ここでは体論について解説する。
体の定義[編集]
環論で述べたように、体とは任意の元が単元である可換環のことである。念のためここにも公理的に書けば、下のとおりである。
公理 集合Kが体であるとは、加法と乗法という二つの演算が定義されていて、次が成り立つことである。










環論において任意の環は
-代数であることをみた。特に体
も環であるので、自然な環準同型
がある。このとき、
は PID であることから、ある非負整数
を用いて
と書ける。この
を体
の標数という。
の標数が
のとき、
である。すなわち、
の任意の元は
回足すと(
倍すると)
になる。標数とは、そのような数と理解することができる。
の元はどんな正整数をかけても
にはならない。すなわち標数は
である。
命題 体の標数は
か素数である。
- (証明)
体
の標数
が
と分解すると仮定すると、
において、

- ととなり、公理 10. と矛盾する。したがって体の標数は
か素数である。
もっとも、これでは体の標数の必要条件を調べただけである。標数0の体が存在することは確かめたが、各素数に対してその素数を標数とする体は存在するだろうか?結論を先に言えば、存在する。
命題 素数pに対して
は(標数pの)体である。
- (証明)
pと互いに素な任意の整数aに対して、ある整数m,nが存在して

- とできる。これを標準的な全射で
に移すことで、

- であることがわかる。すなわち、
が存在する。
体の拡大[編集]
群においては部分群、環においては部分環という概念があったように、体にも部分体という概念がある。
定義 体
が
となっており、両者の演算と単位元が一致するとき、
は
の部分体、
は
の拡大体であるという。またこのとき、「
は体の拡大である」という。
拡大の記号は商の記号と若干紛らわしいが、混同するおそれはほとんどない[1]。
命題 体の拡大
があるとき、
は
上の線型空間である。
- (証明)
線型代数学/線型空間#線型空間の公理の 5.~8. を満たす。//
この線型空間が有限次元のとき、
は有限次拡大であるという。このときこの線型空間の次元を
と書き、この拡大の拡大次数と呼ぶ。
補題
を体とする。ある添字集合
があって,任意の
に
の部分体
が対応しているとする。これらの共通部分
は
の部分体である。
- (証明)
とすると,任意の
について
あり、
は体であるから,
である.さらに
ならば
である.以上により
,
ならば
//
を体
の拡大体として,
とする.このとき
と
を含むような
の部分体のうち最小のものが存在する.実際
と
を含むような
のすべての部分体を考え,それらの共通部分をとればよい.この体を
と表して,
に
を添加した体,または
上
で生成される体という.特に
のとき,
を
の単純拡大(体)という.
命題 体
の元を係数とする多項式
が
[2]で既約であれば,剰余環[3]
は体である。
- (証明)零でない元
が乗法に関して逆元を持つことを示せばよい。
は既約多項式であるので,
であれば
と
は互いに素である。したがって,

- を満たす多項式
が存在する。これにより
となり,
が乗法に関して逆元を持つ。//
は単射であり,体
の構造を保つ。
によって、
と
を同一視することにより、
は
の拡大体である。
- ^ 体のイデアルは自明なものしかないので、イデアルによる剰余環を考える意味はほとんどないからである。
- ^ [[多項式環>https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A4%9A%E9%A0%85%E5%BC%8F%E7%92%B0]]
- ^ 環論#剰余環
代数拡大[編集]
を体として、
係数の多項式を任意に取ったとき、その根が
にあるとは限らない。しかし、
を拡大した体には根があるかもしれない。そのような類のことについて少し考えてみよう。
定義
を体の拡大とする。
の元
に対して、ある
でない
係数の多項式
があって
を満たすとき、
は
上代数的であるという。そうでないとき
は
上超越的であるという。
の任意の元が
上代数的であるとき、
は
上代数的であるといい、
は代数拡大であるという。そうでないとき、
は
上超越的であるといい、
は超越拡大であるという。
簡単にわかる例として、
は代数拡大である。実際、任意の元
を考えると、
係数の多項式
に対して
が成り立つからである。一方、
は超越拡大であることが知られている。
命題 有限次拡大は代数拡大である。
- (証明)
を
次拡大とする。すると、
の元
を任意に取ったとき、
個の元
は
上一次独立ではない。すなわち、どれかひとつは
でない
の元の組
で、
を満たすものが存在する。これは、
でない
係数多項式
が
を根に持つということにほかならない。すなわち、
は
上代数的である。//
例 有理数体
の元
を平方数でない,すなわち
となる有理数
が存在しないと,仮定する。
この仮定は
が
上で既約であることと同値である。このとき,
![{\displaystyle \mathbb {Q} [{\sqrt {D}}]=\{a+b{\sqrt {D}}|a,b\in \mathbb {Q} \}}](https://wikimedia.org/api/rest_v1/media/math/render/svg/19ee54bb608487cd6899d054b8c712d95229506a)
は
であれば
の部分体であり、
であれば
の部分体であり、
の拡大体である。
- (証明)


- であるので、
は、和と積に関して閉じている。また,
![{\displaystyle -(a+b{\sqrt {D}})=(-a)+(-b){\sqrt {D}}\in \mathbb {Q} [{\sqrt {D}}]}](https://wikimedia.org/api/rest_v1/media/math/render/svg/09d2f733daf20de26e104f85a2a4427c2c1e683f)
- となり、和に関する逆元も
に含まれている。さらに、
![{\displaystyle (a+b{\sqrt {D}})^{-1}={\frac {1}{(a+b{\sqrt {D}})}}={\frac {a-b{\sqrt {D}}}{(a+b{\sqrt {D}})(a-b{\sqrt {D}})}}={\frac {a-b{\sqrt {D}}}{a^{2}-b^{2}D}}\in \mathbb {Q} [{\sqrt {D}}]}](https://wikimedia.org/api/rest_v1/media/math/render/svg/189f079e16b7fabe29da52efde7bb3a31cf80e9e)
- となり、積に関する逆元も
に含まれている。//
体の同型写像[編集]
中への同型[編集]
定義 体
から体
への写像
が次の条件を満たすとき,
体
から 体
の中への同型 (into-isomorphism) という。
の任意の元
に対して,
かつ 
の単位元をともに
と記すと 
命題 体
から体
への写像
が,上記の1.を満たすならば,
は零写像すなわち,
のすべての元
に対して
であるか,または,中への同型写像である。
- (証明)
であるから、
または
である。
ならば
は中への同型写像である。一方
であれば、任意の元
に対して
であるから、
は零写像である。//
命題 体
から体
への中への同型写像
は単射である。
- (証明)
とすると、
なので、
である。
ならば、
が存在する。
なので、
である。ところで、
なので、
である。これは矛盾。よって、
ならば
である。すなわち、
は単射である。//
上への同型[編集]
定義 体
から体
への中への同型写像
が全射でもあるとき,
は、
から
への上への同型 (onto-isomorphisim) または 全射同型 (surjective isomorphisim) または単に同型といい、
と
とは体として同型であるという。
定義 体
と体
が共通の部分体
を持ち、中への同型写像
がさらに条件
- 任意の
に対して 
を満足するとき、
を
上の中への同型写像 (into-isomorphism over
) という。
自己同型[編集]
定義
上の中への同型写像
において,特に
であり、
が
上の全射同型写像であるとき、
を
の
上の自己同型 (automorphismu over
)という。
の
上の自己同型の全体を
と記す。

命題
は写像の合成によって群をなす。
命題 体
の元を係数とする既約な
次多項式
の根
に対して

は
上の同型写像である。
- (証明)
の2元
を

とすると、
- 1.
は直ちに成り立つ。
- 2.
に対応する多項式
を

とおくと、


- であり、二つの多項式の積を

- と書くと、


- である。したがって、
が成り立つ。
- 3.
に対しては
で恒等写像であるので,
は
上同型写像である。//