利用者:Akaniji/簿記/底本はしがき

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商業簿記提要は刊行以来図らずも各方面からの絶大な支持を享け、未だ十年ならずして版を重ぬること既に百回に上った。これは一面簿記会計に対する一般の関心が異常に強まったことを反映するものと看らるべく、誠に喜ばしい現象である。併し一部の読者からは、同書の内容が稍々高級過ぎ又余りに盛り沢山過ぎると云う声を耳にした。そこで著者は此両三年来次のような考を抱いた。それは商業簿記提要を内容的に二分して、一はその内容を一層圧縮常態化して専門学校程度の教科書用又は各種試験応募者が簿記の既修智識を整理する参考書用として適切なるものとなし、他は之に反してその内容を技術的にも亦理論的にも高級化し、一層敷衍詳説して専門的研究者の自習書又は参考書たらしむるを目指すものとなすにあった。そして此意図の下に、先ず第一の目標を有するものを作らんとして筆を執り始め、漸く脱稿したものが本書即ち簿記概論である。従って本書は微細に互る説明乃至余りに高級な理論を説いたものではなくて、複式簿記の一般組織とその運用とを系統的に把握せしめ、進んで各種簿記を研究し又会計学を学ばんが為めの基礎的素地を養成せしめんことを主眼として編述したものである。併しながらそれが為め内容を徒らに技術本位に堕せしめたものではない。否、理論と技術との調和については著者の最も苦心せしところである。今や簿記会計の基礎知識が凡ゆる方面に於いて痛切に要請せられるるある際、本書が多少なりともこの要請に副い得るならば、独り著者の喜と光栄とのみに止まらないのである。

昭和十七年一月

著者識

転写者註[編集]

旧字は新字に、歴史的仮名遣いは現代仮名遣いにした。難読字も散見されたが、本章は本文とは趣旨が異なるため、これはそのままとした。