前提があってはじめて可能な比較にすぎず、京大の採点の指針まで踏まえれば、このように問題の難易度だけで他大学より得点が容易とまで結論づける姿勢は著しく合理性を欠く。
これは受験数学全般に言えることであるが、「十分性、必要条件、必要十分」などの議論や同値変形を正しく理解していない受験生、さらには高校数学の教職員などが非常に多く、答案が数学的な論の展開をたどっていないがために起こっているのが現状である。
十分性の確認などを機械的なパターン学習としてしか指導できない教員も非常に多く、例えば有名どころで言えば「アポロ二ウスの円の軌跡の逆が成り立つ確認」「三次関数の極値をもつ確認」などだけを丸暗記で教えるなどという悪しき風潮である。本質を理解していないと、京大のように非典型型問題におけるこうした議論で、真っ当な答案を仕上げることはかなり分が悪くなる。
2016年度理系1、2014年度理系4、2013年度理系4、2010年度理系4はとくにこうした理由から、完答したと思っていた受験生の答案においての不備が理由で、15点~20点の減点が多数生じていて、いずれも問題の難易度のわりに平均得点率は伸び悩んでいたという残念な結果であった。
特に強調しておきたいのは、この中でも2014年度理系数学大問4である。
この一題に、“論証の京大”と言わしめる京大数学の本質が最も色濃く表れている。
解答としては正答したと思われる答案でも、数多くの受験生に大幅な減点が発生した有名な設問であり、一説では赤本の解答例も厳密性を欠き、減点対象を免れ得ないという指摘も上がっている。
本当の意味で非の打ちどころのない解答例を示しているのは駿台の青本掲載の解答とされており、この問題に限っては『京大入試詳解25年 数学<理系>-2019~1995』(駿台文庫)で、この設問において京大採点官が求めていた確実性のある解答がどのようなものか目を通し、自覚しておくことを強く推奨する。
この設問の駿台の解答例を見て、度肝を抜かれると思われるが、まぎれもなく論証の京大の真髄が示されている。
『世界一わかりやすい 京大の理系数学 合格講座』の著者である駿台数学科講師の池谷哲は、京大数学は「適度な標準問題を出題ベースにした完答主義」を主流としていること、「他大学のように部分点を各大問でかき集めて得点を重ねる戦略は通用しない」ことを講習会や自著で強調している。一例として、「数学的帰納法において、n=1の場合が成り立つことを確認、n=kの成立を仮定する記述」に他大学のように何点か加点するといった手心は一切加えられない話は有名である。京大においては、ここまで記述していたとしても、以後の論の展開が空白であったり、破綻していれば0点処理となることを京大採点官自身が認めた旨を発言している。
問題の中身としては、ベクトルや行列、代数方程式といった線形代数分野の色合いが濃く、加えて整数論、確率といった内容が多い。また、煩雑な計算を強いられることは少なく、どちらかといえば問題を解く方針を定めるのが困難な問題が多いと言える。
換言すれば、方針を正しく定めれば比較的短時間で正答にたどり着けるが、方針を見誤ると、まったく手も足も出ない問題が多いということである。これは京大の教授陣の、受験生の計算の技巧よりも、彼らの問題の本質を見抜く能力の多寡を評価したいという意思の現れであるとも言える。
難易度[編集]
難易度としては年ごとの変動はあるものの、2003~06,11,13年の問題を除き、ここ数十年の問題を見る限りでは受験数学における最高水準の出題がなされ続けていると言える。問題の項でも述べた通り、問題一つ一つがかなり程度が高く、さらには本質が見抜けないと手も足も出ないような抽象度の高い難問もほぼ毎年のように出題される。従って、付け焼刃の受験テクニックや上辺だけの学力では本番で1問も解けずに終わってしまうだろう。
後期試験が廃止されて以降、本学は数学において傾向と対策を取られない様に内容においても難易度においても大きく変動させていることにも注意が必要である。
また、本学においては文系の受験生に対しても出題にあまり手加減はされないのも特徴である。出題範囲においても本来なら理系でのみ習う分野で文系にとっては発展的内容とされている分野からも京大の固有分野に定められ、実際に出題もされたことがある。
理系との共通問題、若しくは類似問題も年度に平均して2題程度は出題されており他の国立大学に比してかなり多めである。そして、理系でも難易度の高い部類に入る問題がしばしば共通問題として出題されている。
他大学の理系で見られがちな重厚な計算量を求めたり、息の長い煩雑な処理能力を問う出題は極めて少ない。
東京大学、名古屋大学、大阪大学などでよく見られるような積分計算に膨大な時間量を割く必要のある作題がなされることは非常に稀である(というよりほぼ無い)ため、計算ミスで点差が開きやすくなる出題セットは組まれてはいない。ただし、積分の立式が比較的容易に片付き、後の計算に山場を用意していることの多い他大学の出題とは対照的に、京大の微積の出題は立式までの発想に山場を用意していることが極めて多い。これは発想力を重視している京大特有の方針であり、初手を誤ると立式さえままならないため、受験生にとっては当日の博打的要素の大きなものとなる。一般的な大学のように各大問で小問を設けて誘導するということもないため、0点か完答かで二極化が極めて起こりやすく、数学的素養や受験生のレベルに応じて著しい差が生まれることになる。実際に、よほどの捨て問をのぞき、京大数学はすべての各大問について、他大学以上に各大問とも標準偏差が大きいという最たる特徴がある。
さらに本学を代表する特徴として、常用対数の近似がタブーとして扱われている点にも留意しておきたい。不等式を用いた評価を求められ、その議論を下地に答案をまとめる必要があるが、近年では対数表だけを与えて不等式さえもみずから立式することが要求されることが見受けられる。
特に京大では、分野ごとに問題を分類して考えるよりも、その大問で問われているのが計算力、発想力のいずれであるかを見極める方が大切である。演算処理に重きを置いている設問では計算ミスをすると、部分点が見込めることはほとんど無いが、発想力が主軸の設問では論に破綻さえなければ軽微な計算の誤りにはほとんど目を瞑ってくれていることが合格者の開示結果からも見て取れるからだ。(無論、本番で計算ミスを0で済ませるに越したことはないのだが)
他大学と大きく異なる最たるものとして、理系数学にもかかわらず数IIIの出題割合が比較的小さいという点も挙げられる。2020年や2015年など解析系の比重が多いセットなど、一部年度で例外はあるが、数IIIが題材となる設問は6題セットのうちの2題程度であることが多い。これは数IIIの設問は慣れと経験次第で対処可能で、純粋な発想力や数学的洞察を問うことが困難になるところが大きいからという声もある。
大問 | 設問内容 | 難易度 |
---|---|---|
1 | 三次方程式の解が複素数平面上で正三角形をなす条件 | 標準 |
2 | 二次方程式の解と三角関数の極限 | 標準 |
3 | 単位球面上の位置ベクトル | やや難 |
4 | 素因数3の個数の最大値 | 難 |
5 | 場合の数(ラテン方陣) | やや難 |
6 | 回転体の垂直軸回転 | 難 |
大問 | 設問内容 | 難易度 |
---|---|---|
1 | [1]二倍角と三倍角が有理数となる条件 [2]積分計算 | [1]やや易 [2]易 |
2 | 三次式に隣接する整数を代入したときにいずれも素数となる条件 | 標準 |
3 | 鋭角三角形の辺上の内分点の軌跡による面積 | 標準 |
4 | ある不等式条件を満たすサイコロの確率 | 難 |
5 | 球面に内接する四角錐の計量 | やや易 |
6 | 不等式評価(常用対数表の運用) | 標準 |
大問 | 設問内容 | 難易度 |
---|---|---|
1 | 二つの放物線の接点の軌跡と領域 | やや易 |
2 | 三次式が素数となる条件 | 易 |
3 | 円に内接する四角形の計量 | やや難 |
4 | 共役複素数と遷移確率 | 標準 |
5 | 対数関数の法線上の点と曲線の長さの極限 | 標準 |
6 | 切断四面体に関する証明 | 難 |
大問 | 設問内容 | 難易度 |
---|---|---|
1 | 複素数平面上の軌跡 | 標準 |
2 | 正八面体の頂点と四面体の関係 | 標準 |
3 | 三角関数と不定方程式 | 標準 |
4 | 円に内接する三角形の計量 | やや難 |
5 | 曲線と直線で囲まれた面積の最小値 | やや易 |
6 | 剰余分類の確率 | やや易 |
大問 | 設問内容 | 難易度 |
---|---|---|
1 | 三角関数(微分法と極限の運用) | やや易 |
2 | ある対称式が素数となる条件 | 標準 |
3 | 正四面体となる条件 | 易 |
4 | 回転体の体積 | 標準 |
5 | 座標平面上の動点についての遷移確率 | 標準 |
6 | 実数係数ではない二次式の整除 | やや難 |
大問 | 設問内容 | 難易度 |
---|---|---|
1 | 二つの正弦曲線で作られる回転体の体積 | やや易 |
2 | 円に外接する四角形の面積 | 標準 |
3 | ニュートン法の応用 | 標準 |
4 | 正四面体内部の角度と余弦 | 標準 |
5 | 多項式の離散全称条件に基づく証明 | 難 |
6 | 二つの関数をルールとした遷移確率 | やや難 |
大問 | 設問内容 | 難易度 |
---|---|---|
1 | 空間上の三直線と最小値 | やや易 |
2 | 独立した粒子の移動と遷移確率 | やや易 |
3 | 三角形の面積の最大値 | 標準 |
4 | 不等式で表された存在範囲の図示 | 標準 |
5 | 3で割り切れない2つの自然数 | やや難 |
6 | 円と双曲線で囲まれた領域 | やや難 |
大問 | 設問内容 | 難易度 |
---|---|---|
1 | 平行四辺形と内分点 | 易 |
2 | 数列の規則性と不等式評価 | やや難 |
3 | 整式除法と素数 | 標準 |
4 | 微分法と三角関数 | 易 |
5 | 積分法と対数関数 | やや易 |
6 | 数直線を題材とした確率 | やや易 |
大問 | 設問内容 | 難易度 |
---|---|---|
1 | [1]極限の計算 [2]積分の計算 | [1]やや難 [2]やや易 |
2 | 正四面体と平行条件に関する証明 | やや易 |
3 | 二変数関数の値域 | 標準 |
4 | ガロア理論の導入 | やや難 |
5 | 命題と証明 | やや難 |
6 | 正則連分数展開の確率 | 難 |
大問 | 設問内容 | 難易度 |
---|---|---|
1 | [1]確率の基礎計算 [2]積分の基礎計算 | [1]易 [2]易 |
2 | 一次変換の計算 | 易 |
3 | 直線と曲線で囲まれた面積計算 | 易 |
4 | 不等式と数学的帰納法 | やや易 |
5 | 空間座標系と球面 | 標準 |
6 | 四面体の頂点を通る球面の存在証明 | やや難 |
大問 | 設問内容 | 難易度 |
---|---|---|
1 | 平面と四面体の一辺との垂直条件 | 易 |
2 | 座標平面上の角度の最大値 | やや易 |
3 | 二曲線を題材にした面積比 | やや易 |
4 | 鋭角三角形の外接円 | 標準 |
5 | 整数の証明 | やや難 |
6 | 区分求積法の計算 | やや易 |
大問 | 設問内容 | 難易度 |
---|---|---|
1 | 空間座標系における交点条件 | 標準 |
2 | 同一円周条件と内心一致の証明 | 難 |
3 | カードの操作をめぐる確率 | やや難 |
4 | 条件を満たす線分の長さの証明 | やや難 |
5 | 極方程式と積分 | 標準 |
6 | 二整数が互いに素である証明 | 難 |
大問 | 設問内容 | 難易度 |
---|---|---|
1 | 直線と曲線が共有点をもたない必要十分条件 | やや易 |
2 | 正四面体の頂点を移動する点の確率 | 標準 |
3 | 4つの直線と平面の交点が平行四辺形となる証明 | やや難 |
4 | 絶対値を含む方程式の解の個数 | 標準 |
5 | 円柱の切断と求積 | やや易 |
6 | 航空経路モデルと飛行距離の縮小 | 標準 |
大問 | 設問内容 | 難易度 |
---|---|---|
1 | [1]積分の計算 [2]階段の上り方の総数 | [1]やや易 [2]やや易 |
2 | ある数列が有限値に収束する条件と点の存在範囲 | 標準 |
3 | ある素数と4つの整数が満たす等式 | やや難 |
4 | 三角形の外心が円の中心と一致する条件について | やや易 |
5 | 列ベクトルと一次変換に関する証明 | やや難 |
6 | 抽象関数を題材とした証明 | 難 |
近年の傾向[編集]
2002年以前は著しく難易度の高い問題や、煩雑な処理計算問題が出題されるなど、極めて高水準な問題ぞろいであった。
しかし、それでは受験生が解けず、差が出なかったためか、2003年以降は文系・理系とも易化傾向にあったが、2007年度入試では大幅に難化した。(2002年度以前の水準に戻った。)
近年の難易度傾向は以下の様に推移している。(再現答案と得点開示の様子から推測しながら、完答難易度と得点難易度の両方を加味して、京大受験生が4~5割の得点を望める辺りを「標準」。)
理系においては2013年度までは難し過ぎたり易し過ぎたり揺れ動いていたが、2014年度以降は京大入試として適切なレベルで安定している。
今後も表面的な受験対策では通用しない出題、実力差が反映される出題が続くと予想されるので、来年度以降の京大受験生は高水準の問題にも対処できるようにするために、常日頃から応用問題にも積極的にチャレンジして思考力を鍛錬しておくなど、高度な学習がより一層求められてきていると言える。
目標点数[編集]
それでは受験生は実際にどれほどの得点を確保すればよいか気になるところであろう。
他科目との兼ね合いもあるが、例年において全6題で構成される理系に関しては、医学科で4~5題分(7割弱)、その他の理系学部で3題と部分点(6割弱)、易しめの年では4題分を確保することを目標としたい。
但し、最後の答えが合っていても解答に至る過程も重視される論述式であることを踏まえれば、実際の得点は(完答そして完解しても)1~2割程度は下がっていることは想定しておくことが好ましい。
全5題で構成される文系学部は2題と部分点ないし3題分(5割5分)を一つの目安にするのが無難である。
難易度の乱高下はこれからも起こり得ることであり、2007~09,12年の様に難易度が高度であった時は0~1問完答と部分点のみで合格した学生も多数存在するため、仮に5割確保できなかったとしても合格を諦めてはならない。
数学で失敗したと感じるなら、そのぶん他科目(理系の場合は理科、文系の場合は社会)で稼がねばならない。
以降の項目にて詳述するが、京大の数学は完答案をベースにした減点法であり、減点幅は京大模試での採点よりかなり大きくなる。とりわけ未完成答案にはことのほか厳しい。上記の問題数分の得点を目指すにしても、部分点によるのではなく、できるだけ完答することによって得点を積み重ねたい。
採点・答案作成に関して[編集]
京大数学は証明問題の多さからもわかるように論理力・表現力を非常に重視している。また、2001年度よりゼロから自分で解答を練り上げるという構想力を見たいという意図から小問のない問題主体が続いている。
採点は他の科目と違い理学部の教授に一括され、一人の答案を二人の教授が時間を掛けて見ている。まず二人が独自にそれぞれ採点し、各自の採点結果を突き合わせて協議してその答案の点数を決定した後、さらにもう一度最終確認を行う、という非常に丁寧なやり方で採点し合計4回答案をチェックする。これは部分点を与えるのではなく、「丁寧に減点している」のであり、受験生に厳しい基準を要求していることになる。
答えが正しくても論理破綻や飛躍があると大幅に減点されるので注意が必要である。よくある一例として、場合分けをして求値又は論証をしていく問題では場合分けを見出すことが論理のポイントであり、見落とした場合重大な論理破綻とみなされ大半の得点を失うことになる。(例として15年理文共通第2問、17年理系第3問,文系第4問)
2007年、09年文系理系(甲)、10年文系、11年、12年に出題された、大問1の独立した中問2題にはそれぞれ単純な求値問題が出題されており、これらは答えが合っているかどうか即ちオールオアナッシングの採点がとられており、最後の答えを間違えれば0点となるので計算ミスのないよう慎重に解答するべきである。他にも、単純な大問などは大抵の場合において“満点か半分か0点の3択”であり、方針が比較的容易に立つ処理能力重視の大問においては解答プロセスが最後まで到達していないと0点になるリスクが大きい。
途中点を与える場合も大問毎に答案の大区分を何箇所か設定されており、その大区分内を完成する毎に加点、完成していない場合はたとえ完成直前でも無加点として扱う。模擬試験のように方針、立式にそのつど加点はおこなわない。また、小問や大区分による配点においても、重要なポイントに重点的に配点されており、容易に導き出せるものの配点は低い。
「最後まで完成して計算ミスにより答を間違えた答案」と「最後まで完成していない答案」とでは、概して後者の方が一層大きな減点になり、答案作成の際には途中でやめず出来る限り粘ることが求められている。
再現答案と、実際に開示された得点を見比べてみても、ケアレスミスに厳しい問題と大筋の理解が読み取れる答案への部分点が寛容な問題など様々である。
上記のように答えが正しく出ていなければ満足に得点の得られない問題もある一方で、12年理系第6問や16年理系第6問,文系第5問等多くの受験生が白紙同然だった難問では、途中までの解答であっても問題の構造が読み取れている答案に対してはある程度の部分点が与えられている。
肝に銘じて欲しいのは、部分点がどの位もらえるかは問題の核心に対する進捗具合であり、(左側の)答案用紙に書いた量ではない。「数打てば当たる」かの如く関係ない記述を連ねたり、嘘やごまかしの証明等問題の趣旨に反する記述は何の評価もされないばかりか採点者の印象悪化に繋がるので、いっそ書かない(清書しない)方がマシであると言える。
以上のことからわかるように、数学の採点は全般的にかなり厳しく、なかなか思うように点数が取れないというのが本番における京大数学の難しさのひとつと言えよう。
また、かつては学部ごとに採点基準を設定していた(例えば、医学部医学科、理学部の採点は厳しく、その他の学部では甘めであり医・医、理学部ほどの厳密な論述を求めない、他の学部間でも採点基準の甘辛には差がある、など)が、問題を理系(甲)・理系(乙)に分けた2007年度以降は、各学部に両方の問題を提示し、いずれを選択するか判断してもらうということにして、採点基準は統一しているとのことである。再び共通の問題になった2011年度以降学部別の扱いがどうなっているのかは不明である。
数学の発想のしかた[編集]
京大では、知識は教科書レベルでも発想の仕方で差が生まれる問題が多い。また、文系であっても数学IIIの知識があることが望ましい。設問としては数学IIIの知識が全く無くても解答できるように設定されている(この点については非常に厳密に守られている。)が、これらの知識があることで発想可能範囲が広がるものである。
また、文系であっても数学IIIの知識を用いて構わないのと同様に、指導要領外の解法で解答しても、論理的に正しければ満点を与えるものである。例えば、現在の指導要領では削除されている行列で回転させた場合には不正解であるが、複素数を用いて回転した場合には正答である等、数学の本質から外れた採点基準は好まないからである。それゆえ、偏微分や二重積分を用いた解答でも満点なのであるが、判定基準は厳密になる。採点時には何通りもの想定解答パターンと配点基準を用意し、採点者による不公平が無いようにしているが、仮に想定パターン外の解答が出てきた場合には採点者自らがこの解答に沿った模範解答と配点基準を設定し、これを他の採点者とすり合わせて点数を設定することが内規で定められている。この場合には受験者の記載内容は一字一句詳細に複数の採点者に読み取られる。つまり指導要領外の解法を用いていても構わないが、理解度において指導要領内の解法と同程度でなければならないので、理解があやふやなままテクニックとして用いた解答記述は減点の原因になりやすいのである。
対策[編集]
京都大学の数学には難問が多く、解決の手掛かりを見つけることさえ困難な場合もある。しかし、それらを解くために必要な解法や知識はどれもお馴染みのものであることに気がつくはずである。ということは、まずは高校の授業で習う定型的な解法をマスターすることが京大数学攻略への第一歩であると言える。したがって、受験生はまず日々の授業の内容を完全に理解するように努めるべきである。その際には、教科書で出てきた基本公式や基礎的な問題は第三者に説明できるようになるまで理解を深めることが重要である。友人や教師と内容について議論することも理解を早める処方箋となるだろう。出てきた公式はどんな時でも自分の手で導けるくらいに理解しておくと良い。
その後受験用問題集を使用して演習を積んでいくことになるのだが、ただ闇雲に演習量をこなすのではなく、1題ごとにその問題の本質は何なのかじっくり考えることが大切である。さらに、解いた問題の別解を考えてみるのも数学的思考力を養うのに大いに役に立つ。当然のことながら、演習の際の計算は必ず最後まで自分の手で正確に書き上げるようにするべきである。というのは、京都大学の数学は他大学に比して計算量がそれほど多くはないのだが、それはつまり、本番では計算ミスが許容されないことを意味しているからである。日頃から微分・積分や、三角関数・不等式の変形等の複雑な操作に触れ、熟達しておくことが、計算ミスに対する一番の処方箋である。ある程度計算を進めるごとに検算する癖を身に付けておくとなお良い。
このようにして受験用問題集を一通りこなした後は、赤本あるいは青本などを使用して過去問演習を行い、「小問誘導のない問題に対して、どの解法を使ってどのように解き、どう答案にしていくか」というような構想力を養うとよい。
日頃の勉強や演習で、どういう演習に取り組めばいいのか判断がつかない受験生も多い。
京大を志す全ての受験生が受験指導において必ずしも恵まれた環境にいないことを想定し、採用に値する教材や演習問題について選定しているものを紹介しておく。
京大の数学といえど、完答すべき問題の中には毎年必ず標準レベルやそれ以下の水準の問題も含まれている。
しかしこうした問題にもやはりちょっとしたハードルはあり、受験生にとってはそれでも苦労の種となることは常なる悩みである。
踏み越えるべき一つ一つのハードルは低くても、それが複数あると足元をすくわれる形だ。
つまり、標準問題の完答というのは口で言うことこそたやすいが、存外それを果たすことは生易しくはないのである。
ただこのことを恥じる必要は全くない。
受験で最も忌むべきは、現状の自己分析から目を背け、身の丈に合わないレベルの演習にしがみつづける高望みである。
過去問を開いたときにどうしてもチラつく「やや難レベル」の設問に気持ちをかき乱されて、巷で評判の「ハイレベル」を謳い文句にする問題集や予備校講座に飛びついても、得られるものはかえって少ないのである。
医学科以外の志望者であるなら、やや難以上の問題に固執して中途半端にハイレベル問題習に片足を突っ込むよりも、標準レベルまでの設問を徹底的に仕上げて迎え撃つ体勢を整えることの方が、はるかに有意義である。
あせる気持ちを押さえて、自分が着手すべき演習レベルの問題はどれか、しっかりと見つめる姿勢も大切である。
ここまでで述べた内容をしっかりと踏まえた上で、以下について目を通されたい。
タイトル | 出版 | 分類 |
---|---|---|
世界一わかりやすい 京大の理系数学 合格講座 | KADOKAWA | 講義系参考書 |
神戸大理系数学 | ----- | 過去問 |
筑波大理系数学 | ----- | 過去問 |
千葉大理系数学 | ----- | 過去問 |
世界一わかりやすいシリーズは、解答作成に先立った試行錯誤や実験といったステップを明確に意識させてくれるため、数学で伸び悩んでいる受験生にはぜひ一読をすすめておきたい。
あらかじめ出題される問題の予想がつく定期テストとは異なり、初見の問題に対するアレルギーを克服するにはうってつけの参考書である。
定期テストで点数がとれるが模試で伸び悩む人ほど、「やや難の問題」と「初見の標準問題」の見分けがついていない。
まずは鍛えるべき思考力の受け皿を整えることである。
さらに京大を志すからといって、他大学の赤本や過去問に価値を見出せないという姿勢もおごりに他ならないことも指摘しておきたい。
見方によっては市販の問題集よりも価値を秘めていることさえある。
ここでは他大学の推薦過去問を三つにしぼって紹介する。
神戸大学は特に丁寧な誘導と適度な標準問題で良問が多く、細分化された誘導に触れることを通じて体感的に問題の流れに乗る訓練を積むことを助けてくれる。また神戸大の標準問題をコンスタントに完答できる力がつく頃には京大数学でも0完や1完といった状況からは抜け出せているはずである。
筑波大学や千葉大学は誘導の無い標準レベルの設問もたびたび見られ、また誘導を隠すことで京大らしさを醸す問題に遭遇することも多い。これらの大学を目指すわけではないにせよ演習価値の高い過去問には積極的に取り組むことで経験値は知らず知らずのうちにたまってゆく。特に問題集のように分野や難易度ごとにジャンル分けされているものを解くよりも、ジャンルが伏せられた状態で問題を解くということも非常に地力を養うことを理解されたい。
神戸大、筑波大、千葉大の三つすべての過去問を解くのは時間的に厳しいであろうからそれぞれの過去問を参照した上で、自分の学習計画と馴染みそうな大学を一つないし二つ選んで演習材料として利用することを推奨する。このとき大事なのは、最初のうちはとくに時間制限にこだわらず、めいっぱい一題に時間をさいて考え抜く習慣をつけることである。糸口が掴めず十分足らずですぐに解答を見てしまうのは、京大数学のアドリブ的思考力を養う対策とはまったくなじまない。
あくまで解法のストックではなく、考える習慣を自分の中になじませること、そして考えることをこうした演習を通じて常態化させることが大切なのである。また一度解いたものも解きっぱなしにするのではなく、ある程度日数を置いたのちに今度は時間を設定して解き直すというのも心がけること。
これは「なんとなく忘れてしまったころ」が好ましい。
そして次に解いたとき、スルスルとではなく何か引っかかりやうろ覚えと格闘しながら、思考のステップを掘り起こしながら解いていくこと。
この作業に慣れてくるころには、京大数学であっても3完することのハードルが以前より高くは感じなくなっているはずである。
タイトル | 出版 | 分類 |
---|---|---|
文系数学良問のプラチカ 数学IAIIB | 河合出版 | 問題集 |
数学III標準問題精講 | 旺文社 | 問題集 |
やさしい理系数学 | 河合出版 | 問題集 |
一橋大の数学20カ年 | 教学社 | 過去問 |
京大入試詳解25年 数学<理系>-2019~1995 | 駿台文庫 | 京大過去問集 |
京大入試詳解25年 数学<文系>-2019~1995 | 駿台文庫 | 京大過去問集 |
京都大学入試攻略問題集 | 河合出版 | 京大予想問題集 |
京都大学への理系数学 | 駿台文庫 | 京大予想問題集 |
『文系数学良問のプラチカ』は数IAIIBのアウトプットに、『数学III標準問題精講』は数IIIのアウトプットとして問題分量・解説の質の点から推薦した。
『理系数学良問のプラチカ』は文系プラチカほど問題の選定が思わしくないと判断したため、候補から外した。
『数学III標準問題精講』はZ会が監修に関わっていることも影響してかやや程度が高いという評判も聞くが、問題の選定に数学IIIのエッセンスが極めて絶妙に凝縮されており、特に微分と積分においてはこれ以上ないという仕上がりである。数学IIIはこれ一冊を仕上げれば確固たる自信のもとで、本番に臨めるといっていい。
『やさしい理系数学』は別解が極めて豊富な点がウリで、しかもそこが京大数学と相性が良い。
京大数学は解法の糸口がいくつもあるような問題が非常に多く、つまり別解の余地を多分に残した柔軟な作りになっていることが多々ある。
同一の問題に複数のアプローチが可能であるという理解、つまり複数の視点を垣間見る経験は、実戦力としてのちのちに生きてくる勉強法である。
すべての章を几帳面に解く必要はまったくない。
例えば頻出の確率、図形の章にしぼって何週もするなど各個人に合わせた使い方を推奨したい。
なお、タイトルに「やさしい」と付いているが難易度が易しいという意味ではないので、初学者や苦手意識を克服しきれていない受験生は安易に手を出さないこと。
また、同じく河合出版から販売されている『ハイレベル理系数学』は完全にオーバーワークといえるので医学科以外の京大受験生には一切推奨していない。
『ハイレベル理系数学』は問題の選定が東工大のような単科大学や東京医科歯科大学などの単科医大を意識した重厚なものが目立ち、本学の数学とは毛色が大きく異なる。
一橋大学の数学は誘導の無い発想力を問う出題が多く、東大京大に次ぐ日本の最高水準に占める内容である。
理系受験生であっても非常に演習価値を含む問題の宝庫であるので、文理問わず積極的活用を検討してほしい。
確率、整数、図形の問題などの章は特に京大数学の発想力を培うための演習材料としてかなり質の高いものであり、余力があればぜひ確認を勧める。
数学に注力して演習量を確保したがる受験生で、東工大数学や東大数学の演習が必要かを相談してくる者が毎年みられるが、それらの大学よりも一橋大学の演習が強く望まれる。
最後に、河合と駿台がそれぞれ出版している『京都大学入試攻略問題集』,『京都大学への理系数学』は京大模試の数学の過去問題集である。
両方とも徹底した過去問研究のもとに予想問題という位置づけで作題されているので、極めて問題の質が高い。
また当時の平均点データや偏差値分布表、詳細な採点基準なども各回ごとに記されているので、過去問以上に自学自習をしやすい設計になっている。
あまり知られていないが大型書店やアマゾンなどでは置かれているので演習書としては最適である。
時間制限を取り払い一題あたり必死にとことん考えるスタイルでも、6題セットのテスト演習を試してみるのも、各自に合った使い方を推奨する。
その他留意点[編集]
2007年度から理系数学は学部学科によって甲(標準)・乙(発展)に分かれ、乙のほうがレベルの高いものになっている。理系甲は、総合人間学部(理系)、教育学部(理系)、医学部人間健康科学科(旧保健学科)看護専攻・作業療法専攻。理系乙は、理学部、医学部医学科、人間健康科学科(旧保健学科)理学療法専攻・検査技術専攻、薬学部、工学部、農学部で使用された。
2008年度入試では変更があり、07年度入試で数学甲を選択していた総合人間学部(理系)が08年度では数学乙を選択した。また教育学部(理系)、医学部人間健康科学科(旧保健学科)の全ての専攻で数学甲が採用された。
2009年度では教育学部(理系)、医学部人間健康科学科看護学専攻・作業療法学専攻は数学甲を選択し、それ以外の学部は全て理系乙を選択した。新設の経済学部理系入試も数学乙の選択であった。
2010年度では08年度と同じく教育学部(理系)、医学部人間健康科学科(旧保健学科)の全ての専攻で数学甲が採用され、他の理系学部は数学乙が採用された。
なお、2011年度からは、理系は再び全学部共通の問題が使用されている。
2019年度では文理共に常用対数表が出題された。
国語[編集]
京都大学の国語では、文系では120分、理系では90分でともに3つの大問を解答することになる。文系は150点満点(但し教育学部の文系は200点満点)、理系は100点満点である。
- 文系国語
第一問は評論、随筆、第二問は、従来は文語文が出題されていたが、近年では小説や随筆が出題される事が多い(ただし、やや文語的なものが出題される)。第三問は古典である。主に古文が出題される。各大問とも配点はそれぞれ50点である。
- 理系国語
2006年度までは文系と同問題の3題から2題を選択して解答する方式であったが、2007年度から文系と理系が別問題になり、全問必答になった。第一問は文系と共通問題であり、設問数は文系より一つ少なく、40点である。削られる設問は、比喩問題のような、所謂文系向けのやや難度が高い設問であることが多い。第二問は柔らかめの評論や随想から出題され、30点である。第三問は古文であり、配点は30点である。試験時間は文系より30分短く、各大問における小問の数は文系より少ない。しかし単位時間あたりの記述量は文系理系とも差は無く、理系の問題のほうがやや易しめではあるものの、記述の負担は同等である。なお、2009年度入試より工学部全学科においても国語が課された。
解答欄の特徴[編集]
京大国語の特徴として解答欄が非常に大きいことが挙げられる。多くの受験生は、解答欄を埋めきるために本文の語句を拾ってとりあえず何か書いておけばよいだろうと思いがちだが、出題される文章自体が凝縮され無駄の無い簡潔なものであり、ただ本文の要素をつなぎ合わせただけでは解答の形をなさない。京大の国語は命題に対してどれだけ豊富な要素を持って答えられるかが問われており、本文の内容に準じて自らの理解を補った自分自身の言葉で解答を書かなければならず、難度は非常に高い。以前は棺桶と呼ばれる、線などがない真っ白い大きな箱が解答用紙にあるだけだったが、2003年度後期から解答欄の横幅1センチごとに線が引かれている。これにより解答字数のだいたいの目安が立てやすくなった。一行あたりの大きさはヨコ1センチ、タテ14センチであり、一行当たりの目安は30字程度である。
基本的には現代文の論述字数は1小問あたり4~6行(120~180字前後)の場合が多い。時には2~3行といった短いものから7~8行にも及ぶ大論述になることもある。古文の場合は現代語訳が3~5行、説明問題は5行前後の場合が多い。合計すると3題での総論述字数は、文系では55行前後、理系では40行前後である。文系の場合は約1600字程度にも及ぶ膨大な論述字数となり、平均的な国公立大学の国語問題の記述量の倍以上にあたる。
現代文[編集]
概説[編集]
以前は物故した学者のすでに評価の定まった文章からの出題が多かったが、最近は評論に近年の新しい学者の著書が出題されることが多い。過去の京大の現代文は古めの出典が多いので最近の学術的話題を知りたい場合は、東大の評論問題に出題されているものを参考にするとよい(東大は比較的最新の学術書から出題されているため)。ただし、設問の傾向が両大学では大幅に違うので、内容を確認するにとどめ、無理に問題を解く必要は無い。小説、随筆ではやや古めの文章が出題される。2007年度入試において国語の問題が文理別になってから、文系の問題には理系より文学的な文章が出題され、難易度も高くなっている。
問題[編集]
全問とも記述・論述形式である。また、漢字書き取り・読み問題はしばらく出題されていなかったが、2007年度で復活した。漢字問題は2007年度には文理とも第二問、2008年度には文理とも第一問で出題され、2009年度も2008年度を踏襲した。第一問が文理共通の問題であることを考えると、第二問ではなく第一問に漢字問題を課すのは当然であると言える。今後も漢字は第一問で出題されると思われたが、出題頻度は近年は低くなり、2016年度を最後に出題はされていない。あくまで論述設問のみで読解力と表現力を推し量る路線が貫かれているといえよう。 文系の場合、小問は両大問とも5つであり、漢字問題が出題された大問では、4つが記述問題、漢字問題が出題されない大問では5つが記述問題である。2008年度以降の理系の場合は、第一問は小問4つ(うち漢字問題1つ)、第二問は小問3つである。記述論述形式の問題は、基本的には文章に施される傍線部に関する説明問題である。傍線部の内容説明問題、傍線部に関する理由説明問題などが主なものであり、さらに京大現代文の特徴として、比喩に関する設問が多いことが挙げられる。比喩問題では何と何が例えているのかを本文に即して自力で考えて理解しなければならないため難度が高いのはもちろんのこと、その他の問題であっても、本文自体には直接的には述べられていない言外のニュアンスを読み取らなければならない難しめの設問が多い。また、最終設問は傍線が引かれず、本文の要旨をまとめよ、といったものであったり、傍線が引かれる場合であっても本文の要旨をまとめる問題であることが多い。
出典と解答行数(文系)[編集]
説問 | 出典タイトル | 著者 | 解答行数(解答欄サイズ) |
---|---|---|---|
2020[1] | 『体験と告白』 | 小川 国夫 | 18行 (3行・3行・4行・3行・5行) |
2020[2] | 『井伏鱒二の生活と意見』 | 小山 清 | 17行 (4行・2行・3行・4行・4行) |
2019[1] | 『科学思想史の哲学』 | 金森 修 | 19行 (3行・4行・4行・3行・5行) |
2019[2] | 『詩の誕生』 | 大岡信・谷川俊太郎 | 15行 (2行・2行・2行・4行・5行) |
2018[1] | 『意味変化について』 | 佐竹 昭広 | 17行 (3行・4行・2行・3行・5行) |
2018[2] | 『影』 | 古井 由吉 | 16行 (2行・2行・4行・4行・4行) |
2017[1] | 『山村の秋』 | 串田 孫一 | 17行 (3行・2行・3行・4行・4行) |
2017[2] | 『古事記釈』 | 西郷 信綱 | 19行 (3行・3行・4行・4行・5行) |
2016[1] | 『青天有月』 | 松浦 寿輝 | 16行 (5行・4行・3行・4行) |
2016[2] | 『聖産業週間』 | 黒井 千次 | 16行 (2行・4行・3行・2行・5行) |
2015[1] | 『短編小説礼賛』 | 阿部 昭 | 19行 (3行・3行・4行・4行・5行) |
2015[2] | 『私の一日』 | 里見 弴 | 19行 (4行・3行・4行・3行・5行) |
2014[1] | 『望郷と海』 | 石原 吉郎 | 14行 (2行・3行・3行・6行) |
2014[2] | 『逆説としての明治十年戦争』 | 渡辺 京二 | 15行 (2行・2行・3行・4行・4行) |
2013[1] | 『ブリューゲルへの旅』 | 中野 孝次 | 16行 (3行・4行・4行・5行) |
2013[2] | 『旅がへり』 | 幸田 文 | 20行 (3行・4行・4行・4行・5行) |
2012[1] | 『痩せた雄鶏』 | 尾崎 一雄 | 20行 (3行・3行・5行・5行・4行) |
2012[2] | 『意慾的創作文章の形式と方法』 | 坂口 安吾 | 18行 (2行・3行・3行・5行・5行) |
2011[1] | 『失われた時代』 | 長田 弘 | 20行 (3行・3行・3行・5行・6行) |
2011[2] | 『神話する身体』 | 安田 登 | 21行 (5行・2行・5行・4行・5行) |
2010[1] | 『物語る声を求めて』 | 津島 佑子 | 17行 (3行・3行・3行・3行・5行) |
2010[2] | 『宗教とは何か』 | 上田 閑照 | 17行 (3行・5行・5行・4行) |
2009[1] | 『書き言葉について』 | 柳沼 重剛 | 20行 (4行・4行・5行・7行) |
2009[2] | 『天地有情』 | 南木 佳士 | 20行 (4行・4行・5行・3行・4行) |
出典と解答行数(理系)[編集]
説問 | 出典タイトル | 著者 | 解答行数(解答欄サイズ) |
---|---|---|---|
2020[1] | 『体験と告白』 | 小川 国夫 | 13行 (3行・3行・4行・3行) |
2020[2] | 『妖怪学新考 妖怪からみる日本人の心』 | 小松 和彦 | 9行 (3行・3行・3行) |
2019[1] | 『科学思想史の哲学』 | 金森 修 | 14行 (3行・4行・4行・3行) |
2019[2] | 『音を言葉でおきかえること』 | 吉田 秀和 | 9行 (3行・3行・3行) |
2018[1] | 『意味変化について』 | 佐竹 昭広 | 15行 (3行・4行・3行・5行) |
2018[2] | 『科学と哲学のつながり』 | 湯川 秀樹 | 10行 (3行・2行・4行) |
2017[1] | 『山村の秋』 | 串田 孫一 | 12行 (3行・2行・3行・4行) |
2017[2] | 『「私」をつくる 近代小説の試み』 | 安藤 宏 | 10行 (3行・3行・4行) |
2016[1] | 『青天有月』 | 松浦 寿輝 | 12行 (5行・3行・4行) |
2016[2] | 『情報の文化史』 | 樺山 紘一 | 11行 (3行・3行・5行) |
2015[1] | 『短編小説礼賛』 | 阿部 昭 | 14行 (3行・3行・4行・4行) |
2015[2] | 『流言蜚語』 | 清水 幾多郎 | 12行 (4行・3行・5行) |
2014[1] | 『望郷と海』 | 石原 吉郎 | 11行 (2行・3行・6行) |
2014[2] | 『創作』 | 大庭 みな子 | 9行 (3行・3行・3行) |
2013[1] | 『ブリューゲルへの旅』 | 中野 孝次 | 12行 (3行・4行・5行) |
2013[2] | 『日本のレトリック』 | 尼ヶ崎 彬 | 9行 (3行・3行・3行) |
2012[1] | 『痩せた雄鶏』 | 尾崎 一雄 | 15行 (3行・3行・5行・4行) |
2012[2] | 『前門の虎、後門の狼』 | 米原 万里 | 13行 (4行・4行・5行) |
2011[1] | 『失われた時代』 | 長田 弘 | 15行 (3行・3行・3行・6行) |
2011[2] | 『文章について』 | 林 達夫 | 12行 (3行・4行・5行) |
2010[1] | 『物語る声を求めて』 | 津島 佑子 | 14行 (3行・3行・3行・5行) |
2010[2] | 『日本語の思考法』 | 木下 是雄 | 11行 (4行・3行・4行) |
2009[1] | 『書き言葉について』 | 柳沼 重剛 | 15行 (4行・4行・7行) |
2009[2] | 『玩具のシンボル価値』 | 澁澤 龍彦 | 11行 (3行・4行・4行) |
難易度[編集]
素材文自体は、センターレベルからそれをやや越える程度といったところであり、いたずらに難解ではなく、設問にも悪問・奇問は存在しないため受験生の国語力を見る良問と言える。ただし他大学と比べても記述量がかなり多く、本文を正確に読解して解答しなければならない。さらに、比喩問題や本文には書かれていない事柄を行間から推測して答える問題、および書かれていない筆者の言おうとするところを推測して答える問題などかなり難易度の高い問題が含まれ、深い読解と膨大な記述にかかる時間に比して試験時間が十分とは言えないので国公立大学の現代文問題では突出して難度が高い。理系は文系よりも文章・設問とも若干の軽量化を感じさせるものの、やはり相当に難度が高く、6割以上の得点は至難と言い切ってよい。
国語の採点は文理問わずかなり厳しく、合格者平均でさえも例年得点率で35%~45%程度である。
さらに標準偏差が極めて小さく、6割以上の得点率を叩き出す受験生は上位数パーセントにとどまっている。
「国語は日本語であるから、8割を目標に」などと言っている受験生や高等学校教員は完全に素人であり、この科目の本質的な難しさをまるで理解していないといえる。
京大国語の採点基準の詳細は当然ながら公表されておらず、模試のような細かな区分式の加点方式がなされているのかどうかは極めて疑わしい。
大手予備校の京大模試においては、答案採点にさける期間は成績出力や返却までの期間から逆算し、大雑把に見積もって一か月である(厳密にはこれよりも短い)。しかしながら京大本試験における二次試験終了から合格発表までの期間はおよそ二週間しかなく、さらに採点業務に関われる権限をもつのは教授など一部にとどまることから人員も限られており、舞台裏が極めて過酷であることは想像にかたくない。
とはいえ、答案の質を見極める能力といった採点技量については、模試のアルバイト採点官はおろか予備校講師よりもはるかに有能と言われており、少数ながらも相当の有識者集団による正確無比な採点が教授間で連携をとりながらなされているといってよい。
大手予備校やZ会などが募集をかけている再現答案提出において注目の的となる科目は、やはり文理問わず国語が筆頭である。
しかしやはり本試験の採点基準は普段の京大模試とはギャップがあるとは囁かれ続けており、開示結果が大学から送られるよりも前に再現答案をもとに5割(53点/100点)の得点は確実と予備校講師に言われていた受験生が、いざ蓋を開けてみたら、3割(31点/100点)の得点しかなかったという報告もある。かと思えば、逆に46点/100点と言い渡されていた受験生の得点開示結果が60点/100点であったなどのケースも見られ、国語ばかりは開示結果を見るまでは、いかに有名な講師から扱き下ろされたり、逆に太鼓判を押されようとも、確実性のある予想得点とはならないことを心に留めておく必要がある。
ただそもそも、受験生の国語の再現答案というものに、果たしてどこまで信頼を置いてよいのか、という問題が潜んでいることを指摘する声もある。問題用紙に解答用紙に論述したものと同じ文章をすべての設問についてメモしておくということは、京大の論述量の多さを考えれば到底不可能であろう。その論述内容を、試験終了から数日のスパンを空けてから、思い出しながらすべてを一字一句再現することは現実味が極めて薄い。実際の解答用紙に書いた内容と、再現答案に書いた内容のズレであったり、協力金欲しさに解答を適当にでっちあげて提出している可能性もまた完全に否定し切ることはできないのである。
各大手予備校の解答速報や赤本、青本の解答例についても、「それを一受験生の答案として提出していた場合、果たして何点がつくのか?」は最大の疑問である。
「せいぜい7割くらい、最悪6割さえ割り込む可能性も全くないとは言い切れないかもしれない」と歯切れ悪そうに語る予備校講師もいる。
もし京大本試の国語を実際に受験して、得点開示で高得点をとることができれば、その当人の信頼や知名度は確固たるものになることは明白である。その人物が予備校講師であるならば、抜群の集客力を誇るほどに一躍有名になることもたやすい。このように京大本試の受験宣言で高得点を示す行為は予備校講師の箔付けになるにもかかわらず、誰もそうした挑戦を表明して実行に移すことはない。そうした現実を見れば、プロの国語科講師でさえも自らの看板を賭すことに二の足を踏むほどに、この科目において全幅の信頼を置ける解答を仕上げることがいかに困難であるかが、よりいっそう生々しく理解されよう。
以前に京大全共の国文学講義において、過去に作題経験のある教官が「1~2年の短い受験勉強で養われてカバーできる能力よりも、誰に言われるでもなく思春期に注がれた十数年の読書量に裏打ちされた読解力や洞察を“自発的に育んできた”人間を重宝できる採点姿勢を敷いている」と述べ、さらに「量産型の月並みな答案よりも、きちんと自分の中で“本物”を育ててきた人物がほしい」と、読解を受験国語のカテゴリーの中だけでしか知らないような付け焼刃の対策を仕上げた生徒が一方的に得をするようなことは避けたいと言及した。
自発的に十数年を注いだ謙虚な読書家が報われることは、数年受験や教育課程カリキュラムだけでしか国語力を養わなかった人間の努力を蔑ろにしていると、非難めいた声を上げる高校教員や予備校講師も一定数見られるのもまた事実ではある。ただやはり、素養や人生観を重んじる京大の姿勢がそもそも受験という制度と相性がいいとは言えず、そこがまた残酷さを浮かび上がらせるかたわらで、ごく少数の“本物”にとってはえがたい救いとなっているという大学側の意向と判断であろう。
近年の傾向[編集]
- 文系
2007年度に文理で問題が分かれて以降、文系の問題は第二問の難度が上がっている。特に2008年度の第二問は、例年以上に比喩問題が多く、その難度も高めのものが多かった。また、本文中にはっきりとした根拠が無く、本文の記述から類推して自分で答案をまとめねばならない設問も含まれ、過去の京大現代文の中でもかなり難度が高かった問題であったと言える。第一問も論述字数が多く、難度も高めであった。2008年度の現代文は総合的に難しかったと言える。 2009年度は、第一問は論旨が明白な読みやすい随想からの出題であった。記述量が減少し、各設問も解答要素がほぼ本文中にある点で易しめであり、比喩問題も標準的といったことから2008年度よりも易化し、京大現代文としては標準からやや易しめとなった。第二問は随想から出題され、本文の難度はやや下がり、答えやすい設問もいくらか含まれていたが、心情の読み取りなどやや難度の高い設問も見受けられ、やはり文系の問題として難しめに作られている印象がある。過去の京大の現代文の中ではやや難しいほうに入ると思われるが、今後、文系の第二問の難度はこの程度が標準になると思ったほうが良いかもしれない。2009年度の文系現代文は2008年度より易化したが京大としては標準的であったと言える。
- 理系
2007年度に文理で問題が分かれたが理系は文系に比べるとやや易しいと言える。2008年度は文理共通の第一問は難化し、第二問も記述量が増加し、本文中のこなれた表現を適当な言葉でまとめ直したり、解答要素は発見しやすいもののどのようにまとめればよいかに悩んだりする設問が見受けられ、やや難化した。 2009年度は、文理共通の第一問は文章、設問とも易化した。本文を丁寧に読み取れば解答要素が自ずと見えてくる問題であったと言える。第二問は昨年と同じく随想から出題された。四字熟語の意味を知らないと解答が困難な設問があったものの、意味さえ知っていればそれほど難しい問題ではないと言える。その設問も含めて、解答要素を本文中から見つけて説明するのではなく自分の言葉で的確に表現する設問が見受けられたが、ごく標準的な難度の問題であると言える。本文が易しく、解答行数も減ったのでやや易化した。2009年度の理系現代文は全体的にやや易化したと言える。理系入試が導入されてまだ三年目であり、今後どの程度の難度に落ち着くのかに注意したい。
対策[編集]
難易度の項でも触れたように京大現代文では本文の正確な読解に基づいてかなり難易度の高い設問を解かなければならないため、受験テクニックといった類のものはまず本学には通用しない。このような問題に対処するには日々の学習の積み重ねで磐石な基礎力を確立し、論理的思考力と記述力、豊富な語彙力を培うしかない。
評論文対策については、まずは日々の授業や参考書で現代文に良く出てくる難解な語句の意味や頻出漢字を押さえ、いわゆる「受験テクニック」に頼らずに、論理的に文章を読むことを習得し、主題把握や基本的な記述演習をこなすことから始めるべきである。評論読解で求められるのは主観を廃し、あくまで本文のみに従って論理的に理解することであると肝に銘じなければならない。本文読解においては各段落の要旨をまとめたり本文の要約をするなどして筆者の主張を的確につかめるようになりたい。センター試験レベルの本文を一読して筆者の『最も言いたい事』を掴むことができるようになれば主題把握力は十分ついており、京大に出題される文章のうち、易から標準レベルの文章には対応できると言えよう。だが、京大現代文において、文章内容の理解から設問攻略という次のステップに進むには、読解力だけでなく、高度な記述力と表現力が必要なので、記述式の参考書や問題集で記述力を養っておきたい。小説は評論以上に論理的思考力が求められる。普段読書するときのような自由な感覚で読むのではなく、あくまで本文の心理描写に則って主観を排して読解すること。
以下、京大現代文を含め、現代文の設問の基本的な解き方に触れる。評論・小説いずれも、設問にあたっては傍線部では何が問われているのかをしっかり理解することが第一歩である。評論における設問では、結局、「本文ではどのような論理が展開されているのか」ということが問われているのであり、傍線部を理解して書くべきポイントを本文中の記述から探してまとめること。もちろん、ポイントをただつなぎ合わせれば良いのではなく、本文にある論理展開どおりに、そしてそれがどのように傍線部との論理的つながりとなるのかを意識し、文脈に則ってまとめなければならない。小説の設問では問われるものが評論における「論理」から登場人物の「心情」に変わるだけであり、やはりこれも本文の記述に従って論理的に把握するところから得られる。「解答は自分の言葉で書かなければならない」と思い込んでいる受験生がいるかもしれないが、基本的には明らかな解答要素が本文中にある場合は本文中の抜き出しでもかまわない。ただし、京大の現代文でよくあることだが、筆者自身の定義によって使われており辞書的な意味から独立した言葉・単語や、比喩表現などは、文脈から自力でその意味を理解し適当な言葉に置き換えなければならない。また、本文に直接根拠が書かれていない場合には、本文の論理的展開や、単語・漢字の持つ意味から自力で推測し解答をまとめねばならない。京大の現代文では評論・随想等いずれにおいてもこの種の問題は頻出である。高度な語彙力や表現力が必要であり難度が高い設問の部類に入る。
かなり以前に見られたような小問一つで10行に迫る解答作成を要求されることは近年は無くなり、3行~5行の論述問題が大部分を占める。
また現代文を不得手とする受験生ほどとにかく本文のあらゆる要素を抜き取って詰め込もうとする傾向があるが、模試と異なり本番においては、要素区分で条件を満たせば単純に加点というわけにはいかない。目についた要素をとにかく詰めれるだけ詰めるといった粗のある解答は本番では間違いなく“見破られる”と思っておいた方がよい。要点を的確に絞って、“区分要素よりも破綻や飛躍のない論理構造を意識した答案作り”を意識することが大切である。適切な論理関係が無いにもかかわらず、模試の採点においては“この単語や表現が書かれていれば+2点”のような荒い採点がなされていることに、返却された答案をもとに模試の復習を徹底している受験生であればとうに気づいていることと思う。とにかく加点要素のキーワードや表現に少しでも引っかかるように詰め込むという姿勢を脱却することは低得点からの脱出の最初の関門である。字数制限が無いことを逆手にとって、一行に40字も50字も文字を小さく書き詰め込むというのも得点の振るわない受験生の典型例である。
以下に要旨をまとめる。
①問われている要点を絞る。 |
特に項目③は、模試と本試を分け隔てる最たる違いと言っても過言ではない。
数打てば当たるという思い込みを捨て、自分が答案として書いた文章の論理構造が崩れていないかはそのつど確認することである。
また無駄なことを書き連ねるのも、題意の不理解を露呈するだけである。
基礎を固めたのちは、赤本や、教学社から出版されている「京大の国語25カ年」等にチャレンジして京大レベルの難解な設問や大量の記述に対応できる力をつけるとよい。なお、その際には教師などの第三者から添削指導を受けるのが望ましい。特に問題集等をやらなくても十分京大の文章や問題に対応できそうであれば、もちろんすぐに過去問に取り掛かってもよい。
タイトル | 出版 | 分類 |
---|---|---|
京大入試詳解25年 現代文-2019~1995 | 駿台文庫 | 過去問集 |
京大の国語27カ年 | 教学社 | 過去問集 |
世界一わかりやすい 京大の国語[現代文] 合格講座 | KADOKAWA | 講義系参考書 |
実戦模試演習 京都大学への国語 | 駿台文庫 | 京大予想問題集 |
大学別入試攻略問題集 京都大学 国語 | 河合出版 | 京大予想問題集 |
過去問については各出版社ごとに解答および解説を読み比べたり、疑問が拭えない箇所はメモや付箋を残して、その疑問点をまとめるなどするとよい。
すべての疑問をその場で解消することは不可能と割り切り、完璧主義を捨てる姿勢も求められる。
また直近の数年分の過去問については、各大手予備校の解答速報のバックナンバーがWeb掲載されたまま残っているので、印刷するなりしてこれについても読み比べてみるのも別視点を獲得する一助となる。河合塾の解答速報バックナンバーは東大京大のみ10年分保持される仕様であるため、積極的に活用されたい。読み比べる際には、キーワードとなる要素にばかり目を奪われるのではなく、再三強調しているように、どのような論理関係のもとで答案に組み込まれているかも絶えず意識することである。いずれの解答も京大採点基準では満点ではないのだから、数学のように解答を絶対視することなくあくまで解答“例”にすぎない認識を他教科以上に持つべきである。解答例に腑に落ちない点が生じた場合、ある程度の国語力に裏打ちされている受験生であれば、その疑問が急所をついたものである可能性もあるくらいの自信をもつことも時には求められよう。
また、河合塾と駿台から出版されている京大模試の過去問で予想演習を重ねてみるのもよい。本番とは異なるとはいえ、京大予想問題における採点基準や解説は過去問以上に詳しいため、勉強の指針は立てやすい。どう活用するかは人それぞれであろうが、かけた時間は決して無駄にはならない。
古文[編集]
概説[編集]
近世擬古文、説話、擬古物語などが頻出である。近世擬古文は江戸時代に執筆された中古を回顧する文章や歌論書、説話は主に仏教説話、擬古物語は源氏物語などの中古の作品を真似た作品が多い。ちなみに、擬古物語とは平安文学の物語を手本にして書かれたものであるため、文章自体の読みにくさは擬古文や説話を数段上回る。
問題[編集]
現代語訳問題、および説明問題が出題される。文法や語句の意味や文化史を直接聞いてくる問題は無く、全問記述式である。文系では、小問5~6題前後で構成されることが多く、3~4題が現代語訳問題、2~3題が説明問題であることが多い。理系の場合は現在のところ小問は3つである。現代語訳問題は、単に訳す問題と自分で言葉を補ってわかりやすく訳す問題の二通りがある。いずれの場合かは設問で指示されるのでそれに従えばよい。説明問題は、登場人物の心情説明問題や、それに関わる理由説明問題、歌論や説話の場合は筆者の主張や各部の意味の内容説明問題が多い。また、京大古文の特徴として和歌に関する問題が多いことが挙げられる。和歌の現代語訳問題・解釈問題(現代語訳問題と同じであると考えてよい)・解説問題がある。和歌は特段難解でないときもあるが、掛詞などの修辞技法が含まれている難度が高めのものが出題されることが多い。
出典と解答行数(文系)[編集]
説問 | 出典タイトル | ジャンル | 解答行数(解答欄サイズ) |
---|---|---|---|
2020[3] | 『和泉式部日記』 | 日記 | 14行 (2行・3行・4行・2行・3行) |
2019[3] | 『三のしるべ』 | 歌論 | 14行 (2行・3行・3行・2行・4行) |
2018[3] | 『風雅和歌集』 | 和歌集序文 | 14行 (3行・3行・3行・3行・2行) |
2017[3] | 『夜航余話』 | 詩話 | 13行 (2行・2行・4行・2行・3行) |
2016[3] | 『伊勢物語』 | 歌物語 | 15行 (2行・4行・3行・2行・2行・2行) |
2015[3] | 『うつほ物語』 | 作り物語 | 15行 (2行・2行・3行・4行・4行) |
2014[3] | 『とはずがたり』 | 日記 | 11行 (2行・3行・2行・2行・2行) |
2013[3] | 『源氏物語』 | 作り物語 | 16行 (2行・2行・3行・4行・5行) |
2012[3] | 『百首異見』 | 歌論 | 16行 (2行・3行・3行・4行・4行) |
2011[3] | 『井関隆子日記』 | 近世擬古文 | 18行 (4行・5行・3行・3行・3行) |
2010[3] | 『増鏡』 | 歴史物語 | 12行 (2行・2行・2行・3行・3行) |
2009[3] | 『発心集』 | 説話 | 15行 (3行・2行・2行・4行・4行) |
出典と解答行数(理系)[編集]
説問 | 出典タイトル | ジャンル | 解答行数(解答欄サイズ) |
---|---|---|---|
2020[3] | 『北辺随筆』 | 随筆 | 9行 (2行・3行・4行) |
2019[3] | 『落窪物語』 | 作り物語 | 7行 (2行・2行・3行) |
2018[3] | 『肥後道記』 | 紀行 | 10行 (2行・4行・4行) |
2017[3] | 『海人のくぐつ』 | 随筆 | 10行 (3行・3行・4行) |
2016[3] | 『わらんべ草』 | 評論 | 8行 (2行・3行・3行) |
2015[3] | 『雑々集』 | 説話 | 9行 (3行・2行・4行) |
2014[3] | 『百人一首聞書』 『牛の涎』 |
近世随筆 | 9行 (1行・2行・3行・3行) |
2013[3] | 『玉勝馬』 | 近世随筆 | 11行 (4行・4行・3行) |
2012[3] | 『苔の衣』 | 擬古物語 | 8行 (2行・2行・4行) |
2011[3] | 『織錦舎随筆』 | 近世擬古文 | 11行 (4行・2行・5行) |
2010[3] | 『女郎花物語』 | 仮名草子 | 12行 (2行・3行・2行・2行・3行) |
2009[3] | 『源家長日記』 | 日記 | 10行 (2行・2行・3行・3行) |
難易度[編集]
京大の古文は平易で、全体の概要を掴む事は比較的容易であり、基本的な語彙と古文常識、文法知識があれば現代文に比して点数が取り易いといえる。ただし京大レベルの受験生にとって、この程度のレベルの本文が読めることは大前提であり、概要を掴むことはできても細部の理解が困難なことも多く、如何に完成度の高い解答が書けるかがポイントになるため、わずかなミスも見逃せない。現代文同様、記述量はかなり多く、書くべきポイントを意識せずに漫然と解くだけでは得点には結びつかない。「読める」ことと「解ける」ことが別物だとはっきり感じさせられる問題である。また、和歌に関する問題は京大古文の定番とも言える頻出問題であり、和歌の解釈や、時には和歌の技法や解説といった高度な問題も含まれ、記述量の多さから考えても難易度はかなり高いと言える。
近年の傾向[編集]
2008年度入試に関しては、文系は擬古物語から出題された。文章自体は2007年度よりやや難化したが全体の内容理解はさほど難しくないと言える。現代語訳や説明問題も京大古文におけるやや易か標準レベルと言え、実力のある者の中にはほぼ満点をとれる者もいたのではないかと思われる(ただし現代語訳で主語の判定が難しい問題が出題され、各予備校の解答速報や赤本、青本などでそれぞれ答えが一致していない。結局のところ出題者である京大にしかいずれが正答かはわからない)。和歌に関する問題も出題されず、和歌が含まれ難度の高かった2007年度に比べると易化したと言える。総合的には京大古文の中では標準かやや易しい部類に入ると思われる。理系は和歌を含む説話が出題された。全て現代語訳問題であり和歌もそれほど難しくはないが理系にとっては厳しかったかもしれない。2007年度と難易度は同程度であり、ともに京大古文の中ではかなり易しい部類に入る。ただしそれはこれまで京大古文が文理共通であったためであり、理系にとっては標準かやや易しい程度と言える。 2010年代に入ってから、文理共に和歌に関する出題が多く見られるようになった。本文に和歌が登場する物語はもちろん、注釈に和歌が登場したり、あるいは歌論が本文になったりと、その出題は多岐にわたる。2012年度文系、2014年度理系においては、百人一首に収録されている和歌が題材となった本文が出題されており、その和歌を知っていたかどうかで差がついたと思われる。2016年度文系では『伊勢物語』が出題された。本文中に登場する5首の和歌を、注釈や設問を頼りに読み解くという問題構成であり、難易度は高いと言えよう。2018年度、2019年度と、文系では2年連続で歌論が出題された。特に2019年度は京大古文にしては珍しく、本文が1000字を超えており、例年に比べて難しかったと言える。2020年度は、文系は『和泉式部日記』、理系は『北辺随筆』が出題された。やはりどちらの本文にも和歌が含まれている。今後とも和歌は出題される可能性が高いと言えるだろう。
対策[編集]
まずは日々の授業や参考書で文法や古文常識を一通りマスターすると良い。京大古文に関わらず、古文においては助動詞・助詞・敬語を理解することがとりわけ重要である。語彙に関しては何か一冊古文単語集をおさえておけば充分である。文法や語彙での下地ができあがってきたら授業で古文に慣れたり、問題集や参考書をこなしておきたい。また、教科書や問題集で取り上げられている文章があればそれを全訳してみるのも良い。単語や文法などの総復習が出来、立派な京大対策になる。古文は読み慣れが重要であり、数をこなせば十分得点が伸びる科目である。
以下、京大古文を含め、古文の記述問題の基本的な対処法について触れる。現代語訳問題は逐語訳を行うことが最重要である。一単語一単語を機械的に現代語に置き換えること。ただし複数の意味がある単語や文法については文脈から判断して最も適当なものを選択しなければならない。言葉を補って訳す問題も、まずは逐語訳を行い、その後、逐語訳に現れたねじれや指示語を文脈から判断し補足すること。説明問題は、やはり説明箇所の傍線部の逐語訳を行い、その訳に基づいて本文からの記述すべきポイントの発見、および記述にとりかかること。
一通りの学習ができた後は、赤本や、教学社の「京大の国語25カ年」等で過去問演習をして、制限時間内に解答をまとめる力を養うと良い。記述力に自信が無い場合は記述型の問題集をこなしてからとりかかればよい。もちろん、現代文同様、第三者の添削を受けることが望ましい。また、和歌の対策としては修辞技法を教科書や参考書で覚えた後に、「百人一首」を訳してみることなどもよいだろう。和歌は多くの受験生はもちろん、京大志望者にも苦手とする者は多いので和歌で取りこぼさなければかなりのアドバンテージになると思われる。
タイトル | 出版 | 分類 |
---|---|---|
必携 古典文法ハンドブック | Z-KAI出版 | 文法手引書 |
古文入門 読解と演習23 | Z-KAI出版 | 講義系+初級演習書 |
古文上達 基礎編 読解と演習45 | Z-KAI出版 | 講義系+中級演習書 |
古文上達 読解と演習56 | Z-KAI出版 | 講義系+上級演習書 |
京大入試詳解25年 古典-2019~1995 | 駿台文庫 | 過去問集 |
京大の国語27カ年 | 教学社 | 過去問集 |
実戦模試演習 京都大学への国語 | 駿台文庫 | 京大予想問題集 |
大学別入試攻略問題集 京都大学 国語 | 河合出版 | 京大予想問題集 |
Z会が出版している古文演習シリーズは、各自の古文の学力や必要に応じて取り組めばよい。
過去問に入る前に不安がある場合や、学校の教材が自分と合わず基礎さえおぼつかないという人にとっては取り組む価値が高い。
この3冊は可能ならば、高校三年に上がるよりも前から自学自習で使用しているのが、時間の面から理想ではある。
高1や高2の段階から少しずつ取り組むことで、共通一次試験で高得点を取るための盤石な実力養成も兼ねることになる。
このシリーズ三冊は解説や背景知識の説明も非常に丁寧で、初学者が独学で用いる教材としてはかなりの完成度を誇る。
もちろん過去問や予想演習にいきなり取り組めるという人は、それで全く問題ない。
その他留意点[編集]
以前は京大国語と言えば近代文語文が定番であったが2002年度の出題を最後に現在まで出題されていない。しばらくは近代文語文からの出題は無いのではないかと考えられるが、1989年度を最後に出題されていなかった小説が2002年度に復活した例もあるので、心配な人はいくらか対策を練っておけばよい。近代文語文対策の参考書としては『近代文語文問題演習』(駿台文庫)がある。福沢諭吉、森鴎外、夏目漱石などの文語文を読んでみて近代文語文に慣れるのも対策の一つである。近代文語文は漢文の素養と知識、および現代文の要旨把握力があれば十分対応できる。逆に言えば、現代文と漢文の学習が確立してから取り掛かることが望ましい。
2006年度の京大発表の出題範囲からは「漢文除外」の項目が削除され漢文の出題があるのではないかと予想されていた。同年度の小説において一部に漢文が含まれた文章が出題され(設問には直接は影響しない)、また2008年度では漢文の句法を含む文章が出題され、設問になった。2008年度の問題は、傍線部の比喩説明問題であり、漢文の知識が無ければ解答は難しいと思われる(もっとも、ごく基本レベルの句法であり、現代語として用いられることもあるものであったので、間違える人間はそういなかったと思われる)。2016年、2017年度以降も漢文に関する問題が出題される可能性はあるのでセンター試験レベルの漢文が楽に読める程度の対策はしておくのが望ましい。
開示得点における位置付け[編集]
得点台 | 位置付け |
---|---|
満点 | 未到達域 |
9割台 | 未到達域 |
8割台 | 例年全受験者のうち、わずか数名が占める事実上の最高得点域。 開示報告においては、その観測さえままならない。 |
7割台 | 8割を下回るものの依然として最上位層ライン。 いずれの年度でも、合格者上位数パーセント入りは確実である。 |
6割台 | 合格者上位層であり、かなり優秀なグループに入る。 開示報告においては珍しくない。 |
5割台 | 合格者の中では比較的健闘したグループ。 |
4割台 | 合格者で最も多いとされる中堅ゾーン。 |
3割台 | 合格者の中で下位~中堅域。 |
2割台 | 合格者・不合格者問わず、国語の勉強にリソースを割かない戦略を敷いた受験生が大半を占める。 |
1割台 | さすがに不合格者であっても、この得点ゾーンに位置取ることは稀である。 |
戦略的に見るなら、本番で現実的に狙える点数は5割台までであろう。
よほどの傑出した受験者を除き、6割以上の得点は、当日の問題文や設問との相性、その日のコンディションなど不確定要素に大きく左右されると見ておくのが無難である。
京大模試で過去に高得点を一度でも取れば、本番でも高得点が約束されるといった単純な話でもない。
合格者の大部分は“3.5割~5.5割の範囲”におさまる前提から逆算し、このゾーンを射程圏とした目標設定を心がけるのがよい。
国語が不得手でありながら対策を放棄した者が3割弱の得点でビハインドを背負うと仮定すれば、本腰を入れた対策や演習の有無で、最大でおよそ20点の得点差が見積もられる。
そこで問題提起されるのは、この“20”という点差を数字を大きいと見るか小さいと見るかであろう。
数学で安定して5完以上できるといった大幅なリードが見込めている受験者などは、国語が0点でもたやすく合格点に達するため、国語に勉強時間を投資することを見限っていてもさほど問題にはならない。しかしどの教科も横並びの得点にとどまる大多数のボーダー層付近の受験者にとって、この20点の差は到底誤差の範囲で片付くものではないのが本音であろう。本番開幕を飾る国語でいきなり負債をかかえて他教科に持ち越す判断は、決して賢い戦略とは言えない。わずかとも大差ともつかない国語での点差が首の皮一枚繋がる命綱になっていたかどうかは、事後的に点数開示のふたを開けてみるまで分からない。手堅く国語をくぐりぬける勉強姿勢が合格を遠ざけないために求められているかどうかは、各自の総合的な実力を踏まえて改めて一考してみるのがよい。
地歴[編集]
世界史[編集]
概説[編集]
京都大学の世界史は東洋史と西洋史に関する問題がそれぞれ2題ずつ出題される。時代に関して言えば古代から現代まで広く浅く出題されており、世界史に関する広範な知識体系の確立が受験生には要求される。問題形式は短答式・小論述式の問題が2題と、長論述式問題の問題が2題というスタイルが定着している。過去には教科書の内容を逸脱した出題がなされたこともあったが、現在では基本的に、検定教科書の範疇を超えない問題が出題されるようになっている(特に論述)。
問題[編集]
【1】【3】が300字の論述。【2】【4】が小論述を含む単問集合である。
【1】【2】がアジア系、【3】【4】が西欧系(アフリカも含む)という出題が多い。
頻出分野[編集]
地域別にいえばアジア史(特に中国史)とヨーロッパ史が毎年出題されている。近年はそれに加えてアメリカ史が取り上げられるようになってきた。アフリカ史はここ5年程度出題されていなかったが、2008年度と2009年度に取り上げられた。分野別にいえば政治史が頻繁に取り上げられる。当然のことながら、ここで指摘した分野以外も満遍なく勉強するべきなのは言うまでもない。
難易度[編集]
京大の世界史は問題自体は総じて標準レベルである。とはいえ、試験で要求される知識それ自体は教科書で充分に事足りるものの、問題量が時間に比べて多いため、世界史のどの分野も穴のないように仕上げておかないと、なかなか高得点は取りづらい出題形式になっているといえる。
近年の傾向[編集]
2007年から2009年度にかけては大きな難易度の変化は見られなかった。ここ4~5年は難易度は比較的安定している。 以下のサイトに2011年度までの過去問が全部載っている。 http://www.ne.jp/asahi/wh/class/kakamon.html
対策[編集]
まずは資料集や教科書を精読して、おおまかな時代の流れをつかんでおきたい。その上で、問題集を使用して、ゴジック体で強調されている基本語句を覚えていきたい。京都大学の世界史は幅広い分野でのオールラウンドな能力を問うているので、どの分野にも偏りのないように学習しておきたい。定期考査や模試などを活用し、知識の拡充に努めるのが良いだろう。また、資料集などに掲載されている年表を利用し、同じ時代における各地域の状況なども把握しておきたい。特に、フランス革命や第一次世界大戦など、大きな歴史の転換点になった出来事を学習する際は、時代背景とその出来事がその後その地域にいかなる影響を与えたかというようなことを他人に説明できるようになるくらいまで理解しておくことが大切である。論述問題に関しては京大の過去問や他大学の過去問を使用し、制限時間を自分で設けて答案を作成してみるのも効果的である。
日本史[編集]
問題[編集]
京都大学の日本史入試問題は大問4題から構成されており、第1問が歴史史料をもとにした短答式問題、第2問がテーマに関する歴史文章の穴埋め短答式問題、第3問が3つ程度の文章をもとにした短答式問題、第4問が論述問題(200字×2問)、という形態が定式化している。史料問題に関しては、未見史料をもとに基礎事項を問う、というタイプの問題が多い。配点でみれば、短答式問題が1問1点×70問となっており、論述問題が一題15点×2題となっている。
頻出分野[編集]
基本的に古代から近代までを幅広く扱った融合問題であることが多く、偏りはあまり見られない。政治史、外交史、文化史、経済史のどれからも満遍なく出題され、また時代別に見ても、原始、古代、中世、近世、近代、現代のすべてを広く浅く網羅した問題となっている。
難易度[編集]
現在のところ、試験本番で要求される知識量は教科書や一般的な用語集で充分対応できるレベルに落ち着いている。したがって、日本史のどの分野も穴がないように学習した者にとってはそれほど難しい問題ではないと考えられる。だが、史料問題では受験生にはあまり馴染みのない史料が取り上げられることがあるので、それにも対処できる能力を養うためには、やはり相当量の学習が必要だと考えられる。また、90分で大量の問題を処理せねばならないので高い処理能力が必要である。
近年の傾向[編集]
2007年度から2009年度にかけては難易度に大きな変化は見られなかったが、高水準の出題であったことには変わりない。
対策[編集]
京大の日本史で解答を求められる知識の殆どは定期試験や模試等でよく書かされる基本語句レベルである。本番においてこれらを全て正確に解答することができればそれだけでほぼ合格点に近い点数を確保することができる。したがって、まずは教科書を(特にゴジック体になっている重要語句の周りは念入りに)熟読し、図説資料集などで体系的に理解を深め、その語句の意味を用語集で確認するといった作業が必要となる。(語句に関連する情報が多ければ多いほどその語句を覚え易くなるものである。その語句だけを何回も書いて覚えるのは、効率も悪いし応用も全く利かない。時間の無駄である。)もちろん、これだけでは頭に残るはずもないので、覚えた(と思われる)内容を教科書傍用問題集でチェックすることも必要である。また、京大は大問1が史料問題であるから、史料集等を活用し、史料(原典)に慣れておきたい。その際は細かい暗記に走る必要は全くない。その史料がどういう内容を表しているか大まかに掴んでおくだけで充分である。(但し、班田収受の法や、養老律令等の「超」有名な史料に関しては話は別である。この場合はキーワードとなる語句は覚えておきたい。例えば、子代・名代等)論述問題に関しては京大の過去問や、他大学の過去問も参考にしてやってみるとよい。【1】【2】【3】は京都府立大学、【4】は大阪大学の問題が本学の問題傾向と似ており参考にするとよい。
地理[編集]
概説[編集]
京都大学の地理は豊富な知識量と高度な論述力を受験生に要求しているといえる。よって、付け焼刃の学力では京大地理で合格点を取るのは厳しいといえるが、逆を言えば、基礎固めと問題演習を行えば合格点を確保するのは可能であると考えられる。問題形式は短答式・小論述(要するに説明問題)式の問題が中心である。
問題[編集]
産業、社会(都市が多い)、自然及び地図、地誌の4分野からの出題がほとんどであり、自然分野は他の問題の中で小問として扱われることも多い。論述字数は他の2科目に比べて少ないので、解答をコンパクトにまとめる力が要求される。 また図表や統計資料が提示されることも多く、分析能力や読解力を必要とする問題が多い。解答欄の個数は毎年約40個程度である。
頻出分野[編集]
近年の頻出分野は、地域別には日本やアジア、分野別には産業分野などであるが、全体的に総合問題的な色合いが強いので、どの地域(どの分野)の学習にも手を抜くべきではない。
難易度[編集]
京大地理に要求されるオールラウンドな知識・学力と、統計に対する深い読解力・分析力、ポイントを鋭く突いた記述を短時間で作成する能力は一朝一夕に養成できるものではないので易しいとは言いがたい。常日頃からの学習の積み重ねが必要である。
近年の傾向[編集]
2008年度は2007年度に比べてやや難化した。来年度以降も高水準の出題に備えて対策すべきである。
対策[編集]
まずは教科書や地図帳などを積極的に併用して、地名や都市名、地域ごとの気候変動のようす等をおさえることが第一歩である。その際は単なる文字列の暗記に止まるのではなく(そもそも効率が悪すぎる)、理由や仕組みなどを第三者にも説明できるくらい理解しておくということが大切である。また、地図帳や付録の統計等にも目を通しておき、なるたけ関連するような情報は(雑学的なものであっても構わないので)仕入れておきたい。農産物や工業製品の統計順位なども理由付けして覚えていくと頭に入り易い。(これは中学地理の要領で構わない。)さらに、2008年度は出題されなかったものの、京大地理では地形図に関連する問題が毎年のように出題されている。普段から教科書や資料集、問題集を使って読図の練習をしておき、地形図に熟達しておきたい。加えて、昔の地形図と現代の地形図の比較の練習もやっておくとなお良い。論述問題に関しては京大の過去問を使用しながら、解答するべき要素を素早く判断し、指定字数以内でまとめる練習をしておきたい。
理科[編集]
京都大学の2次試験では、物理・化学・生物・地学の中から2科目を選択して解答することになる。満点は各科目100点で計200点で、(工学部は1.25倍の250点満点である。)解答時間は2科目合わせて180分である。各科目大問が3題あるので、1題に掛けられる時間はおよそ30分であり、他大学に比して解答時間が余るように見えるが、京大の理科は時間の割に解答量が多く、また基礎的な問題に混じってところどころに思考力が試される問題が散りばめられているため、全部の問題を解こうとすると絶対的に時間が不足してしまうというのが実情のようである。とはいうものの、全体的に良問が多く、また、基礎的な問題もかなりの割合で混ざっているため、基礎固めと入試問題演習を確実にこなし、過去問演習を充分に行えば合格ライン(6~7割程度)に達することは充分可能であると考えられる。
物理[編集]
概説[編集]
京都大学の物理の問題は、多くの問題が、かなりの長文の穴埋め形式になっている。そのため、問題文に示される条件を一つも見逃さないようにして解答することが重要になってくる。なお、前の解答が正答でなければ、つぎの正答が出てこないことがある。問題のレベルは決して高くはなく、物理学の正統派を貫く素直な問題であるため、公式暗記に頼らず、基本に忠実に勉強していけば(これが一番難しいのだが、)京大理科の中では比較的短期間の対策で満点近くの点数を取ることもたやすい。2007年度の入試から、いままでにはほとんど見受けられなかった記述問題が多く出題された。この記述問題にはグラフを書かせることも多い。また、2008年度には京大のお家芸である原子物理が出題された。だが力学、電磁気学の基礎知識があれば、その内容は本文から解法が求められるレベルであったため、難易度は易しかった。2015年度においても再び原子物理が出題されたが、いずれも新課程の過渡期を挟む頃に原子物理の出題が見られている。さらに新課程になったことでまた旧旧課程の時のように原子分野の出題は増えることが予想できる。普段から公式暗記に頼らず、古典物理学の理論の美しさを確認するという作業をしているのであれば、京大物理は問題なく合格点に達するであろう。数学的な技巧を問う姿勢が他大学以上に顕著で、近似をしてなお煩雑さが軽減されない重厚なものも少なくない。
なお、2019年度に「戦後の日本の大学入試史上最高の難易度」を記録した問題セットが出題され、受験生のみならず各大手予備校関係者を震撼させたことは記憶に新しい。他大学のように、高校生の背景知識や敷居を意識するといった受験生に対しての忖度は本学では行われていない。高校生水準で不足する初見の知識は膨大なリード文中にヒントとして散りばめられ、未知の事柄に対するその場での発想力やひるまない姿勢を試されていることは本学のアドミッションポリシーで掲げられている通りである。
2020年度京大入試嘔吐失神事件 (二〇二〇事件)[編集]
受験業界に衝撃を与えた2019年度の物理に引き続き、2020年度はさらに難化したことで各大手予備校から苦言を呈する声が相次いだ。
多くの受験生や予備校講師は前年の反動で易化を予想していただけに、これは予想外の事態であったと関係者は漏らす。2020年度は数学、物理、化学といった理系科目が軒並み記録的な難化をしたことで、例年より合格最低点が120点以上下がる学部さえ見られた(理学部など)。2020年度はすべての理系科目が常識的な受験のレベルを超えた常軌を逸した難易度であったため、試験会場で受験生が嘔吐、失神する例がとりわけ医学科会場で相次ぎ、試験監督はその対応に追われたという異例づくしの事態へと発展した。特に二日目最後の試験時間中に嘔吐失神、失禁などが複数の試験会場で発生した。また試験終了直後に、泣き崩れる受験生で個室トイレが埋まる会場棟も見られたほどの異様ぶりである。これは決して冗談などではなく、こうした現場での生々しい声や実録は現在でもツイッター等の検索でその断片をうかがい知ることができるが、次年度以降の本学受験生にとっては決して笑い話や他人事では済まされない。やや理不尽ではあるが、ある意味で極限の緊張状態の中でも心折れることなく最後まで立ち向かう強靭な精神力もまた試されているともいえる。
この難化傾向は一過性のものではなく、従来の京大入試の選抜基準を満たすために意図して京都大学の入試運営委員が仕掛けたとの見立てが濃厚であると、予備校関係者は口を揃える。こと京大の入試に限っては一般的な大学入試の常識がまるで一切通用しないため、今後もその動静をめぐっては予断を許さないと某大物講師が初年度セミナーで教育業界に異例の警戒を呼び掛けた。
受験生の人生を預かる教職員や受験産業に携わる業種の人らはますますの十分な注意を払うべきであろう。
問題[編集]
電磁気学・力学から各1問、熱力学・波動・原子物理のいずれか1問の合計3題が主流である。しかし、近年は波動の出題は少なく、熱力学の出題が続いている事実もある。実際の問題では大問1が力学、大問2が電磁気学、大問3が熱力学、波動、又は原子物理の中から1分野出題というスタイルであることが多い。また、各大問に数問ずつ記述問題(証明問題やグラフも含む)が含まれているのも特徴である。
頻出分野[編集]
頻出分野は、力学では単振動、円運動、重心系、運動量と力積。電磁気では電磁誘導、電気回路、サイクロトロン(電場・磁場における荷電粒子のふるまい)。熱力学は熱力学第一法則を取り扱った問題、熱サイクル、気体分子運動論。波動は光・音のドップラー効果、回折格子。原子物理ではコンプトン効果や水素様原子の構造などである。力学や原子物理に関しては先に述べたテーマを軸に、運動方程式や運動量保存則、エネルギー保存則、相対運動の取り扱いを問われることになる。
難易度[編集]
京大の物理は題材自体が国立大の中で飛びぬけて難しいという訳ではない。しかし、物理の基本法則に関する深い理解と、長文を読みこなして条件など、重要な情報をチョイスして立式していく情報処理能力や正確な読解力、さらにはやや煩雑な数式を場合によっては近似を駆使して解きあげる高い計算処理能力が問われるため、物理や、それに付随する初等的な数学が本当に解っていないと途中で手が止まってしまう大問が多いといえる。そういった意味で公式暗記では乗り切れないことがわかるだろう。
受験生にとっては問題のなかで起こる物理現象をいかに基礎基本に立ち返って定性的にそして、定量的に考えられるかが勝負の分かれ目となる。普段、問題の根本は何たるかを深く考えることをせず、むやみやたらに問題演習に明け暮れた者にとっては、前述の理由によりなかなか高得点が安定して取れないという意味で実際の難易度以上に難しく感じるかもしれない。だが逆にそういった習慣を身につけるような学習をしてきた者にとっては、他の科目に比べて高得点を目指し得る科目であることには違いない。
なお、1997年度の「回折格子の明線」について扱った波の分野の大問は、日本の大学入試史上で最も難しいとされる難問である。令和に突入した今となってはかなり古い過去問ではあるが、自らの学力に自負のある生徒は解いてみるのも良いだろう。
大問 | 設問内容 | 難易度 |
---|---|---|
問題I | バネと糸で吊るされた2つの小球運動 | 難 |
問題II | コイルの自己誘電とコンデンサーの充放電のダイオード接続 | やや難 |
問題III | 膨張する立方体中の粒子運動からのポアソン法則の導出 | 難 |
大問 | 設問内容 | 難易度 |
---|---|---|
問題I | 万有引力による運動と楕円軌道 | やや難 |
問題II | 磁束の空間的・時間的変化による電磁誘導 | 難 |
問題III | 薄膜による光の多重反射と干渉の考察 | 難 |
大問 | 設問内容 | 難易度 |
---|---|---|
問題I | 速さの二乗に比例する抵抗力をモデルとした落下運動 | やや難 |
問題II | 電界・磁界中の荷電粒子運動 | やや難 |
問題III | 円筒内の気体圧力と数密度の高度変化 | やや難 |
大問 | 設問内容 | 難易度 |
---|---|---|
問題I | 鉛直面内の円運動と二つ球の衝突 | 標準 |
問題II | ホール効果とコンデンサー内の電荷移動 | 標準 |
問題III | ドップラー効果と音波の干渉 | 標準 |
大問 | 設問内容 | 難易度 |
---|---|---|
問題I | 斜面台と球の運動,バネとの衝突 | やや難 |
問題II | 磁界を横断する導体棒の運動と単振動 | やや難 |
問題III | 管内の気体の状態変化と断熱変化 | 標準 |
大問 | 設問内容 | 難易度 |
---|---|---|
問題I | 回転するリング上での物体の微小振動 | やや難 |
問題II | 回転短形コイルが作る磁場による電磁誘導 | 標準 |
問題III | ボーアの水素原子模型(エネルギー準位と光子放出) | 標準 |
大問 | 設問内容 | 難易度 |
---|---|---|
問題I | バネで繋がれた二物体の単振動と重心運動 | やや難 |
問題II | コンデンサーと抵抗を含む交流回路と直流回路 | 標準 |
問題III | 断熱変化と気体分子運動 | 標準 |
大問 | 設問内容 | 難易度 |
---|---|---|
問題I | 地球を貫通するトンネル内部における物体運動考察 | やや難 |
問題II | 平行板コンデンサーと極板重力 | やや難 |
問題III | シリンダー内における理想気体の断熱変化 | やや難 |
大問 | 設問内容 | 難易度 |
---|---|---|
問題I | 物体の衝突モデルと運動エネルギー | 標準 |
問題II | 平行板コンデンサーに関する総合問題 | 標準 |
問題III | 一般相対性理論にもとづく重力場と時間の考察 | やや難 |
近年の傾向[編集]
2007年度は180分入試が導入されて初めての年だったが、簡単な微分方程式を取り入れた高度な考察問題など、質の高い問題が出題されたため、解答時間を考慮して考えると厳しい出題であった。2008年度は2007年同様の難易度が維持されていたが、2009年度は分量も増加し、問題の質も上がったので全体的に難化したと言える。また、2009年度には2002年度以来7年ぶりとなる波動分野が出題された。いずれにせよ、どれだけ基礎をしっかりしてきたかがストレートに問われる出題となっていることは間違いない。また、2012年にはアインシュタインの相対性理論がリード文読解において解答の際の誘導で用いられ受験生の話題をさらった。ただし題材やリード文背景の深い理解は困難なものの設問としてのハードルはかなり配慮されており、問題自体は比較的易しいものにとどまった。
このように京大物理は題材が難しくても問題は良心的である場合も少なくないので、パッと見の印象だけで及び腰にならないことである。
2015年の電磁気は穴埋め形式ではなく複数の小問が設けられる目新しい形式での出題となったが、これは設問の設定上の都合であり、新傾向とは言えない単年度としての措置にすぎない。
2018年以降は数学的な技巧や処理がかなり前面に押し出された内容で、状況設定やリード文の内容を解きほぐしていく柔軟さが一層求められるものとなっている。
この状況設定ではこう解く、といったような頭の凝り固まったパターン学習でしか物理を学んでこなかった受験生では問題の導入部の時点からまったく歯が立たなくなることは自明である。物理において型に当てはめようとしたり、パターン化した学習に落とし込もうとする姿勢ほど愚かな勉強法はない。それはむしろ勉強とは到底言えず、物理という学問に対して背を向ける矛盾した行いである。
自分がこれまで目にしたことのないような初めて触れる状況設定に対して、いかに小回りをきかせて試行錯誤できるかが本質的に問われる出題である。また定量的にすべてを数式で解こうとするだけでなく、定性的に判断する物理的な洞察力も平素から鍛えておくことも物理の深みに触れるためにはやはり避けては通れない。
目端が利くということは、それだけで物理という学問においては強みである。
河合塾の全統記述模試の物理では80点以上取れているような受験生でも、京大模試の物理では20点しか取れないといったケースが珍しくないのは、そもそも自分の物理に対する取り組みが物理という学問に向けるべき姿勢と馴染んでいないがために起きているということを自覚しなければならない。単純に問題が難しかったから、という自己分析は表面的な解釈にすぎない。
闇雲に問題演習をやたらと数だけこなしていても、物理を学ぶ当人のビジョンがおぼろげであるうちは、京大物理で展開される誘導の真意を汲み取ることは不可能である。そしてそれはもはや設問を解く以前の問題である。京大を志望する以上、物理を学んでいく過程で、アカデミックに対しての各々の哲学観が問われることとなろう。そしてそこにこそ、京大がこのような出題姿勢を貫き続ける真意が隠れているのかもしれない。
対策[編集]
このような京大物理に対処するには闇雲に問題パターンの暗記に走るのではなく、基礎基本に立ち返って問題を考える態度を身につけることが必要である。つまり、例えばドップラー効果の公式ひとつ取っても、その式はどのようにでてきたのか、その式は本質的には何を表しているか、そもそもドップラー効果とはどういうものか誰にでもわかるように説明できるだろうか、といったことを常日頃から考えているかどうかがそのまま理解度の差、ひいては入試における点数差に結びついてくるのである。
通常の授業にあたっては、出てくる数式がどういった基本原理に基づいて出てきたのかを確認し、その数式がどのような意味を持っているのか説明できるまで参考書や、友人や教師に質問し、理解を深めることが重要である。その上で、定義をきちっと暗記し、公式などは自分の手で導けるようにしておかなければならない(「力学的エネルギー保存則はどうして成り立つのか」や「惑星の運動がどうして面積速度が一定なのか」など)。このようにして基礎を固めた後に受験用問題集に取り組めばよい。
その上で京大の過去問に取り組めば良いが、時間の割に解答量が豊富なので、限られた時間内で正確な計算を遂行する力を養成する機会ととらえるべきである。また、問題演習を行う際には、ただ問題量をこなすことに終始するのではなく、問題の別解を考えてみたりするのも思考力を養成する上で大いに役立つ。また、2008年・2009年度では2年ぶりに図示問題が出題され、来年以降も出題される可能性があるので、演習の際には図示問題も飛ばさずに解いておきたい。また、本学はかなり煩雑な近似計算を受験生に要求することがあるので、過去問などで数式の近似操作に慣れ親しんでおくと心強い。
タイトル | 出版 | 分類 |
---|---|---|
大学入試 漆原晃の 物理基礎・物理[力学・熱力学編]が面白いほどわかる本 | 中経出版 | 講義系参考書 |
大学入試 漆原晃の 物理基礎・物理[波動・原子編]が面白いほどわかる本 | 中経出版 | 講義系参考書 |
大学入試 漆原晃の 物理基礎・物理[電磁気編]が面白いほどわかる本 | 中経出版 | 講義系参考書 |
物理のエッセンス 力学・波動 | 河合出版 | 初級問題演習 |
物理のエッセンス 熱・電磁気・原子 | 河合出版 | 初級問題演習 |
良問の風物理頻出・標準入試問題集 | 河合出版 | 汎用型標準問題演習 |
名問の森物理 力学・熱・波動1 | 河合出版 | 本格型問題演習 |
名問の森物理 波動2・電磁気・原子 | 河合出版 | 本格型問題演習 |
難問題の系統とその解き方 物理 力学・熱・波動 | ニュートンプレス | 難問専用演習 |
難問題の系統とその解き方 物理 電磁気・原子 | ニュートンプレス | 難問専用演習 |
京大入試詳解25年 物理-2019~1995 | 駿台文庫 | 京大過去問集 |
入試攻略問題集 京都大学 理科 | 河合出版 | 京大予想問題演習 |
京都大学への理科 | 駿台文庫 | 京大予想問題演習 |
化学[編集]
概説[編集]
京都大学の化学の問題は、受験生の思考力や計算力を測る上で非常に良く出来た問題であり、十分に基礎固めと問題演習をしておけば合格点を確保できると考えられる。しかし、逆に言えば基礎をよく理解していないと京大の化学では高得点は望めないということでもある。
問題形式は基本的に穴埋め形式であり、時間の割に解答量は豊富である。また語句や計算結果のみを解答用紙に書くことになるので計算ミスは命取りである。更に物理同様、前の設問の答えを使って次の設問に答えるという問題も当然あるので、その場合には最初の答えを間違えるとなだれ失点に陥りることになりかねないので要注意である。
予備校化学業界の金字塔[編集]
予備校業界において、京大化学対策の第一人者として石川正明氏の名を知らぬ人はいないと言っても決して言い過ぎではない。現在も自ら現役を自負して駿台予備校の教壇で教鞭を振るい、熱情をもって多くの受験生を京大へと送り出している。駿台予備校の看板模試の一つとして年に2回実施される“京大入試実戦模試”においても、化学問題の作成チーフとしての全責任を負い、極めて質の高い予想問題を作成し続けている。京大の予想問題という枠組みを超えて、彼の作成した問題は長年にわたる模試作成のノウハウが凝縮されていることから、業界内でもかなりの定評がある。受験生のみならず予備校講師にもファンは根強く、駿台のみならず他社の予備校講師でさえも、彼の作成した模試問題をファイルで綴じてコレクションする者も数多い。業界随一と評される石川氏の問題をいち早く研究せんとばかりに、特に毎年の作成担当が確約されている“京大入試実戦模試”は受験生のみならず同業者も化学問題冊子のいち早い入手のためだけに受験する。いわば駿台の“京大入試実戦模試”は年に2回の業界を巻き込んだ一大イベントと言ってしまっても過言ではない。実際、そうした熱烈な業界内の固定ファンが数多いことも納得とばかりに、問題にとどまらず解答冊子の解答の詳しさには目を見張るものがある。京大入試実戦模試の全科目において、“化学”が最も分厚いページ数を割き、もはや受験特典と言っても差し支えないほどの出来栄えである。河合塾の某講師は、毎年の石川正明氏入魂の京大入試実戦模試について、「毎年数多くの入試問題を目にする我々の慧眼でさえもかすんでしまうほどの、一点の曇りもないクオリティ」とべた褒めするほどである。石川氏自身が京大理系出身であること、工学部で博士にまで上り詰めたアカデミックに裏打ちされた経歴であることも、彼の長年のブランド力を押し上げている一因と分析する同業者もいる。
例年の京大解答速報も当然ながら石川正明氏の鋭い講評が光り、受験生のみならず業界のご意見番として彼の放った意見一つで、業界全体の難易分析が鶴の一声のように足並みを揃えることとなる。当然ながら京大の入試を担当した教授陣に対しても一切のひるみや忖度を見せることなく、年度によってはかなり辛辣な講評を駿台の看板を背負いながらも公開することを許されている。石川氏は普段の模試でも作題に当たって、「実験はなにかを明らかにするためにある」ということを至上命題としており、この意に反するいたずらに難解複雑なだけの作題に対しての毒舌ぶりに一切の容赦は見られない。解答速報の講評において、「問題として成立はしているが、実験の意図が不明確」「何のための状況か意図がまるでわからない」「複数の可能性を加味しておらず、ツメの甘い出題」など石川節の炸裂は毎年の目玉でもある。
とりわけ、訂正に次ぐ訂正で著しく問題不備の目立った2018年は彼の逆鱗に触れたことは言うまでもない。問題の難易に振り回されるだけの受験生とは一線を画する石川氏の洞察は、難しさで包み隠された問題設定の“粗”さえも暴き出す。令和初の試験で発生した“2020年度京大入試嘔吐失神事件”の戦犯の一つとして槍玉に上がる化学においても、彼の冷ややかともとれる作成陣への皮肉は、この年玉砕した多くの受験生にとって救いとなったことは言うまでもない。なお、2020年度の駿台の解答速報の発表が化学のみ半日の遅れがあったことから、各予備校やSNS上で数々の憶測がわずか数時間の間にかけめぐり、あまりに常軌を逸した今年の難度に怒りを爆発させて「石川が水面下で動いたのでは?」という根拠のない噂さえも飛び交った。「京大の入試採点会場に石川が乗り込む」との情報が一時発信されるほどの過熱ぶりであったが、しかしのちにこれは受験生の間でのデマであったことが判明し、半日遅れてようやくの化学解答速報講評公開と同時に即座の終息をみた。
問題[編集]
近年は第1問は無機理論の複合問題、第2問は理論分野、第3問は化学Iの有機化学分野(有機化合物の構造決定がメイン)、第4問は化学IIの有機化学分野(天然高分子または合成高分子)から出題というスタイルが定着している。大問の中でさらに2つに分かれているものもある。このうち第1問と第2問に関しては無機分野と理論分野が合わさった問題が出題されることもあり、明確な線引きができないこともままある。また有機化学の構造決定も他の国公立の問題より量が多いのも特徴である。(問題全体の実に半分が有機分野であることも大きな特徴のひとつであり、対策もこの点を踏まえる必要がある。) とはいえ近年の構造決定問題は、炭素数20以上といった難問の出題頻度は少なくなり、どこの大学入試問題にも見られるような基本的・典型的な内容である。これは現役生に配慮したものと考えられるが、その分有機分野で高得点を取らなければならなくなったので、有機分野を苦手とする生徒にとっては、捨て問にできなくなったという点で逆に厳しくなったかもしれない。
駿台化学科講師の石川正明が強調しているように、本学攻略を握る二大巨頭分野は「平衡」と「有機構造決定」である。この傾向は令和に入った現在より30年以上前にその源流をたどることができ、次第に問題の難度も高くなっていき、現在の水準に至ったとされる。
2006年度以前の理科の試験時間が150分であった時代は、今と比べて問題の分量は抑えめで、他大学と比べて出題内容は独特であるものの、ある程度堅実な勉強を重ねていれば高得点を維持することも比較的容易な出題であった。2007年度以降、理科の試験時間が3時間(180分)に拡張されてからは、年々分量の増加と難度の上昇が顕著となり、年度によっては合格者平均でさえ5割を下回る問題セットも見られるようになった。2008年度、2010年度、2017年度、2020年度は特にその傾向が強く表れており、2020年度にいたっては医学科合格者の中でさえも4割ほどしか得点できていなかったものも見られた。
頻出分野[編集]
理論分野では結晶格子、化学平衡。特に化学平衡は必ず出題される。無機分野では酸化・還元、中和滴定、溶解度積、金属イオンの決定、典型・遷移元素。有機分野では有機化合物の構造決定(特に芳香族化合物)、立体異性体、天然・合成高分子化合物である。もちろん、頻出分野以外も満遍なく勉強すべきであることは言うまでもない。 化学平衡と有機化合物の歴史的重要性や意義への敬意を公的な講演会で払っていることを明言していることからも、本学の二大柱は「平衡」「有機」であることはこの30年間をとっても一貫して変わっていない。このためある意味ヤマをはってこの二つに特化した勉強を模索する受験生も見受けられるが、とりわけ本学の平衡の問題は総合的な出題であることがもっぱらであり、例えば熱化学、酸塩基、酸化還元などあらゆる理論化学に通底した本質の理解に裏打ちされていないと、リード文や問題文の理解段階でつまずくような設計がなされている。このため、そのような安易な学習姿勢で努力が実を結ぶ可能性は限りなく低く、むしろ泥沼におちいるだけである。 一例を挙げるなら、電池の仕組みを丸暗記で片づける学習姿勢は本学が最も嫌うものである。電池を酸化還元の仕組みで思い描いたのちに、さらに標準電極電位から平衡現象としていかにとらえているかがカギを握るような出題がなされたことがある。標準電極電位による平衡式の意味を理解するには、平素から根本や背景を納得する姿勢が大切で、これがおろそかだった受験生はリード文中で与えられた初見のネルンストの式をどのように運用するのかまったく見当もつかなくなるなど苦い思いをすることになった。また設問を通じて求めた数値が、化学的にどのような意味をもっているかをさらに踏み込んで論述させるような出題も見受けられる。機械的に答えを出して終わりではなく、出して求めた値が化学的に意味するところを考察する姿勢は日々研究に勤しみ第一線を張る研究者の頭の動かし方そのものであり、本学は大学入学選抜の段階でこのような頭脳運用を習慣にしている学生の選り分けを意識的に行っていることをしっかりと認識して対策に臨みたい。 思考する上で必要とされる初見の知識はすべて問題のリード文中で説明されるため、枝葉末節の知識の収集は必要ない。また他大学であるような知識量を問うだけの無機化学のマニアックな知識問題やストーリー性のない単答問題などは本学では出題されることはないため、思考でつまずくたびに解法の暗記に走る学習姿勢は改めるべきである。 大学レベルに相当する初見の題材が用いられることを踏まえて、長めのリード文や実験データ解釈をまじえた思考型問題の対策を早期からかためておくことは必須である。これらの能力は短期で身につけることは不可能であるため、学習計画を組み立てる際にも後回しにしないことが肝要である。
理論化学[編集]
内容 | ボルンハーバーサイクル、熱反応におけるイオン的解離とラジカル的解離の概念、イオンの静電エネルギー収束値と斥力作用、標準電極電位と電位差滴定、混合イオン溶液の電気伝導度を指標とした電導度滴定、マスキング剤を用いたキレート滴定、金属イオン水和物の分離におけるキレート抽出の理論的考察、Nernst式で表されるネルンスト平衡、有機溶媒と水層による分配平衡、両性電離平衡、陽イオン交換樹脂平衡、ポリマーの数平均重合度平衡、相平衡におけるClausius-Clapeyronの式を用いた考察、逐次反応と多段階反応、気体粒子の根平均二乗速度、ミカエリス・メンテン速度式、ラインウィーバーバークプロット、ランベルト・ベールの法則とモル吸光係数、原子のα壊変とβ壊変、気体の諸法則の潜水病モデルへの応用、イオンの第n水和圏と分極化の考察、フェルミエネルギーを用いた真性半導体の考察、真空加熱とエレクトライド、クーロメトリー法による物質定量化と積分近似式、クロリド錯体配位数に準じた塩化銀溶解度の考察、ゼーベック効果による熱電変換、ニュートン・ラフソン法を用いた両性電離平衡のプロトン濃度近似解の検討、サイクリックボルタンメトリーにおける支持電解質の調整、結晶格子間隙、結晶格子の限界半径比、結晶格子の第n近接配位、結晶格子の理想表面、ひずんだ結晶格子における寛容性因子、結晶格子の近接反発エネルギー、六方晶BNの平面薄板と薄板間距離、高温型クリストバライト結晶構造、水素吸蔵型格子、ペロブスカイト型格子、ジルコニア結晶の安定化における酸素空孔が果たす役割、X線結晶密度法とブラッグの法則、多孔質物質の吸着点の表面積近似 |
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実験データのグラフ描図や読解、初見の実験モデルの検討など多角的なアドリブ思考力を徹底して試す出題姿勢が目を引く。結晶格子は事実上、幾何やベクトルなど数学的素養を試すための題材と言って差し支えない。
結晶格子間隙は空間把握に習熟していなければ、実近では2020年I(b)のような初見の題材に食らいついていくことは困難である。配列やイオン層の規則性を見抜くなど機械的な計算処理だけでは対策が追いつかない例もある(2008年I(a)など)。
六方最密構造の六角柱構造における正四面体の埋め込みなどの幾何学的な処理の技巧については、京大受験生であるならば常識としておさえておきたい。2007年度にこの考え方を利用する出題がなされているが、京大受験生の再現答案における正答率はかなり高かった(六角柱の高さの導出と密度の導出問題)。また立方最密構造における充填率が六方最密構造と同じであるという背景を発展させ、密度計算における計算処理を軽減させる手法も心得があると時間短縮などに繋がる。なお球充填における最密状態で、面心立方格子と六方最密構造を超えるものはない事実を見出したケプラー予想は広く知られたものである。二種類の層を交互に積み重ねた六方最密構造と、三種類の層が規則性をなす立方最密構造(面心立方格子)という立体的素養を頭に普段から馴染ませておくと、初見の題材における応用力はなおのこと磨かれやすい。結晶構造分類にて取り上げられているものについては、各予備校の京大模試まで含めればほぼすべてにおいて出題歴がある。限界イオン半径比は有名な体心立方型、塩化ナトリウム型、閃亜鉛鉱型を値だけ記憶している受験生が多いが、この題材が近年受験産業によって攻略されている現状について各大学の出題側の大学教員も把握しつつあるため、こうした抜け道でかいくぐろうとする受験生対策に、導出過程を問われることが年々増えてきている。限界イオン半径比は発展的題材ではあるが、今や受験では有名題材であるため2014年度I(b)のような答えのみを記述する形式での出題は決して好ましいとは言えず、やや京大の出題教官の勉強不足の感が否めない。もっぱら結晶格子の分野は中堅レベルまでの暗記で押し切れる水準と、それ以降の上級レベルとでは水準のギャップが他分野以上に大きく、上級レベルにおいてはパターン学習が習慣化している受験生ほど歯が立たなくなりがちである。例えばNaCl型結晶構造の成り立ちを、結晶間隙の視点からきちんと理解しているかどうかなどで、受験生の化学における平素の学習姿勢を指導者は見抜くことができる。問題を正答できてもこうした問いかけで返答がつまるようなら、初見題材における応用が利かなくなるリスクが大きく、早期の修正が求められる。NaCl型結晶格子における6配位八面体間隙と、4配位四面体間隙との結び付けから格子の成り立ちを学ぶことで、欠損格子や斥力についての理解も深まることになり、応用範囲に奥行きが生まれるのである。
また電離平衡を始めとした平衡分野は、理論化学の集大成である。典型的な気相平衡、電離平衡などで訓練を積んだのちは、前述したような大学水準レベルの初見の平衡を噛み砕いて高校化学の水準に落とし込む頭を作り込んでおく必要がある。特に平衡は近似計算などにも習熟していないと短時間での処理も極めて厳しい。京大では過去に、相加相乗平均の利用、微分法の利用などの発想が必要となる設問もあり、数学色が時折顔を覗かせる出題姿勢はここでも健在である。物質量収支や電荷バランスが隠された条件として立式のカギを握る設問も頻出(2020年I(a)、2017年II(a)、2013年II(b)、2012年IIなど)となっている。電離平衡の厳密解の推定など初見の近似計算の運用が求められる場合にも備えて、近似方法も状況に応じて様々な技があることを理解しておくことが望まれる。近似一つとってもこれが正解といって一括りにする勉強法は場面に応じた柔軟な思考を阻むリスクがあることは肝に銘じるべきである。複合系の平衡においては“中間産物の見かけの濃度増減が起こらないと仮定”できる微小変化では“定常状態近似”の考え方が必要となるし、平衡定数の大小比較から複合反応で除外できる反応を整理する柔軟性もリード文の読み解きにおいては求められる。闇雲に計算式を乱立させる前に大小関係をもとに反応系を事前整理すると見通しがよくなることは多く、例えば電離平衡におけるヘンダーソン・ハッセルバルヒ式における酸解離指数などは物質量の大小比を意識させる化学的な眼を養う題材として難関大では時代を問わず特に好まれやすいが、京大においては変化球をつけて2008年度の大問IIにおいて、分配平衡と絡めてこの発想が問われている。2008年度のこの出題はリード文全体を通して近似操作への習熟が最大限に発揮される内容となっており、分配係数のpHプロファイルへと踏み込んだグラフ概形の考察などは、薬剤師国家試験で扱われるテーマと遜色のないものであった。大学初等レベルの化学を完成させている最上位層を除き、一般的な対策としては過去問演習や実戦的な演習問題で経験値を積む以外に近道はないと思われる。原理や根底を支える現象を理詰めで理解しているかどうかが試験本番での不意のひらめきが浮かぶか否かの明暗を分けることは多い。2011年度に大問IIで出題されたラングミュアの吸着等温式をテーマとした固体表面の脱着平衡における吸着点からの表面積の見積もりなどは、段階的な情報の取捨と整理もまた求められている実例である。なお京大本試ではシリカゲルが題材とされたが、触媒理論を背景にタングステンの吸着平衡論を扱った作題が駿台の京大入試実戦模試の出題歴に含まれ、バックナンバーとして各高校の指導室等にてファイリングされていれば指導生徒への参考問題として有益である。また同じく河合塾の京大オープン模試においては、2015年秋実施の大問II(b)が吸着平衡論をテーマにした数学色の強い類題演習用の題材であり、近似の発想が凝り固まっている指導生徒に向けた“定性的な視点の近似への結び付け”を培わせる材料としてふさわしいものである。結論として、取り上げた具体例から共通して述べられることは、平衡分野における考察力の土台となるのは、“定性的視点の近似や定式化への柔軟な結び付け”、という一点にとにかく尽きる。
平衡分野と関連して反応速度論についても、数学的に話題を展開をさせる題材にも習熟していることが望ましい。2017年度の光照射で誘導される光化学反応系を扱った内容や、2014年度の直感と矛盾する温度依存性をもつ反応の考察など、出題される際には高度な内容が問われる。京大の過去問のみならず、他大学の問題においても演習価値のある良問には数多く当たっておくのが賢明である。2020年度においては、名古屋大学の化学問題IIの問2の中問「錯イオン形成の平衡における微分方程式を用いた考察」は、京大の傾向に沿った親和性の高い出題である。また九州大学の化学は理論化学分野の出題において反応速度論からの出題が極めて頻繁になされ、標準的なレベルの良問が多いので、興味があれば演習に当たっておくことを勧める。とくに酵素反応における速度論を扱った作題は九大においてきわめてリピート率が高く、適度な難易度の良問として、予備校のテキストの演習問題としても幅広く採用されるなど評価は高い。これらの具体的な演習とは別に、反応速度論における一次反応式、二次反応式の微分方程式を用いた導出証明は紙に書くなどして最低一度は自力で経験しておくことを推奨する。証明の流れを頭に入れておくことで、初見の速度論が問われたときのリード文の誘導把握がかなりスムーズになる。化学反応の中でも素反応については速度次数が反応係数と同期するという理解のもとで、ミカエリス・メンテン速度式の証明も自力で行えるとなおのこと心強い。ミカエリス・メンテン速度式は酵素反応の動態を定量的に掴むために非常に強力なツールであり、ミカエリス定数(Km)の意味や阻害剤投与におけるKm変動と併せて学んでおくことは、京大に限らず今の時代の難関大志望者にとっては必須事項となっている。2010年度の東京大学の入試において、ミカエリス・メンテン速度式の証明を要求する設問が出題されて以降、他大学での出題がこれまで以上に加速化した背景がある。京大模試においては京大本試での出題を予想してくり返し作題されているが、京都大学は2020年度を迎えた今なお東大の仕掛けた出題ブームに乗じることなく、いまだにミカエリス・メンテンの出題に踏み切ることのない姿勢を貫いている。各大学で出題されすぎたあまり攻略され尽くしたテーマとして烙印を押し、京大はあえて出題を見送っている可能性も捨てきれないものの、この事実はやはりいつ出題されてもおかしくない兆候と受け止めておくのが賢明であろう。このテーマについて、他大学よりも一歩踏み込んだ作題で仕掛けてくる可能性も十分考えられる。ちなみに、速度論研究における旗印となったこの速度式立案の貢献人モード・メンテンと並ぶ一人であるレオノール・ミカエリスは、大正期にかけて名古屋大学医学部の教授を務め、日本の生化学研究とも歴史的に繋がりのある人物である。
気体は気相平衡として問われることが多いが、2015年度のように飽和蒸気圧やヘンリーの法則等から純粋な気体計算として問う出題もある。平衡系においては、濃度平衡定数と圧平衡定数の関係は考察の導入として広く知られたものであり、京大受験生であれば誘導として与えられずとも、使いこなせる水準に達しているべきである。かなり目新しい独特な実験が組まれることも珍しくなく、2010年度の「気体としてのプロピレン溶解と、重合開始剤添加における溶液中の重合反応進行度解析」は高度な内容である。この問題においては、気体計算、重合反応、溶解平衡、ヘンリーの法則、反応速度論、浸透圧についての総合的かつ複合的理解が、初見の実験考察という文脈下で問われ、時間内での解答は容易ではない。化学現象への理解が分野で区切られた断片的なものにとどまっているうちは、初見の題材を考察する力は養われない。
一般に、ラウールの法則やファントホッフの法則などの演習が手薄になりがちな受験生が非常に多く、この分野への苦手意識を払拭しきれないまま入試本番に臨む現役生などは特に多いため、意識して演習量を増やすなどして柔軟な思考力を定性的なイメージと併せて深めておく必要がある。特に近年は2015年II(a)(b)、2017年II(a)(b)、2018年II(a)、2020年II(a)、など気体と溶液の測定実験の出題が以前より顕著になりつつある兆しがあり、今後も定性的イメージを助けとする出題は継続されると見ておくべきである。溶液分野において、柔軟な思考力を問う上級演習においては、2020年度北海道大学前期の大問1の中問IIは良問であり、京大医学科志望者や化学での高得点を狙う受験生は演習しておくとよい。
また2005年度には、「相対凝固点降下度」というリード文中で定義された値を指標に、「溶媒中における分子会合度が相対凝固点降下に及ぼす効果の考察」を扱った興味深い出題がなされた。ただ最後の小問となる問4において提示すべき条件の不足から解答を導けない問題不成立(問4のみ廃問)が発生し、京大入試に残した汚点としてこの問題は話題にのぼりがちである。しかし、この大問における問1~問3までの小問はよく練られた質の高い良問であり、問4以外は演習価値が高いため、考察題材として触れておくことを強く勧める。
一般に、化学的な正しい尺度というものを定性的な視点から備えておくことも重要で、電離平衡においては考察の仲立ちとして「オストワルトの希釈律」を理解しておくことで、化学の常識的にありえない数値を答えに書いてしまうなどのケアレスミスを防ぐこともできる。
無機化学[編集]
内容 | 溶解度積と廃液処理、工場プラントの工業的収率計算、ハーバーボッシュ法の微分法を用いた数理学的検討、ヨウ素滴定、メタンハイドレートの反応定量、シリカゲル縮合と結合エネルギー、鉱物の組成定量、錯体の立体異性体、多座配位子、EDTA、ブンゼンの吸収係数とオストワルトの溶解度係数、水素化マグネシウムによる貯蔵メカニズム、ハニカム構造触媒と排ガス処理機構、SCR機構(選択的触媒還元)の検討、ディーゼルエンジン、導電担体とNAS電池の動作原理、VRF電池の蓄電システム、ブンゼン電池の自己放電問題、誤った設計のリチウムイオン二次電池と搭載電池発火の防止案検討、ヨウ化銀粉末の上空散布による人工降雨現象、マグネシウムアルバの組成と化粧品利用、消防士の呼吸支援システムと超酸化物イオンの利用、セメントC12A7のエレクトライド利用、レゾルフィンへの励起光照射による医療現場での尿酸値推定法、人工衛星のイオンエンジンとキセノン利用、ガソリン車の理論空燃比、アルミナケイ酸塩ゼオライトにおけるシリカアルミナ比の調整、鉱石成分の溶出におけるバイオリーチングの利用、アジ化ナトリウム起爆と追突衝撃事故における自動車エアバッグ作動 |
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以上のように、実社会との結びつきやその恩恵を意識した出題が目立つ。
単なる机上の原理原則としてではなく、社会的な利用例や応用例の一端を垣間見せようとする明確な出題側の意図が反映されている。
不本意ながら無機化学は受験化学では暗記の代名詞的分野として軽視する風潮が生徒のみならず教職員の間でも多いきらいがあるが、本学はこの位置づけに異を唱えるかのごとく、単なる知識の暗記で片付く問題を徹底して避けている。多くは理論化学との結びつきを前提にした理解を求めており、社会的ないし歴史的バックグラウンドを前面に押し出したストーリー性のある出題姿勢が最たる特徴である。演算能力はここでも試されることがもっぱらであるが、単に数値を導出させるのみならず、その数値の妥当性を吟味して考察につなげていくような論理的思考力が影では試されていることを強く意識する必要がある。
工業化学分野としては電池や電気分解をテーマとした出題が一角をなすが、近年は本格的な出題は少なく、水酸化ナトリウムの工業的製法(2018年度I(b))や直列電解装置(2015年度I)なども通常の学習レベルで十分対応可能な作題にとどまった。しかし出題頻度こそ低いものの、出題に踏み切られる際には中問ないし大問全体を占める形で決して少なくない配点となるため、堅実に理解を深めていくことは依然求められている。2006年度大問2のように新規性の高いリチウム二次電池をリード文で原理を説明したうえで出題するなど本来は、電気化学の根本を初見の題材を用いて考察させることに主眼が置かれる形が多い。工業化学においては銅の電解精錬、アルミニウムの融解塩電解、イオン交換膜法による製塩技術などは生活基盤とは切っても切り離せないほどに重要なもので、とりわけ日本においては海水濃縮で仕上げられるイオン交換膜による製塩は一大産業である。また技術的にも隔膜法の衰退に代わるイオン交換膜法の台頭の理由を考えたり、電解に伴う工業的なエネルギー効率など熱化学と融合させて問うてみたりすることで、机上の学習を実社会における意義と結び付けることもできる。
入試一般の傾向として、電池や電気分解を丸暗記学習やパターン演習のストックで済ませる学生が非常に多く、難関大学はこうした受験生をふるいにかけるために作題には近年とくに細心の注意を払いつつある。鉛蓄電池のような有名題材においても作題の工夫一つで受験生の洞察に訴えかける形式で問うことは可能となるため、電池が目新しい種類かいなかといった目先のことにとらわれることなく、電池の成り立ちについて立ち返った基礎学習は徹底されるべきである。
教科書で真っ先に学習するはずのボルタ電池、ダニエル電池についてさえ、掘り下げて仕組みについて論述させると、答えに詰まる受験生は思っている以上に多いのである。このため近年、大学によってはボルタ電池、ダニエル電池などにおいて計算問題を出題することなく、すべて動作原理の核心を突くような論述問題一色で出題したり、さらに標準電極電位を併せて問うなど、付け焼刃でごまかそうとする受験生を見極めるために各大学で工夫が凝らされている。標準電極電位は高校で学習する“イオン化傾向”を定量的に掘り下げて定義された指標であり、ネルンストの式を扱った作題は京大模試では繰り返しなされており、この分野の理解を学問レベルにまで押し上げてくれる足がかりでもある。
また未知の反応式を解答に求められる場合においても、類推する能力を発揮できるか否かは、理論化学との接続を平素からいかに意識していたかによるところが大きい。酸化還元反応であれば、半反応式からの導出を行ったり、標準電極電位の値から反応の起こりやすさを検討するなどして、類推する引き出しを増やしておくことである。闇雲にマイナーな反応式を片っ端から暗記していく勉強法では、知らない反応が出た時点で手も足も出ずおしまいである。近年では2017年大問1の問2の反応式の記述は出来が悪かったが、これも平素の学習姿勢次第では十分に類推可能であった。自己酸化還元反応についての一段掘り下げた理解に結び付けられたかどうかであったが、ややハードルは高かったようである。一方で後続の問3における、黄銅鉱から粗銅精製の工業プロセスにおける二つの反応式の類推についての設問の正答率は高かった。
このほかだと、錯体などの異性体ではやはり空間把握力が強く問われている点で、本学の出題分野として長らく好まれる結晶格子や有機化学と通ずるものがあるといえる。
有機化学[編集]
内容 | オゾン分解、ケトエノール互変異、マルコフニコフ則、電子分布の変位(誘起効果)、アセタール化反応、隣接多価アルコールの酸化開裂反応、σ結合とπ結合、核磁気共鳴法、芳香族の配向性、バイヤー・ビリガー酸化、アルドール反応、ウィリアムソンエーテル合成、シグマトロピー転位の遷移反応からとらえる立体特異性の考察、ハロゲン化アルキルのWalden反転、オレフィンメタセシス反応、ウッドワード=ホフマン則にもとづく対称禁制と対称許容の考察、糖のメトキシ化修飾切断、糖の非還元末端/還元末端標識、核酸構造と立体化学、プリン塩基とピリミジン塩基、DNA電気泳動、DNA突然変異誘発剤(ベンゾピレン,ダイオキシン,PCB)の理論的検討、グリセロ脂質分析、フラクトオリゴ糖の構造推定、糖の立体配座と安定性、L-アスコルビン酸(ビタミンC)合成経路、コラーゲンの三重らせん構造と安定性、セルロースナノファイバー、セルロース誘導体CMCの化学的性質と広範な利用、感光性樹脂原料とアダマンタン、ジエンの付加環化反応と反応中間体、ベンゼンの共鳴エネルギー、油脂変敗とチオバルビツール酸価、原子移動ラジカル重合(ATRP)に基づく反応機構の考察、アルドール縮合におけるドナーとアクセプター、ラーデンバーグのプリズマン構造、DNA塩基におけるケトエノール互変異と遺伝子異常の関係、癒しホルモン“オキシトシン”のペプチド配列と性質、シャープレスの立体選択的酸化とアリルアルコール、エポキシ化合物の開環補助と立体選択、二酸化炭素排出抑制とPPC、ジエンの共役二重結合と付加重合、トランスケイ皮酸の光二量化反応と立体異性体の選別、レオポルド・ルジチカによるジべトン構造決定、エドマン分解とペプチド推定、リン脂質と細胞膜、ハース投影式、ニューマン投影式、フィッシャー投影式、ナッタ投影式 |
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取り上げられる題材そのものは大学水準レベルと遜色ない。
前述のようにスポットが当たる内容はおよそ一般の高校生が学校や一般の教材などでは一度も目にすることがないようなものであることがたびたびであるが、くれぐれもこれを知識として求められているわけでは断じてないということに留意すべきである。本学が要求しているのは知識ではなく、その運用力であり、高校水準の有機化学の体系的理解を前提とした大学での具体的学びを問う設計である。安易に大学レベルの分厚い教科書を片っ端から暗記しようという見当はずれな努力をしようとする受験生は実を結ぶことなく、容赦なくふるいにかけられて選抜対象から弾かれるだろう。
化学の大問IIIにおいて骨子となる出題は構造決定問題であるが、それに並び異性体の推定、実験計画、化合物の安定度の熱化学的考察など、根底の理解を問おうとする姿勢が随所に見られ、出題工夫もユニークである。近年は特に、立体異性体への習熟が高い水準で望まれるようになりつつあり、一昔前よりも一段とハードルは上がったと言って差し支えない。メソ体の概念が中途半端なままでの演習はむしろ遠回りであり、エナンチオマーやジアステレオマーといった考え方を平素から養っておかなければならない。有機化学は東北大学と大阪大学の過去問が京大レベルの演習として最適である。とりわけ東北大学の有機構造決定は大学レベルの反応機構をヒントにした重厚な構造決定が出題されるため、高度な科学的推理力や洞察を高い水準で試される良問である。本学受験生にとってのエッセンスもかなり凝縮されているため、時間を計った上での演習を強く勧める。バイヤー・ビリガー酸化などは有名題材で東北大学で過去に二度ほど出題されており、カルボニル化合物の構造決定題材として汎用性に優れ、演習価値が高い。ちなみに駿台の京大入試実戦模試においては2020年8月実施の化学大問III、2013年8月実施の化学大問IIIにおいてこのテーマの予想問題が出題され、いずれも東北大の難易度を凌ぐ難問であった(特に2013年の京大実戦模試のバイヤー・ビリガー酸化はかなりの難問である)。指導室にバックナンバー等があれば、医学科志望者であれば特に演習題材として適する。また駿台の2019年秋実施の阪大入試実戦模試の大問IIIにおいてもバイヤー・ビリガー酸化に触れた出題がなされており、こちらは標準的なレベルで医学科志望者以外にとっても無理のない演習レベルである。そもそも有機化合物のX決定の主役がエステル化合物になりがちな中で、アセタール化合物の構造決定と並びこのバイヤー・ビリガー酸化も変化球に対しての訓練に適している。また大阪大学は構造決定のみならず結合エネルギーをからめた熱エネルギー計算や立体異性体が問われるなど有機と理論の総合力を試す出題が頻繁にみられるため、構造決定の演習一辺倒にならないためにもこちらの大学も演習を確保することが望ましい。東京医科歯科大学、京都府立医科大学の過去問演習も、京大の長めのリード文型の思考問題形式であり、レベルも京大と比べても遜色ないことから、高得点を狙うトップ層や化学高得点合格者層はこれらの大学の演習もトレーニングとしては有効である。近年の本試の構造決定は現役生に配慮しすぎてか、やや大人しめの出題姿勢が目立ち、京大本試と京大模試の難易差のギャップが顕著である。大問IIIは得点源という認識が定着しつつあるが、いつ難化に転じるかは分からないため、難化の牙を向けられる可能性まで見越して入念に仕上げて臨むべきである。夏期をめどに京大の構造決定の過去問を一通り解いたのちは、実戦力を高めるトレーニングを増やすことになる秋以降に、京大模試の過去問演習や他大学の難度の高めの構造決定演習(東北大/阪大/京都府立医科大など)をトレーニングメニューに加えるとよい。毎年何度も話に聞くありふれたことであるが、「過去問に手をつける実力がまだ十分ではない」と過去問着手に難色を示し続けた結果、とうとう年明けや直前期を迎えた段になって、手遅れとなって初めて慌てふためく現役生が必ず一定数出てしまう。日本全国で毎年ありふれた失敗談であるが、受験勉強は計画通りにいかないし、しかも自分が満足の行く学力というのを自分で自覚することは難しい。それはたとえ、実力が十分に備わった生徒であってもである。後生大事に過去問や実戦問題を先送りし続けても、復習に費やせる時間も減る分だけ、見返りも薄くなりやすい。演習や実戦トレーニングは特になるべく早め早めを心がけるのがよい。
盲点箇所としては、ヨードホルム反応、フェーリング反応、銀鏡反応といった化学反応式を書けない受験生が浪人生も含めて意外と目立っている。各反応が意味するところや、構造決定における情報としては利用できるものの、化学反応として立式できないケースが多々あり、他大学では近年問われることが増えつつあるので必ず対応できるようにしておきたい。また立体異性体においては不斉炭素原子を有していなくても鏡像異性体が存在するものがあるといった理解が欠けている受験生も多いので、一段掘り下げた学習も必要である。鏡像異性体の研究においてノーベル化学賞を受賞した野依良治は言うまでもなく、京大を代表する日本有数の化学の立役者であり、この分野における貢献はめざましいものがある。世界中の研究者がしのぎを削って追い求め続けたBINAP(バイナップ)は対称美を際立たせる合成困難な化合物であったが、野依良治は長年の苦難の末に合成法の樹立を成し遂げた。この化合物は分離困難な鏡像異性体を区別して合成するための足がかりとなった。
BINAPには構造式を見ての通り、不斉炭素原子が存在しないにもかかわらず一組の鏡像異性体が存在している。しっかりと熟考したうえでこの理由を明確に述べることができる受験生は非常に稀で、もし解答することができたら相当に有機化学の力があると自信をもってよい。京都大学とゆかりのあるテーマであるため、過去に京大模試においては出題歴があり、それ相応に高度な題材であるが一度考え方に触れておくと応用に幅が生まれる。立体異性体は空間的なイメージに頭を慣らしていくことで、ある程度は訓練次第で対応が可能となるため、安易に捨てる姿勢は決して褒められたものとはいえない。
例えば、芳香族化合物の分野で教科書にも記載がある、ヘキサクロロシクロヘキサンの立体異性体の数がいくつかを丹念に数え上げることができるかも発展演習に対応できているかを測定する一つの指標である(答えは9種類)。対称面などの視点を獲得することが、苦手意識の克服の第一歩である。
次に、京大化学の大問IVは高分子分野の指定席であり、天然有機(糖,タンパク質)に著しく偏った出題が目立っている。同じく毎年高分子分野を決まって出題する大阪大学が、合成高分子化合物をめぐる作題に力を入れていることとは対照的である。とはいえ、京都大学は材料化学分野の研究室を工学部や農学部に数多く擁しており、作題担当のローテーションがこれらの研究室にいつ回ってきてもおかしくはないため、合成高分子の対策をおろそかにする姿勢は危険である。合成高分子分野は大学入試で頻出のナイロン、レーヨン、ポリエステル繊維、アセテート繊維、アクリル繊維、アラミド繊維、ビニロン繊維などを漏れなく押さえたのちは、京大に即した思考型の演習を適宜挟むとよい。歴史的にビニロン繊維の世界初の合成は、京都大学の桜田一郎名誉教授を筆頭に成し遂げられた快挙であり、京大の貢献が著しいものである。この事実を本学志望者は軽視すべきではないし、受験とは関係なく理系であるならば教養として知っていることが望ましい。過去問においては理科の試験時間が180分に延長された2007年度以降における出題らしい出題は、2019年度の大問4(b)のみである。2019年度4(b)おいては“持続可能性と資源探索”という動機付けのもとで、合成高分子素材が扱われたが、内容は無理なく標準的なレベルであった。このように過去問のみでは思考型の演習が不足しがちであるため、『大阪大学への理科』で阪大実戦模試の過去問から見繕ったり、『京都大学入試攻略問題集』や『京都大学への理科』で京大模試の過去問からセレクトして経験値を積むのがよい。
一般的な問題集や他大学では、これらの分野は比較的暗記で片付きやすい定型問題としての出題が多いので、思考力をもとに掘り下げる高度な作題がなされている問題演習が不足しやすいので注意が必要である。合成における縮合重合も、元を正せば平衡反応によって厳密化されるため、平衡定数を扱うような理論化学との複合型として問うのが本来あるべき形ではある。こうした考えが汲まれているのは、近年では2016年秋実施の京大オープン模試大問4(b)や、2018年秋実施の京大オープン模試大問4(a)(b)であり、気になる場合は、当該模試が収録される年度版の『京都大学入試攻略問題集』で演習を通じて触れてみることをオススメする。
またバイオプラスチックとして研究が盛んな“ポリ乳酸”を題材にした出題も京大においてはやたらとリピート率が高い傾向もある。この同じ題材について、ラクチドの構造を出発点として2017年度、2015年度、2001年度と出題が3回くり返されているため、他大学の問題に目を通す機会があった際に、“ラクチド”ないし“ポリ乳酸”がテーマとなっている問題を見つけた場合は要演習である。
天然有機については、前述のように糖、タンパク質が主役となっているが、京大においては近年セルロースやその誘導体の研究部門の台頭がめざましく、研究のプレリリースにおいてとりわけセルロースナノファイバーの名称などは頻繁に耳にするようになった。さらに京大にはセルロースを専門とする複数の研究室が様々な学部に点在しており、歴史的な高分子研究の勃興におけるセルロースの貢献が大きかった背景と併せても、セルロース単体を主役に一つの大問で一大テーマとして出題されるポテンシャルは十分に秘められていると言ってよい。また特筆すべき事項として、2014年度~2015年度にiGEM-Kyotoと呼ばれる学生が主導する京都大学の遺伝子合成生物研究サークルにおいて、このセルロースの高分子的立体特性を利用したセルロース複合体を腸管クリーナーとして利用し、体内からのノロウィルス除去に役立てるという画期的研究が京大の学生らによって世界に発信され広報誌において注目をさらい、各方面の話題をさらった。予備校業界も京大模試作題にあたり、京都大学全体としての研究動向にアンテナを張りめぐらせており、この発表に着想を得たかは不明であるが、この時期セルロースやその誘導体CMC(カルボキシメチルセルロース)を題材とした出題が相次いで見られた。
iGEM(The International Genetically Engineered Machine competition)は例年マサチューセッツ工科大学で開催される世界規模の合成生物学大会であり、セルロース複合体の立体特性をカギに据えた当該研究は、当時の京大総長である山極寿一も激励のコメントを寄せていた。こうした新規性の誘導体化合物などに触れるたびに、単に構造を記憶していく勉強というのは、思考力と洞察力の向上において早い段階で頭打ちを招く。官能基は言わば化合物骨格に対しての“属性の付与”であり、化学的性質を帯びさせることで広範な利用を生む大事なとっかかりである。付与した官能基に応じて性質を変える種々のセルロース誘導体などはその最たる例である。例えば、セルロースは水に対して溶解度が小さいことで知られ、またセルロースのヒドロキシ基の大部分をメチル化すれば当然ながらこれも溶解度は小さい。しかしセルロースに含まれるおよそ半数のヒドロキシ基をメチル化したときに溶解度が最大化する一見不思議な現象が起こる。この理由を化学的に説明することができるかは、日頃の勉強姿勢を見抜く一つの指標となる。このような“構造の化学的性質への結び付け”が日頃から習慣化されていないと、2016年度大問4の問6、2017年度大問3の問8のような設問が出たときに対応できるだけの推測力が養われない。
天然有機の糖においては、構造を記憶しているべき基礎事項として長年定番とされていたものは、単糖は「グルコース、フルクトース、ガラクトース、リボース、デオキシリボース」、二糖は「マルトース、セロビオース、スクロース、ラクトース」、多糖類は「デンプン、グリコーゲン、セルロース」あったが、大学入試全般のトレンドとして近年はここに、単糖にはキシリトールの原料となるキシロース、二糖にはトレハロース、多糖類にはイヌリンが仲間入りされつつある。京大においても、2007年度大問4においてトレハロースを題材にした出題がなされている(ただしあくまでリード文の題材としてで、暗記を求められる作題ではなかった)。高校のカリキュラムの都合上、履修が遅れている現役生で、グルコースは6員環構造、フルクトースは5員環構造というような教科書の上澄みをすくいとっただけの浅い理解で済ませている人が多いが、グルコースの5員環構造やフルクトースの6員環構造というものも存在するし、構造安定性や平衡をめぐる発展的な考察題材として問われることもあるので勘違いは禁物である。この事実もヘミアセタール形成と平衡状態にまで掘り下げることで体系的な理解へと昇華することができるが、反応機構をめぐる詳細はここでは割愛する(各自必要に応じて理解を深めること)。ちなみに2020年度の大問4のリード文の内容は、この環形成の反応機構が下地に敷かれており、多くの受験生にとっては見慣れない5員環型グルコースへの結び付けも設問として盛り込まれている。単糖類における分類式の「ヘキソースとペントース」、「ピラノースとフラノース」および「アルドースとケトース」などの用語と併せて基本事項に穴を作らないように気を付けることである。思考型演習にとらわれすぎて、案外直前期にこれらの基礎が抜け落ちている受験生が多いので、あえて注意を促しておきたい。また糖のメトキシ化を題材にした構造推定は京大ではリピート率が極めて高く、過去問や実戦模試などで徹底してトレーニングを積むべき最重要攻略箇所である。
さらに他大学ではそこまで目立たない“核酸(DNA,RNA)”についての出題が、近年京大は積極的に見られるようになっており、2017年、2015年、2010年、2006年とここ数年の生物学進展に後押される形で重要性が高まったことを受け、次第に常連の仲間入りをしつつある状況である。核酸を構成する単糖および塩基の種類と構造はいずれも、そらんじることができるくらいに前提知識として頭に入っているべきである。また塩基の相補性を水素結合の観点から説明できることも2017年度の出題を見る限りは必要であり、プリン塩基とピリミジン塩基という分類の意味と併せてしっかりと整理しておくことが望ましい。大学入試全般としてこの分野からの出題は極めて少なく、核酸分野は演習用の問題が不足しがちであることが災いし、手薄になりがちである。また京大の入試の性質上、単純な知識問題としてよりも思考型の訓練として最適化された設問を選定する必要があるが、それについては合成高分子対策の項で示した教材(『大阪大学への理科』『京都大学への理科』)などで阪大模試と京大模試の過去問を積極的に活用することを推奨する。演習該当年度は阪大入試実戦模試は2018年11月実施の大問4、京大入試実戦模試は2016年11月実施の大問4である。京大有機で頻出のケトエノール互変異性や立体異性体と絡めた重厚な作題がなされており、思考型の核酸分野の格好の演習材料である。他に生体にとって重要なエネルギー通貨のアデノシン三リン酸(ATP)やシグナルメッセンジャーを担う環状アデノシン一リン酸(サイクリックAMP)も想定される題材である。
以上を総括して、京大は有機構造決定と高分子分野の大問2つで、全体の配点のおよそ50%を占めるという極めて特異かつ稀有な大学であることも早期から意識しておくべきである。高校課程のカリキュラム上、有機分野の対策が直前期まで遅れることが現役生にとって致命的足枷となることを、学校で指導に当たる教職員などはくれぐれも早い段階から周知させることが望ましい。先取り学習などで夏の京大模試までには一通りの完成を見ておくことを学習計画に反映させる必要があるが、例年甘く見ている指導教員が後を絶たないのは遺憾である。
難易度[編集]
年度によっては易しい年もあるとはいえ、高度な計算力、基礎事項を踏まえた思考力、問題文の正確な読解力、化学に関する一般的な教養を問うという点で良問ぞろいであり、更に解答時間に比して問題量が多すぎるため、制限時間内に全ての問題に解答することすら困難である。したがって受験化学の中では最高レベルの難易度と言える。かつてのように炭素数50を超える有機化合物の構造決定など、無茶な問題の出題は控えられつつあり、とりわけ有機構造決定は本学受験生にとって失点の許されない得点源としての共通認識が広がっている。
ただ有機分野も近年は題材の枯渇もあって、構造決定のみならず立体異性や鏡像関係をからめた空間把握を問われる出題も目立ち始めている。 フィッシャー投影式はリード文中で説明されるとはいえ、予備知識として事前学習している受験生も多く、時間短縮を考えるならある程度は予備知識として仕入れておきたい。大学入学以降で扱うジアステレオマーやエナンチオマーの発想が問われることもあり、2018年度には電子密度と安定性の背景的な理解を前提とした論述が出題されるなど、アカデミックな深い理解を備えた受験生に対して、より迎合的な出題姿勢がうかがえる。
京都大学の化学の入試作部会は一年単位で全員入れ替えが行われ、作問部署となる研究科も大きく異なるため、具体的な題材や難易度に一貫した傾向を見出すことは困難である。
実近では<<易化年度>>は2007年, 2014年,2015年, 2019年であり、<<標準年度>> 2009年, 2011年, 2012年, 2013年,2016年, 2018年、さらに<<難化年度>>として挙がるのは2008年, 2010年, 2017年, 2020年である。
これらは各大手予備校の合格者平均点の推移より分類されており、初見の過去問演習をテスト形式で行う場合は易化年度のものからはじめるとよい。なおZ会や駿台予備校などの推計によると、2007年および2019年の試験は医学科以外の学部でも合格者に9割~満点の得点者が続出していた。とくに2007年はZ会調べの合格者平均が8割を超えているため、高得点がひしめき合うミスが許されない状況になった。このように難易度推移だけを見て、易化した年度に当たることが必ずしも受験生にとっては喜ばしい結果になるとは限らない。むしろ易化年度は上位層が満点で頭打ちになるため、化学で差をつけようと計画していた突出した化学の学力を備える受験生にとっては不運な事態となる事例が相次いだ。京都大学側としてはこうした才能をもつ受験生の取りこぼしを近年は恐れていることもあり、近年は少しずつ難化推移をさせることで高得点分布の頭打ちを回避させる方針へと舵切りしつつある。
大問 | 設問内容 | 難易度 |
---|---|---|
問題I(a) | 沈殿生成に基づく重金属イオンの廃液処理 | やや難 |
問題I(b) | 閃亜鉛鉱型構造とウルツ鉱型構造におけるイオンの間隙配置描出 | 難 |
問題II(a) | 電解装置内の気液平衡モデルと塩化物溶解による調整 | やや難 |
問題II(b) | 可動式ピストン内における不均一系モデル平衡論 | やや難 |
問題III | トリエステルならびにその分解産物の構造決定 | やや難 |
問題IV | L-ソルボースの選択的酸化によるL-アスコルビン酸合成経路およびヒドロキシ基保護の原理 | やや難 |
大問 | 設問内容 | 難易度 |
---|---|---|
問題I(a) | クロム酸イオンを含む溶液を用いたモール法原理のグラフ描出 | やや易 |
問題I(b) | 異なる濃度の銀イオン溶液を接続させた濃淡電池の仕組み | 易 |
問題II(a) | 電子式と電子対反発~二トロニウムイオンの分子形~ | やや易 |
問題II(b) | 閉鎖系モデルを用いた気相平衡と圧平衡定数 | 標準 |
問題III(a) | 芳香族化合物における非等価炭素数の測定に基づく構造決定 | やや易 |
問題III(b) | イミド化合物の分岐反応機構に基づく構造決定 | 標準 |
問題IV(a) | アルドースのフィッシャー投影式に基づく鏡像異性体分類 | 標準 |
問題IV(b) | 糖を含む界面活性剤において各種官能基が果たす役割 | 標準 |
大問 | 設問内容 | 難易度 |
---|---|---|
問題I(a) | 氷の結晶構造を題材にした化学結合の各種理解 | やや易 |
問題I(b) | 水酸化ナトリウムの工業的製法と緩衝溶液モデル | 標準 |
問題II(a) | 非電解質溶液を用いた凝固点降下計測と冷却効果 | やや難 |
問題II(b) | 三種の混合気体と可動壁を用いた気相平衡モデル | 標準 |
問題III(a) | ベンゼン環の電子密度と配向性ならびに原子団の立体障害 | やや難 |
問題III(b) | 染料化合物アリザリンの合成経路検討 | 標準 |
問題IV(a) | 不飽和モルカルボン酸の酸化反応 | 易 |
問題IV(b) | アミノ酸混合物の電気泳動と分離操作 | やや易 |
問題IV(c) | pH変化によるポリペプチドの荷電状態の推移と等電点 | 標準 |
大問 | 設問内容 | 難易度 |
---|---|---|
問題I(a) | 黄銅鉱と黄鉄鉱の結晶構造/エッチング加工の反応理論 | やや難 |
問題I(b) | 複数種の金属イオンを含む工場廃液処理~沈殿平衡と錯イオン形成による分離~ | やや難 |
問題II(a) | 光照射で誘導される反応系に基づく速度論と浸透圧平衡モデル | やや難 |
問題II(b) | 揮発性の二種物質におけるモル分率推移と数理的処理 | やや難 |
問題III(a) | トリグリセリドの加水分解とオゾン分解 | 易 |
問題III(b) | D-ラクチドとL-ラクチドの分子鎖と開環重合反応の相違 | 標準 |
問題IV(a) | DNAにおけるプリン塩基とピリミジン塩基/ベンゾピレンによる突然変異誘導 | 標準 |
問題IV(b) | エクァトリアル位とアキシアル位の考察および糖の立体反発 | やや難 |
大問 | 設問内容 | 難易度 |
---|---|---|
問題I(a) | 天然出土元素の各論とチタンの反応性 | やや易 |
問題I(b) | チタンの水素吸蔵モデルと気相平衡 | 標準 |
問題II(a) | サリチル酸の二段電離平衡およびm-ヒドロキシ安息香酸の酸度考察 | 標準 |
問題II(b) | 電極槽を繋ぐ毛細管架橋装置における電気泳動と試料分布ゾーンの解析 | やや難 |
問題III(a) | 脂肪族ジエステルの構造決定 | やや易 |
問題III(b) | 二つのベンゼン環を直接架橋するエーテル結合の切断反応研究 | 標準 |
問題IV(a) | 甘味料として用いられる8種の化合物の同定 | 標準 |
問題IV(b) | 免疫抑制薬シクロスポリン改変産物としての人工環状ペプチド | やや難 |
大問 | 設問内容 | 難易度 |
---|---|---|
問題I | 三種類の電解槽を直列に繋いだ電気分解 | やや易 |
問題II(a) | 実験室における飽和蒸気圧測定モデル | 標準 |
問題II(b) | 炭酸水を含む持ち運びサイズのペットボトルの内圧測定 | 標準 |
問題III(a) | 炭素数6の環状構造を有する炭素数7の5種の化合物の構造決定 | 標準 |
問題III(b) | 複数種のヒドロキシカルボン酸の構造推定および重合反応 | 標準 |
問題IV | ペントースとヘキソースの性質, 核酸塩基の構造 | 易 |
大問 | 設問内容 | 難易度 |
---|---|---|
問題I(a) | 硫化亜鉛の各種反応と二種の金属イオン分離 | やや易 |
問題I(b) | 硫化亜鉛と塩化ナトリウムの限界イオン半径比 | やや易 |
問題II(a) | 四酸化二窒素の解離平衡と分圧変化 | 易 |
問題II(b) | ある範囲で温度上昇に伴い反応速度が低下する異常な温度依存機構の理論的検討 | やや難 |
問題III(a) | ジエステルの加水分解とオゾン分解 | 易 |
問題III(b) | アセトアルデヒド合成の基礎実験レポート | やや易 |
問題IV(a) | 抗酸化物質とトリペプチドの構造決定 | やや易 |
問題IV(b) | セレブロシドを出発原料とした各種酵素反応と分解産物 | 標準 |
大問 | 設問内容 | 難易度 |
---|---|---|
問題I(a) | ポーリングの電気陰性度評価式の運用例 | 標準 |
問題I(b) | キレート錯体における配位子の結合位置と立体異性体 | やや難 |
問題II(a) | シュウ酸の電離平衡と緩衝作用 | やや易 |
問題II(b) | グリシンの4種複合型電離平衡 | 難 |
問題III(a) | ケトエノール互変異に基づく芳香族化合物の構造決定 | 標準 |
問題III(b) | ベンゼン環に隣接する五員環構造とヘミケタール | やや難 |
問題IV(a) | 細菌の細胞壁成分構造~ペプチドグリカン(ムレイン)~ | やや易 |
問題IV(b) | ペプチドグリカンの加水分解産物 | 標準 |
大問 | 設問内容 | 難易度 |
---|---|---|
問題I | ガリウム(Ga)の結晶構造と反応性をめぐる各論 | やや易 |
問題II | 天然せっけんラウリン酸ナトリウム溶液の電離平衡 | 標準 |
問題III(a) | 脂肪族化合物総合~構造決定~ | やや難 |
問題III(b) | 炭素数27の大環状化合物の構造決定 | やや難 |
問題IV(a) | α-アミノ酸とペプチドについて | やや易 |
問題IV(b) | ペンタペプチドの部分加水分解と末端構造 | 標準 |
近年の傾向[編集]
2007年度は180分入試が導入された最初の年だったが、その年は物理が難化したためか、設問数自体が減り、問題自体も易化したため、合格者の中には満点が続出した。この年の化学の合格目標ラインは9割程度であったと推察される。ところが2008年度では再び難化したため、合格者レベルであっても6~7割程度を確保するので精一杯であったと考えられる。2009年度は量・質とも2008年度の水準を維持した。物理が難化したため、合格目標ラインはさらに下がり、5割程度になると考えられる。理論化学(大問1,2)と有機化学(大問3,4)の二つを柱とする出題は過去十数年間ずっと変わらず一貫しており、無機化学の単純な知識暗記で解決する問題はほぼ一切出題されていない。これは詰め込み教育や丸暗記といった力技で挑もうとする受験生をすべて排除するための明確な意図をもった出題であるため、原則原理の根本的な理解を重ねて柔軟な思考回路を普段から養っておく必要がある。 大半の受験生にとって馴染みのない初見の題材がリード文として選定され、その場で与えられた知識を駆使して、難解な問題設定を解きほぐしていく姿勢が試験本番では必須となる。限られた試験時間内でのアドリブ的な立ち回りが高度に要求されており、丸暗記や問題集のパターン学習だけで済ませてきた受験生ではまったく歯が立たないため、誤った学習姿勢を続けている場合は早期に改める必要がある。工業化学のメカニズム(廃液処理と沈殿平衡/非定型結晶モデルと多面体構築)を素材として問うたり、DNA塩基損傷とタバコの有害性の理論的検討など、典型的な受験学習ではお目にかからないようなユニークな視点での題材の選定が目を引く。結晶構造の計算では数学的技巧を磨いておくと時間の短縮に繋がることも多いため、数学的視点を養う姿勢も極めて重要である。化学平衡の演算では過去に数IIIの微積分の立式や処理が解答過程で必要になる問題も見られた。反応速度の演算においても初歩の微分方程式や積分計算などの心得があると、リード文全体の理解の大きな助けとなるような事例も見られている。化学の試験だから化学以外を使わないということは決してなく、京都大学側が学問に対して向ける確固たる“分野横断型”の姿勢は本学受験生は決しておろそかにしてはならない。一方で、有機化学は比較的穏やかな出題が続いており、失点の許されない得点源として広く認識されているが、近年は単純な構造決定以外にも実験的な視点からの条件解釈、立体化学の素養、など新しい切り口の出題が目立ちつつある。それを象徴するかのごとく、2019年、2020年と2年連続でフィッシャー投影式をからめた問題が出題された。リード文中での補足説明はあるものの、事前にこれを理解しているかどうかで、試験本番中の時間の有効利用には大きく差が出たと思われる。高得点を狙う受験生はメソ体をはじめとして、大学の基礎教養課程レベルの立体化学の頭を作っておくことが強く望まれる。 化学に限らず、近年の京大入試は後期日程を廃止して以降、問題の難易度を上げてきているため、2020年度以降も高難易度の出題がなされる可能性は高い。 本学受験生は基礎事項の網羅はもちろん、難度の高い問題にも臆せずチャレンジしてみて、思考力を充分に養っておきたい。
対策[編集]
全体的な難易度は概して高めであるものの、悪問・奇問は一切出題されず、基礎事項を重視した問題が出題される。(これは京大理科全般に言えることである。)それゆえ、まずは教科書や資料集を中心に、一般的な傍用問題集を併用して基礎を固めると良い。知識それ自体は教科書と資料集程度で十分である。この時、ひたすら問題数をこなすだけでなく、「酸化数」「電気陰性度」等といった語句の内容・定義を深く追求するといった姿勢が必要である。一例を挙げると、電気陰性度や酸化数の定義をよく理解していると、NaOHにおけるHの酸化数は+1となり、NaHにおける酸化数は-1となることはほぼ自明のように思えてくるのだが、ただ漫然と水素の酸化数は+1、と呪文のように覚えているとなぜNaHではそうなるのか全く分からないだろう。そういった勉強法では応用力はつかないのである。あくまで、基礎事項の「深い理解」が京大化学の攻略の近道であることを肝に銘じておこう。
高校で配布されている教科書だけではよくわからないと思ったら、思い切って大学初年級レベルの教科書・演習書を副読本にしてみるのもひとつの手である。高校の教科書は指導要領の制限上、「なぜこうなるか」をやや省いて記述しがちなので、よほど自分で意識しないかぎり「その場限りの暗記」になりがちである。一方、大学の教科書は「理屈部分」が徹底的に書かれているため、化学を「理解する」にはうってつけである。現在では学部生用の比較的やさしめの教科書が多数出版されているため、余力のある高校1~3年生は図書館等で読んでみると良いだろう。その際には「ただ目で追う」だけではなく、「実際にノートに書いて追ってみること」を推奨する。特に有機化学は「腕力」がものをいう分野であることを強調しておきたい。ちなみに高校で扱う「理論化学」は大学用の書物では「物理化学」として取り扱われていることが多いので、注意すること。
赤本や青本等で京大の過去問を解いて問題慣れし、時間配分の練習をすれば良いのだが、やはり全問を解こうとすると時間が足りないので、出来ない問題を瞬時に見極めて飛ばすことも必要である。その能力を養うという点でも過去問演習は大変有意義である。もちろん、解けなかった問題は(それが飛ばした問題ならなおさら)復習を念入りにすべきなのは言うまでもない。その際、計算問題などは自分の手でもう一度最後まで計算することも大切である。なお、毎年7月に行われている「化学グランプリ」の予選問題は化学分野での思考力を養成するのに最適な教材のひとつなので、化学で高得点を目指す受験生はその問題にチャレンジしてみるのもいいだろう。
ちなみに、本学の理系に入学してくる学生の中には既に学部レベルの化学を全て独修してしまった者も(少数ではあるが)存在することも付け加えておく。
実戦系の模試は難化した年度(2017年など)を想定して作られることが多いため、夏の段階で得点が伸びなくても過剰に焦る必要はない。特に夏の段階の模試は100点満点で平均点が25点前後になることはザラであるため、リード文を読み解いて難易の取捨選択をすることへの慣れを培うことを第一義としたい。
秋の段階の模試で6割以上の点数が見込めれば、本番では十分に合格者水準のラインに届く。
※以下の表はスマートフォンの場合は横画面でのスクロールを推奨
タイトル | 出版 | 分類 | 難易度 |
---|---|---|---|
化学重要問題集 化学基礎・化学 | 数研出版 | 網羅型問題集 | ★★★★☆☆☆☆☆☆ |
理系大学受験 化学の新演習 | 三省堂 | 網羅型問題集 | ★★★★★★☆☆☆☆ |
有機化学演習 | 駿台文庫 | 分野別問題集 | ★★★☆☆☆☆☆☆☆ |
化学標準問題精講 | 旺文社 | 精選問題集 | ★★★★★☆☆☆☆☆ |
新理系の化学問題100選 | 駿台文庫 | 精選問題集 | ★★★★★★★★☆☆ |
阪大の化学20カ年 | 教学社 | 過去問集 | ★★★★★★★☆☆☆ |
大阪大学への理科 | 駿台文庫 | 阪大予想問題集 | ★★★★★★★★☆☆ |
京大入試詳解25年 化学-2019~1995 | 駿台文庫 | 過去問集 | ★★★★★★★★☆☆ |
京都大学入試攻略問題集-理科- | 河合出版 | 京大予想問題集 | ★★★★★★★★★★ |
京都大学への理科 | 駿台文庫 | 京大予想問題集 | ★★★★★★★★★★ |
思考力養成の土台とはいえ、まずは数多くの問題に触れることである。
一般的な網羅型問題集として有名な二冊『化学重要問題集』と『化学の新演習』は必携である。
まずは早いうちから重要問題集をボロボロになるくらい何周もして定石や典型問題は完璧に頭に叩き込んでしまうことが前提条件である。
そのあとで並行して新演習に取りかかることが推奨されるが、新演習は一般問題集では最高峰の難易度を誇る問題集であるため、すべての問題に手をつけることは時間の面から厳しい。
自分が強化したいと考える理論分野や天然有機などある程度ターゲットをしぼり、そこだけを何周も繰り返す使い方をする受験生が圧倒的に多い。形だけはすべてに手を付けようとして、結局は中途半端にしか身に付かなければ意味はない。手を付けた箇所だけは完全にマスターしているくらいにボロボロになるまでこれも繰り返すこと。結晶、気体、溶液、平衡、電気化学、構造決定、天然有機などは最重要分野である。
現役生などで、有機分野で高校の定期テストと大学受験でギャップを感じる初学者は、駿台文庫から出ている『有機化学演習』に取り組むのもよい。大学入試の比較的やさしい構造決定から始まり、標準レベルの慣れを養うのに適している。とくに天然有機はコンパクトながら演習書として非常によくまとまっている。
余力があれば『化学標準問題精講』に触れてみるのもよいが、これは必須ではない。重要問題集や新演習を何周もする方をあくまでも優先すべきである。
『新理系の化学100選』は問題の選定が古く、扱う問題のレベルに反して解説もコンパクトであるため、決して万人受けする内容とはいえない。
石川正明氏の熱烈なファンであるという人以外はとりたてて手を出す必要はないかと思われる。
化学の本質を突いた解説は一読の価値はあるが、癖が強い内容であることを分かったうえで触れてみること。
阪大の化学も思考力を必要とする初見の題材が選ばれるため、京大化学の対策として手を出すのもよいが、さくべき時間の都合上、あくまで化学を得点源としたい受験生や高得点勝負となる医学科受験生などにしぼった場合の話である。時間に余裕があったり、化学の演習を確保したい受験生はこちらの演習を強く推薦する。
徹底的に初見題材の演習を積み重ねたい生徒もおり、そうした受験生には『大阪大学への理科』で阪大実戦模試の過去問に取り組むことも推奨しているが、こちらは阪大の実際の入試よりやや難易度が高めという印象であり、そのおかげで京大入試とむしろ親和性が高い。
2020年度に大問IVで問われた「フィッシャー投影式を踏まえたL-アスコルビン酸合成経路」についての題材は、駿台の2019年実施の阪大入試実戦模試において同様の題材を扱った類題が出題されており、図らずも的中であった。2020年度の京大過去問と併せて類題演習をしたい場合は、この設問が収録となる2021年度版の『大阪大学への理科』を購入してみるとよい。
駿台文庫から出ている『京大入試詳解25年 化学』は京大化学の過去問集であるが、解説に定評があり、しかも出題背景や化学的意味を踏まえたストーリー性が重んじられており、教学社の『京大の化学 27カ年』よりも解説の詳しさの点では抜きんでている。
ただ専門性や癖が強く駿台の解説はとっつきにくいという生徒もいるので、書店で比較した上で自分に合った方を選ぶとよい。
河合塾と駿台予備校が大学受験化学科の総力を結集して作成している『京都大学入試攻略問題集-理科-』と『京都大学への理科』は、前述の『化学の新演習』や『新理系の化学問題100選』の難易度をはるかに凌ぐ大学入試の頂点に君臨する難易度の予想問題集であるため、これらに取り組む際には相応の覚悟とめげないだけの強靭な精神力を携えていることが必要である。
入試本番において、最も伸びしろが期待される理科を最有力の得点源とすることを目指す受験生は多く、理科で高得点を目標にする受験層はこの河合塾と駿台の京大予想問題集を複数の年度版利用することで、予想問題演習を15回~20回分セット確保してひたすら予想演習に取り組む者も多い。収録問題の多くは難化年度を想定して作られた、いずれも“やや難”以上の問題セットであるため、高地トレーニングの役割も兼ねる。何よりも優先すべきは過去問研究ではあるが、合格者の体験を聞く限り、やはり秋~冬期にかけて並行して高地トレーニングを積んでおくことで本番が難化した際にも精神的に動揺して大きく崩れることを防ぎやすいようである。河合塾の紫本は物理と化学の2科目が各4回分収録であり、2年単位で収録問題が一新されるため、例えば2021年度版を所持している場合は2019年度版、2017年度版...のように隔年表記となるように購入すればよい。古い年度版はアマゾンなどで中古を購入する以外にも、予備校や塾、一部の高等学校の進路指導室において貸し出しが行われている場合にこれを有効活用することが望まれる。一方で、駿台の理科の予想問題集は収録年度の模試が隔年という変則的な扱いとなっているため、年度版は連番となるように2冊購入(例えば2021年度版と2020年度版を合わせて購入)することで、収録問題の重複を回避できる。なお、駿台の予想問題は物理、化学、生物の3科目が各3回分収録される仕様である。
生物[編集]
概説[編集]
京都大学の生物は生物分野に対する幅広い理解と深い考察力を受験生に要求する良問ぞろいであるといえる。充分な基礎固めと問題演習をしておくのはもちろんのこと、常日頃から生物分野に関心を持っておくことも京大生物に対抗するうえで大きな武器となりえるだろう。 作題に関わる研究科に法則を見出すことは困難であるが、出題内容を踏まえると中問ごとに一つの研究室が作題チーフを務め、担当研究室の教授が入試委員会に持ち寄っていることがうかがえる。 生物系の研究室を擁する学部として本学には、理学部、農学部、総合人間学部、薬学部、医学部の主として五つの拠点があり、出題テーマも各研究室の特徴が他大学以上に色濃く反映されるものを含む。このため、問題テーマを見るとどこの研究室の教官が作題にその年度に関わっていたかを後になってから知ることが容易である。
問題[編集]
生物の問題は全部で4つの大問から構成される。さらに大問は2つか3つの中問に分割され、テーマは多岐にわたる。
問題形式は各大問の冒頭の問1や問2に知識問題が占めることが多いものの、私立大学のようなマニアックな知識が問われることは全くないため、この部分での失点は致命的となる。以降の問いでは論述問題が配点の大部分を占めることとなり、遺伝分野や代謝分野においては本格的な計算問題も出題される。なお、2017年度のように、空所補充や知識問題がほとんど出題されず、各大問の冒頭から最後までほぼすべてが論述問題一色となるような問題セットが組まれる年度も見られる。計算問題においては、場合によっては導出過程を含めた記述が求められることもあるが、とくに遺伝分野の計算は導入部で計算ミスなどを起こすとのちの設問も雪崩のごとく失点してしまうことにもなりかねないため、細心の注意を払って解き進めることが求められる。
2020年度のIIの最後の遺伝の問題は、解答冊子の右頁の一面にわたる白紙の解答スペースが設けられ、かなり息の長い込み入った思考力と計算の双方の記述が求められる遺伝計算の難問であった。得点開示などから推計すると、この一題の配点がかなり大きかったとみられ、この一題の正答率の低さが生物全体の得点に大きく影響する結果となった。
論述においては一般的な大学入試や模試のように字数制限が設けられることは一切なく、すべての論述問題において「字数制限無しの重厚な論述形式」が貫かれている。
各大問冒頭の知識問題の失点を最小限にとどめ、なおかつメインとなる考察問題でいかに得点を積み重ねられるかが合否を分けることとなる。すべての設問を時間内に解き終えることは事実上不可能な構成であるため、時間をかけるべき問題とそうでない問題を的確に見極める選球眼も普段から養っておく必要がある。
東大のように考察問題が小問分けされて誘導される形式とは大きく異なり、京大の考察問題は実験の解釈の全体像がつかめていないと、得点として非常に積み重ねにくい出題となっている。東大は実験の全貌がよくわからなくても、なんとなく枝問の誘導に乗ることである程度までは点数をかすめ取る戦略が通用しやすいが、京大は全体的に受験生のひらめきや掘り下げる能力に丸投げしている感がある。
おまけに採点も厳しいことで知られ、自分が完璧に論述できたと思っていても文章の論理関係や情報の過不足の無い明示における不備などを理由に思わぬ減点が発生することも多い。このあたりは京大国語の採点と似ている部分である。京大模試の生物の採点結果と自分の手ごたえに乖離がある場合は、とくに気を付ける必要がある。
さらに、本学の学風もあってか、生物入試にもかかわらず高校数学の運用力を前提とした設問もたびたび出題される。近年だと2018年度の植物生理の分野で三角関数による立式を用いた考察、2019年度の発生学の分化誘導物質の拡散が微分方程式で立式され、これを元に考察を行う出題などがなされている。また2009年度には、“ハッチョウトンボの飛翔に伴う温度調節”というユニークなテーマで、微小温度変化の速度式を用いた考察を要する高度な出題もあった。さらにさかのぼると、有効積算温度定数を用いた考察テーマも問われている。こういった背景から分かるように、数学の不得手を回避するために生物選択をするという安易な心構えでは本学の考察問題に太刀打ちすることは困難である。さらに文理の垣根を超えた幅広い教養を重んじており、2008年度の大問4において、世界地図と年間降雨グラフを大量にデータとして与えて植物分布について考察させる地理の気象学理解を前提とした作題がなされたこともある。
頻出分野[編集]
頻出分野は、おおまかには、生殖と発生、遺伝情報とタンパク質の合成、遺伝・遺伝子、生物の群集と生態系、刺激の受容・反応であるが、京大生物は分野ごとの偏りが小さく、様々な分野から満遍なく出題される傾向にあるので、どの分野も等しく勉強しておくのが望ましいと考えられる。近年の時流を踏まえて分子生物学からの出題比率は年々増加傾向にあり、とりわけ遺伝・遺伝子分野は分野横断的にどの分野の内容とも絡めて問われる傾向が強い。刺激の受容メカニズムであったり生殖発生のメカニズムも根底は遺伝子発現の制御によって成り立っていることを前提として、問題も数段階掘り下げた形で問われることが多い。
・細胞
そもそもの土台として、“細胞”のふるまいを動的なイメージで掴んでいるかは重要である。
模式図ありきで固定したイメージで捉えると、肉眼の及ばない微小なものへの己の理解や想像力に傷をつけることになる。
ミクロなふるまいに接することが少ない高校生の思わぬ落とし穴であろう。
二重リン脂質の生体膜における流動モザイクモデルやフリップフロップ運動はその典型であるし、細胞骨格の挙動そのものが静止しているようでありながら、動的平衡のもとに絶えずさらされていることを忘れてはならない。細胞小器官を動かす可塑性のあるレールが細胞骨格であり、細胞骨格は外界から及ぶ機械的刺激への反応性に優れるのである。
おそらく最も最初に学ぶであろうこの分野を“平衡現象”としてザックリとしたイメージで語れるかに、学習者の資質が強く現れている。
生命活動に平衡現象の片鱗を感じ取ることに、生物の学びの始まりがある。
この平衡を崩し、乱す生命の仇敵こそが“がん細胞”である。
がん細胞の出現と聞くと、遺伝子変異だけに原因をたどろうとしがちであるが、増殖を許したほころびは至るところに及んでいる。細胞は独立してそれぞれが居座り続けるものではない。協調的に、相互監視的に、自分自身が発する信号刺激と周囲からのそれをもとに連携を取り合い、統合的に渦巻くシグナルの途切れることない受け渡しの中でのみ存在を許され続けている歯車の一つにすぎない。
細胞周期、細胞骨格、細胞接着、細胞外マトリックス、膜タンパク受容体、サイトカイン、細胞内外電位といった高等学校のカリキュラム上で区分けされ、翻訳された個々の項目の記述から細胞分野の学知の輪郭をおぼろげながら掴み取れたならば、生物学で学んだ知識と考察力の総力を結集して迫れる“がん細胞”のテーマが問いかける壁の高さを痛感することであろう。がん細胞を知ることは、生物学のあらゆる分野を網羅的かつ体系的に学ぶことである。変異原だけに目を向け、ただ異物を異物として受け止めるだけの姿勢は、可能性を摘み取るだけの愚策でしかない。いわば、そうした生物学への取り組みの姿勢がアカデミックに通用するものかを試すことに見定められることで、京都大学の大学入試生物はアカデミズムの前哨戦に位置づけられるにふさわしいものへと仕上がっている。
2012年度大問3(b)、2012年度大問4(b)、2013年度大問4からは、がん細胞の巧妙さとそこへと突き立てられた生命科学の名を冠したメスの攻防が見て取れるはずである。設問として扱われなかった箇所も含めて、素通りするには惜しく、目を向けるべきところは多い。細胞周期の乱れはDNAコピーミスの元であり、細胞接着の緩みは組織化の秩序にヒビを入れる。一時期において、武田製薬が多額の資金を投じ、信号刺激の中継点となる膜タンパクであるオーファンレセプターの探索を大々的に目的に掲げたのも、抗ガン剤標的となる作用点の解明に一縷の望みを託したからに他ならない。細胞接着において京都大学医学研究科教授の月田承一郎が一歩先んじたクロ―ディンをめぐる研究は、がん細胞治療の基礎研究として非常に大きな功績を残したものの一つである。再生医療最前線の人工多能性幹細胞(iPS細胞)における山中伸弥教授の功績はここで取り上げるまでもなく有名なものであるが、こうした膨大な年月の積み重ねの上澄みにしか目を向けずに、がん研究の全貌を語ろうとする浅はかで近視眼的な姿勢は、最も恥ずべき行為である。
また同じ年度の中においても、2014年度大問1(b)と2014年度大問4(a)はその意味で、対比的な出題構成をとっている。一方が“細胞間コミュニケーションとフィードバック”を本質に問うているかたわらで、もう一方は独立一個として遊離した単細胞生物の増殖のさまへと論を展開させている。また密度推移においては、細胞分野に限らず片対数グラフの読み方は常識として求められる。
細胞分野は記述されている内容以上に、学習者の取り組みの姿勢を映し、それは遅れて後になり響いていく。
・発生
ドイツの文豪として名を馳せるゲーテは、自然科学への傾倒というもう一つの顔も持ち合わせ、“形態学の起こり”をたぐるときには無視できない存在である。日本の高等教育においては通常の学習では触れられる機会に恵まれないがゆえ、知られることのない事実として埋もれがちである。人間の探求心の向かうべき先においての人文科学と自然科学の不可分性は本来論じるべくもないのかもしれないが、それでもやはり形態形成をつかさどる発生学の文脈において、ドイツの文壇におけるこの一廉の人物と取り払われた学問の垣根の先で不可思議な邂逅が果たされるのは、得も言われぬ感慨を呼び起こす。
こうした学びの背景を掘り起こすときに立ち現れる人間個人の相を、得点だけに一喜一憂しがちな受験期の労をいっとき忘れるよすがとしてみてほしい。
出題は散発的だが、出題される年度においては大問一つ全体で扱われやすく、かなりの配点を占めることが多い。2007年度の大問1、2008年度の大問1はいずれも情報を整理する能力と、それらの情報を統合して論理的思考力に反映させる能力を同時に試している考察問題の良問である。2019年度の大問2(b)は数学的思考力と併せて問うている。
教科書での扱いが大きいイモリ(両生類)にとどまらず、哺乳類(ヒト、ウシ)、鳥類(ニワトリ)、魚類(ゼブラフィッシュ)、昆虫(ショウジョウバエ)などと比較しながら平素の学習を心がけるとよい。
初期胚における神経デフォルト説は近年ではエポックメイキングに類するテーマであり、BMP(Bone Morphogenetic Protein)シグナルの働きかけと併せて考察題材としては定番である。近年はこうした因子に加えてさらに、遺伝子発現やDNAメチル化と組み合わせた胚発生期の遺伝子応答まで踏み込んだ内容は好まれやすい。これもまた近年トレンドのエピジェネティクスが絡みやすい分野の一つである。
また京大においては、モルフォゲンの拡散の定式化など理学部の生物物理学研究室が作題担当に関わると、数学色の濃い設問としても扱われやすい。発生初期の形態形成に一石を投じたアプローチを、数学者アラン・チューリングの存在を抜きに論じることはできない。日本の科学史において、物理学者の寺田寅彦に師事した平田森三に端を発する“キリンの斑論争”への一つの決着の形を示したのが、チューリング・パターンとして今日知られる彼にまつわる業績である。動物の皮膚に見られる“繰り返しパターンの自立的発生”が、反応拡散系によって成立しうることの論理立てた説明を可能とした。詳しく理解したい場合は、学生向けの読み物(高校生/大学生)としては『キリンの斑論争と寺田寅彦』(著:松下貢)を参照するとよい。単純系として、パターン形成に関わる化学物質を二種類のみ(物質A,物質B)と仮定することで高校生水準の定性的な論述説明に落とし込めるため、この単純系における定性的説明が今後本試で出題される可能性も決してゼロではないであろう。京大理学部においては、この分野の研究室が極座標系を導入したモデルやモルフォゲンの境界モデルを下地に敷いた微分方程式にもとづく生物学の研究に取り組んでいたこともある。2019年度大問2(b)のモルフォゲン拡散式の出題にはこういった思想が汲まれている。
・古典遺伝学
メンデルの三法則に始まる染色体分配と、形質としての“あらわれ”(表現型)のギャップを埋めるのが分子生物学である。近年はこのギャップに焦点をしぼった分子生物学寄りの作題が主流だが、依然として計算主体による世代や分離比にスポットを当てた問いかけも続いている。この手の題材でひとくくりに多用される“形質”という表現については、“量的形質”と“質的形質”の差異をそのつど頭の片隅にとどめておけられるとなおのことよい。
遺伝計算においてはマーカー遺伝子を指標とした連鎖遺伝の解析は京大では頻繁に題材として選ばれている。近年では2016年度大問1、2008年度大問3などが該当するが、それ以前にもマーカー遺伝子表の扱いを問う出題は見られている。連鎖遺伝は出題されない年度の方が珍しいため、演習を徹底しておくことは必須である。なお連鎖遺伝は2012年度以降に限定しただけでも、2020年、2018年、2016年、2015年、2014年、2013年、2012年とほぼ必出と呼べるレベルの群を抜いた出題頻度である。遺伝計算に先立つ視覚的な遺伝子座や染色体分配の挙動のイメージも非常に重要で、染色体乗り換えの視覚的イメージと併せて一倍体生物と二倍体生物のいずれについても遺伝様式を押さえておかないと足元をすくわれる。この例としてよく挙がるのは、2014年度の大問2である。酵母やアカパンカビといった真菌類の減数分裂の挙動を正確に思い描けていないと、この年度のような遺伝問題を実際の難易度以上に難しく感じてしまうことになる。そして実際に、合格者と不合格者の得点差を大きく広げた一つもこの大問であった。また2015年度大問2(b)のトランスジーン挿入を扱った遺伝計算は京大らしいユニークな問われ方であった。2018年度のSNP箇所の“みなし遺伝子座位”を切り口に連鎖遺伝へと持ち込まれるリード文の流れは、試験場で冷静に解きほぐしていくことの難しさを実感させるものである。2010年度の大問4“カタツムリの右巻きと左巻きと捕食者ヘビの歯の非対称性進化”を扱ったテーマは解き進めていく面白さを味わえるユニークなものである。京大理学部においてはヘビを筆頭とする爬虫類研究も盛んであり、在籍学生に限らずヘビ愛好家の間では隠れた知名度を誇る。なおこの出題内容は京大理学部の細将貴の研究テーマであり、さらに掘り下げて背景を知りたい好奇心旺盛な人や生粋のヘビマニア受験生には、彼の著書である一般書籍の『フィールドの生物学6 右利きのヘビ仮説 追うヘビ、逃げるカタツムリの右と左の共進化』(シリーズ“フィールドの生物学”参照)の一読を勧める。
また、かなりの初歩の話であるが、“自家交配”、“任意交配”、“戻し交雑”などに決して穴を作らないことも注意喚起したい。特に自家交配はF3世代以降の分離比導出で手が止まる受験生が意外と多い。このせいか、2011年度大問3(a)は題材として平易なものの想定していた以上に得点差を開かせた問題となっていた。なお自家交配においては自家不和合性の現象にも触れておくと、多様性と結びつけた理解が可能である。近年ではこの現象の分子レベル機構の解明が進み、特定の遺伝子群によるS-RNase(RNA分解酵素)やプロテアーゼ関与の仕組みが突き止められており、他大学においても分子遺伝学の題材としても好まれつつある。“胞子体型自家不和合性”と“配偶体型自家不和合性”という区別と併せた理解が望まれる。
詳述してきたこの古典遺伝学は、文部科学省による高等学校学習課程要項の中で、“検定教科書での記述大幅削減”の煽りを受けた分野であり、この意向との間に摩擦を生まない出題を近年続ける東京大学においては、古典遺伝学からの計算などの出題はもはや音沙汰がない。東西で袂を分かつのはこの意味においても健在と言え、研究の歴史的背景やバックボーンを重んじる京大の出題姿勢とはやはり対極にあるといえる。
・分子遺伝学
X染色体不活性化をテーマにした出題は常連であり、近年では塩基のメチル化などを踏まえたエピジェネティクスを意識した内容(2015年度大問1(b))も目立ち始めている。
京大において分子遺伝の分野はあらゆる他分野と融合問題の形で問われやすいため、発生学や神経生理、恒常性、代謝などにおいても遺伝子動態と結び付けた考察ができるような柔軟な思考力の土台を普段から作っておくことが求められる。教科書で学習する分野別の縦割り式で得たままの知識では、体系的に向き合うべき生物学のありようと相容れない。
毎年必ずなんらかの形で出題され、複数の大問で融合的に問われるのがむしろ普通である。
2020年度大問1(a)で出題された三量体タンパク質の正常型比を問う内容は初見ではやや発展的内容と言えるが、京大としては珍しくいわゆる難関大学においての定石テーマからの出題であったため、京大受験生の再現答案における正答率は非常に高かった。これと同じテーマは過去に東京大学、大阪大学、奈良女子大において出題されていたこともあって、近年の入試ではもはや定番問題と化している。
他にも選択的スプライシング、ヒストン修飾(メチル化/アセチル化)と遺伝子転写制御の関係、スプライス部位の塩基変異におけるスプライシング異常、トランスポゾン、セントロメアとテロメアの染色体動態との関係、SNPと連載遺伝解析、マイクロサテライト、RNA干渉システム、DNAマイクロアレイ、サザンブロッティング、ウェスタンブロッティング、tRNAのクローバーリーフモデル、ヘテロクロマチン-ユークロマチン間の動的クロマチン平衡、遺伝子境界域のインスレーター配列における発現制御機構、RNAエディティング現象における遺伝子情報拡張、RNAシーケンス、DNA塩基対のゆらぎ仮説、ゲノムインプリンティング、分裂限界とオートガミー、メタゲノム解析、ミエローマ細胞とモノクローナル抗体など、近年の大学入試生物におけるこの分野の考察問題の題材は急速に多角化している。
・進化と生態
進化を“集団に働く力学”として記述する手段こそが遺伝子頻度や適応度という指標であるとの認識を強くもつことが出発点である。
選択圧が働く過程に遺伝的浮動や中立説の理解を添えて、世代をまたぐ集団の指向性を定性的に頭で掴んでいるかが、高度な考察力を養っていく確かな土台を作る。
この分野における個体群という単位をベースに展開される論理は多岐にわたることが自然と頭になじんでくれば、学問的素養が正しく積まれていると自信をもってよい。
生態系分野の集団遺伝において「ハーディー・ワインベルグ平衡」が出題されることもあるが、出題頻度そのものはさほど高くない。しかし出題されるときは大問一つ全体を占める形でかなり重厚な設定や煩雑な文字計算を含めて扱うことが多い。京大模試などでは大学遺伝レベルの「連鎖不平衡」を題材に計算や考察を問う予想問題も出題されており、京大本試においてもいつ出題されてもおかしくないため、不安な場合は模試の過去問演習などを通じてどういったものかを触れておくとよい。
こうした集団生物学を象徴する進化生態学分野の踏み込んだ題材として他には、マラーのラチェット仮説、赤の女王仮説、ロナルド・フィッシャーの原理、ハミルトンの包括適応度、メイナード・スミスのゲーム理論、ドーキンスの利己的遺伝子論、個体群における性比転換、レプリケーターダイナミクスモデル、塩基進化速度とオス駆動進化説などが近年脚光を浴びつつあり、京大模試などにおいても新傾向題材として作題が始まっている。ESS(進化安定戦略)と呼ばれる数理モデル分野として大学生物ではおなじみであるが、京大入試においてはリード文で説明した上で出題することは普通にありうる。また高度な題材ではあるが、個体群推移についての考察テーマからは、駿台の京大入試実戦模試においてロジスティック方程式やロトカ・ヴォルテラ競争方程式をリード文中で取り上げた上で、平衡点や定性的挙動の考察をさせる予想作題も見られる。京大は数学的発想やアプローチを重んじた出題姿勢を好むため、本試の難化でも太刀打ちしたい受験生や生物選択の医学科志望者は、河合や駿台主催の京大模試の過去問演習などでアプローチの仕方をカバーしておくのが得策である。このESS分野全体について、高校生向けに高校数学までの知識のみで解説しているわかりやすい参考書としては、『生き物の進化ゲーム ―進化生態学最前線:生物の不思議を解く― 』(共立出版)が非常に優れた良書である。この分野について一歩踏み込んだ理解をしておきたい一部の受験生と、考察指導に関わる指導教員の授業の準備教材などとして真価を発揮する。
受験対策とはやや外れるが、この分野の研究テーマは、人間の実存に訴えかける劇薬のようでもある。
利他行動ないし互恵的利他行動は、結びつきという言葉のもとで、時には縛られ、また時には繋ぎ止められて生きるすべての人間の心に灯る原初よりのテーマである。
「他者への本物の献身というのが、実現されることは可能か?」
この人類が抱える難題に真っ向から挑み、進化論にもとづく数学的証明に人生を賭けたジョージ・プライスは、自らが打ち立てた証明の残酷な答えの先に、逃れられない苦悩と絶望に身を焦がした。徹底した無私の精神に取りつかれた果てに、家財すべてを売り払ってまで、周囲の制止を振り切ってホームレスの救済に人生を費やした。生まれながらの無神論者の立場を捨ててまで奉仕精神に取りつかれ、最後は刃物で喉を切り一人静かに自殺を遂げた。彼の葬儀には、世界最高峰の進化生物学者であり彼の友人でもあったビル・ハミルトンとメイナード・スミスに加えて、生前彼からほどこしを受けた多くのホームレスが参列した。彼の数奇な人生と、生涯をかけた研究に興味がある人は、『親切な進化生物学者-ジョージ・プライスと利他行動の対価-』(みすず書房)を手にとることをすすめたい。彼の数奇な人生をたどった伝記と研究内容が全編を通じて交互に語られていく形式であり、読み物としてずっしりとした重みがある。
プライスの証明の意義と解釈は、“私たちが持て余す”ことに寛容である。
足踏みすることが生きることだという実感を教えてくれる。
大学受験勉強の寄り道にしては、あまりにも贅沢と呼べる思索への入り口が待っている。
また個体群をテーマに展開される内容も、教科書的な場面設定ではなく、実際のフィールド研の現場を意識して研究者の足跡が垣間見える向き合いがいのあるものも多い。例えば2015年度の大問4“金華山島におけるニホンジカ個体群密度増加と植生関係”は、リード文に凝縮された種間関係と設問の流れの中に、数多くの示唆があり、読み物としても良質である。設問として触れられなかった箇所も含めて学ぶべきことが豊富にある。この入試と同じ年の2015年に、京都大学との共同研究歴のある東北大学出身の理学博士である高槻成紀が『シカ問題を考える』(ヤマケイ新書)を出版する運びとなり、ニホンジカの個体群研究におけるフィールドワークについての一般向け書籍が世に送り出されることとなった。金華山島におけるカラー口絵とともに、この島やその他さまざまな地域で発生している生態学的課題について、このリード文よりもさらに踏み込んだ解説がなされている。入試の得点向上を狙うような打算的な姿勢ではなく、純粋に大学入学後の生態学分野への意欲が高い生徒などは、息抜きの読書の一冊として推薦しておきたい。教科書的な記述と場面でしか生態学に触れたことがないのと、一度でも実際のフィールド研究の生の声に即した研究者目線の記述に触れたことがあるのとでは、この分野における見通しが大きく変わる。教科書の記述は体系的のように見えても、ぶつ切りで散漫である。一つの研究対象と、それに向き合った一人の人間が書き下すストーリー性に勝るものはない。しかも共著ではなく、一人の人間の透徹とした主張よって一貫性が保たれている書籍というのはさらに価値が高まる。
分類学はリンネやヘッケルにたどられる源流から、今日に至るところのウーズのドメイン説などが普及した意味を押さえておくことである。学校指定問題集にあるようなマニア御用達の生物種クイズのような出題が本学でなされることはない。筑波大学や北海道大学などはホイタッカーの五界説にもとづく細かな分類知識を要求しがちであるが、この分類式は今日の現場における主流ではなく、あくまで分類という便宜に触れるための教科書的意向に沿った出題の形にすぎない。2018年度大問3(a)や2017年度大問4(b)など本学の過去問を見ればわかるように、打って変わって京大においては出題の指針はもっぱら実用性に寄っている。
・植物の応答
2013年度以降、毎年出題が続いており、難易度についても他大学で目にするような定番の内容を扱った平易なものも目立つ。とくに2019年度と2020年度は失点が許されないほど易しく、考察らしい考察も必要とされなかった。植物の分子レベルの刺激応答については、京大ではとくに植物ホルモン分野での貢献が大きいが、本学の入試において植物ホルモンが本格的に出題される例はそれほど多くない。
しかしながら、近年は植物ホルモンの転写因子制御のシグナル経路の解明が飛躍的に進んでおり、一昔前よりも遺伝子発現や調節とからめて植物応答の出題がされやすい状況となっている。
エチレン、ジベレリン、アブシシン酸など有名な植物ホルモンが具体的にどのように遺伝子上流に働きかけるのかを考察問題として問う出題は、京大模試ではここ10年ほどで格段に増えた。多くは植物ホルモン応答による「転写抑制因子を抑制するシグナル」という働きかけがキーとなる作題である。高等学校の検定教科書での扱いはまだ薄いが、ストリゴラクトンに関する研究は着々と進みつつあり、このホルモンの分子受容メカニズムの解明が2019年において国際学術誌“Nature Communications”を飾った。次の新課程年度における検定教科書改訂では、扱いが大きくなることが期待される植物ホルモンの一つである。またこの植物ホルモンは土中のAM菌との共生シグナルとしての側面も併せ持ち、農芸分野における利用性の高さから期待を寄せられ、多様な解釈のもとで複数のメカニズムについての解明が急がれている。
とくに“シロイヌナズナのmax変異体を用いた接ぎ木実験”はストリゴラクトンの枝分かれ抑制研究の強固な基盤となっており、注目に値するものであることから、今後の大学入試の考察問題としての出題も十分に予想される。植物化学調節学会の監修のもとで、講談社から出版されている『新しい植物ホルモンの科学』という書籍は、各々の植物ホルモン研究の歴史的背景に始まり、近年の遺伝子レベルでの研究成果が豊富な図解を添えつつコンパクトにまとめられている。高等学校の検定教科書では腑に落ちない曖昧な記述に納得がいかなかったり、物足りなさを覚えている人の知的好奇心を満たす内容となっている。各論形式であるため、各植物ホルモンの遺伝子や分子レベルの仕組みに興味がある一部の受験生、あるいは考察演習指導などに当たる指導教員に一読を勧めたい。植物の分子シグナル分野における植物分野の名だたる権威が京大理学部、京大農学部などにかなりの人数を占めているため、分子遺伝学分野を今まで以上に意識したうえで植物応答をとらえる姿勢を意識したい。
生物分野の研究は2000年以降、急進的な勢いとともにめざましい発展を遂げており、新分野も続々と樹立が続いている。その煽りを受け、入試問題も新規性が高く、なおかつ学術性に満ち溢れた示唆に富んだ題材が湯水のごとく湧きだしている状況であり、受験産業にありがちな問題のマンネリ化現象は生物という科目に限ってはまったくの無縁と言っていい。
2017年度II(b)のNature誌掲載の人工細菌作出論文を題材にした出題など、最新の生物学の動向を入試に反映させようとする創意工夫の姿勢が、京大はとくに積極的に表れている。2017年度I(a)で取り上げられている「チャネルロドプシン」も、近年京大理学部が本腰を入れて研究参入を始めている「オプトジェネティクス」と呼ばれる最先端の遺伝学的試みの中心で脚光を浴びている題材である。古典的題材のみならず、最新鋭の内容にアンテナをはっておいたり、好奇心を寄せる姿勢が考察に傾けるエネルギーの源泉となるのは、まさしく自明のことである。
全体として、京大生物における設問や配点比のメインは考察問題であるため、丸暗記学習では当然のことながら通用しない。
難易度[編集]
京都大学の生物は、日本の大学受験の問題の中で最も難しいと言われている。これは、京大の生物を解く上で必要な知識は教科書または資料集の内容で事足りるものの、基礎知識を活用して深く考察し、その内容をポイントを絞って分かり易く簡潔に表現する力やどの分野も満遍なく穴をつくらず対処できる学力を養成するのは、短期間の学習で養える能力ではないというところから来ている。言い換えれば上辺だけの知識・学力では制限時間内に合格点まで点数を積み上げるのは非常に難しいということである。
答案で記述すべき論述文字数をとっても日本の生物入試問題の中では京都大学が群を抜いて最も多いことも付け加えておく。
年度によっては90分の試験にもかかわらずトータル1500字に迫る小論文並みの論述量を課す年度もあった。東京大学が「膨大な長さの資料文とデータを短時間で読み取り、解釈を2~3行の簡潔な表現でまとめる」ことを至上主義としていることとは対極に、京都大学は「厳選されたリード文とデータをじっくり時間をかけて考察し、行数制限のない解答欄に自らの言葉で論理的破綻のない論述を連ねていく」ことを至上主義としている。なお、高校数学でおなじみの必要条件、十分条件、必要十分条件の論理的枠組みは、本学の生物の考察問題を解くうえで必須の思考法であり、答案にもこれらを踏まえた論理的飛躍のない解答が求められることがさらに水準を押し上げている要因の一つとされている。
理科の試験時間が3時間に延長された2007年度以降に限定するなら、このうちで最も論述分量と考察文で受験生を圧迫したのは2012年度と2013年度である。2014年度~2016年度は京大入試としては標準とされるレベルで推移し、続く2017年度で論述色がかなり強調されたことでやや難化した。2017年度は古典遺伝学からの遺伝計算の出題が無く、この点でも珍しい年度といえた。2018年度は再び標準レベルに戻ったが、得点源となるやさしい設問が例年より多く配置される一方で難しい設問は難しく、中間に占めるべき難度の設問が減少した点で差をつけにくいセットとなった。2019年度は2007年度以降の出題セットの中で最も易しく、論述量の大幅な減少と考察実験の平易さが顕著となった。ただ問題数そのものが減少したことで論述の小問一つの配点が大きくなったため、選択した理科のもう一つの科目で時間面で圧迫されすべてに満遍なく手を付けられなかった受験生は大きく差をつけられる結果となった。また論述小問一題の配点の大きさが顕著となったことで、開示結果から改めて採点の厳しさが浮き彫りになった。2020年度は再び標準とされるレベルに戻ったが、論述量は例年より抑え気味であった。
大問 | 設問内容 | 難易度 |
---|---|---|
問題I(a) | 遺伝子疾患と翻訳後の正常型四次構造タンパクの定量分析 | 標準 |
問題I(b) | DNA損傷による校正システムをめぐる標識実験 | やや難 |
問題II | 母性効果遺伝子の近接位座乗をめぐる連鎖と組み換え | 難 |
問題III | 植物のストレス応答 | 易 |
問題IV(a) | 紅藻類の光合成と作用スペクトル解析 | 標準 |
問題IV(b) | 複数の窒素肥料条件におけるクローバーとライグラスの種間競争試験 | 標準 |
大問 | 設問内容 | 難易度 |
---|---|---|
問題I | 単一遺伝子疾患における酵素変異と活性試験 | 標準 |
問題II(a) | カイコの伴性遺伝とモザイク変異体作出 | 標準 |
問題II(b) | モルフォゲン拡散と位置情報の数式化モデル | やや難 |
問題III | 植物の光応答 | やや易 |
問題IV(a) | 離島における種数平衡モデルと遺伝子プール | 標準 |
問題IV(b) | 熱水噴出孔における初期進化の検討 | やや易 |
大問 | 設問内容 | 難易度 |
---|---|---|
問題I(a) | 短日植物の花芽形成と遺伝子変異 | 標準 |
問題I(b) | 動物の記憶保持とシナプス強度可塑性をめぐる薬剤試験 | やや難 |
問題II | マウスの胚発生と遺伝子組み換え | 標準 |
問題III(a) | 系統分類と人為分類に基づく生物種解析 | 標準 |
問題III(b) | SNP座位の連鎖遺伝とトランスポゾン挿入 | 難 |
問題IV(a) | 哺乳動物における縄張りと順位制 | 標準 |
問題IV(b) | 植物の食害と誘導防御の仕組み | 標準 |
大問 | 設問内容 | 難易度 |
---|---|---|
問題I(a) | 神経膜電位と光刺激受容性チャネルロドプシンの発現 | やや難 |
問題I(b) | マメ科植物変異体における過剰根粒形成 | 標準 |
問題II(a) | 二種の新規性有機化合物についての細菌を用いた毒性試験 | やや難 |
問題II(b) | 最小遺伝子の人工細菌作出~Mycoplasma genitalium~ | やや難 |
問題III(a) | 輸血と免疫抑制剤の投与 | 標準 |
問題III(b) | 重力屈性に関する植物生理学的知見と数理モデルの導入 | 難 |
問題IV(a) | 極相林におけるギャップ更新と樹木の多様性 | 標準 |
問題IV(b) | 海洋微生物のスーパーグループとクリプト藻類の二次共生モデル | 標準 |
大問 | 設問内容 | 難易度 |
---|---|---|
問題I(a) | マウスの交配と致死遺伝子 | 易 |
問題I(b) | 遺伝子型解析 ~マーカー遺伝子と連鎖地図~ | 標準 |
問題I(c) | 染色体逆位とマーカー遺伝子組み換え | やや難 |
問題II(a) | サクラソウ集団に見られる多型分布と進化モデル | やや難 |
問題II(b) | ヤマトシロアリ繁殖メカニズムの遺伝子型に基づく推定 | やや難 |
問題III(a) | C4植物の二酸化炭素固定戦略とストレス応答 | 標準 |
問題III(b) | ヒトの大脳生理学的知見と考察 | 標準 |
問題IV(a) | 制限酵素地図の作成 | 標準 |
問題IV(b) | 遺伝子クローニングの基本操作とcDNA作出手順 | 易 |
問題IV(c) | ミトコンドリアのATP合成酵素における分子モーターの回転速度 | 標準 |
大問 | 設問内容 | 難易度 |
---|---|---|
問題I(a) | 植物における活性酸素障害と紅葉 | 標準 |
問題I(b) | ある家系における遺伝子疾患追跡調査とX染色体不活性化 | 難 |
問題II(a) | 有性生殖, 無性生殖, 単為生殖について | 標準 |
問題II(b) | マウスの精子形成遺伝子と不妊雄をめぐる遺伝 ~トランスジーン挿入~ | やや難 |
問題III(a) | 恒常性とホルモン調節 | 易 |
問題III(b) | 末梢神経応答と筋収縮における至適長 | 標準 |
問題IV | 金華山島における二ホンジカ個体群密度調査と種間関係 | やや難 |
大問 | 設問内容 | 難易度 |
---|---|---|
問題I(a) | 初期の免疫寛容システム | やや易 |
問題I(b) | 細胞間シグナル分子と転写誘導制御の解析 | 標準 |
問題I(c) | 突然変異誘導における優性変異と劣性変異 | やや難 |
問題II | 一倍体生物を用いた変異体追跡実験と遺伝 | やや難 |
問題III(a) | 視覚解像度をめぐる仕組み ~大脳皮質と網膜~ | 標準 |
問題III(b) | 植物の外部刺激応答 | やや易 |
問題IV(a) | 培養条件における細胞増殖速度の相違 | 標準 |
問題IV(b) | 湖表層におけるプラクトン密度変動と食物連鎖 | やや難 |
大問 | 設問内容 | 難易度 |
---|---|---|
問題I | カロテノイド生合成遺伝子の連鎖と組み換え | 標準 |
問題II(a) | 植物細胞の柔組織域と表皮域の膨張比測定と浸透圧の関係 | やや難 |
問題II(b) | 膜透過性化細胞を用いた核移行ペプチドの追跡試験 | やや難 |
問題III | 森林生態系と湖沼生態系をめぐる変化と安定性 | 標準 |
問題IV | 細胞増殖因子のタンパク質リン酸化をめぐるがん細胞の動態 | 難 |
大問 | 設問内容 | 難易度 |
---|---|---|
問題I(a) | オーストラリアの単孔類と現生有袋類をめぐる適応放散と進化的考察 | やや難 |
問題I(b) | 河川と河畔林の食物網におけるハリガネムシの位置づけ | やや難 |
問題II(a) | トウモロコシの遺伝(胚乳/胚/種皮における連鎖と組み換え) | 難 |
問題II(b) | ヒト血液型における糖鎖抗原生合成遺伝子と集団遺伝 | やや難 |
問題III(a) | 多細胞生物の起源と刺激応答 | 標準 |
問題III(b) | がん治療における抗体純度とハイブリドーマ選択 | やや難 |
問題IV(a) | プロウィルスDNAの挿入部位同定試験 | やや難 |
問題IV(b) | がん細胞におけるグルコース輸送異常とミカエリス・メンテン速度式 | やや難 |
近年の傾向[編集]
本学の出題姿勢が他大学と一線を画しているのは、「アカデミック色の強いテーマを軸にした発想力重視の内容」を貫いている一点に尽きる。 2007年度は解答時間に変更があった年であったが、難易度自体に変化はなかった。2008年度は問題量が増加し、全体としてやや難化した。2009年度以降も引き続き高水準の出題を想定して対策を練ったほうが得策である。 2012年と2013年にリード文の分量と論述量が大幅に増加し難化水準になった。 遺伝計算(マーカー交雑)や遺伝子型の判別(電気泳動による可視化)は頻出事項であり、2015年では流行のエピジェネティクスを反映した新規性の高い遺伝子分野の出題がなされた。2016年には遺伝現象や遺伝子型を設問のゴールとしてではなく、考察のための指標として運用させることで、真社会性の発達の仕組みや植物相の分布を矛盾なく解き明かすといった極めて学術的な出題がなされた。2017年は重力刺激と植物伸長現象の関係を、三角関数を用いて考察する数学色の強い出題がなされた。さらに2018年度にはSNP座位と集団遺伝学を複合させた学術性の高い出題がなされた。2019年度では発生学におけるモルフォゲン拡散を微分方程式を題材に考察する厳密性にこだわった出題が目を引いた。出題形式の独特さと受験生物という枠組みでの汎用性の低さから演習用の問題集で過去問が引用されることは少なく、このため過去問に取り掛かる時期があまりに遅いと他大学とのギャップの大きさに意表を突かれて萎縮してしまう事例が教育現場では後を絶たない。また一般的な演習問題集の掲載水準を超えたレベルの問題もあるため、とくに現役生は早めに過去問演習で感覚を養っておくことは重要である。 単純に受験というカテゴリで解かせるための問題を作っているという意識は恐らく入試作部会にはなく、研究者の洞察力を見極めるための題材をいかに提供するかにフォーカスしている節があることはかねてより各大手予備校関係者も推察している通りである。
対策総説[編集]
教科書と資料集を熟読し、一般的な傍用問題集を併用して基礎固めと問題演習をすることを勧める。京大の生物は全体として難易度は高いものの、基礎的な問題もかなり混じっているので、それらを取りこぼさないようにするためにも万全な基礎力の養成は不可欠である。また日々の授業で行われる実験には積極的に参加し、実験機器・実験データの扱い方や描図のノウハウなどを習得するとよい。さらに、「Newton」などの科学雑誌で生物関係の記事があればそれを読んでみるのも良い。ブルーバックス等でもそういった生物関連の書籍がいくつもあるはずだから、興味があれば読んでみてもいいかもしれない。そののち赤本に取り組んだり、論述面に不安があれば東京書籍の「大森の生物論述問題集」等といった論述用問題集を使用するとよい。なお、実際に制限時間内に全問解くのは難しいと思われるので、他教科との兼ね合いも考えつつ、時間配分などを考えていくことを勧める。大手予備校主催の実戦系の模試はやや難しめの年度のレベルを水準に作成されていることが多いため、とくに夏の段階で低得点にとどまっていても悲観しすぎないようにしたい。とくに近年でも100点満点で平均点が25点前後で最高点が57点などという目を疑うようなケースも見受けられるが、これは本番より採点が厳しく、かつ難度の高めの問題の比重が高めに設定されているために生じる現象である。過去問は2012年、2013年など難化水準年度を除けば、じっくり考える時間を確保させるためにこれよりは明らかに分量は抑えられている。論述比重が大きい性質から得点分布や標準偏差は国語の分布と似通ったものになる。
ある程度の学習量が達成されていれば本学物理の雪崩失点のようなものにおちいることは少ないため低得点をとることは稀になり、ある一定の点数を下回る大失敗の可能性は少なくなる。ただその反面、本学の国語の得点率と同様、高得点を獲得することはかなりの勉強量を割いたとしても現実的ではない。物理や化学と異なり、とくに理科の試験時間が延長されるようになった2007年度以降ではトップレベルの学力層でも8割を超えることはまずない。言葉の齟齬をなるべく排して、過不足なく論述としてまとめるある意味国語に通じる厳しさを認識して答案作成を意識しなければならない。
駿台予備校が毎年出版している「京都大学への理科」(実戦系模試の過去問3カ年分)には生物の掲載も見られるため、過去問演習と並行して演習量を稼ぎたい場合の対策にはうってつけである。このレベルの問題は市販の問題集には存在しないため、余力がある場合の予想問題集として取り組むことはかなり有効である。 またここで掲載されている模試の過去問は隔年であるため、隣接する年度のものを二冊買うことで6回分の実戦色の強い予想問題演習を行うことが可能である。(例えば2018年版と2019年版の二冊を学校の図書から借りるなど/書店や通販でも購入可)
演習対策[編集]
※以下の表はスマートフォンの場合は横画面でのスクロールを推奨
タイトル | 出版 | 分類 | 難易度 |
---|---|---|---|
セミナー生物 | 第一学習社 | 網羅型知識確認問題集 | ★☆☆☆☆☆☆☆☆☆ |
理系標準問題集生物 | 駿台文庫 | 精選問題集(知識型メイン) | ★★☆☆☆☆☆☆☆☆ |
大森徹の生物 遺伝問題の解法 | 旺文社 | 講義系分野別問題集 | ★★★☆☆☆☆☆☆☆ |
大森徹の最強問題集159問 生物 | 文英堂 | 精選問題集(知識+考察型) | ★★★★☆☆☆☆☆☆ |
生物新・考える問題100選 | 駿台文庫 | 考察型問題集 | ★★★★★★☆☆☆☆ |
生物[生物基礎・生物] 思考力問題精講 | 旺文社 | 考察型問題集 | ★★★★★★☆☆☆☆ |
大阪大学への理科 | 駿台文庫 | 阪大予想問題集 | ★★★★★★★★☆☆ |
東京大学への理科 | 駿台文庫 | 東大予想問題集 | ★★★★★★★★★☆ |
京都大学への理科 | 駿台文庫 | 京大予想問題集 | ★★★★★★★★★★ |
一般に、生物入試は難関大学になればなるほど考察問題の比重が高くなる。
私立大学などであればマニアックな知識のストックが合否を分ける半ばクイズと化した出題が横行していることもあるが、国立大学で求められるのは高校レベルの標準的知識をもとにした論理的思考力や推論力である。
「生物は暗記でゴリ押しできる」,「生物は一夜漬けに最適な科目」,「考察問題は知識がほとんどいらないから、最悪無勉強でも運が良ければ本番で高得点が狙える」といった聞いてあきれるようなことを口にする生徒の多さに驚かされるばかりであるが、それどころか高等学校の教育研修会の現場においてさえも、こうした誤った認識で凝り固まった教員が毎年必ず一定数見受けられるのも考え物である。
中学課程までの生物という科目への認識に引きずられて、このような誤った認識のもとで安易に生物を選択しようとする生徒が本当に多いのである。京都大学を志望する受験生であれば、こういった安易な風説にまどわされることなく愚直に思考力を磨いていかなければならない。
生物は知識問題、考察問題の二つに分類できる。
前者は教科書の熟読と『セミナー生物』や『リードα生物』といった定期テスト用の学校指定問題集などで平素から学習を積み重ねていれば自然と身についていくものである。
ただ物理や化学と比べて分野数や生物用語の数だけとっても覚えるべき量だけでも膨大である事実は覆らないので、一度覚えたとしてもすぐ忘れてしまわないよう、換言すれば短期記憶ではなく長期記憶として焼き付けておくためにも地道な勉強姿勢が求められる。
というのも、生物知識が長期記憶として定着していないと考察問題を解く際にまったく使い物にならなくなるからである。
知識を知識として問う単答問題の寄せ集め(一般的な学校の定期テスト)であればそれでも事足りるが、考察問題では知識を運用する能力が試されることになるため、スムーズな予備知識との思考回路の接続が果たされて柔軟な引き出しがかなわないうちは、考察演習も空回りするだけである。
考察問題は思考力が試されるが、思考力だけではなく、知識に裏打ちされた思考力が必要とされることを肝に銘じることである。
予備知識の長期記憶化を怠る言い訳として、思考力という言葉を用いることも怠惰な受験生のありふれた常套句である。
できれば高校三年になるまでに、多少の穴はやむをえないとはいえ知識はある程度固まっていることが望ましい。
受験年度の一年間は考察問題対策を軸に演習を進めていかないと、本番までに間に合わなくなる。考察問題への慣れは一朝一夕に身に付くものではない。相当の根気と修練を積んで、ようやく試験で通用する能力をたずさえて、本番の土俵に立つことができる。
学校の授業と並行して、高2のうちから一般的な受験生物の入門書、演習書に自学自習で取り組んでおくと後々楽である。
高3に差しかかり、周りの生物選択者が考察問題に本格的に乗り出しているなかで、自分だけまともに知識さえ身についていないという遅れを感じる状況は、ただでさえ受験というストレスを抱えている受験生にとって、精神衛生的にもあまりよくない。先を見越して長期的な学習計画を立てるようにしたい。
駿台文庫の『理系標準問題集生物』は受験生物の入門演習として、文英堂の『大森徹の最強問題集159問 生物』は標準的な大学入試生物の問題集として最適である。
『大森徹の最強問題集159問 生物』の問題には知識問題と標準的で無理のない考察問題が一つの大問にバランスよく織り交ぜられており、収録問題のレベルは河合塾の全統記述模試のレベルと近い。大森徹執筆ということもあり、解説も初学者に寄り添っているため、考察問題に最初に触れる問題集としてはふさわしいといえる。
近年は転写発現といった分子遺伝が出題の主流となりつつあるが、依然としてメンデル遺伝を源流とする古典遺伝学の出題も続いている。
遺伝法則の記述が高等学校教育課程から中学教科書へと移行したことで古典遺伝学の重要性が薄れることが一時期言われ、実際に共通一次テストにおける遺伝問題の配点比は著しく減少した。
しかしながら、メンデル遺伝をはじめとする遺伝諸法則をめぐる扱いについて、高等学校新課程審議会(2015年度施行)において京大は高等学校の指導要領の改訂に真っ先に異議申し立てを行った大学としても知られ、研究分野の源流を軽視する文部科学省の姿勢を当時痛烈に批判した。
それが理由となっているかは不明であるが、近年でも京大は2012年(大問2(a)),2013年(大問1),2014年(大問2),2015年(大問2(b)),2016年(大問1(a),(b),(c))と新課程をまたぐ過渡期においても古典遺伝学の重厚な問題を示し合わせたかのように途切れることなく出題し続けている。不本意な高等教育課程の改訂をめぐる牽制という穿った見方をすることもできるが、それを抜きにしても京大が研究分野の歴史的意義を非常に重んじていることの現れともいえる。
とはいえ、古典遺伝学の計算や理解に苦手意識をもつ受験生は非常に多いため、『大森徹の生物 遺伝問題の解法』などのわかりやすい講義系参考書で、応用の利く根本的理解を徹底しておくことである。
高3になる頃から、本格的でハイレベルな考察演習に着手することになるが、最初のうちは時間制限を設けず、ひたすら自力で考え抜いてみることが大切である。
時間さえあれば自力で答案を仕上げられるというポテンシャルを養うことが第一の目標である。
実力がともなわないうちから、時間制限をもうけてしまい、まともに考えがまとまらないうちに解答を確認してしまう解き方ではどれだけ演習を重ねても力がつくことはない。
駿台文庫の『生物新・考える問題100選』は駿台全国模試の改題作が多数収録されており、それなりにまとまりのあるリード文やデータを解釈して論述答案として仕上げる練習にうってつけである。大学過去問ではなく駿台オリジナル問題がメインであるため、他の問題集にはない質の高い考察演習の場となろう。
また、旺文社の『生物[生物基礎・生物] 思考力問題精講』も目新しいトピックスを扱った考察問題を多数収録しているため、初見題材の演習量をまとまって確保できる良書である。
この二冊でそれなりに太刀打ちできれば、一般的な難関大学生物(北大・東北大・名大・九大)対策は十分仕上がっている。
高3秋以降、本格的な実戦演習を視野に入れ始める時期には自学自習においてもテスト演習を繰り返すことになるが、その際の教材としては、いずれも駿台文庫から出版されている三冊『大阪大学への理科』、『東京大学への理科』、『京都大学への理科』が最も完成度の高い演習書となる。
東京大学、京都大学、大阪大学の三大学は大学入試生物において、非常に難度の高い問題セットを組む大学の筆頭である。
大学入試生物の最高峰の演習を望むのであれば、京大志望者であっても東大生物、阪大生物の演習は価値あるものとなる。
上記三冊は過去問集ではなく、各大学に特化した駿台生物科オリジナルの予想問題集であり、実戦模試の生物過去問が各3回分収録されている。平均点データ、得点分布表、各大問ごとの成績、配点、採点基準などが解説とともに詳細にわたって掲載されているため、過去問以上に至れり尽くせりの内容となっている。
難度の高い順に、「 京都大学 > 東京大学 > 大阪大学 」であるため、『大阪大学への理科』、『東京大学への理科』、『京都大学への理科』の順に解き進めるのが望ましい。
ただしここでの難易度はあくまで「制限時間を取り払った条件下で最後まで解き切る難しさ」という基準で測った難易度であり、限られた試験時間内で取捨選択を含めて上手く立ち回る試験としての難しさという意味では東京大学に軍配が上がる。
東京大学の生物は膨大な長さのリード文で、必要な情報の取捨選択と緩急つけた斜め読みの技術など、極めて手際の良い処理能力を発揮できるか否かがそのまま得点に直結する出題構成である。
扱われるテーマもかなり掘り下げられたものが選ばれているが、東大の場合、考察の小問数も多く設定され、問われ方も「記号式選択問題」,「考察文要旨の完成式空所補充」,「描図」,「短文論述」といったように極めて細分化された誘導が小問を通じてなされることで受験生の負担を軽減する親切設計がなされているのもまた特徴である。最終的な考察地点がかなり高いラインであっても、このような設問を通じた誘導が補助となることでその場でのひらめきや思考力の柔軟性は京大のようには求められていない。
また各大問の前半に占める知識問題のバリエーションも京大以上に多彩であるため、最低ラインの得点の上積みのハードルは見かけほど厳しくはない。とはいえ東大も、総合的な学力がかなり高いレベルで要求されていることに変わりはなく、そつのないオールラウンダーと相性のいい問題セットである。
その一方で京都大学の生物はリード文の長さはほどほどであり、データを含めた精読が可能な作題となっているものの、受験生の思考の足跡を反映させにくく、極めて得点として結びつけにくくなっている。
京大の場合、考察問題の問われ方が東大に比べてあまりにもシンプルで、その多くが題材ごとにわずか2~3問の「字数制限無しの論述問題」のみで構成されている。東大が記号式問題や、用意された考察文に対しての空所補充完成で敷居を下げたり、設問そのものを次の設問のためのヒントとして有効活用させている作りになっているのとは打って変わって、京大では設問そのものがヒントとして機能することがない。
難しめの題材を、「設問を通じて手とり足とりガイドしてくれる」あるいはサイクリングの自転車でいうところの「補助輪」や「滑落防止のロープや目的地のための案内板」を張りめぐらせてくれるのが東大生物であるならば、京大生物はまぎれもなく「未開拓のフロンティアを助っ人や指針無しに自らの足だけで踏破する力」を試す出題のなされ方である。
学生の自主性や自立心を重んじる京都大学の方針が惜しみなく発揮されており、長きにわたりこの傾向で一貫していることからも研究者の資質を備えた人材の選抜にはこれが最も有効であるとの本学の確信が見て取れる。
ただ特に本番においては、難しい考察問題への過度な没頭はリスクが大きく、引き際も肝心である。
難問に対しての心理的駆け引きにおいて、“コンコルドの誤謬”は受験生がおちいりやすい罠であり、試験中に受験生が投資する時間対効果を忘れてはならない。
阪大生物は東大、京大のどちらに傾向が近いと問われれば京大に近い出題構成である。
年度によっては京大に匹敵する難易度を誇る問題セットが組まれることもあるが、東大京大と比べて出題される分野が限定的で、似たようなテーマが繰り返し出題されることもあるため、過去問対策によって効果を得やすい。これは東大や京大ほど生物系の研究室が多くなく、作題教官のカバーしているアカデミック領域の癖や傾向が掴みやすいためであると考えられる。
このためか生態学や集団遺伝学がテーマとなることは阪大では少ない。
一方で、例えばシナプスからのアセチルコリン分泌が小胞単位で放出されることを扱ったテーマなどは、かなりリピート率の高いものであり、阪大では常連となっている。神経生理学や恒常性をはじめとした内分泌学や、代謝や免疫といった医学系分野の内容にかなり偏った出題が目立つ。代謝分野においては化学浸透圧説について電子伝達系を絡めて問う内容が何度も類題として形を変えながら出題されている。免疫系の内容も目立ち、医学部教官に作題が一任されやすい阪大の入試委員会の背景が垣間見える。また年度や大問ごとの難易差が激しいこともあり、時間をかけるべき設問とそうでない設問を見分ける能力がかなり問われている。
考察論述は字数制限の代わりに行数制限が設けられているが、全体として東大よりも論述量は多い。
要求されるトータル論述量では例年「 京大 > 阪大 > 東大 」となっている。
京大入試と生物書籍[編集]
冒頭で軽く述べたように、京大の生物研究はテーマが独特であるため、過去問を一読すれば作題に関わった教官の特定は他大学以上に容易である。
特に各大手予備校の生物科には特定班が常駐しており、京大模試作成に際しての参考データとして、どこの学部のどの教授が作題に関与していたかはデータベース化されていることが多い。
2010年1(b)に出題された視覚物質のアミノ酸配列を題材にした分子系統樹は、理学部の分子生体情報学分科の教官による「オプシン類の多様性解析」のテーマを下地にした出題であろう。
また京都大学名誉教授として名高い加藤真は日本有数の分類学の大家であり、日本の生態学分野の大御所として知られる権威であるが、研究テーマの一つとして「送粉共生系をめぐるサクラソウの多型」が有名である。サクラソウ多型分布を題材にした2016年度2(a)は総合人間学部の加藤真教授が作題を担当なされたことがうかがえる。ちなみに加藤真教授は植物採集を趣味にしていることで知られ、京大講義や総合人間学部の課外実習においても、貴船川流域を拠点に植物分布の観察を行うことが多い。駿台は加藤真教授の退官に先立って、出題担当がそろそろ回ってくるだろうという推測のもとで加藤真教授の作題を想定した「貴船川流域におけるギシギシ属植物の分布と非還元配偶子」をテーマにした予想問題を2015年秋の京大実戦模試において出題していた。2016年度に加藤真が作題に関わることを見事に予想したという点で的中ともいえる快挙であったが、テーマでの的中にまでは至らなかった。
さらに同年の2(b)のヤマトシロアリの繁殖メカニズムについては京大農学部教授でターマイト・マニピュレーターである松浦健二の「ヤマトシロアリ繁殖メカニズムの分子遺伝学的解明」が該当している。
試験問題のリード文中のデータとして明示されている電気泳動のバンドのデータは、松浦健二著の岩波科学ライブラリーから刊行されている『シロアリ-女王様,その手がありましたか!』という一般向け生物書籍にも同一の掲載が見られる。
なお、この2016年は京都大学敷地内の京大博物館において、2016年07月13日 ~ 2016年10月30日の三か月間にわたって「虫を知りつくす 京都大学の挑戦」というお題目のもとで大規模な催しがなされ、その特別展示に松浦健二教授全面監修のもとで生きたシロアリの巣の大規模展示がなされた。図らずも、赤本に掲載された最新の京大生物過去問が、この祭典の目玉のPRを兼ねていたことで見事な伏線回収であると当時一部で話題を呼んでいた。というのも、松浦教授自身がTVやラジオを始めとしてメディア露出が多く、衆目をあっといわせる仕掛け人的な人物であるため、これも狙いすました前例のない広報戦略であったのであろうと、赤本を広告塔として逆手に取った手法には受験業界の内外問わず、サプライズとしての称賛の声が数多く寄せられた。
広告費ゼロ円で、受験生および教育業界というピンポイントなターゲット層にヤマトシロアリ繁殖を知らしめた。
加えて、松浦教授は新型コロナウィルスの世界的蔓延を見越して、大学によるZoomの一括導入が踏み切られることに先立ち研究室の独断専行でYoutubeチャンネルをいち早く立ち上げ、シロアリや科学リテラシーについての質の高い動画を精力的に配信し続けている。その人並み外れた行動力や決断力は研究者という枠組みを超えて、もはやメディアを巧みに活用して教育の先陣を切るエンターテイナーの域へと達している。
また京大理学部において現在、ノーベル賞最有力候補者として名が挙がっている森和俊の一大研究テーマ小胞体ストレスについての出題も、いつかは満を持してなされるであろうと受験業界では囁かれ続けている。細胞生物学分野の一大メカニズムとしてアカデミックには広く受け入れられた学説であり、本学受験者は森和俊著の『細胞の中の分子生物学 最新・生命科学入門 』(ブルーバックス)を一読し、小胞体ストレスについて生物学的見聞を広めておくのもよい。あくまで受験対策というより、最先端の論理的思考や研究のあり方について一端を垣間見ることができる。
また高等学校生物において掲載が見られる植物ホルモン「フロリゲン」の存在を世界で初めて突き止めたとされる京大農学部教授であり、“すべてのシロイヌナズナの祖父”と呼び声の高い荒木祟も京都大学は擁しており、シロイヌナズナ研究の世界的権威である植物生理学分野からの出題もフロリゲンなどを題材になされる可能性も十分にあると駿台の京大突破レクチャーで口述があった。
このように京都大学は理学部、農学部、総合人間学部、薬学部、医学部の5大学部に多数かつ多彩な研究テーマを掲げるユニークな生物学研究室を擁しており、このため出題テーマも他大学以上に多岐にわたるのである。
上記学部の生物研究室のホームページの研究概要を過去問のリード文と照らしてみると、一般受験生であってもどこの研究室が作題に関わったかを類推することは比較的容易である(テーマがユニークであるため)。
受験勉強の合間の息抜きに、たまに研究科ホームページをのぞいてみるのも良いだろう。
地学[編集]
概説[編集]
京都大学の地学の問題は、受験生の地学だけに止まらず物理・化学の総合的な力量を見る上で非常に良くできた問題であり、教科書と資料集を中心に着実に勉強を進めれば充分合格点は確保できると考えられる。問題形式に関しては大きな特徴として、物理や化学に比して穴埋めが少なく、論述・記述問題が大きなウエイトを占めることが挙げられる。また、計算問題は計算過程も解答欄に記述するよう指示されるので、論述・記述対策は地学受験者にとって必須である。
問題[編集]
地学の問題は全部で4つの大問から構成される。1題目は例年論述力と高度な計算力を要求する天体の問題が出題される。2題目と3題目は固体地球や海洋、気象分野の問題が出題される。(年によっては2題目も天体分野になることがあったり、3題目も地質分野になったりすることがある。)4題目は地質・岩石分野から主に出題される。
頻出分野[編集]
天体分野ではケプラーの法則(惑星の運動)や銀河の成り立ち、星の明度、太陽の活動とエネルギー、恒星の物理的性質。地質分野からは断層、地層、地震、火成岩、示相・示準化石。固体地球、海洋分野からはプレートテクトニクス、地衡風、太陽高度と日射量、大気圏の気温分布、地球内部の構造、ジオイド関連の事項などがよく取り上げられる。
難易度[編集]
京大の地学は、要求される知識自体は教科書や資料集程度で充分ではあるものの、受験生の地球科学だけに止まらず理系分野全般に対する幅広い教養と、与えられた資料に対する考察力、さらに数学力が存分に試される良問ぞろいであることには違いなく、付け焼刃の知識では合格点を確保するのは難しいと考えられる。
近年の傾向[編集]
2007年度では理科の試験形式が変更された年であったが、難易度や傾向に大きな変更は見られなかった。2008年度には問題量が増加したため、やや難化した。また、今年の問題で天文分野の素材として「ニュートリノ」が取り上げられたことも記憶に新しい。
対策[編集]
先ほども述べたとおり、京大地学の問題は概して難易度が高い。また、物理学や化学に対する深い理解も必要である。このような京大の問題に対抗するには、物理(特に力学)や化学(特に無機化学)、地学の教科書の内容を理解するのは当然として、地学分野に関する読み物やテレビ番組等を積極的に活用して、地学分野に慣れ親しんでおくことも大切である。上に述べたことは一見受験にはあまり関係のないように見えるが、そこで養われた雑学的な知識は地学の勉強を進める上でも大きな底力になるはずである。というのも受験地学はあくまでも大きな学問体系としての「地球科学」の表面をさらったものにすぎないからである。受験生は「受験地学」というカテゴリーにとらわれることなく、「地学」という分野そのものを「楽しむ」くらいの気持ちで勉強に取り組むのが丁度いいと思われる。受験期に際しては、問題集を一通り終わらせた後に赤本や青本等を使って過去問を出来る限り解いておきたい。他の理科分野と異なり地学はその性質上、奇抜で凝った問題を作りにくいため、過去の類題を利用することがよくあるからである。余力があれば他大学の地学の問題も予備校のホームページ等から入手してやってみるとよい。演習量自体はそれで充分に補える。
模試日程詳細[編集]
模試概説[編集]
京大対応模試として、河合塾の京大入試オープン[3]、SAPIX YOZEMI GROUPの京大入試プレ、駿台・Z会の京大入試実戦模試(いずれも年2回実施)と、東進の本番レベル模試(年内3回と年明け1回の4回実施)がある。
問題の質、レベル、母集団規模で最も本番に近いものは河合塾主催の京大入試オープンおよび駿台予備校主催の京大入試実戦模試であり、本学志望者は必ず受験しておきたい。
東進は答案のスピード採点と返却をウリにしているものの、アルバイトによる急ピッチの採点であるため採点の質や精度については疑問が残る。また東進の京大模試は一部数学において本番と傾向や雰囲気の異なる問題が散見され、レベルもやや逸脱気味であると評されがちである。
また代ゼミは数学の答案採点において不備が目立ち、母集団も上位層の受験が目立たないため、申し込むかどうかは各自のスケジュールや計画次第といえる。
夏に実施される河合塾と駿台の初回の京大模試は、半ば冷やかし目的で東大志望者やその他難関大志望者が受けることが多く、母集団の裾野が広がっている分平均点が低く出やすいため、成績資料の分析に当たっては注意が必要である。とくに塾生特典として模試の受験料無料化の煽り文句に惹かれて、特に思い入れもなく受験する層も見られるため、夏に高めの判定が出ても油断しないこと。秋実施の模試でこの現象は落ち着き、正規の京大志望者がのみが集う精度の高い母集団が実現される。
時期 | 模試 | 主催予備校 | 母集団数 |
---|---|---|---|
7月中旬 | 第1回京大本番レベル模試 | 東進ハイスクール | 少 |
7月下旬 | 第1回京大入試プレ | 代々木ゼミナール | 中 |
8月下旬 | 第1回京大入試オープン | 河合塾 | 最多 |
8月下旬 | 第1回京大入試実戦模試 | 駿台予備校 | 最多 |
8月下旬 | 第2回京大本番レべル模試 | 東進ハイスクール | 少 |
10月中旬 | 第3回京大本番レべル模試 | 東進ハイスクール | 少 |
10月下旬 | 第2回京大入試オープン | 河合塾 | 多 |
11月上旬 | 第2回京大入試プレ | 代々木ゼミナール | 中 |
11月下旬 | 第2回京大入試実戦模試 | 駿台予備校 | 多 |
1月下旬 | 第4回京大本番レべル模試 | 東進ハイスクール | 少 |
2月上旬 | 京大本番プレテスト | 河合塾 | 少 |
京大模試の過去問[編集]
あまり一般に知られていないが、京大入試オープンの過去問は河合出版から『京都大学入試攻略問題集』というタイトルで科目別に販売され、京大入試実戦模試の過去問は駿台文庫から『京都大学への〇〇』というタイトルでこちらも科目別に販売されている。
前者の河合は“紫本”、後者の駿台は“薄い青本”という通称が一部で交わされているが、いかんせん出版部数が限られており、受験業界といえど認知度がそれほど高くない。これは少々問題で、当の京大受験生であってもその存在すら知らぬまま直前期を迎えるという事例も生じてしまっている。せめて京大受験指導の責務を担う指導者であれば、たとえ進学校ではなくとも、また個別学習指導塾であっても本来ならば知っているべきである。
受験参考書の品ぞろえの豊富な書店や大型書店であれば置かれていることが多いが、地方などで近所に書店が充実していない環境である場合はアマゾンなどから購入可能である。
実戦演習や予想問題演習としては格好の題材である。
またいずれもすべての科目について、解答解説の質が極めて高く、指導教員の立場からも非常に目を見張るものがある。
さらに各設問の細かな採点基準、各回の平均点データ、詳細な大問別平均点、偏差値分布表なども掲載されており、自学自習のフォローアップも徹底されている。
直前期は時間に追われ新しい演習に手をつけることによる弊害も多いため、気持ち的にも余裕があり学習計画を柔軟に動かしやすい夏頃から取りかかるのが賢明である。
※以下の表はスマートフォンの場合は横画面でのスクロールを推奨
タイトル | 販売元 | 収録回数 | 新年度版発売 | 備考 |
---|---|---|---|---|
実戦模試演習 京都大学への英語 | 駿台予備学校 | 6回 | 7月 | 付録の採点基準が細かく自己採点がしやすい。 ただし本試の基準に必ずしも即しているわけではない。 |
実戦模試演習 京都大学への数学 | 駿台予備学校 | 5回 | 7月 | サンプリングした答案の採点講評は一読の価値がある。 理系数学と文系数学をまとめて収録。 |
実戦模試演習 京都大学への国語 | 駿台予備学校 | 5回 | 7月 | 付録の採点基準が丁寧である。 自学自習を意識した作りになっている。 |
実戦模試演習 京都大学への理科 | 駿台予備学校 | 3回 | 7月 | 物理、化学、生物の3科目について各3回分収録。 本試よりやや難しいセットが多く、高地トレーニング向け。 |
実戦模試演習 京都大学への地理歴史 | 駿台予備学校 | 3回 | 7月 | 過去問に加えての論述問題のトレーニングに最適。 過去問解説よりも採点官の目線を意識しやすい。 |
大学別入試攻略問題集 京都大学 英語 | 河合塾 | 6回 | 10月 | 英文解釈の単語や語彙の訳出は、幅広い表現に比較的寛容。 一方で、構文の取り違えは採点対象外扱いで大きく減点。 |
大学別入試攻略問題集 京都大学 数学 | 河合塾 | 6回 | 10月 | 途中点の加算は、採点者の裁量に任せる部分が大きい<採点基準C表記>。 採点基準にとらわれるより、完答できる問題を選定する訓練を重視すること。 文理共通収録。 |
大学別入試攻略問題集 京都大学 国語 | 河合塾 | 5回 | 10月 | 付録の採点基準が丁寧である。 自学自習しやすく、過去には古文で本文的中の実績がある。 |
大学別入試攻略問題集 京都大学 理科 | 河合塾 | 4回 | 10月 | 物理、化学の2科目について各4回分収録。 化学は本試よりやや難しいセットが多く、高地トレーニング向け。 |
大学別入試攻略問題集 京都大学 地理・歴史 | 河合塾 | 4回 | 10月 | 過去問に加えての論述問題のトレーニングに最適。 過去問解説よりも採点官の目線を意識しやすい。 |
各模試の特徴[編集]
以下で述べる基準とは、特に断りがなければA判定の得点基準を指す。また、本番で取るべき点数とは、京大受験生がセンター試験で9割を確保したとして、合格最低点から受験生のセンター試験における持ち点を差し引いた点数とする。但し、合格最低点は年によってかなり変動することを注記しておく。
- 京大入試オープン・[4]
- 以下は、旧名称・京大即応オープンも踏まえた、現行の京大入試オープンに関する情報である。
- 母集団が大きい(実際に京大に出願する人数の9割前後が受験する)。
- 問題の難易度は本番とほぼ同じである。
- 判定基準となる点数は本番で取らねばならない点数より低めに設定されており、A判定のラインは他の模試に比べて甘い。
- 採点基準の細かさは京大実戦・京大プレの中間であり、採点が最も本番と近いと言われている。
- 判定はABCDの四段階評価である。
- 受験者は成績表と答案返却後、無償でZ会によるフォローアップ問題の添削を受けることが出来る(提携関係を解消した関係から、このサービスは2018年度実施分をもって廃止)。
- 秋の第2回の模試は京都大学のキャンパスで受験することができる。
- 年2回実施されるが、2回とも1日完結による実施である(本番は、2日間で実施)。
- 以下は、旧名称・京大即応オープンも踏まえた、現行の京大入試オープンに関する情報である。
- 京大入試実戦模試(2019年度実施分より、駿台・Z会共催として実施、以後の同名称はこれを前提とする)※2018年度にZ会と業務提携をする関係になったことから、2019年度実施分より駿台・Z会共催の模試として実施される予定。京大入試実戦模試受験者限定として、新たに京大実戦ブラッシュアップ講座(発展問題添削指導 + WEB発展講義)が新たに開講される予定である。
- また、以下は旧・京大入試実戦模試(駿台独自開催。2018年度実施分までで、以後の同名称はこれを前提とする)における情報である。
- 母集団が大きい(実際に京大に出願する人数の9割前後が受験する)。
- 問題の難易度は本番とほぼ同じである。
- 作題チームのメンバーチーフがいずれの科目も一流講師陣でかためられており、受験生以外の模試受験も目立つ。
- 化学の解答解説の詳しさとページ数が群を抜いておりブランド化されている。
- 判定基準となる点数は本番で取らねばならない点数より低い。
- 採点基準が細かく、採点が厳しい。
- 判定はABCDEの五段階評価である。
- 年度によるが、夏の第1回の模試は京都大学のキャンパスで受験することができる。
- 年2回実施されるが、2回とも1日完結による実施である(本番は、2日間で実施)。
- また、以下は旧・京大入試実戦模試(駿台独自開催。2018年度実施分までで、以後の同名称はこれを前提とする)における情報である。
- SAPIX YOZEMI GROUPの京大入試プレ
- 母集団は京大即応オープンや京大実戦に比してかなり小さい(実際に京大に出願する人数の3割~5割前後が受験する)。
- 問題の難易度は本番や京大即応オープン・京大実戦より易しい。
- 問題の的中研究と広報にかなりのこだわりが強く、その喧伝がややセンセーショナルに過ぎることもままある。
- 判定基準となる点数は本番で確保せなばならない点数より高めに設定されており、A判定などの高評価は他の模試よりも出しにくい。
- 採点基準は実戦やオープンに比べて緩く、採点も概して甘めである。
- 判定はABCDEの五段階評価で、さらに合格可能性がパーセンテージで具体的に出るのも大きな特徴の一つである。
- 年2回実施されるが、2回とも1日完結による実施である(本番は、2日間で実施)。
- 東進ハイスクールの京大本番レベル模試
- 母集団規模はかなり小さい。
- 年に4回実施と、他の予備校に比べて倍のラインナップがある。
- 問題の難易度は本番とほぼ同じか、若干それを上回る程度であるが、問題の質が安定していないとの評あり。
- 数学の難易度は本番よりかなり高いと考えて良い。(これは東進の模試全般に言えることである。)
- 英語の採点は他の予備校の京大模試と比べてかなり甘い。
- 判定基準となる点数は本番で取らなければならない点数より高めに設定されている。
- 採点基準の細かさは京大即応オープンとほぼ同じだが、厳しさの面では、京大実戦とほぼ同じである。
- 判定はAライン、Bライン、何もつかない、の3段階評価である。
- 3大予備校の京大模試が人数に応じて判定を出す、相対評価であるのに対し、この模試は、あくまで本番での合格最低ラインまで後何点かを示す、絶対評価である。(従って、大多数の受験者が合格最低ラインを超えていない6月の第1回と9月の第2回で、Bライン以上の判定が付くのは、京大即応オープンや京大実戦で成績優秀者の欄に掲載されるような人のみである。)
- 模試の成績表の返却が他の予備校に比べてかなり速く、11日(第3回は10日)で返却される。
- 年内3回そして年明け1月の大学入試センター試験(本試験)終了後に1回と計4回実施されるが、年内の3回は1日完結、年明け1月は本番に準拠して2日間による実施である。四社の中で本番に準拠した二日間実施は、この同社の年明け1月のみである。
- 蛇足
判定基準となる点数は一般に、夏は少し低めに設定されており、秋、または直前になれば本番でとるべき点数とほぼ同じくらいに設定されることが多い。また、夏の模試は難易度がやや抑え気味であり、秋の模試は本番同等かそれ以上の難易度になることが多い。夏に関しては現役生に配慮した結果だと考えられるので、(注記。現役生は理科や社会の特定分野が未習、または学習したばかりで浪人生に比して習熟していない、という事情があるため。)特に浪人生は、夏にたまたま良い結果を出したとしても気を抜いてはならない。秋の模試ではより高得点を取れるよう、実力を磨いていってもらいたい。
心構え[編集]
受験する際の心構えのひとつとして、ありきたりではあるが模試の判定や偏差値に一喜一憂する必要はあまりないということを明記しておきたい。そもそも得点は入試本番当日の自分のコンディションや問題との相性次第で大幅に変動するものだし、模試と実際の入試とでは難易度や問題の癖が微妙に異なるからである。実際、現役浪人関係なく、秋の模試等でC判定やD判定を出してしまった生徒が、直前期で実力が一気に伸びて合格したケースも存在するので、(注1。逆に模試で学部内順位が1桁の生徒でも本番では不合格というケースが実際に報告されている。)最後まで諦めずに勉強を続ける姿勢をもつことも大切である。
目標点数[編集]
医学部医学科を除き、毎年総合で5割程度の得点率でA判定が出るので、模試を受ける際の目標の得点率を5割としておくとモチベーションも揚がるであろう。(注2。医学科は65%程度必要である。)(注3。受けてみるとわかるが、基礎・標準問題を完璧に取りきれば5割程度の得点が自然と集まるものである。)京大本番をイメージしつつ点数を「かき集める」つもりで臨んでもらいたい。
受験終了後[編集]
受験終了後は苦手科目や苦手分野を潰すために、必ず復習することをお薦めする。本番では比較的オールラウンドな能力を試されるし、なおかつ当日の受験生の学力は伯仲するので(注4。±ゼロコンマ何点の戦いである。)、どこか一つでも穴があると合格の可能性が低下するからである。また各予備校は威信をかけて入試分析をしたうえで問題を出題してくる(注5。秋の模試は予想問題の様相を呈することが多い。)ので、問題が的中することがままあることを考えても、模試の復習をやらないというのはあまり賢い選択とはいえないだろう。
その他[編集]
受験情報は、学校、予備校、オープンキャンパス、本屋におかれている合格体験記、及び教科別の学習法を提供する本(勉強の中身ではなく、勉強の仕方を書いている本。参考書ではない。)等で入手できる。受験生は、上記の方法等を利用し、自分にあった勉強方法をいち早く見つけることが望ましい。なお、共通一次試験の比率が低いとはいえ、共通一次試験を軽く突破できる実力(具体的には5教科7科目で9割程度の得点率を確保できる実力)が必要なのは言うまでもない。
まとめると、まずは教科書レベルの基礎力を身につけるのが大切である。その後は、すぐに過去問に取り掛かるべきである。基礎を身につけた後は、応用系の問題集に取り組み、共通一次試験が終わった後に初めて、過去問を時間を計って解く。このような受験生は多く、過去問を直前期の腕試しとして捉えているわけだが、応用系の問題集をしてそれらを習得できるのと、京大の過去問が解けるようになるのとでは、別問題である。例えば、数学にしても、単に演習系の問題集で解法暗記をしても、京大の問題を解けるようにはならないだろう。前述したように、京大の入学試験で要求されるのは、暗記した知識をひけらかす能力ではなく、物事をあらゆる角度から観察して、考え抜く高度な、思考力である。これができるようになるには、過去問に、時間は気にせずにじっくりと取り組む必要があるのである。共通一次試験が終わってからで、間に合わうものではない。
受験生はすぐに、赤本、青本、25か年等を入手して取り組もう。
ここまで非常に長くなったが、最後に。
夜空に届く大輪の反響のごとき、その喝采に浴した数少ない研究者。
恒久なリレー研究であるがゆえ、基礎研究に自らの一生を賭した数多くの研究者。
次の世代に貴重なバトンを受け継ぐ使命に対しての自負を疑わなかった勇気を、それを見届けることの身を切るようなつらさとよろこびの溶け合ったこの感情が、誰かと輪を描きながらいつまでも尽きないことをここに願う。
来し方行く末、この京都大学が守り抜いてきた世界にあこがれを抱く者が、いつかその最もかけがえのない想いに触れられることを。
彼らへの崇敬をもって。
無駄なるものへ向けた大いなる情熱、みやびなる古都に誘われ、その尊くこそ。
脚注[編集]
- ^ 旧称「京大即応オープン」。Z会との共催関係を解消したため、2018年度実施分を以て廃止。
- ^ 答案は2014年実施分よりWeb返却(駿台のマイページにPDF形式で掲載。掲載期間は、第1回・第2回共にWeb公開開始日から3ヶ月間。)となり、紙の答案は追加料金を払うことで返却可能となった(但し試験会場で使用した答案そのものは返却されず、答案をスキャンして前記のPDF形式のものをプリントアウトしたものを返却)。
- ^ 令和2年度は、コロナウイルス感染拡大防止の観点から2回分とも開催中止となった。
- ^ Z会と提携関係を解消したことから、2019年度実施分より名称を変更して河合塾独自の模試「京大入試オープン」として実施となった。また、前記の理由より、京大入試オープンでは答案返却の際のフォローアップ添削は廃止となった。
関連リンク[編集]
- 京都大学:大学公式サイト