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個々の音の演奏

出典: フリー教科書『ウィキブックス(Wikibooks)』

 曲を構成する音の多くは、ひとつの音符により、楽譜に記載される。「多く」とするのは、ポルタメント(ある音からある音まで弦をおさえた指をすべらせて弾く)[1]の途中の音など、記載されないものもあるからである。各音符は、ある高さの音をあらわし、また同時に、その音の長さもあらわす。  しかし、弾く音の長さがあらわされていても、その音のもつ一定の長さのなかにおける、すくなくとも以下の2点の問題がある。作曲家は、ある音のもつ一定の長さのなかでの表現変化、も音楽として想像している。それはクレッシェンドなどの強弱記号や、アクセント記号により、部分的にはしめされている。だが、

  1. その表現変化を、楽器操作上、いかにすればおこなえるか、までは、楽譜には記載されていない場合がおおい、という問題である。
  2. また、強弱記号などが書かれていても、その音の演奏上、考える必要のある表現方法のすべてが、作曲家により、記載されているわけではない、という問題である。

 したがって、音符内部での表現変化方法について、演奏理論上、考察が必要である。その表現変化方法は、ある音を、

  1. 音の出だし―残り部分
  2. 右手の使い方―左手の使い方

という二通りのしかたで、ふたつの部分に分析することで、ある程度の考察が可能となる。

音の出だしと残り部分との処理[編集]

どの音にも、出だし―中間―終わり、の三部分がある。中間―終わりは、出だしの残り部分として、まとめてあつかう。なお三部分といっても、当然、それぞれがまったく独立して存在するわけではない。また、出だし―中間と、中間―終わりとは、はっきりとした境界があるわけではない。ここではイメージ的に「部分」ということばをつかう。ここでは音の長さ・強さを問題にする。音色は問題としない。音色によりかかわるのは下の「右手の使い方―左手の使い方」の問題だからである。

音の出だし[編集]

 どの音も、一定の長さをもつ以上、かならずその出だし部分が存在する。音の出だしとは、演奏的には、いわゆる「発音」をおこなう部分である。管楽器のタンギングにあたる。弓は横方向にうごかされるが、音の出だしの部分においては、弦をひっかっけ、音のはじまりを明確にする、などの操作が可能である。それをどの音についてもおこなうことにより、曲をつくる個々の音が、聴き手にとって明瞭となる。
 この「発音」は、音が小さく短くとも、おこなう。それにより、他の楽器がより大きい音で演奏するなかであっても、メロディーがきこえ、聴き手が遠くであっても、その音の他の音との違いが、発音をおこなわない場合より、よくきこえうる。
 物理的な説明をすれば、発音=弦に接触させた弓の毛をうごかすときに、弦からの抵抗力を、奏者が毛の部分において自覚的に感覚し、そうしてとらえた抵抗力を利用して、弦をはじく、ただし、そのあとに弓は弦からはなさなずに、擦り続ける、というものである。
 さらに、音の出だしのありかたは、以下のように、

  1. 発音をおこなう場合
  2. おこなわない場合

とに大別できる。

発音をおこなう場合[編集]

 発音には、いくつかのありかたがある。発音(=ある音の出だし部分)については、

  1. 前音との関係
  2. 発音部分の後の残り部分との関係

のふたつの問題にわけられる。  また、発音は、ある音の一部分の演奏である。しかしそれ自体も長さをもつ。したがって、

  1. 長さのとりかたに、いくつかの選択肢がとりうる。
  2. また音の強さ(大きさ)も、いくつかの選択肢がとりうる。ただし、その長さは短いため、その長さ内での強さの変化は、とりうる選択肢がすくない。

1.前音との関係

  1. その長さを極力短くし、音に鋭さをもたせる。
  2. 逆に、音に鋭さをもたせるのが、音楽上あわない場合には、その長さを短くせず、弦をはじくというより、弓の毛を弦に擦りつける動作をおこなう、などの選択肢がある。
  3. 発音という動作の中でも、音の強さ(大きさ)を選ぶことができる。そこで強さという要素へも注目する必要がある。
  4. 音の強さ、は、一面で相対的なものである。つまり、発音部分が、前の音より強ければ、それを強いと感じ、前の音より弱ければば、その音を弱いと感じる性質のものである。したがって、前の音と違いを出す必要がある場合には、前の音(とくにそのおわりの部分)と強弱差をつける。すると、その音が強調される。前の音と違いを出す必要がない場合には、つけない。

 当然、前の音――発音部分―残り部分、というならびを考えれば、このことは、発音部分と、その残り部分との関係にもあてはまる。

2.残りの部分との関係

発音をおこなわない場合[編集]

発音というものの存在を考えた上で、あえてある音については、それをおこわない、つまり、出だしを曖昧にする、という選択肢もとりうる。  

  • 以上のように、発音は、おこなうか、あえておこなわないか、おこなう場合でもその長さ・強さをどうするか、という点で、いくつかの選択肢がある。


残りの部分[編集]

 どの音も、出だしの発音部分をのぞいた、残り部分が存在する。したがって、残り部分の処理をどのようにするかという問題がある。残り部分は、発音部分より、長さが長い。したがって、発音部分より、とりうる表現方法がおおい。  残り部分のとりうるありかたは、長さ、という要素に注目すると、

  1. 音量変化
  2. 終わり部分の処理

の大きく二点にまとめられる。

1.音量変化 発音後の残り部分は、一定の長さをもつ。そこにおいては、音量の変化が可能である。音量の変化は、

  1. 音の終わりにむかって、>型に小さくする。バロック楽器的演奏では、このように、音の最後にむかった自然な減衰をおこなう場合がおおい。そのため、モダン楽器でもバロック楽器的に弾くには、自然な減衰を考える。長い音で、終わりにむかい大きくして次の音につなげると、ロマンティックになる。
  2. 音の終わりまで、――と音量を維持する。
  3. 音の途中で盛り上げてからまた小さくする。長い音を美的に演奏するには、このようにするのがひとつの方法である。CDでは、バロック楽器での演奏でしばしば聴くことができる。盛り上げるのは、その音を2拍にわって考え、その2拍目にあわせておこなう場合にきれいにきこえる。
  4. 音の終わりにむかって、<型に大きくする。短めの音で、規則正しく並び、順に音の高さがあがっていく場合には、おのおのが、 <型に演奏されるときれいにきこえる。
  • 234は鍵盤楽器とはことなる弦楽器の特性である。したがって、作曲家が、そのような楽器のちがいを、把握していたか、なども、曲の分析観点となる。そのようなちがいを把握していない場合には、一音全体だけをとらえて、1234のような区別は考えなくともいい可能性がある。

2.終わり部分の処理  発音後の残り部分には、終わり部分がある。したがって、終わり部分の処理の問題がある。終わり部分の処理は、

  1. その前の部分との関係
  2. 次の音との関係

のふたつの問題に分析できる。  次の音との関係は、

  • 次の音と強弱・音色の区別をつけるかつけないか、つける場合はどのようにつけるか、という問題と
  • 次の音との間隔をどうするか

という問題とに分れる。

処理―前の部分との関係[編集]

処理―次の音との関係[編集]

  1. 次の音との関係―強弱・音色
  2. 次の音との関係―間隔

 以下には間隔の問題をあつかう。

  • 休符があるために、間隔をあける場合。とるべき間にあわせて、音を切る。その場合、アクセント気味に切る(つまりそれまでより一瞬音量・強さを上げる)、それまでの音量を維持したまま切る。音の減衰が音の終わりにあうようにする。 ビブラートをもちい休符部分にふみこんで余韻をのこす。
  • 休符がないが、間隔をあける場合。フレーズに変化がある場合には、フレーズ間で、一瞬の演奏上の切れ目をいれる。フレーズ内の各音の間でも、各音に意味をもたせる必要がある場合には、切れ目をいれる。
  • 休止符がないため、間隔をあけない場合。これは次の音との関係では問題となるが、間隔の問題上は、考慮対象とはならない。

    

音の出だし―残り部分の関係[編集]

音の出だし、残り部分、ともに、長さ・強さ(大きさ)の二要素がある。音の出だしと残り部分との、弾き方の組み合わせ、を考える必要がある。

右手の使い方―左手の使い方の組み合わせ[編集]

弦楽器の場合、どの演奏される音も、右手の使い方と左手の使い方、という二つの部分にわけてとらえられる。その左右の手の使い方はさらにいくつかの要素にわけられる。そのため、左右の手の使い方には、複数の組み合わせがある。その組み合わせの中で、対応したものが、音楽的意味をもつある音色を生む。このように、ある音を漠然とひとつの音ととらえるのではなく、左右の使い方の組み合わせとして考える形において、音色の考察が可能となる。なお、音色は楽器の性能にも依存するが、ここではその面は扱わない。

組み合わせを考える利点[編集]

  1. 左右の手に複数の使い方の要素があるなかで、ある対応した組み合わせで弾くとき、ある音色がつくられる。したがって、組み合わせの変更により、音色を変更する、という演奏理論が導かれる。
  2. CDなどの録音として残された過去の演奏を模倣しやすくなる。その演奏家が、曲の各箇所において、左右の手をそれぞれどのようにもちいているかを分析することで、模倣が、容易・厳密になる。模倣をして、過去の演奏家がどういうものを各曲の各箇所について見出してきたかを知る。そうすれば逆に、まだ何が行われていないかを知ることができ、その未開拓のことを行うことで、自分の演奏解釈を、先行の演奏を消化してより発展させたものとして、客観的に認識できる。
  3. 演奏中の緊張にたいして有効である。左右の手を、曲の各箇所でどのように物理的に動かすか、ということを記憶しておくことで、かりに緊張によって、音楽のイメージがうかばなくなった場合でも、記憶していたとおりに、左右の手を動かすことで、もとのイメージは再現され、演奏自体は遂行できる。

右手の使い方の要素[編集]

  1. 弦からの抵抗力。弓と弦の接触の仕方に関わる要素。弓の毛は、松やにが塗られていることによって、弦との摩擦力を生むようになる。その摩擦力を、弓の毛の部分において、演奏者が捉えて弾く。逆に滑らせて弾く、ということが可能である。捉える場合は、漠然と右手の甲のあたりに意識を置くのではなく、弦との直接の接触点である、弓の毛の部分に意識を置く。そして、弦を削るような感覚、彫刻刀で木を彫るとき、ノコギリで木を切るとき、木からの抵抗力と、彫刻刀などを動かす自分の力とがつりあったときの、充実した感覚と同様のもの、を捉えることで、弦からの抵抗力を自覚的に捉えて弾くということが可能となる。一方で、弦からの抵抗力を捉えるのではなく、逆に滑らせることも可能である。抵抗力を捉えるのと、滑らせるのとは、二項にわかれるものではなく、間に色々な程度が存在する。
  2. 弓のスピード。弦への水平方向運動において存在する要素。遅いものから速いものまで色々な程度が存在する。上の滑らせる場合はスピードが速い場合が多く、抵抗力を捉える場合は、相対的にそれより遅い場合が多い。ただ、抵抗力を捉える、滑らせるというのは、同スピードの運弓においても、使い分けが物理的に可能である。したがって、スピードの遅速と関わりがある面があっても、そのスピードという要素を完全に包含するものではない。
  3. 弦に対する圧力(弦に対してかける腕のおもさ)。弦への垂直方向運動において存在する要素。p, mp, mf, fなどの音の強弱に応じて、強さが選択される。同じ圧力においても、弦からの抵抗力を捉える、滑らせるという使い分けは、物理的に可能であるため、これも抵抗力とは別の要素として数えられる。
  4. 弓中の弾く位置。弓は根元のあたりのフロッシュ、真ん中のミドル、先端あたりのトップ、の三部分にわけて捉えられることがある。同じ圧力で弦に向かって力をかけても、弓の真ん中のたわみは、両端より大きい。両端は小さく、感触として硬い。両端にも違いがある。根元の方が、手に近い分、垂直方向の操作、とくに大きい圧力をかける操作を行いやすい。先端の方が、手が弦上から遠い位置にあるため、水平方向の操作、力をぬいた操作を行いやすい場合もある。
  5. 弦中の弾く位置。特殊な奏法は別として、一般に、張られている弦の中で、駒と指板末端の間の部分が、弓の接触対象とされる。弓中の弾く位置と同様に、端の部分である駒近くのほうが、同じ圧力でも、弦のたわむ量が少なく、感触が硬い。これは弾力が強いからである。弾力が強い部分に対しての方が、同じ圧力でも、より大きい振動エネルギーを弦に対してあたえられる。したがって、最大限の圧力をかけたときに、最も大きい音が出るのは、その駒近くの部分となる。また大きい圧力をかけない場合でも、感触の硬さを利用した演奏が可能となる。指板に近い部分は、この逆の性質をもつ。
  6. 弓の傾き。弓の毛は、複数本が、平べったく横幅をつけて張られている。そのため、弦に接触させる毛の量は、変更が可能である。弓の傾きを変えることで、その接触量を操作できる。


左手の使い方の要素[編集]

  1. 弦を押さえる。弦のいずれかの位置を押さえ、押さえた位置の弦を指板に固定することで、張られている弦の中の、振動する幅を変える。このようにして、音程が決定される。押さえる場合には、以下のように、押さえる在り方に関して、いくつかの要素が存在する。
  2. ビブラートをかける。ビブラートは、弦に平行にかける。また、一般的に押さえた位置より、低音の側に指を動かす。高音の側に動かすと、音程を不必要に変化させることとなる。ただ、その一般的には不必要な変化を、効果として利用する可能性もある。
    1. ビブラートの量(速さ)。
    2. ビブラートの振幅。
  3. ビブラートをかけない。ビブラートは、それをかけないという選択も可能である。
  4. 弦を押さえる強さ。ビブラートを行う場合、行わない場合、両方に共通する要素である。

両手の使い方の組み合わせ[編集]

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脚注[編集]

  1. ^ 音楽用語は『新音楽辞典 楽語』音楽之友社、1977年を参照。